説明

粒子強化金属複合材料の製造方法

【課題】溶湯内でセラミック粒子を撹拌混合させる際に、セラミック粒子を均一に分散できる粒子強化金属複合材料の製造方法を提供する。
【解決手段】金属溶湯20中にセラミック粒子21pを添加して混合する際に、ホモジナイザー10を用いてセラミック粒子21pを溶湯中に分散させるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム等の溶湯中にセラミック粒子を分散させて複合化させて、機械的強度、耐摩耗性、高温特性を改善するための粒子強化金属複合材料の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
粒子分散強化アルミニウム合金等の複合材料においては、アルミニウムやアルミニウム合金等の溶湯中に数μm以下の微細粒子を添加することにより、アルミニウム複合材の機械的強度や耐摩耗性が向上することが知られており、特に溶湯に均一に微細粒子を分散させることで、機械的強度、耐摩耗性、高温特性に優れた粒子強化アルミニウム複合材料とすることができる。
【0003】
従来の粒子分散強化アルミニウム合金複合材料の製造方法は、溶湯(アルミニウム合金)を撹拌羽根で撹拌しながら粒子を添加する撹拌混合法、圧力による粒子プリフォームヘの溶湯アルミニウム合金の含浸(含浸法)、金属酸化物粉末の溶湯(アルミニウム合金)への添加によるアルミナ粒子のin‐situ生成(反インサイチュー応法)によって作られている(特許文献1,2)。
【0004】
撹拌混合法を用いる場合、溶湯(アルミニウム合金)と粒子との濡れ性が良くないため、粒径10ミクロン以下または粒子の添加量10mass%以上のセラミック粒子を溶湯(アルミニウム合金)への分散は非常に難しい。現状では、混合法において粒径10ミクロン以下または粒子の添加量10mass%以上の粒子を溶湯アルミニウムに分散する技術はまだ確立されたとは言えない。特に、粒径10ミクロン以下または10mass%以上のセラミック粒子を撹拌法で溶湯アルミニウム合金に添加すると、粒子間の凝集が生じ、複合材料中に未含浸の粒子凝集体が残される。このような未含浸の粒子凝集体は複合材料の機械的特性を劣化させる。
【0005】
また、粒子プリフォームを用いて、圧力鋳造法で粒子分散アルミニウム複合材料を作製する場合、予め粒子プリフォームを作製する必要がある。
【0006】
一方、金属酸化物の粉末の溶湯(アルミニウム)ヘの添加によるアルミナ粒子やAl−Mgスピネル粒子のin−situ生成においては、金属酸化物粒子と溶湯母材中のマグネシウムとアルミニウムとのin−situ反応により生成したアルミナ粒子またはスピネル粒子が、ナノサイズからミクロンサイズになるが、前述と同じように粒径10ミクロン以下の金属酸化物粒子を用いると、その混合もかなり難しく、十分なin−situ反応を起こすことが難しい問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−291450号公報
【特許文献2】特開2007−131879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上述のような従来の複合材料の作製法は、撹拌混合法が最も簡単な方法で、かつ安価で粒子分散アルミ複合材料を作ることができるが、前述のように分散される粒子のサイズが細かくなるにつれ、粒子の凝集体が生じ、複合材料の強度が劣化する。したがって、複合材料中の粒子の凝集体をなくす方法が望まれている。
【0009】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、溶湯内でセラミック粒子を撹拌混合させる際に、セラミック粒子を均一に分散できる粒子強化金属複合材料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、金属溶湯中にセラミック粒子を添加して混合する際に、ホモジナイザーを用いてセラミック粒子を溶湯中に分散させることを特徴とする粒子強化金属複合材料の製造方法である。
【0011】
請求項2の発明は、ホモジナイザーは、ジェネレーターの固定外刃と回転内刃が、窒化ケイ素、炭化ケイ素、黒鉛等のセラミック材料で形成される請求項1記載の粒子強化金属複合材料の製造方法である。
【0012】
請求項3の発明は、金属溶湯は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなり、セラミック粒子は、アルミナ(Al23)、スピネル(MgAl24)、炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(Si34)、炭化ホウ素(B4C)の粒子の1又は2以上を使用する請求項1記載の粒子強化金属複合材料の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、アルミニウム等の溶湯中のセラミック粒子をホモジナイザーを用いて分散させることで、凝集状態にあるセラミック粒子を溶湯中に分散させることができるという優れた効果を発揮するものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に用いるホモジナイザーの要部の斜視図である。
【図2】本発明において、ホモジナイザーによる分散を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な一実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0016】
本発明は、溶湯中のセラミック粒子をホモジナイザーを用いて分散させて粒子強化金属(アルミニウム)複合材料を作製するものである。
【0017】
通常ホモジナイザーは、細胞、植物や食品等の破砕、分散や乳化等に広く使われている。ホモジナイザーは、Dr.Willemsの原理に基づいた破砕と均一分散のホモジネーションを行う装置である。シャフトの先端部分にはジェネレーターと呼ばれる固定外刃と回転内刃がある。液体中で内刃が高速回転すると、ジェネレーター内の液体が、遠心力で外刃に開けられた隙間から噴出する。それと同時にジェネレーター内に液体が流れ込み、容器全体に強力な対流が発生する。この対流の中に試料が入り込み、内刃の先端で破砕、内刃から外刃の隙間を通って放出される直前に内刃と外刃の間で微砕が行われ、更に高速回転すると内刃と外刃の窓の間で起こる超音波、高周波などの効果により微砕、均一化が行われる。ホモジナイザーは、主に細胞、植物と食品の破砕、分散や乳化等に使われているが、ジェネレーターは通常ステンレス製のもので、その回転数は20000rpm以上にも達する。ホモジナイザーを使用すると、その破砕と均一な分散効果が期待できる。
【0018】
ただし、ジェネレーターはステンレス製であるので、勿論金属溶湯(アルミニウムの液体)には使えなく、また、ホモジナイザーは金属溶湯ヘの応用がいままで無かった。
【0019】
そこで、本発明は、従来の撹拌混合法で粒子をアルミニウム等の金属溶湯に分散した後、ホモジナイザーで未分散の粒子凝集体を破砕・分散させることにより、粒子の分散が均一な複合材料が得られる。
【0020】
本発明では、ホモジナイザーのジェネレーターの固定外刃と回転内刃は窒化ケイ素、炭化ケイ素、黒鉛等の材料を使用するものである。
【0021】
一方、アルミニウム溶湯中のセラミック粒子は、アルミナ(Al23)、スピネル(MgAl24)、炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(Si34)、炭化ホウ素(B4C)などの粒子を使用する。
【0022】
特に、粒径10μm以下のセラミック粒子を使用する場合、従来の撹拌混合法を使用すると、粒子の未分散の凝集体が多く存在し、複合材料の性能を劣化させるが、本発明で提供するホモジナイザーを使用すると、未分散の粒子凝集体を破砕し、粒子を均一に溶湯(アルミニウム)に分散させることができるので、高強度のセラミック粒子分散金属(アルミニウム)複合材料が得られる。
【0023】
このホモジナイザーを図1、図2により説明する。
【0024】
図1、図2に示すように、ホモジナイザー10は、シャフト11の先端部分にジェネレーターと呼ばれる固定外刃12と、その固定外刃12の内周に回転自在に設けられた回転内刃13とで形成される。
【0025】
固定外刃12は、固定筒状シャフト11aの先端の円周方向に沿って垂直な固定櫛歯14が設けられて構成され、回転内刃13は、固定外刃12に挿通した回転シャフト11bの先端に逆U字状のせん断刃15が設けられて構成される。
【0026】
固定外刃12と回転内刃13の材質は共に窒化ケイ素、炭化ケイ素または黒鉛で良いが、固定外刃12と回転内刃13はそれぞれ別々の材料を使ってもよい。また、短時間に使用する場合、ステンレス製の固定外刃12と回転内刃13の表面にPVD、CVDやプラズマ溶射でセラミックス層をコーティングしてもよい。通常のステンレス製のジェネレーターを用いる場合、金属溶湯に入れると、ステンレスが溶けてしまうので、通常のステンレス製のジェネレーターは金属溶湯に使えないので、上述のようにセラミックス製やステンレス表面へのセラミックスコーティングが必要となる。
【0027】
従来の撹拌混合法でセラミック粒子を溶湯に分散した後、特に粒径10μm以下のセラミック粒子を使った場合、粒子の未分散の凝集体が多数存在するため、複合材料の強度が劣化する。従来の撹拌混合法とは、溶湯を撹拌しながら、粒子を添加する方法で、溶湯は半凝固状態になると、粒子が更に分散しやすくなる。
【0028】
本発明においては、ホモジナイザー10を使うと、図2(a)に示すように金属溶湯20中で回転内刃13が高速回転すると、図示の矢印に示したように回転内刃13の内周から固定外刃12の固定櫛歯14の間を通る対流が生じる。これにより、図2(b)に示すように溶湯20中のセラミック粒子21pの未分散凝集体21aが、遠心力で固定外刃12の固定櫛歯14の隙間から噴出する。これによりセラミック粒子21pの未分散凝集体21aが入り込み、回転内刃13の先端で破砕、回転内刃13から固定外刃12の隙間を通って放出される直前に回転内刃13と固定外刃12の間で微砕が行われ、更に高速回転すると回転内刃13と固定外刃12の間や固定櫛歯15間で起こる超音波、高周波などの効果により微砕、均一化が行われる。このように未分散の粒子凝集体を破砕・分散させることにより、粒子の分散が均一な複合材料が得られる。
【0029】
アルミニウム等の溶湯20に添加するセラミック粒子は、強化の目的に合わせて、アルミナ(A123)、スピネル(MgAl24)、炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(Si34)、炭化ホウ素(B4C)などの粒子を使用する。上記のセラミック粒子を単独に使用してもよいが、ブレンドをしてから使っても良い。粒径10μm以下のセラミック粒子を使用する場合、従来の撹拌混合法を使用すると、粒子の未分散凝集体が多く存在し、複合材料の性能を劣化させるが、本発明のようにホモジナイザーを使用すると、未分散の粒子凝集体を破砕し、粒子を均一に溶湯分散させることができるので、高強度のセラミック粒子分散金属(アルミニウム)複合材料が得られる。
【0030】
ホモジナイザーを使って粒子の凝集体を分散させるため、アルミニウム等の溶湯の粘度は低いほうがよい。
【0031】
アルミ合金の場合、溶湯温度は700℃〜800℃が最適である。粒子や粒子の凝集体を含んだアルミニウム溶湯を撹拌しないと、特に粒子の凝集体が溶解炉の下部に沈降するので、ホモジナイザーのジェネレーターが溶解炉内の下部に設置したほうがもっと効率的に凝集体を破砕する効果がある。また、シャフトの回転数は1000rpm以上でもよいが、特に10000rpm以上が望ましい。
【0032】
本発明では、アルミニウム合金を例として、粒子分散アルミニウム複合材料の製造方法を提供しているが、Cu合金、Mg合金系の複合材料にも適用できる。
【0033】
以上本発明の粒子強化アルミニウム基複合材料は、ホモジナイザーより粒子の凝集体をなくしているため、セラミック粒子が均一に分布し、強度、耐摩耗性、高温特性が改善され、高強度軽量化部材として自動車産業等に応用できる。
【実施例】
【0034】
以下本発明の実施例と比較例を説明する。
【0035】
実施例1
アルミ合金AC4C(4000g)を半凝固状態に溶かし、撹拌しながらスピネル(MgAl24)粒子(粒径0.5ミクロン、10mass%)を添加した。
【0036】
その後730℃に加熱した後、図1のホモジナイザーを用いて30min間粒子の凝集体の破砕を行った。
【0037】
その後、金型に鋳込んで、スピネル粒子強化AC4C合金複合材料を得た。スピネル粒子強化AC4C合金複合材料をT6で熱処理した後、その組織を観察した。スピネル粒子が均一にアルミニウム合金中に分布していることが確認された。この複合材料の引張強度は368MPaであった。
【0038】
比較例1
アルミ合金AC4Cを半凝固状態に溶かし、通常の撹拌機を用いて撹拌しながらスピネル(MgA124)粒子(粒径0.5ミクロン、8mass%)を添加した。
【0039】
その後730℃に加熱した後、金型に鋳込んで、スピネル粒子強化AC4C合金複合材料を得た。スピネル粒子強化AC4C合金複合材料をT6で熱処理した後、その組織を観察した。スピネル粒子の凝集体が数多く観察され、その大きさは1mmであった。この複合材料の引張強度は245MPaであった。
【符号の説明】
【0040】
10 ホモジナイザー
12 固定外刃
13 回転内刃
20 アルミニウム溶湯
21p セラミック粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属溶湯中にセラミック粒子を添加して混合する際に、ホモジナイザーを用いてセラミック粒子を溶湯中に分散させることを特徴とする粒子強化金属複合材料の製造方法。
【請求項2】
ホモジナイザーは、ジェネレーターの固定外刃と回転内刃が、窒化ケイ素、炭化ケイ素、黒鉛等のセラミック材料で形成される請求項1記載の粒子強化金属複合材料の製造方法。
【請求項3】
金属溶湯は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなり、セラミック粒子は、アルミナ(Al23)、スピネル(MgAl24)、炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(Si34)、炭化ホウ素(B4C)の粒子の1又は2以上を使用する請求項1記載の粒子強化金属複合材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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