説明

粉状難燃剤組成物

【課題】難燃剤の多くが、その成分中にリン(P),ホウ素(B),ハロゲン族(F,Cl,Br,Iなど)を含み、これが燃焼時の危険物の誘発や発生、及び社会環境と人の健康に対して大きな問題を解消するため、より安全で低コストであり従来から汎用品として重宝され、実用性のある、硫酸塩を中心とする粉状難燃剤組成物を提供する。
【解決手段】水溶性の硫酸塩(とりわけNH,K,Na,Mg)に注目し、化学合成法として相性の良いスルファミン酸を選定し、これらのpH,相溶性,複塩の形成,バッファ作用,コストなどに有利で、しかも安全性が高いという特長を具備した限定条件下で、その内容を精査し、硫酸塩が30〜80w%、スルファミン酸及びスルファミン酸塩などのアルカリ塩が10〜50w%の難燃剤が得られた。(10%水溶液のpHが5〜9)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、織布や不織布、その他シート加工品や成形物に、化学的加工により難燃度を向上させ、結果として安全な防火対策に資するものである。
【0002】
特に、水性物の欠点である水の存在を排して、ドライ方式で粉状体を成し、現場で自由に水やその他の配合作業の範囲を拡大でき、汎用品として利用しやすくすると共に、固形物や練状物などにも加工しやすい形態を提供する事にある。
【0003】
難燃剤組成物は、水またはある種のソルベント(溶媒)に溶解や分散させるのが一般的である。一方、近年のビルや建物などの火災において、本来の火気その物よりも、当該建築物に内在する有害成分の昇温着火による尊い人命の損失や、二次三次災害の発生への危険度も加わり、建築物などの設計や建設と共に、より合理的で簡便な工法の出現が望まれるところである。
【発明の解決しようとする課題】
【0004】
この難燃剤の中で、更に大きな問題である環境汚染や自然破壊のきっかけになる物質、とりわけハロゲン系やリン系の物質は、その実用性の大きさにもかかわらず、これらの物質を廃止する事が急務のテーマとして注目され、今後の難燃剤の盛衰にも関わる案件として、当事者に課せられた重大な条件である。
【0005】
具体的には、リン系(ポリフォスフェート,有機リン,リン酸塩など),ハロゲン系(F,Cl,Br,I系),アルカリ剤系(Ca,Mg,Al系),セラミック系(ドロマイト,ゼオライト,ベントナイト,クオーツなど),ホウ素含有物,有機ポリマー系(ナフタレン,テビロン,アミノ酸系など)など多種雑多にある中で、最近安心であるとされているクオーツ(石英)の発癌性があるとクローズアップされ、その様な原料粉体からの肺癌や肺気腫などの発症への対策も講じなければならない。
【0006】
本発明人はその事実として液状の難燃剤を平成21年9月21日に出願し、その中で歴史的に有用性の高い硫酸塩をベースとして、その物性を細部に亘り検討し、その意外性を見直して一つの成果を得たのである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、これらの難燃剤の内外に露見した問題を全て解決する事を目的として、従来は軽視されがちであった物質を精査し、本発明の構成に必須の条件として、法令対策(PRTRなど),労働環境(労働安全衛生法),水質汚染(水質汚濁防止法),発癌やその他発病の軽減に加えて、原料の無毒性などを克服し、常温で湿度60%RHの下で少なくとも6カ月以上安定な組成物を見出し、本発明に至った。
【0008】
本発明が具備する全ての条件の中で、当該成分は水に溶けやすく(20%以上)、10%水溶液においてpHとして4〜10(好ましくはpH5〜9)、即ち中性とする。このpH設定が本発明を商品化した時の流通の範囲で、凝結,発火,発泡,発臭,外観異変,分解などを引き起こさないことと、これが従来のものと優位性のある難燃効果を奉することの検討である。特にアンモニウム塩に拘っている事から、悪臭の代表であるアンモニアやアミン臭は絶対回避しなければならない。
【0009】
本発明は、この従来から当り前にある、塩と酸と中和剤の組み合わせを調節し、充分な難燃効果を発揮させる事にある。
【0010】
スルファミン酸以外の固体酸と、硫酸塩とによるものであると、水溶液のpHとして目標内に設定できない。
これは硫酸塩(アンモニア)が弱酸性であるから、スルファミン酸と複塩的な物を生じ、結果としてpHが4〜9に設定でき、しかも極めて難燃性の高いスルファミン酸が部分的に複塩を形成してソリューションになっているためである。尚、スルファミン酸の生理的研究に関しては、米国ANTHONY.M.AMBROSE(vol25,No1,JOURNAL OF INDUSTRIAL HYGIENEMS TOXISOLOY)を参照すると良い。
【0011】
本発明の最大のポイントは、従来から原理として、また公用されている硫酸塩を、スルファミン酸と如何に上手く馴染ませるかということと、安全性や水質などに対しての低害性に注目し、スルファミン酸の長所でもあり欠点でもある、水に難溶性であるという部分と、その塩こそが保有する防火効果に注目し、実用化に到達したものである。
【本発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の具体的な条件をまとめると、(1)硫酸塩((NHSO,KSO,NaSO,MgSOなど)を30〜80w%、(2)スルファミン酸(NHSOH)を10〜50w%、(3)重炭酸ソーダ,ソーダ灰,カリ灰,珪酸塩(Na,K),セスキ炭酸塩などを10〜40w%、(4)また必要に応じて界面活性剤(特にアニオン系のAOS,AS,AES,石鹸や、ノニオン系の高級アルコール、アルキルグルコシドなど)を0.2〜5w%含ませ、(2)+(3)が30〜80w%(スルファミン酸の塩そのものでも可)であって、且つ(1)>(2)+(3)であり、pHが5〜9の範囲に設定されている事である。
【0013】
本発明の完成プロセスの中で特筆すべきは、スルファミン酸とその塩の挙動である。スルファミン酸はそれ自体が難水溶性であり、しかも放置すると凝固して水不溶性になり易い。しかしこれをアルカリ塩で中和し、スルファミン酸塩に到達するように配合すれば、水溶性も安定性も大幅に向上することと、硫酸塩(pHは中性〜酸性)の存在下で、スルファミン酸塩と硫酸塩の両者が上手く溶液化することと、硫酸塩の中にスルファミン酸塩を吸収して中性に近い、硫酸−スルファミン酸の連合した複塩が形成され、本発明の用途に相応しい難燃効果が発揮されることである。つまり硫酸塩だけを悪戯に増加させたり、スルファミン酸塩を硫酸塩を超える割合とすれば、溶液の安定性は悪くなり、また各種成分のバランスが崩れて分離する。この組み合わせの条件を規定した事の意味が、本発明の意外性を発揮するポイントとなっている。
【0014】
具体的に列挙すれば、硫酸塩(NH)が10%、スルファミン酸塩(Na)が5%、それぞれの不燃ファクターを計算すれば明らかである。事実、セルロース(10g/m)にて、それぞれに一定の火気を付加した時、発火まで硫酸塩は2〜3秒、同じくスルファミン酸塩も2〜3秒、となるのに、両者を配合してpHをほぼ中性の7.2にキープした時は、8〜12秒もかかっている。つまり着火し難く、着火してもすぐに消化されることにある。因みに15%の硫酸塩は5秒前後、15%のスルファミン酸塩(完全水性ではない)は4〜5秒となり、決定的に混合体とpHの規定が効果に寄与している。つまりこの両者は完全水溶液に到達した時、はじめて達成されるのである。
【0015】
ベストな条件は、硫酸アンモニウムが50〜60w%、スルファミン酸が15〜25w%、ソーダ灰(または重炭酸ソーダ,珪酸ソーダ,硫酸塩,珪酸塩)が5〜25w%で、10%水溶液のpHが6〜8である。この中にAOSやASなど(または9〜12モルのEO付加した高級アルコール,脂肪酸アルカノールアミドなどのノニオン)を0.2〜5w%加入させれば、これが浸透力や吸収力を上げ、被処理体への難燃効果が向上する訳である。
【0016】
本発明の組成物は粉末状を前提としているので、リボンミキサーやターニングミキサーなどでシングルブレンドするだけで、自由に配合できる特徴を保有する。また、火気や爆発物は使わず、経時や流通上は完全密封を避け(微量のCOガスが発生するため)、ガス抜き栓やガスバリアを付与しただけで保管する事を心がけることである。
【0017】
本発明の難燃剤は、ほぼ中性の水性粉体であり、時に石膏,チタン白,硫酸亜鉛,クオーツ,ベントナイト,ゼオライト,炭酸カルシウム,アルミナ,珪藻土,活性白土,コロイダルシリカ(アエロジル),シクロデキストリン,セルロース化合物,多糖類,カーボンファイバー,FRPパウダーなど、脱湿や安定化、防火向上、外観向上などとして加えても良い。
【本発明の効果】
【0018】
本発明がもたらす効果は、次の通り多岐に亘る。(1)安全性や安定性、原料サプライ、ハンドリング、保管、配送に極めて優れている。(2)酸とアルカリの混合なるも、爆発や異常発泡、発熱、膨潤も無く、化学変化で異臭の発散や外観での凝固や変色なども無く、常温下で6カ月以上保管できる。(3)万が一の場合は水溶液にして排水すれば、中性塩類であるのでアフターケアやトラブルも生じない。(4)粉末体であるが故に、色々な物質と、その目的に応じて配合できる。
【0019】
例えば、防火向上,白度向上,吸湿を防止するなどにより、チタン白,硫酸バリウム,マイカ,酸化セリウム,蛍光剤,蓄光剤,EL粉末,貴金属(金など)の粉体,色素,ベンガラ,クロロフィル,マラカイトグリーン(CVLと併用),発光素子(Ga,In,As,Tlなど)などで装飾し、プラスチックパウダー(PVC,PA,PS,PVA,PVP,メラミンなど),高分子体(アクリル,多糖類,シクロデキストリン,セルロースポリマーなど)で付加価値を付け、消臭目的で粉末ClO,ポリフェノール,モレキュラーシーブ,活性炭,シリコーン誘導体など、またベントナイト,ドロマイト,ゼオライトなどを適宜加入する事も出来る。
【0020】
更に本発明の組成物自体が、その内容成分の性格から、ノン界面活性剤の全自動洗濯機用洗剤,化学肥料,消臭剤,ガラスや鏡のクリーニング剤などに、そのまま水で薄めて(時にアルコールを加えて)応用できる効果も有している。次に実施例を挙げて、従来品との有意差を含め、具体的に証明する。
【0021】
以下の実施例1[表1]の通り試作品を作製し、本発明と従来品との効果の有意差を確認した。
【表1】

実施例1の試作品に対して以下のテストを実施した。
【0022】
1,10%水溶液のpH(20℃)[表2]
【表2】

【0023】
2,外観の経時変化(0.1mm厚のPE袋に入れ、常温で6カ月放置)[表3]
評価は下記の通り
◎:殆ど変化なし
○:少し(部分的に)凝固あり(小さな粒状)
×:大きな凝固あり、ベトつきあり
【表3】

【0024】
3,30%水溶液にする際のスピード(20℃)[表4]
評価は下記の通り
◎:速溶性(1分以内)で、水溶液はほぼ透明
○:白濁して、僅かに沈殿物あり
×:白濁して、晶出物が発生
【表4】

【0025】
4,燃焼テスト(簡便法)[表5]
[対象布帛]
a:レーヨン(26g/m
b:ポリエステル65%/コットン35%(51g/m
[テスト方法:A]
サンプルに直接ライターで火炎を接触させて着火させる
評価は下記の通り
◎:着火するも、すぐに消える
○:逐次燃焼するが、消えていく
×:結果的に燃え尽きる
[テスト方法:B]
ローソクの炎上30mmの位置にサンプルをかざす
評価は下記の通り
◎:着火するも、すぐに消える
○:逐次燃焼するが、消えていく
×:結果的に燃え尽きる
[サンプル作製]
2種の布帛共に、各水溶液に、含浸180秒、プレス,ドライ(アイロン)と処理をする
また、[表1]の水溶液の濃度は各テスト状況において20%と40%の2通り作製する
【表5】

【0026】
[考察]
本発明の最大のポイントである硫酸塩と、スルファミン酸とその塩のバランスが取れると、見事に上記の如く相乗効果が表れる。本発明の3つの条件である、主成分が硫酸塩、スルファミン酸塩とした時のpHが5〜9、そしてスルファミン酸塩自体が20w%以上含まれること。その結果が歴然とこの確認を証明している。
【0027】
以下の実施例2[表6]の通り試作品を作製し、本発明の効果を証明した。
【表6】

実施例2の試作品に対して以下のテストを実施した。
【0028】
1,10%水溶液のpH(20℃)[表7]
【表7】

【0029】
2,外観の経時変化(0.1mm厚のPE容器に入れ、常温で6カ月放置)[表8]
評価は下記の通り
◎:殆ど変化なし
○:少し(部分的に)凝固あり(小さな粒状)
×:大きな凝固あり、ベトつきあり
【表8】

【0030】
3,20%水溶液にする際のスピード(20℃)[表9]
評価は下記の通り
◎:速溶性(1分以内)で、水溶液はほぼ透明
○:白濁して、僅かに沈殿物あり
×:白濁して、晶出物が発生
【表9】

【0031】
4,燃焼テスト(テスト方法はJIS L−1091準拠)[表10]
[対象布帛]
a:コットン(46g/m
b:ポリエステル65%/コットン35%(40g/m
c:アクリル80%/コットン20%(96g/m
[合格基準]
以下の項目全て、基準値を満たす場合に合格とする(小数点以下は切り上げ)
炭化面積:30cm以下
残炎時間:3秒以内
残じん時間:5秒以内
炭化距離:最長距離で20cm以下
[サンプル作製]
3種の布帛共に、各水溶液に、含浸180秒、プレス,ドライ(アイロン)と処理をする
また、[表6]の水溶液の濃度は各テスト状況において30%と50%の2通り作製する
【表10】



【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)硫酸塩(Na,K,NH,Mg,アルカノールアミン(E,P))を30〜80w%
(2)スルファミン酸として(Na,K,NH,アルカノールアミン(E,P)で、(3)により生成するもの、または塩そのもの)を10〜50w%
(3)アルカリ塩類(炭酸塩,セスキ炭酸塩,珪酸塩など)を10〜40w%
これらから成り、(2)+(3)が30〜80w%であって、且つ(1)>(2)+(3)で、この10%水溶液のpHが5〜9となるように(2)と(3)を調整した粉状難燃組成物。
【請求項2】
[請求項1]の難燃組成物に、水性の界面活性剤を0.2〜5w%含ませて、20℃での10%水溶液のpHが5〜9となるように調整した粉状難燃組成物。

【公開番号】特開2013−104058(P2013−104058A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−262908(P2011−262908)
【出願日】平成23年11月14日(2011.11.14)
【出願人】(509036300)株式会社東企 (13)
【Fターム(参考)】