説明

粒子状物質捕集フィルタ及びその製造方法

【課題】圧力損失と強度を容易に両立させることのできるようなPM捕集フィルタの構造を提案する。
【解決手段】内燃機関の排気通路に介装され、セルに流入した排気を気孔質のフィルタ壁を通すことによりPMを捕集するウォールフロー型のPM捕集フィルタ4において、排気上流側から下流側へ向かって、前記フィルタ壁の気孔率を変化させる構造とする。例えば、前半部分4fのフィルタ壁を高気孔率とし且つ後半部分4rのフィルタ壁を低気孔率とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は内燃機関の排気浄化装置に関するもので、特に、排気中の粒子状物質(Particulate Matter:PM)を捕集するPM捕集フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関、特にディーゼルエンジンでは、排気中のPMを捕集するために、PM捕集フィルタであるDPF(Diesel Particulate Filter)を排気浄化装置として備えることが一般化している。このDPFは、特許文献1や特許文献2にあるように、ハニカム構造としたウォールフロー型のものが使用され、排気上流側に開口した各セル(通路)の壁が気孔質のフィルタ壁とされている。排気通路を流れてきてセルに流入した排気は、フィルタ壁を通過して流出することになり、このフィルタ壁を通過するときに排気中からPMが捕集される。
【0003】
このようなDPFは、特許文献3にあるように、セラミックス基材に造孔材を混ぜて混練した混練材料を、押出成形によって所望の形状に成形し、これを焼成することによって製造される。その焼成時に、造孔材の無くなる部分が気孔となって、フィルタ壁が形成される。
【特許文献1】特開2006−183507号公報
【特許文献2】特開2006−274986号公報
【特許文献3】特開平08−323123号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献3にも記載されているように、DPFにはPM堆積に伴う排気の圧力損失という課題があって、燃費に影響するため、適度に造孔材を多くするか又は径の大きい造孔材を採用して気孔率を高くした方が好ましい。しかし一方で、気孔率を高くするとDPFの強度が低下してしまうため、造孔材を少なくするか又は径の小さい造孔材を採用し、強度を保つ必要もある。
【0005】
本発明はこの点に着目したもので、圧力損失と強度を容易に両立させることのできるようなPM捕集フィルタの構造とその製造方法を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明で提案するのは、内燃機関の排気通路に介装され、セルに流入した排気を気孔質のフィルタ壁を通すことによりPMを捕集するウォールフロー型のPM捕集フィルタにおいて、排気上流側から下流側へ向かって、前記フィルタ壁の気孔率を変化させる構造である。
【0007】
また、本発明では、上記のようなPM捕集フィルタの製造方法として、混入された造孔材の量及び大きさのいずれか又は両方が押出軸方向へ変化しているセラミックス基材の混練材料を生成する工程と、該混練材料を、所定の形状に押出成形する工程と、該押出成形品を焼成する工程と、を含む製造方法を提案する。
【発明の効果】
【0008】
本発明で提案するPM捕集フィルタは、排気上流側から下流側へ向かって(つまりフィルタの軸方向へ)、フィルタ壁の気孔率が変化している。すなわち、気孔率が相対的に高くて圧力損失の小さい部分と、気孔率が比較的低くて強度に優れる部分と、が一つのフィルタに共存しており、圧力損失と強度を両立させることができる。
【0009】
また、本発明で提案するPM捕集フィルタの製造方法によれば、排気上流側から下流側へ向かってフィルタ壁の気孔率が変化しているPM捕集フィルタを、既存の押出成形設備を利用して製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1に、排気浄化装置の構成例を示している。この例の排気浄化装置は、選択触媒還元(SCR)によるNOx除去の機能と共にPM除去の機能を備えている。
ディーゼルエンジン1の排気マニホールドから延びた排気通路2において、排気上流から順に、酸化触媒3、PM捕集フィルタとしてのDPF4、還元剤噴射ノズル5、還元触媒6、酸化触媒7が装入されている。このうち、酸化触媒3、還元剤噴射ノズル5、還元触媒6及び酸化触媒7がSCRシステムのための装置で、酸化触媒3で排気中のNOを酸化してから還元剤噴射ノズル5によって排気中に還元剤を添加し、還元触媒6による還元反応でNOxを除去すると共に余剰の還元剤を酸化触媒7にて酸化している。なお、各触媒の配置は図示の順番に限られるわけではない。
【0011】
DPF4は、図2に詳細を示すように、多孔質のセラミックス基材から形成されたハニカム構造とされ、各セルCの壁をフィルタ壁としてここを排気が通過するときにPMを捕集するウォールフロー型である。このウォールフロー型に代表されるDPF4は、例えば、白金等の酸化触媒をセラミックス基材に担持させ、フィルタ温度(床温:bed temperature)の上昇でPMを燃焼させることにより、堆積したPMの除去を実現している。
【0012】
図2に示すDPF4は、排気の流れ方向(フィルタ軸方向)において互いに気孔率の異なる前半部分4fと後半部分4rとを有している。すなわち、図中に拡大して示すように、排気上流側の前半部分4fから下流側の後半部分4rへ、フィルタ壁の気孔率が変化しており、前半部分4fのフィルタ壁気孔率よりも、後半部分4rのフィルタ壁気孔率の方が低くなっている(図中の黒いところが気孔)。
【0013】
前半部分4fは、フィルタ壁の気孔率が高いので、PM堆積時の圧力損失を抑制することができる一方で強度が比較的弱い。逆に後半部分4rは、フィルタ壁の気孔率が低いので、強度に優れる一方でPM堆積時の圧力損失が大きい。つまり、前半部分4fと後半部分4rとで互いの欠点を補い合って、圧力損失を抑えながら強度を増すことができている。また、気孔率の高い前半部分4fは、触媒が気孔の奥まで担持されるので、低気孔率のフィルタ壁に比べて触媒担持量が増え、この点でも有利と言える。
【0014】
図2の例とは逆に、前半部分4fのフィルタ壁を低気孔率に、後半部分4rのフィルタ壁を高気孔率にすることもできる。この場合は、より排気圧力が高い排気上流側に低気孔率のフィルタ壁を位置させられるので、比較的PM堆積量が均一になるという利点をもつ。
【0015】
図3を参照して、図2に示すようなDPF4の製造方法について説明する。
まず、セラミックス基材に造孔材を混入して混練材料を生成する工程において、前半部分4fをつくるための前半部混練材料4f’と、後半部分4rをつくるための後半部混練材料4r’と、を生成する。前半部混練材料4f’は、大きさ(径)の大きい造孔材Hfを比較的多く混入してあり、後半部混練材料4r’は、大きさの小さい造孔材Hrを比較的少なく混入してある。造孔材Hf,Hrの大きさと量は、大きさだけを変えたり、量だけを変えたりすることも可能である。
【0016】
これら混練材料4f’,4r’を、押出軸方向(図中矢印)に並べることで、混入された造孔材Hf,Hrの量及び大きさのいずれか又は両方が押出軸方向へ変化しているセラミックス基材の混練材料が生成される。
【0017】
継いで、生成した混練材料4f’,4r’に対し、押出成形工程が実行される。すなわち、押出成形機において図示の金型を通すことにより、ハニカム構造をもつ所定形状の押出成形品が形成される。該押出成形品は、前半部混練材料4f’と後半部混練材料4r’とが押出軸方向に並べられて成形されることから、造孔材Hf,Hrの量及び大きさが押出軸方向へ変化している。このように、金型及び押出成形機には新規な機構が不要で、従来品を使用しての加工が可能である。
【0018】
続いて、この押出成形品を焼成すると、図2に示すような、前半部分4fのフィルタ壁気孔率が高く且つ後半部分4rのフィルタ壁気孔率が低いDPF4が生成される。
【0019】
図4に、他の例のDPF10の組み立て構造例を示している。このDPF10は、フィルタ壁の気孔率が異なる三種類のDPF部材10f,10m,10rを、排気の流れ方向へ互いに組み付けることで、形成されている。
【0020】
排気最上流に配置されるDPF部材10fは、上流側の面に目詰め処理が施されており、各セルCfのフィルタ壁の気孔率が高い。したがって、圧力損失は部材中で最も小さい一方、強度は弱い。他方、排気最下流に配置されるDPF部材10rは、下流側の面に目詰め処理が施されており、各セルCrのフィルタ壁の気孔率が低い。したがって、圧力損失は部材中で最も大きいが、強度には優れている。そして、中間のDPF部材10mは、目詰め処理無しで、各セルCmのフィルタ壁の気孔率が、両端の部材10f,10rの間にある。
【0021】
このように、フィルタ壁の気孔率が異なる複数のフィルタ部材をそれぞれ形成し、これらを組み合わせてDPFとすることが可能で、必要とされる性能に応じて多様なDPFを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係るPM捕集フィルタを備えた排気浄化装置の例を示す図。
【図2】本発明に係るPM捕集フィルタの構造例を示した説明図。
【図3】本発明に係るPM捕集フィルタの別の構造例を示した説明図。
【図4】本発明に係るPM捕集フィルタの製造工程の説明図。
【符号の説明】
【0023】
4,10 PM捕集フィルタ(DPF)
4f 前半部分
4r 後半部分
4f’,4r’ 混練材料
Hf,Hr 造孔材
10f,10m,10r PM捕集フィルタ部材(DPF部材)
C,Cf,Cm,Cr セル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に介装され、セルに流入した排気を気孔質のフィルタ壁を通すことにより粒子状物質を捕集するウォールフロー型の粒子状物質捕集フィルタにおいて、
排気上流側から下流側へ向かって、前記フィルタ壁の気孔率が変化していることを特徴とする粒子状物質捕集フィルタ。
【請求項2】
排気上流側から下流側へ向かって、前記フィルタ壁の気孔率が低くなっていることを特徴とする請求項1記載の粒子状物質捕集フィルタ。
【請求項3】
排気上流側から下流側へ向かって、前記フィルタ壁の気孔率が高くなっていることを特徴とする請求項1記載の粒子状物質捕集フィルタ。
【請求項4】
それぞれフィルタ壁の気孔率が異なっている複数の粒子状物質捕集フィルタ部材を、排気の流れ方向へ互いに組み付けて形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の粒子状物質捕集フィルタ。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項記載の粒子状物質捕集フィルタの製造方法であって、
混入された造孔材の量及び大きさのいずれか又は両方が押出軸方向へ変化しているセラミックス基材の混練材料を生成する工程と、
該混練材料を、所定の形状に押出成形する工程と、
該押出成形品を焼成する工程と、
を含むことを特徴とする製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−215910(P2009−215910A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−58103(P2008−58103)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【出願人】(000003908)日産ディーゼル工業株式会社 (1,028)
【Fターム(参考)】