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粒子線治療システム
説明

粒子線治療システム

【課題】スポットスキャニング照射で治療精度を容易に向上できる粒子線治療システムを低コストで提供する。
【解決手段】粒子線治療システム100は、荷電粒子ビームを断続的に出射するシンクロトロン200、ビーム輸送系300と照射装置500から構成される。制御装置600は、照射装置500に荷電粒子ビームを供給する期間では出射装置26に印加する高周波電力をONし、照射装置500への荷電粒子ビームの供給を遮断する期間では出射装置26に印加する高周波電力をOFFするとともに、照射装置500に荷電粒子ビームを供給する期間の間で出射装置26に印加する高周波電力の帯域中心周波数を変化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高精度な治療照射が可能な粒子線治療システムに係り、特に、スポットスキャニング照射法を用いるのに好適な粒子線治療システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の高齢化社会を反映し、がん治療法の一つとして、低侵襲で体に負担が少なく、治療後の生活の質が高く維持できる放射線治療が注目されている。その中でも、加速器で加速した陽子や炭素などの荷電粒子ビームを用いた粒子線治療システムが、患部への優れた線量集中性のため特に有望視されている。
粒子線治療システムは、イオン源で発生したビームを光速近くまで加速するシンクロトロンなどの加速器と、加速器の出射ビームを輸送するビーム輸送系と、患部の位置や形状に合わせてビームを患者に照射する照射装置から構成される。
【0003】
ところで、粒子線治療システムの照射装置では、従来、患部の形状に合わせてビームを照射する際、散乱体でビーム径を拡大したのちコリメータで周辺部を削ってビームを整形していた。ところが、その方法ではビーム利用効率が悪く、不必要な中性子が発生し易いこと、また患部形状との一致度にも限界がある。
そこで最近、より高精度な照射方法として、加速器からの細径ビームを電磁石で偏向し患部形状に合わせて走査するスキャニング照射法の市場ニーズが高まっている。
【0004】
スキャニング照射法では、3次元的な患部形状を深さ方向の複数の層に分割し、各層を更に2次元的に分割して複数の照射スポットを設定する。深さ方向には照射ビームのエネルギーを変更して各層を選択的に照射し、各層内では電磁石で照射ビームを2次元的に走査して各照射スポットに所定の線量を与える。照射スポット間を移動中に照射ビームを連続的にONし続ける方法をラスタースキャニングと称し、一方、移動中に照射ビームをOFFする方法をスポットスキャニングと称する。
【0005】
スポットスキャニング法ではビーム走査を停止した状態で各照射スポットに所定の線量を照射し、照射ビームをOFFしてから走査電磁石の励磁量を変更して次の照射スポットに移動する。したがって、スポットスキャニング法で高精度な治療照射を実現するためには、照射ビームの位置精度とともに高速ON/OFFが必須である。
【0006】
照射ビームの位置精度の観点から、シンクロトロンからのビーム出射法として、高周波印加による共鳴現象で周回ビームを構成する粒子の振動振幅を増大させて、安定限界を超えた振動振幅が大きな粒子から出射するものが知られている。
この方法では、シンクロトロンの出射関連機器の運転パラメータを出射中に一定に設定できるため、出射ビームの軌道安定度が高く、スポットスキャニング法に要求される照射ビームの高い位置精度を達成できる。
【0007】
しかし、各スポットの照射終了時に出射用高周波をOFFしても、出射ビームが完全に遮断されるまでには時間がかかる。これは安定限界付近の振動振幅が大きなビーム粒子が、擾乱で安定限界を超えて出射されるためである。この遮断完了までの遅延時間中の照射を遅延照射と呼ぶ。この遅延照射量は治療精度の観点からスポットスキャニング法では極力低減すべきものである。
【0008】
その対策の一つめとして、出射用高周波をOFFするとともに、シンクロトロンに設置した四極電磁石の励磁量を高速で変化させて安定限界の大きさを広げ、出射ビームを照射スポット間で遮断する方法が知られている。
しかしながら、その方法ではビーム遮断時に広げた安定限界付近に存在する振動振幅の大きなビーム粒子は、次のスポット照射開始時に安定限界を狭めた際に、出射用高周波の強度とは無関係に急激に出射されスパイク状のビーム波形を生じる。そこで、従来は特許文献1,2に記載の対策が考えられた。
【0009】
特許文献1に記載の公知技術では、安定限界より内側の振動振幅が小さなビーム粒子に共鳴する周波数成分と同時に、安定限界付近の振動振幅が大きなビーム粒子に共鳴する周波数成分を含む出射用高周波を、シンクロトロンの周回ビームに印加する。これにより、スパイク状の出射ビーム波形の原因となる安定限界付近の粒子密度を低減している。
【0010】
また、遅延照射量の低減対策の二つめとして、出射用高周波をOFFするとともに、ビーム輸送系に設置したビーム遮断用電磁石を高速で励磁して、シンクロトロンからの遅延出射ビームを廃棄する方法が知られている。その一例が特許文献2に記載されている。
この方法では遅延照射やスパイク状の出射ビーム波形の原因となる安定限界付近の振動振幅が大きな粒子は、照射スポット間の時間帯に出射されビーム輸送系の途中で廃棄される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2010−227415号公報
【特許文献2】特開2009−279046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、特許文献1に記載の公知技術では、安定限界の内側と境界付近のビーム粒子に同時に共鳴する、広帯域の周波数成分を有する高周波電力が必要となる。その上、スパイク状の出射ビーム波形の原因となる安定限界付近の粒子密度を低減するためには、振動振幅が大きくなって安定限界内側から安定限界付近まで到達したビーム粒子を高速度で出射する必要がある。したがって、安定限界の境界付近のビーム粒子に共鳴する高周波電力を大きくする必要性から、出射用高周波を生成する高周波電源のコストが増加し、高周波電源のコスト高は免れない。
【0013】
また、特許文献1に記載の公知技術は、照射スポットの間隔が比較的狭い近接スポット照射時には大きな問題とはならないが、照射スポット間が離れている遠隔スポット照射時には、スパイク状の出射ビーム波形が発生する懸念がある。これは、照射スポット間の時間が延びてシンクロトロンの周回ビームが残留ガスとの散乱で振動振幅が増大する効果が大きくなり、次のスポット照射開始時には安定限界付近の粒子密度が高くなるためである。この状態で次のスポット照射開始時に安定限界を狭め、更に安定限界の境界付近のビーム粒子に共鳴する周波数成分を含む出射用高周波を印加すると、スパイク状の出射ビーム波形が発生する可能性が非常に高くなる。
【0014】
ここで、遠隔スポット照射は複雑な患部形状を高精度で照射する際には必須である。すなわち、スパイク状の出射ビーム波形は制御可能な照射スポット当りの最小線量を制限するため、照射ビームを更に細径化してスキャニング照射による治療精度を向上する際の障害になりうる。したがって、スパイク状の出射ビーム波形を抑制して治療精度を向上し、かつそれを低コストで実現することが従来技術の第1の課題である。
【0015】
また特許文献2に記載の公知技術では、遅延照射やスパイク状の出射ビーム波形を十分抑制できるが、廃棄するビーム量が無視できないほど多くなりビーム利用効率が低下する問題がある。このビーム利用効率が低下すると、単位時間当たりに患部に照射できる線量(線量率)が減少し、治療スループットの低下につながる可能性がある。したがって、線量率の減少による治療スループットの低下を招くことなく治療精度を向上することが、従来技術の第2の課題である。
【0016】
本発明の目的は、スポット照射開始時のスパイク状ビーム波形を抑制して制御可能な照射スポット当りの最小線量を十分小さく設定し、照射ビームを更に細径化して治療精度が向上できる粒子線治療システムを実現すること、その粒子線治療システムを線量率や治療スループットを犠牲にすることなく、低コストで提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために、本発明は、荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速し、出射装置に高周波電力を印加して発生させた高周波電磁場で安定限界を超えさせて荷電粒子ビームを断続的に複数回に分けて出射するシンクロトロンと、前記シンクロトロンから断続的に出射された荷電粒子ビームを治療室まで導くビーム輸送系と、前記治療室で患者の患部形状に合わせて荷電粒子ビームを断続的に照射する照射装置から構成される粒子線治療システムにおいて、前記照射装置に荷電粒子ビームを供給する期間では前記出射装置に印加する高周波電力をONし、前記照射装置への荷電粒子ビームの供給を遮断する期間では前記出射装置に印加する高周波電力をOFFするとともに、前記照射装置に荷電粒子ビームを供給する期間内で前記出射装置に印加する高周波電力の帯域中心周波数を変化させる制御装置を備えるようにしたものである。
【0018】
より具体的には、請求項1に記載の粒子線治療システムにおいて、前記制御装置は、前記照射装置に荷電粒子ビームを供給する期間の出射開始時において、前記出射装置に印加する高周波電力の帯域中心周波数を前記安定限界の内側の荷電粒子ビームと共鳴する第1の値に設定し、前記照射装置に荷電粒子ビームを供給する期間の後半の出射終了時までの間において、前記出射装置に印加する高周波電力の帯域中心周波数を前記安定限界の境界付近の荷電粒子ビームと共鳴する第2の値に設定するようにしたものである。
【0019】
さらに具体的には、請求項2に記載の粒子線治療システムにおいて、前記制御装置は、前記照射装置に荷電粒子ビームを供給する期間の前記出射開始時を含む第1の期間において、前記出射装置に印加する高周波電力の帯域中心周波数を前記第1の値に設定し、前記照射装置に荷電粒子ビームを供給する期間の後半の前記出射終了時までの第2の期間において、前記出射装置に印加する高周波電力の帯域中心周波数を前記第2の値に設定するようにしたものである。
【0020】
または、請求項2に記載の粒子線治療システムにおいて、前記制御装置は、前記照射装置に荷電粒子ビームを供給する期間の前記出射開始時と前記出射終了時の間において、前記出射装置に印加する高周波電力の帯域中心周波数を前記第1の値から前記第2の値に連続的に変化させるようにしたものである。
【0021】
さらに、請求項1〜3のいずれか1項記載の粒子線治療システムにおいて、前記制御装置は、前記照射装置に荷電粒子ビームを供給する際には、前記出射装置に印加する高周波電力をONするとともに、前記シンクロトロンに設置した電磁石の励磁量を変化させて前記安定限界を狭めて荷電粒子ビームの出射を開始し、前記照射装置への荷電粒子ビームの供給を遮断する際には、前記出射装置に印加する高周波電力をOFFするとともに、前記シンクロトロンに設置した電磁石の励磁量を変化させて前記安定限界を広げて荷電粒子ビームの出射を停止するようにしたものである。
【0022】
または、請求項1〜3のいずれか1項記載の粒子線治療システムにおいて、前記制御装置は、前記照射装置に荷電粒子ビームを供給する際には、前記出射装置に印加する高周波電力をONするとともに、前記ビーム輸送系に設置した電磁石の励磁量を変化させて前記照射装置へのビーム軌道に合わせて荷電粒子ビームの輸送を開始し、前記照射装置への荷電粒子ビームの供給を遮断する際には前記出射装置に印加する高周波電力をOFFするとともに、前記ビーム輸送系に設置した電磁石の励磁量を変化させて前記照射装置へのビーム軌道から外して荷電粒子ビームの輸送を遮断するようにしたものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、照射ビームを細径化してスポットスキャニング照射による治療精度を容易に向上でき、また、遠隔スポットを含む複雑な患部形状に対しても高精度でかつ線量率を改善した治療照射が可能な粒子線治療システムを低コストで提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1の実施形態による粒子線治療システムの構成を示すシステム構成図である。
【図2】本発明の第1の実施形態による粒子線治療システムにおける、シンクロトロンからの荷電粒子ビームの出射方法の説明図である。
【図3】本発明の第1の実施形態による粒子線治療システムに用いる照射装置の構成を示す図であり、(A)は正面図、(B)は照射ビームを上流側から見た説明図である。
【図4】本発明の第1の実施形態による粒子線治療システムにおける、スポットスキャニング法の動作を示すタイミングチャートである。
【図5】本発明の第1の実施形態による粒子線治療システムにおける、スポットスキャニング法の動作を示すタイミングチャートの他の態様を示した図である。
【図6】本発明の第1の実施形態による粒子線治療システムにおける、スポットスキャニング法の動作を示すタイミングチャートの更に別の態様を示した図である。
【図7】本発明の第1の実施形態による粒子線治療システムにおける、シンクロトロンの出射装置に関わる部分の制御装置と電源の構成図である。
【図8】本発明の第2の実施形態による粒子線治療システムの構成を示すシステム構成図である。
【図9】本発明の第2の実施形態による粒子線治療システムによるスポットスキャニング法の動作を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に本発明の幾つかの実施の形態について、図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0026】
まず、図1〜図7を用いて、本発明の第1の実施形態による粒子線治療システムの構成及び動作について説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態による粒子線治療システムの構成を示すシステム構成図である。
【0027】
粒子線治療システム100は、ライナックのような前段加速器11で予備加速した荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速したのち出射するシンクロトロン200と、シンクロトロンから出射された荷電粒子ビームを治療室400まで導くビーム輸送系300と、治療室400で患者41の患部形状に合わせて荷電粒子ビームを照射する照射装置500と、制御装置600とから構成される。
【0028】
シンクロトロン200は、前段加速器11で予備加速した荷電粒子ビームを入射する入射装置24と、荷電粒子ビームを偏向し一定の軌道上を周回させる偏向電磁石21と、荷電粒子ビームが広がらないように水平/垂直方向に収束力を与える収束/発散型の四極電磁石22と、高周波加速電圧で荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速する加速空胴25と、加速空胴25に高周波加速電圧を供給する電源25Aと、周回する荷電粒子ビームの振動振幅に対して安定限界を形成する六極電磁石23と、高周波電力を印加して発生させた高周波電磁場(高周波の磁場及び電場)で荷電粒子ビームの振動振幅を増大させることで安定限界を超えさせて荷電粒子ビームを断続的に複数回に分けて外部に取り出すための出射装置26と、この出射装置26に出射用高周波電力を供給する電源26Aと、荷電粒子ビームを出射するために偏向する出射偏向装置27とから構成される。
なお、本実施例の図1では、安定限界の大きさを高速で制御する専用の高速四極電磁石28と、高速四極電磁石28に励磁電流を供給する電源28Aを別途設けているが、前記四極電磁石22を用いて安定限界の大きさを制御することも可能である。
【0029】
次に、図2を用いて、本実施形態による粒子線治療システムにおけるシンクロトロンからの荷電粒子ビームの出射方法について説明する。
図2は、本発明の第1の実施形態による粒子線治療システムにおけるシンクロトロンからの荷電粒子ビームの出射方法の説明図である。
【0030】
図2では、シンクロトロンを周回する荷電粒子ビームの状態を、出射に関係する水平方向の位相空間内に示している。横軸は設計軌道からのずれ(位置P)で、縦軸は設計軌道に対する傾き(角度θ)である。
図2(A)は、シンクロトロンで荷電粒子ビームを加速終了後、出射開始前の水平方向の位相空間を示している。図2(B)は、出射開始後の出射中の水平方向の位相空間を示している。図2(C),(D)は後述する。
【0031】
図2(A)に示すように、荷電粒子ビームを構成する各粒子は、設計軌道を中心にして水平方向に振動しながら、周回ビームBMとして周回する。ここで、図1に示した六極電磁石23を励磁することで、位相空間内に三角形状の安定限界とその内側の安定領域SAが形成される。安定領域内のビーム粒子はシンクロトロン内を安定に周回し続ける。
【0032】
このとき、図1に示した出射装置26に、安定領域内のビーム粒子の振動に共鳴する周波数成分の出射用高周波を印加すると、図2(B)に示すように、ビーム粒子の振動振幅が増大し、位相空間内で周回ビームBMの面積が増加する。そして、安定限界の外側すなわち安定領域SAの外に出たビーム粒子は、出射ブランチEBに沿って急激に振動振幅が増大し、最終的に出射偏向装置27の開口部OPに飛び込んで、出射ビームBとしてシンクロトロンから取り出される。
【0033】
ここで、安定限界(安定領域)の大きさは四極電磁石22や六極電磁石23の励磁量で決まる。この安定領域の大きさを、ビーム粒子の加速終了後で出射開始前の荷電粒子ビームのエミッタンス(位相空間で占める面積)より大きめに設定する。出射開始とともに出射用の高周波電力を印可して高周波電磁場を発生させて荷電粒子ビームのエミッタンスを大きくし(粒子の振動振幅を増大させ)、安定限界を超えた粒子から出射する。この状態で出射用の高周波電力をON/OFFすることで、出射ビームのON/OFFが制御できる。
この出射方法の特長は、出射中に電磁石励磁量が一定で安定領域や出射ブランチが不変なので、出射ビームの位置やサイズが安定であり、スキャニング法に好適な照射ビームが得られることにある。
【0034】
再び、図1において、ビーム輸送系300は、シンクロトロンの出射ビームを磁場で偏向して所定の設計軌道に沿って治療室400に導く偏向電磁石31と、輸送中に荷電粒子ビームが広がらないように水平/垂直方向に収束力を与える収束/発散型の四極電磁石32とから構成され、治療室内の照射装置500へ荷電粒子ビームが供給される。
【0035】
ここで、図3を用いて、本実施形態による粒子線治療システムに用いる照射装置500の構成について説明する。
図3は、本発明の第1の実施形態による粒子線治療システムに用いる照射装置の構成を示した図であり、図3(A)は正面図で、図3(B)は照射ビームを上流側から見た説明図である。
【0036】
照射装置500は、ビーム輸送系300で導かれた荷電粒子ビームを水平及び垂直方向に偏向させ患部42の断面形状に合わせて2次元的に走査する走査電磁石51と、走査電磁石51の電源500Aと、荷電粒子ビームの位置、サイズ(形状)、線量を監視する各種ビームモニタ52a,52bから構成される。
【0037】
図3(A)に示すように、患者41の患部42に対して、その患部形状を3次元的な深さ方向の複数の層に分割し、各層を更に2次元的に分割して複数の照射スポットを設定する。深さ方向にはシンクロトロンの出射ビームのエネルギー変更などで照射ビームのエネルギーを変更して各層を選択的に照射する。各層内では、図3(B)に示すように、走査電磁石で照射ビームを2次元的に走査して各照射スポットSPに所定の線量を与える。
1つの照射スポットSPの線量が満了すると照射ビームを高速で遮断したのち、照射ビームをOFFした状態で次の照射スポットに移動し、同様に照射を進めていくことにより、スポットスキャニングを行える。
【0038】
次に、図4を用いて、本実施形態による粒子線治療システムにおけるスポットスキャニング法の動作について説明する。
図4は、本発明の第1の実施形態による粒子線治療システムにおけるスポットスキャニング法の動作を示すタイミングチャートである。
【0039】
図4においては、横軸は時間tを示している。
図4の最上部には、制御装置600が出射期間(出射区間)中に用いるタイミング信号である、スポット照射開始と線量満了(出射停止)信号、及び出射用高周波の帯域中心周波数の切替信号を示している。
図4(A)の縦軸は、制御装置600から走査電磁石51の電源500Aに供給される走査指令信号に応じて、電源500Aから走査電磁石51に供給される励磁電流を示している。
図4(B)の縦軸は、制御装置600から出射装置26の電源26Aに供給される周波数制御信号に応じて、電源26Aから出射装置26に供給される出射用高周波の帯域中心周波数を示している。
図4(C)の縦軸は、制御装置600から出射装置26の電源26Aに供給される電力制御信号に応じて、電源26Aから出射装置26に供給される出射用高周波の電力を示している。
図4(D)の縦軸は、制御装置600から高速四極電磁石28の電源28Aに供給される励磁指令信号に応じて、電源28Aから高速四極電磁石28に供給される励磁電流を示している。
図4(E)の縦軸は、シンクロトロン200からビーム輸送系300に出射される出射ビーム電流を示している。
図4(G)の縦軸は、照射装置500から照射される照射ビーム電流のON/OFF状態を示している。照射ビームがONのとき、スポットS1,S2,S3,S4が形成される。
なお、各照射スポット位置に対して必要な走査電磁石励磁電流に静定した時点でスポット照射開始のタイミング信号が発生し、照射装置500のビームモニタ52からの伝送信号(図1で(H)と記載)に基づき線量を監視し、所定線量に到達した時点でスポット線量満了(出射停止)や出射用高周波の帯域中心周波数切替のタイミング信号が発生する。
また、図4(B),(C),(E),(G)において、比較のために、特許文献1に記載の公知技術をスポットスキャニング法に適用した場合の動作を破線で示している。
【0040】
図4(A)に示すように、電源500Aから走査電磁石51に供給される走査電磁石電流を増加させることで、照射ビームの照射位置を走査し、電源500Aから走査電磁石51に供給される走査電磁石電流を一定とすることで、照射ビームの照射位置を一定とすることができる。
そして、スポットスキャニング法では、図4(A),(G)に示すように、ビーム走査を停止した状態で各照射スポットS1,S2,S3,S4に所定の線量を照射し、照射ビームをOFFしてから走査電磁石の励磁量を変更して次の照射スポットに移動する。
【0041】
照射装置500に荷電粒子ビームを供給する期間であるスポット照射時には、図4(C)に示すように、出射装置26に高周波電力を供給して出射装置26に印加する高周波電力をONにする。
また、照射装置500への荷電粒子ビームの供給を遮断する期間であるスポット間移動時には、出射装置26への高周波電力の供給を停止して出射装置26に印加する高周波電力をOFFにする。この照射装置500への荷電粒子ビームの供給を遮断する際には、図4(D)に示すように、同時にシンクロトロンに設置した高速四極電磁石28で安定限界の大きさを広げてビーム出射を停止する。
【0042】
ここで、電源26Aから出射装置26に供給される出射用高周波の帯域中心周波数について見ると、図4(B)の破線に示すように、特許文献1に記載の公知技術では、安定限界より内側の振動振幅が小さなビーム粒子に共鳴する周波数成分f1(第1の値)と同時に、安定限界付近の振動振幅が大きなビーム粒子に共鳴する周波数成分f2(第2の値)を含む出射用高周波を、シンクロトロンの周回ビームに印加する。これにより安定限界付近の粒子密度を低減しているものの、スポットスキャニング、特には照射スポット間隔が離れている遠隔スポット照射の場合には、スポット照射開始時に安定限界を狭めた際、図4(E)破線に示すように出射用高周波の強度とは無関係にシンクロトロンから急激に荷電粒子ビームが出射され、図4(G)破線に示すようにスパイク状の照射ビーム波形を生じうる。
【0043】
図2(C),(D)は、この現象の原因と、本発明による対策の効果を、出射に関係する水平方向の位相空間内で説明したものである。
上記の従来技術では、図2(C)において、ビーム遮断時に安定限界を広げた際に、出射されずに、広がった安定領域SAに再捕獲された振動振幅の大きなビーム粒子は、図中の破線の三角形で囲んだ領域BM*の境界付近に存在することになる。また、照射スポット間隔が離れている遠隔スポット照射の場合は、照射スポット間の移動に長い時間を要し、この時間の間に、シンクロトロンの周回ビームが残留ガスとの散乱で振動振幅が増大する。そのため、図中の破線の三角形で囲んだ領域BM*の境界付近の粒子密度は高くなり、しかもそれらのビーム粒子は既に安定限界を超えているため、図2(D)において、次のスポット照射開始時に安定限界を狭めて図2(B)の出射中と同じ面積の安定領域に戻した際、出射用高周波の強度とは無関係に振動振幅の大きなビーム粒子が急激に出射されることになる。このスパイク状の出射ビーム波形は、次のスポット照射開始時に安定限界付近のビーム粒子に共鳴する周波数成分f2(第2の値)を含む出射用高周波を出射期間の最初から供給する上記従来技術(特許文献1)では更に顕著になる。
【0044】
それに対して本実施形態では、図4(B)の実線で示すように、照射装置500に荷電粒子ビームを供給するスポット照射期間の前半となる出射開始時を含む第1の期間では、出射装置26に印加する高周波電力の帯域中心周波数を安定限界の内側の荷電粒子ビームと共鳴する値f1(第1の値)に設定し、スポット照射期間の後半となる第2の期間では帯域中心周波数を安定限界の境界付近の荷電粒子ビームと共鳴する値f2(第2の値)に設定している。
本実施形態により、スポット照射期間の後半の第2の期間では安定限界の境界付近の荷電粒子ビームと共鳴するため、安定限界の境界付近のビーム粒子を選択的に効率良く出射でき、スポット照射開始時のスパイク状ビーム波形の原因となる安定限界の境界付近の粒子密度を十分に低減できる。同時に、スポット照射開始(出射開始)時には安定限界の内側のビーム粒子を選択的に効率よく出射させるため、たとえ遠隔スポット照射の場合でも、スポット照射開始時のスパイク状ビーム波形の原因となる安定限界の境界付近のビーム粒子の出射を抑制でき、より効果的にスパイク状ビーム波形の抑制を図ることができる。
【0045】
これを図2に示す水平方向の位相空間内で説明する。
本実施形態では、スポット照射期間の後半の第2の期間では安定限界の境界付近のビーム粒子が選択的に出射されるため、図2(C)において、スポット照射終了時には安定限界付近の粒子密度が減少して、実質的に周回ビームのコア部分は図中の実線の三角形で囲んだ領域BMに縮小する。その結果、本実施形態では、遠隔スポット照射の場合であっても、周回ビームが残留ガスとの散乱で振動振幅が増大しても、図2(D)に示すように、周回ビームのコア部分の領域BMは次のスポット照射開始時の安定限界の内側に収まる。
【0046】
さらに、本実施形態では、スポット照射期間の前半の第1の期間では安定限界の内側の荷電粒子ビームと共鳴するため、スポット照射開始時に安定限界の境界付近の荷電粒子ビームが急激に出射されることを抑制できる。
以上の効果によって、図4(E)実線、図4(G)実線に示すように、スパイクの無い理想的な出射ビーム波形と照射ビーム波形が本実施形態では得られる。
【0047】
ここで、出射装置26に供給する出射用高周波の帯域中心周波数を切替えるタイミングであるが、例えば、スポット照射期間でスポット照射線量が所定量の70%に到達した時点に選定し、制御装置600で出射装置26の電源26Aをタイミング制御すればよい。本実施形態では上記タイミング信号を境にスポット照射期間の帯域中心周波数をf1(第1の値)からf2(第2の値)に切り替えるよう制御している。
しかしながら、タイミング信号を用いて帯域中心周波数を切替えることは必須ではなく、スポット照射期間内で変化させる、特に出射開始時はf1(第1の値)に設定し、出射終了時までの間においてf2(第2の値)に設定すれば、その間で帯域中心周波数fがf1(第1の値)からf2(第2の値)まで時間的に連続的に変化したり、直線的に変化しても同様な効果がある。
その場合の出射用高周波の帯域中心周波数の制御方法の例を図5と図6に示す。図5ではスポット照射開始時のf1(第1の値)からスポット線量満了時のf2(第2の値)までの間、帯域中心周波数を連続的に滑らかに変化させている。一方、図6では帯域中心周波数の切替指示タイミングに基づき、切替指示タイミングを受信後に帯域中心周波数をf1からスポット線量満了時のf2まで直線的に変化させている。この他にも、スポット照射開始時のf1から終了時のf2まで直線的に変化させてもよい。
【0048】
再び、図4(C)を見ると、本実施形態の電源26Aから出射装置26に供給すべき出射用高周波の電力は、破線で示した従来技術の場合に比較し、本実施形態では実線で示すように小さくなる。これは出射装置26に印加する高周波電力に必要な各時刻での帯域幅を狭めたためである。
破線で示した従来技術では、安定限界より内側の振動振幅が小さなビーム粒子に共鳴する周波数成分(第1の値f1)と安定限界付近の振動振幅が大きなビーム粒子に共鳴する周波数成分(第2の値f2)を含む出射用高周波を同時に印加するために、高周波電源は高電圧で且つ大電流出力が必要であった。
しかし、本発明では、スポット照射期間の後半の第2の期間では、安定限界の境界付近の荷電粒子ビームと共鳴するため、安定限界の境界付近のビーム粒子を選択的に効率良く出射できる。これにより、スパイク状の出射ビーム波形の原因となる安定限界の境界付近の粒子密度を、小さな高周波電力、すなわち小型の高周波電源で十分に低減可能となる。また、本発明では、第1の値f1と第2の値f2とを同時に印加せずに、スポット照射期間内で高周波電力の帯域中心周波数を変化させているため、印加する電力を大幅に低減でき、高周波電源を必要以上に大型化させる必要がない。
以上の効果で本実施形態では高周波電源回りのコストを低減できる。
【0049】
次に、図7を用いて、本実施形態の粒子線治療システムに必要なシンクロトロンの出射制御を実現する機器構成の例を説明する。
図7は、本発明の第1の実施形態による粒子線治療システムにおける、シンクロトロンの出射制御に関わる部分の制御装置と電源の構成図である。
【0050】
制御装置600は、粒子線治療システムを構成する各装置に運転パラメータを送信する運転データ生成部61、各装置の運転に必要なタイミング信号を発生するタイミング信号生成部62、照射装置500のビームモニタ52からの伝送信号に基づき線量を測定する線量監視部63等から構成される。
ここで、線量監視部63で測定した線量が所定値に到達した時点で、スポット線量満了や出射用高周波の帯域中心周波数の切替指示のタイミング信号が生成される。
【0051】
出射装置26に高周波電力を供給する電源26Aは、周波数f1(第1の値)の高周波信号を発生する発振器64a、周波数f2(第2の値)の高周波信号を発生する発振器64b、それら2つの高周波信号を切替える高周波切替器65、直流から数10kHz程度の帯域信号を生成する帯域信号発生器66、高周波信号に帯域信号を乗算して中心周波数(f1やf2)に対して数10kHz程度の帯域幅を有する帯域高周波信号を生成する乗算器67、帯域高周波信号の振幅(電力)を調整する振幅変調器68、帯域高周波信号を電力増幅して出射装置26に供給する高周波電力増幅器69から構成される。
【0052】
電源26Aでは、制御装置600のタイミング信号生成部62からの帯域中心周波数の切替タイミング信号やスポット線量満了信号に基づき、高周波切替器65が動作して発振器64aと64bの高周波信号の切替(f1→f2、f2→f1)を実施する。また、制御装置600の運転データ生成部61からの周波数制御信号に基づき、発振器64aと64bにそれぞれ周波数f1とf2の値が設定される。さらに、制御装置600の運転データ生成部61からの電力制御信号に基づき、振幅変調器68が動作して所定の高周波電力が出射装置26に供給される。
【0053】
以上説明した本実施形態によれば、スポット照射開始時のスパイク状ビーム波形を抑制して制御可能な照射スポット当りの最小線量を十分小さく設定でき、照射ビームを更に細径化して治療精度が向上できる粒子線治療システムを低コストで実現できる。
【0054】
なお、本実施形態の図4では、高速四極電磁石28の励磁ONで安定限界の大きさを広げてビーム出射を停止する場合を示しているが、高速四極電磁石28の励磁OFFで安定限界の大きさを広げビーム出射を停止する動作論理に設計することも可能である。
また、シンクロトロンに設置した六極電磁石の励磁量の制御で、高速四極電磁石と同様に安定限界の大きさを制御することも可能である。
もちろんこれらの場合でも本発明は適用でき、同様の効果が得られる。
【実施例2】
【0055】
次に、図8〜図9を用いて、本発明の第2の実施形態による粒子線治療システムの構成及び動作について説明する。
図8は、本発明の第2の実施形態による粒子線治療システムの構成を示すシステム構成図である。以下、第1の実施形態との相違点に関して説明する。
【0056】
前実施形態では、シンクロトロン200に安定限界の大きさを高速で制御する高速四極電磁石28と、高速四極電磁石28に励磁電流を供給する電源28Aを設けているが、本実施形態ではシンクロトロンの出射期間中に安定限界の大きさを制御する必要が無いため、高速四極電磁石とその電源は設けていない。
その代わりに、ビーム輸送系300には、治療室内の照射装置500への荷電粒子ビームの供給をON/OFFするビーム遮断用電磁石33と、ビーム遮断用電磁石33に励磁電流を供給する電源33Aと、ビーム遮断用電磁石33で除去したビーム成分を廃棄するビームダンプ34が設けられている。
【0057】
このうち、ビーム遮断用電磁石33としては、励磁した際の2極磁場で不要ビーム成分を偏向させて照射装置500へのビーム軌道から外しビームダンプ34で廃棄する方法と、励磁した際の2極磁場で偏向したビーム成分のみ照射装置500へのビーム軌道に乗せ供給する方法がある。前者はビーム輸送系の調整が簡単であり、後者は機器の異常時に照射装置への荷電粒子ビームの供給が遮断されるので安全性が高い。以下では、前者の場合についてのみ記述している。なお、本発明はもちろん後者の方法にも適用でき、同様の効果が得られる。
【0058】
図9は、本発明の第2の実施形態による粒子線治療システムにおけるスポットスキャニング法の動作を示すタイミングチャートである。
図9において横軸は時間tを示している。
図9(A)(B)(C)(E)(G)の縦軸は、図4(A)(B)(C)(E)(G)の縦軸と同じである。
図9(F)の縦軸は、制御装置600からビーム遮断用電磁石33の電源33Aに供給されるビーム遮断制御信号に応じて、電源33Aからビーム遮断用電磁石33に供給される励磁電流のON/OFF状態を示している。
【0059】
前実施形態の図4(C)と同様に、図9(C)では、照射装置に荷電粒子ビームを供給する期間であるスポット照射時には出射装置に印加する高周波電力をONする。また照射装置への荷電粒子ビームの供給を遮断する期間であるスポット間移動時には、出射装置に印加する高周波電力をOFFする。
ここで、前実施形態との相違は、各照射スポットで所定線量が満了したタイミングで照射装置への荷電粒子ビームの供給を遮断する際に、出射装置26に印加する高周波電力をOFFするとともに、図9(F)に示すように、ビーム輸送系300に設置したビーム遮断用電磁石33を高速で励磁して照射装置500へのビーム軌道から外して荷電粒子ビームの輸送を遮断している点である。また、照射装置500に荷電粒子ビームを供給する際には出射装置26に印加する高周波電力をONするとともに、ビーム輸送系300に設置したビーム遮断用電磁石33の励磁を高速で停止して照射装置500へのビーム軌道に合わせ荷電粒子ビームの輸送を開始する点である。
【0060】
ここで、特許文献2に記載の公知技術をスポットスキャニング法に適用した場合と比較するため、図9(B)(E)にその場合の動作を破線で示す。
図9(B)の破線で示すように、特許文献2の従来技術では、照射装置に荷電粒子ビームを供給するスポット照射期間で、出射装置に印加する高周波電力の帯域中心周波数を安定限界の内側の荷電粒子ビームと共鳴する値f1(第1の値)に固定している。そのため、安定限界の内側の荷電粒子ビームは振動振幅が大きくなり常に安定限界付近に供給されるため、スポット線量が満了して出射ビームを停止するタイミングで安定限界付近のビーム粒子の密度が高くなっている。その結果、図9(E)の破線に示すように、スポット線量満了直後の遅延出射ビーム量が大きく、その後も振動振幅が大きなビーム粒子は照射スポット間の時間に漏れビームとして出射される。それら遅延照射やスポット照射開始時にスパイク状ビーム波形の原因となる振動振幅が大きなビーム粒子は、ビーム輸送系に設置したビーム遮断電磁石で廃棄されるので、従来技術ではビーム利用効率の低下の問題があった。
【0061】
それに対して本実施形態では、図9(B)の実線で示すように、照射装置500に荷電粒子ビームを供給するスポット照射期間の前半の第1の期間では、出射装置26に印加する高周波電力の帯域中心周波数を安定限界の内側の荷電粒子ビームと共鳴する値f1(第1の値)に設定し、スポット照射期間の後半の第2の期間では帯域中心周波数を安定限界の境界付近の荷電粒子ビームと共鳴する値f2(第2の値)に設定している。
本実施形態により、スポット照射期間の後半の第2の期間では安定限界の境界付近の荷電粒子ビームと共鳴するため、安定限界の境界付近のビーム粒子を選択的に効率良く出射でき、安定限界の境界付近の粒子密度を十分に低減できる。したがって、従来技術ではビーム輸送系に設置したビーム遮断電磁石で廃棄する必要のあった遅延照射やスポット照射開始時にスパイク状ビーム波形の原因となる振動振幅が大きなビーム粒子は、本実施形態ではスポット照射期間の後半の第2の期間で出射されて治療照射に有効に利用されるため、ビーム利用効率の低下を抑制することができる。
【0062】
さらに、本実施形態により、スポット照射期間の前半の第1の期間では安定限界の内側の荷電粒子ビームと共鳴するため、スポット照射開始時に安定限界の境界付近の荷電粒子ビームが急激に出射されることを抑制できる。
【0063】
ここで、出射装置に供給する出射用高周波の帯域中心周波数を切替えるタイミングであるが、例えば、スポット照射期間でスポット照射線量が所定量の70%に到達した時点に選定し、制御装置600において照射装置500のビームモニタ52からの伝送信号(図1で(H)と記載)に基づき線量を監視しながら出射装置26の電源26Aをタイミング制御すればよい。本実施形態では上記タイミング信号を境にスポット照射期間の前半の第1の期間の帯域中心周波数をf1(第1の値)、後半の第2の期間の帯域中心周波数をf2(第2の値)と設定している。
しかしながら、それは必須ではなく、前実施形態の場合と同様に、スポット照射期間の出射開始時がf1(第1の値)で、出射終了時までの間においてf2(第2の値)に設定されていれば、図5,6に示すようなスポット照射期間の間で帯域中心周波数fがf1(第1の値)からf2(第2の値)まで時間的に連続的に変化しても同様な効果がある。
【0064】
本実施形態における照射装置500と、出射装置26に高周波電力を供給する電源26Aの構成と動作原理は、前実施形態と同様のため説明を省略する。
【0065】
以上説明した本実施形態によれば、ビーム遮断時の安定限界の境界付近の粒子密度を低減できるため、遅延照射やスパイク状の出射ビーム波形を抑制する目的でビーム輸送系の遮断用電磁石を用いて廃棄するビーム量が低減でき、ビーム利用効率の低下を緩和できる。これにより、線量率の低下に伴う治療スループットの悪化を回避しながら、治療精度を向上できる。
【符号の説明】
【0066】
11…前段加速器、
21…偏向電磁石(シンクロトロン)、
22…収束/発散型四極電磁石(シンクロトロン)、
23…六極電磁石、
24…入射装置、
25…加速空胴、
26…出射装置、
27…出射偏向装置、
28…高速四極電磁石、
31…偏向電磁石(ビーム輸送系)、
32…収束/発散型四極電磁石(ビーム輸送系)、
33…ビーム遮断用電磁石、
34…ビームダンプ、
41…患者、
42…患部、
51…走査電磁石、
52…ビームモニタ、
61…運転データ生成部、
62…タイミング信号生成部、
63…線量監視部、
64…高周波発振器、
65…高周波切替器、
66…帯域信号発生器、
67…乗算器、
68…振幅変調器、
69…高周波電力増幅器、
100…粒子線治療システム、
200…シンクロトロン、
300…ビーム輸送系、
400…治療室、
500…照射装置、
600…制御装置、
25A,26A,28A,33A,500A…電源。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームを所定のエネルギーまで加速し、出射装置に高周波電力を印加して発生させた高周波電磁場で安定限界を超えさせて荷電粒子ビームを断続的に複数回に分けて出射するシンクロトロンと、前記シンクロトロンから断続的に出射された荷電粒子ビームを治療室まで導くビーム輸送系と、前記治療室で患者の患部形状に合わせて荷電粒子ビームを断続的に照射する照射装置から構成される粒子線治療システムにおいて、
前記照射装置に荷電粒子ビームを供給する期間では前記出射装置に印加する高周波電力をONし、前記照射装置への荷電粒子ビームの供給を遮断する期間では前記出射装置に印加する高周波電力をOFFするとともに、前記照射装置に荷電粒子ビームを供給する期間内で前記出射装置に印加する高周波電力の帯域中心周波数を変化させる制御装置を備えることを特徴とする粒子線治療システム。
【請求項2】
請求項1に記載の粒子線治療システムにおいて、
前記制御装置は、
前記照射装置に荷電粒子ビームを供給する期間の出射開始時において、前記出射装置に印加する高周波電力の帯域中心周波数を前記安定限界の内側の荷電粒子ビームと共鳴する第1の値に設定し、
前記照射装置に荷電粒子ビームを供給する期間の後半の出射終了時までの間において、前記出射装置に印加する高周波電力の帯域中心周波数を前記安定限界の境界付近の荷電粒子ビームと共鳴する第2の値に設定することを特徴とする粒子線治療システム。
【請求項3】
請求項2に記載の粒子線治療システムにおいて、
前記制御装置は、
前記照射装置に荷電粒子ビームを供給する期間の前記出射開始時を含む第1の期間において、前記出射装置に印加する高周波電力の帯域中心周波数を前記第1の値に設定し、
前記照射装置に荷電粒子ビームを供給する期間の後半の前記出射終了時までの第2の期間において、前記出射装置に印加する高周波電力の帯域中心周波数を前記第2の値に設定することを特徴とする粒子線治療システム。
【請求項4】
請求項2に記載の粒子線治療システムにおいて、
前記制御装置は、
前記照射装置に荷電粒子ビームを供給する期間の前記出射開始時と前記出射終了時の間において、前記出射装置に印加する高周波電力の帯域中心周波数を前記第1の値から前記第2の値に連続的に変化させることを特徴とする粒子線治療システム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の粒子線治療システムにおいて、
前記制御装置は、
前記照射装置に荷電粒子ビームを供給する際には、前記出射装置に印加する高周波電力をONするとともに、前記シンクロトロンに設置した電磁石の励磁量を変化させて前記安定限界を狭めて荷電粒子ビームの出射を開始し、
前記照射装置への荷電粒子ビームの供給を遮断する際には、前記出射装置に印加する高周波電力をOFFするとともに、前記シンクロトロンに設置した電磁石の励磁量を変化させて前記安定限界を広げて荷電粒子ビームの出射を停止することを特徴とする粒子線治療システム。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項記載の粒子線治療システムにおいて、
前記制御装置は、
前記照射装置に荷電粒子ビームを供給する際には、前記出射装置に印加する高周波電力をONするとともに、前記ビーム輸送系に設置した電磁石の励磁量を変化させて前記照射装置へのビーム軌道に合わせて荷電粒子ビームの輸送を開始し、
前記照射装置への荷電粒子ビームの供給を遮断する際には前記出射装置に印加する高周波電力をOFFするとともに、前記ビーム輸送系に設置した電磁石の励磁量を変化させて前記照射装置へのビーム軌道から外して荷電粒子ビームの輸送を遮断することを特徴とする粒子線治療システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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