説明

粉末状或いは顆粒状のスープ又はソース

【課題】水、温水、牛乳などの水系媒体に分散又は溶解しても「ままこ(ダマ)」と呼ばれる塊が生じ難い粉末状或いは顆粒状のスープ又はソースを提供する。
【解決手段】水系媒体に分散又は溶解して用いる粉末状或いは顆粒状のスープ又はソースにおいて、植物ステロールと卵黄リポ蛋白質との複合体を含有することを特徴とする粉末状或いは顆粒状のスープ又はソース。植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との構成比は、卵黄リポ蛋白質1部に対して植物ステロール類5〜232部とすることが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物ステロール類を用いることにより、水、湯、牛乳などの水系媒体に分散又は溶解しても「ままこ(ダマ)」と呼ばれる塊が生じ難い粉末状或いは顆粒状のスープ又はソースに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、加工食品技術の進歩に伴い、様々な粉末状スープ又はソースが開発されている。これら粉末状スープなどは、水又は湯などを加えて攪拌するだけで賞味することができる簡便性をその大きな特徴としている。しかしながら、これら粉末状スープなどは、水又は湯などで溶いた後にいわゆる「ままこ(以下、ダマという。)」と呼ばれる塊が残ってしまうという問題がある。そのためこれら粉末状スープを水又は湯などにダマが生じないように分散又は溶解させるためには、予め少量の水または湯で練った後、かき混ぜながら水又は湯を注ぎ込まなければならないという不便さがあった。
【0003】
この問題を解決するため、一般に粉末を顆粒化することが行われている。しかし、粉末状スープなどの種類によっては、顆粒化の難しいもの、或いは顆粒化しても分散性又は溶解性が改善されないものもあり、根本的な解決方法とはなっていない。
【0004】
そこで、このダマの発生を抑える方法として、溶解性を向上させるために炭酸水素ナトリウム及び有機酸、或いはカルシウムイオンなどのイオン物質をままこ防止剤として加える方法が提案されている(特許文献1)。しかしながら、これらのままこ防止剤を水に投入すると直ちに当該物質が溶解してしまうためか、その他のスープ又はソース原料がダマとなることの防止効果は十分とは言い難いものであった。
【0005】
また、このダマの発生を抑える方法として、卵殻粉などの水不溶性カルシウム含有材料粉末を加える方法が提案されている(特許文献2)。確かに上記水溶性物質よりも当該水不溶性物質を加える方がダマの防止効果が高いものの完全な解決には至っていないのが実状である。
【0006】
一方、水不溶性物質として、植物ステロールがある。その植物ステロールは、血中の総コレステロール濃度及び低密度リポ蛋白質−コレステロール濃度を低下させる機能を有することが知られているが、植物由来の食材には、極僅かしか含有していないことから、食品原料としての利用が期待されている。
【0007】
本発明者らは、上記植物ステロールを用いてダマの発生を防止できるならば、生理機能を併せ持つこととなり商品価値として有用なものとなると考え、まず、単に植物ステロールを粉末状或いは顆粒状のスープなどに用いることを試みた。しかしながら、このように単に植物ステロールを含有する粉末状或いは顆粒状のスープ又はソースでは、お湯を注いだ後に攪拌してもダマの発生を防止することができず満足できるものとは言い難いものであった。
【0008】
【特許文献1】特開2003−104912号公報
【特許文献2】特開2005−304378号公報
【特許文献3】WO2005/041692
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明の目的は、植物ステロール類を用いることにより、水、湯、牛乳などの水系媒体に分散又は溶解しても「ままこ(ダマ)」と呼ばれる塊が生じ難い粉末状或いは顆粒状のスープ又はソースを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記問題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、粉末状或いは顆粒状のスープ又はソースに植物ステロールと卵黄リポ蛋白質との複合体を含有するならば、意外にもダマが生じ難くなることを見出し本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、
(1)水系媒体に分散又は溶解して用いる粉末状或いは顆粒状のスープ又はソースにおいて、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体を含有することを特徴とする粉末状或いは顆粒状のスープ又はソース、
(2)前記植物ステロール類と前記卵黄リポ蛋白質との構成比が、卵黄リポ蛋白質1部に対して植物ステロール類5〜232部である(1)記載の粉末状或いは顆粒状のスープ又はソース、
(3)前記複合体の含有量が、製品に対し0.01〜10質量%である(1)又は(2)記載の粉末状或いは顆粒状のスープ又はソース、
である。
【0012】
なお、本出願人は、既に植物ステロールと卵黄リポ蛋白質との複合体を出願しており(特許文献3)、確かに前記複合体は以前から知られている。しかしながら、植物ステロールと卵黄リポ蛋白質との複合体を顆粒状或いは粉末状スープ又はソースに配合することにより、いわゆるダマという問題点が解決されるか否かについては全く示唆されていない。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、水、湯、牛乳などの水系媒体に分散又は溶解しても「ままこ(ダマ)」と呼ばれる塊が生じ難いことから、より一層品位が向上し、粉末状或いは顆粒状のスープ又はソースの需要を拡大することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下本発明を詳細に説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」をそれぞれ意味する。
【0015】
本発明の粉末状或いは顆粒状のスープ又はソースとは、水、湯、牛乳などの水系媒体に分散又は溶解して食用に供する、スープ又はソースを粉末状或いは顆粒状とした食品をいう。このような本発明の粉末状或いは顆粒状のスープ又はソースとしては、特に限定するものではないが、例えば、即席コーンポタージュスープ、即席クリームスープ、即席カレースープ、即席ラーメンスープ、即席春雨スープ、即席味噌汁などの即席スープ類;即席カレー、即席ホワイトソースなどの粉末ソース類;即席クリームシチュー、即席ビーフシチュー、即席ブラウンシチュー等の即席シチュー類;粉末うどんつゆ、粉末醤油、粉末酢、粉末味噌等の粉末調味料類などである。
【0016】
本発明の粉末状或いは顆粒状のスープ又はソースは、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体を含有することを特徴とする。前記構成を有する本発明の粉末状或いは顆粒状のスープ又はソースは、水、湯、牛乳などの水系媒体に分散又は溶解してもダマが生じ難いものとなる。これに対し後述の比較例に示すように、前記複合体を含まない場合や植物ステロール類をそのまま含む場合は、水、温水、牛乳などに分散又は溶解してもダマが生じてしまうものとなる。
【0017】
本発明の卵黄リポ蛋白質は、卵黄蛋白質と、親水部分及び疎水部分を有するリン脂質、及びトリアシルグリセロール、コレステロール等の中性脂質とからなる複合体である。当該複合体は、蛋白質やリン脂質の親水部分を外側にし、疎水部分を内側にして、中性脂質を包んだ構造をしている。卵黄リポ蛋白質は、卵黄の主成分であって、卵黄固形分中の約80%を占める。したがって、本発明の卵黄リポ蛋白質としては、当該成分を主成分とした卵黄を用いるとよく、食用として一般的に用いている卵黄であれば特に限定するものではない。例えば、鶏卵を割卵し卵白液と分離して得られた生卵黄をはじめ、当該生卵黄に殺菌処理、冷凍処理、スプレードライ又はフリーズドライ等の乾燥処理、ホスフォリパーゼA、ホスフォリパーゼA、ホスフォリパーゼC、ホスフォリパーゼD又はプロテアーゼ等による酵素処理、酵母又はグルコースオキシダーゼ等による脱糖処理、超臨界二酸化炭素処理等の脱コレステロール処理、食塩若又は糖類等の混合処理等の1種又は2種以上の処理を施したもの等が挙げられる。また、本発明では、鶏卵を割卵して得られる全卵、あるいは卵黄と卵白とを任意の割合で混合したもの、あるいはこれらに上記処理を施したもの等を用いてもよい。
【0018】
一方、本発明の植物ステロール類とは、コレステロール又は当該飽和型であるコレスタノールに類似した構造をもつ植物に脂溶性画分より得られる植物ステロール又は植物スタノール、あるいはこれらの構成成分のことであり、植物ステロール類は、植物の脂溶性画分に合計で数%存在する。また、市販の植物ステロール又は植物スタノールは、融点が約140℃前後で、常温で固体であり、これらの主な構成成分としては、例えば、β−シトステロール、β−シトスタノール、スチグマステロール、スチグマスタノール、カンペステロール、カンペスタノール、ブラシカステロール、ブラシカスタノール等が挙げられる。また、植物スタノールについては、天然物の他、植物ステロールを水素添加により飽和させたものも使用することができる。なお、本発明において植物ステロール類は、いわゆる遊離体を主成分とするが、若干量のエステル体を含有していてもよい。
【0019】
本発明に用いる植物ステロール類は、市販されている粉体あるいはフレーク状のものを用いることができるが、平均粒子径が50μm以下、特に10μm以下の粉体を使用することが好ましい。平均粒子径が50μmを超える粉体あるいはフレーク状の植物ステロール類を用いる場合には、卵黄と攪拌混合して複合体を製造する際に、均質機(T.K.マイコロイダー:特殊機化工業社製等)を用いて植物ステロール類の粒子を小さくしつつ攪拌混合を行うことが好ましい。これにより、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体が形成され易くなる。
【0020】
本発明の食品に含有する植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体は、上述した植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質を主成分とする卵黄とを、好ましくは10μm以下の粉体状の植物ステロール類と卵黄を水系中で攪拌混合することにより得られる。具体的には、工業的規模での攪拌混合し易さを考慮し、卵黄リポ蛋白質として、卵黄を水系媒体で適宜希釈した卵黄希釈液を使用し、当該卵黄希釈液と植物ステロール類とを攪拌混合して製造することが好ましい。前記水系媒体としては、水分が90%以上のものが好ましく、例えば、清水の他に液状調味料(例えば、醤油、だし汁)等が挙げられる。また、前記卵黄希釈液の濃度としては、その後、添加する植物ステロール類の配合量にもよるが、卵黄固形分として0.01〜50%の濃度が好ましく、攪拌混合時の温度は、常温(20℃)でもよいが、45〜55℃に加温しておくと複合体と攪拌混合し易く好ましい。攪拌混合は、例えば、ホモミキサー、コロイドミル、高圧ホモゲナイザー、T.K.マイコロイダー(特殊機化工業社製)等の均質機を用いて、全体が均一になるまで行うとよい。また、上述の方法で得られたものは、複合体が水系媒体に分散したものであるが、噴霧乾燥、凍結乾燥等の乾燥処理を施して乾燥複合体としてもよく、本発明の効果を損なわない範囲で、複合体に他の原料を配合してもよい。
【0021】
本発明で用いる複合体は、当該原料である植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との構成比が、卵黄リポ蛋白質1部に対して植物ステロール類5〜232部であることが好ましく、当該構成比は、卵黄固形分中に卵黄リポ蛋白質は約8割存在するから、卵黄固形分1部に対して植物ステロール類4〜185部に相当する。後述で示すとおり水分散性を有する複合体は、卵黄リポ蛋白質1部に対して植物ステロール類が前記範囲で形成しているところ、植物ステロールが前記範囲より少ないと複合体を形成できなかった卵黄リポ蛋白質が残存し、一方、前記範囲より多いと水分散性を有した複合体が得られない。したがって、後述に示すとおり水分散性を有する複合体は、卵黄リポ蛋白質1部に対して植物ステロール類が前記範囲で形成していることから、植物ステロールが前記範囲より少ないと複合体を形成できなかった卵黄リポ蛋白質が残存してスープなどの風味が卵黄風味により損なわれる場合がある。また前記範囲より多いと植物ステロール類が水分散性を有した複合体を形成し難くなって本発明の効果が得られ難くなる。
【0022】
本発明の複合体の含有量は、ダマを防止する効果がそれに比例して増大するわけではなく、粉末状或いは顆粒状のスープ又はソースを用いた食事の美味しさが損なわれる場合があることから、製品に対して乾物換算で0.01〜10%とすることが好ましく、0.1〜5%とすることがより好ましい。
【0023】
前記複合体を粉末状或いは顆粒状のスープ又はソースに含有させる方法として特に制限はなく、例えば、
1)上記複合体と、前記粉末状或いは顆粒状のスープ又はソースに含有する他の原料などとを粉体混合する方法、
2)上記複合体と前記粉末状或いは顆粒状のスープ又はソースに含有する他の原料などを水に分散或いは溶解させた液を噴霧乾燥し、粉末などにする方法、
3)上記複合体と前記粉末状或いは顆粒状のスープ又はソースに含有する他の原料などを混合し、流動層造粒乾燥機、或いは攪拌式混合・造粒機などで造粒する方法、
などが挙げられる。
【0024】
このように植物ステロールと卵黄リポ蛋白質との複合体が含有された粉末状或いは顆粒状のスープ又はソースについて、ダマと呼ばれる塊が抑制される理由は明確ではないが、以下のように考えられる。即ち、植物ステロールと卵黄リポ蛋白質との複合体を含有する粉末状或いは顆粒状のスープ又はソースに水又は湯などを注ぐと、植物ステロールと卵黄リポ蛋白質との複合体が比較的ゆっくりと水に濡れ沈降していくので、油脂類や食品素材の粉末などを含むスープ又はソース原料が凝集し難くなり、結果的に容易且つ簡便に粉末状或いは顆粒状のスープ又はソースを水に分散又は溶解させることができるためダマが発生することを防止することができる、と考えられる。
【0025】
以下、本発明の粉末状或いは顆粒状のスープ又はソースについて、実施例、比較例及び試験例に基づき、具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定するものではない。
【実施例】
【0026】
[調製例1]:複合体の構成成分の解析及び複合体の植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との構成比
まず、卵黄液5g(卵黄固形分2.5g、卵黄固形分中の卵黄リポ蛋白質約2g)に清水95gを加え、攪拌機(日音医理科器機製作所社製、ヒスコトロン)で2000rpmで1分間攪拌して卵黄希釈液を調製した。次に5000rpmで攪拌しながら植物ステロール(遊離体97.8%、エステル体2.2%、平均粒子径約3μm)2.5gを添加し、さらに10000rpmで5分間攪拌し、植物ステロールと卵黄リポ蛋白質とから形成された複合体の分散液を得た(調製例1−1)。
【0027】
得られた分散液1gを取り、0.9%食塩水4gを加え、真空乾燥機(東京理科器械社製、VOS−450D)で真空度を10mmHgにして1分間脱気し、遠心分離器(国産遠心分離器社製、モデルH−108ND)で3000rpmで15分間遠心分離を行い、沈澱と上澄みとを分離した。この上澄みを0.45μmのフィルターで濾過し、さらに0.2μmのフィルターで濾過し、複合体と、複合体を形成していない植物ステロールとを除去した。
【0028】
この濾液の吸光度(O.D.)を、分光光度計(日立製作所製、U−2010)を用いて、0.9%食塩水を対照とし、280nm(蛋白質中の芳香環をもつアミノ酸の吸収)で測定し、濾液中の蛋白質の量を測定した。
【0029】
植物ステロールの添加量を表1のように変え、同様に吸光度を測定した(調製例1−2〜調製例1−8)。この結果を表1に示す。
【0030】
また、調製例1−1の濾液と、調製例1−6の濾液については、更に440nmの吸光度を測定した。ここで、440nmは、卵黄リポ蛋白質中に含まれる油溶性の色素(カロチン)の吸収波長である。この結果を表2に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】



【0033】
複合体の構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロールが5部以下であると、表1より、植物ステロールの割合が増えるに伴い、濾液中の蛋白質あるいはアミノ酸の含量の指標となる280nmの吸光度が小さくなっており、蛋白質あるいはアミノ酸の含量が減少することが分かる。また、表2より、濾液中の油脂含量の指標となる440nmの吸光度において、調製例1−1の濾液は調製例1−6に比べ吸光度が優位に高く、油脂含量が明らかに多いことが分かる。一方、複合体の構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロールが5部以上であると、表1より、濾液中の蛋白質あるいはアミノ酸の含量の指標となる280nmの吸光度は略一定を示し、表2より、濾液中の油脂含量の指標となる440nmの吸光度において、調製例1−6の濾液は調製例1−1に比べ吸光度が優位に低く、油脂含量が明らかに少ないことが分かる。
【0034】
以上の結果より、複合体の構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロールが5部以上であるものの分散液には、複合体以外に、卵黄リポ蛋白質でない遊離の蛋白質あるいはアミノ酸が存在し、一方、複合体の構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロールが5部より少ないものの分散液には、前記遊離の蛋白質あるいはアミノ酸に加え、複合体を形成しなかった卵黄リポ蛋白質が存在しているものと推定される。したがって、卵黄リポ蛋白質1部を余すことなく複合体の形成に使用するためには、植物ステロール類が5部以上必要であることが分かる。
【0035】
[調製例2]:複合体の植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との構成比
鶏卵を工業的に割卵して得られた卵黄液(固形分45%)と清水の量と植物ステロールの量を表3の通りに変更して、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質の複合体の分散液を調製し、この分散液の分散性から、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との好ましい構成比を検討した。
【0036】
すなわち、鶏卵を割卵して取り出した卵黄液(固形分45%)に清水を加え、攪拌機(日音医理科器機製作所社製、ヒスコトロン)で2000rpm、1分間攪拌して卵黄希釈液を調製した後、45℃に加温し、次に5000rpmで攪拌しながら植物ステロール(調製例1と同じもの)を除々に添加し、添加し終えたところで、さらに10000rpmで攪拌して植物ステロールと卵黄リポ蛋白質の複合体の分散液を得た。
【0037】
また、分散液の分散性に関しては、植物ステロールと卵黄リポ蛋白質の複合体の分散液0.5gを試験管(内径1.6cm、高さ17.5cm)にとり、0.9%食塩水10mLで希釈し、試験管ミキサー(IWAKI GLASS MODEL−TM−151)で10秒間撹拌することにより振盪し、その後1時間室温で静置し、さらに真空乾燥機(東京理化器械社製、VOS−450D)に入れ、真空度を10mmHg以下にして室温(20℃)で脱気を行い、脱気後に浮上物が見られない場合を○、浮上物が見られた場合を×と判定した。これらの結果を表3に示す。
【0038】
なお、植物ステロールを加熱溶解し、冷却し、比重の異なるエタノール液に浸けて浮き沈みによりその比重を求めたところ、0.98であったことから、上述の分散性の試験での浮上物は植物ステロールであると考えられる。
【0039】
【表3】




【0040】
表3より、複合体の構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロールが232部以下であると、複合体に良好な水分散性を付与できることが分かる。
【0041】
調製例1及び調製例2の結果より、複合体が良好な水分散性を有し、しかも卵黄リポ蛋白質1部を余すことなく複合体の形成に使用するためには、複合体の構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対して植物ステロール類5〜232部の範囲であることが分かる。
【0042】
[調製例3]
清水17.5kgに殺菌卵黄(固形分45%、キユーピー(株)製)0.5kgを加え、攪拌機(日音医理科器機製作所社製、ヒスコトロン)で2000rpm、1分間攪拌して卵黄希釈液を調製した後、50℃に加温し、次に5000rpmで攪拌及び真空度350mmHgで脱気しながら植物ステロール(調製例1と同じもの)2kgを除々に添加し、添加し終えたところで、さらに同回転数で30分間攪拌して植物ステロールと卵黄リポ蛋白質の複合体の分散液を得た。得られた複合体の分散液を噴霧乾燥機を用いて、送風温度170℃、排風温度70〜75℃の条件で乾燥し、乾燥複合体(殺菌卵黄使用)を得た。なお、複合体の構成比は、卵黄固形分1部に対し植物ステロール8.9部であり、卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロール11.1部である。また、複合体の植物ステロール含有量は92%である。
【0043】
[実施例1]顆粒状コーンポタージュスープ
表4に示す組成で、各原料の粉体をV型混合機にて混合した後、押出造粒機で造粒し、顆粒状コーンポタージュスープを得た。尚、得られた顆粒状コーンポタージュスープの複合体含有量は製品に対して2%である。
【0044】
【表4】



【0045】
[比較例1]
実施例1において乾燥複合体を配合しない他は、実施例1と同じ配合と製法で顆粒状コーンポタージュスープを作製した。
【0046】
[比較例2]
実施例1において乾燥複合体に換えて植物ステロール(調製例1と同じもの)を用いた他は、実施例1と同じ配合と製法で顆粒状コーンポタージュスープを作製した。
【0047】
[試験例1]
実施例1、比較例1及び2で得られた顆粒状コーンポタージュスープを各々20gずつカップに入れ、98℃の牛乳150mLを注いだ後にスプーンで30回攪拌することにより、3種類のコーンポタージュスープを作製した。
【0048】
得られた3種類のコーンポタージュスープにダマが発生しているか否かを評価したところ、比較例1で得られたコーンポタージュスープにはダマが発生し、また比較例2で得られたコーンポタージュスープはダマが発生するだけでなく、植物ステロールの一部が前記スープの表面に浮き上がって外観を損なうものとなった。これに対し、実施例1で得られたコーンポタージュスープにダマは発生していなかった。
以上から、本発明の複合体を含む実施例1の顆粒状コーンポタージュスープは、複合体を含まない比較例1及び植物ステロールをそのまま含む比較例2に比べて、湯に分散又は溶解してもダマが生じ難いものとなることが理解できる。尚、複合体の原料である植物ステロールを植物スタノールに変更した場合も同様な結果となった。
【0049】
[実施例2]粉末状ラーメンスープ
表5に示す組成で、各原料の粉体をV型混合機にて混合し、粉末状ラーメンスープを得た。尚、得られた粉末状ラーメンスープの複合体含有量は製品に対して2%である。
【0050】
【表5】



【0051】
[比較例3]
実施例2において乾燥複合体を配合しない他は、実施例2と同じ配合と製法で粉末状ラーメンスープを作製した。
【0052】
[比較例4]
実施例2において乾燥複合体に換えて植物ステロール(調製例1と同じもの)を用いた他は、実施例2と同じ配合と製法で粉末状ラーメンスープを作製した。
【0053】
[試験例2]
実施例2、比較例3及び4で得られた粉末状ラーメンスープを各々20gずつカップに入れ、98℃の湯600mLを注いだ後にスプーンで30回攪拌することにより、3種類のラーメンスープを作製した。
【0054】
得られた3種類のラーメンスープにダマが発生しているか否かを評価したところ、比較例3で得られたラーメンスープにはダマが発生し、また比較例4で得られたラーメンスープはダマが発生するだけでなく、植物ステロールの一部が前記スープの表面に浮き上がって外観を損なうものとなった。これに対し、実施例2で得られたラーメンスープにダマは発生していなかった。
以上から、本発明の複合体を含む実施例2の粉末状ラーメンスープは、複合体を含まない比較例3及び植物ステロールをそのまま含む比較例4に比べて、湯に分散又は溶解してもダマが生じ難いものとなることが理解できる。尚、複合体の原料である植物ステロールを植物スタノールに変更した場合も同様な結果となった。
【0055】
[実施例3]粉末状カレーソース
表6に示す組成で、各原料の粉体をV型混合機にて混合し、粉末状カレーソースを得た。尚、得られた粉末状カレーソースの複合体含有量は製品に対して2%である。
【0056】
【表6】




【0057】
[比較例5]
実施例3において乾燥複合体を配合しない他は、実施例3と同じ配合と製法で粉末状カレーソースを作製した。
【0058】
[比較例6]
実施例3において乾燥複合体に換えて植物ステロール(調製例1と同じもの)を用いた他は、実施例3と同じ配合と製法で粉末状カレーソースを作製した。
【0059】
[試験例3]
実施例3、比較例5及び6で得られた粉末状カレーソースを各々20gずつカップに入れ、98℃の湯150mLを注いだ後にスプーンで30回攪拌することにより、3種類のカレーソースを作製した。
【0060】
得られた3種類のカレーソースにダマが発生しているか否かを評価したところ、比較例5で得られたカレーソースにはダマが発生し、また比較例6で得られたカレーソースはダマが発生するだけでなく、植物ステロールの一部が前記カレーソースの表面に浮き上がって外観を損なうものとなった。これに対し、実施例3で得られたカレーソースにダマは発生していなかった。
以上から、本発明の複合体を含む実施例3の粉末状カレーソースは、複合体を含まない比較例5及び植物ステロールをそのまま含む比較例6に比べて、湯に分散又は溶解してもダマが生じ難いものとなることが理解できる。尚、複合体の原料である植物ステロールを植物スタノールに変更した場合も同様な結果となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系媒体に分散又は溶解して用いる粉末状或いは顆粒状のスープ又はソースにおいて、
植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体を含有することを特徴とする粉末状或いは顆粒状のスープ又はソース。
【請求項2】
前記植物ステロール類と前記卵黄リポ蛋白質との構成比が、卵黄リポ蛋白質1部に対して植物ステロール類5〜232部である請求項1記載の粉末状或いは顆粒状のスープ又はソース。
【請求項3】
前記複合体の含有量が、製品に対し0.01〜10%である請求項1又は2記載の粉末状或いは顆粒状のスープ又はソース。