説明

粒子線治療システム及び粒子線照射方法

【課題】径が小さい粒子ビームを用いる照射において、非円形形状のビームを円形に近づける技術を提供することにある。
【解決手段】荷電粒子ビームを加速する加速器と、加速器から出射された荷電粒子ビームを標的領域に照射する粒子線照射装置と、加速器と粒子線照射装置をつなぐビーム輸送系と、第1散乱部材及び荷電粒子ビームの散乱角が第1散乱部材よりも大きい物質で構成される第2散乱部材を少なくとも有する散乱体と、ビーム輸送系のビーム通過領域であって、通過する荷電粒子ビームのビーム径が短い領域を、第2散乱部材の長軸が横切るように散乱体を配置することによって、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子線治療システム及び粒子線照射方法に係り、特に、ビームサイズ比が1に近いビームを用いて線量分布の中で線量の高い領域を形成するのに好適な粒子線治療システム及び粒子線照射方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子線治療システムは、陽子ビームや重粒子ビーム(炭素線等)の荷電粒子ビームを患者の患部に照射するがん治療の有効な手段の一つであり、今後、盛んに用いられる見込みである。粒子線治療システムには、患者の患部(標的領域)の線量分布を均一あるいは予め決められた分布に制御することが求められている。
【0003】
荷電粒子ビームの進行方向(深さ方向)の線量分布の形成には、荷電粒子ビームが停止する直前にエネルギーの大部分を放出してブラッグカーブと呼ばれる線量分布を形成する特性と、そのブラッグカーブのピークであるブラッグピークの、深さ方向での位置は体内に入射する荷電粒子ビームのエネルギーの大きさで制御できる特性を利用する。粒子線治療では、荷電粒子ビームのエネルギーを適切に選択し、荷電粒子ビームを患部近傍で停止させてエネルギーの大部分を患部のがん細胞に与えるようにしている。ここで、ブラッグピークの、深さ方向での幅は数mmである。通常、患部は深さ方向にそれ以上の厚みをもっている。このような患部において患部全体の深さ方向に渡って荷電粒子ビームを効果的に照射するには、深さ方向で患部大に広がり一様度の高い高線量領域(SOBP;Spread Out Bragg Peak)を形成するように、荷電粒子ビームのエネルギーと荷電粒子ビームの照射量を制御する必要がある。
【0004】
荷電粒子ビームの進行方向(深さ方向)の線量分布の形成には、リッジフィルタやRMW(Range Modulation Wheel)等を用いる方法、あるいは、加速器から出射する荷電粒子ビームのエネルギー種を変える方法で、SOBPを形成することが知られている。
【0005】
線量分布を均一等に制御する方法として、荷電粒子ビームの進行方向に垂直な面(照射野面)には、散乱体を用いて荷電粒子ビームを広げる方法や、ビーム径が小さい荷電粒子ビームを用いて照射野面を走査する方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−37629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
粒子線治療システムでは、荷電粒子ビームの進行方向に垂直な面(照射野面)において、円形に近い形状の荷電粒子ビームを用いることが望ましい。照射野面内での荷電粒子ビームの縦横比をビームサイズ比と呼ぶ。このビームサイズ比が1に近い方が円形に近いが、加速器で加速したビームは必ずしも円形ではない。
【0008】
特許文献1は、荷電粒子ビームの照射範囲を径方向(ビーム進行方向に対して垂直な方向)に拡大する第1散乱体及び第2散乱体を、粒子線照射装置内に配置する粒子線治療システムを開示している。第1散乱体は荷電粒子ビームのビーム散乱量が大きい物質で構成され、ビーム径方向の線量分布を正規分布状に拡大する。第2散乱体は、荷電粒子ビームのビーム散乱角が大きい物質からなる円盤部と、この円盤部の外周側に設けられ、荷電粒子ビームのビーム散乱角が小さい物質からなるリング部で構成される、2重リング構造を有する。このような第2散乱体は、第1散乱体を通過した荷電粒子ビームのビーム径方向の線量分布を一様に拡大する機能を有する。
【0009】
一方、ビーム径が小さい荷電粒子ビームを用いて照射野面を走査する照射方法では、ビームサイズ比が1から大きくずれると、線量分布の形成の点から、照射野面で照射スポット位置を調整して線量一様度を得る必要があることが分かった。ビームサイズ比が変動すると、ビームサイズ比の大きさに応じて、照射スポット位置を調整する必要があり、大きな課題となる。そのために、照射野内での線量分布を一様、あるいは、予め決めた分布にするには、荷電粒子ビームのビーム形状を円形(ビームサイズ比が1に近いビーム)にする必要がある。
【0010】
荷電粒子ビームのビームサイズ比が1から大きくずれる場合、ビーム輸送系の電磁石装置を用いて荷電粒子ビームの形状を調整する(円形に近づける)ことは可能である。しかし、回転ガントリーを備える粒子線治療システムの場合、電磁石装置はこの回転ガントリーの回転角度毎に荷電粒子ビームの形状を調整することが必要となり、このような調整にはさらに多大な労力を要する。省力化のためには、回転ガントリーの回転角度に無関係にしてビームサイズの調整を少なくするには、ビームサイズ比を1に近づけることが重要である。特に、ビーム径が小さい荷電粒子ビームのビーム形状を円形に近づける手段を開発することは重要である。
【0011】
本発明者らは、荷電粒子ビームのビーム軌道上に散乱体を設置してビーム形状を調整する方法について種々検討を行った。散乱体は荷電粒子ビームに等方に散乱角を与える。散乱角の大きい粒子の場合、散乱体の通過前のビーム形状が非円形であっても、散乱後には円形に近づく。散乱体として平板を用いると、散乱は等方に起こるので、非円形の長軸,短軸の両方に散乱角が与えられる。このため、非円形ビームを円形に近づけるためには、長軸と短軸の差を埋めるべく散乱角を大きくする必要がある。この場合、非円形ビームの長軸の方も径が大きくなり、径の細いビームを用いようとする照射には不向きになる。逆に、散乱角を小さく押さえると円形形状への近づき方が悪く、非円形形状のままになる。
本発明の目的は、ビーム径が小さい荷電粒子ビームを用いる照射において、荷電粒子ビームの進行方向に垂直な面でのビーム形状を円形に近づける粒子線治療システム及び粒子線照射方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)上記目的を達成するために、本発明は、荷電粒子ビームを加速する加速器と、この加速器から出射された荷電粒子ビームを標的領域に照射する粒子線照射装置と、加速器と粒子線照射装置をつなぐビーム輸送系と、散乱角が異なる複数の散乱部材を有する散乱体と、ビーム輸送系のビーム通過領域であって、通過する荷電粒子ビームのビーム径が短い領域を、第2散乱部材の長軸が横切るように散乱体を配置する散乱体制御装置を備えることによって、非円形のビーム形状を円形形状にして、患部位置における患部サイズの高線量領域の形成するようにしたものである。
【0013】
(2)上記(1)において、好ましくは、散乱体を通過する前の荷電粒子ビームのビーム形状を求め、散乱体の配置位置及び回転角度に関する移動指令信号を出力する中央制御装置を備え、散乱体制御装置は、中央制御装置からの移動指令信号に基づいて散乱体を移動及び回転して配置することによって、さらに所望のビーム形状の荷電粒子ビームを得ることができる。
【0014】
(3)上記(1)において、好ましくは、走査電磁石で粒子線を走査して、標的領域に粒子線を照射するようにしたものである。
【0015】
(4)上記(1)において、好ましくは、散乱角が異なる複数の散乱部材は、第1の散乱部材と、荷電粒子ビームの散乱角が第1散乱部材より大きい物質で構成される第2散乱部材を少なくとも備え、散乱体は、第2散乱部材が複数の第1散乱部材の間に配置される構成であり、第1散乱部材及び第2散乱部材を通過した荷電粒子ビームの水等価の飛程が同じになるような厚みを有し、散乱体制御装置は、荷電粒子ビームが第1散乱部材及び第2散乱部材を通過する位置に前記散乱体を配置する。
【0016】
(5)上記(4)において、好ましくは、第2散乱部材の短軸方向の幅が、散乱体を通過する前のビーム径の長軸方向の長さよりも小さく、第2散乱部材の長軸方向の幅が、散乱体を通過する前のビーム径の短軸方向の長さより大きい構成とする。
【0017】
(6)上記(1)(2)(3)において、好ましくは、散乱体は、第1散乱部材と第2散乱部材とを交互に複数配置した構成であり、第1散乱部材及び第2散乱部材を通過した荷電粒子ビームの水等価の飛程が同じになるような厚みを有し、散乱体制御装置は、荷電粒子ビームが第1散乱部材及び第2散乱部材を通過する位置に前記散乱体を配置することによって、非円形ビームをより円形形状にすることを特徴とする非等方散乱体を用いるようにしたものである。
【0018】
(7)上記(6)において、好ましくは、散乱体は、第2散乱部材をビーム中心周りに複数個設置し、ビーム中心から端になるにつれて、第2散乱部材の幅と間隔を徐々に小さくした構成とする。
【0019】
(8)上記(1)(2)(3)において、好ましくは、散乱体は、第1散乱部材と、荷電粒子ビームの散乱角が第1散乱部材よりも大きい物質で構成される第2散乱部材と、この第1散乱部材及び第2散乱部材を支持する支持部材を有し、支持部材の一方の面に第1散乱部材を配置し、支持部材の他方の面に、第1支持部材の一部が重なるように第2支持部材を配置した構成であり、第1散乱部材及び第2散乱部材を通過した荷電粒子ビームの水等価の飛程が同じになるような厚みを有し、散乱体制御装置は、荷電粒子ビームが第1散乱部材及び第2散乱部材を通過する位置に散乱体を配置することによって、非円形ビームをより円形形状にすることができる。
【0020】
(9)荷電粒子ビームを加速する加速器と、加速器から出射された荷電粒子ビームを標的領域に照射する粒子線照射装置と、加速器と粒子線照射装置をつなぐビーム輸送系と、荷電粒子ビームの散乱角が異なる複数の散乱部材を有し、ビーム中心から離れるにつれて、散乱角が小さい散乱部材を配置し、ビーム輸送系のビーム通過領域であって、通過する荷電粒子ビームのビーム径が短い領域を、散乱部材のうち最も散乱角が大きい散乱部材の長軸が横切るように散乱体を配置する散乱体制御装置を備えることによって、非円形ビームをより円形形状にすることができる。
【0021】
(10)上記(9)において、好ましくは、散乱体は散乱角が異なる複数の散乱部材を通過した荷電粒子ビームの水等価の飛程が同じになるような厚みを有することにある。
【0022】
(11)また、荷電粒子ビームを加速する加速器と、加速器から出射された荷電粒子ビームを標的領域に照射する粒子線照射装置と、加速器と粒子線照射装置をつなぐビーム輸送系と、第1散乱部材及び荷電粒子ビームの散乱角が第1散乱部材よりも大きい物質で構成される第2散乱部材を有する散乱体と、散乱体をビーム輸送系のビーム通過領域に配置する散乱体制御装置を備える粒子線治療システムの粒子線照射方法であって、散乱体制御装置は、荷電粒子ビームのビーム径が短い領域を、第2散乱部材の長軸が横切るように散乱体を配置し、散乱体を通過した荷電粒子ビームを粒子線照射装置に輸送し、この輸送された荷電粒子ビームを、粒子線照射装置内にある走査電磁石で偏向して出射することによって、標的領域に高線量領域の形成するようにした。
【0023】
このような方法により、ビームサイズ比が1から大きくずれているビーム形状を円形に近い形状にすることができるので、ガントリー回転角毎に調整する必要がなく、ガントリー角度とは無関係に、線量分布一様度の形成が容易にできるものとなる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、荷電粒子ビームのビーム形状を円形に近づけることができるので、回転ガントリーの回転角毎にビーム形状を調整する必要がなく、回転ガントリーの回転角度には依存せずに、所望の線量分布を得ることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1の実施形態による粒子線治療システムのシステム構成図である。
【図2】本発明の第1の実施形態による粒子線治療システムに用いる粒子線照射装置の構成図である。
【図3】本発明の第1の実施形態による散乱体の構成を示した図である。
【図4】本発明の第1の実施形態による散乱体の説明図である。
【図5】本発明の第1の実施形態による散乱体の説明図である。
【図6】本発明の他の実施形態による散乱体の構成を示した図である。
【図7】本発明の他の実施形態による散乱体の構成を示した図である。
【図8】本発明の他の実施形態による散乱体の構成を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
粒子線を標的領域に照射する粒子線照射装置と、加速器と、それらをつなぐ輸送系とからなる粒子線治療システムにおいて、水等価の飛程が同じになるように厚さを調整した、散乱角の異なる複数の物質を帯状に配列し、帯状に配列した散乱角の大きい物質の短軸方向の幅は非円形ビームの長軸方向の長さより短くし、散乱角の大きい物質の長軸方向の長さは非円形ビームの短軸方向の長さより長くした非等方散乱体を用いて、非円形形状のビームの短軸方向の幅を大きく拡大し非円形のビーム形状を円形形状にして、患部位置における患部サイズの高線量領域の形成するようにしたものである。
【実施例1】
【0027】
本発明の第1の実施形態による粒子線治療システムの構成及び動作を、図1〜図5を用いて説明する。
【0028】
まずは、図1を用いて本実施形態による粒子線治療システム100の構成について説明する。図1は、実施例1の粒子線治療システム100のシステム構成図である。
【0029】
本実施形態の粒子線治療システム100は、前段加速器(例えば、直線加速器)1,円形加速器(例えば、シンクロトロン)2,ビーム輸送系3,回転ガントリー4,粒子線照射装置5,制御装置6及び患者支持装置8を備える。
【0030】
前段加速器1は、イオン源(図示せず)及びシンクロトロン2に接続される。シンクロトロン2は、ビーム加速装置である高周波加速空胴30,高周波印加装置31,出射用デフレクタ32,四極電磁石33及び偏向電磁石34を有する。出射用デフレクタ32がビーム輸送系3に接続される。
【0031】
ビーム輸送系3は、散乱体14,ビーム経路35,四極電磁石36及び偏向電磁石37を備える。ビーム経路35に沿って散乱体14,四極電磁石36及び偏向電磁石37が配置される。散乱体14は、散乱体駆動装置24を介して散乱体制御部15に接続される。
ビーム輸送系3の一部である逆U字のビーム経路35を含む回転ガントリー4に、粒子線照射装置5が、回転ガントリー4に設置される。回転ガントリー4が回転することによって、患者7への荷電粒子ビームの照射方向を変更できる。ビーム輸送系3が、シンクロトロン2と粒子線照射装置5を接続する。
【0032】
図2を用いて、粒子線照射装置5の内部構造について説明する。図2は、粒子線治療システム100に用いる粒子線照射装置5の構成図である。粒子線照射装置5は、ケーシング(図示せず)を有する。このケーシングが回転ガントリーに取り付けられる。ケーシングの内部には、荷電粒子ビームのビーム進行方向の上流側から、ビームプロファイルモニタ12,走査電磁石13,線量モニタ17,ブロックコリメータ18及びマルチリーフコリメータ19をビーム経路(ビーム軸)上に配置している。ビームプロファイルモニタ12は、ビーム輸送系3を経てビーム経路35から粒子線照射装置5に入射された荷電粒子ビームがビーム軸上に位置しているかを確認するモニタである。走査電磁石13は、通過する荷電粒子ビームを偏向して走査する。この走査電磁石13は、例えばビーム軸と垂直な平面上において互いに直交する方向(X方向,Y方向)に荷電粒子ビームを偏向し、照射位置をX方向及びY方向に動かすためのものである。線量モニタ17は、粒子線照射装置5に入射された荷電粒子ビームの線量を検出するモニタである。ブロックコリメータ18は、ビーム軸と垂直な平面上の荷電粒子ビームの照射野形状を成形する開口を有し、その開口の外部の荷電粒子ビームを遮蔽するものである。マルチリーフコリメータ19は、荷電粒子ビームを遮蔽する多数の薄板を有し、薄板をビーム軸と垂直な平面上内へ移動することにより、荷電粒子ビームが通過する領域を任意の形状(患者7の患部の形状)成形するものである。符号20は、患者7に荷電粒子ビームを当てる中心になるアイソセンタである。
【0033】
制御装置6は、図1に示すように、加速器・輸送系制御部9,照射装置制御部10,散乱体制御部15及び中央制御部11を備える。中央制御装置11が、加速器・輸送系制御部9,照射装置制御部10及び散乱体制御部15に接続され、これらの制御部に指令信号を出力する。また、中央制御部11は、ビーム輸送系3、治療計画装置25及び表示装置26に接続される。加速器・輸送系制御部9は、前段加速器1,シンクロトロン2及びビーム輸送系3に接続され、中央制御部11からの指令信号に基づいて、前段加速器1,シンクロトロン2及びビーム輸送系3を制御する。照射装置制御部10は、粒子線照射装置5に接続され、中央制御装置11からの指令信号に基づいて、粒子線照射装置5内の各機器を制御する。なお、照射装置制御部10は、粒子線照射装置5内に配置される走査電磁石13に供給する電力を調整して、走査磁場を形成させて荷電粒子ビームの走査量を調整する機能を有する。散乱体制御部15は、散乱体駆動装置24に接続される。この散乱体制御部15は、中央制御装置11からの指令信号に基づいて、複数の散乱体のなかから所望の散乱体14を選択し、選択された散乱体14がビーム軌道上に配置されるように駆動指令信号を散乱体駆動装置24に出力する。
【0034】
治療計画装置25は、医師によって予め入力されている患者情報(患部の位置及びサイズ,荷電粒子ビームの照射方向,最大照射深さ等)に基づいて治療計画情報を求める。この治療計画情報は、荷電粒子ビームのビームエネルギー,荷電粒子ビームの飛程,SOBP幅,照射野径,患者支持装置8の設置位置等を含む。治療計画装置25は、この治療計画情報を治療計画装置25内の記憶装置(図示せず)に記憶するとともに、中央制御部11内の記憶装置(図示せず)に記憶させる。
【0035】
中央制御部11は、例えば、キーボードやマウスなどの入力装置から入力された患者識別情報に応じて、これから治療を行う患者7に関する治療計画情報を中央制御部11内の記憶装置から読み込む。中央制御部11は、この治療計画情報に基づいて、シンクロトロン2を構成する高周波加速空胴30,高周波印加装置31,出射用デフレクタ32,四極電磁石33及び偏向電磁石34に対する制御指令データ(加速器制御指令データ),ビーム輸送系3を構成する四極電磁石36及び偏向電磁石37等の各機器に対する制御指令データ(輸送系制御指令データ),ビーム輸送系3のビーム軌道上に配置される散乱体14の制御指令データ(散乱体制御指令データ)、及び粒子線照射装置5を構成するブロックコリメータ18,マルチリーフコリメータ19等の各機器の制御指令データ(照射装置制御指令データ)を作成する。このようにして作成された加速器制御指令データ及び輸送系制御指令データが加速器・輸送系制御部9に出力され、散乱体制御指令データが散乱体制御部15へ出力され、照射装置制御指令データが照射装置制御部10に出力される。
【0036】
荷電粒子ビームを照射する対象である患者7をのせた患者支持装置8が移動され、患部がビーム軸の延長線上に位置するように、粒子線照射装置5の下に位置決めされる。中央制御部11からの加速器制御指令データ及び輸送系制御指令データを入力した加速器・輸送系制御部9は、シンクロトロン2及びビーム輸送系3の電磁石を励磁する。また、照射装置制御指令データを入力した照射装置制御部10は、これから治療を行う患者7の患部の形状に合わせて作成されたブロックコリメータ18をビーム軌道上に配置し、マルチリーフコリメータ19の多数の薄板を移動させて患者7の患部に合うように開口部を形成させる。このように荷電粒子ビームの出射準備が完了すると、医者は、制御室の操作盤から治療開始信号を中央制御部11に出力する。
【0037】
治療開始信号を入力した中央制御部11はイオン源を起動させる。イオン源で発生したイオン(例えば、陽子イオン,炭素イオン等)は、前段加速器1で加速される。前段加速器1から出射された荷電粒子ビームは、シンクロトロン2に入射される。この荷電粒子ビームは、シンクロトロン2で高周波加速空胴30から印加される高周波電力によってエネルギーを与えられて加速される。
【0038】
シンクロトロン2の内部を周回する荷電粒子ビームのエネルギーが設定されたエネルギーまでに高められた後、出射用の高周波印加装置31から高周波が荷電粒子ビームに印加される。安定限界内で周回している荷電粒子ビームは、高周波印加装置31による高周波の印加によって安定限界外に移行し、出射用デフレクタ32を通ってシンクロトロン2から出射される。荷電粒子ビームの出射の際には、シンクロトロン2に設けられた四極電磁石33及び偏向電磁石34等の電磁石に導かれる電流が設定値に保持され、安定限界もほぼ一定に保持されている。高周波印加装置31への高周波電力の印加を停止することによって、シンクロトロン2からの荷電粒子ビームの出射が停止される。
【0039】
シンクロトロン2から出射された荷電粒子ビームは、ビーム輸送系3を経て粒子線照射装置5に達する。照射装置制御部10は、粒子線照射装置5内の走査電磁石13に供給する電力を制御して、走査磁場を形成し、荷電粒子ビームを走査する。
【0040】
荷電粒子ビームの進行方向に垂直な照射野へ照射する方法としては、走査電磁石13を用いた、粒子ビームのスポット走査あるいはラスター走査等の方法がある。
【0041】
次に、図3〜図5を用いて、本実施形態による粒子線治療システム100の散乱体14の構成について説明する。
【0042】
図3を用いて、散乱体14について説明する。図3に、散乱体14の例を示す。本実施例の散乱体14は非等方散乱体であり、散乱角の異なる2種類の物質を配列し、水等価厚の飛程を同じになるように厚みが調整されている。第1散乱部材21a,21bは散乱角が小さい物質で構成され、第2散乱部材22は散乱角が大きい物質で構成されている。第1散乱部材21a,21bは、第2散乱部材22の散乱角よりも小さい物質で構成される。第2散乱部材22が第1散乱部材21aと第1散乱部材21bの間に配置される。第2散乱部材22の長軸方向が、非円形ビームの長軸方向と垂直になるように、非等方散乱体14を構築する。第1散乱部材21は、第2散乱部材22に比べて散乱角が無視できる程小さいほうが望ましい。この場合の第1散乱部材21a,21bの役割は、第2散乱部材22の支持である。例えば、第1散乱部材21a,21bは散乱角の小さい物質として樹脂の一種であるABSやアルミニウム等で構成され、第2散乱部材22は散乱角の大きい物質としてタングステン等で構成される。
【0043】
本実施例の粒子線治療システム100は、複数個の散乱体を準備している。それぞれの散乱体は、前述と同様、第2散乱部材を2つの第1散乱部材ではさんだ構成を有する。各散乱体は、水等価厚の飛程が同じになるように、第1散乱部材と第2散乱部材の厚みが調整されている。複数の散乱体は、第2散乱部材の短軸方向の長さ(幅)がそれぞれ異なる構成を有する。第2散乱部材の幅が異なる複数の散乱体を準備し、荷電粒子ビームのビームサイズ比に応じて散乱体をビーム軌道上に配置することにより、円形に近い形状の荷電粒子ビームを得ることができる。
【0044】
第1散乱部材と第2散乱部材と散乱角の違いを利用して荷電粒子ビームの散乱量を非等方にする様子を、図4を用いて説明する。図4(a)は、ビーム軸垂直方向であって第2散乱部材22をその長軸方向から見た図である。第2散乱部材22を通過した荷電粒子ビームは散乱を受けて、Y軸方向にビームサイズが拡大する。図4(b)は、ビーム軸垂直方向であって第2散乱部材22をその短軸方向から見た図である。散乱体14に入射する荷電粒子ビームのビームサイズは、第2散乱部材22の短軸方向幅より大きい。第2散乱部材22の短軸方向の幅が、入射される荷電粒子ビームのビームサイズよりも小さくなるように構成する必要がある。第2散乱部材22を通過した荷電粒子ビームは散乱を受けてビームの広がりが大きくなる。第1散乱部材21a,21bを通過した荷電粒子ビームは散乱角が小さいため、第2散乱部材22を通過した荷電粒子ビームよりもビームサイズが小さくなる。このため、X軸方向へのビームサイズの拡大はほとんどない。その結果、散乱体14を通過した荷電粒子ビームは、非円形ビームの長軸方向であるX方向へのビーム拡大はほとんどなく、ビームの短軸方向であるY方向へのビーム拡大が大きくなり、ビーム形状は円形に近づく。
【0045】
図5に、その様子を示す。図5は、ビーム軸方向から見た図である。図5(a)は、散乱体14を通過する前の荷電粒子ビームのビーム形状を示す。荷電粒子ビームは非円形の形状を有する。図5(b)は、散乱体14を通過した後の荷電粒子ビームのビーム形状を示す。図5(a)の非円形ビームは、散乱体14の長軸方向が非円形ビームの短軸方向と同じであり、荷電粒子ビームは第2散乱部材22で大きく散乱を受け、ビーム短軸方向距離は大きくなる。一方、荷電粒子ビームの長軸方向の端部は、散乱角の小さい物質で構成される第1散乱部材21を通過するので、散乱は小さく、荷電粒子ビームの長軸方向距離は大きくなるなり方が小さい。その結果、散乱体14を通過する前のビーム形状が非円形であったとしても、散乱体14を通過することによってビーム形状が円形に近づく。このように、非円形ビームは、非等方散乱体14を通過して、円形に近づく。
【0046】
散乱角は、元々持っているビームの散乱角σ1と散乱体の散乱角σ2とを用いて、散乱体を通過した後の散乱角σは、σ=√(σ12+σ22)で求められる。散乱体を通過する前のビーム散乱角のX成分とY成分の比率が(X1′,Y1′)=(1,5)の場合、等方散乱体による散乱角として、例えば、(X2′,Y2′)=(5,5)を用いるとすると、散乱体を通過後のビーム散乱角は(X′,Y′)=(5.1,7.1)となり、非円形の度合いは小さくなるが、非円形性は残る。非円形の度合いを更に小さくするには、散乱角を大きくすれば良いがビームサイズが大きくなる。これに対して、非等方散乱体による散乱角として、例えば、(X2′,Y2′)=(5,1)を用いると、非等方散乱体を通過後のビーム散乱角は(X′,Y′)=(5.1,5.1)になり、ビーム径を大きくすることなく、より円形に近づけることができる。
【0047】
次に、散乱体14の設置場所と操作について述べる。散乱体14の設置場所は、図2に示す走査電磁石13より上流のシンクロトロン2側で、シンクロトロン2を構成する出射用デフレクタ32より下流側に設置する必要がある。ガントリー回転を行う場合、散乱体14の設置場所は、回転ガントリー4の入口より上流の加速器側で、シンクロトロン2を構成する出射用デフレクタ32より下流側に設置する必要がある。例えば、図1に示すように、ビーム輸送系3のビーム軌道上であって、回転ガントリー4の入口部より上流側で、シンクロトロン2を構成する出射用デフレクタ32より下流側に、散乱体14を設置する。散乱体14は、散乱体駆動装置24,散乱体制御部15に接続されている。中央制御部11は、ビーム輸送系3に配置される四極電磁石への励磁電流情報を受け取り、ビーム輸送軸に対して垂直な平面における荷電粒子ビームの傾き(非円形ビームの傾き)を示す回転角度情報を求める。さらに、中央制御部11は、この回転角度情報に基づいて散乱体14の配置位置及び回転角度を求め、散乱体14の配置位置に関する移動指令信号及び回転角度に関する回転指令信号を散乱体制御部15に出力する。散乱体制御部15は、受け取った移動指令信号及び回転指令信号に基づいて、散乱体14を移動・回転させる。散乱体制御部15が散乱体14を移動・回転することによって、荷電粒子ビームの短軸方向に非等方散乱体の散乱角が大きくなり、荷電粒子ビームの長軸方向に非等方散乱体の散乱角が小さくなるように散乱体14を配置できる。このように配置を調整された散乱体14を荷電粒子ビームが通過することで、非円形形状の荷電粒子ビームは円形に整形される。
【0048】
非円形ビームを円形にするためには、回転ガントリー4の回転角毎に、回転ガントリー4の磁場を調整する必要があるが、散乱体14を回転ガントリー4の上流側に設置することにより、ビーム形状を円形にすることができるので、ガントリー回転角毎に、回転ガントリー4の磁場調整は不要となる。
【0049】
また、荷電粒子ビームのエネルギーが異なると、散乱体14を通過する際の荷電粒子ビームの散乱角が異なる。このため、シンクロトロン2で加速する荷電粒子ビームのエネルギーを変更した場合には、ビーム軌道上に設置する散乱体14の種類を変える必要がある。あるエネルギー範囲では、同一の散乱体を使用できる。本実施例の粒子線治療システム100では、複数個の散乱体を予め準備しておいて、エネルギー変更時に切り替える。散乱体14の切り替えのために、散乱体駆動装置24を設置する。
【0050】
以上のように、荷電粒子ビームを用いた粒子線治療システムの照射装置を示した。粒子種としては、陽子の他に、炭素,ヘリウム等の重粒子ビームもあり、本装置及び本照射法は適用できるものである。
【実施例2】
【0051】
以下に、本発明の他の実施例である粒子線治療システムについて説明する。
【0052】
本実施例の粒子線治療システム101は、実施例1の粒子線治療システム100において、ビーム輸送系3のビーム軌道上に設置する散乱体14を、散乱体14Aに替えた構成を有する。
【0053】
図6を用いて、本実施例の散乱体14Aの構成について説明する。散乱体14Aは非等方散乱体であり、散乱角の異なる2種類の物質を配列し、水等価厚の飛程を同じになるように厚みが調整されている。第1散乱部材21a,21b,21cは散乱角が小さい物質で構成され、第2散乱部材22a,22b,22c,22dは散乱角が大きい物質で構成される。第1散乱部材21a,21b,21cの散乱角は、第2散乱部材22a,22b,22c,22dの散乱角よりも小さい。散乱体14Aは、第1散乱部材と第2散乱部材を複数例配置して構成される。第1散乱部材21aが第2散乱部材22aと第2散乱部材22bの間に配置され、第1散乱部材21bが第2散乱部材22bと第2散乱部材22cの間に配置される。つまり、散乱角が異なる2つの散乱部材(第2散乱部材と第1散乱部材)を交互に配置する。第2散乱部材22a,22b,22c,22dのそれぞれの長軸方向が、非円形ビームの長軸方向と垂直になるように、第1散乱部材21a,21b,21cの間に設置する。なお、第1散乱角部材21a,21b,21cは、第2散乱部材22a,22b,22c,22dに比べて、散乱角が無視できる程小さいほうが望ましい。
この場合の第1散乱部材の役割は、第2散乱部材の支持である。第1散乱部材21a,21b,21cはそれぞれ同じ物質で構成され、例えば、樹脂の一種であるABSやアルミニウム等で構成される。第2散乱部材22a,22b,22c,22dはそれぞれ同じ物質で構成され、例えば、タングステン等で構成される。
【0054】
本実施例の粒子線治療システム101でも複数個の散乱体14Aを準備する。それぞれの散乱体は、第1散乱部材と第2散乱部材を交互に配置した構成を有するが、第1散乱部材21a,21b,21cの短軸方向の幅、第2散乱部材22a,22b,22c,22dの短軸方向の幅がそれぞれ異なる。例えば、第2散乱部材の幅と間隔を徐々に小さくした構成を有する調整をする。このように、第2散乱部材の幅や間隔を調整することで、散乱体14Aを通過したビームサイズを調整することができる。また、荷電粒子ビームの強度分布を調整することができる。更には、第2散乱部材22a,22b,22c,22dを、散乱角の異なる物質で、構成しても良い。
【0055】
本実施例によれば、ビームサイズ比が1から大きくずれているビーム形状を円形に近い形状にすることができるので、ガントリー回転角毎に調整する必要がなく、ガントリー角度とは無関係に、線量分布一様度の形成が容易にできるものとなる。
【0056】
本実施例によれば、散乱角の異なる物質を複数配列することによって、非円形ビーム形状の荷電粒子ビームを、より円形に近づけることができる。
【実施例3】
【0057】
本発明の他の実施例である粒子線治療システムについて説明する。本実施例の粒子線治療システム102は、実施例1の粒子線治療システム100において、ビーム輸送系3のビーム軌道上に設置する散乱体14を、散乱体14Bに替えた構成を有する。
【0058】
図7を用いて、本実施例の散乱体14Bの構成について説明する。散乱体14Bは非等方散乱体であり、散乱角の異なる2種類の物質を配列する。第1散乱部材21a,21bは散乱角が小さい物質で構成され、第2散乱部材22は散乱角が大きい物質で構成される。第1散乱部材21a,21bの散乱角は、第2散乱部材22の散乱角よりも小さい。第1散乱部材21a,21bと第2散乱部材22は短軸方向のその厚みが異なる形状を有する。支持部材23は、散乱角が無視できる程小さい物質で構成される。支持部材23の一方の面に第1散乱部材21a,21bを配置し、他方の面に第2散乱部材22を配置する。第2散乱部材22は、第1散乱部材21aと第1散乱部材21bにはさまれる。第1散乱部材21a,21b及び第2散乱部材22は、水等価厚の飛程が同じになるようにそれぞれの厚み(形状)が調整され、連続的にその厚みが変化する。このような構成により、第1散乱部材21aと第2散乱部材22の接続部、及び第1散乱部材21bと第2散乱部材22の接続部で、散乱角が連続に変化するので、より円形に近い形状のビームが得られる。
【0059】
本実施例の粒子線治療システム102でも複数個の散乱体14Bを準備する。それぞれの散乱体は、前述と同様、支持部材23の一方の面に第1散乱部材21a,21bを配置し、他方の面に第2散乱部材22を配置する構成を有するが、第1散乱部材21a,21bの短軸方向の幅、第2散乱部材22の短軸方向の幅がそれぞれ異なる。このように、第2散乱部材の幅や間隔を調整することで、この散乱体14Bを通過したビームサイズを調整することができる。また、荷電粒子ビームの強度分布を調整することができる。
【0060】
本実施例によれば、ビームサイズ比が1から大きくずれているビーム形状を円形に近い形状にすることができるので、ガントリー回転角毎に調整する必要がなく、ガントリー角度とは無関係に、線量分布一様度の形成が容易にできるものとなる。
【0061】
本実施例によれば、散乱角が連続的に変化するように散乱部材が配置されるため、より円形に近い形状の荷電粒子ビームを得ることができる。
【実施例4】
【0062】
本発明の他の実施例である粒子線治療システムについて説明する。本実施例の粒子線治療システム103は、実施例1の粒子線治療システム100において、ビーム輸送系3のビーム軌道上に設置する散乱体14を、散乱体14Cに替えた構成を有する。
【0063】
図8を用いて、本実施例の散乱体14Cの構成について説明する。散乱体14Cは非等方散乱体であり、散乱角の異なる物質を複数配列する。散乱体14を構成する散乱部材は、第2散乱部材,第3散乱部材,第4散乱部材,第5散乱部材の順番で散乱角が小さい物質で構成される。第2散乱部材,第3散乱部材,第4散乱部材,第5散乱部材は、短軸方向のその厚みが異なる形状を有する。支持部材23は、散乱角が無視できる程小さい物質で構成される。支持部材23の一方の面に第3散乱部材27a,27bと第5散乱部材29a,29bを配置し、他方の面に第2散乱部材22と第4散乱部材28a,28bを配置する。第2散乱部材22は、第4散乱部材28aと第4散乱部材28bの間に配置される。第3散乱部材27a,27bは、第5散乱部材29aと第5散乱部材29bの間に配置される。第2散乱部材22は、第3散乱部材27a,27bと重なるように位置される。第4散乱部材28aは、第3散乱部材27aと第5散乱部材29aと重なるように配置される。第4散乱部材28bは、第3散乱部材27bと第5散乱部材29bと重なるように配置される。荷電粒子ビームのビーム中心に位置する第2散乱部材22は、他の散乱部材よりも散乱角が大きい物質で構成され、ビームの端に位置する散乱部材になる程、散乱角が徐々に小さい物質となるように構成される。つまり、散乱体14Cは、支持部材23の中心付近に位置する第2散乱部材2が最も散乱角が大きく、支持部材23の端に向かって順に散乱角が小さくなる散乱部材を配置する。第2散乱部材,第3散乱部材,第4散乱部材,第5散乱部材は、水等価厚の飛程が同じになるようにそれぞれの厚み(形状)が調整され、連続的にその厚みが変化する。このような構成により、散乱体14Cを通過した荷電粒子ビームのビーム形状を、より円形に近づけることができる。
【0064】
本実施例の粒子線治療システム103でも複数個の散乱体14Cを準備する。それぞれの散乱体は、前述と同様、支持部材23の一方の面に第3散乱部材27a,27bと第5散乱部材29a,29bを配置し、他方の面に第2散乱部材22と第4散乱部材28a,28bを配置する構成を有するが、第2散乱部材22,第3散乱部材27a,27b、第4散乱部材28a,28b、第5散乱部材29a,29bの短軸方向の幅がそれぞれ異なる。このように、散乱部材の幅や間隔を調整することで、この散乱体14Cを通過したビームサイズの調整を調整することができる。また、荷電粒子ビームの強度分布を調整することができる。
【0065】
本実施例によれば、ビームサイズ比が1から大きくずれているビーム形状を円形に近い形状にすることができるので、ガントリー回転角毎に調整する必要がなく、ガントリー角度とは無関係に、線量分布一様度の形成が容易にできるものとなる。
【0066】
実施例1〜4では、円形加速器2としてシンクロトロンを示したが、サイクロトロンを採用した場合にも同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0067】
1 前段加速器
2 円形加速器(シンクロトロン)
3 ビーム輸送系
4 回転ガントリー
5 粒子線照射装置
6 制御装置
7 患者
8 患者支持装置
9 加速器・輸送系制御部
10 照射装置制御部
11 中央制御部
12 ビームプロファイルモニタ
13 走査電磁石
14 散乱体
15 散乱体制御部
17 線量モニタ
18 ブロックコリメータ
19 マルチリーフコリメータ
20 アイソセンタ
21 第1散乱部材(散乱角の小さい物質)
22 第2散乱部材(散乱角の大きい物質)
23 支持部材
24 散乱体駆動装置
25 治療計画装置
26 表示装置
27 第3散乱部材
28 第4散乱部材
29 第5散乱部材
30 高周波加速空胴
31 高周波印加装置
32 出射用デフレクタ
33,36 四極電磁石
34,37 偏向電磁石
35 ビーム経路
100 粒子線治療システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームを加速する加速器と、
前記加速器から出射された前記荷電粒子ビームを標的領域に照射する粒子線照射装置と、
前記加速器と前記粒子線照射装置をつなぐビーム輸送系と、
第1散乱部材及び前記荷電粒子ビームの散乱角が前記第1散乱部材よりも大きい物質で構成される第2散乱部材を少なくとも有する散乱体と、
前記ビーム輸送系のビーム通過領域であって、通過する前記荷電粒子ビームのビーム径が短い領域を、前記第2散乱部材の長軸が横切るように前記散乱体を配置する散乱体制御装置を備えることを特徴とする粒子線治療システム。
【請求項2】
前記散乱体を通過する前の前記荷電粒子ビームのビーム形状を求め、前記散乱体の配置位置及び回転角度に関する移動指令信号を出力する中央制御装置を備え、
前記散乱体制御装置は、前記中央制御装置からの移動指令信号に基づいて前記散乱体を移動及び回転して配置することを特徴とする請求項1に記載の粒子線治療システム。
【請求項3】
前記粒子線照射装置は、前記荷電粒子ビームを走査する走査電磁石を備えることを特徴とする請求項1に記載の粒子線治療システム。
【請求項4】
前記散乱体は、前記第2散乱部材が複数の前記第1散乱部材の間に配置された構成であり、前記第1散乱部材及び前記第2散乱部材を通過した前記荷電粒子ビームの水等価の飛程が同じになるような厚みを有し、
前記散乱体制御装置は、前記荷電粒子ビームが前記第1散乱部材及び第2散乱部材を通過する位置に前記散乱体を配置することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の粒子線治療システム。
【請求項5】
前記散乱体は、前記第2散乱部材の短軸方向の幅が、前記散乱体を通過する前の前記ビーム径の長軸方向の長さよりも小さく、前記第2散乱部材の長軸方向の幅が、前記散乱体を通過する前の前記ビーム径の短軸方向の長さより大きい構成であることを特徴とする請求項4に記載の粒子線治療システム。
【請求項6】
前記散乱体は、複数の第1散乱部材と複数の第2散乱部材を有して前記第1散乱部材と前記第2散乱部材とを交互に配置した構成であり、前記第1散乱部材及び前記第2散乱部材を通過した前記荷電粒子ビームの水等価の飛程が同じになるような厚みを有し、
前記散乱体制御装置は、前記荷電粒子ビームが前記第1散乱部材及び第2散乱部材を通過する位置に前記散乱体を配置することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の粒子線治療システム。
【請求項7】
前記散乱体は、前記第2散乱部材をビーム中心周りに複数個設置し、ビーム中心から端になるにつれて、前記第2散乱部材の幅と間隔を徐々に小さくした構成を有することを特徴とする請求項6に記載の粒子線治療システム。
【請求項8】
前記散乱体は、第1散乱部材及び第2散乱部材を支持する支持部材を有し、前記支持部材の一方の面に前記第1散乱部材を配置し、前記支持部材の他方の面に、前記第1支持部材の一部が重なるように前記第2支持部材を配置した構成であり、前記第1散乱部材及び前記第2散乱部材を通過した前記荷電粒子ビームの水等価の飛程が同じになるような厚みを有し、
前記散乱体制御装置は、前記荷電粒子ビームが前記第1散乱部材及び第2散乱部材を通過する位置に前記散乱体を配置することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の粒子線治療システム。
【請求項9】
荷電粒子ビームを加速する加速器と、
前記加速器から出射された前記荷電粒子ビームを標的領域に照射する粒子線照射装置と、
前記加速器と前記粒子線照射装置をつなぐビーム輸送系と、
前記荷電粒子ビームの散乱角が異なる複数の散乱部材を有し、ビーム中心から離れるにつれて、散乱角が小さい散乱部材を配置し、
前記ビーム輸送系のビーム通過領域であって、通過する前記荷電粒子ビームのビーム径が短い領域を、前記散乱部材のうち最も散乱角が大きい前記散乱部材の長軸が横切るように前記散乱体を配置する散乱体制御装置を備えることを特徴とする粒子線治療システム。
【請求項10】
前記散乱体は、前記散乱角が異なる複数の散乱部材を通過した前記荷電粒子ビームの水等価の飛程が同じになるような厚みを有することを特徴とする請求項9に記載の粒子線治療システム。
【請求項11】
荷電粒子ビームを加速する加速器と、前記加速器から出射された前記荷電粒子ビームを標的領域に照射する粒子線照射装置と、前記加速器と前記粒子線照射装置をつなぐビーム輸送系と、第1散乱部材及び前記荷電粒子ビームの散乱角が前記第1散乱部材よりも大きい物質で構成される第2散乱部材を有する散乱体と、前記散乱体をビーム輸送系のビーム通過領域に配置する散乱体制御装置を備える粒子線治療システムの粒子線照射方法であって、
前記散乱体制御装置は、前記荷電粒子ビームのビーム径が短い領域を、前記第2散乱部材の長軸が横切るように前記散乱体を配置し、
前記散乱体を通過した前記荷電粒子ビームを前記粒子線照射装置に輸送し、
この輸送された前記荷電粒子ビームを、前記粒子線照射装置に配置された走査電磁石で偏向して出射することを特徴とする粒子線治療システムの粒子線照射方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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