説明

粉末化粧料

【課題】精油を含みながらも変臭がなく、安定性に優れた粉末化粧料を提供する。
【解決手段】精油を1.0〜5.0質量%と、セルロース粉末を50〜99質量%とを配合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は精油を配合した粉末化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
精油(エッセンシャルオイル)とは、ハーブなどの植物の有効成分を抽出した揮発性のオイルで、植物の葉や、花、果皮、樹皮、樹脂などから得られるもので、植物により、異なる芳香物質や有効成分を含んでいる。近年、消費者の天然物志向が高まっているが、この天然物志向のニーズに対応して、芳香物質についても天然物である精油を用いる試みが種々なされている(例えば特許文献1,2)。
しかしながら、この精油をタルクやマイカなどの無機粉末が多く配合量されているルースパウダーなどに配合しようとすると、無機粉末表面の活性点により精油が変性して変臭を生じるという問題点があった。かかる問題点を解消するために、粉末表面を有機物で被覆し疎水化処理して活性点をなくしたものを用いるという方法がある。しかしこの場合には人工物で表面処理することとなり、天然物志向のニーズにこたえるには不十分である。
このため、精油をはじめとしてすべての成分に天然物を用いても、変臭などの安定性の問題の生じない粉末化粧料を開発することが求められていた。
【0003】
【特許文献1】特開2005−187431号公報
【特許文献2】特開2005−187432号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明者らは種々の粉末を精油と共に配合して変臭などの安定性について鋭意検討した結果、特定の粉末を用いれば変臭がなく、安定性に優れた粉末化粧料が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、精油を1.0〜5.0質量%と、セルロース粉末を50〜99質量%とを含むことを特徴とする粉末化粧料である。
【0006】
さらに本発明によれば、精油とセルロース粉末とを混合・粉砕した後、必要に応じてその他の粉末を添加し、さらに混合・粉砕する工程を備えたことを特徴とする粉末化粧料の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、精油を含有させても変臭がなく、均一に分散された安定な粉末化粧料とすることができる。
また本発明の粉末化粧料の製造方法によれば、精油をセルロース粉末中に均一に分散させることができ、変臭がなく安定な粉末化粧料を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に、本発明の最良の実施の形態について説明する。
本発明の粉末化粧料は、粉末成分としてセルロース粉末を用いることで、精油を配合した時の欠点であった変臭を防ぐことができる。セルロース粉末の中でも特に麻由来のセルロース粉末が好ましい。
麻セルロース粉末としては、例えばトスコ社から市販されている水に不溶のトスコ麻セルロースパウダーが挙げられる。
【0009】
本発明の粉末化粧料におけるセルロース粉末の配合量は50〜99質量%であり、好ましくは、60〜97質量%である。セルロース粉末が少なすぎると変臭を防ぐことが困難になる。セルロース粉末が多すぎることによる欠点は特にないが、コスト的に高くつくことになり、また結果的に精油量が少なくなるので不利である。
【0010】
本発明において用いられる精油は特に限定されるものではなく、何でも用いることができる。例えば、セイジオイル、タイムオイル、アルモアーゼオイル、エルダーオイル、サイプレスオイル、プチグレインオイル、ミルトルオイル、ユーカリオイル、ローレルオイル、グレープフルーツオイル、ローズマリーオイル、クローブバッドオイル、カモミールオイル、ローズオイル、ゼラニウムオイル、ネロリオイル、パインニードルオイル、ヒソップオイル、フェンネルオイル、クラリセージオイルまたはガルバナムオイルが挙げられる。上記精油のうちの一部について、詳細を次に述べる。
【0011】
<アルモアーゼオイル>
キク科ヨモギ属のアルモアーゼ(Artemisia vulgaris L. var. indica Maxim)の葉を水蒸気蒸留することにより得られる精油である。
<エルダーオイル>
スイカズラ科のエルダー(Sambucus nigra)を水蒸気蒸留することにより得られる精油である。
【0012】
<サイプレスオイル>
サイプレス(Cupressus sempervirene)の枝葉を水蒸気蒸留することにより得られる精油である。
<プチグレインオイル>
柑橘類の葉、小枝、時には開花時の花も含めて水蒸気蒸留することにより得られる精油の総称である。
【0013】
<ミルトルオイル>
ミルトル(Myrtus communis)の葉を水蒸気蒸留することにより得られる精油である。
<ユーカリオイル>
フトモモ科に属する常緑喬木ユーカリの葉や小枝などを水蒸気蒸留することにより得られる精油である。
【0014】
<ローレルオイル>
クスノキ科(Lauraceae)のゲッケイジュ属(Laurus)に属する常緑喬木ローレル(Laurus nobilis L.)の葉を乾燥後、水蒸気蒸留することにより得られる精油である。
<グレープフルーツオイル>
ミカン科の常緑樹グレープフルーツ(Citrus paradis Macf.)の果汁製造時にオイルを得る。
【0015】
<ローズマリーオイル>
シソ科の常緑低木ローズマリー(Rosmarinus officinalis)の葉と花を水蒸気蒸留することにより得られる精油である。
<クローブバッドオイル>
フトモモ科クローブ(Eugenia caryophyllata)の開花前の花蕾を乾燥し、水蒸気蒸留することにより得られる精油である。
【0016】
<カモミールオイル>
カモミール(Ornemis mutticaulls)を水蒸気蒸留して得られる精油である。
<ローズオイル>
ダマスク・ローズ(Rosa damascena Mill.)、キャベジ・ローズ(Rosa centifolia L.)、ローザ・アルバ(Rosa alva L.)、ローザ・ガリカ( Rosa gallica L.)などのバラ科の花を水蒸気蒸留することにより得られる精油である。
【0017】
<ゼラニウムオイル>
フウロウソウ科(Geraniaceae)のテンジクアオイPelargonium属の植物ニオイテンジクアオイP.graveolensの枝葉を開花前に収穫し、水蒸気蒸留することにより得られる精油である。
<ネロリオイル>
ミカン科のオレンジフラワー(Citrus aurantium subs pamera)の花を水蒸気蒸留することにより得られる精油である。
【0018】
<パインニードルオイル>
マツ科のオウショウアカマツ(Pinus sylvestris)などのマツやモミ属(Abies)のトドマツなどの針葉、小枝を水蒸気蒸留することにより得られる精油である。
<ヒソップオイル>
シソ科ヤナギハッカ属のヒソップ(Hyssopus officinalis L.)の葉と花穂の部分を水蒸気蒸留することにより得られる精油である。
【0019】
<フェンネルオイル>
セリ科の茴香または小茴香(Foeniculum vulgare Miller)の果実を水蒸気蒸留することにより得られる精油である。
<クラリセージオイル>
クラリセージ(Salvia sclarea L.)の開花期に、花穂または全草を水蒸気蒸留することにより得られる精油である。
【0020】
<ガルバナムオイル>
セリ科のFerula galbanifuaおよび近縁植物の滲出物を精製することにより得られる精油である。
(以上、日本香料協会編「香りの百科」、産業図書編「香料と調香の基礎知識」、朝倉書店編「最新 香料の事典」等参照)
【0021】
本発明で用いられる精油として好ましいものとしては、例えば次の表1〜表3に挙げる商品名のものが例示される。
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】

【0024】
【表3】

【0025】
本発明の粉末化粧料における精油の配合量は1.0〜5.0質量%である。精油の配合量が多すぎると変臭の発生を防止するのが困難となり、少なすぎると芳香が弱すぎて香りを楽しむことが困難となる。
【0026】
本発明においては、上記必須成分に加えて、さらに油分を含ませることで、しっとり感を付与することができ、使用感が向上する。
本発明で用いられる油分としては、25℃で液状のもので、例えば、アボガド油,ツバキ油,タートル油,マカデミアナッツ油,トウモロコシ油,ミンク油,オリーブ油,ナタネ油,卵黄油,ゴマ油,パーシック油,小麦胚芽油,サザンカ油,ヒマシ油,アマニ油,サフラワー油,綿実油,エノ油,大豆油,落花生油,茶実油,カヤ油,コメヌカ油,シナギリ油,日本キリ油,ホホバ油,胚芽油,トリグリセリン,トリオクタン酸グリセリン,トリイソパルミチン酸グリセリン等の液状油脂、流動パラフィン,スクワレン,スクワラン,プリスタン等の炭化水素油、オレイン酸,トール油,イソステアリン酸等の高級アルコール脂肪酸、ラウリルアルコール,オレイルアルコール,イソステアリルアルコール,オクチルドデカノール等の高級アルコール、ジメチルポリシロキサン,メチルフェニルポリシロキサン,メチルハイドロジェンポリシロキサン,デカメチルポリシロキサン等のシリコーン、ミリスチン酸イソプロピル、ラウリン酸ヘキシル、オレイン酸オレイル、オレイン酸デシル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ジメチルオクタン酸ヘキシルデシル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル等が挙げられ、好ましくはジメチルポリシロキサンである。
【0027】
粉末化粧料中の油分の配合量は、5.0〜15質量%であることが好ましく、より好ましくは5〜10質量%である。油分の配合量が15質量%を超えると使用性(特にのび)が悪くなるので好ましくない。
【0028】
本発明においては、上記必須成分以外に、必要に応じて、水、上記以外の粉末、界面活性剤、低級アルコール、多価アルコール、保湿剤、防腐剤、高分子、酸化防止剤、紫外線防御剤、香料、その他の各種薬剤等を本発明の所期の効果を損なわない質的、量的範囲で含有させることが可能である。
【0029】
上記の任意成分のうち、上記以外の粉末としては、タルク、カオリン、雲母、絹雲母(セリサイト)、白雲母、黒雲母、金雲母、合成雲母、パーミキュライト、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸バリウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、タングステン酸金属塩、マグネシウム、シリカ、ゼオライト、硫酸バリウム、焼成硫酸カルシウム、焼セッコウ、リン酸カルシウム、フッ素アパタイト、ヒドロキシアパタイト、セラミックパウダー等の無機粉末;ポリアミド樹脂粉末、ポリエチレン粉末、ポリメタクリル酸メチル粉末、ポリスチレン粉末、スチレン−アクリル酸共重合体樹脂粉末、ベンゾグアナミン樹脂粉末、ポリ四フッ化エチレン粉末、セルロース粉末等の有機粉末;二酸化チタン、酸化亜鉛等の無機白色系顔料;酸化鉄(ベンガラ)、チタン酸鉄等の無機赤色系顔料;γ−酸化鉄等の無機褐色系顔料;黄酸化鉄、黄土等の無機黄色系顔料;黒酸化鉄、カーボン、低次酸化チタン等の無機黒色系顔料;マンゴバイオレット、コバルトバイオレット等の無機紫色系顔料;酸化クロム、水酸化クロム、チタン酸コバルト等の無機緑色系顔料;群青、紺青等の無機青色系顔料;酸化チタン被覆マイカ、酸化チタン被覆オキシ塩化ビスマス、酸化チタン被覆タルク、着色酸化チタン被覆マイカ、オキシ塩化ビスマス、魚鱗箔等のパール顔料;アルミニウムパウダー、カッパーパウダー等の金属粉末顔料;等が挙げられる。
【0030】
本発明の粉末化粧料は、次の方法で製造することができる。
即ち、精油とセルロース粉末とを混合・粉砕した後、必要に応じてその他の粉末を添加し、さらに混合・粉砕し、容器に充填することにより製造することができる。
【0031】
本発明による粉末化粧料の製品形態としては、上述した必須の要件を満足する限り、粉末化粧料の範疇のあらゆる製品形態をとることが可能である。具体的には、本発明の粉末化粧料は、例えば、化粧下地、ファンデーション、粉白粉(ルースパウダー)、ボディパウダー、美白パウダー、エモリエントパウダー、フレグランスパウダー、頬紅、口紅、マスカラ、アイシャドー、アイライナー等の形態を採り得る。
【実施例】
【0032】
本発明について以下に実施例を挙げてさらに詳述するが、本発明はこれによりなんら限定されるものではない。配合量は特記しない限り質量%で示す。
【0033】
実施例1〜14、比較例1〜8
次の表4,表5に示す処方によりルースパウダーを後記する方法で調製し、変臭を評価した。評価方法は、後記の通りである。その結果を併せて表4,表5に示す。
【0034】
1.製造方法
セルロース粉末に精油およびその他の油分を分散させ、粉砕する。次いでセルロース粉末以外の粉末を添加し、さらに粉砕してルースパウダーを調製する。
【0035】
2.変臭の評価方法
得られたルースパウダーを温度37℃に1ヶ月間静置した。静置後、変臭の程度を下記基準で評価した。
○:変臭がない。
△:やや変臭するが、許容できる。
×:変臭が認められる。
【0036】
【表4】

【0037】
【表5】

【0038】
※1:トスコ社製麻セルロースパウダー
【0039】
実施例15、比較例9
次の表6に記載した処方でルースパウダーを調製し、ホソカワミクロン社製のパウダーテスターPT−Nにてメッシュ710の篩を用いて振動させたときに粉末が篩を通過するか否かを次の基準で測定した。粉末が篩を通過しない場合は凝集が起こっていることを示す。また併せて変臭についても前記の方法で評価した。
(評価基準)
○:粉末が篩を通過する。
×:粉末が篩を通過しない。(凝集する。)
【0040】
【表6】

【0041】
実施例16(固形粉末化粧料)
麻セルロースパウダー 60 質量%
タルク 30
植物性スクワラン 7
タイムオイル 3
(製法)
麻セルロースパウダーとタイムオイルおよび植物性スクワランをあらかじめ粉砕機にて混合粉砕し、そこへタルクを添加し、さらに粉砕する。
得られた固形粉末化粧料は、上記と同様の変臭の評価では○であり、しかもしっとりとした使用感であった。
【0042】
実施例17(ルースパウダー(しっとりタイプ))
麻セルロースパウダー 70 質量%
タルク 17
植物性スクワラン 10
セイジオイル 3
(製法)
麻セルロースパウダーとセイジオイルおよび植物性スクワランをあらかじめ粉砕機にて混合粉砕し、そこへタルクを添加し、さらに粉砕する。
得られたルースパウダーは、上記と同様の変臭の評価では○であり、しかもしっとりとした使用感であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
精油を1.0〜5.0質量%と、セルロース粉末を50〜99質量%とを含むことを特徴とする粉末化粧料。
【請求項2】
セルロース粉末が麻由来のものであることを特徴とする請求項1に記載の粉末化粧料。
【請求項3】
さらに油分を5.0〜15質量%を含むことを特徴とする請求項1に記載の粉末化粧料。
【請求項4】
精油とセルロース粉末とを混合・粉砕した後、必要に応じてその他の粉末を添加し、さらに混合・粉砕する工程を備えたことを特徴とする粉末化粧料の製造方法。

【公開番号】特開2007−314454(P2007−314454A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−145044(P2006−145044)
【出願日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】