説明

粉末油脂

【課題】生地への分散性に優れ、食感、風味、しとり感に優れた焼成食品を得ることができる。また本発明の粉末油脂は、安価な蛋白質等の粉末化基材を用いた場合でも、酸性下での安定性に優れ酸性食品への添加が可能な粉末油脂を提供する。
【解決手段】 本発明の粉末油脂は、食用油脂、粉末化基材、乳化剤としてポリグリセリン縮合リシノール酸エステル及びグリセリン有機酸脂肪酸エステルを含むO/W型エマルションを乾燥粉末化したことを特徴とする。本発明の粉末油脂は、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル0.1〜10.0重量%、グリセリン有機酸脂肪酸エステル0.01〜10.0重量%含有することが好ましく、グリセリン有機酸脂肪酸エステルを構成する有機酸がジアセチル酒石酸であるものが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は粉末油脂に関する。
【背景技術】
【0002】
スポンジケーキ、スナックケーキ、スイスロール等のケーキ類や、パン、ビスケット等の焼成食品の保湿性、柔軟性、保存性等を改善し、食感、風味の良い製品を得ることを目的として、生地にマーガリン、バター、ショートニング等の固形油脂、流動状ショートニング、乳化油脂等を添加しているが、これらは生地中への分散性が劣るという欠点があった。このような固形油脂、流動状油脂、乳化油脂等にかわるものとして粉末油脂が提案され、例えば特定のSFIを有する油脂と乳化剤、被覆素材及び水からなる水中油型乳化油脂を乾燥させた粉末油脂(特許文献1)、乳化剤としてグリセリン不飽和脂肪酸エステル及び/又は親油性ポリグリセリン脂肪酸エステルを用いて乳化したW/O型エマルションを、賦形剤を含む水相に添加して形成したW/O/W型複合エマルションを乾燥した粉末油脂(特許文献2、3)等が知られている。
【0003】
【特許文献1】特開昭63−36746号公報
【特許文献2】特開昭61−152236号公報
【特許文献3】特開昭61−152225号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら特許文献1〜3に記載されている粉末油脂は、パンや菓子等の焼成食品に保湿性を与え、しとり感のある製品が得られるものの、その効果は充分でなく、また粉末油脂を水に添加した場合の乳化安定性が低いという問題があった。更に特許文献2、3記載の粉末油脂は、水へ添加した場合、W1/O/W2型の二重乳化型を形成するが、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸はW1/O界面に存在するため、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸による乳化安定性の効果は得られにくく、焼成食品に用いた場合は、油脂の分散性が悪く、良好な焼成品が得られないという問題が生じる。また二重乳化型の粉末油脂は水分含有量が高いため、長期保存した場合、粉末油脂の流動性が悪くなり、パンや菓子等を焼成する際の作業性が非常に悪くなるという問題があった。また粉末油脂には、油脂粒子表面を被覆する粉末化基材として乳蛋白や大豆蛋白が広く使用されているが、これらの粉末化基材は安価である反面、酸性での安定性が低く、乳化系のフルーツゼリーやヨーグルトゼリー等の酸性食品に添加すると、酸によって粉末化基材の蛋白質が凝集し、乳化破壊を生じるという問題もあった。本発明は上記従来の粉末油脂の欠点を解決した粉末油脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
即ち本発明は、
(1)食用油脂、粉末化基材、乳化剤としてポリグリセリン縮合リシノール酸エステル及びグリセリン有機酸脂肪酸エステルを含むO/W型エマルションを乾燥粉末化したことを特徴とする粉末油脂、
(2)ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル0.1〜10.0重量%、グリセリン有機酸脂肪酸エステル0.01〜10.0重量%含有する上記(1)の粉末油脂、
(3)グリセリン有機酸脂肪酸エステルを構成する有機酸がジアセチル酒石酸である上記(1)又は(2)の粉末油脂、
を要旨とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の粉末油脂は、生地への分散性に優れ、食感、風味、しとり感に優れた焼成食品を得ることができる。また本発明の粉末油脂は、安価な蛋白質等の粉末化基材を用いた場合でも、酸性下での安定性に優れ、蛋白質が凝集して乳化を破壊する虞がないため、酸性食品への添加が可能である等の効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明粉末油脂における食用油脂としては、液体、固体の動植物油脂、硬化した動植物油脂、動植物油脂のエステル交換油、分別した液体油又は固体脂等、食用に適するものであれば全て使用可能である。具体的には、ナタネ油、コーン油、大豆油、綿実油、サフラワー油、パーム油、ヤシ油、米糠油、ごま油、カカオ脂、オリーブ油、パーム核油等の植物性油脂、魚油、豚脂、牛脂、鶏脂、乳脂等の動物性油脂及び、これらの油脂の硬化油又はエステル交換油、或いはこれらの油脂を分別して得られる液体油、固体脂等が挙げられ、これらより選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0008】
粉末化基材としては、乳蛋白、大豆蛋白、小麦蛋白、全脂粉乳、脱脂粉乳、小麦粉、デンプン、糖類、ゼラチン、ホエー、ガム質、デキストリン等が挙げられる。乳蛋白としては酸カゼイン、レンネットカゼイン、カゼインナトリウム等が、デンプンとしては、オクテニルコハク酸デンプン、馬鈴薯デンプン、コーンスターチ、小麦粉デンプン、タピオカデンプン等が、糖類としてはグルコース、フルクトース、ガラクトース等の単糖類、ショ糖、ブドウ糖、麦芽糖、乳糖、果糖、水飴、トレハロース、オリゴ糖等が挙げられる。またガム質としてはキサンタンガム、アラビアガム、トラガントガム、ジェランガム、ローカストビーンガム、タマリンドシードガム、カラギーナン、寒天、LMペクチン、HMペクチン等が、デキストリンとしては、サイクロデキストリン、分岐サイクロデキストリン、マルトデキストリン等が挙げられる。本発明において粉末化基材としては、乳化安定性が更に向上するため、カゼインナトリウムが好ましい。
【0009】
乳化剤として用いるポリグリセリン縮合リシノール酸エステルは、リシノール酸同士が縮合したエステルと、ポリグリセリンとがエステル化したものであり、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルを構成するポリグリセリンとしては、重合度4〜10量体が好ましい。また縮合リシノール酸としては3〜6量体がエステル結合しているものが好ましい。またグリセリン有機酸脂肪酸エステルは、グリセリンに脂肪酸と有機酸の両方がそれぞれ1個から2個エステル結合した構造の化合物で、グリセリンモノ脂肪酸エステルと有機酸との反応、油脂と有機酸とのエステル交換、又はグリセリンと有機酸と脂肪酸との反応などにより得ることができる。有機酸として例えば、酢酸、乳酸、コハク酸、ジアセチル酒石酸、クエン酸等が挙げられる。グリセリン有機酸脂肪酸エステルの構成脂肪酸は、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸のいずれでも良い。グリセリン有機酸脂肪酸エステルは、有機酸や脂肪酸の種類の異なるものを混合して用いることもできる。本発明において用いるグリセリン有機酸脂肪酸エステルは、有機酸がコハク酸、ジアセチル酒石酸であるものが食感、風味等の点から好ましく、特に有機酸がジアセチル酒石酸であるものが更に好ましい。脂肪酸は、ステアリン酸等の飽和脂肪酸であることが好ましい。ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルの粉末油脂中の含有量が0.1〜10.0重量%が好ましく、0.5〜5.0重量%がより好ましい。またグリセリン有機酸脂肪酸エステルの粉末油脂中の含有量は0.01〜10.0重量%が好ましいが、より好ましくは0.1〜10.0重量%である。ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル含有量が0.1重量%未満の場合、しとり感が十分得られない虞があり、10.0重量%を超えると風味が悪くなる虞がある。またグリセリン有機酸脂肪酸エステル含有量が、0.01重量%未満の量の場合、再溶解後の乳化安定性が悪くなる虞があり、10.0重量%を超える量の場合、焼成品の食感にねちゃつき感があったり、歯切れや口溶けが悪くなる虞がある。また、経時的乳化安定性の面から、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルとグリセリン有機酸脂肪酸エステルの配合比は、1〜2:1〜3が好ましく、さらに好ましくは、1〜2:1〜2である。
【0010】
本発明の粉末油脂は、食用油脂、粉末化基材、乳化剤としてのポリグリセリン縮合リシノール酸エステル及びグリセリン有機酸脂肪酸エステルを含むO/W型エマルションを、乾燥粉末化して得られる。O/W型エマルションは、まず、水相に油相を添加し、ホモミキサー等で攪拌後、ホモゲナイザー等を使用し、30〜200kg/cm2の圧力をかけて均質化して得ることができる。O/W型エマルションを調整する際に、乳化剤は水相、油相の両方、またはいずれか一方に含有されていれば良い。また、糖類、タンパク質は、水相に添加して調製したものを用いることができる。O/W型エマルションを調製するに際し、粉末化基材は10〜60重量%配合することが好ましい。O/W型エマルションを乾燥粉末化するには、噴霧乾燥、凍結乾燥等の公知の粉末化が挙げられる。O/W型エマルションを乾燥粉末化する方法としては、一般的に知られている噴霧乾燥法、真空凍結乾燥法、真空乾燥法等用いることができる。
【0011】
本発明の粉末油脂中には、更に香料や酸化防止剤等を含有していても良い。またポリグリセリン縮合リシノール酸エステル及びグリセリン有機酸脂肪酸エステル以外の他の乳化剤を併用することもできる。他の乳化剤としては、グリセリンモノ脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル等を用いることができるが、グリセリンモノ脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルが好ましい。ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル及びグリセリン有機酸脂肪酸エステル以外の他の乳化剤を併用する場合、粉末油脂中の他の乳化剤の割合は5〜20重量%が好ましい。
【実施例】
【0012】
以下、実施例、比較例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
実施例1〜5、比較例1〜3
表1に示す配合により粉末油脂を製造した。油相は、油脂を70℃に調温後、各乳化剤を添加し調製した。水相は、水を60℃に調温し、カゼインナトリウム又は大豆タンパクと、コーンシロップとを添加し調製した。油相を70℃で、水相を60℃で保持し、ホモミキサーで攪拌しながら水相に油相の全量を添加し、水中油型に乳化させた後、ホモジナイザーで150kg/cm2の圧力をかけて均質化し、均質化後、スプレードライヤーにより粉末化した。得られた粉末油脂の再溶解後の経時的乳化安定性、及び酸性乳化安定性を表1に合わせて示した。
【0013】
各粉末油脂を用いて、下記に示す製パン試験用配合の材料を家庭用オートベーカリーの容器に仕込み、オートベーカリーの食パン用標準コースで自動ベーキング(再こね法)により食パンを焼成した。得られた食パンの食感の官能試験結果を表1に示す。
製パン試験用配合
強力粉 100重量部
ドライイースト 1.2重量部
上白糖 4重量部
食塩 2重量部
水 76重量部(水温30℃)
粉末油脂組成物 15重量部
【0014】
実施例1〜5、比較例1〜3で得た各粉末油脂を用いてスポンジケーキ生地を調製した。調製した生地500gを、7号丸型に入れて175℃のオーブンで、35分間焼成し、スポンジケーキを得た。ケーキ生地はオールインミックス法により、下記配合物を縦型ミキサーで生地比重が0.45となるようミキシングし調製した。得られたスポンジケーキの食感の官能試験結果を表1にあわせて示す。
スポンジケーキ生地配合
薄力粉 100重量部
上白糖 110重量部
全卵 150重量部
ベーキンパウダー 1重量部
水 30重量部
粉末油脂 30重量部
【0015】
【表1】

【0016】
※1 SYグリスターCR−ED(坂本薬品工業株式会社製)
※2 ポエムW−10(理研ビタミン株式会社製)
※3 ポエムB−10(理研ビタミン株式会社製)
※4 リケマールPB−100(理研ビタミン株式会社製)
※5 エマルジーMS−A(理研ビタミン株式会社製)
【0017】
※6:経時的乳化安定性は、各粉末油脂の50%水溶液を10℃にて保存し、乳化状態を目視観察して以下の基準で評価した。
◎:保存90日経過後も乳化状態は変わらず良好。
○:保存30日経過後、乳化状態は変わらず良好。
△:保存30日経過後、僅かにオイルオフあるいは、離水が生じている。
×:保存30日経過後、明らかにオイルオフあるいは、離水が生じている。
【0018】
※7:酸性下における乳化安定性は、各粉末油脂をpH5に調整したクエン酸水溶液に10%水溶液となるよう溶解させ、乳化状態を目視観察して以下の基準で評価した。
○:乳化状態は変わらず良好。
△:僅かにオイルオフあるいは、離水が生じている。
×:明らかにオイルオフあるいは、離水が生じている。
【0019】
※8:食パンの食感
10人のパネラーにより、上記配合により得られた食パンの官能評価を行った。評
点基準は以下の通りである。
◎:ソフトで、しとり感がある。
○:ソフトで、ややしとり感がある。
△:ソフトだが、ややぱさつき感がある。
×:ソフトさがなく、ぱさつき感がある。
【0020】
※9:スポンジケーキの食感
10人のパネラーにより、上記配合により得られた食パンの官能評価を行った。評点基準は以下の通りである。
◎:ソフトで、しとり感がある。
○:ソフトで、ややしとり感がある。
△:ソフトだが、ややぱさつき感がある。
×:ソフトさがなく、ぱさつき感がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食用油脂、粉末化基材、乳化剤としてポリグリセリン縮合リシノール酸エステル及びグリセリン有機酸脂肪酸エステルを含むO/W型エマルションを乾燥粉末化したことを特徴とする粉末油脂。
【請求項2】
ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル0.1〜10.0重量%、グリセリン有機酸脂肪酸エステル0.01〜10.0重量%含有する請求項1記載の粉末油脂。
【請求項3】
グリセリン有機酸脂肪酸エステルを構成する有機酸がジアセチル酒石酸である請求項1又は2記載の粉末油脂。

【公開番号】特開2007−289116(P2007−289116A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−123121(P2006−123121)
【出願日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【出願人】(000114318)ミヨシ油脂株式会社 (120)
【Fターム(参考)】