説明

粉体塗料用熱流動性調整剤とその製造方法、及び粉体塗料

【課題】粉体塗料の耐ブロッキング性や熱硬化時の熱流動性を向上させ、外観、光沢やリコート密着性に優れた硬化塗膜を形成することができる熱流動性調整剤とその製造方法、及び該熱流動性調整剤を含有する粉体塗料を提供する。
【解決手段】t−ブチル(メタ)アクリレート単位と水酸基含有(メタ)アクリレート単位を含有し、下記式(1)を用いて算出した水酸基価(OHV)が、20〜190mgKOH/gであるポリマーからなる粉体塗料用熱流動性調整剤。
OHV=Σ(wk/fk)×56.11×1000・・・(1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体塗料用熱流動性調整剤とその製造方法、及び粉体塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、塗料分野においては、環境問題に対する意識の高まりから、従来の顔料と高分子物質を有機溶剤で分散させた溶剤型塗料から、有機溶剤を使用しない粉体塗料への置き換えが進められている。
【0003】
一般に粉体塗料では、得られる塗膜の外観を向上させるために、熱硬化時の熱流動性を向上させる粉体塗料用熱流動性調整剤(以下、熱流動性調整剤と略称する)を含有させる。粉体塗料の熱硬化時の熱流動性は、粉体塗料の溶融粘度を低下させることで向上する。そこで通常、熱流動性調整剤には、ガラス転移温度が低く、室温において液状である低ガラス転移温度アクリルポリマーが使用されている。
【0004】
現在広く使用されている熱流動性調整剤は、このような低ガラス転移温度アクリルポリマーを微細なシリカ粒子や固形ワックスに吸着させ、固形状とすることで、取扱い性及び粉体塗料の耐ブロッキング性の向上が図られたものである。
【0005】
しかしながら、これらの熱流動性調整剤を粉体塗料に使用すると、塗膜の透明性、光沢、硬度、及び、リコート時の層間密着性(以下、リコート密着性と略称する)が低下する等の問題があった。また、低ガラス転移温度アクリルポリマーからなる熱流動性調整剤は、シリカ粒子や固形ワックスに吸着させた状態であっても、積み重ねたまま放置すると容易にブロッキングするため、取扱い性及び耐ブロッキング性において、必ずしも満足できるレベルではなかった。
【0006】
上記課題を解決するために、特許文献1では、特定の溶解性パラメーターを有し、かつ、20℃において固体である熱流動性調整剤を含有することで、粉体塗料の耐ブロッキング性と、得られる塗膜の外観を改善した粉体塗料が開示されている。
【0007】
また、特許文献2では、ホモポリマーのガラス転移温度が高いイソボルニルメタクリレート単位を含有するポリマーからなる熱流動性調整剤が開示されており、得られる塗膜の外観と上塗り溶剤系塗料との密着性の向上が図られている。
【0008】
また、特許文献3では、t−ブチルメタクリレート単位を含有しガラス転移温度が60〜120℃のアクリル樹脂で粉体塗料粒子を被覆することによって、塗装作業性や貯蔵安定性を向上させた粉体塗料が開示されている。
【特許文献1】特開2000−355676号公報
【特許文献2】特開2001−131462号公報
【特許文献3】特開2003−82273号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1及び2記載の熱流動性調整剤では、粉体塗料の熱流動性が不十分で得られる硬化塗膜の外観が低位で、リコート密着性も十分ではなかった。
【0010】
また、特許文献3記載の方法では、粉体塗料粒子を有機溶剤に溶解したアクリル樹脂で被覆するため、溶解、噴霧乾燥、溶剤回収等の工程が別途必要であり、生産性の点で課題があった。また、t−ブチル(メタ)アクリレートを使用する記載はあるが、水酸基価を最適化する記載はなく、該粉体塗料より得られる硬化塗膜は、リコート密着性が十分ではなかった。
【0011】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、粉体塗料の耐ブロッキング性や熱硬化時の熱流動性を向上させ、外観、光沢やリコート密着性に優れた硬化塗膜を形成することができる熱流動性調整剤とその製造方法、及び該熱流動性調整剤を含有する粉体塗料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の要旨は、t−ブチル(メタ)アクリレート単位と水酸基含有(メタ)アクリレート単位を含有し、下記式(1)を用いて算出した水酸基価(OHV)が、20〜190mgKOH/gであるポリマーからなる粉体塗料用熱流動性調整剤にある。
OHV=Σ(wk/fk)×56.11×1000・・・(1)
(式(1)中、wkはポリマーを構成する水酸基含有モノマーkの質量分率を表し、fkはポリマーを構成する水酸基含有モノマーkの分子量を表す。)
【発明の効果】
【0013】
本発明の熱流動性調整剤は、粉体塗料の耐ブロッキング性、熱硬化時の熱流動性を向上させ、外観、光沢及びリコート密着性に優れた硬化塗膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本願発明の熱流動性調整剤は、t−ブチル(メタ)アクリレート単位と水酸基含有(メタ)アクリレート単位を含有しているポリマーからなることが必要である。
【0015】
t−ブチル(メタ)アクリレート単位を含有することで、熱硬化時の熱流動性が向上し、該熱流動性調整剤を含有する粉体塗料による塗膜の外観、光沢が向上する。
【0016】
また、水酸基含有(メタ)アクリレート単位を含有していることにより、該熱流動性調整剤を含有する粉体塗料のリコート時の外観、光沢、密着性が向上する。
【0017】
水酸基含有(メタ)アクリレート単位としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは、1種以上を適宜選択して使用することができる。
【0018】
中でも、他のモノマーとの共重合性、耐ブロッキング性及び得られる塗膜の硬度向上の点から、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレートが特に好ましい。
【0019】
さらに本発明では、該ポリマーの下記式(1)を用いて算出した水酸基価(OHV)が、20〜190mgKOH/gであることが必要である。
【0020】
水酸基価が20mgKOH/g以上である場合、基材に対するリコート密着性が向上する。また、水酸基価が190mgKOH/g以下である場合、重合中にポリマー粒子が凝集することなく安定に重合できる。
【0021】
なお、リコート密着性の点から水酸基価が60mgKOH/g以上が好ましく、リコート後の光沢の点から150mgKOH/g以下が好ましい。
OHV=Σ(wk/fk)×56.11×1000・・・(1)
式(1)中、wkはポリマーを構成する水酸基含有モノマーkの質量分率を表し、fkはポリマーを構成する水酸基含有モノマーkの分子量を表す。
【0022】
また該ポリマーは、t−ブチル(メタ)アクリレート単位、及び、水酸基含有(メタ)アクリレート単位以外にも、必要に応じて、その他のモノマー単位を構成成分として含有することができる。
【0023】
その他のモノマー単位としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ラウリル(メタ)アクリレート、n−ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステルモノマー;(メタ)アクリル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルヘキサヒドロフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフタル酸、クロトン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、マレイン酸モノメチル、イタコン酸モノメチル等のカルボキシル基含有ビニル系モノマー;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸無水物基含有ビニル系モノマー;(メタ)アクリル酸グリシジル、α−エチルアクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸3,4−エポキシブチル等のエポキシ基含有ビニル系モノマー;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー;(メタ)アクリルアミド、N−t−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、マレイン酸アミド、マレイミド等のアミド基含有モノマー;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、(メタ)アクリロニトリル、塩化ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニル系モノマー;ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、N,N’−メチレンビス(メタ)アクリルアミド等の多官能性モノマー;などが挙げられる。これらは、1種以上を適宜選択して使用することができる。
【0024】
中でも、熱硬化時の熱流動性や、得られる塗膜の外観、光沢が向上する傾向にある、n−ブチルメタクリレート、i−ブチルメタクリレート、ラウリルメタクリレートが特に好ましい。
【0025】
なお「(メタ)アクリレート」は「アクリレート及び/又はメタクリレート」を、「(メタ)アクリロニトリル」は「アクリロニトリル及び/又はメタクリロニトリル」を、「(メタ)アクリルアミド」は「アクリルアミド及び/又はメタクリルアミド」を、「(メタ)アクリロイル」は「アクリロイル及び/又はメタクリロイル」をそれぞれ意味する。
【0026】
該ポリマーを構成する各モノマー単位の量は、特に制限されないが、モノマー混合物100質量部中、t−ブチル(メタ)アクリレート単位が5〜95質量部、水酸基含有(メタ)アクリレート単位が5〜50質量部、その他のモノマー単位が0〜90質量部の範囲内であることが好ましい。
【0027】
t−ブチル(メタ)アクリレート単位が5質量部以上である場合、熱硬化時の熱流動性や、塗膜の外観、光沢が向上する傾向にある。また、t−ブチル(メタ)アクリレート単位が95質量部以下である場合、得られる塗膜の基材に対する密着性やリコート密着性が向上する傾向にある。
【0028】
また、水酸基含有(メタ)アクリレート単位が5質量部以上である場合、得られる塗膜の基材に対する密着性やリコート密着性が向上する傾向にある。また、水酸基含有(メタ)アクリレート単位が50質量部以下である場合、熱硬化時の熱流動性や、塗膜の外観、光沢、更には、後述する水性媒体中での重合において、分散安定性が向上する傾向にある。
【0029】
さらに、その他のモノマー単位が90質量部以下である場合、熱硬化時の熱流動性や塗膜の基材に対する密着性やリコート密着性が向上する傾向にある。
【0030】
また、t−ブチル(メタ)アクリレート単位が20〜75質量部、水酸基含有(メタ)アクリレート単位が8〜40質量部、その他のモノマー単位が5〜72質量部の範囲内であることがより好ましい。
【0031】
さらに、t−ブチル(メタ)アクリレート単位が30〜65質量部、水酸基含有(メタ)アクリレート単位が15〜35質量部、その他のモノマー単位が10〜55質量部の範囲内であることが特に好ましい。
【0032】
また、該ポリマーのガラス転移温度(Tg)は、20〜120℃の範囲内が好ましく、40〜85℃の範囲内であると特に好ましい。
【0033】
ガラス転移温度が20℃以上である場合、熱流動性調整剤及びこれを含有する粉体塗料の耐ブロッキング性や、得られる塗膜の硬度が向上する傾向にある。また、ガラス転移温度が120℃以下である場合、熱硬化時の熱流動性や塗膜の外観、光沢が向上する傾向にある。
【0034】
なお、ガラス転移温度(Tg)は、下記式(2)より算出される絶対温度(K)を摂氏(℃)に換算した値である。
【0035】
1/Tg=Σ(wi/Tgi)・・・(2)
式(2)中、wiはポリマーを構成するモノマーiの質量分率を表し、Tgiはポリマーを構成するモノマーiのホモポリマーのガラス転移温度を表し、式(2)中のTg及びTgiは、絶対温度(K)で表した値である。また、Tgiは、「ポリマーハンドブック第4版(POLYMER HANDBOOK、FOURTH EDITION)、John Wiley & Sons Inc、J.Brandrup、VI/p,193〜253」に記載されている値である。
【0036】
本発明の熱流動性調整剤を構成するポリマーの質量平均分子量(Mw)は、5000〜50000の範囲内であることが好ましく、6000〜35000の範囲内であると更に好ましく、6000〜15000の範囲内であると特に好ましい。
【0037】
質量平均分子量が5000以上である場合、熱流動性調整剤及びこれを含有する粉体塗料の耐ブロッキング性や、塗膜の耐水性や耐溶剤性が向上する傾向にある。また、熱流動性調整剤の質量平均分子量が50000以下である場合、熱硬化時の熱流動性や塗膜の外観、光沢が向上する傾向にある。
【0038】
該ポリマーの質量平均分子量/数平均分子量(Mw/Mn)は、特に制限されないが、4以下であることが好ましく、3以下であると更に好ましい。Mw/Mnが4以下である場合、塗膜の外観が向上する傾向にある。
【0039】
(熱流動性調整剤の製造方法)
本発明の熱流動性調整剤の製造方法としては、例えば、懸濁重合法、塊状重合法、溶液重合法、乳化重合法などの公知の重合方法が挙げられる。中でも、重合後に濾過、洗浄、脱水、乾燥するだけで固形粒子を容易に得ることができる懸濁重合法が特に好ましい。
【0040】
本発明の熱流動性調整剤を懸濁重合法で製造する際の具体的な方法としては、例えば、水性媒体中に上記の少なくともt−ブチル(メタ)アクリレート、及び、水酸基含有(メタ)アクリレートを含有するモノマー混合物、分散剤、重合開始剤、連鎖移動剤などを添加して懸濁化し、その懸濁液を加熱して重合させ、重合後の懸濁液を濾過、洗浄、脱水、乾燥することにより熱流動性調整剤を製造することができる。
【0041】
懸濁重合法で製造する際に使用する分散剤としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸のアルカリ金属塩、(メタ)アクリル酸のアルカリ金属塩と(メタ)アクリル酸エステルのコポリマー、(メタ)アクリル酸スルホアルキルのアルカリ金属塩と(メタ)アクリル酸エステルのコポリマー、ポリスチレンスルホン酸のアルカリ金属塩、スチレンスルホン酸のアルカリ金属塩と(メタ)アクリル酸エステルのコポリマー、あるいはこれらモノマーの組み合わせからなるコポリマーや、ケン化度70〜100%のポリビニルアルコ−ル、メチルセルロ−ス等が挙げられる。これらは、1種以上を適宜選択して使用することができる。中でも、懸濁重合時の分散安定性が良好な(メタ)アクリル酸スルホアルキルのアルカリ金属塩と(メタ)アクリル酸エステルのコポリマーが好ましい。
【0042】
中でも、懸濁重合時の分散安定性が良好な(メタ)アクリル酸スルホアルキルのアルカ
リ金属塩と(メタ)アクリル酸エステルの共重合ポリマーが好ましい。
分散剤の使用量は、特に制限されないが、モノマー混合物100質量部に対し、0.005〜5質量部の範囲内であることが好ましい。
【0043】
さらに、懸濁重合法で製造する際に懸濁重合時の分散安定性の向上を目的として、無機電解質を併用することができる。無機電解質としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸マンガンなどが挙げられる。これらは、1種以上を適宜選択して使用することができる。
【0044】
本発明の熱流動性調整剤を製造する際に使用する重合開始剤としては、例えば、2,2'
−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,
2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2’−アゾビスイソブ
チレート、等のアゾ化合物;ラウロイルパーオキサイド、ステアロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシ2−エチルヘキサノエート等の有機過酸化物;過酸化水素、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の無機過酸化物;などが挙げられる。これらは、1種以上を適宜選択して使用することができる。
【0045】
重合開始剤の使用量は、特に制限されないが、モノマー混合物100質量部に対し、0
.05〜10質量部の範囲内であることが好ましい。
【0046】
また、分子量の調整を目的として、公知の連鎖移動剤を使用することができる。連鎖移動剤の使用量は、特に制限されないが、モノマー混合物100質量部に対し、0.05〜10質量部の範囲内であることが好ましい。
【0047】
重合温度は特に制限されないが、30〜150℃の範囲内であることが好ましく、50〜130℃の範囲内であると更に好ましい。
【0048】
本発明の粉体塗料は、本発明の熱流動性調整剤を含有するものであれば、特に制限されず、従来公知の結着樹脂及び硬化剤を使用することができる。
【0049】
熱流動性調整剤の使用量は、特に制限されないが、結着樹脂、硬化剤、及び熱流動性調整剤の合計量に対し、0.1〜5質量%の範囲内であることが好ましい。
【0050】
熱流動性調整剤の使用量が0.1質量%以上である場合、熱硬化時の熱流動性、塗膜の
外観、光沢が向上する傾向にある。また、熱流動性調整剤の使用量が5質量%以下である
場合、塗膜の硬度、耐水性、耐溶剤性が向上する傾向にある。
【0051】
結着樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、エポキシ−ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、アクリル−ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂などが挙げられる。中でも、塗膜外観が良好であり、各種塗膜性能に優れるポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、エポキシ−ポリエステル樹脂、アクリル樹脂が好ましい。
【0052】
本発明の粉体塗料において、結着樹脂の使用量は、特に制限されないが、熱流動性調整
剤、結着樹脂及び硬化剤の合計量に対し、45〜98質量%の範囲内であることが好まし
い。結着樹脂の使用量が45質量%以上である場合、塗膜の外観、光沢が向上する傾向にある。また、結着樹脂の使用量が98質量%以下である場合、塗膜の硬度、耐水性、耐溶剤性が向上する傾向にある。
【0053】
結着樹脂に、一分子中に2つ以上のカルボキシル基を有するポリエステル樹脂を使用する場合には、硬化剤として1,3,5−トリグリシジルイソシアヌレート(TGIC)が好適に使用される。また、一分子中に2つ以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂またはアクリル樹脂を硬化剤として使用し、エポキシ−ポリエステル樹脂、または、アクリル−ポリエステル樹脂とすることもできる。
【0054】
また結着樹脂に、一分子中に2つ以上の水酸基を有するポリエステル樹脂を使用する場合には、硬化剤としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等のイソシアネート化合物;イソシアネート基をメタノール、イソプロパノール、ε−カプロラクタム等のブロック化剤でブロックしたブロックイソシアネート化合物等が挙げられる。
【0055】
結着樹脂としてエポキシ樹脂を使用する場合、硬化剤としては、結着樹脂と反応性を有
するものであればよく、例えば、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、トリメリット酸等の多価カルボン酸化合物;無水トリメリット酸、無水コハク酸、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸等の酸無水物;アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド等のヒドラジド化合物;エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等のアミン化合物;などが挙げられる。また、一分子中に2つ以上のカルボキシル基を有するポリエステル樹脂を硬化剤として使用し、エポキシ−ポリエステル樹脂とすることもできる。
【0056】
結着樹脂としてアクリル樹脂を使用する場合、硬化剤としてはアジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、トリメリット酸、コハク酸、イソフタル酸、テレフタル酸、等の多価カルボン酸化合物;無水トリメリット酸、無水コハク酸、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸等の酸無水物;などが挙げられる。
【0057】
これらの硬化剤は、1種以上を適宜選択して使用することができる。
【0058】
なお、硬化剤の使用量は、特に制限されないが、熱流動性調整剤、結着樹脂及び硬化剤の合計量に対し、1〜50質量%の範囲内であることが好ましい。
【0059】
さらに、本発明の粉体塗料には、上記の熱流動性調整剤、結着樹脂、硬化剤以外にも、必要に応じて、酸化チタン等の顔料、ベンゾイン等の発泡防止剤、トリフェニルホスフィン等の硬化促進剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、ラジカル捕捉剤、スリップ剤、充填剤、ハジキ防止剤、垂止め剤等の各種添加剤を配合することができる。
【0060】
本発明の粉体塗料は、例えば、上記の熱流動性調整剤、結着樹脂、硬化剤、及び、必要に応じて使用される各種添加剤を乾式混合し、結着樹脂の軟化温度以上の温度、具体的には50〜150℃で溶融混練し、粉砕、分級することによって製造することができる。
【0061】
乾式混合装置としては、例えば、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、ハイスピ
ードミキサー、ナウターミキサー等の各種ミキサーを使用することができる。
【0062】
溶融混練装置としては、例えば、加熱ロール、加熱ニーダー、押出機等を使用すること
ができる。溶融混練に際して、その温度が50℃以上であれば、上記の熱流動性調整剤、
結着樹脂、硬化剤、及び、必要に応じて使用される各種添加剤の均一な混合が容易となり
、粉体塗料の生産性が向上する傾向にあり、150℃以下であれば、溶融混練時の硬化反
応が抑制され、外観、光沢等の塗膜性能が向上する傾向にある。
【0063】
粉砕装置としては、例えば、ハンマーミル、ピンミル、ジェットミル等を使用すること
ができる。分級装置としては、例えば、振動ふるい等を使用することができる。
【0064】
本発明の粉体塗料の質量平均粒子径は、特に制限されないが、5〜100μmの範囲内
であることが好ましい。質量平均粒子径が5μm以上である場合、粉体塗料の生産性、取扱い性が向上する傾向にあると共に、粉塵爆発に対する危険性が低減する傾向にある。また、質量平均粒子径が100μm以下である場合、塗膜外観が向上する傾向にある。
【0065】
本発明の粉体塗料は、例えば、静電塗装法、流動浸漬法等の従来公知の塗装方法により被塗物に塗布した後、結着樹脂の融点以上の温度、具体的には100〜280℃に加熱し、硬化させることによって塗膜を形成することができる。
【0066】
塗膜形成温度が100℃以上であれば、塗膜の平坦性や光沢、硬度が向上する傾向にあ
り、280℃以下であれば、塗膜成分の熱分解性が抑制され、ピンホールや気泡等の塗膜
欠陥が低減する傾向にある。
【0067】
また、被塗物としては、例えば、鉄、亜鉛、錫、ステンレス、銅、アルミニウム等の金
属類;ガラス等の無機質類;及びこれらにプラスト処理、リン酸鉄、リン酸亜鉛等の表面
処理を施したものや、プライマー、中塗り塗装を施したものなどが挙げられる。
【実施例】
【0068】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、以下の記載において「部」は「質量部」を表す。また、本実施例及び比較例における各物性の測定及び評価は以下の方法で行った。
【0069】
(耐ブロッキング性)
内径54mmの円筒型容器に粉体塗料あるいは熱流動性調整剤を約5gを入れ、外径52.5mm、質量1kgの円筒型分銅を乗せて、40℃で2週間保持した後、粉体塗料及び熱流動性調整剤のブロッキング状態を目視及び指触にて観察し、下記基準にて判定した。
○:粉体塗料及び熱流動性調整剤共に塊がない
△:熱流動性調整剤及び/又は粉体塗料に塊が生じているが、容易にほぐせる
×:熱流動性調整剤及び/又は粉体塗料にほぐせない塊がある
(熱流動性)
粉体塗料約3gを精秤し、錠剤成型機を使用して、錠剤試料を作成した。作成した試料を45°の角度に設定した鋼板上に置き、130℃に加熱したオーブン中で15分間保持した。オーブンから鋼板を取り出し、試料が流れた距離を測定し、下記基準にて判定した。
○:80mm以上
△:75mm以上、80mm未満
×:75mm未満
(塗装条件)
粉体塗料を鋼板に乾燥膜厚が50μmとなるように静電粉体塗装し、190℃で15分間焼き付け、一層目の硬化塗膜を得た。次に、得られた硬化塗膜上に、一層目と同じ粉体塗料を同様にして静電粉体塗装し、215℃で15分間焼き付け、合計乾燥膜厚が100μmの二層からなる硬化塗膜を得た。
【0070】
(塗膜外観)
一層目、二層目の硬化塗膜の表面を目視観察し、下記基準にて判定した。
○:はじき、ピンホール等の異常がない
△:はじき、ピンホール等の異常が僅かにある
×:はじき、ピンホール等の異常が著しくある
(光沢)
一層目、二層目の硬化塗膜の、入射角60°及び20°における鏡面光沢度を光沢計(日本電色工業株式会社製 VG−2000)を用いて測定し、下記基準にて判定した。
【0071】
<60°鏡面光沢度>
◎:95.0以上
○:90.0以上、95.0未満
△:80.0以上、90.0未満
×:80.0未満
<20°鏡面光沢度>
◎:80.0以上
○:70.0以上、80.0未満
△:50.0以上、70.0未満
×:50.0未満
(密着性)
一層目、二層目の硬化塗膜をJIS K 5600−5−6:1999に準じたクロスカット法により測定し、下記基準にて判定した。リコート密着性は二層目の密着性により判断した。
○:カットの縁が滑らかで、どの格子の目にも剥がれがない。
△:カットの交差点において、クロスカット部面積の5%以下の小さな剥がれあり。
×:カットの縁及び/又は交差点において、クロスカット部面積に対し、5%を超える大きな剥がれあり。
【0072】
(分子量)
ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)(東ソー株式会社製 商品名HLC−8120)を用いて測定した。カラムは、TSKgel G5000HXL*GMHXL−L(東ソー株式会社製)を使用した。検量線は、F288/F80/F40/F10/F4/F1/A5000/A1000/A500(東ソー株式会社製 標準ポリスチレン)、及びスチレンモノマーを使用して作成した。
【0073】
ポリマーを0.4質量%溶解したテトラヒドロフラン(THF)溶液を調製し、調製したTHF溶液を100μl使用して、40℃で測定を行った。標準ポリスチレン換算にて質量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、質量平均分子量/数平均分子量(Mw/Mn)を算出した。
【0074】
(分散剤Aの製造)
撹拌機、冷却管、温度計を備えた重合装置中に、脱イオン水900部、メタクリル酸2−スルホエチルナトリウム60部、メタクリル酸カリウム10部、メチルメタクリレート12部を加えて撹拌し、重合装置内を窒素置換しながら、重合温度50℃に昇温し、重合開始剤として2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩0.08部を添加し、更に重合温度60℃に昇温した。該重合開始剤の添加と同時に、滴下ポンプを使用して、メチルメタクリレートを0.24部/分の速度で75分間連続的に滴下し、重合温度60℃で6時間保持した後、室温に冷却して、固形分10%の透明なポリマー水溶液である分散剤Aを得た。
【0075】
(熱流動性調整剤1)
撹拌機、冷却管、温度計を備えた重合装置中に、脱イオン水145部、硫酸ナトリウム0.3部、分散剤A(固形分10%)0.4部を加えて撹拌し、均一な水溶液とした。次に、t−ブチルメタクリレート70部、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート8部、ラウリルメタクリレート22部、チオグリコール酸2−エチルヘキシル3部、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.25部、2,2'−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)0.05部を加え、水性懸濁液とした。
【0076】
次に、重合装置内を窒素置換し、重合温度70℃に昇温して約1時間反応させ、さらに重合率を上げるため、後処理温度として90℃に昇温して30分保持した後、40℃に冷却して、粒状のポリマーを含む水性懸濁液を得た。この水性懸濁液を目開き45μmのナイロン製濾過布で濾過し、濾過物を脱イオン水で洗浄、脱水し、40℃で16時間乾燥して、熱流動性調整剤1を得た。この熱流動性調整剤1の質量平均分子量(Mw)は11,700、質量平均分子量/数平均分子量(Mw/Mn)は1.81であった。結果を表1に示す。
【0077】
(熱流動性調整剤2〜9
表1に示すモノマー、開始剤を使用したこと以外は、熱流動性調整剤1と同様にして熱流動性調整剤2〜9得た。結果を表1に示す。
【0078】
なお、流動性調整剤9は、OHVが高いため、重合温度70℃に昇温して約30分後にポリマー粒子が二次凝集した
【0079】
【表1】

表中の略号は以下の通りである。
t−BMA:t−ブチルメタクリレート
HPMA :2−ヒドロキシプロピルメタクリレート
LMA :ラウリルメタクリレート
ADVN :2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)
AMBN :2,2'−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)
(実施例1)
結着樹脂 :92.1部(SP−011;SUN POLYMERS製 ポリエ
ステル樹脂)
硬化剤 :6.9部(トリグリシジルイソシアヌレート)
熱流動性調整剤 :1.0部
発泡防止剤 :0.57部(ベンゾイン)
顔料 :43.1部(CR−826;Kerr−McGee製 酸化チタン)
以上を予備混合し、二軸押出機(W&P ZSK−30)を用いて、100℃で溶融混練した。冷却後、得られた溶融混練物を粉砕機(BRINKMAN.010”)を用いて粉砕し、170メッシュの篩で分級し、粉体塗料を得た。この粉体塗料を鋼板に乾燥膜厚が50μmとなるように静電粉体塗装し、190℃で15分間焼き付け、一層目の硬化塗膜を得た。次に、得られた硬化塗膜上に、一層目と同じ粉体塗料を同様にして静電粉体塗装し、215℃で15分間焼き付け、合計乾燥膜厚が100μmの二層からなる硬化塗膜を得た。得られた粉体塗料と一層及び二層からなる硬化塗膜の各物性の測定及び評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0080】
(実施例2〜6、比較例1〜2)
熱流動性調整剤の種類を表2に示すものとした以外は、実施例1と同様にして粉体塗料及びその硬化塗膜を得た。評価結果を表2に示す。
【0081】
【表2】

表2に示すように、実施例1〜6で得られた粉体塗料は、耐ブロッキング性、熱流動性、塗膜外観、光沢、密着性に優れるものであった。
【0082】
これに対し、比較例1で用いた熱流動性調整剤7は、t−ブチル(メタ)アクリレート単位を含有していないため、得られた硬化塗膜の外観は著しく低位であった。また、比較例2で用いた熱流動性調整剤8は、水酸基含有(メタ)アクリレート単位を含有していないため、得られた二層目の硬化塗膜は、外観、光沢が低位でありリコート密着性が劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
t−ブチル(メタ)アクリレート単位と水酸基含有(メタ)アクリレート単位を含有し、
下記式(1)を用いて算出した水酸基価(OHV)が、20〜190mgKOH/gであるポリマーからなる粉体塗料用熱流動性調整剤。
OHV=Σ(wk/fk)×56.11×1000・・・(1)
(式(1)中、wkはポリマーを構成する水酸基含有モノマーkの質量分率を表し、fkはポリマーを構成する水酸基含有モノマーkの分子量を表す。)
【請求項2】
水性媒体中に、少なくともt−ブチル(メタ)アクリレート、及び、水酸基含有(メタ)アクリレートを含有するモノマーを分散し重合する、請求項1に記載の粉体塗料用熱流動性調整剤の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の粉体塗料用熱流動性調整剤を含有する粉体塗料。

【公開番号】特開2010−265390(P2010−265390A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−118213(P2009−118213)
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】