説明

粉末圧延装置及び粉末圧延方法

【課題】圧延ロールの外周面からの粉末の脱落や崩壊、あるいは粉体粒子の滑落などを確実に防止することができ、精度よく好適にクラッド材を形成可能な粉末圧延装置及び粉末圧延方法を提供する。
【解決手段】素材3の表面3aに粉末4を圧着してクラッド材6を製造するための粉末圧延装置Bにおいて、水平方向に平行に延びる軸線O1、O2回りに回転可能に設けられ、互いの外周面1a、2aが素材3の表面3aの一面3bと他面3cとをそれぞれ押圧するように素材3を挟んで対向配置された一対の圧延ロール1、2を備え、一対の圧延ロール1、2は、外周面1aに供給した粉末4を回転とともに搬送して素材3に粉末4を圧着させる一方の圧延ロール1に対し、他方の圧延ロール2が上方に設けられるとともに、外周面1a、2aが素材3を押圧するキス点Kにおける接線S1と水平線S2との交角θが、粉末固有のスパチュラ角θ1以下となるように配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、金属粉末を一対の圧延ロール間で金属板などの素材の表面に圧着し、異なる金属を一体に多層成形してなるクラッド材を製造するための粉末圧延装置及び粉末圧延方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば金属板などの素材の片面あるいは両面に金属粉末を圧着成形してシート状のクラッド材を製造する粉末圧延装置が知られている。この種の粉末圧延装置Aは、例えば図4に示すように、図示せぬ電動機(回転駆動手段)の駆動によってそれぞれ軸線O1、O2回りに回転可能に設けられた一対の圧延ロール1、2を備えて構成されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、一対の圧延ロール1、2は、水平方向に延びる互いの軸線O1、O2を平行に配し、且つ水平方向に並べて設けられており、互いの外周面1a、2aが素材3の表面3aの一面3bと他面3cをそれぞれ押圧するように素材3を挟んで対向配置されている。そして、これら一対の圧延ロール1、2は、それぞれの軸線O1、O2回りの回転とともに、素材3を順次上方から下方に送り出し、且つ外周面1a、2aに供給した粉末4を搬送して、外周面1a、2aが素材3を押圧するキス点Kで粉末4を素材3の表面3aに圧着させる。
【0004】
また、予備圧下ロール(規制部材)5が、キス点Kに対し圧延ロール1、2の回転方向T1、T2上流側の外周面1a、2aとの間に所定の隙間をあけて、軸線O3回りに回転可能に設けられている。そして、圧延ロール1、2の外周面1a、2aに供給した粉末4が、圧延ロール1、2と予備圧下ロール5の隙間を通過するとともに、粉末4の量が規制されその厚さや表面性状が整えられ(粉体膜4aが形成され)、このように調整した所定量の粉末4がキス点Kに向けて搬送されて素材3の表面3aに圧着される。
【0005】
また、このように、素材3の表面3aに粉末4を圧着して一対の圧延ロール1、2から下方に送り出されたクラッド材6は、例えば加熱炉などに送られて粉末4の焼結あるいは溶融処理が施され、これにより、異なる金属が一体に多層成形してなるクラッド材6が製造される。
【特許文献1】特開2005−139536号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の粉末圧延装置Aにおいては、一対の圧延ロール1、2が互いの軸線O1、O2を平行に配し、且つ水平方向に並べて設けられているため、すなわち、図4に示すように、互いの軸線O1、O2を結ぶ直線S3が水平線S2と平行し、素材3を押圧するキス点Kにおける圧延ロール1、2の接線S1と水平線S2とが直交するように(交角θが90°となるように)、圧延ロール1、2が設けられているため、圧延ロール1、2の外周面1a、2a上に形成した粉体膜4aに作用する遠心力や重力、さらには個々の粉末粒子間に働く分子間力などの均衡が崩れやすく、重力の影響が支配的となって、キス点Kへの搬送途中の粉体膜4aが圧延ロール1、2の外周面1a、2aから脱落したり、崩壊したり、粉体膜4aの表面の粉体粒子が滑落するという問題があった。
【0007】
そして、このような粉体膜4aがキス点Kで素材3に圧着されることで、クラッド材6の粉末層の厚さにばらつきが生じ、精度よくクラッド材6を形成することができなくなるという問題があった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑み、圧延ロールの外周面からの粉末の脱落や崩壊、あるいは粉体粒子の滑落などを確実に防止することができ、精度よく好適にクラッド材を形成可能な粉末圧延装置及び粉末圧延方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0010】
本発明の粉末圧延装置は、素材の表面に粉末を圧着してクラッド材を製造するための粉末圧延装置において、水平方向に平行に延びるそれぞれの軸線回りに回転可能に設けられ、互いの外周面が前記素材の表面の一面と他面とをそれぞれ押圧するように前記素材を挟んで対向配置された一対の圧延ロールを備え、該一対の圧延ロールは、前記外周面に供給した前記粉末を回転とともに搬送して前記素材に前記粉末を圧着させる一方の圧延ロールに対し、他方の圧延ロールが上方に設けられるとともに、前記外周面が前記素材を押圧するキス点における接線と水平線との交角が、前記粉末固有のスパチュラ角以下となるように配置されていることを特徴とする。
【0011】
この発明においては、キス点における接線と水平線との交角が粉末固有のスパチュラ角以下となるように、一対の圧延ロールが配置されていることによって、圧延ロールの外周面上の粉末(粉体膜)を確実に安定した状態で維持することができ、キス点への搬送途中で粉末に作用する遠心力や重力、さらには個々の粉末粒子間に働く分子間力などの均衡を維持して搬送することができる。これにより、粉末が圧延ロールの外周面から脱落したり、崩壊したり、粉末粒子が滑落することを確実に防止できる。
【0012】
また、本発明の粉末圧延装置においては、前記一方の圧延ロールの外周面に供給される前記粉末の量を規制するように、規制部材が前記一方の圧延ロールの外周面との間に所定の隙間をあけて設けられ、前記規制部材は、前記一方の圧延ロールの軸線を通る水平線を基準に、前記キス点よりも前記一方の圧延ロールの回転方向上流側に向けた前記軸線中心の90°−スパチュラ角〜90°+スパチュラ角の角度範囲に配置されていることが望ましい。
【0013】
この発明においては、規制部材が上記角度範囲に配置されていることによって、この規制部材と一方の圧延ロールとの隙間を通過して、その粉末量、厚さ、表面性状が整えられた粉体膜に、キス点への搬送途中で、脱落、崩壊、あるいは粉末粒子の滑落などが生じることをより確実に防止できる。
【0014】
さらに、本発明の粉末圧延装置においては、前記一方の圧延ロールと前記他方の圧延ロールとに前記軸線回りに回転させる駆動力を供給する回転駆動手段がそれぞれ繋げられるとともに、前記各回転駆動手段の駆動を制御する制御手段が設けられており、前記各回転駆動手段は、前記粉末を介して前記素材の一面を押圧することにより前記一方の圧延ロールに生じる摩擦力と、直接前記素材に接触して前記素材の他面を押圧することにより前記他方の圧延ロールに生じる摩擦力との差異を相殺するように駆動が制御されることがより望ましい。
【0015】
この発明においては、一対の圧延ロールのそれぞれに繋がる各回転駆動手段の駆動を制御手段によってそれぞれ個別に制御することで、粉末を介して素材の一面を押圧することにより一方の圧延ロールに生じる摩擦力と、直接素材に接触して素材の他面を押圧することにより他方の圧延ロールに生じる摩擦力との差異を相殺するようにそれぞれの圧延ロールを駆動することができる。これにより、一方の圧延ロールに生じる摩擦力と他方の圧延ロールに生じる摩擦力との差異により素材と圧延ロールの間にすべりが生じるようなことはなく、一対の圧延ロールの回転によって、好適に素材を送り出すように搬送することができるとともに粉末を素材の表面に好適に圧着させることができる。
【0016】
本発明の粉末圧延方法は、素材の表面に粉末を圧着してクラッド材を製造する粉末圧延方法において、水平方向に平行に延びるそれぞれの軸線回りに回転可能に設けられ、互いの外周面が前記素材の表面の一面と他面とをそれぞれ押圧するように前記素材を挟んで対向配置される一対の圧延ロールを、前記外周面上に供給した前記粉末を回転とともに搬送して前記素材に前記粉末を圧着させる一方の圧延ロールに対し、他方の圧延ロールを上方に配して設けるとともに、予め前記粉末固有のスパチュラ角を計測し、前記外周面が前記素材を押圧するキス点における接線と水平線との交角が前記粉末固有のスパチュラ角以下となるように前記一対の圧延ロールを配置することを特徴とする。
【0017】
この発明においては、予め計測した粉末固有のスパチュラ角に基づき、キス点における接線と水平線との交角がこの粉末固有のスパチュラ角以下となるように、一対の圧延ロールを配置することによって、圧延ロールの外周面上の粉末(粉体膜)を確実に安定した状態で維持してキス点に粉末を搬送することができる。これにより、キス点への搬送途中で粉末が圧延ロールの外周面から脱落したり、崩壊したり、粉末粒子が滑落することを確実に防止して、素材に粉末を圧着することができる。
【0018】
また、本発明の粉末圧延方法においては、前記一方の圧延ロールの外周面との間に所定の隙間をあけて規制部材が設けられ、前記一方の圧延ロールの外周面に供給した前記粉末が、前記規制部材と前記一方の圧延ロールの外周面との間の所定の隙間を通過する際に、前記一方の圧延ロールの外周面上に供給された前記粉末の量が規制されながら前記キス点に向けて搬送され、前記一方の圧延ロールの軸線を通る水平線を基準に、前記キス点よりも前記一方の圧延ロールの回転方向上流側に向けた前記軸線中心の90°−スパチュラ角〜90°+スパチュラ角の角度範囲に、前記規制部材を配置することが望ましい。
【0019】
この発明においては、予め計測した粉末固有のスパチュラ角に基づき、規制部材を上記角度範囲に配置することによって、この規制部材と一方の圧延ロールとの隙間を通過して、その粉末量、厚さ、表面性状が整えられた粉体膜に、キス点への搬送途中で、脱落、崩壊、あるいは粉末粒子の滑落などが生じることをより確実に防止できる。
【0020】
さらに、本発明の粉末圧延方法においては、前記一方の圧延ロールと前記他方の圧延ロールとに前記軸線回りに回転させる駆動力を供給する回転駆動手段がそれぞれ繋げられ、前記粉末を介して前記素材の一面を押圧することにより前記一方の圧延ロールに生じる摩擦力と、直接前記素材に接触して前記素材の他面を押圧することにより前記他方の圧延ロールに生じる摩擦力との差異を相殺するように各回転駆動手段を駆動させることがより望ましい。
【0021】
この発明においては、一対の圧延ロールのそれぞれに繋がる各回転駆動手段の駆動を制御手段によってそれぞれ個別に制御することで、粉末を介して素材の一面を押圧することにより一方の圧延ロールに生じる摩擦力と、直接素材に接触して素材の他面を押圧することにより他方の圧延ロールに生じる摩擦力との差異を相殺するようにそれぞれの圧延ロールを駆動することができる。これにより、一方の圧延ロールに生じる摩擦力と他方の圧延ロールに生じる摩擦力との差異により素材と圧延ロールの間にすべりが生じるようなことはなく、一対の圧延ロールの回転によって、好適に素材を送り出すように搬送することができるとともに粉末を素材の表面に好適に圧着させることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の粉末圧延装置及び粉末圧延方法によれば、粉末が圧延ロールの外周面からの脱落や崩壊、あるいは粉体粒子の滑落などを確実に防止して、所定量の粉末を安定してキス点まで搬送することができるため、このように好適に搬送した粉末を素材に圧着することで、クラッド材を高精度で製造することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図1及び図2を参照し、本発明の一実施形態に係る粉末圧延装置及び粉末圧延方法について説明する。本実施形態は、例えば帯状でシート状あるいは板状に形成された金属製の素材の表面に金属製の粉末を圧着して、異なる金属を多層形成してなるクラッド材を製造するための粉末圧延装置及び粉末圧延方法に関するものである。
【0024】
本実施形態の粉末圧延装置Bは、図1に示すように、水平方向に平行に延びるそれぞれの軸線O1、O2回りに回転可能に設けられ、互いの外周面1a、2aが素材3の表面3aの一面3bと他面3cをそれぞれ押圧するように素材3を挟んで対向配置された断面円形の一対の圧延ロール1、2と、一方の圧延ロール1に対し、この一方の圧延ロール1の外周面1aとの間に所定の隙間をあけて対向配置され、一方の圧延ロール1の軸線O1と平行する軸線O3回りに回転可能、且つ一方の圧延ロール1の外周面1aと所定の隙間をあけるように設けられた予備圧下ロール(規制部材)5とを備えて構成されている。
【0025】
本実施形態において、一対の圧延ロール1、2は、外周面1aに供給した粉末4を回転とともに搬送して素材3の一面3bにこの粉末4を圧着させる一方の圧延ロール1に対し、外周面2aが直接素材3の他面3cに接触する他方の圧延ロール2が上方に設けられ、互いの軸線O1、O2を結ぶ直線S3が水平線S2に斜めに交差するように設けられている。また、このとき、一対の圧延ロール1、2は、外周面1a、2aが素材3を押圧するキス点Kにおける接線S1と水平線S2との交角θが、粉末固有のスパチュラ角θ1以下となるように配置されている。ここで、スパチュラ角θ1とは、粉体特性(粉末特性)を表す指標であり、金属製のへら(スパチュラ)を水平にし、その上に粉体(粉末)を堆積させたときのプリズム状の側面の傾斜角を示し、このスパチュラ角θ1よりも小さな傾斜角で堆積した粉体は、安定した状態で維持されることになる。
【0026】
また、一対の圧延ロール1、2には、それぞれ、軸線O1、O2回りに回転させる駆動力を供給するための例えば電動モータなどの回転駆動手段10、11が繋げられている。さらに、これら回転駆動手段10、11には、制御手段12が繋げられ、この制御手段12によって各回転駆動手段10、11がそれぞれ個別に駆動制御されている。
【0027】
一方、予備圧下ロール5は、キス点Kに対し一方の圧延ロール1の回転方向T1上流側の外周面1aと互いの外周面5aとの間に所定の隙間をあけて対向配置されている。そして、このように設けた予備圧下ロール5は、一方の圧延ロール1の外周面1aに例えば図示せぬホッパなどから供給した粉末4が一方の圧延ロール1の回転によって前記隙間を通過するとともに、キス点Kに向けて搬送する粉末4の量を規制し、且つ外周面1aに所定の密度となるように押圧し、その厚さや密度、表面性状を整えた粉体膜4aを形成する。
【0028】
また、本実施形態において、この予備圧下ロール5は、図2に示すように、一方の圧延ロール1の軸線O1を通る水平線S2’を基準に、キス点Kよりも一方の圧延ロール1の回転方向T1上流側に向けた軸線O1中心の90°−θ1(スパチュラ角)〜90°+θ1(スパチュラ角)の角度範囲θ2(90°−θ1≦θ2≦90°+θ1)に配置されている。なお、予備圧下ロール5は、素材3に干渉することがないように前記角度範囲θ2に配置されている。
【0029】
ついで、上記の構成からなる粉末圧延装置Bを用いて素材3の表面3a(一面3b)に粉末4を圧着する方法(粉末圧延方法)について説明するとともにクラッド材6を製造する方法について説明し、本実施形態の粉末圧延装置B及び粉末圧延方法の作用及び効果について説明する。
【0030】
本実施形態の粉末圧延装置Bを用いてクラッド材6を製造する際には、はじめに、使用する粉末4のスパチュラ角θ1を計測する。そして、このスパチュラ角θ1に基づいて、一対の圧延ロール1、2を、一方の圧延ロール1と他方の圧延ロール2の外周面1a、2aが素材3を押圧するキス点Kにおける接線S1と水平線S2との交角θが、粉末固有のスパチュラ角θ1以下となるように配置(位置決め)する。また、このスパチュラ角θ1に基づいて、予備圧下ロール5を、一方の圧延ロール1の軸線O1を通る水平線S2’を基準に、前記90°−θ1(スパチュラ角)〜90°+θ1(スパチュラ角)の角度範囲θ2に配置(位置決め)する。
【0031】
ついで、予備圧下ロール5に対し、一方の圧延ロール1の回転方向T1上流側の外周面1a上に粉末4を供給する。そして、制御手段12からの動作指令によって各回転駆動手段10、11を駆動させ、一方の圧延ロール1と他方の圧延ロール2とを互いに逆方向T1、T2に回転させる。これにより、一方の圧延ロール1と他方の圧延ロール2とによりキス点Kで押圧された素材3が上方側から下方側に搬送される。
【0032】
また、これと同時に、一方の圧延ロール1の外周面1a上に供給した粉末4が、一方の圧延ロール1の回転によって一方の圧延ロール1と予備圧下ロール5の隙間を通過し、これとともに、一方の圧延ロール1の外周面1a上に粉体膜4aが形成され、キス点Kに向けて搬送されてゆく。
【0033】
このとき、本実施形態においては、一対の圧延ロール1、2が、キス点Kにおける接線S1と水平線S2との交角θが粉末固有のスパチュラ角θ1以下となるように配置されているため、予備圧下ロール5を通過して形成した粉体膜4aは、非常に安定した状態で一方の圧延ロール1の外周面1a上に載せられ、このように安定した状態を維持してキス点Kまで搬送されることになる。よって、キス点Kへの搬送途中で、すなわちキス点Kに到達する前に、粉体膜4aが重力や遠心力、その他の装置から受ける振動などの機械的な外力等によって一方の圧延ロール1の外周面1aから脱落したり、崩壊したり、あるいは粉体膜4aの表面から粉末粒子が滑落するようなことがなく、予備圧下ロール5で調整した密度や厚さ、表面性状を確実に維持した状態で、キス点Kに搬送されることになる。
【0034】
また、本実施形態のように、予備圧下ロール5を前記90°−θ1(スパチュラ角)〜90°+θ1(スパチュラ角)の角度範囲θ2に配置することで、この予備圧下ロール5とキス点Kとの間に位置する全ての一方の圧延ロール1の外周面1aの接線方向がこの外周面1a上に形成した粉体膜4a(粉末4)のスパチュラ角θ1以下となる。これにより、さらに確実に予備圧下ロール5で調整した粉体膜4aの密度や厚さ、表面性状を維持した状態で、キス点Kに搬送される。
【0035】
そして、このように好適にキス点Kに搬送された粉体膜4aは、一方の圧延ロール1と他方の圧延ロール2とで上方側から下方側に搬送されている素材3の一面3bに押圧され、一方の圧延ロール1の外周面1aから剥がされるとともに、素材3の一面3bに圧着される。
【0036】
ここで、粉体膜4a(粉末4)を介して素材3の一面3bを押圧することにより一方の圧延ロール1に生じる摩擦力(一方の圧延ロール1の外周面1aと粉体膜4aとの間に生じる摩擦力)と、直接素材3に接触して素材3の他面3cを押圧することにより他方の圧延ロール2に生じる摩擦力(他方の圧延ロール2の外周面2aと素材3の他面3cとの間に生じる摩擦力)とに差異が生じる。このため、各圧延ロール1、2をそれぞれ回転駆動させる各回転駆動手段10、11に異なるトルク負荷が生じる。これに対し、本実施形態においては、これら一対の圧延ロール1、2のそれぞれに繋がる各回転駆動手段10、11の駆動を制御手段12によってそれぞれ個別に制御しており、この制御手段12によって、摩擦力の差異を相殺させるように、一方の圧延ロール1と他方の圧延ロール2のそれぞれの回転速度を個別に調節する。これにより、一方の圧延ロール1に生じる摩擦力と他方の圧延ロール2に生じる摩擦力との差異により素材3と圧延ロール1の間にすべりが生じるようなことはなく、一対の圧延ロール1、2のそれぞれの回転によって、素材3が好適に搬送されるとともに、粉体膜4aが素材3の一面3bに好適に圧着されてゆく。
【0037】
そして、上記のように一対の圧延ロール1、2の回転とともに、厚さや密度、表面性状が好適に整えられた粉体膜4aを素材3に圧着したクラッド材6が、例えば加熱炉などを通過することで、粉末4が焼結または溶融され、粉末4と素材3を一体に多層形成したクラッド材が高精度で製造される。
【0038】
したがって、本実施形態の粉末圧延装置B及び粉末圧延方法においては、キス点Kにおける接線S1と水平線S2との交角θが粉末固有のスパチュラ角θ1以下となるように、一対の圧延ロール1、2が配置されていることによって、圧延ロール1の外周面1a上の粉体膜4aを確実に安定した状態で維持することができ、キス点Kへの搬送途中で粉末4に作用する遠心力や重力、さらには個々の粉末粒子間に働く分子間力などの均衡を維持して搬送することができる。これにより、粉末4が圧延ロール1の外周面1aから脱落したり、崩壊したり、粉末粒子が滑落することを確実に防止でき、このように安定してキス点Kまで搬送した所定量の粉末4を素材3に圧着することで、クラッド材6を高精度で製造することが可能になる。
【0039】
なお、図4に示した従来の粉末圧延装置Aに対し、キス点Kにおける接線S1と水平線S2とが斜めに交差するように、すなわち一対の圧延ロール1、2を斜めに並べて配置すれば、圧延ロール1の外周面1a上の粉末4(粉体膜4a)の重力の影響を小さくすることができるが、単に斜めに配置したのみでは上記効果を確実に得ることはできず、本実施形態のように、使用する粉末固有のスパチュラ角θ1に基づいてその傾斜角(キス点Kにおける接線S1と水平線S2との交角θ)を設定することによって、確実に粉末4を好適な状態でキス点Kまで搬送することができ、高精度でクラッド材6を製造することが可能になる。
【0040】
また、予備圧下ロール5が、前記90°−θ1(スパチュラ角)〜90°+θ1(スパチュラ角)の角度範囲θ2に配置されていることで、粉末量、厚さ、表面性状が整えられた粉体膜4aを、キス点Kへの搬送途中で脱落、崩壊、あるいは粉末粒子の滑落などが生じることをより確実に防止して、好適な状態でキス点Kまで搬送することができる。
【0041】
さらに、粉末4を介して素材3の一面3bを押圧することにより一方の圧延ロール1に生じる摩擦力と、直接素材3に接触して素材3の他面3cを押圧することにより他方の圧延ロール2に生じる摩擦力との差異を相殺するようにそれぞれの圧延ロール1、2を駆動することで、一方の圧延ロール1に生じる摩擦力と他方の圧延ロール2に生じる摩擦力との差異により素材3と圧延ロール1の間にすべりが生じるようなことはなく、一対の圧延ロール1、2のそれぞれの回転によって、好適に素材3を搬送できるとともに粉末4を素材3の表面3aに好適に圧着させることができる。
【0042】
なお、本発明は、上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、本実施形態では、素材3の表面3aの一面(片面)3bにのみ粉末4(粉体膜4a)を圧着したクラッド材6を製造するものとしたが、例えば図3に示すように、本実施形態に示した一対の圧延ロール1、2から下方に送り出した素材3の一面3bに粉体膜4aを圧着した状態のクラッド材6を、軸線O4回りに回転可能な反転ロール20によって反転し、この反転したクラッド材6を、素材3の下方を向く他面3c側に一方の圧延ロール1’、素材3の上方を向く一面3b側に他方の圧延ロール2’を配して別途設けた一対の圧延ロール1’、2’間を通過させて、一方の圧延ロール1’の回転とともにこの圧延ロール1’の外周面1a’上に予備圧下ロール(規制部材)5’で形成した粉体膜4a’を粉体膜4aが圧着されていない素材3の他面3cに圧着して、素材3の表面3aの両面3b、3cにそれぞれ粉末4、4’を圧着したクラッド材6を製造するようにしてもよい。この場合においても、素材3の他面3cに粉体膜4a’を圧着する一対の圧延ロール1’、2’を、キス点K’における接線S1’と水平線S2’との交角θが粉末固有のスパチュラ角θ1以下となるように配置することによって、予備圧下ロール5’で厚さや密度、表面性状を整えた粉体膜4a’を好適な状態のままキス点K’まで確実に搬送することができ、好適な粉体膜4a’を素材3の他面3cに圧着することができる。よって、両面3b、3cに粉体膜4a、4a’をそれぞれ圧着したクラッド材6を確実に高精度で製造することができる。
【0043】
また、本実施形態では、規制部材が軸線O3回りに回転可能に設けられた断面円形の予備圧下ロール5であるものとしたが、本発明に係る規制部材は、例えば先端を一方の圧延ロール1の外周面との間に所定の隙間をあけて固設した板状(ブレード状)の規制ブレードであってもよい。すなわち、一方の圧延ロール1の軸線O1に沿う先端との隙間に粉末4が通過するとともに規制ブレードで余分な粉末4をそぎ取り、キス点Kに向けて搬送される粉末4の量ひいては粉体膜4aの厚さを調整するものであってもよく、キス点Kに搬送する粉末4の量を規制して調整することができれば、特に規制部材の形状およびそれらの構成を限定する必要はない。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の一実施形態に係る粉末圧延装置を示す図である。
【図2】図1の一方の圧延ロール及び規制部材を拡大した図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る粉末圧延装置の変形例を示す図である。
【図4】従来の粉末圧延装置を示す図である。
【符号の説明】
【0045】
1 圧延ロール(一方の圧延ロール)
1a 外周面
2 圧延ロール(他方の圧延ロール)
2a 外周面
3 素材
3a 表面
3b 一面
3c 他面
4 粉末
4a 粉体膜
5 予備圧下ロール(規制部材)
6 クラッド材
10 回転駆動手段
11 回転駆動手段
12 制御手段
A 従来の粉末圧延装置
B 粉末圧延装置
O1 軸線
O2 軸線
T1 回転方向
T2 回転方向
S1 接線
S2 水平線
θ 交角
θ1 スパチュラ角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
素材の表面に粉末を圧着してクラッド材を製造するための粉末圧延装置において、
水平方向に平行に延びるそれぞれの軸線回りに回転可能に設けられ、互いの外周面が前記素材の表面の一面と他面とをそれぞれ押圧するように前記素材を挟んで対向配置された一対の圧延ロールを備え、
該一対の圧延ロールは、前記外周面に供給した前記粉末を回転とともに搬送して前記素材に前記粉末を圧着させる一方の圧延ロールに対し、他方の圧延ロールが上方に設けられるとともに、前記外周面が前記素材を押圧するキス点における接線と水平線との交角が、前記粉末固有のスパチュラ角以下となるように配置されていることを特徴とする粉末圧延装置。
【請求項2】
請求項1記載の粉末圧延装置において、
前記一方の圧延ロールの外周面に供給される前記粉末の量を規制するように、規制部材が前記一方の圧延ロールの外周面との間に所定の隙間をあけて設けられ、
前記規制部材は、前記一方の圧延ロールの軸線を通る水平線を基準に、前記キス点よりも前記一方の圧延ロールの回転方向上流側に向けた前記軸線中心の90°−スパチュラ角〜90°+スパチュラ角の角度範囲に配置されていることを特徴とする粉末圧延装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の粉末圧延装置において、
前記一方の圧延ロールと前記他方の圧延ロールとに前記軸線回りに回転させる駆動力を供給する回転駆動手段がそれぞれ繋げられるとともに、前記各回転駆動手段の駆動を制御する制御手段が設けられており、
前記各回転駆動手段は、前記粉末を介して前記素材の一面を押圧することにより前記一方の圧延ロールに生じる摩擦力と、直接前記素材に接触して前記素材の他面を押圧することにより前記他方の圧延ロールに生じる摩擦力との差異を相殺するように駆動が制御されることを特徴とする粉末圧延装置。
【請求項4】
素材の表面に粉末を圧着してクラッド材を製造する粉末圧延方法において、
水平方向に平行に延びるそれぞれの軸線回りに回転可能に設けられ、互いの外周面が前記素材の表面の一面と他面とをそれぞれ押圧するように前記素材を挟んで対向配置される一対の圧延ロールを、前記外周面上に供給した前記粉末を回転とともに搬送して前記素材に前記粉末を圧着させる一方の圧延ロールに対し、他方の圧延ロールを上方に配して設けるとともに、
予め前記粉末固有のスパチュラ角を計測し、前記外周面が前記素材を押圧するキス点における接線と水平線との交角が前記粉末固有のスパチュラ角以下となるように前記一対の圧延ロールを配置することを特徴とする粉末圧延方法。
【請求項5】
請求項4記載の粉末圧延方法において、
前記一方の圧延ロールの外周面との間に所定の隙間をあけて規制部材が設けられ、前記一方の圧延ロールの外周面に供給した前記粉末が、前記規制部材と前記一方の圧延ロールの外周面との間の所定の隙間を通過する際に、前記一方の圧延ロールの外周面上に供給された前記粉末の量が規制されながら前記キス点に向けて搬送され、
前記一方の圧延ロールの軸線を通る水平線を基準に、前記キス点よりも前記一方の圧延ロールの回転方向上流側に向けた前記軸線中心の90°−スパチュラ角〜90°+スパチュラ角の角度範囲に、前記規制部材を配置することを特徴とする粉末圧延方法。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載の粉末圧延方法において、
前記一方の圧延ロールと前記他方の圧延ロールとに前記軸線回りに回転させる駆動力を供給する回転駆動手段がそれぞれ繋げられ、
前記粉末を介して前記素材の一面を押圧することにより前記一方の圧延ロールに生じる摩擦力と、直接前記素材に接触して前記素材の他面を押圧することにより前記他方の圧延ロールに生じる摩擦力との差異を相殺するように各回転駆動手段を駆動させることを特徴とする粉末圧延方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate