説明

粒子状物質検出装置

【課題】小型で測定誤差が小さく、安価に製造することが可能な粒子状物質検出装置を提供する。
【解決手段】一方の端部に少なくとも一の貫通孔2が形成された一方向に長い検出装置本体1と、貫通孔2の壁の内部に埋設され、誘電体で覆われた少なくとも一対の電極11,12と、貫通孔2の壁面に沿うようにして検出装置本体1の内部に配設された、貫通孔2を形成する壁の温調用の加熱部13とを備え、加熱部13が、純度が95%以上のアルミナからなる保護層15によって覆われており、貫通孔2内に流入する流体に含有される粒子状物質を、貫通孔2の壁面に電気的に吸着させることが可能であり、貫通孔2を形成する壁の電気的な特性の変化を測定することにより貫通孔2の壁面に吸着された粒子状物質を検出することが可能な粒子状物質検出装置100。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子状物質検出装置に関する。さらに詳しくは、小型で測定誤差が小さく、安価に製造することが可能な粒子状物質検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
煙道排ガスやディーゼルエンジン排ガスには煤等の粒子状物質(Particulate Matter:PM)が含まれており、大気汚染の原因になっていた。これらを除去するために、セラミック等で作製されたフィルタ(ディーゼルパティキュレートフィルタ:DPF)が広く用いられている。セラミック製のDPFは、長期間の使用が可能であるが、熱劣化等によりクラックや溶損等の欠陥が発生することがあり、微量ではあるが粒子状物質が漏れる可能性がある。このような欠陥が発生した場合には、その欠陥の発生を即座に検知し、装置の異常を認識することが、大気汚染防止の観点から極めて重要である。
【0003】
このような欠陥の発生を検知する方法として、DPFの下流側に粒子状物質検出装置を設ける方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60−123761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の発明は、コロナ放電によって粒子状物質を帯電させ、そのイオン電流を測定することにより、粒子状物質の量を測定するものである。このように、粒子状物質を帯電させてそのイオン電流を測定する方法では、粒子状物質に帯電するイオン電流が微弱であるため、その微弱なイオン電流を検出するために大掛かりな検出回路が必要になり、高価なものになるという問題があった。また、排ガスが高流量である場合には、粒子状物質を効果的に帯電させることができないため、粒子状物質の測定値が、実際に排ガスに含有されている粒子状物質の量より小さい値となり、その誤差が大きいという問題があった。
【0006】
本発明は、上述した問題に鑑みてなされたものであり、小型で測定誤差が小さく、安価に製造することが可能な粒子状物質検出装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するため、本発明は、以下の粒子状物質検出装置を提供するものである。
【0008】
[1] 一方の端部に少なくとも一の貫通孔が形成された一方向に長い検出装置本体と、前記貫通孔を形成する壁の内部に埋設され、誘電体で覆われた少なくとも一対の電極と、前記貫通孔の壁面に沿うようにして検出装置本体の内部に配設された、前記貫通孔を形成する壁の温調用の加熱部とを備え、前記加熱部が、純度が95%以上のアルミナからなる保護層によって覆われており、前記貫通孔内に流入する流体に含有される荷電された粒子状物質、又は、前記一対の電極に電圧を印加することにより前記貫通孔内に生じる放電により荷電された、前記貫通孔内に流入する流体に含有される粒子状物質を、前記貫通孔の壁面に電気的に吸着させることが可能であり、貫通孔を形成する壁の電気的な特性の変化を測定することにより前記貫通孔の壁面に吸着された粒子状物質を検出することが可能な粒子状物質検出装置。
【0009】
[2] 前記誘電体が、アルミナ、コージェライト、ムライト、ガラス、ジルコニア、マグネシア、及びチタニアからなる群より選択される少なくとも一種である前記[1]に記載の粒子状物質検出装置。
【0010】
[3] 前記誘電体が、純度が90%以上、且つ前記保護層を構成するアルミナの純度未満のアルミナである前記[1]に記載の粒状物質検出装置。
【0011】
[4] 前記加熱部が、タングステン、モリブデン、銅、アルミニウム、銀、金、鉄及び白金からなる群より選択される少なくとも一種の金属からなる前記[1]〜[3]のいずれかに記載の粒子状物質検出装置。
【0012】
[5] 前記検出装置本体の他方の端部に、前記一対の電極のなかの少なくとも一方の電極の取り出し端子が配設された前記[1]〜[4]のいずれかに記載の粒子状物質検出装置。
【0013】
[6] 前記検出装置本体の他方の端部に、前記加熱部の取り出し端子が配設された前記[1]〜[5]のいずれかに記載の粒子状物質検出装置。
【0014】
[7] 前記貫通孔の、前記流体が流入する入口部分及び前記流体が流出する出口部分の少なくとも一つが、拡開されている前記[1]〜[6]のいずれかに記載の粒子状物質検出装置。
【0015】
[8] 前記検出装置本体の中心軸に直交する断面形状が、前記貫通孔の貫通方向において、一方の端部側から中央部に向かって漸次太くなり、中央部分で最も太く、更に他方の端部側に向かって漸次細くなる形状である前記[1]〜[7]のいずれかに記載の粒子状物質検出装置。
【0016】
[9] 前記貫通孔の壁面に吸着した粒子状物質を、前記一対の電極に電圧を印加して前記貫通孔内に放電を起こして酸化除去することが可能な前記[1]〜[8]のいずれかに記載の粒子状物質検出装置。
【0017】
[10] 前記貫通孔内に起きる放電が、無声放電、ストリーマ放電、及びコロナ放電からなる群より選択される一種である前記[1]〜[9]のいずれかに記載の粒子状物質検出装置。
【発明の効果】
【0018】
本発明の粒子状物質検出装置によれば、貫通孔を形成する検出装置本体の壁の内部に少なくとも一対の電極が埋設され、その一対の電極に電圧を印加して貫通孔内に放電を起こし、その放電により貫通孔内に存在する粒子状物質を荷電することができ、その荷電した粒子状物質を電極(具体的には、貫通孔の壁面)に電気的に吸着させることが可能である。これにより、DPFの下流側を流れる排ガスにおける、貫通孔内に流入した排ガス中の粒子状物質の質量を測定することが可能となる。このように、本発明の粒子状物質検出装置は、DPFの下流側を流れる排ガスに含有される全ての粒子状物質を直接測定するのではなく、貫通孔内に流入した粒子状物質を測定し、この測定値に基づいて、排ガス全体の粒子状物質量を概算することができる。これにより、従来の検査方法では検知することが不可能であった、微量の粒子状物質の測定を行うことが可能となる。
【0019】
また、本発明の粒子状物質検出装置は、上述したように排ガスの全量を測定するものではないため、装置を小型化することができ、狭いスペースに設置することが可能となる。更に、このような小型化に伴って、粒子状物質検出装置を安価に製造することができる。
【0020】
また、DPFの下流側を流れる排ガスの全流量が高流量の場合でも、その排ガス(即ち、排ガスに含まれる粒子状物質)の一部だけを貫通孔内に導入するため、貫通孔内の粒子状物質を効果的に荷電することができ、誤差の少ない測定値を得ることができる。
【0021】
また、検出装置本体が一方向に長く形成され、その一方の端部に、貫通孔が形成されるとともに、少なくとも一対の電極が配設(埋設)されるため、貫通孔及び一対の電極の部分だけを高温の排ガスが流通する配管内に挿入し、他方の端部側を配管から外に出した状態にすることが可能となる。これにより、一対の電極の取り出し端子等の高温に曝さないことが望ましい部分を、配管の外に出した状態とすることが可能となり、精度が高く、且つ安定した測定を行うことができる。
【0022】
また、本発明の粒子状物質検出装置は、検出装置本体の内部に加熱部を備えているため、貫通孔の壁面に吸着された粒子状物質を加熱酸化させることができ、また、粒子状物質の質量測定時等において、貫通孔の内部空間を所望の温度に調節し、貫通孔を形成する壁の電気的な特性の変化を安定的に測定するための温調を行うことができる。
【0023】
更に、上記した加熱部は、純度が95%以上のアルミナからなる保護層によって覆われているため、アルミナ等の誘電体から、加熱部を構成する材料への、不純物の移動(マイグレーション)を有効に防止することができ、加熱部の劣化を抑制して、耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1A】本発明の粒子状物質検出装置の一の実施形態を模式的に示す正面図である。
【図1B】本発明の粒子状物質検出装置の一の実施形態を模式的に示す側面図である。
【図2】図1BのA−A’断面を示す模式図である。
【図3】図2のB−B’断面を示す模式図である。
【図4】図2のC−C’断面を示す模式図である。
【図5】図2のD−D’断面を示す模式図である。
【図6】図2のE−E’断面を示す模式図である。
【図7】図2のF−F’断面を示す模式図である。
【図8】図2のG−G’断面を示す模式図である。
【図9】図2のH−H’断面を示す模式図である。
【図10】図2のI−I’断面を示す模式図である。
【図11】図2のJ−J’断面を示す模式図である。
【図12】本発明の粒子状物質検出装置の他の実施形態を示し、図3に示す本発明の粒子状物質検出装置の一実施形態の断面を示す模式図に相当する、模式図である。
【図13】本発明の粒子状物質検出装置の更に他の実施形態を示し、図3に示す本発明の粒子状物質検出装置の一実施形態の断面を示す模式図に相当する、模式図である。
【図14】本発明の粒子状物質検出装置の他の実施形態を示し、図7に示す本発明の粒子状物質検出装置の一実施形態の断面を示す模式図に相当する、模式図である。
【図15A】本発明の粒子状物質検出装置の他の実施形態を示す、中心軸に直交し、貫通孔を含む断面を示す模式図である。
【図15B】本発明の粒子状物質検出装置の他の実施形態を示す、中心軸に直交し、貫通孔を含まない断面を示す模式図である。
【図16】加熱部の耐久性試験における、測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための形態を具体的に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0026】
〔1〕粒子状物質検出装置:
図1Aは、本発明の粒子状物質検出装置の一の実施形態を模式的に示す正面図であり、図1Bは、本発明の粒子状物質検出装置の一の実施形態を模式的に示す側面図であり、図2は、図1BのA−A’断面を示す模式図である。なお、図1Aにおいては、取り出し端子(取り出し端子12a等)は省略している。
【0027】
図1A、図1B及び図2に示すように、本実施形態の粒子状物質検出装置100は、一方の端部1aに貫通孔(空洞)2が形成された一方向に長い検出装置本体1と、貫通孔2を形成する壁の内部に配設(埋設)され、誘電体で覆われた一対の電極11,12と、貫通孔2の壁面に沿うようにして検出装置本体1の内部に配設された、貫通孔2を形成する壁の温調用の加熱部13とを備えた粒子状物質検出装置100である。そして、本実施形態の粒子状物質検出装置100においては、上記した加熱部13が、純度が95%以上のアルミナからなる保護層15によって覆われている。
【0028】
ここで、上記貫通孔2は少なくとも一つ形成されている必要があり、二つ以上であってもよい。また、一対の電極11,12は少なくとも一対備えることが必要であり、二対以上であってもよい。
【0029】
本実施形態の粒子状物質検出装置100においては、一対の電極11,12が検出装置本体1の内部に埋設されており、検出装置本体1が誘電体から形成されることにより、一対の電極11,12がそれぞれ誘電体で覆われた状態となっている。そして、本実施形態の粒子状物質検出装置100は、貫通孔2内に流入する流体に含有される荷電された粒子状物質、又は、一対の電極11,12に電圧を印加することにより貫通孔2内に生じる放電により荷電された、貫通孔2内に流入する流体に含有される粒子状物質を、貫通孔2の壁面に電気的に吸着させることが可能である。更に、貫通孔2を形成する壁の電気的な特性の変化を測定することにより、貫通孔2の壁面に吸着された粒子状物質の質量を検出することが可能である。これにより、本実施形態の粒子状物質検出装置100は、貫通孔2内に排ガス等を通過させて、排ガス中に含有される粒子状物質を検出することができる。これにより、従来の検査方法では検知することが不可能であった、微量の粒子状物質の測定を行うことが可能となる。
【0030】
このように、本実施形態の粒子状物質検出装置100は、DPFの下流側を流れる排ガスのなかの貫通孔2内に流入した排ガス中の粒子状物質の質量を測定することが可能となり、DPFの下流側を流れる排ガスに含有される全ての粒子状物質を直接測定するのではなく、貫通孔2内に流入した粒子状物質を測定し、この測定値に基づいて、排ガス全体の粒子状物質量を概算することができる。
【0031】
また、本実施形態の粒子状物質検出装置100は、上述したように排ガスの全量を測定するものではないため、装置を小型化することができ、例えば、自動車の排気系のような狭いスペーに設置することが可能となる。更に、このような小型化に伴って、粒子状物質検出装置100を安価に製造することができる。
【0032】
また、DPFの下流側を流れる排ガスの全流量が高流量の場合でも、その排ガス(具体的には、排ガスに含有される粒子状物質)の一部だけを貫通孔2内に導入するため、貫通孔2内の粒子状物質を効果的に荷電することができ、誤差の少ない測定値を得ることができる。
【0033】
また、検出装置本体1が一方向に長く形成され、その一方の端部1aに、貫通孔2が形成されるとともに、少なくとも一対の電極11,12が配設(埋設)されるため、貫通孔2及び一対の電極11,12が配設される部分だけを高温の排ガスが流通する配管内に挿入し、他方の端部1b側を配管から外に出した状態にすることが可能となる。これにより、一対の電極11,12の取り出し端子等の高温に曝さないことが望ましい部分を、配管の外に出した状態とすることが可能となり、精度が高く、且つ安定した測定を行うことができる。
【0034】
また、本実施形態の粒子状物質検出装置100は、貫通孔2の壁面(検出装置本体1の側面に並行する壁面)に沿うようにして検出装置本体1の内部に配設(埋設)された加熱部13を備えているため、貫通孔2の壁面に吸着された粒子状物質を加熱酸化させることができ、また、粒子状物質の質量測定時等において、貫通孔2の内部空間を所望の温度に調節し、貫通孔2を形成する壁の電気的な特性の変化を安定的に測定するための温調を行うことができる。
【0035】
更に、本実施形態の粒子状物質検出装置100は、上記加熱部13が、純度が95%以上のアルミナからなる保護層15によって覆われているため、検出装置本体1を構成するアルミナ等の誘電体から、加熱部13を構成する材料への、不純物の移動(マイグレーション)を有効に防止することができ、加熱部13の劣化を抑制し、耐久性を向上させることができる。
【0036】
検出装置本体1を構成する誘電体としては、例えば、その内部に埋設される一対の電極11,12との密着性を高めるために、比較的に純度の低い、例えば、その純度が95%未満のアルミナ等のセラミックスを用いることができる。一方、加熱部13は、貫通孔の内部を所定の温度まで適性に加熱することができるように、例えば、融点が高く、電気抵抗の大きなタングステン等の金属を用いることができる。但し、タングステン等の金属と、上述した比較的に純度の低い誘電体とを直接接触させた場合には、誘電体中に含まれている不純物の移動(マイグレーション)が生じて、加熱部13を構成する金属が劣化してしまう。このため、本実施形態の粒子状物質検出装置100においては、上記加熱部13を、純度が95%以上のアルミナからなる保護層15によって覆うことにより不純物の移動を防止し、加熱部13の劣化を抑制して、耐久性を向上させている。
【0037】
本実施形態の粒子状物質検出装置100においては、検出装置本体1を構成する誘電体が、例えば、アルミナ、コージェライト、ムライト、ガラス、ジルコニア、マグネシア、及びチタニアからなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。中でも、アルミナを好適に用いることができる。このような誘電体からなる検出装置本体1の内部に電極11,12を埋設することにより、誘電体に覆われた電極11,12を形成することが可能となる。そして、粒子状物質検出装置100が、優れた耐熱性、耐絶縁破壊特性等を有するものとなる。ここで、本実施形態において、「誘電体」とは、導電性よりも誘電性が優位である物質で、直流電圧に対して絶縁体として振舞う物質のことをいう。
【0038】
なお、上記誘電体としては、純度が90%以上、且つ保護層を構成するアルミナの純度未満のアルミナであることが特に好ましい。このようなアルミナは、保護層に用いるような高純度のアルミナよりも焼結性が高く、より緻密化することが可能である。その結果、得られる積層体の接着力を強化することができる。
【0039】
また、温調用の加熱部は、タングステン、モリブデン、銅、アルミニウム、銀、金、鉄及び白金からなる群より選択される少なくとも一種の金属からなることが好ましい。このように構成することによって、検出装置本体、特に、貫通孔を形成する壁の温度調整を良好に行うことができる。
【0040】
加熱部を覆う保護層は、純度が95%以上のアルミナからなるものであるが、純度が97〜100%のアルミナからなるものであることが好ましい。このように構成することによって、不純物の移動を有効に防止することができる。
【0041】
また、図1A、図1B及び図2に示す粒子状物質検出装置100においては、一対の電極11,12からそれぞれ検出装置本体1の他方の端部1bに向かって延びる配線11b,12bを備えている。
【0042】
また、本実施形態の粒子状物質検出装置は、検出装置本体の他方の端部に、一対の電極のなかの少なくとも一方の電極の取り出し端子が配設されていることが好ましい。この取り出し端子は、粒子状物質検出装置の検出装置本体に配設された電極に電気的に接続され、外部からその電極に電圧を印加するための電源等からの配線を接続する部分である。
【0043】
図1Bに示す本実施形態の粒子状物質検出装置100においては、一対の電極11,12、加熱部13、接地電極14等に、それぞれ独立して接続された複数の取り出し端子(取り出し端子11a,12a,13a,14a)を有している。そして、電極12の取り出し端子12aが、検出装置本体1の他方の端部1bに配設されている。
【0044】
一対の電極11,12のなかの少なくとも一方の電極の取り出し端子(例えば、取り出し端子12a)を、検出装置本体1の他方の端部1bに配設することにより、貫通孔2及び一対の電極が配設される部分(即ち、一方の端部1a)と取り出し端子12aとの間隔を大きくとることができるため、貫通孔2等が配設される一方の端部1aだけを高温の排ガスが流通する配管内に挿入し、取り出し端子12aが配設されている他方の端部1b側を配管から外に出した状態にすることが可能となる。取り出し端子12aを高温にすると、粒子状物質の検出精度が低下し、安定した検出が行い難くなることがあったり、長期にわたって使用した場合に電気端子と外部に接続するためのハーネスとの接点不良が発生し測定不能になったりするため、取り出し端子12aを配管の外に出し、高温に曝されない状態とすることにより、精度の高い、安定した粒子状物質の検出を行うことが可能となる。
【0045】
検出装置本体1の他方の端部1bに配設された取り出し端子12aは、図1Bに示すように、検出装置本体1の他方の端部1bの側面に、長手方向に延びるように配置されていることが好ましい。また、取り出し端子12aは、検出装置本体1の他方の端部1bにおける側面の、幅方向における一方の端部に配置されていることが好ましい。また、図1Bにおいては、検出装置本体1の他方の端部1bは、幅が狭くなっているが、他方の端部1bの幅は、このように狭くなっていてもよいし、狭くなっていなくてもよい。取り出し端子12aの形状及び大きさは、特に限定されるものではない。例えば、幅0.1〜2.0mm、長さ0.5〜20mmの帯状であることが好ましい。取り出し端子12aの材質としては、Ni、Pt、Cr、W、Mo、Al、Au、Ag、Cu等を挙げることができる。
【0046】
一対の電極11,12の両方の取り出し端子を、検出装置本体1の他方の端部1bに配設してもよいが、一方の電極(電極12)の取り出し端子(取り出し端子12a)を検出装置本体1の他方の端部1bに配設し、他方の電極(電極11)の取り出し端子(取り出し端子11a)を、検出装置本体1の一方の端部1aと他方の端部1bとの間の位置に配設することが好ましい。
【0047】
これにより、一方の電極(電極12)の取り出し端子(取り出し端子12a)と、他方の電極(電極11)の取り出し端子(取り出し端子11a)とを、間隔を開けて配設することができる。このため、一対の電極11,12間に電圧を印加するために、取り出し端子11aと取り出し端子12aとの間に電圧を印加したときに、検出装置本体1の表面に沿面放電が生じることを防止することができる。
【0048】
ここで、本実施形態において、「検出装置本体の一方の端部」というときは、検出装置本体の一方の先端部分1cから、検出装置本体1の全長の30%の長さに相当する位置までの範囲をいう。また、「検出装置本体の他方の端部」というときは、検出装置本体の他方の先端部分1dから、検出装置本体1の全長の30%の長さに相当する位置までの範囲をいう。従って、検出装置本体1の一方の端部1aと他方の端部1bとの間の位置とは、検出装置本体1から、上記一方の端部1aと他方の端部1bの範囲を除いた部分ということになる。
【0049】
本実施形態の粒子状物質検出装置100においては、取り出し端子11aと取り出し端子12aとの間の距離が、5〜100mmであることが好ましく、10〜70mmであることが更に好ましい。5mmより短いと沿面放電による短絡がし易くなることがある。一方、100mmより長いと、取り出し端子11aが配管の外に位置するように、粒子状物質検出装置100の検出装置本体1を配管等に装着したときに、検出装置本体1の配管の外側に突き出る部分が長くなりすぎ、検出装置本体1を狭い空間に取り付けることが難しくなることがある。
【0050】
また、検出装置本体1の一方の端部1aと他方の端部1bとの間の位置に配設した取り出し端子11aと、貫通孔2との間の距離は、10mm以上であることが好ましく、20mm以上であることが更に好ましい。10mmより短いと、粒子状物質検出装置100を、貫通孔2の部分が配管内に挿入されるように、配管に装着したときに、配管内を流通する高温の排ガスの熱が取り出し端子11aに影響を及ぼし易くなることがある。
【0051】
取り出し端子11aの形状及び大きさは、特に限定されるものではない。例えば、幅0.5〜3mm、長さ0.5〜3mmの四角形等の多角形状であることが好ましいが、円形、楕円形、レーストラック形状、その他の形状等であってもよい。取り出し端子11aの材質としては、Ni、Pt、Cr、W、Mo、Al、Au、Ag、Cu、ステンレス、コバール等を挙げることができる。
【0052】
また、特に限定されることはないが、本実施形態の粒子状物質検出装置100においては、検出装置本体1の他方の端部1bに、加熱部13の取り出し端子13aが配設されていることも好ましい形態の一つである。加熱部13の取り出し端子13aは、上述した電極の取り出し端子と同様に、外部から加熱部13に電圧を印加するための電源等からの配線を接続する部分である。
【0053】
更に、本実施形態の粒子状物質検出装置は、一対の電極のそれぞれから検出装置本体の他方の端部に向かって延びる配線の間に挟まれる位置に、帯状の接地電極が配設されていてもよい。接地電極とは、接地されている電極である。このような粒子状物質検出装置は、一対の電極間の所定の電気的特性を検知することにより、貫通孔を形成する壁の電気的特性の変化を測定し、貫通孔の壁面に吸着した粒子状物質を検出するものであるが、一対の電極間の所定の電気的特性を検知するときには、一対の電極に接続されるとともに誘電体に埋設された2本の配線間の当該所定の電気的特性も合わせて検知することができる。
【0054】
このため、例えば、得られる測定値としては、一対の電極と2本の配線との両方により検知された値となる。このような2本の配線間の当該所定の電気的特性の影響が大きい場合には、貫通孔を形成する壁の電気的特性が変化し、その変化が一対の電極により検知されたとしても、同時に一対の電極に接続された当該2本の配線間の電気的特性も測定していることになるため、貫通孔を形成する壁の電気的特性の変化を正確に測定することが困難になることがあるが、接地電極が配設された粒子状物質検出装置は、上記一対の電極のそれぞれから延びる配線の影響を接地電極により抑制しながら、上記一対の電極間の電気的特性を検知することができるため、上記配線の影響による測定誤差を小さくすることができる。これにより、貫通孔を形成する壁の電気的な特性の変化を更に精度よく測定することが可能となる。
【0055】
接地電極を有さない場合には、一対の電極に電圧を印加したときに、一対の電極の一方に接続された一方の配線から、一対の電極の他方に接続された他方の配線へと、2本の配線の間に挟まれた誘電体を通じて電流が流れることにより、2本の配線間の電気的特性が検知される。これに対し、接地電極を有する場合には、2本の配線間に接地電極が配設されているため、一方の配線から接地電極に電流が流れ、一方の配線から他方の配線への電流の流れは生じない。そのため、一方の配線と他方の配線との間の電気的特性は検知されず、一対の電極に電圧を印加したときには、一対の電極間に位置する貫通孔を形成する壁の電気的特性のみを検知することができる。
【0056】
粒子状物質の質量を検出する方法としては、荷電した粒子状物質が、貫通孔の壁面に吸着されることによる、一対の電極11,12の電気的な特性変化を測定する方法を挙げることができる。具体的には、例えば、一対の電極11,12間の静電容量等から計算されるインピーダンスを測定し、インピーダンスの変化から吸着された粒子状物質の質量を算出し、排ガス中の粒子状物質(質量)を検出する方法を挙げることができる。従って、本実施形態の粒子状物質検出装置100は、取り出し端子11a,12aに接続された、電極11,12間のインピーダンスを測定する測定部を更に備えることが好ましい。測定部としては、静電容量だけでなく、インピーダンス計測可能なLCRメーターやインピーダンスアナライザ等を挙げることができる。
【0057】
本実施形態の粒子状物質検出装置100において、検出装置本体1は、一方向に長く形成され、その長手方向の長さは、特に限定されないが、排ガス配管に挿入した時に排ガス中の粒子状物質を効率よくサンプリングできる長さであることが好ましい。本実施形態の粒子状物質検出装置100においては、上記長手方向の一方の端部1aに貫通孔2が形成されている。
【0058】
また、検出装置本体1の厚さ(「検出装置本体の長手方向」及び「ガスの流通方向」の両方に垂直な方向(厚さ方向)における長さ)は、特に限定されないが、例えば、0.5〜3mm程度が好ましい。ここで、「検出装置本体1の厚さ」というときは、上記厚さ方向において最も厚い部分の厚さをいう。また、検出装置本体1の、貫通孔2にガスが流通するときの流通方向における長さ(ガス流通方向の長さ)は、特に限定されないが、例えば、2〜20mm程度が好ましい。そして、検出装置本体1の長手方向長さは、検出装置本体1の厚さの10〜100倍であることが好ましく、検出装置本体1のガス流通方向の長さの3〜100倍であることが好ましい。
【0059】
検出装置本体1の形状は、図1A及び図1Bに示すように、長手方向に直行する断面形状が長方形の板状であってもよいし、当該断面形状が円形、楕円形等の棒状であってもよいし、一方向に長い形状であれば、その他の形状であってもよい。
【0060】
図2に示すように、本実施形態の粒子状物質検出装置100は、貫通孔2を形成する壁の内部に一対の電極11,12が埋設されており、貫通孔2を挟むようにして誘電体で覆われた電極11,12が配置された状態になっている。これにより、電極11,12間に所定の電圧を印加することにより、貫通孔2内に放電を起こすことが可能となる。
【0061】
また、電極は、貫通孔を形成する壁の内部に埋設されていればよく、図2に示すように貫通孔2を挟むように配設されていることが好ましいが、壁の電気的特性を検知でき、貫通孔2内に放電を起こせれば、貫通孔2を取り囲む壁のどの位置に一対の電極が配設されてもよい。また、複数対の電極を配設し、異なる対の電極により、放電と電気的特性の検知とを別々に行ってもよい。
【0062】
放電の種類としては、無声放電、ストリーマ放電、及びコロナ放電からなる群より選択される一種であることが好ましい。このような放電を生じさせるため、本実施形態の粒子状物質検出装置100は、取り出し端子11a,12aに接続された、放電用の電源を更に備えることが好ましい。放電用の電源としては、高電圧の交流電源、直流電源等が好ましい。また、放電させるために印加する電圧としては、パルス電圧、矩形波等の交流電圧、等の電圧が好ましい。また、印加する電圧の条件としては、ギャップ(一対の電極相互間の距離)、ガス温度によって変わるが50〜200kV/cmが好ましい。また、電圧を印加するときの、電力は、0.1〜10Wが好ましい。
【0063】
本実施形態の粒子状物質検出装置100は、貫通孔2内に流入する流体(即ち、排ガス)に含有される粒子状物質が荷電されていない場合に、貫通孔2内に放電を起こすことにより、粒子状物質を荷電して、貫通孔2の壁面に荷電した粒子状物質を電気的に吸着させるものである。そして、貫通孔2内に流入する流体に含有される粒子状物質が、貫通孔2内に流入する前から既に荷電されている場合には、貫通孔2内の放電により改めて荷電させる必要がないため、貫通孔2内に放電を起こすことなく、貫通孔2の壁面にその荷電されている粒子状物質を電気的に吸着させるものである。
【0064】
上述したように、貫通孔2内に放電を起こして粒子状物質を荷電させる場合には、荷電した粒子状物質は、放電中に、その荷電した粒子状物質の極性に対して反対の極性を有する電極側に電気的に引き寄せられ、壁面に吸着される。これに対し、粒子状物質が貫通孔2内に流入する前から荷電されている場合には、電極11,12間に、所定の条件の電圧を印加し、荷電している粒子状物質の極性に対して反対の極性を有する電極側に電気的に引き寄せられるようにする。ここで、粒子状物質が貫通孔2内に流入する前から荷電されている場合に、電極11,12間に印加する電圧の条件は、4〜40kV/cmであることが好ましい。
【0065】
電極11,12の形状及び大きさは、特に限定されるものではなく、貫通孔2内に放電を起こすことが可能であればよい。例えば、形状としては、長方形、円形、長円形等を挙げることができる。また、電極11,12の大きさは、例えば、貫通孔2の、側面から見たときの面積の70%以上であることが好ましい。
【0066】
電極11,12の厚さは特に限定されず、貫通孔2内に放電を起こすことが可能であればよい。例えば、5〜30μmであることが好ましい。電極11,12の材質としては、Pt、Mo、W等を挙げることができる。
【0067】
一対の電極のなかの一方の電極(電極11)と貫通孔2との間の距離、及び他方の電極(電極12)と貫通孔2との間の距離は、50〜500μmであることが好ましく、100〜300μmであることが更に好ましい。このような範囲とすることにより、効果的に貫通孔内に放電を生じさせることができる。電極11及び電極12と、貫通孔2との間の距離は、電極11を覆う誘電体及び電極12を覆う誘電体の、貫通孔2に面する部分の厚さということになる。
【0068】
本実施形態の粒子状物質検出装置100においては、図2、図4、及び図10に示すように、貫通孔2の壁面(検出装置本体1の側面に並行する壁面)に沿うようにして検出装置本体1の内部に配設(埋設)された加熱部13を備えている。この加熱部13により、貫通孔2の壁面に吸着された粒子状物質を加熱酸化させることができ、また、粒子状物質の質量測定時等において、貫通孔2の内部空間を所望の温度に調節し、貫通孔を形成する壁の電気的な特性の変化を安定的に測定するための温調を行うことができる。ここで、図4は、図2のC−C’断面を示す模式図であり、図10は、図2のI−I’断面を示す模式図である。
【0069】
上述した加熱部は、幅広のフィルム状であってもよいが、図4、及び図10に示すように、線状の金属材料を、波状に配置し、先端部分でU−ターンするように配置したものであることが好ましい。このような形状にすることにより、貫通孔内部を均一に加熱することが可能となる。
【0070】
加熱部13は、貫通孔2の壁面に沿うようにして検出装置本体1の内部に埋設されることが好ましいが、図4、及び図10に示すように、貫通孔2が配置されている位置だけでなく、更に検出装置本体1の他方の端部1b側に延びるように形成されていてもよい。これにより、貫通孔内部と貫通孔付近との温度差を小さくでき、急加熱しても検出装置本体の破損が起き難いという利点がある。加熱部13により、貫通孔2の内部空間の温度を650℃まで上昇できることが好ましい。
【0071】
本実施形態の粒子状物質検出装置100においては、一対の電極11,12のなかの少なくとも一方の電極の、貫通孔が形成されている側に対して反対側の位置に、少なくとも一の加熱部13が配設されていることが好ましい。図2に示す本実施形態の粒子状物質検出装置100においては、それぞれの電極11,12の貫通孔2が形成されている側に対して反対側の位置に、それぞれ加熱部13が配設されている例を示している。
【0072】
上述したように、加熱部13が、一対の電極11,12のなかの少なくとも一方の電極の、貫通孔が形成されている側に対して反対側の位置に配設されていることにより、加熱部13の影響を受けることなく、一対の電極11,12により、貫通孔2を形成する壁の電気的な特性の変化を測定し易くなる。
【0073】
なお、図2においては、加熱部13は各電極11,12に対して1つずつ、計2つの加熱部を備えているが、例えば、図示は省略するが、一方の電極の貫通孔が配設されている側に対して反対側の位置にのみ加熱部が配設されていてもよいし、また、電極の貫通孔が配設されている側に対して反対側の位置に複数個配設されてもよい。このように、加熱部13の配置及び数は、温度調節、捕集した粒子状物質の酸化除去等の目的を達成するために必要な配置及び数とすることができる。
【0074】
図4、及び図10に示すように、加熱部13は、配線13b,13bに接続され、配線13b,13bは、それぞれ図1Bに示す取り出し端子13a,13aに層間接続されている。加熱部13の取り出し端子13aも、電極11,12の取り出し端子11a,12aの場合と同様に、検出装置本体1の一方の端部1a側が加熱されたときの熱の影響を回避するために、検出装置本体1の他方の端部1bに配設されることが好ましい。図1Bにおいては、取り出し端子12aが、検出装置本体1の側面においてその幅方向における一方の端縁に配置され、取り出し端子13a,13aが、取り出し端子12aの横に、2本が並ぶように配置されているが、取り出し端子12a及び取り出し端子13a,13aの配置は、このような配置に限定されるものではない。
【0075】
加熱部13が線状である場合、その線の幅は、特に限定されず、例えば、0.05〜1mm程度が好ましい。また、加熱部13の厚さは、特に限定されず、例えば、5〜30μm程度が好ましい。配線13bの幅は、特に限定されず、例えば、0.7〜4mm程度が好ましい。また、配線13bの厚さは、特に限定されず、例えば、5〜30μm程度が好ましい。加熱部13に対応する取り出し端子13aの幅は、特に限定されず、例えば、0.1〜2mm程度が好ましい。また、取り出し端子13aの厚さは、特に限定されず、例えば、5〜1000μm程度が好ましい。配線13b及び取り出し端子13aの材質としては、Ni、Pt、Cr、W、Mo、Al、Au、Ag、Cu、ステンレス、コバール等を挙げることができる。
【0076】
また、この加熱部は、図2、図3、図5、図9、及び図11に示すように、純度が95%以上のアルミナからなる保護層15によって覆われている。これにより、加熱部13を構成する材料への、検出装置本体1を構成するアルミナ等の誘電体中に含まれている不純物の移動(マイグレーション)を有効に防止することができ、加熱部13の劣化を抑制し、耐久性を向上させることができる。ここで、図3は、図2のB−B’断面を示す模式図であり、図5は、図2のD−D’断面を示す模式図であり、図9は、図2のH−H’断面を示す模式図であり、図11は、図2のJ−J’断面を示す模式図である。
【0077】
保護層15は、加熱部13に対して不純物の移動を防止するための保護層であるため、少なくとも加熱部13と、検出装置本体1を構成する誘電体との境界面に配置されていればよい。即ち、保護層15の形状は、例えば、加熱部13が幅広のフィルム状である場合には、同様の幅広のフィルム状であることが好ましく、また、図4、及び図10に示すように、加熱部13が線状の金属材料を、波状に配置し、先端部分でU−ターンするように配置したものである場合には、図3、図5、図9、及び図11に示すように、その形状と同一の形状であってもよい。
【0078】
なお、このような保護層は、例えば、図12に示すように、加熱部13(図4参照)の形状よりも大きな相似形、即ち、加熱部の形状のパターンを若干太くした保護層15xであってもよい。ここで、図12は、本発明の粒子状物質検出装置の他の実施形態を示し、図3に示す本発明の粒子状物質検出装置の一実施形態の断面を示す模式図に相当する、模式図である。
【0079】
このように構成することによって、加熱部と同一の形状のパターンの保護層と比較して、より広い範囲からのマイグレーションを防止することができる。なお、図12においては、加熱部を被覆する片側の面を構成する保護層15xを示しているが、このような加熱部の形状のパターンを若干太くした保護層15xは、加熱部の両面を覆うように配置されていることが好ましい。即ち、図12に示す保護層15xは、図3に相当する断面を示す模式図であるが、図5、図9、及び図11に示す保護層についても、図12と同様に、加熱部の形状のパターンを若干太くした保護層が配置されていてもよい。
【0080】
なお、このように、保護層を、加熱部の形状のパターンを若干太くしたものとする場合には、加熱部のパターン中心線に対して両方向に20%程度太くしたものであることが好ましい。このように構成することによって、マイグレーションをより有効に防止することができる。
【0081】
また、保護層は、加熱部を覆うことができれば、例えば、図13に示すように、加熱部の相似形ではなく、加熱部を含む検出装置本体の断面のより広い範囲を覆うように配置された保護層15yであってもよい。図13においては、検出装置本体1(図2参照)の断面の略全域を覆うように配置された保護層15yを示している。ここで、図13は、本発明の粒子状物質検出装置の更に他の実施形態を示し、図3に示す本発明の粒子状物質検出装置の一実施形態の断面を示す模式図に相当する、模式図である。
【0082】
このように構成することによって、より広い範囲からのマイグレーションを防止することができる。また、保護層を構成する材料を、検出装置本体の内部にべた塗りすることによって形成することができるため、保護層の形成が容易であり、更に、保護層からの加熱部のはみ出しも有効に防止することができる。なお、このような検出装置本体の断面のより広い範囲を覆うように配置された保護層15yについても、加熱部の両面を覆うように配置されていることが好ましい。
【0083】
保護層の厚さについては特に制限はないが、例えば、1〜50μmであることが好ましく、5〜10μmであることが更に好ましい。このような厚さの保護膜は、不純物のマイグレーションを防ぐのに十分の厚みであり、且つ、過剰な保護層の導入によって、層間の接着強度が低下するということもない。
【0084】
また、図6に示すように、電極11には、検出装置本体1の長手方向に延びる配線11bが接続されており、この配線11bが、その先端(電極11に接続されていない側の先端)部分で、図1Bに示す取り出し端子11aに層間接続(ビア接続)されている。また、図7に示すように、検出装置本体1の一方の端部1aに貫通孔2が形成されている。ここで、図6は、図2のE−E’断面を示す模式図であり、図7は、図2のF−F’断面を示す模式図である。
【0085】
また、図8に示すように、電極12には検出装置本体1の長手方向に延びる配線12bが接続され、この配線12bは、図1Bに示す取り出し端子12aに層間接続されている。ここで、図8は、図2のG−G’断面を示す模式図である。
【0086】
配線11b及び配線12bの幅は、特に限定されず、例えば、0.2〜1mm程度が好ましい。また、配線11b及び配線12bの厚さは、特に限定されず、例えば、5〜30μm程度が好ましい。また、配線11b及び配線12bの材質としては、Pt、Mo、W等を挙げることができる。
【0087】
また、本実施形態の粒子状物質検出装置100は、貫通孔2の壁面に吸着された粒子状物質を、一対の電極11,12に電圧を印加して貫通孔2内に放電を起こして、酸化除去することができるものであってもよい。粒子状物質を酸化除去する場合の放電を生じさせる条件としては、電界強度が10〜200kV/cmであり、エネルギー投入量が、被処理物質に対して0.05〜10J/μgであることが好ましい。
【0088】
また、本実施形態の粒子状物質検出装置100は、加熱部13の取り出し端子13aに接続された、加熱用電源を更に備えることが好ましい。加熱用電源としては、定電流電源等を挙げることができる。
【0089】
図2〜図11に示すように、本実施形態の粒子状物質検出装置100において、一対の電極11,12から延びるそれぞれの配線11b、12bの間に挟まれる位置に、帯状の接地電極14が配設されている場合には、接地電極14が配設される範囲は、一方の配線(例えば、配線11b)から他方の配線(例えば、配線12b)へと流れる電流を妨げることができる範囲であることが好ましく、少なくとも一方の配線を、接地電極14に対して垂直方向に移動させて接地電極14に重ね合わせたときに、当該配線の長さの95%以上が接地電極14と重なることが好ましい。更に、接地電極14が、検出装置本体1の長手方向及び幅方向の両方に平行な平面内に配置されていることが好ましい。
【0090】
また、この接地電極14は、その幅が、検出装置本体1の幅の70〜95%であり、接地電極14の長さが、検出装置本体1の長さの50〜95%であることが好ましく、接地電極14の幅が、検出装置本体1の幅の80〜90%であり、接地電極14の長さが、検出装置本体1の長さの70〜90%であることが更に好ましい。これにより、更に効果的に、一方の配線から他方の配線へと流れる電流を妨げることができる。
【0091】
ここで、「接地電極14の幅」というときは、貫通孔2の貫通方向(流体の流通方向)における、接地電極14の長さをいい、「検出装置本体1の幅」というときは、貫通孔2の貫通方向(流体の流通方向)における、検出装置本体1の長さをいう。また、図7に示すように、検出装置本体1の一方の端部1aに貫通孔2が形成され、検出装置本体1の内部には、貫通孔2から他方の端部1b側に向かって帯状に延びる接地電極14が埋設されている。
【0092】
接地電極14の形状は、特に限定されず、長方形、長円形等を挙げることができる。また、接地電極14の厚さは特に限定されず、一方の配線から他方の配線へと流れる電流を妨げることが可能であればよい。例えば、10〜200μmであることが好ましい。接地電極14の材質としては、Ni、Pt、Cr、W、Mo、Al、Au、Ag、Cu、ステンレス、コバール等を挙げることができる。
【0093】
接地電極14と配線11bとの間の距離、及び接地電極14と配線12bとの間の距離は、それぞれ100〜500μmであることが好ましく、150〜250μmであることが更に好ましい。このような範囲とすることにより、効果的に一方の配線から他方の配線へと流れる電流を妨げることができる。
【0094】
本実施形態の粒子状物質検出装置100においては、図7に示すように、接地電極14には、検出装置本体1の長手方向に延びる配線14bが接続されており、配線14bが、その先端(接地電極14に接続されていない側の先端)部分で、図1Bに示す取り出し端子14aに層間接続(ビア接続)されている。
【0095】
配線14bの幅は、特に限定されず、例えば、0.2〜1mm程度が好ましい。また、配線14bの厚さは、特に限定されず、例えば、5〜30μm程度が好ましい。また、配線14bの材質としては、Pt、Mo、W等を挙げることができる。
【0096】
本実施形態の粒子状物質検出装置100において、貫通孔2の形状、及び大きさは特に限定されず、排ガスを通過させ、粒子状物質の量を測定できるものであればよい。例えば、貫通孔2の、検出装置本体の長手方向における長さは、2〜20mm程度が好ましく、貫通孔2の、電極11,12で挟まれる部分の幅(検出装置本体の長手方向、及びガスの流通方向の両方に垂直な方向における長さ)は、3〜30mm程度が好ましい。
【0097】
貫通孔2の大きさを上記範囲とすることにより、粒子状物質を含む排ガスを貫通孔2内に十分に流通させることができ、更に、貫通孔2内に粒子状物質を荷電するために効果的な放電を起こすことが可能となる。
【0098】
また、貫通孔2の形状としては、貫通孔2の、流体が流入する入口部分及び流体が流出する出口部分の少なくとも一つが、拡開されていることが好ましい。貫通孔2の、流体が流入する入口部分及び流体が流出する出口部分の少なくとも一つが、拡開されていることにより、より効率的に配管内を流通する排ガス等を粒子状物質検出装置の貫通孔内に流入(入口部分が拡開された場合)させることや、流出(出口部分が拡開された場合)させることが可能となる。
【0099】
図14に示す本発明の粒子状物質検出装置の他の実施形態(粒子状物質検出装置200)においては、貫通孔2の、流体が流入する入口部分2aのみが拡開され、拡開部分2bが形成されている。また、図14に示す粒子状物質検出装置200においては、貫通孔2は、検出装置本体1の長手方向に広がるように拡開されているが、検出装置本体1の厚さ方向に広がるように拡開されてもよい。図14は、本発明の粒子状物質検出装置の他の実施形態を示し、図7に示す本発明の粒子状物質検出装置の一実施形態(粒子状物質検出装置100)の断面を示す模式図に相当する、模式図である。
【0100】
拡開部分2bの拡開された幅(貫通孔2のガス流通方向における最先端部分の幅)W1は、貫通孔2の拡開されていない部分の幅W2に対して2〜200%が好ましい。また、拡開部分2bの、貫通孔2のガス流通方向における奥行き(拡開部分の奥行き)L1は、検出装置本体1の、貫通孔2のガス流通方向における長さL2の5〜30%が好ましい。
【0101】
図15A、及び図15Bに示すように、本発明の粒子状物質検出装置の他の実施形態(粒子状物質検出装置300)は、検出装置本体1の中心軸に直交する断面形状が、貫通孔2の貫通方向において、一方の端部側から中央部に向かって漸次太くなり、中央部分で最も太く、更に他方の端部側に向かって漸次細くなる形状であることが好ましい。検出装置本体の形状をこのようにすることにより、貫通孔のガスの流通方向を、配管内の排気ガスの流通方向に合わせた(平行にした)ときに、配管内の排気ガスの流れを良好にすることができる。
【0102】
粒子状物質検出装置(検出装置本体)の、貫通孔の貫通方向における「中央部分」とは、粒子状物質検出装置の、貫通孔の貫通方向における長さを3等分したときの、中央に位置する「3分の1の範囲」を意味する。従って、「粒子状物質検出装置の、貫通孔の貫通方向において、中央部分で最も太く」というときは、上記「中央部分に位置する3分の1の範囲」に最も太い部分が位置することを意味する。ここで、図15Aは、本発明の粒子状物質検出装置の他の実施形態を示す、中心軸に直交し、貫通孔を含む断面を示す模式図であり、図15Bは、本発明の粒子状物質検出装置の他の実施形態を示す、中心軸に直交し、貫通孔を含まない断面を示す模式図である。
【0103】
また、本実施形態の粒子状物質検出装置は、検出装置本体1が、複数のテープ状セラミック(セラミックシート)が積層されてなるものであることが好ましい。これにより、複数のテープ状セラミックを、それぞれの間に各電極、配線等を挟みながら積層して粒子状物質検出装置を作製することができるため、本実施形態の粒子状物質検出装置を効率的に製造することが可能となる。
【0104】
本実施形態の粒子状物質検出装置は、貫通孔内を通過する粒子状物質が、ディーゼルエンジンより排出される煤であるときに、特にその効果を発揮させることができる。
【0105】
〔2〕粒子状物質検出装置の製造方法:
次に、本実施形態の粒子状物質検出装置を製造する方法について、図1A〜図11に示す本実施形態の粒子状物質検出装置100を製造する場合の例を説明する。
【0106】
〔2−1〕成形原料の調製:
アルミナ、コージェライト化原料、ムライト、ガラス、ジルコニア、マグネシア、及びチタニアからなる群より選択される少なくとも一種のセラミック原料(誘電体原料)と、成形原料として使用する他の成分とを混合し、スラリー状の成形原料を調製する。セラミック原料(誘電体原料)としては、上記原料が好ましいが、これに限定されるものではない。他の原料としては、バインダー、可塑剤、分散剤、分散媒等を使用することが好ましい。
【0107】
バインダーとしては、特に限定されるものではないが、水系バインダー、非水系バインダーのどちらでもよい。例えば、水系バインダーとしてはメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド等を好適に使用でき、非水系バインダーとしてはポリビニルブチラール、アクリル系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等を好適に使用することができる。アクリル系樹脂としては、(メタ)アクリル樹脂、(メタ)アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体等を好適例として挙げることができる。
【0108】
バインダーの添加量は、誘電体原料100質量部に対して、3〜20質量部であることが好ましく、6〜17質量部であることが更に好ましい。このようなバインダー含有量とすることにより、スラリー状の成形原料を成形してグリーンシートを成形したとき、及び、乾燥、焼成したときに、クラック等の発生を防止することが可能となる。
【0109】
可塑剤としては、グリセリン、ポリエチレングリコール、ジブチルフタレート、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル、フタル酸ジイソノニル等を使用することができる。
【0110】
可塑剤の添加量は、バインダー添加量100質量部に対して、30〜70質量部であることが好ましく、45〜55質量部であることが更に好ましい。70質量部より多いと、グリーンシートが柔らかくなりすぎ、シートを加工する工程において変形し易くなることがあり、30質量部より少ないと、グリーンシートが硬くなりすぎ、曲げただけでクラックが入るなどハンドリング性が悪くなることがある。
【0111】
分散剤としては、水系の分散剤としては、アニオン系界面活性剤、ワックスエマルジョン、ピリジン等を使用することができ、非水系の分散剤としては、脂肪酸、リン酸エステル、合成界面活性剤等を使用することができる。
【0112】
分散剤は、誘電体原料100質量部に対して、0.5〜3質量部であることが好ましく、1〜2質量部であることが更に好ましい。0.5質量部より少ないと、誘電体原料の分散性が低下することがあり、グリーンシートにクラック等が生じることがある。3質量部より多いと、誘電体原料の分散性は変わらずに焼成時の不純物を増やすことになる。
【0113】
分散媒としては、水等を使用することができる。分散媒は、誘電体原料100質量部に対して、50〜200質量部であることが好ましく、75〜150質量部であることが更に好ましい。
【0114】
上記各原料をアルミナ製ポット及びアルミナ玉石を用いて十分に混合してグリーンシート製作用のスラリー状の成形原料を作製する。また、これらの材料を、モノボールによりボールミル混合して作製してもよい。
【0115】
次に、得られたグリーンシート製作用のスラリー状の成形原料を、減圧下で撹拌して脱泡し、さらに所定の粘度となるように調製する。成形原料の調製において得られるスラリー状の成形原料の粘度は、2.0〜6.0Pa・sであることが好ましく、3.0〜5.0Pa・sであることが更に好ましく、3.5〜4.5Pa・sであることが特に好ましい。粘度範囲をこのように調整すると、スラリーをシート状に成形し易くなるため好ましい。スラリー粘度は、高過ぎても低過ぎても成形し難くなることがある。なお、スラリーの粘度は、B型粘度計で測定した値である。
【0116】
〔2−2〕成形加工:
次に、上記方法により得られたスラリー状の成形原料をテープ状に成形加工して、一方向に長いグリーンシートを作製する。成形加工方法は、成形原料をシート状に成形してグリーンシートを形成することができれば特に限定されず、ドクターブレード法、プレス成形法、圧延法、カレンダーロール法等の公知の方法を使用することができる。このとき、グリーンシートを積層したときに貫通孔が形成されるように、貫通孔形成用のグリーンシートを作製する。作製するグリーンシートの厚さは、50〜800μmであることが好ましい。
【0117】
〔2−3〕グリーンシート積層体の形成:
次に、得られたグリーンシートの表面に各電極、配線、加熱部、及び取り出し端子を配設する。例えば、まず、配設する各電極、配線、加熱部、及び取り出し端子を形成するための導体ペーストを調製し、得られた導体ペーストを、図4、図6〜図8、及び図10に示すように、各グリーンシートの対応する位置に印刷して、各電極、配線、加熱部、及び取り出し端子を形成する。
【0118】
上述した導体ペーストは、各電極や配線等のそれぞれの形成に必要なそれぞれの材質に合わせて、金、銀、白金、ニッケル、モリブデン、及びタングステンからなる群より選択される少なくとも一種を含有する粉末に、バインダー及びテルピネオール等の溶剤を加え、トリロールミル等を用いて十分に混錬して調製することができる。導体ペーストの印刷方法については特に制限はないが、例えば、スクリーン印刷等を用いることができる。
【0119】
一方、加熱部の保護層を形成するペーストとして、純度が95%以上であるアルミナ粉末にバインダー及びテルピネオール等の溶剤を加え、トリロールミル等を用いて十分に混錬して調製することができる。保護層を形成するペーストの印刷方法については特に制限はないが、例えば、スクリーン印刷等を用いることができる。
【0120】
各電極、配線、加熱部等のより具体的な形成方法としては、まず、複数のグリーンシートのなかの2つのグリーンシートについて、それぞれの一方の面の一方の端部側に電極を配設し、それぞれの電極から他方の端部に向かって延びる配線を配設して、電極配設グリーンシートを2つ形成する。更に、他の1つのグリーンシートについて、電極配設グリーンシートと重ねたときに配線と重なる位置に接地用電極を配設して、接地電極配設グリーンシートを形成する。更に、他の1つのグリーンシートについて、電極配設グリーンシートと重ねたときに電極と重なる位置に貫通孔となる切断部を形成して切断部形成グリーンシートを形成する。更に、他の1つのグリーンシートについて、切断部形成グリーンシートと重ねたときに貫通孔となる切断部と重なる位置に加熱部を形成し、加熱部から他方の端部に向かって延びる配線を配設して加熱部配設グリーンシートを形成する。
【0121】
なお、加熱部配設グリーンシートを形成する際には、まず、使用するグリーンシートの表面における、少なくとも加熱部を形成する範囲に対して、上記保護層用のペーストを塗布して保護層(より具体的には、保護層の片面)を形成し、この保護層の表面に、上記加熱部用の導体ペーストを塗布して加熱部を形成する。更に、形成した加熱部を覆うように、再度、保護層用のペーストを塗布して保護層(より具体的には、保護層のもう片面)を形成し、保護層によって加熱部を被覆して、上記加熱部配設グリーンシートを形成する。
【0122】
次に、このようにして得られた複数のグリーンシートを、粒子状物質検出装置の構成に合わせて積層して、グリーンシート積層体を得る。
【0123】
〔2−4〕焼成:
次に、得られたグリーンシート積層体を乾燥、焼成して、粒子状物質検出装置を得る。更に具体的には、得られた、グリーンシート積層体を60〜150℃で乾燥し、1200〜1600℃で焼成して粒子状物質検出装置を作製する。グリーンシートが有機バインダーを含有する場合には、焼成の前に、400〜800℃で脱脂することが好ましい。
【0124】
このような製造方法によれば、効率的に本発明の粒子状物質検出装置を製造することができる。なお、本実施形態の粒子状物質検出装置を製造する方法については、これまでに説明した製造方法に限定されることはない。
【実施例】
【0125】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0126】
(実施例1)
(成形原料の調製)
アルミナを誘電体原料として使用し、バインダーとしてポリビニルブチラール、可塑剤としてフタル酸ジ−2−エチルヘキシル、分散剤としてソルビタントリオレエートを使用し、分散媒として有機溶剤(キシレン:ブタノール=6:4(質量比))を使用し、これらをアルミナ製ポットに入れて混合し、グリーンシート製作用のスラリー状の成形原料を作製した。各原料の使用量は、アルミナ100質量部に対して、バインダー7質量部、可塑剤3.5質量部、分散剤1.5質量部、有機溶剤100質量部とした。
【0127】
次に、得られたグリーンシート製作用のスラリー状の成形原料を、減圧下で撹拌して脱泡し、粘度4Pa・sとなるように調製した。スラリーの粘度は、B型粘度計で測定した。
【0128】
(成形加工)
次に、上記方法により得られたスラリー状の成形原料をドクターブレード法を用いてシート状に成形加工した。この際、グリーンシートを積層したときに貫通孔が形成されるように、切断部形成グリーンシートも作製した。グリーンシートの厚さは、250μmとした。
【0129】
得られたグリーンシートの表面に、図1B、及び図3〜図11に示されるような各電極、接地電極、加熱部、各配線、及び各取り出し端子を形成した。また、加熱部を覆うような、純度が99%以上のアルミナからなる保護層を形成した。配設する各電極、接地電極、配線、及び取り付け端子を形成するための導体ペーストは、白金粉末に、溶剤として2−エチルヘキサノール、バインダーとしてポリビニルブチラール、可塑剤としてフタル酸ジ−2−エチルヘキシル、分散剤としてソルビタントリオレエート、グリーンシートの共生地としてアルミナ、焼結助剤としてガラスフリットを加え、らいかい機及びトリロールミルを用いて十分に混錬して調製した(質量比で、白金:アルミナ:ガラスフリット:2−エチルヘキサノール:ポリビニルブチラール:フタル酸ジ−2−エチルヘキシル:ソルビタントリオレエート=80:15:5:50:7:3.5:1)。
【0130】
また、加熱部を形成するための導体ペーストは、タングステン粉末に、溶剤として2−エチルヘキサノール、バインダーとしてポリビニルブチラール、可塑剤としてフタル酸ジ−2−エチルヘキシル、分散剤としてソルビタントリオレエート、グリーンシートの共生地としてアルミナ、焼結助剤としてガラスフリットを加え、らいかい機及びトリロールミルを用いて十分に混錬して調製した(質量比で、タングステン:アルミナ:ガラスフリット:2−エチルヘキサノール:ポリビニルブチラール:フタル酸ジ−2−エチルヘキシル:ソルビタントリオレエート=75.5:15:5:50:7:3.5:1)。
【0131】
また、保護層を形成するためのペースト(保護層用ペースト)は、純度99%のアルミナ粉末に、溶剤として2−エチルヘキサノール、バインダーとしてポリビニルブチラール、可塑剤としてフタル酸ジ−2−エチルヘキシル、分散剤としてソルビタントリオレエート、焼結助剤としてガラスフリットを加え、らいかい機及びトリロールミルを用いて十分に混錬して調製した(質量比で、アルミナ:ガラスフリット:2−エチルヘキサノール:ポリビニルブチラール:フタル酸ジ−2−エチルヘキシル:ソルビタントリオレエート=60:0.3:50:5:3.5:1)。
【0132】
所定の形状の各電極、接地電極、各配線、各取り出し端子、加熱部、及び保護層の形成は、上記の方法によって得られた各ペーストを用いて、スクリーン印刷により行った。
【0133】
より具体的には、まず、複数のグリーンシートのなかの2つのグリーンシートについて、それぞれの一方の面の一方の端部側に電極を配設し、それぞれの電極から他方の端部に向かって延びる配線を配設して、電極配設グリーンシートを2つ形成した。更に、他の1つのグリーンシートについて、電極配設グリーンシートと重ねたときに配線と重なる位置に接地用電極を配設して、接地電極配設グリーンシートを形成した。更に、他の1つのグリーンシートについて、電極配設グリーンシートと重ねたときに電極と重なる位置に貫通孔となる切断部を形成して切断部形成グリーンシートを形成した。更に、他の1つのグリーンシートについて、切断部形成グリーンシートと重ねたときに貫通孔となる切断部と重なる位置に加熱部を形成し、加熱部から他方の端部に向かって延びる配線を配設して加熱部配設グリーンシートを形成した。
【0134】
なお、上記加熱部配設グリーンシートを形成する際には、まず、使用するグリーンシートの表面における、少なくとも加熱部を形成する範囲に対して、上記保護層用ペーストを塗布して保護層(より具体的には、保護層の片面)を形成し、この保護層の表面に、上記加熱部用導体ペーストを塗布して加熱部を形成した。更に、形成した加熱部を覆うように、再度保護層用ペーストを塗布して保護層(より具体的には、保護層のもう片面)を形成し、保護層によって加熱部を被覆して、上記加熱部配設グリーンシートを形成した。
【0135】
そして、2つの電極配設グリーンシートのそれぞれに、他の電極等が配設されていないグリーンシートを重ねて電極及び配線をグリーンシートで覆った状態として、電極埋設グリーンシートとするとともに、2つの電極埋設グリーンシートで接地電極配設グリーンシート及び切断部形成グリーンシートを挟むように積層し、更に、加熱部配設グリーンシートを電極埋設グリーンシートの外側に位置するように積層し、2つの電極で切断部を挟み且つ2つの配線で接地電極を挟んだ状態のグリーンシート積層体を形成した。各配線と、各配線に対応する取り出し端子とは、導体ペーストの埋め込み方法により、層間接続(ビア接続)した。
【0136】
グリーンシートの積層は、グリーンシートを加熱可能な一軸プレス機を用いて加圧積層し、グリーンシート積層体からなる粒子状物質検出装置の未焼成体を得た。
【0137】
(焼成)
得られた、グリーンシート積層体(粒子状物質検出装置の未焼成体)を120℃で乾燥し、1500℃で焼成して粒子状物質検出装置を作製した。得られた粒子状物質検出装置は、0.7cm×0.2cm×12cmの直方体において、他方の端部が、図1Bに示すように細くなった形状であった。細くなった他方の端部は、幅4.25cm、長さ1.2cmであった。貫通孔は、排ガスの流通方向に垂直な断面形状が10cm×0.5cmの長方形であった。
【0138】
(放電用電源)
放電用の電源としては、パルス電源とDC電源を用い、電極の取り出し端子に接続した。
【0139】
(測定部)
電極間のインピーダンスを測定するための測定部としては、アジレントテクノロジー社製のインピーダンスアナライザを用い、電極の取り出し端子に接続した。また、接地電極の取り出し端子は接地させた。
【0140】
(粒子状物質測定方法)
得られた粒子状物質検出装置を、ディーゼルエンジンの排気管に設置した。ディーゼルエンジンとしては、排気量2000ccの直噴−ディーゼルエンジンを使用し、回転数1500rpm、トルク24N・m、EGR(exhaust gas recirculation)開度50%、排ガス温度200℃、吸入空気1.3m(室温換算)/分の運転条件下で排ガスを発生させた。
【0141】
スモークメータ(AVL社製、商品名:型式4158)による排ガス中の粒子状物質量は、2.0mg/mであった。粒子状物質の検出は、以下のように行った。ディーゼルエンジンから排ガスを発生させながら、粒子状物質を荷電集塵する前に、一対の電極間の初期の静電容量(pF)を、1分間に亘って6回測定し、その後、粒子状物質を1分間に亘って荷電集塵し、その後、荷電集塵操作を停止して、再度、静電容量(一対の電極間の1分間集塵後の静電容量)(pF)を、1分間に亘って6回測定した。初期の静電容量及び1分間集塵後の静電容量は、いずれも6回の測定の平均値を求めた。そして、初期の静電容量と1分間集塵後の静電容量との差から、集塵された粒子状物質の質量を算出した。
【0142】
粒子状物質の質量の算出は、粒子状物質の吸着量に対する静電容量の変化について、予め検量線を作成しておき、その検量線を用いて行った。なお、本測定においては、加熱部(ヒーター)による粒子状物質の燃焼は行わないこととした。粒子状物質を荷電集塵する際には、高電圧電源による印加電圧をDC2.0kVとし、電極間の静電容量測定時には、測定部から印加電圧をAC2V、周波数を10kHzとした。結果を表1に示す。
【0143】
(比較例1)
加熱部を被覆する保護層を配置していないこと以外は、実施例1の粒子状物質検出装置と同様に構成された粒子状検出装置(比較例1)を作成した。
【0144】
(加熱部の耐久性試験)
実施例1及び比較例1の粒子状物質検出装置の加熱部に定格電圧25Vを印加し、粒子状物質検出装置の先端部(即ち、検出装置本体の貫通孔が形成された領域)を約800℃に長時間保持した。上記の温度のまま、実施例1及び比較例1の粒子状物質検出装置における、一の加熱部(例えば、図2における加熱部13)と、この加熱部の最も近くに配置された電極(例えば、図における電極12)との間の抵抗値をそれぞれ1分おきにサンプリングした。なお、測定は3000時間連続して行った。ここで、図16は、加熱部の耐久性試験における、測定結果を示すグラフである。なお、横軸は、測定時間(hour)を示し、縦軸は、加熱部と電極との間の抵抗値(MΩ)を示す。
【0145】
【表1】

【0146】
表1より、初期測定時と集塵後の静電容量(インピーダンス)の差が明確に示された。これより、1分間のインピーダンス測定でも、排ガス中の粒子状物質量の増加を検出することが可能であることがわかる。また、図16に示すように、保護層を導入しない粒子状物質検出装置(比較例1)では、加熱部の長時間の使用により加熱部のイオンマイグレーションに起因すると考えられる絶縁破壊が発生した。また、保護層を導入した粒子状物質検出装置(実施例1)の方が、保護層を導入しない粒子状物質検出装置(比較例1)よりも経時変化による電気的な絶縁耐久性が向上することが明らかとなった。即ち、本発明の粒子状物質検出装置によれば、加熱部のマイグレーションによる絶縁破壊が発生し難く、耐久性を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0147】
本発明の粒子状物質検出装置は、DPFの欠陥の発生を即座に検知し、装置の異常を認識するために好適に利用することができ、これにより大気汚染の防止に貢献することができる。
【符号の説明】
【0148】
1:検出装置本体、1a:一方の端部、1b:他方の端部、1c:一方の先端部分、1d:他方の先端部分、2:貫通孔、2a:入り口部分、2b:拡開部分、11,12:電極、11a,12a,13a,14a:取り出し端子、11b,12b,13b,14b:配線、13:加熱部、14:接地電極、15,15x,15y:保護層、100,200,300:粒子状物質検出装置、W1:拡開された幅、W2:拡開されていない幅、L1:拡開部分の奥行き、L2:貫通孔のガス流通方向における長さ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の端部に少なくとも一の貫通孔が形成された一方向に長い検出装置本体と、前記貫通孔を形成する壁の内部に埋設され、誘電体で覆われた少なくとも一対の電極と、前記貫通孔の壁面に沿うようにして検出装置本体の内部に配設された、前記貫通孔を形成する壁の温調用の加熱部とを備え、
前記加熱部が、純度が95%以上のアルミナからなる保護層によって覆われており、
前記貫通孔内に流入する流体に含有される荷電された粒子状物質、又は、前記一対の電極に電圧を印加することにより前記貫通孔内に生じる放電により荷電された、前記貫通孔内に流入する流体に含有される粒子状物質を、前記貫通孔の壁面に電気的に吸着させることが可能であり、貫通孔を形成する壁の電気的な特性の変化を測定することにより前記貫通孔の壁面に吸着された粒子状物質を検出することが可能な粒子状物質検出装置。
【請求項2】
前記誘電体が、アルミナ、コージェライト、ムライト、ガラス、ジルコニア、マグネシア、及びチタニアからなる群より選択される少なくとも一種である請求項1に記載の粒子状物質検出装置。
【請求項3】
前記誘電体が、純度が90%以上、且つ前記保護層を構成するアルミナの純度未満のアルミナである請求項1に記載の粒状物質検出装置。
【請求項4】
前記加熱部が、タングステン、モリブデン、銅、アルミニウム、銀、金、鉄及び白金からなる群より選択される少なくとも一種の金属からなる請求項1〜3のいずれか一項に記載の粒子状物質検出装置。
【請求項5】
前記検出装置本体の他方の端部に、前記一対の電極のなかの少なくとも一方の電極の取り出し端子が配設された請求項1〜4のいずれか一項に記載の粒子状物質検出装置。
【請求項6】
前記検出装置本体の他方の端部に、前記加熱部の取り出し端子が配設された請求項1〜5のいずれか一項に記載の粒子状物質検出装置。
【請求項7】
前記貫通孔の、前記流体が流入する入口部分及び前記流体が流出する出口部分の少なくとも一つが、拡開されている請求項1〜6のいずれか一項に記載の粒子状物質検出装置。
【請求項8】
前記検出装置本体の中心軸に直交する断面形状が、前記貫通孔の貫通方向において、一方の端部側から中央部に向かって漸次太くなり、中央部分で最も太く、更に他方の端部側に向かって漸次細くなる形状である請求項1〜7のいずれか一項に記載の粒子状物質検出装置。
【請求項9】
前記貫通孔の壁面に吸着した粒子状物質を、前記一対の電極に電圧を印加して前記貫通孔内に放電を起こして酸化除去することが可能な請求項1〜8のいずれか一項に記載の粒子状物質検出装置。
【請求項10】
前記貫通孔内に起きる放電が、無声放電、ストリーマ放電、及びコロナ放電からなる群より選択される一種である請求項1〜9のいずれか一項に記載の粒子状物質検出装置。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15A】
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【図15B】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−210534(P2010−210534A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−58847(P2009−58847)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】