説明

粒子強化アルミニウム複合材料の製造方法

【課題】アルミニウム合金中の元素含有量を正確に調整でき、強度、耐摩耗性、高温特性の改善を図った粒子強化アルミニウム複合材料の製造方法を提供する。
【解決手段】粒径5μm以上かつ密度3g/cm3以上のアルミナ、スピネル、炭化ケイ素のうち少なくとも1つのセラミックス粒子を、撹拌法で溶解炉内の溶湯アルミニウム合金に添加して分散させた後、700〜800℃の温度で10min以上撹拌を停止して添加したセラミックス粒子を溶解炉の下部に沈殿させ、溶解炉の下部に複合溶湯を形成すると共に、上部に合金溶湯を形成し、その合金溶湯の一部を取り出して凝固し、これを発光分析して上記合金溶湯の元素組成を決定し、決定した元素組成に基づき、セラミックス粒子を添加した溶湯アルミニウム合金中の元素含有量を調整する粒子強化アルミニウム複合材料の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス粒子を添加した高強度な粒子強化アルミニウム複合材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の製造方法では、粒子分散強化アルミニウム合金複合材料(以下、複合材料ともいう)は、溶湯アルミニウム合金へのセラミックス粒子の直接混合(混合法)、セラミックス粒子の粒子プリフォームへの圧力による溶湯アルミニウム合金の含浸(含浸法)、金属酸化物粉末の溶湯アルミニウム合金への添加によるアルミナ粒子のin-situ生成(反応法)によって作られている。
【0003】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、次のものがある。
【0004】
【特許文献1】特開平8−270792号公報
【特許文献2】特開2002−96154号公報
【特許文献3】特開2004−66302号公報
【特許文献4】特許第2784091号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、混合法を用いる場合、溶湯アルミニウム合金と粒子との濡れ性が良くないため、粒径10μm以下または粒子の添加量10wt%以上のセラミックス粒子を溶湯アルミニウム合金に分散させることは非常に難しい。現状では、混合法において粒径10μm以下または粒子の添加量10wt%以上の粒子を溶湯アルミニウム合金に分散する技術はまだ確立されたとは言えない。粒径10μm以下または粒子の添加量10wt%以上のセラミックス粒子を撹拌法で溶湯アルミニウム合金に添加すると、粒子間の凝集が生じ、複合材料中に未含浸の粒子凝集体が残される。このような未含浸の粒子凝集体は複合材料の機械的特性を劣化させる。
【0006】
また、粒子プリフォームを用いて、圧力鋳造法で粒子分散アルミニウム複合材料を作製する場合、予め粒子プリフォームを作製する必要がある。
【0007】
金属酸化物粉末の溶湯アルミニウム合金への添加によるアルミナ粒子のin-situ生成においては、上述と同じように粒径10μm以下の金属酸化物粒子を用いると、その混合もかなり難しい。
【0008】
ところで、SiC(炭化ケイ素)、MgAl24などのスピネル、Al23(アルミナ)などのセラミックス粒子をアルミニウム合金に複合すると、以下の(i)〜(iii)の理由により、現状の分析手段では、アルミニウム合金中の元素組成の分析は非常に難しく、アルミニウム合金中のMg、Cu、Ni、Mn、Si、Cr、Zn、Tiなどの元素含有量の正確な調整ができなくなる場合がある。
【0009】
(i)特に、溶湯アルミニウム合金を700℃以上の温度で加熱すると、合金中のMgは酸化しやすく、いわゆるMgの焼損が生じ、アルミニウム合金中のMg含有量が基準値や所望値より低くなり、合金の機械的特性が劣化してしまう。したがって、的確にアルミニウム合金中のMgを把握する必要があり、Mgなどの合金元素の含有量の把握が材料特性の改善にとっても非常に重要である。
【0010】
(ii)通常の鋳造用アルミニウム合金にはSiが含まれているので、SiC粒子を複合する場合、発光分析ではSiC粒子中のSiの影響で合金中のSi含有量だけではなく、他の元素の正確な分析もできない。強酸やアルカリ塩でアルミニウム合金を溶かしてから、発光分析の1つであるICP(高周波誘導結合プラズマ)で分析する方法があるが、時間がかかるため、リアルタイムの分析ができなく、生産現場には向かない。
【0011】
(iii)MgAl24粒子をアルミニウム合金に複合すると、発光分析のとき、スピネル型結晶構造の特性から放電状態が極端に悪くなり、まったく分析ができない。Al23粒子をアルミニウム合金に複合する場合でも、MgAl24粒子の場合と同じようにまったく分析ができない。強酸やアルカリ塩でアルミニウム合金を溶かしてからICPで分析する方法があるが、添加されたMgAl24粒子とAl23粒子と合金中のMgとの反応で生成されたMgAl24粒子も溶ける可能性があるので、ICPで粒子分散強化アルミニウム合金複合材料中の元素の分析ができないのが現状である。
【0012】
この他にも、粒子分散強化アルミニウム複合材料において、マトリックス(母材合金)中に分散している粒子の粒径が細かければ細かいほど、また粒子の含有量が多ければ多いほど、複合材料の強度、耐摩耗性、耐熱性が良くなるので、粒径の細かいまたは粒子の含有量の多いものが望まれている。また、マトリックスであるアルミニウム合金そのものの性能を発揮させるにも、アルミニウム合金中の元素の含有量を的確に把握する必要がある。
【0013】
そこで、本発明の目的は、アルミニウム合金中の元素含有量を正確に調整でき、強度、耐摩耗性、高温特性の改善を図った粒子強化アルミニウム複合材料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために創案された本発明は、粒径5μm以上かつ密度3g/cm3以上のアルミナ、スピネル、炭化ケイ素のうち少なくとも1つのセラミックス粒子を、撹拌法で溶解炉内の溶湯アルミニウム合金に添加して分散させた後、700〜800℃の温度で10min以上撹拌を停止して添加したセラミックス粒子を溶解炉の下部に沈殿させ、溶解炉の下部に複合溶湯を形成すると共に、上部に合金溶湯を形成し、その合金溶湯の一部を取り出して凝固し、これを発光分析して上記合金溶湯の元素組成を決定し、決定した元素組成に基づき、セラミックス粒子を添加した溶湯アルミニウム合金中の元素含有量を調整する粒子強化アルミニウム複合材料の製造方法である。
【0015】
決定した元素組成に基づき、上記複合溶湯と上記合金溶湯を再撹拌しながら上記複合溶湯と上記合金溶湯にAl、Mg、Cu、Ni、Mn、Si、Cr、Zn、Tiのうち少なくとも1つの金属またはそれらの合金を添加し、セラミックス粒子を添加した溶湯アルミニウム合金中の元素含有量を調整するとよい。
【0016】
上記複合溶湯と上記合金溶湯を再撹拌する前に、セラミックス粒子を添加した溶湯アルミニウム合金中のセラミックス粒子の含有量を高めるため、上澄みの上記合金溶湯を除去してもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、アルミニウム合金中の元素含有量を正確に調整でき、粒径5μm以上のセラミックス粒子により強化されるため、強度、耐摩耗性、高温特性が改善され、高強度軽量化部材として自動車産業などに応用できるセラミックス粒子強化アルミニウム複合材料が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。
【0019】
本実施形態に係る粒子強化アルミニウム複合材料(以下、複合材料ともいう)の製造方法は、粒径5μm以上、好ましくは5〜20μm、さら好ましくは5〜15μmで、かつ溶湯アルミニウム合金の密度よりも大きい密度3g/cm3以上のアルミナ、スピネル、炭化ケイ素のうち少なくとも1つのセラミックス粒子を、撹拌法で溶解炉内の溶湯アルミニウム合金に添加して分散させた後、700〜800℃の温度で10min以上撹拌を停止して添加したセラミックス粒子を溶解炉の下部に沈殿させ、溶解炉の下部に複合溶湯を形成すると共に、上部に合金溶湯を形成し、その合金溶湯の一部を取り出して組成決定用試料として凝固し、これを発光分析して合金溶湯の元素組成を決定し、決定した元素組成に基づき、セラミックス粒子を添加した溶湯アルミニウム合金中の元素含有量を調整する方法である。
【0020】
セラミックス粒子は、母材である溶湯アルミニウム合金に分散させることで、単体では主に複合材料の強度、耐摩耗性、高温特性を高める。粒径5μm以上かつ密度3g/cm3以上のセラミックス粒子を用いるのは、粒径が5μm未満であると、溶湯アルミニウム合金中にセラミックス粒子を単体で分散させるのが難しくなり、密度3g/cm3未満であると、セラミックス粒子を溶解炉の下部に沈殿させるのが難しくなるからである。
【0021】
撹拌法は、合金の製造で一般的に用いられる方法であり、溶解炉などの撹拌用容器内に母材の溶湯を入れ、その溶湯に添加物を添加し、半凝固(半溶融)状態で羽根付きの撹拌棒を回転させ、溶湯と添加物を撹拌する方法である。
【0022】
溶湯アルミニウム合金は、Alと、Siと、Mgとを含み、さらにCu、Ni、Fe、Zn、Mn、Ti、Crのうち少なくとも1つの金属元素を含む溶湯からなる。
【0023】
溶湯アルミニウム合金の温度は700℃より低いと、溶湯の粘度が高くなり、セラミックス粒子の沈降が遅くなるので、700℃以下の温度でセラミックス粒子を添加した場合でも、撹拌停止時には溶湯アルミニウム合金を一旦700℃以上に昇温する必要がある。
【0024】
一方、炭化ケイ素の粒子を添加した場合、740℃を超える高温で溶湯アルミニウム合金を加熱すると、SiCは溶湯アルミニウム合金中のAlと反応してしまうので、撹拌時と撹拌停止時の溶湯アルミニウム合金の温度は700〜740℃でよい。スピネル粒子(MgAl24など)を添加した場合、溶湯アルミニウム合金とほとんど反応しないので、撹拌時と撹拌停止時に溶湯アルミニウム合金を800℃まで加熱してもよい。ただし、アルミナ粒子(Al23)を添加した場合、アルミナ粒子は溶湯アルミニウム合金中に含まれているMgと反応し、アルミナ粒子表面にMgAl24微粒子が生成する。Al23粒子と溶湯アルミニウム合金中のMgとの反応は溶湯アルミニウム合金の温度とその保持時間と共に進行し、溶湯アルミニウム合金中のMgが減り続けるので、複合材料の製品化時、鋳込み前のMg含有量の調整がとても大事である。
【0025】
また、溶解炉の下部にセラミックス粒子を沈ませる時間(撹拌停止の時間)としては、添加されたセラミックス粒子とその粒径に影響されるが、撹拌停止の時間は10min以上が望ましい。セラミックス粒子の含有量がより多い複合材料を作製する場合、撹拌停止時間を、好ましくは10〜60minにするとよい。
【0026】
溶解炉の下部に形成される複合溶湯は、セラミックス粒子と母材である溶湯アルミニウム合金とが複合した溶湯であり、セラミックス粒子と母材中の成分が反応して生成された生成粒子(例えば、撹拌中にアルミナとMgとが反応して生成されるスピネル粒子)も含む。溶解炉の上部に形成される合金溶湯は、複合溶湯からセラミックス粒子と生成粒子とを除いたものであり、粒子を含まない溶湯アルミニウム合金である。
【0027】
組成決定用試料を採取するには、合金溶湯の一部を取り出し、金型に鋳造して凝固するとよい。
【0028】
発光分析は、発光分光分析方法である。この方法では、まず、試料を高電圧スパークやプラズマなどの励起手段で高温に励起すると、試料中の各元素が励起される。励起された各元素が低い準位に戻るときに光が放射されるので、この光を回折格子などで分光して元素ごとに決まっている輝線スペクトルに分け、その輝線スペクトルの強度を測って試料中の各元素の含有量を短時間で測定する方法である。
【0029】
発光分析で決定した組成決定用試料の元素組成に基づき、セラミックス粒子を添加した溶湯アルミニウム合金中の元素含有量を調整するには、複合溶湯と合金溶湯を再撹拌しながら、複合溶湯と合金溶湯にAl、Mg、Cu、Ni、Mn、Si、Cr、Zn、Tiのうち少なくとも1つの金属またはそれらの合金を添加し、セラミックス粒子を添加した溶湯アルミニウム合金中の元素含有量を所望の量に調整することで行う。
【0030】
Mg粒子は、単体では主に複合材料の強度を高める。Cu粒子は、単体では主に複合材料の強度と硬度を高める。Ni粒子は、単体では主に複合材料の強度と耐熱性を高める。Si粒子を添加すると、複合材料の熱膨張係数が小さくなり、溶湯の流動性、鋳型の充填性と耐摩耗性が良くなる。Zn粒子は、単体では主に複合材料の強度を高める。Mn粒子は、単体では主に複合材料の強度と耐食性を高める。Ti粒子は、単体では主に複合材料の耐食性を高める。Cr粒子は、単体では主に複合材料の耐摩耗性を高める。
【0031】
本実施形態に係る製造方法は、まず、セラミックス粒子を溶解炉内の溶湯アルミニウム合金に添加して撹拌により分散させた後、10min以上撹拌を停止する。このとき、セラミックス粒子は、粒径が5μm以上と大きく、また密度が3g/cm3以上と母材である溶湯アルミニウム合金よりも大きいことから、粒子自身の重みで沈降するので、溶解炉の上部にセラミックス粒子の入っていない溶湯アルミニウム合金(合金溶湯)が形成される。
【0032】
合金溶湯の一部を、組成決定用試料として直接採取して凝固し、凝固した組成決定用試料を発光分析することで、セラミックス粒子と母材である溶湯アルミニウム合金とが反応した後の合金溶湯の元素組成を短時間で正確に決定でき、反応で不足となった(減少した)元素とその不足量が正確に把握できる。
【0033】
そして、決定した元素組成に基づき、再撹拌時に溶解炉内の溶湯に足りない分だけ新たに元素を添加すれば、セラミックス粒子を添加した溶湯アルミニウム合金の元素組成を、元の母材の組成に調整して回復でき、また、母材とは異なる組成に調整することも可能である。
【0034】
新たに元素を添加する場合は、そのときに不足しているAl、Mg、Cu、Ni、Mn、Si、Cr、Zn、Tiのうち少なくとも1つの金属を添加してもよいし、Alと、Mg、Cu、Ni、Mn、Si、Cr、Zn、Tiのうち少なくとも1つの金属との合金を添加してもよい。
【0035】
これにより、微細なセラミックス粒子が均一に分散した粒子強化アルミニウム複合材料の溶湯が得られる。その後、この複合材料の溶湯を金型に鋳込んで鋳造すれば、シリンダヘッド、ピストン、ピストンヘッドなどの自動車用部品を始めとする所望形状に作製された高強度軽量化部材が得られる。
【0036】
従来の方法では、例えば、アルミナ粒子を含んだアルミニウム複合材料を分析しても、アルミニウム合金中のMgの量が正確に把握できなかった。本実施形態に係る製造方法では、撹拌を10min以上停止し、粒子を含めない溶湯アルミニウム合金を形成し、それを分析することにより、例えば、反応で消耗したMgを把握することができ、不足したMgを補うことができる。Al−Si合金にMgを添加するとMg2Siの中間相の析出による熱処理効果で強度が高められるので、Mg含有量の調整がとても重要である。
【0037】
したがって、本実施形態に係る製造方法によれば、アルミニウム合金中の元素含有量を正確に調整でき、粒径5μm以上のセラミックス粒子により強化されているため、強度、耐摩耗性、高温特性が改善され、高強度軽量化部材として自動車産業などに応用できる粒子強化アルミニウム複合材料が得られる。
【0038】
ここで、本実施形態に係る製造方法と従来方法との違いをより明確に説明する。
【0039】
従来、特に特許文献2では、粒子を沈降させることにより粒子含有量の高いアルミ材料の作製と、粒子沈降後に溶湯の比重を測って粒子量を分析することにより複合材料の再溶解(利用)とについて記載されているが、粒子分散アルミ複合材料中のマトリックス(母材合金)の元素分析については触れられていなかった。特許文献2の試料の「組織調査」は、文字どおり組織の調査であり、元素組成の分析ではない。つまり、特許文献2では、試料の金属組織を観察するのみで、金属組織の観察により粒子の含有量を推測していた。
【0040】
本実施形態に係る製造方法は、製品となる合金溶湯の一部を取り出し、その元素組成を発光分析により短時間で決定することで、初めて母材アルミニウム合金の組成分析の方法を提供できるものであり、また、その後の分析結果によりアルミニウム合金の元素組成の調整を行っている。これにより、リアルに(製造中に)母材アルミニウム合金の元素組成の正確な調整が可能になった。
【0041】
また、本実施形態に係る製造方法では、複合溶湯と合金溶湯を再撹拌する前に、セラミックス粒子を添加した溶湯アルミニウム合金中のセラミックス粒子の含有量を高めるため、溶解炉内から上澄みの合金溶湯を適宜除去してもよい。上澄みの合金溶湯は、上述した組成決定用試料に比べて大量の合金溶湯である。
【0042】
この場合、除去した上澄みの合金溶湯を秤量した後、セラミックス粒子が所望の含有量となるように、発光分析で決定した組成決定用試料の元素組成に基づき、複合溶湯と合金溶湯を再撹拌しながら複合溶湯と合金溶湯にAl、Mg、Cu、Ni、Mn、Si、Cr、Zn、Tiのうち少なくとも1つの金属またはそれらの合金を添加し、セラミックス粒子を添加した溶湯アルミニウム合金中の元素含有量を所望の量に調整する。
【0043】
これにより、セラミックス粒子を添加した溶湯アルミニウム合金中において、セラミックス粒子の含有量を最大で40wt%にまで高められるので、粒子強化アルミニウム複合材料の強度、耐摩耗性、高温特性をより改善できる。
【実施例】
【0044】
(実施例1)
アルミニウム合金AC4C(4000g)を溶解炉(坩堝炉)内で半凝固状態に溶かし、撹拌しながらSiC粒子(平均粒径15μm、300g)を添加し、さらに720℃に加熱した後、撹拌を40min停止し、SiC粒子を沈降させた。粒子の含まない溶湯アルミニウム合金(1600g)を上澄みの合金溶湯として排出し、その粒子の含まないアルミニウム合金の組成の一部を発光分析で分析したところ、Mgの量は0.35wt%であった。坩堝炉に残った粒子を含んだ溶湯アルミニウム合金中のMg含有量は0.35wt%であるので、母材アルミニウム合金中のMgの量が0.4wt%になるようにAl−Mg合金を添加し、撹拌を再開した。その後、セラミックス粒子を含んだ溶湯アルミニウム合金を740℃に加熱した後、金型に鋳込んで、SiC(約10wt%)粒子強化AC4C合金複合材料を得た。SiC粒子強化AC4C合金複合材料を析出硬化するためのT6(溶体化処理後、人工時効硬化処理)で熱処理した後、その組織を観察した。SiC粒子は均一にアルミニウム合金中に分布していることが確認できた。この複合材料のビッカース硬さ(Hv)は195で、引張強度は379MPaであった。
【0045】
(実施例2)
アルミニウム合金AC4C(4000g)を溶解炉内で半凝固状態に溶かし、撹拌しながらアルミナ粒子(平均粒径10μm、320g)とMg(粒径3mm、16g)を添加し、さらに740℃に加熱した後、撹拌を10min停止し、アルミナ粒子を沈降させた。粒子の含まない溶湯アルミニウム合金の一部を採取し、発光分析用試験片を鋳込んだ後、発光分析でMgの量を分析した。溶湯アルミニウム合金のMgの含有量は0.25wt%であったため、アルミニウム合金中のMgが0.4wt%になるようにAl−Mg合金を添加した。その後、セラミックス粒子を含んだ溶湯アルミニウム合金を750℃に加熱した後、金型に鋳込んで、粒子(約7.5wt%)強化AC4C合金複合材料を得た。粒子強化AC4C合金複合材料をT6で熱処理した後、その組織を観察した。アルミナ粒子は均一にアルミニウム合金中に分布しているが、その周りに微細なスピネル粒子が生成された。この複合材料のビッカース硬さ(Hv)は165で、引張強度は368MPaであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒径5μm以上かつ密度3g/cm3以上のアルミナ、スピネル、炭化ケイ素のうち少なくとも1つのセラミックス粒子を、撹拌法で溶解炉内の溶湯アルミニウム合金に添加して分散させた後、700〜800℃の温度で10min以上撹拌を停止して添加したセラミックス粒子を溶解炉の下部に沈殿させ、溶解炉の下部に複合溶湯を形成すると共に、上部に合金溶湯を形成し、その合金溶湯の一部を取り出して凝固し、これを発光分析して上記合金溶湯の元素組成を決定し、決定した元素組成に基づき、セラミックス粒子を添加した溶湯アルミニウム合金中の元素含有量を調整することを特徴とする粒子強化アルミニウム複合材料の製造方法。
【請求項2】
決定した元素組成に基づき、上記複合溶湯と上記合金溶湯を再撹拌しながら上記複合溶湯と上記合金溶湯にAl、Mg、Cu、Ni、Mn、Si、Cr、Zn、Tiのうち少なくとも1つの金属またはそれらの合金を添加し、セラミックス粒子を添加した溶湯アルミニウム合金中の元素含有量を調整する請求項1記載の粒子強化アルミニウム複合材料の製造方法。
【請求項3】
上記複合溶湯と上記合金溶湯を再撹拌する前に、セラミックス粒子を添加した溶湯アルミニウム合金中のセラミックス粒子の含有量を高めるため、上澄みの上記合金溶湯を除去する請求項2記載の粒子強化アルミニウム複合材料の製造方法。