説明

粉末飲食物用分散剤

【課題】粉末飲食物の液体への分散性を改善する。
【解決手段】粉末飲食物を液体に溶解乃至分散させる際に、ポリ−γ−グルタミン酸を添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末飲食物を液体に溶解乃至分散する際に用られる分散剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、いわゆるプロテイン飲料に対する関心が高まっており、多くの種類のものが市場に出回っている。こうしたプロテイン飲料の商品形態として、液体のものと粉末のものがある。
【0003】
前者に関する従来技術として、特許文献1に記載の技術がある。同文献においては、大豆蛋白を含む液状の飲料について検討されており、粉末状の大豆蛋白の平均粒径を所定の範囲内に調節することが記載されている。そして、得られた大豆蛋白を液体に分散させた液状の飲料は、ザラツキ感が無く喉ごしに優れたものであるとされている。
【特許文献1】特開2000−270783号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、粉末状で市場に出回り、喫食時に液体に分散させて用いる形態の粉末飲食物の場合、予め液体に分散させて提供される前述した飲料の場合とは異なり、喫食時に粉末飲食物を液体に溶解乃至分散させて得られる飲料にざらつき感があり、飲みにくい場合があった。そして、本発明者が鋭意検討したところ、この原因の一つとして、粉末飲食物の液体への分散性が充分でないことが挙げられた。このため、喫食時に液体に分散させる態様の粉末飲食物については、あらかじめ液体に分散または溶解させて提供される飲料の場合とは異なる観点での検討が必要となる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、ポリ−γ−グルタミン酸またはその塩を含有する粉末飲食物用分散剤が提供される。
また、本発明によれば、ポリ−γ−グルタミン酸またはその塩を含有する粉末飲食物が提供される。
【0006】
本発明において、ポリ−γ−グルタミン酸(以下、γ−PGAとも呼ぶ。)とは、構成アミノ酸がグルタミン酸である高分子化合物である。
【0007】
また、本発明において、粉末飲食物とは、粉末状で流通し、喫食時や販売時に液体に溶解または分散させて用いられる飲食用の粉末のことをいう。
【0008】
本発明によれば、粉末飲食物中にポリ−γ−グルタミン酸を含有させることにより、当該粉末飲食物の液体への分散性を改良することができる。このため、たとえば粉末飲食物を液体に分散させてなる飲食物のざらつき感を抑制し、飲みやすくすることができる。なお、この理由はかならずしも明らかではないが、たとえば、γ−PGA中のカルボニル基が金属イオンに対するキレート能を有すること、およびγ−PGAが界面活性を有することによるものと推察される。
【0009】
本発明の粉末飲食物用分散剤は、たとえば顆粒状または粉末状とすることができる。こうすることにより、粉末状飲食物と容易に混合することができる。
【0010】
本発明の粉末飲食物用分散剤は、たとえば、粉末状プロテインとともに用いられる。
また、本発明によれば、ポリ−γ−グルタミン酸またはその塩を含有する上記粉末飲食物用分散剤を含むプロテイン飲料が提供される。
【0011】
本発明によれば、タンパク質の凝集を抑制することができるため、飲食物のざらつきを低減し、飲みやすいのどごしとすることができる。特に、飲食物中にミネラル類が含まれる場合にも、タンパク質の塩析を効果的に抑制することができる。この原因は必ずしも明らかでないが、γ−PGAが金属イオンに対するキレート能を有するためであることが推察される。なお、γ−PGAは、プロテイン飲料中にγ−PGAイオンの状態またはγ−PGAナトリウム塩等の塩の状態で存在していてもよい。
【0012】
本発明において、粉末飲食物が粉末状プロテインを含み、前記粉末状プロテインに対する前記ポリ−γ−グルタミン酸またはその塩の割合が、0.01重量%以上10重量%以下であってもよい。粉末状プロテインに対して上記特定の濃度範囲のγ−PGAを配合することにより、粉末状飲食物の分散性をより一層確実に改良することができる。
【0013】
また、本発明の粉末飲食物用分散剤が、ミネラル類を含んでいてもよい。本発明の粉末飲食物用分散剤は、γ−PGAを含むので、このようにすれば、粉末状飲食物の分散性の改良効果を維持しつつ、ミネラル類を効率よく摂取し、また効果的に吸収させることができる。
【0014】
なお、これらの各構成の任意の組み合わせや、本発明の表現を方法、装置などの間で変換したものもまた本発明の態様として有効である。
【0015】
たとえば、本発明によれば、粉末飲食物を液体に溶解乃至分散させるに際し、ポリ−γ−グルタミン酸またはその塩を含有する上記粉末飲食物とともにポリ−γ−グルタミン酸またはその塩を溶解させる飲料の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明によれば、粉末飲食物を液体に分散させる際に、ポリ−γ−グルタミン酸を添加することにより、粉末飲食物の液体への分散性を改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の粉末飲食物用分散剤は、ポリ−γ−グルタミン酸またはその塩を含有する。本発明において、粉末飲食物としては、たとえば、いわゆる粉末状のプロテイン飲料や粉ミルク等の粉末状プロテイン(タンパク質)を含むものが挙げられる。また、他の例として、ココア、青汁粉末や朝鮮人参粉末等の健康補助パウダー、粉末状漢方薬等の食物繊維を含むものが挙げられる。
【0018】
以下においては、粉末飲食物が粉末状プロテイン(タンパク質)を含む場合を例に説明する。粉末飲食物がプロテイン飲料に用いられる場合、粉末状のタンパク質として、たとえば、乳清(ホエイ)タンパク質、カゼインタンパク質、乳清(ホエイ)タンパク質とカゼインタンパク質とが所定の割合で配合されたミルクプロテイン、大豆タンパク質、および卵タンパク質を含んでいてもよい。これらは粉末飲食物中に単独で含まれてもよいし、複数組み合わせて用いられていてもよい。本発明では、粉末プロテインという場合、蛋白分解物、ポリペプチド、ペプチドも含まれる。また、粉末飲食物は、粉末状プロテインの他に、たとえば炭水化物やBCAA(分岐鎖を有するアミノ酸)を含んでいてもよい。
【0019】
本発明において、γ−PGAの重量平均分子量は、粉末飲食物を液体に分散させた際の沈澱量をさらに効果的に減少させる観点では、たとえば3000以上とすることが好ましく、5000以上とすることがさらに好ましく、1万以上とすることがより一層好ましい。また、γ−PGAの重量平均分子量は、飲食物ののどごしをより一層滑らかにする観点では、たとえば300万以下とすることが好ましく、100万以下とすることがさらに好ましく、10万以下とすることがより一層好ましい。γ−PGAの重量平均分子量は、たとえば光散乱法により測定される。
【0020】
本発明において、粉末状プロテインに対するγ−PGAの割合は、液体に分散させる際の分散性をさらに効果的に改良し、なめらかなのどごしとする観点では、たとえば0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、さらに好ましくは1重量%以上である。また、粉末状プロテインに対するγ−PGAの割合は、飲食物の酸味を低減する観点では、たとえば10重量%以下、好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは3重量%以下である。
【0021】
本発明の粉末飲食物用分散剤は、γ−PGAまたはその塩を含み、粉末飲食物を液体に溶解乃至分散させる際に用いられる。粉末飲食物用分散剤は、たとえば分散前に粉末飲食物と混合して用いられる。また、粉末飲食物を分散させる液体中に予め粉末飲食物用分散剤を溶解させておくこともできる。粉末飲食物用分散剤の形態には特に制限はなく、たとえば、粉末、顆粒、錠剤、液体、またはゲル状等とすることができる。粉末飲食物と混合して用いる際には、粉末飲食物用分散剤が粉末または顆粒であることが好ましい。こうすれば、粉末飲食物と粉末飲食物用分散剤とを簡便かつ確実に混合することができる。
【0022】
本発明の飲料は、粉末飲食物を液体に溶解乃至分散させるに際し、粉末飲食物とともにγ−PGAまたはその塩を溶解させて製造される。粉末状飲食物が粉末状プロテインであれば、これにより、γ−PGAまたはその塩を含むプロテイン飲料が得られる。また、液体に溶解または分散させる前の粉末飲食物が、予めγ−PGAまたはその塩を含んでいてもよい。
【0023】
ここで、粉末飲食物を液体に溶解または分散させる際に、液体の温度が低温であると、だまが生じたり、沈澱が生じたりしやすい傾向にある。本発明においては、γ−PGAを含有させることにより、粉末状飲食物を分散させる液体がたとえば25℃以下の低い温度である場合にも、粉末飲食物の分散性を効果的に改善し、ままこや沈澱量の発生を抑制することができる。よって、冷製の飲食物のざらつきを低減し、のどごしのなめらかさを増すことができる。
【0024】
本発明により得られる飲食物は、各種ミネラルを含んでもよい。ミネラル類としては、カルシウム、鉄、マグネシウム、亜鉛、銅、セレンなどの生体必須ミネラルの一部あるいは全部が対象となる。また、用いるミネラルの形態には制限はないが、たとえばカルシウムでは、塩化カルシウム、クエン酸カルシウム、グリセロリン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、乳酸カルシウム、パントテン酸カルシウム、ピロリン酸二水素カルシウム、硫酸カルシウム、リン酸三カルシウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウムなどの化学的合成品の食品添加物、及び貝カルシウム、骨カルシウムなどの天然カルシウムが対象となる。鉄では、塩化第二鉄、クエン酸第一鉄ナトリウム、クエン酸鉄、クエン酸鉄アンモニウム、グルコン酸第一鉄、乳酸鉄、ピロリン酸第一鉄、ピロリン酸第二鉄、硫酸第一鉄などの化学的合成品の食品添加物、及びヘム鉄などの天然鉄が対象となる。
【0025】
また、粉末飲食物全体に対するミネラル類の合計濃度は、ミネラル類を効率よく摂取する観点では、たとえば0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、さらに好ましくは0.5重量%以上とする。また、粉末飲食物全体に対するミネラル類の合計濃度は、粉末飲食物を液体に分散させる際の沈澱量をさらに効果的に減少させる観点では、たとえば5重量%以下、好ましくは3重量%以下、さらに好ましくは2重量%以下とする。
【0026】
また、粉末飲食物全体に対するカルシウムの濃度は、カルシウムを効率よく摂取する観点では、たとえば0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、さらに好ましくは0.5重量%以上とする。また、粉末飲食物全体に対するカルシウムの濃度は、粉末飲食物を液体に分散させる際の沈澱量をさらに効果的に減少させる観点では、たとえば5重量%以下、好ましくは3重量%以下、さらに好ましくは2重量%以下とする。
【0027】
本発明に用いられるγ−PGAは納豆の粘質物中のγ−PGAを抽出して用いてもよく、納豆菌等のバチリス属の菌体外に分泌するγ−PGAを用いてもよい。また、納豆粘質物中の、あるいは納豆菌が同時に分泌するレバンを含んでいても何ら支障がない。また、所定の分子量のγ−PGAを得るには、当該分子量より大きいγ−PGAを酸あるいはγ結合を分解する腸内には存在しない特殊な酵素により低分子化する方法と、納豆菌等の培養により当該分子量のγ−PGAを分泌させる方法があるが、そのどちらのγ−PGAを用いても何ら影響しない。
【0028】
γ−PGAは一般にナトリウム塩として得られるが、カリウム塩、カルシウム塩およびマグネシウム塩等の他の金属塩あるいはフリーのポリグルタミン酸であってもよい。
【0029】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明した。これらはあくまで例示であり、種々の変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0030】
たとえば、以上においては、粉末状タンパク質を含む粉末飲食物を分散させる際にγ−PGAを用いる場合を例に説明したが、本発明の粉末飲食物用分散剤は、ココア、青汁粉末や朝鮮人参粉末等の健康補助パウダー、粉末状漢方薬等の食物繊維を含む粉末飲食物を溶解乃至分散させる際に用いることもできる。
【実施例】
【0031】
(プロテイン飲料の調製)
以下の手順で、実験例1〜3の各プロテイン飲料を調製した。なお、これらの実験例において、実験例3は比較例に対応する。
(実験例1)
市販の粉末状プロテイン20gとγ−PGA(味の素株式会社製カルテイク、登録商標)0.2gとをビニール袋に入れて混合した。得られた混合物を蓋つき容器に入れて、市販の牛乳50mLを加えて振り混ぜた。
【0032】
(実験例2)
市販の粉末状プロテイン20gとγ−PGA(味の素株式会社製カルテイク、登録商標)0.6gとをビニール袋に入れて混合した。得られた混合物を蓋つき容器に入れて、市販の牛乳50mLを加えて振り混ぜた。
【0033】
(実験例3)
市販の粉末状プロテイン飲料を蓋つき容器に入れて、市販の牛乳50mLを加えて振り混ぜた。
【0034】
以上の実験例における、粉末状プロテインに対するγ−PGAの割合は、以下のとおりである。
実験例1:1重量%
実験例2:3重量%
実験例3:0重量%
また、以上の実験例で用いたγ−PGAの分子量は、3万程度であった。
【0035】
(官能評価)
実験例1〜3により得られた各プロテイン飲料の滑らかさおよび酸味について、5名の評価パネルが官能評価した。滑らかさおよび酸味のいずれについても、実験例3のプロテイン飲料を基準(ゼロ)とし、これに対する+3〜−3の7段階評価とした。結果を図1に示す。図1において、以下のように評価した。
滑らかさ:ざらざらしているほど値が小さく(負)、滑らかであるほど値が大きい(正)
【0036】
図1に示したように、粉末状プロテインを分散させる際にγ−PGAを加えることにより、飲食時のざらつき感が抑制されて、滑らかな飲み心地となった。
【0037】
(沈澱発生量の評価)
実験例1〜3の各プロテイン飲料について、沈澱発生量を評価した。プロテイン飲料4gを50mL容のネスラー管に入れて、40mLの水を加えた。そして、1分間(35回程度)転倒攪拌した。そして、実験例1および実験例2の試料については、6mol/LのNaOH水溶液を用いて、実験例3のpHであるpH6.5に調製した。なお、pH未調整時のpHについては、実験例1により得られた試料がpH6.3、実験例2により得られた試料がpH6.1であった。そして、室温(25±2℃)にて30分、1時間、3時間および6時間静置後に、沈澱層の高さを計測した。
【0038】
図2は、各試料の沈澱量の経時変化を示す図である。図2に示したように、粉末状プロテインを分散させる際にγ−PGAを加えることにより、調製直後の沈澱発生量が減少していた。また、沈澱量の少ない状態が長時間維持された。
【0039】
(濾過性の評価)
以下の手順で、実験例4〜6の各プロテイン飲料を調製した。得られた各試料を40℃に加温して、濾紙(ADVANTEC社製No.2、直径90mm)を用いた水流式減圧濾過を行った(N=2)。そして、全量ろ過するまでの時間を計測した。なお、これらの実験例において、実験例6は比較例に対応する。
【0040】
(実験例4)
市販の粉末状プロテインと、粉末状プロテインに対して1重量%のγ−PGA(味の素株式会社製カルテイク、登録商標)とをビニール袋に入れて混合した。得られた混合物0.5gを蓋つき容器に入れて、市販の牛乳50mLを加えて振り混ぜた。
【0041】
(実験例5)
市販の粉末状プロテインと、粉末状プロテインに対して3重量%のγ−PGA(味の素株式会社製カルテイク、登録商標)とをビニール袋に入れて混合した。得られた混合物0.5gを蓋つき容器に入れて、市販の牛乳50mLを加えて振り混ぜた。
【0042】
(実験例6)
市販の粉末状プロテイン0.5gを蓋つき容器に入れて、市販の牛乳50mLを加えて振り混ぜた。
【0043】
図3は、実験例4〜6の試料の濾過時間を示す図である。図3に示したように、γ−PGAの添加量に相関して、濾過時間が短縮された。この結果から、γ−PGAの添加により粉末状プロテインの分散性が向上していると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】実施例におけるプロテイン飲料の官能評価結果を示す図である。
【図2】実施例におけるプロテイン飲料の沈澱発生量を示す図である。
【図3】実施例におけるプロテイン飲料の濾過性を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ−γ−グルタミン酸またはその塩を含有する粉末飲食物用分散剤。
【請求項2】
粉末状プロテインとともに用いられる請求項1に記載の粉末飲食物用分散剤。
【請求項3】
顆粒状または粉末状である請求項1または2に記載の粉末飲食物用分散剤。
【請求項4】
ポリ−γ−グルタミン酸またはその塩を含有する粉末飲食物。
【請求項5】
粉末状プロテインをさらに含み、前記粉末状プロテインに対する前記ポリ−γ−グルタミン酸の割合が、0.01重量%以上10重量%以下である請求項4に記載の粉末飲食物。
【請求項6】
ミネラル類をさらに含む請求項4または5に記載の粉末飲食物。
【請求項7】
請求項1乃至3いずれかに記載の粉末飲食物用分散剤を含むプロテイン飲料。
【請求項8】
粉末飲食物を液体に溶解乃至分散させるに際し、前記粉末飲食物とともにポリ−γ−グルタミン酸またはその塩を溶解させる飲料の製造方法。
【請求項9】
前記粉末飲食物が、粉末状プロテインを含み、前記粉末状プロテインに対する前記ポリ−γ−グルタミン酸の割合が0.01重量%以上10重量%以下である請求項8に記載の飲料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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