説明

粉末の製造方法

【課題】強度が高くかつ比表面積の大きいアパタイト粒子で構成される粉末を製造可能な粉末の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の粉末の製造方法は、複数個のアパタイト粒子で構成される粉末を製造する方法であり、アパタイトの一次粒子と、該一次粒子が凝集してなる凝集体とを、それぞれ、複数個含むスラリーを調製する工程と、スラリーを貯留タンクに供給する工程と、貯留タンクからノズル4に高圧ポンプを用いてスラリーをノズルに送液する際にスラリーに圧力を加えることによりスラリーをノズル4の流路内に押し出し圧力の作用により複数個の凝集体の少なくとも一部を破砕するとともに、スラリーを、流路内を移送して、オリフィス(噴出口)421から複数の液滴として噴出させる工程と、各液滴を乾燥させることにより、一次粒子と、破砕された各凝集体と、破砕されなかった各凝集体とが造粒して、アパタイト粒子で構成される粉末を得る工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末の製造方法、特に、アパタイト粒子で構成される粉末の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、アパタイト粒子(粉体)は、カルシウム源とリン酸源とを反応させ、アパタイトの一次粒子を含むスラリーを調製し、このスラリーを、噴霧式乾燥機や脱水機を用いて造粒することにより製造されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
例えば、従来の噴霧乾燥機を用いる方法では、高速で回転する円盤上に、スラリーを滴下し、円盤の回転による遠心力を利用して、このスラリーを液滴状に吹き飛ばし、乾燥する。
【0004】
ところで、前記スラリー中において、アパタイトの単結晶(本来の一次粒子)は、大部分が通常、凝集して一次凝集体を形成し、さらに、この一次凝集体同士が凝集した二次凝集体を形成している。
【0005】
そして、上述した従来の方法を用いて製造したアパタイト粒子は、その強度や比表面積が、スラリー中に存在する二次凝集体における一次凝集体および一次粒子の凝集の程度や状態に大きく左右される。
【0006】
例えば、一次凝集体が比較的多いスラリーを用いた場合、得られるアパタイト粒子は、密度が高く、強度は高いが比表面積が小さくなる傾向を示す。一方、二次凝集体の粒径が比較的大きいスラリーを用いた場合、得られる粒子は、密度が低くなり、比表面積は増大するが、強度が低くなる傾向を示す。
【0007】
すなわち、従来の方法では、強度が高くかつ比表面積の大きいアパタイト粒子を製造するのが難しいという問題がある。
【0008】
【特許文献1】特開昭62−91410号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、強度が高くかつ比表面積の大きいアパタイト粒子で構成される粉末を製造可能な粉末の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的は、下記(1)〜(13)の本発明により達成される。
(1) 液状材料を貯留する貯留タンクと、高温に加熱された乾燥室と、前記液状材料を前記乾燥室内に噴出させるノズルと、前記貯留タンクから高圧ポンプを用いて、配管を介して前記液状材料を前記ノズルに送液する送液部とを備える乾燥装置を用いて、複数個のアパタイト粒子で構成される粉末を製造する方法であって、
前記ノズルは、前記液状材料を噴出する噴出口と、該噴出口と前記配管とを連通する流路とを備えており、
前記アパタイトの一次粒子と、該一次粒子が凝集してなる凝集体とを、それぞれ、複数個含むスラリーを調製する工程と、
前記スラリーを前記貯留タンクに供給する工程と、
前記貯留タンクから前記ノズルに前記高圧ポンプを用いて前記スラリーを前記ノズルに送液する際に、前記スラリーに圧力を加えることにより、前記スラリーを前記ノズルの前記流路内に押し出し、前記圧力の作用により複数個の前記凝集体の少なくとも一部を破砕、または前記凝集体に物理的な力を加え凝集体内部の空間に変化を与えるとともに、前記スラリーを、前記流路内を移送して、前記噴出口から複数の液滴として前記乾燥室内に噴出させる工程と、
前記乾燥室内で、前記各液滴を乾燥させることにより、前記一次粒子と、破砕された前記各凝集体と、破砕されなかった前記各凝集体とが造粒して、前記アパタイト粒子で構成される前記粉末を得る工程とを有することを特徴とする粉末の製造方法。
【0011】
本発明によれば、複数個の凝集体の少なくとも一部の凝集体を破砕しつつ、スラリーを噴出してアパタイト粒子を製造するので、強度が高くかつ比表面積の大きいアパタイト粒子を製造し得る。
【0012】
(2) 前記凝集体の少なくとも一部を破砕することにより、前記スラリー中に含まれる、前記各凝集体の粒径の均一化が図られる上記(1)に記載の粉末の製造方法。
【0013】
これにより、粒径が比較的揃ったアパタイト粒子を得ることができる。その結果、例えば、カラムの充填材に適用した場合には、製造したカラム毎に、分離能にバラツキが生じるのを的確に抑制または防止することができる。
【0014】
(3) 前記スラリー中の前記一次粒子および前記凝集体の総含有量は、1〜20wt%である上記(1)または(2)に記載の粉末の製造方法。
【0015】
これにより、スラリーの粘度を適度なものとして、より効率よくスラリーを液滴として噴出(吐出)することができる。
【0016】
(4) 前記ノズルは、前記流路内に1種類の流体が通過し得るよう構成されている上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の粉末の製造方法。
【0017】
これにより、スラリー中に他の流体(例えば、気体等)が混入することにより、気泡等が発生するのを防止することができる。その結果、各液滴の粒径にバラつきが生じることを防止、ひいては、各アパタイト粒子の粒径にバラつきが生じることを防止することができる。したがって、かかるアパタイト粒子で構成される粉末をカラムの充填材に適用することにより、分離能の更なる向上を図ることができる。
【0018】
(5) 前記噴出口の直径は、0.4〜2mmである上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の粉末の製造方法。
【0019】
噴出口の直径をかかる範囲に設定することにより、ノズル内のスラリーに十分な圧力を付与することができる。その結果、スラリー中において、凝集体をより確実かつ微細に破砕することができる。
【0020】
(6) 前記ノズルは、前記噴出口から前記スラリーを円錐筒状に噴出し得るよう構成されている上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の粉末の製造方法。
【0021】
これにより、各液滴に含まれる、一次粒子と、破砕された凝集体と、破砕されなかった凝集体とを、より均一に分散した状態で、噴出口から噴出させることができる。その結果、得られるアパタイト粒子の粒径の均一化をより確実に図ることができる。
【0022】
(7) 前記ノズルは、前記流路の途中に、前記凝集体の破砕を補助する補助手段を有する上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の粉末の製造方法。
【0023】
これにより、凝集体をさらに微細に破砕し得るため、より高い比表面積を有するアパタイト粒子が得られる。
【0024】
(8) 前記補助手段は、複数の貫通孔を備える網材を有し、前記貫通孔を前記凝集体が通過する際に破砕される上記(7)に記載の粉末の製造方法。
【0025】
補助手段を網材で構成すれば、その開口径(目開き)を設定するだけで、凝集体の破砕の程度を調整することができるという利点がある。
【0026】
(9) 前記圧力は、1〜3MPaである上記(1)ないし(8)のいずれかに記載の粉末の製造方法。
【0027】
噴出口の直径を前記範囲に設定し、スラリーに加わる圧力をかかる範囲に調整することにより、ノズル内のスラリーに十分な圧力をより確実に付与することができる。その結果、スラリー中において、凝集体をより適度な大きさ、さらにはより適度な割合で破砕することができるとともに、形成されるアパタイト粒子を真球性の高いものとすることができる。
【0028】
(10) 前記各液滴を乾燥する際の雰囲気の温度は、70〜200℃である上記(1)ないし(9)のいずれかに記載の粉末の製造方法。
【0029】
これにより、液滴の乾燥効率が低下するのを防止しつつ、各液滴中に含まれる一次粒子および凝集体を確実に造粒させることができる。
【0030】
(11) 前記アパタイトの一次粒子は、フッ素アパタイトの一次粒子である上記(1)ないし(10)のいずれかに記載の粉末の製造方法。
【0031】
フッ素アパタイト一次粒子は、特に、結晶性が高く、ハイドロキシアパタイト一次粒子に比べて大きいサイズの結晶となり易い。このため、比表面積が高いフッ素アパタイトを得るのが難しい。これに対して、本発明によれば、攪拌だけでなくノズルを通過させることにより2次凝集体を1次凝集体に効率よく粉砕出来るため結晶サイズが大きくても比表面積を広くできるフッ素アパタイトを作ることができる。換言すれば、本発明は、特に、フッ素アパタイト粒子で構成される粉末の製造方法への適用に適している。
【0032】
(12) 前記フッ素アパタイトの一次粒子は、ハイドロキシアパタイトの一次粒子を含むスラリーを調製し、前記スラリーとフッ化水素を含有するフッ化水素含有液とを混合して、前記スラリーのpHを2.5〜5に調整し、この状態で、前記スラリー中において前記ハイドロキシアパタイトの一次粒子と前記フッ化水素とを反応させることにより、前記ハイドロキシアパタイトが有する水酸基の少なくとも一部を、フッ素原子で置換して得られる上記(11)に記載の粉末の製造方法。
【0033】
ハイドロキシアパタイト一次粒子を含むスラリー中で、ハイドロキシアパタイト一次粒子とフッ素源を反応させることにより、フッ素アパタイト一次粒子を簡便に製造することができる。また、一次粒子の段階でハイドロキシアパタイトが有する水酸基がフッ素原子により置換するので、ハイドロキシアパタイトにおけるフッ素原子の置換率の調整を容易に行うことができる。特に、フッ素原子の置換率を高めることにより、ハイドロキシアパタイト一次粒子(フッ素アパタイト一次粒子)の結晶性が高まり、最終的に得られるフッ素アパタイト粒子の強度を高めることができる。
【0034】
(13) 前記粉末の比表面積が30m/g以上である前記粉末が製造される上記(1)ないし(12)のいずれかに記載の粉末の製造方法。
【0035】
かかる粉末は、十分に高い比表面積を有するため、カラムの充填材に適用することにより、優れた分離能が得られる。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、複数個の凝集体の少なくとも一部の凝集体を破砕しもしくは凝集体内部の空間を変化させつつ、この破砕された凝集体と、破砕されていない凝集体と、一次粒子とを含むスラリーを噴出してアパタイト粒子を製造するので、強度が高くかつ比表面積の大きいアパタイト粒子を製造し得る。また、スラリー中に含まれる各凝集体の粒径の均一化を図ることもでき、粒径が比較的揃ったアパタイト粒子を得ることができる。
【0037】
したがって、かかるアパタイト粒子で構成される粉末を、カラムの充填材に適用した場合、この充填材は、吸着量が多く耐久性が高く、かつ分離性能がより向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、本発明の粉末の製造方法の好適な実施形態について詳細に説明する。
まず、本発明の粉末の製造方法に用いるノズルを備える乾燥装置について説明する。
【0039】
図1は、乾燥装置の構成を示す断面図、図2は、図1に示す乾燥装置が備えるノズルの構成を示すために拡大した縦断面図である。
【0040】
以下、図1中の上側を「上」、下側を「下」と言い、図2中の左側を「先端」、右側を「基端」と言う。
【0041】
図1に示す乾燥装置(造粒乾燥装置)1は、乾燥室2と、液状材料を乾燥室2内に噴出させるノズル4と、液状材料を貯留する貯留タンク6と、液状材料を貯留タンク6からノズル4に送液する送液部3と、乾燥室2内に加熱された気体を供給する送気部7と、噴霧した粉体を吸引し回収するサイクロン部8からなる。
【0042】
乾燥室2は、その全体形状が筒状をなしており、上端か下端に向かってその内径が、鉛直方向の途中までほぼ一定であるが、途中から下端に向かって漸減しており、その下端に設けられた貫通孔21で開口する構成となっている。このような構成の乾燥室2において、液状材料(スラリー)をノズル4から噴出させると、スラリーが乾燥されることにより粉体が形成され、この粉体は、比較的サイズの大きいものが貫通孔21から、微細なものがサイクロン部8からの吸引により回収される。
【0043】
乾燥室2には、図1に示すように、乾燥室2内に加熱された気体を供給する送気部7が接続されている。
【0044】
送気部7は、気体(例えば空気)を送気する送風機71と、気体を乾燥室2内に導く供給ライン72と、気体中の粉塵を除去するためのフィルタ73とで構成されており、気体を乾燥室2内に供給し得るようになっている。
【0045】
そして、この送気部7の供給ライン72の途中には、ヒータ51を備える加熱手段5が設けられており、ヒータ51に通電することにより、送気部7により供給される気体を加熱し得るようになっている。かかる構成とすることにより、乾燥室2内に供給された気体を高温な状態で供給し得ることから、乾燥室2内を高温に加熱された状態とすることができる。
【0046】
また、乾燥室2の内部の上側には、ノズル4が設置されているが、このノズル4には、送液部3を介して貯留タンク6が接続されている。
【0047】
送液部3は、ノズル4と貯留タンク6とを接続する送液ライン(配管)32と、送液ライン32の途中に設けられ、液状材料をノズル4に供給する高圧ポンプ31とを有している。かかる構成とすることにより、高圧ポンプ31の作動により、送液ライン32を介して、貯留タンク6に貯留された液状材料をノズル4に供給することができ、この液状材料をノズル4から乾燥室2内に噴出させることができる。このとき、乾燥室2内が高温に加熱された状態となっていることから、噴出された液状材料(スラリー)が急速に乾燥されることにより粉体が形成される。
【0048】
また、本実施形態では、図2に示すように、送液ライン32のノズル4側の端部には、その外周面にネジ部322を備えた円筒状の接続口323が先端方向に向かって形成されている。このような接続口323にノズル4が接続される。
【0049】
以下このノズル4について詳述する。
ノズル4は、送液部3を介して貯留タンク6から供給された液状材料を、その先端から液滴として噴出する。このノズル4は、図2に示すように、キャップ41と、口部42と、フィルタ43と、コアチップ44と、コアチップホルダ45と、濾過器46と、ノズル本体47とを有する。
【0050】
キャップ41は、ブロック状の部材で構成され、その中央には、先端から基端に貫通する貫通孔411が形成されている。
【0051】
このキャップ41の基端側外周面には、ネジ部412が形成され、このネジ部412は、後述するノズル本体47に形成されたネジ部472と螺合する。
【0052】
キャップ41の貫通孔411には、口部42が挿入され、キャップ41に対して固定されている。また、口部42の先端は、貫通孔411から突出している。
【0053】
この口部42は、円筒状の部材で構成され、その内部には細径のオリフィス(噴出口)421が形成されている。ノズル4に供給された液状材料は、このオリフィス421を介して噴出される。
【0054】
ノズル本体47は、内腔部471を有する円筒状の部材で構成されている。ノズル本体47の先端側内周面には、ネジ部472が形成され、このネジ部472にキャップ41のネジ部412が螺合することにより、キャップ41がノズル本体47に固定されている。
【0055】
一方、ノズル本体47の基端側内周面には、ネジ部473が形成されている。このネジ部473に、接続口323のネジ部322が螺合することにより、ノズル4が送液ライン32の端部に接続(固定)されている。
【0056】
また、ノズル本体47のネジ部473より先端側の内周面には、内側に突出するリング状の突出部(縮径部)474が形成されている。
【0057】
キャップ41をノズル本体47に装着した状態で、突出部474より先端側の内腔部471と、口部42より基端側の貫通孔411とにより、フィルタ(網材)43、コアチップ44、コアチップホルダ45および濾過器46を収納する収納空間が画成される。
【0058】
この収納空間内には、濾過器46の先端にコアチップ44がコアチップホルダ45を介して固定(固着)され、濾過器46の外周にフィルタ43が固定(固着)された組立状態で収納されている。また、この組立状態で、フィルタ43が外周に設けられた濾過器46の基端部が、前記突出部474の内側に挿入、固定されている。
【0059】
濾過器46は、その内部に内腔部461を備える円筒状の部材で構成されている。また、その胴部(円筒部)には、内腔部461と外部とを連通する複数の開口部462が形成されている。
【0060】
この濾過器46の先端部には、内腔部461内に、円柱状のコアチップホルダ45の基端部が挿入されている。これにより、内腔部461は、先端部において閉塞されている。
【0061】
したがって、ノズル4内に供給された液状材料は、内腔部461内に導入された後、各開口部462を通過して、濾過器46の外部に流出する。
【0062】
この際、液状材料として、後述するようなアパタイトの一次粒子の凝集体を含むスラリーを用いると、スラリー中の少なくとも一部の凝集体が破砕されたり物理的力が加わり凝集体が持つ空間に変化が加わる。
【0063】
また、コアチップホルダ45の長手方向のほぼ中央部には、リング状のフランジ451が外側に向かって突出形成されている。
【0064】
コアチップホルダ45の基端部を、濾過器46の内腔部461内に挿入した状態で、フランジ451が濾過器46の先端に当接する。これにより、コアチップホルダ45の濾過器46に対する位置決めがなされる。
【0065】
また、コアチップホルダ45の先端には、基端方向に向かって凹没する嵌合部452が形成されている。この嵌合部452に、円柱状のコアチップ44の基端部が嵌合している。
【0066】
コアチップ44には、その外周部に、中心軸に対して傾斜した方向に沿って形成された溝441が2つ設けられている。
【0067】
濾過器46の外部に流出した液状材料は、コアチップ44側(すなわち先端側)に向かって移送され、溝441内を通過する。この溝441を通過することにより、コアチップ44の先端側で、液状材料に旋回流が生じる。その結果、ノズル4の先端からは、円錐筒状に液状材料が噴出される。
【0068】
なお、溝441は、本実施形態のように、コアチップ44の外周部に2つ設けられている場合に限らず、3つ以上設けられていてもよい。さらに、複数設けられた各溝441は、前記中心軸を介して対向配置されているのが好ましい。これにより、液状材料が溝441内を通過する際に、旋回流を確実に発生させることができる。
【0069】
このような構成のノズル4では、濾過器46の内腔部461、各開口部462、濾過器46とキャップ41およびノズル本体47との間の空間により、液状材料の流路が構成されている。このように、ノズル4は、流路内に1種類の流体(液状材料)が通過し得るよう構成されている。
【0070】
また、前述したように、濾過器46の外周には、フィルタ43が設けられている。すなわち、液状材料が通過する流路の途中に、フィルタ43が位置する。
【0071】
このフィルタ43は、スラリー中の異物を除去する機能を有するとともに、液状材料として、アパタイトの一次粒子の凝集体を含むスラリーを用いる場合には、凝集体の破砕を補助する補助手段として機能する。
【0072】
次に、このような噴出装置1を用いた、複数個のアパタイト粒子で構成される粉末(一次粒子の集合体からなる乾燥体)の製造方法、すなわち、本発明の粉末の製造方法について説明する。
【0073】
本発明の粉末の製造方法は、スラリー調製工程S10と、スラリー供給工程S20と、液滴噴出工程S30と、液滴乾燥工程S40とを有している。以下、これらの工程について、順次説明する。
【0074】
[S10] スラリー調製工程
まず、アパタイトの一次粒子(単結晶)と、この一次粒子が凝集してなる凝集体とを、それぞれ、複数個含むスラリーを調製する。
【0075】
かかるスラリーは、例えば、カルシウム源とリン酸源との少なくとも一方を溶液として用いる湿式合成法によって容易に調製することができる。
【0076】
かかる合成法を用いて調整されるスラリー中では、まず、アパタイトが合成されることにより、アパタイト単結晶(一次粒子)が生成する。そして、これらの一次粒子同士は、一の一次粒子の正に帯電している部分と、他の一次粒子の負に帯電している部分との間にファンデルワールス力(分子間力)が生じ、それらが凝集することにより一次凝集体が形成され、さらに、形成された一次凝集体同士が凝集することにより、二次凝集体が形成される。そのため、このスラリー中では、一次粒子と、一次凝集体と、二次凝集体とが混在した状態で存在する。なお、本明細書中では、これら一次凝集体と、二次凝集体とを併せて凝集体と言うこととする。
【0077】
このような湿式合成法によれば、スラリーを簡便に、かつ効率よく調製することができる。また、湿式合成法では、高価な製造設備を必要とせず、容易かつ効率よくスラリーを調製することができる。
【0078】
カルシウム源としては、例えば、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、硝酸カルシウム等を用いることができる。一方、リン酸源としては、リン酸、リン酸アンモニウム等を用いることができる。これらの中でも、特に、カルシウム源として水酸化カルシウムまたは酸化カルシウムを主成分とするものが、また、リン酸源としてリン酸を主成分とするものが好ましい。
【0079】
かかるカルシウム源およびリン酸源を用いることにより、アパタイト一次粒子をより効率よくかつ安価に製造することができ、また、容易に凝集体(一次凝集体および二次凝集体)が分散したスラリーを得ることができる。
【0080】
このような湿式合成法としては、具体的には、例えば、容器内で、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)または酸化カルシウム(CaO)の懸濁液中に、リン酸(H3PO4)溶液を滴下し、撹拌混合する方法が挙げられる。かかる方法により、ハイドロキシアパタイトが合成され、このハイドロキシアパタイトが結晶化することによりハイドロキシアパタイト一次粒子が生成する。そして、これらが凝集することにより一次凝集体が形成され、さらに、形成された一次凝集体同士が凝集することにより、二次凝集体が形成される。
【0081】
ところで、最終的にアパタイト粒子として、フッ素アパタイト粒子を得たい場合には、ハイドロキシアパタイト一次粒子を含むスラリーを得た段階で、このスラリー中にフッ素源を混合することにより、ハイドロキシアパタイトをフッ素アパタイトに変換しておくのが好ましい。
【0082】
ハイドロキシアパタイト一次粒子に、フッ素源が接触することで、次式(I)に示すように、ハイドロキシアパタイトが有する水酸基の少なくとも一部をフッ素原子で置換して、フッ素アパタイトに変換して、フッ素アパタイト一次粒子を得る。
【0083】
Ca10(PO(OH)
Ca10(PO(OH)2−2x2X ・・・ (I)
[ただし、式(I)中、xは0<x≦1である。]
【0084】
このように、ハイドロキシアパタイト一次粒子を含むスラリー中で、ハイドロキシアパタイト一次粒子とフッ素源を反応させることにより、フッ素アパタイト一次粒子を簡便に製造することができる。
【0085】
また、一次粒子の段階でハイドロキシアパタイトが有する水酸基がフッ素原子により置換するので、ハイドロキシアパタイトにおけるフッ素原子の置換率の調整を容易に行うことができる。
【0086】
特に、フッ素原子の置換率を高めることにより、ハイドロキシアパタイト一次粒子(フッ素アパタイト一次粒子)の結晶性が高まり、最終的に得られるフッ素アパタイト粒子の強度を高めることができる。
【0087】
この場合、フッ素源としては、フッ化水素アンモニウム(NHF)、フッ化リチウム(LiF)、フッ化ナトリウム(NaF)やフッ化カリウム(KF)を用いることもできるが、特に、フッ化水素(HF)を用いるのが好ましい。フッ素源としてフッ化水素を用いることにより、他のものを用いる場合に比較して副反応生成物の生成がないか、あるいは極めて少ない。このため、フッ素アパタイト一次粒子中に混入する不純物の含有量を少なくすることができ、フッ素アパタイト一次粒子の結晶性を向上させることができる。
【0088】
具体的には、フッ素アパタイト中の不純物濃度は、できる限り低いことが好ましく、100ppm以下であるのが好ましく、300ppm以下であるのがより好ましい。これにより、フッ素アパタイト一次粒子は、より結晶性の高いものとなる。
【0089】
なお、ハイドロキシアパタイト(一次粒子)とフッ化水素との反応条件(例えば、pH、温度、時間等)を調整することにより、フッ素アパタイト一次粒子中の不純物濃度を前記範囲とすることが可能である。
【0090】
特に、この場合、フッ化水素を含むフッ化水素含有液をスラリー中に混合して、スラリーのpHを2.5〜5に調整し、この状態で、ハイドロキシアパタイト(一次粒子)とフッ化水素を反応させることが好ましい。なお、目的のpHは、フッ化水素含有液の全量をスラリーに混合した時点のpHとすることができる。
【0091】
なお、フッ化水素を溶解する溶媒は、後述するハイドロキシアパタイト一次粒子とフッ素源との反応段階において、その反応を阻害しないものであれば、いかなるものも使用が可能である。
【0092】
かかる溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール等のアルコール類等が挙げられ、これらを混合して用いることもできるが、中でも、特に、水であるのが好ましい。溶媒として水を用いれば、前記反応の阻害をより確実に防止することができる。
【0093】
また、フッ化水素含有液中のフッ化水素の含有量は、1〜60wt%程度であるのが好ましく、2.5〜10wt%程度であるのがより好ましい。フッ化水素の含有量がこのような範囲であれば、反応段階において、スラリーのpHを目的の範囲に調製するのが容易である。また、フッ化水素含有液のpHが極端に低くならず、安全に取り扱うこともできる。
【0094】
ここで、スラリーのpHを前記範囲に調整することにより、反応により生成したフッ素アパタイト(一次粒子)のうち小さいものの一部が、一旦溶解傾向を示した後に、再結晶することになる。このため、結晶性の高いフッ素アパタイト一次粒子を得ることができる。また、フッ化水素含有液の混合量が少なくてよいので、スラリーの全量を適度な量とすることができ、フッ素アパタイト一次粒子の収率が低下するのを防止できる他、工業的にも有利である。
【0095】
なお、スラリーのpHは、2.5〜4.5程度に調整するのが好ましく、2.5〜4程度に調整するのがより好ましい。かかる範囲にスラリーのpHを調整することにより、より簡便かつ高収率で、結晶性の高いフッ素アパタイト一次粒子を得ることができる。
【0096】
また、スラリーとフッ化水素含有液とは、これらを一時(同時)に混合するようにしてもよいが、スラリー中にフッ化水素含有液を滴下することにより混合するのが好ましい。このように、スラリー中にフッ化水素含有液を滴下することにより、比較的穏やかに、ハイドロキシアパタイト一次粒子とフッ化水素とを反応させることができる。また、スラリーのpHをより容易かつ確実に前記範囲に調製することができる。このため、ハイドロキシアパタイト自体の分解等を防止することができ、高収率で高純度のフッ素アパタイト一次粒子を得ることができる。
【0097】
フッ化水素含有液を滴下する速度は、1〜20L/時間程度であるのが好ましく、2〜10L/時間程度であるのがより好ましい。このような滴下速度でフッ化水素含有液をスラリー中に混合(添加)することにより、ハイドロキシアパタイト一次粒子とフッ化水素とを、より穏やかな条件で反応させることができる。
【0098】
また、ハイドロキシアパタイト一次粒子とフッ化水素との反応は、スラリーを撹拌しつつ行うのが好ましい。撹拌によって、ハイドロキシアパタイト一次粒子とフッ化水素とが均一に接触し、反応を効率よく進行させることができる。また、得られるフッ素アパタイト一次粒子間でのフッ素原子の置換率をより均一なものとすることができる。
【0099】
この場合、スラリーを撹拌する撹拌力は、スラリー1Lに対して、0.5W〜5kW程度の出力であるのが好ましく、1.5W〜2kW程度の出力であるのがより好ましい。撹拌力をこのような範囲の値とすることにより、ハイドロキシアパタイト一次粒子とフッ化水素との反応の効率をより向上させることができる。
【0100】
フッ化水素の混合量は、フッ素量がハイドロキシアパタイトが有する水酸基の量に対して0.65〜1.25倍程度となるようにするのが好ましく、0.75〜1.15倍程度となるようにするのがより好ましい。これにより、ハイドロキシアパタイトが有する水酸基をフッ素原子に、より効率よく置換することができる。
【0101】
ハイドロキシアパタイト一次粒子とフッ化水素とを反応させる際の温度は、特に限定されないが、5〜50℃程度であるのが好ましく、20〜40℃程度であるのがより好ましい。このような温度範囲に設定することにより、スラリーのpHを低く調整した場合でも、ハイドロキシアパタイト(一次粒子)の分解等を防止することができる。また、ハイドロキシアパタイト一次粒子とフッ化水素との反応率を向上させることができる。さらに、生成したフッ素アパタイトの再結晶を効率よく促して、フッ素アパタイト一次粒子を得ることができる。
【0102】
この場合、ハイドロキシアパタイト一次粒子へのフッ化水素の滴下時間は、30分〜16時間程度かけるのが好ましく、1〜8時間程度かけるのがより好ましい。このような滴下時間で、ハイドロキシアパタイト一次粒子とフッ化水素とを反応させることにより、ハイドロキシアパタイトが有する水酸基をフッ素原子で十分に置換することができる。なお、滴下時間を上記の上限値を越えて長くしても、ハイドロキシアパタイト一次粒子とフッ化水素との反応の進行は、それ以上期待できない。
【0103】
なお、前記一次粒子へのフッ化水素の滴下完了後には、得られたスラリーを攪拌することなく一定時間放置するようにしてもよい。かかる構成とすることにより、フッ素原子をアパタイト中により安定的に結合させることができる。
【0104】
以上のようにしてハイドロキシアパタイトが有する水酸基の少なくとも一部がフッ素原子で置換されたフッ素アパタイトが得られる。
【0105】
このフッ素アパタイトは、式(I)に示したように、必ずしも純粋なフッ素アパタイト(すなわちハイドロキシアパタイトの水酸基が完全にフッ素原子により置換されたハロゲン化度、式(I)中のxが1のもの)に限らず、ハイドロキシアパタイトの水酸基の一部のみがフッ素原子により置換されたものも含まれる。
【0106】
なお、かかる方法によれば、ハイドロキシアパタイトが有する水酸基をフッ素原子により、75%以上置換することが可能であり、ハイドロキシアパタイト一次粒子とフッ化水素との反応条件(例えば、pH、温度、時間、フッ化水素の混合量等)を調整することにより、90%以上置換することも可能である。
【0107】
また、スラリー中におけるアパタイト一次粒子および凝集体の総含有量は、1〜20wt%程度に調整するのが好ましく、5〜15wt%程度に調整するのがより好ましい。これにより、スラリーの粘度を適度なものとして、後述する工程[S30]において、より効率よくスラリーを液滴として噴出(吐出)することができる。なお、総含有量が1wt%よりも小さいと、目的とする量の粉末を得るには、大量のスラリーを必要とし、工業的にも不利となるおそれがある。
【0108】
[S20] スラリー供給工程
次に、得られたスラリーを、貯留タンク6内に貯留する。
【0109】
[S30] 液滴噴出工程
次に、貯留タンク6に貯留されたスラリーをノズル4に供給することにより、このノズル4の先端から、スラリーを複数の液滴として噴出する。
【0110】
かかる工程を詳述すると、まず、乾燥装置1の高圧ポンプ31を作動させ、スラリーを、送液ライン32を介してノズル4に供給する。この際、高圧ポンプ31の作用により、ノズル4が備える濾過器46の基端側に圧力を加えた状態で、スラリーが供給される。
【0111】
次いで、このスラリーは、濾過器46の内腔部461を移送された後、複数の開口部462を介して、濾過器46の外側に向かう。
【0112】
この開口部462を通過する際に、ノズル4内に加えられた圧力の作用により、スラリー中の複数個の凝集体(一次凝集体および二次凝集体)は、その少なくとも一部が破砕もしくは物理的な力を受ける。
【0113】
さらに、スラリーは、濾過器46の外周に設けられたフィルタ43を通過する。本実施形態では、このフィルタ43をスラリーが通過する際にも、ノズル4内に加えられた圧力の作用により、凝集体がさらに微細に破砕される。
【0114】
次いで、フィルタ43の外側に排出されたスラリーは、コアチップ44側に向かって移送される。そして、コアチップ44に到達したスラリーは、溝441内を通過する。
【0115】
この溝441を通過することにより、コアチップ44の先端側で、スラリーに旋回流が生じる。その結果、図1に示すようにノズル4の先端からは、液滴状のスラリーが円錐筒状に噴出される。
【0116】
すなわち、本工程では、スラリーは、ノズル4の流路内を移送する際に、スラリー中の凝集体の少なくとも一部が破砕もしくは物理的な力を受け、凝集体内部の空間が変化させられるとともに、ノズル4の先端から、複数の液滴として噴出される。
【0117】
[S40] 液滴乾燥工程
次に、ノズル4の先端から噴出されたスラリーの各液滴を乾燥室2内で乾燥させる。
【0118】
これにより、各液滴中に含まれる複数個の一次粒子と、破砕された凝集体と、破砕されさらに凝集体内部に物理的な力が加わり凝集体内部の空間が変化した凝集体と、破砕はされないが凝集体に力が加わり凝集体内部の空間に変化が起こった凝集体と、破砕されなかった凝集体とが造粒して、各アパタイト粒子(乾燥体)が形成されることにより粉末が得られる。
【0119】
アパタイト粒子の粒径は、1〜100μm程度であるのが好ましく、20〜70μm程度であるのがより好ましい。かかる範囲内に設定することにより、粉体をカラムの充填材に適用した際に、粉体は優れた分離能を発揮するものとなる。
【0120】
ここで、アパタイト単結晶(一次粒子)は、六方晶系の結晶構造を有している。このため比較的大きい面積の平面を多数有する。したがって、その凝集体(一次凝集体および二次凝集体)においては、一次粒子の前記平面同士が面接触して凝集するため、その比表面積が低くなる傾向を示す。
【0121】
そこで、本発明では、ノズル4内を通過させる際に、高圧ポンプ(高圧送液ポンプ)31による圧力の作用により、複数個の凝集体の内の少なくとも一部の凝集体を破砕する。より具体的には、例えば、二次凝集体が一次凝集体に、分解する。さらに凝集体に力が加わり凝集体内部の空間に変化が起こる凝集体も発生する。
【0122】
このため、一次粒子の平面同士の面接触を解除することができる。そして、この状態の凝集体と、破砕されなかった凝集体と、一次粒子とを含むスラリーをノズル4の先端から液滴として噴出し、液滴中に含まれるこれらの成分(粒子および凝集体)をほぼ均一に分散させた状態で造粒させることにより、アパタイト粒子(乾燥体)を得る。より具体的には、液滴中において、破砕されなかった凝集体がコア(核)となり、この核を中心として、破砕された凝集体や一次粒子が結合して造粒することにより、乾燥体が形成されると推察される。
【0123】
このため、得られるアパタイト乾燥体は、アパタイト一次粒子自体の強度を維持することができ、高い強度(機械的強度)を有する。一方、一旦、凝集体が破砕した破砕物(一次粒子や、粒径が小さくなった凝集体)が結合して造粒するので、前記平面同士が面接触する機会を低減することができる。さらに凝集体に物理的力が加わって、凝集体内部の空間が変化しているので、十分に高い比表面積を有するアパタイト粒子を得ることができる。
【0124】
また、本実施形態では、高圧ポンプ31による圧力の作用に加えて、フィルタ(網材)43により、凝集体をさらに微細に破砕し、さらに物理的力を加えられるため、より高い比表面積を有するアパタイト粒子が得られる。
【0125】
なお、凝集体の破砕を補助する補助手段として、フィルタ43を用いれば、その開口径(目開き)を設定するだけで、凝集体の破砕の程度を調整することができるという利点がある。
【0126】
ところで、フッ素アパタイト一次粒子は、特に、結晶性が高く、ハイドロキシアパタイト一次粒子に比べて大きいサイズの結晶となり易い。このため、比表面積が高いフッ素アパタイトを得るのが難しい。これに対して、本発明によれば、攪拌だけでなくノズルを通過させることにより2次凝集体を1次凝集体に効率よくできるため結晶サイズが大きくても比表面積を広くできるフッ素アパタイトを作ることができる。換言すれば、本発明は、特に、フッ素アパタイト粒子で構成される粉末の製造方法への適用に適している。
【0127】
なお、フッ素アパタイト自体は、結晶性が極めて高いため、得られるフッ素アパタイト粒子は、十分な強度を有する。
【0128】
さらに、本発明によれば、スラリーがノズル4を通過する際に、凝集体の粒径の均一化を図ることもできるので、粒径が比較的揃ったアパタイト粒子を得ることができる。その結果、例えば、カラムの充填材に適用した場合には、製造したカラム毎に、分離能にバラツキが生じるのを的確に抑制または防止することができる。
【0129】
また、本実施形態では、ノズル4は、1種類の流体(スラリー)のみが通過可能になっている。このため、スラリー中に他の流体(例えば、気体等)が混入することにより、気泡等が発生するのを防止することができる。その結果、各液滴の粒径にバラつきが生じることを防止、ひいては、各アパタイト粒子の粒径にバラつきが生じることを防止することができる。したがって、かかるアパタイト粒子で構成される粉末をカラムの充填材に適用することにより、分離能の更なる向上を図ることができる。
【0130】
さらに、前述したようにノズル4は、オリフィス421から噴出される、複数の液滴の全体形状が円錐筒状(ホローコーン状)をなすように構成されている。このように、複数の液滴を、円錐筒状をなすように噴出することにより、各液滴に含まれる、一次粒子と、破砕された凝集体と、破砕されなかった凝集体とを、より均一に分散した状態で、オリフィス421から噴出させることができる。その結果、得られるアパタイト粒子の粒径の均一化をより確実に図ることができる。
【0131】
液滴を乾燥する際の雰囲気の温度は、特に限定されないが、70〜200℃程度であるのが好ましく、70〜180℃程度であるのがより好ましく、90〜150℃程度であるのがさらに好ましい。このような温度で液滴の乾燥を行うことにより、液滴の乾燥効率が低下するのを防止しつつ、各液滴中に含まれる一次粒子および凝集体を確実に造粒させることができる。
【0132】
ノズル4のオリフィス(噴出口)421の直径は、特に限定されないが、0.4〜2mm程度であるのが好ましく、0.7〜1.3mm程度であるのがより好ましい。オリフィス421の直径をかかる範囲に設定し、ノズル4内に供給する圧力を調整することにより、ノズル4内のスラリーに十分な圧力を付与することができる。その結果、スラリー中において、凝集体をより確実かつ微細に破砕することができる。また、オリフィスの直径をかかる範囲内とすることにより、形成されるアパタイト粒子の粒径を、前述した範囲内に確実に設定することができる。
【0133】
高圧ポンプ31の作動により、ノズル4に供給されるスラリーに掛ける圧力は、特に限定されないが、1〜3MPa程度であるのが好ましく、1〜2MPa程度であるのがより好ましい。オリフィス(噴出口)421の直径を前記範囲に設定し、ノズル4内に供給する圧力をかかる範囲に調整することにより、凝集体をより適度な大きさ、さらにはより適度な割合で破砕することができるとともに、形成されるアパタイト粒子の大きさを制御することができる。
【0134】
なお、凝集体を破砕する程度(比率)や凝集体内部に物理的力を加えることは、上記のようなオリフィス421の大きさや、ノズル4内に供給する圧力を調整する他、例えば、内腔部461や開口部462の形状を変更することによっても、調整することができる。すなわち、凝集体を破砕する程度(比率)や凝集体内部に物理的力を加えることは、スラリーが通過する流路の形状や、スラリーの流れの状態を適宜設定することにより、調整することができる。
【0135】
このようにして得られたアパタイト粒子で構成される粉末は、比表面積が高い。具体的には、30m/g以上であるのが好ましく、40m/g以上であるのがより好ましい。かかる粉末は、十分に高い比表面積を有するため、カラムの充填材に適用することにより、優れた分離能が得られる。
【0136】
なお、得られた粉末は、吸着剤(カラムの充填材)への適用のみならず、例えば、人工骨や人工歯根等の原料として用いることもできる。
【0137】
以上、本発明の粉末の製造方法について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0138】
例えば、本発明の粉末の製造方法には、任意の目的の工程が1または2以上追加されてもよい。
【実施例】
【0139】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.アパタイト粒子で構成される粉末の製造
【0140】
(実施例1)
まず、水酸化カルシウムを純水に懸濁させ、その中へ、リン酸水溶液を滴下していき、かつ十分に撹拌した。これにより、10wt%でハイドロキシアパタイト一次粒子を含むスラリー500Lを得た。
【0141】
なお、得られた合成物がハイドロキシアパタイトであることを粉末X線回折法により確認した。
【0142】
一方、フッ化水素を、5wt%となるように純水で調整して、フッ化水素含有液を調製した。
【0143】
次に、スラリーを1kWの撹拌力で撹拌した状態で、フッ化水素含有液41.84Lを、速度5L/時間で滴下した。
【0144】
なお、フッ化水素含有液の滴下を終了した時点において、スラリーのpHは、3.0であった。また、フッ化水素の混合量は、フッ素量がハイドロキシアパタイトが有する水酸基の量に対して約1.05倍であった。
【0145】
引き続き、このスラリーを、温度30℃で24時間、1kWの撹拌力で撹拌を行った。これにより、ハイドロキシアパタイト一次粒子とフッ化水素とを反応させ、フッ素アパタイト一次粒子を含むスラリーを得た。
【0146】
なお、スラリー中の反応生成物がフッ素アパタイトであることを粉末X線回折法により確認した。また、粉末X線回折の結果、フッ素アパタイト一次粒子におけるフッ素原子の置換率は、約100%であった。
【0147】
また、粉末X線回折の結果、フッ素アパタイト乾燥粒子中、フッ素アパタイト以外の生成物は、確認できなかった。
【0148】
次に、フッ素アパタイト一次粒子を含むスラリーを、図1に示す乾燥装置1の貯留タンク6内に収納した。
【0149】
次に、高圧ポンプ31を作動させ、ノズル4の先端から、スラリーを液滴として噴出した。なお、オリフィス421の直径は、0.71mmであり、ポンプの圧力は、2MPaとした。
【0150】
そして、噴出した液滴は、加熱手段5(ヒータ51)により乾燥室2内を150℃に加熱して乾燥させた。その後、フッ素アパタイト粒子で構成された粉末をサイクロン部8から回収した。回収した粉末を中心粒径約40μmで分級した後、400℃×4時間、電気炉で焼成した。なお、得られたフッ素アパタイト粒子の平均粒径は、約40μmであった。
【0151】
(実施例2)
まず、水酸化カルシウムを純水に懸濁させ、その中へ、リン酸水溶液を滴下していき、かつ十分に撹拌した。これにより、10wt%でハイドロキシアパタイト一次粒子を含むスラリー500Lを得た。
【0152】
次に、ハイドロキシアパタイト一次粒子を含むスラリーを、図1に示す乾燥装置1の貯留タンク6内に収納した。
【0153】
次に、高圧ポンプ31を作動させ、ノズル4の先端から、スラリーを液滴として噴出した。なお、オリフィス421の直径は、0.71mmであり、ポンプの圧力は、2MPaとした。
【0154】
そして、噴出した液滴は、加熱手段5(ヒータ51)により乾燥室2内をヒータにより150℃に加熱して乾燥させた。これにより、ハイドロキシアパタイト粒子で構成された粉末を得た。なお、得られたハイドロキシアパタイト粒子は、中心粒径約40μmで分級した後、400℃×4時間、電気炉で焼成した。なお、得られたハイドロキシアパタイト粒子の平均粒径は、約40μmであった。
【0155】
(比較例1)
前記実施例1と同様にして調製したフッ素アパタイト一次粒子を含むスラリーを、塔径2mの噴霧乾燥機(「OC−20」、大川原化工機社製)を用いて、乾燥して造粒した。なお、乾燥条件は、熱風温度200℃、アトマイザー回転数37000rpmとした。
【0156】
これにより、フッ素アパタイト粒子で構成された粉末を得た。なお、得られたフッ素アパタイト粒子は、中心粒径約40μmで分級した後、400℃×4時間、電気炉で焼成した。なお、得られたフッ素アパタイト粒子の平均粒径は、約40μmであった。
【0157】
(比較例2)
前記実施例2と同様にして調製したハイドロキシアパタイト一次粒子を含むスラリーを、塔径2mの噴霧乾燥機(「OC−20」、大川原化工機社製)を用いて、乾燥して造粒した。なお、乾燥条件は、熱風温度200℃、アトマイザー回転数37000rpmとした。
【0158】
これにより、フッ素アパタイト粒子で構成された粉末を得た。なお、得られたフッ素アパタイト粒子は、中心粒径約40μmで分級した後、電気炉で400℃×4時間焼成した。また、得られたフッ素アパタイト粒子の平均粒径は、約40μmであった。
【0159】
2.評価
2−1.圧縮強度評価
【0160】
各実施例および各比較例で得られた粉末の圧縮強度を、微少圧縮試験機(「MCT−W200−J型番」、島津製作所社製)により測定した。
【0161】
その結果、実施例1の粉末の圧縮強度は、3.4MPaであり、比較例1の粉末の圧縮強度は、3.7MPaであったことから、フッ素アパタイト粒子の製造方法を変更しても、得られる粒子の強度に、ほとんど違いは認められなかった。
【0162】
また、実施例2の粉末の圧縮強度は、1.9MPaであり、比較例2の粉末の圧縮強度は、1.8MPaであったことから、ハイドロキシアパタイト粒子の製造方法を変更した場合においても、得られる粒子の強度に、ほとんど違いは認められなかった。
【0163】
2−2.比表面積評価
次に、各実施例および各比較例で得られた粉末の比表面積を、全自動比表面積計(「Macdel model−1201」、マウンテック社製)により測定した。
【0164】
その結果、実施例1の粉末の比表面積評価は、43m/g、比較例1の粉末の比表面積評価は、29m/gであり、比較例1よりも実施例1の粉末の方が大きい比表面積を有しており、その比表面積の上昇率は、38.9%であった。
【0165】
また、実施例2の粉末の比表面積評価は、59m/g、比較例2の粉末の比表面積評価は、54m/gであり、比較例2よりも実施例2の粉末の方が大きい比表面積を有しており、その比表面積の上昇率は、8.8%であった。
【0166】
以上のように、本発明の粉末の製造方法を用いて、アパタイト粒子を製造することにより、従来のアトマイザーを用いた製造方法と比較して、粒子の強度を維持したまま、比表面積が増大することが判った。
【0167】
また、このような比表面積の増大(上昇)は、本発明の粉末の製造方法をハイドロキシアパタイト粒子の製造に適用した場合よりも、フッ素アパタイト粒子の製造に適用した場合に、より顕著に認められることが判った。すなわち、本発明の粉末の製造方法は、フッ素アパタイト粒子の製造に適用するのがより好ましいことが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0168】
【図1】乾燥装置の構成を示す断面図である。
【図2】図1に示す乾燥装置が備えるノズルの構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0169】
1 乾燥装置
2 乾燥室
21 貫通孔
3 送液部
31 高圧ポンプ
32 送液ライン
322 ネジ部
323 接続口
4 ノズル
41 キャップ
411 貫通孔
412 ネジ部
42 口部
421 オリフィス
43 フィルタ
44 コアチップ
441 溝
45 コアチップホルダ
451 フランジ
452 嵌合部
46 濾過器
461 内腔部
462 開口部
47 ノズル本体
471 内腔部
472 ネジ部
473 ネジ部
474 突出部
5 加熱手段
51 ヒータ
6 貯留タンク
7 送気部
71 送風機
72 供給ライン
73 フィルタ
8 サイクロン部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状材料を貯留する貯留タンクと、高温に加熱された乾燥室と、前記液状材料を前記乾燥室内に噴出させるノズルと、前記貯留タンクから高圧ポンプを用いて、配管を介して前記液状材料を前記ノズルに送液する送液部とを備える乾燥装置を用いて、複数個のアパタイト粒子で構成される粉末を製造する方法であって、
前記ノズルは、前記液状材料を噴出する噴出口と、該噴出口と前記配管とを連通する流路とを備えており、
前記アパタイトの一次粒子と、該一次粒子が凝集してなる凝集体とを、それぞれ、複数個含むスラリーを調製する工程と、
前記スラリーを前記貯留タンクに供給する工程と、
前記貯留タンクから前記ノズルに前記高圧ポンプを用いて前記スラリーを前記ノズルに送液する際に、前記スラリーに圧力を加えることにより、前記スラリーを前記ノズルの前記流路内に押し出し、前記圧力の作用により複数個の前記凝集体の少なくとも一部を破砕、または前記凝集体に物理的な力を加え凝集体内部の空間に変化を与えるとともに、前記スラリーを、前記流路内を移送して、前記噴出口から複数の液滴として前記乾燥室内に噴出させる工程と、
前記乾燥室内で、前記各液滴を乾燥させることにより、前記一次粒子と、破砕された前記各凝集体と、破砕されなかった前記各凝集体とが造粒して、前記アパタイト粒子で構成される前記粉末を得る工程とを有することを特徴とする粉末の製造方法。
【請求項2】
前記凝集体の少なくとも一部を破砕することにより、前記スラリー中に含まれる、前記各凝集体の粒径の均一化が図られる請求項1に記載の粉末の製造方法。
【請求項3】
前記スラリー中の前記一次粒子および前記凝集体の総含有量は、1〜20wt%である請求項1または2に記載の粉末の製造方法。
【請求項4】
前記ノズルは、前記流路内に1種類の流体が通過し得るよう構成されている請求項1ないし3のいずれかに記載の粉末の製造方法。
【請求項5】
前記噴出口の直径は、0.4〜2mmである請求項1ないし4のいずれかに記載の粉末の製造方法。
【請求項6】
前記ノズルは、前記噴出口から前記スラリーを円錐筒状に噴出し得るよう構成されている請求項1ないし5のいずれかに記載の粉末の製造方法。
【請求項7】
前記ノズルは、前記流路の途中に、前記凝集体の破砕を補助する補助手段を有する請求項1ないし6のいずれかに記載の粉末の製造方法。
【請求項8】
前記補助手段は、複数の貫通孔を備える網材を有し、前記貫通孔を前記凝集体が通過する際に破砕される請求項7に記載の粉末の製造方法。
【請求項9】
前記圧力は、1〜3MPaである請求項1ないし8のいずれかに記載の粉末の製造方法。
【請求項10】
前記各液滴を乾燥する際の雰囲気の温度は、70〜200℃である請求項1ないし9のいずれかに記載の粉末の製造方法。
【請求項11】
前記アパタイトの一次粒子は、フッ素アパタイトの一次粒子である請求項1ないし10のいずれかに記載の粉末の製造方法。
【請求項12】
前記フッ素アパタイトの一次粒子は、ハイドロキシアパタイトの一次粒子を含むスラリーを調製し、前記スラリーとフッ化水素を含有するフッ化水素含有液とを混合して、前記スラリーのpHを2.5〜5に調整し、この状態で、前記スラリー中において前記ハイドロキシアパタイトの一次粒子と前記フッ化水素とを反応させることにより、前記ハイドロキシアパタイトが有する水酸基の少なくとも一部を、フッ素原子で置換して得られる請求項11に記載の粉末の製造方法。
【請求項13】
前記粉末の比表面積が30m/g以上である前記粉末が製造される請求項1ないし12のいずれかに記載の粉末の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−35465(P2009−35465A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−203554(P2007−203554)
【出願日】平成19年8月3日(2007.8.3)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)