説明

粒子線治療用小型ガントリ

本発明は、放射線治療に使用する粒子線治療装置、詳細には、粒子ビームをガントリの回転軸に直交して供給する小型アイソセントリックガントリに関する。このガントリは、3個の双極磁石を含み、最終双極磁石の角度を90度未満とし、この最終双極磁石の最も好適な偏向角度を60度とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線治療に使用する荷電粒子線治療装置に関する。特に、粒子ビームを供給する小型ガントリに関する。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子(例えば、陽子、炭素イオン)を使用する放射線療法は、周囲の健全な組織への線量を最小限に抑えつつ、標的体積へは高線量を供給できる精確で等角な放射線治療技術であることが証明されている。粒子線治療装置は、高エネルギーの荷電粒子を生成する加速器と、粒子ビームを1つまたは複数の治療室にガイドするビーム輸送系と、各治療室への粒子ビーム供給系とを含む。固定照射方向からビームを標的に供給する固定ビーム供給系と、複数の照射方向からビームを標的に供給できる回転ビーム供給系の2種類のビーム供給系に区別できる。
そうした回転ビーム供給系は、ガントリと名付けられている。一般的に、標的は、ガントリの回転軸とビーム中心軸との交点で規定する固定位置に配置される。この交点はアイソセンタと呼ばれ、アイソセンタへ様々な方向からビームを供給可能なこの種のガントリは、アイソセントリックガントリと呼ばれている。
【0003】
ガントリビーム供給系は、ビームを標的に合致するように整形する装置を含む。ビームを整形するために粒子ビーム治療で使用されている2主要技術には、より一般的な受動的散乱技術と、より高度な動的照射技術とがある。動的照射技術の例としては、ペンシルビーム走査(Pencil Beam Scanning:PBS)技法がある。PBSでは、細長いペンシルビームを、ビーム中心方向と直交する平面上で磁気的に走査する。走査磁石を適切に制御することで、標的体積の側面との一致が得られる。粒子ビームのエネルギーを変化させることで、それぞれ固定粒子エネルギーによって特徴付けられる標的体積中の異なる層を、順次照射できる。このようにして、三次元の標的体積全体に粒子線量を供給できる。
【0004】
患者に十分深く侵入するのに必要な粒子ビームエネルギーは、使用する粒子の種類によって異なる。例えば、陽子線治療では、ビームエネルギーは通常70〜250MeVの範囲である。本出願人は、最大235MeVの陽子ビームエネルギーで使用する陽子ガントリを構築した。そうしたガントリを図1Aに示す。このガントリの構成については、非特許文献1に記載されている。
このガントリでは、まずビームを一連の四極子で集束させ、45度双極磁石12を通して偏向させ、その後ビームを5個の四極磁石19で更に集束させ、135度双極磁石15を通して曲げ、アイソセンタに向けて(回転軸に垂直に)指向させる。また、このガントリは、ペンシルビーム走査で使用する2直交方向でビームを走査するための、2個の走査磁石18を含む。135度の最終偏向磁石とアイソセンタ間で3mの距離があるので、これらの走査磁石18は、最終偏向磁石から下流に取付けられる。最終偏向磁石15と走査磁石18との間に、2個の更なる四極磁石19が配設される。このガントリの欠点は、大型、直径約10m、長さ10m以上である点である。また、このガントリには、巨額の製造コストもかかる。
【0005】
陽子線治療及び炭素線治療用ガントリに関する、より最近の概要については、非特許文献2に記載されている。示されているように、全ての陽子線アイソセントリックガントリの長手方向寸法は9〜12mであり、ビームはガントリ回転軸から径方向に最大3.2〜5m変位する。
【0006】
粒子線の回転ガントリは回転ビームラインを有し、そのビームラインは、一般的に、真空状態で粒子ビームを輸送する真空管と、粒子ビームの焦点を合わたり、外したりする様々な四極磁石と、粒子ビームを曲げる様々な双極磁石と、ビームを監視するビームモニタとを含む。
本願で記述する種類の回転ガントリは、単一面回転ガントリと呼ばれるもので、ガントリビームラインの各双極磁石での曲げが同一面で発生するように構成した双極磁石を含むものである。この種類の単一面ガントリは、直交する2偏向面を有する「コークスクリュー型」ガントリと呼ばれる別の種類と区別される。この種類の単一面ガントリには、図1Bに、これらのガントリ内でビームが辿るビーム中心経路を示して図式的に説明した2つの主要構成が現在存在する。ビームは、回転軸と実質的に平行なガントリに、結合点または入口点11で入り、第1直線ビームライン部から出発した後、第1双極磁石12、13に入る。この結合点または入口点は、ビームラインの固定部分と回転ガントリのビームラインとの移行部として規定される。単一面ガントリの2主要構成間の相違点は、ガントリに配設する双極磁石数に関連する。また、単一面ガントリの双極子の偏向面は、「水平」面と呼ばれ、非偏向面は「垂直」面またはY面と呼ばれる。
【0007】
この種類の単一面ガントリにおける1つ目の主要構成は、円錐状ガントリと呼ばれるものである。一例としては、本出願人が構築し、図1Aに示した陽子線ガントリがある。このガントリの陽子ビームが辿るビーム中心経路を、点線で図1Bに示す。第1の45度双極磁石12により、ビームをガントリの回転軸から離隔して曲げ、次に、ビームは更に第2直線ビームラインを辿った後、第2の135度双極磁石15に入り、その磁石によりビームを、回転軸に実質的に直交するように曲げ、指向させる。ビームとガントリ回転軸との交点は、治療アイソセンタ17と呼ばれる。照射する標的を、治療アイソセンタで位置決めする。本出願人が構築した円錐状ガントリの構成(図1A)では、結合点11と第1の45度双極磁石12との間の直線ビームライン部は、4個の四極磁石を含み、第1双極磁石12と第2双極磁石15との間の第2直線部は、5個の四極磁石を含む(図1Bでは、四極磁石は全く示していない)。また、本出願人が構築した円錐状ガントリの構成については、非特許文献3で説明されている。
【0008】
単一面ガントリの種類における2つ目の主要構成は、筒状ガントリで、バレルガントリとも呼ばれる。筒状ガントリにおけるビームのビーム中心経路についても図1Bで説明していて、この図では、実線で表したビームが、結合点11でガントリに入り、第1直線ビームライン部を通過した後、第1双極磁石13、例えば第1の60度磁石に入り、その磁石でビームを回転軸から離隔して曲げ、次に第2直線ビームライン部へと続き、同じ偏向角度を有するが逆方向に曲げる第2双極磁石14に入り、その結果ガントリの回転軸と平行な第3直線ビームライン部にビームが伝搬する。次に、第3の90度双極磁石16を更に使用して、ビームを回転軸と直交する方向に曲げる。3直線ビームライン部は、それぞれ2個、2個、3個の四極磁石(図1Bでは図示せず)を含む。図1Bで説明したこの筒状ガントリの構成は、非特許文献2(966〜967頁及び966頁の図8)に説明されているPSI陽子線ガントリ2に関して提案した幾何形状に対応している。非特許文献2に説明されている全てのアイソセントリックガントリ構成から、ガントリの回転軸からのビーム径方向最大変位(以下、ガントリ径と呼称する)が最小となるガントリを、上述したようにアイソセントリックPSI陽子線ガントリ2に対して提案した設計によって得られる。この幾何形状で、3.2mのガントリ径が得られる(967頁、表2の最終列)。
【0009】
筒状ガントリの変形として、非特許文献4で開示された「斜めガントリ」がある。標準的な筒状ガントリの場合のように、この斜めガントリも3個の双極磁石を含み、初めの2個の双極磁石は同じ偏向角度だが異符号を有するものとし、その結果ビームが第2双極子とガントリ回転軸と平行な第3双極子との間の方向に伝搬する(パブロビッチ(Pavlovic)氏他による460頁、図3を参照)。第3双極磁石の角度を90度未満(例えば、60度)とした結果、最終的なビームは、上述した標準的な筒状ガントリの場合のように、ガントリ回転軸と直交して供給されない。例えば、第3双極磁石の偏向角度が60度の場合、ビームは60度の角度で供給される。この斜めガントリの欠点は、患者を動かさずに全治療角度に対応できない点である。例えば、60度の斜めガントリに関しては、治療角度は−60度〜+60度の領域に限定される(463頁、セクション4、1文目参照)。
【0010】
特許文献1では、筒状ガントリ構成の更なる例について開示している。特許文献1の図1では、筒状ガントリを示していて、表2で特定したように、第1及び第2双極磁石の偏向角度を42度とし、第3双極磁石の偏向角度を90度としている。特許文献1の要約で記載されたように、他の構成、すなわち、第1双極磁石の偏向角度を40〜45度の範囲とし、第2双極磁石の偏向角度を第1双極磁石と同じとし、ガントリ回転軸に平行にビームを曲げ、第3偏向磁石の偏向角度を、45〜90度の範囲にして、ビームをガントリ回転軸に向けて曲げ、その回転軸と交差させるようにする構成も予想される。上述したように、最終偏向磁石の偏向角度を、90度未満(これは斜めガントリと呼ばれる)とした場合、ビームはガントリ回転軸に直交して供給されない。ここでもまた、この斜めガントリ構成の欠点は、全治療角度に対応できない点である。
【0011】
本出願人が開発し、図1Aで示した円錐状ガントリと、PSIガントリ2の筒状ガントリ構成(非特許文献2、966頁、図8参照)は両方共、ペンシルビーム走査系で使用するために設計されたものである。45〜135度の円錐状ガントリ構成では、水平面(X方向とも呼ばれる)と鉛直面(Y方向とも呼ばれる)でビームを走査する走査磁石18は、135度双極磁石から下流に配設される。このガントリ構成の欠点は、最終偏向磁石(この例では、135度磁石)の出口と、アイソセンタとの間に、広い空間を設ける必要があり、その結果ガントリ径Rが大きくなるという点である。十分に線源−回転軸間距離(Source to Axis Distance:SAD)を大きくとるために、走査磁石をアイソセンタから十分離隔して(例えば、2m以上)配設する必要がある。SADが大きくなる程、皮膚線量は少なくなる。図1Bに示したように、ガントリ回転軸とのビームの最大距離として規定するガントリ半径は、この円錐状ガントリに関しては約4.5mとなる。
【0012】
筒状PSIガントリ2の構成では、走査磁石18は、第2の60度双極磁石14と最終の90度双極磁石16との間に配設される。このガントリ構成の主な欠点は、アイソセンタで大きな標的面積(例えば、25cmX20cmまたは40cmX30cm)にわたりビームを走査可能にするために、最後の90度偏向磁石16の間隙を大きく(垂直方向に)、且つ磁極幅を大きく(水平方向に)する必要がある点である。そのために、この90度双極磁石のサイズや重量が大きくなり、その上電力消費量も多くなってしまう。この90度磁石の重量は、最大20トンになることもある。2つ目の欠点は、第2の60度双極磁石と最後の90度偏向磁石との間にある直線で平行な部分が比較的長く、その結果ガントリの軸方向寸法が長くなる点である。このPSIガントリ2は、結合点11とアイソセンタとの間の軸方向距離として規定した軸方向長さが、非特許文献2(966頁、表2)で説明されているように、11.6mある。90度の最終偏向磁石を有するこの筒状ガントリ構成については、特許文献2にも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】欧州特許第1041579A1号
【特許文献2】米国特許第7348579号
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】J.B.Flanz,“Large Medical Gantries”,Proceedings of the 1995 Particle Accelerator Conference, Volume 3, p 2007−2008
【非特許文献2】U.Weinrich,“Gantry design for proton and carbon hadrontherapy facilities”,Proceedings of EPAC 2006(European Particle Accelerator Conference),Edingburgh, Scotland
【非特許文献3】Pavlovic,“Beam−optics study of the gantry beam delivery system for light−ion cancer therapy”, Nucl. Instr.Meth.In Phys.Res.A 399(1997),p 440
【非特許文献4】M.Pavlovic,“Oblique gantry−an alternative solution for a beam delivery system for heavy−ion cancer therapy”, Nucl. Instr.Meth. In Phys.Res. A 434 (1999),p 454−466
【非特許文献5】D.C.Carey,K.L.Brown and F.Rothacker,“Third−Order TRANSPORT − A Computer Program for Designing Charged Particle Beam Transport Systems,”SLAC−R−95−462(1995)
【非特許文献6】IEC国際規格61217、放射線治療機器−座標、運動、及び尺度(1996年)
【非特許文献7】Chu et al.,“Instrumentation for treatment of cancer using proton and light−ion beams”, Rev.Sci.Instrum.64(8)August 1993,p 2074−2084
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、従来技術の問題を解消する装置を提供することを課題とする。すなわち、従来技術のガントリと比べて費用を抑えて構築でき、最終双極磁石の電力消費量を低減したガントリを設計することである。更なる課題は、ガントリ全体のサイズを縮小し、それにより治療室の容積、ひいては建物の費用も削減可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、添付したクレームによって詳細に説明され特徴付けられる。
【0017】
本発明の第1態様によれば、回転軸周りに回転するように、かつ粒子線治療に使用する粒子ビームを供給するように設計したアイソセントリックガントリを提供する。このアイソセントリックガントリは、 上記粒子ビームを回転軸に実質的に平行な方向でガントリに入射するためのガントリ入口点を有する、ガントリのビームライン、単一面で粒子ビームを連続して曲げるように、かつアイソセンタで回転軸に実質的に直交する方向に上記粒子ビームを供給するように順次配置する、第1双極磁石、第2双極磁石、第3双極磁石、上記粒子ビームの焦点を合わせる、及び焦点を外す、四極磁石を備え、更に、上記アイソセントリックガントリは、上記第3双極磁石の偏向角度を90度未満、好適には80度未満、より好適には70度未満とすることを特徴とする。
【0018】
最も好適には、第3双極磁石の偏向角度を60度とする。
【0019】
より好適には、上記ガントリ入口点と第1双極磁石の入口との間のビームライン部を、短いドリフト部とする。すなわち、入口点と第1双極磁石の入口との間に、四極磁石を全く配設しない。
【0020】
更により好適には、上記第1双極磁石と上記第2双極磁石との間のビームライン部は、5個の四極磁石を含み、上記第2双極磁石と上記第3双極磁石との間のビームライン部は、四極磁石を全く含まない。
【0021】
更により好適には、アイソセントリックガントリは、少なくとも180度の角度範囲でガントリを回転させる手段を更に含む。
【0022】
本発明によるガントリは、上記第2双極磁石と上記第3双極磁石との間に配設し、アイソセンタで標的面積にわたり上記粒子ビームを走査するように構成した粒子ビーム走査手段、またはアイソセンタで広域ビームを提供するように適合した粒子ビーム散乱手段のどちらかを、更に含んでもよい。
【0023】
本発明の第2態様によれば、粒子線治療装置を提供するが、その粒子線治療装置は、粒子加速器と、粒子エネルギーを変化させる手段と、ビーム輸送系と、本発明の第1態様によるアイソセントリックガントリとを含む。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1A】従来技術のガントリ構成を示す説明図
【図1B】2種類の従来技術のガントリ構成に関して粒子ビームが辿った軌道を示すグラフ
【図2】本発明による例示的ガントリのレイアウトを示すグラフ
【図3】図2のガントリに関するビーム光学計算の結果を示す説明図
【図4】図2のガントリでビームを走査する間のビーム光学計算の結果を示す説明図
【図5】本発明による例示的ガントリの機械構造の説明図
【図6】従来技術のガントリに関する治療室のレイアウトと、本発明によるガントリに関する治療室のレイアウトを示す説明図
【図7】本発明による様々なガントリ構成に関して、陽子ビームが辿ったビーム中心経路を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明を、添付図面と関連させて詳細に説明する。なお、当業者は、複数の同等な実施形態、または本発明を実行する他の方法を想到可能である。
【0026】
まず、ペンシルビーム走査系を備える例示的な単一面ガントリについて開示するが、そのガントリは、小型で、しかも重量が軽減され、製造費も低減され、消費電力も低減されている。
【0027】
図2では、そうしたガントリの好適なレイアウトを示している。
ガントリを、90度の角度位置で表している(すなわち、ガントリ軸と平行な方向に、アイソセンタ27から第1双極磁石20に向かって見ると、ガントリは3時の方向になる)。ガントリは3個の双極磁石20、21、22と、第2双極磁石21と第3双極磁石22との間に配設される、X及びY方向にビームを走査する手段23とを有する。第1双極磁石20と第2双極磁石21との間に、多数の四極磁石24を配設する。ガントリ入口点25と第1双極磁石20の入口との間のビームライン部を、好適には全く四極磁石を含まない短いドリフト部とする。図2に点線で示したように、このガントリの全体の形状は、その回転をダブルコーンに近似させた場合、第1コーンが結合点25の高さにその頂点を有し、ガントリ回転軸と直交する底面を有し、また、ビームの第1角回転が第1双極磁石の角度と等しくなる位置で第1コーンが第2双極磁石21を横断する、ということを説明している。第2コーンを円錐台とし、その底面は第1コーンの底面と一致していて、その頂点は、図2に示したように、底面と平行な面で切断されている。
【0028】
本発明の好適実施形態では、第3双極磁石22の偏向角度を60度とし、第1双極磁石20の偏向角度を36度とする。その結果、第2磁石の偏向角度は、36度+90度−60度=66度と計算される。第2双極磁石21と第3双極磁石22との間に、X及びY方向で粒子ビームを走査する手段を提供できる。この場合、2個の別個な走査磁石をX及びY方向用に使用するより場所を取らないので、その目的に複合X−Y走査磁石を使用すると好適である。ガントリ入口点25と第1双極磁石20との間の第1直線ビームライン部の長さを、約0.4mとし、単なるドリフト部(すなわち、四極磁石を全くこの部分には配設しない)とする。本発明の好適実施形態では、5個の四極磁石を、第1の36度双極磁石20と第2の66度双極磁石21との間に配設する。これらの四極磁石を配設するのに使用可能な空間、すなわち、第1双極磁石と第2双極磁石との間の直線部分の長さを、約3.5mとする。第2の66度双極磁石と第3の60度双極磁石との間の直線ビームライン部の長さを、約0.8mとする。最終の60度偏向磁石22の出口とアイソセンタ27との間の距離を、約1mとするが、これにより、患者だけでなく、60度の偏向双極子22の出口と患者との間に、例えばモニタ用検出器も配設可能にする十分な空間を確保できる。
本発明の好適実施形態によるガントリの最終双極磁石22として使用するよう設計した磁石の主要特性について、表1にまとめた。示した実施例は、磁気剛性率2.3Tmを有する粒子ビーム(例えば、235MeVの陽子線)用に設計したものである。電力消費量を抑えるために、この磁石は、断面を大きくし、鞍形コイル(ベッドステッドコイル(bedstead coil)としても知られる)を使用する。
【0029】
表1に示すように、磁石の重量は約9.17トン(コイル由来の2.05トンを含む)で、ビームエネルギー235MeVでの総磁石電力は、226kWである。この60度双極磁石の磁極面を、後述するように、更に垂直方向に焦点合わせを行うために、17度だけ回転させている。
【0030】
【表1】

【0031】
次に、図2に示すガントリ用の好適なガントリビーム光学系について記述する。
結合点25の高さでのガントリ入口を、第1双極磁石20の入口から0.4m下流に規定する。ガントリ回転角とは無関係なガントリビーム光学解を得るために、ガントリ入口で、ビームの放射率をX方向とY方向で同一にしなければならない。X軸及びY軸をここでは、ビーム中心軌道の軸と直交する平面とそれぞれ水平面及び鉛直面との交線として定義する。X方向とY方向で同じ放射率にするのに加えて、ガントリ入口点25で、X方向とY方向でウエストを同サイズに指定する。これらのガントリ入口でのビーム条件から始まり、以下の更なる条件を満たす必要がある。
1.アイソセンタ27では、ビームはX方向とY方向で同サイズの小ウエストを有する必要がある。
2.ガントリのビーム光学系をダブルアクロマティックとする、すなわち、ビーム撮像特性を、運動量とは無関係(無分散)、かつ位置とは無関係とする必要がある。
3.ガントリ内で妥当な伝達効率を維持するために、四極子中のビーム最大サイズ(1σ)は、2cmを超えてはならない。
【0032】
こうした様々な光学条件を満たすように、第1双極磁石と第2双極磁石との間に配設する5個の四極磁石で磁場を規定する。最適な光学解を求めるのに使用できる他のパラメタを、双極磁石の磁極面の角度とする。170MeVの陽子ビームに対して、ビーム光学計算を行う。第1及び第2双極磁石の偏向半径を、1.5mに指定する。ガントリ入口点で、サイズ12.5mm、発散角0.6mradのダブルウエストを有する円形ビームでスタートする。このサイズと発散角は、7.5pi.mm.mradの放射率に対応していて、この値は、本出願人が開発した現行の陽子線治療システムで得られたビーム放射率の標準値である。36度の第1双極磁石に関しては、矩形磁極も採用され(磁極面を18度回転)、66度の第2双極磁石に関しては、磁極面を15度及び21度回転して、それぞれ入口と出口に使用する。
ビーム光学コードのTRANSPORTを用いて計算した結果得られたX方向とY方向でのビーム軌道を、図3に示している。TRANSPORTコードについての情報は、非特許文献5で示される。ビーム中心軌道に関する相対的なビーム位置を、図3の下側パネルと上側パネルのX方向とY方向にそれぞれプロットする。四極磁石24と双極磁石20、21、22のビーム経路に沿った位置をそれぞれ表す。図3では、走査磁石23の位置は、単に情報目的で表している。この計算では、走査磁石をオフとする(走査磁石の作用については後述する)。アイソセンタ27で、サイズが約3.5mmで、発散角が約2.2mradのX方向及びY方向のウエストを有する円形ビームスポットが得られるが、これはペンシルビーム走査に適当なビームサイズである。また、このビームの光学解は、ダブルアクロマートの条件を満足する。
【0033】
ペンシルビーム走査で使用するのに適したアイソセンタでのビームスポットサイズを得る必要がある以外に、確実に、提案したビームライン幾何形状で、アイソセンタで大きな走査領域を得ることができるようにする必要がある。照射野サイズに適合する仕様は、25cm(X)x20cm(Y)の照射野をアイソセンタ面でカバーする必要があり、選択的に十分に大きなSAD(すなわち、2m以上)が必要となる。
図2に示したビームライン幾何形状と、図3で表したビーム光学解により、照射野サイズ及びSADに関する必要条件を満たせる。それについて、図4で明示していて、走査磁石とアイソセンタとの間を移動する際の170MeV陽子ビームの軌道を、ビームをX方向及びY方向に最大振幅で走査しながら、計算する。この計算では、走査磁石によりビームを、X方向に66mrad、Y方向に50mradそれぞれ偏向するが、これらは、既知の走査磁石技術で容易に得られる緩やかな偏向角度と考えられる。
図4では、X及びY方向での走査磁石23の位置、60度の最終双極磁石22、及びアイソセンタ27を示している。磁極端、曲り半径、間隙、磁極幅に関する60度双極子の仕様を、表1に示す。走査磁石の中心と60度双極磁石の入口との間の距離を、約0.4mとし、60度双極子の中心ビーム移動長を、約1.25mとし、60度双極子の出口とアイソセンタとの間の距離を、1.0m取る。この計算では、中心ビームと直交するアイソセンタ面で、ビームサイズがX方向に25cm、Y方向に22cmであり、60度双極磁石の出口で、ビームサイズがX方向に17.2cm、Y方向に15.2cmであることを、それぞれ示している。その結果、仮想SAD、すなわち、点光源とアイソセンタとの間に全く磁石要素無しに、ビームを点光源から発したかのように、得たSADを、計算できる。提案した幾何形状では、これは、X及びY方向に3m超の仮想SADとなる。
【0034】
次に、本発明によるダブルコーン型ガントリに対応する例示的ガントリの機械的な概念設計について記載し、図5で図式的に説明する。
例えば金属製ガーダ51でできた平面構造体を使用して、ガントリの全磁石をカウンタウェイト52と共に挟持できる。2個の標準的な市販の自動調心球面ころ軸受53を、回転手段として使用する。第2ころ軸受に対して、患者側で、片持ち固定構造54を使用して、主ころ軸受を支持しながら、ガントリ構造が軸受の下に来て、極端なガントリ角度、最大180度(ビームが垂直上向きになる)に到達できるようにする。第1双極磁石の高さで、ドラム構造55を、ケーブルスプールを支持するように配設する。更に、図5では図示しないが、ガントリは、チェーン駆動でガントリに接続した単一のモータギヤボックス組立体から成る、ガントリ駆動及び制動系を備える。本発明によるガントリ構成の利点としては、最終双極磁石の重心が回転軸に一層近くなり(例えば、最終の90度双極磁石に基づくガントリ構成(バインリヒ氏の公表文献の図8参照)と比べると)、その結果、機械的構造に関する制約が少なくなる(例えば、カウンタウェイトを、回転軸に一層近く配置でき、ガントリサイズを縮小できる)点がある。ガントリを選択的に190度回転できる、すなわち、建屋レイアウトに応じて、180度から10度まで時計回りに回転する構成、または350度から180度まで時計回りに回転する構成のどちらかで回転できる(角度については、非特許文献6により規定されている)。
【0035】
この力学的概念は、ガントリの機械的構造に関する費用を抑えながら、患者への接近性を良好にすることを意図するものである。現行のガントリ構造(例えば、45〜135度の円錐構成等に対するもの)における主なコスト推進要因の1つは、高強度で耐磨耗性の鋼製で特注する必要があり、複雑な台車(bogie)で支持する大型で極めて精確なガントリリング上でガントリを回転させる必要があることである。他のコスト推進要因としては、ガントリ台車コロを介して機能し、そこでトルクがコロの滑りによって厳しく制限される駆動及び制動機構と、最後にガントリの三次元フレーム構造とがある。
【0036】
粒子線治療装置は、高エネルギーな荷電粒子を生成する加速器と、粒子エネルギーを変化させる手段と、1つまたは複数の治療室にビームを案内するビーム輸送系と、各治療室に、粒子ビーム供給系とを備える。粒子ビーム供給系を、ガントリまたは固定ビーム供給系のどちらかとする。一般的に、ガントリ治療室には、大きな設置面積や建築容積が必要である。本発明によるガントリ設計では、例えば、45度〜135度円錐状ガントリ構成と比べると、小さなガントリ室を使用できる。これについて、図6で説明していて、同じ縮尺比で、円錐状ガントリを備える治療室の設置面積61を、本発明による例示的なダブルコーンの小型ガントリを備える治療室の設置面積62と共に示している。本発明によるガントリでは、10.5mX6.4mの設置面積を有するガントリ治療室を、図6で示すように使用できるが、本出願人が提供する、45〜135°の円錐構成を使用する現行のガントリ治療室は、13.7mX10.7mを必要とする。
【0037】
次に、好適なガントリ構成の特定のパラメタを変更することが、どのようにガントリ半径やガントリ長等の幾何学的寸法に影響を及ぼすかについて記載する。
本発明の好適なガントリ構成では、それぞれ36度(=B1)、66度(=B2)、60度(=B3)の3個の双極子を備え、結合点25とアイソセンタ27との間の軸方向距離として規定するガントリ長を、約7.05mとし、ガントリ回転軸に対する中心ビーム軌道の最大距離として規定するガントリ半径を、約2.64mとする。この半径は事実上、一方では最終双極磁石22の偏向角度を選択することで、他方では最終双極磁石22の出口とアイソセンタとの間の空間(アイソセンタクリアランス)、及び第2双極磁石21と最終の第3双極磁石との間の空間(B2−B3空間)によって規定される。好適な幾何形状では、これらの空間を約1m(アイソセンタクリアランス)、及び約0.8m(B2−B3空間)と等しくする。ガントリの半径をこのように規定する場合、ガントリ長に更に影響を及ぼす唯一のパラメタは、第1双極磁石の偏向角度の選択となる。第1双極磁石の偏向角度とガントリ半径とを指定したなら、第1双極磁石20と第2双極磁石21との間の距離L1も固定される。好適な幾何形状では、この距離を約3.5mとする。
もちろん、他の実施形態を、ガントリの幾何形状を規定するこれらのパラメタを調整して、実現できる。例えば、図7の最上パネルでは、好適な36度−66度−60度構成の幾何形状を示している。例えば、第1双極磁石20の角度を僅かに増減させて、その結果、図面に示したように、ガントリ長をそれぞれ増減させることができる。距離L1の値における対応する変化が、図面に現れている。図7の中央パネルでは、最終偏向磁石の角度を45度に設定する一方で、B3=60度構成のように、同じアイソセンタクリアランスと距離B2−B3を維持している。最終双極磁石22の偏向角度を小さくした結果、ガントリ半径は約0.2m増加した。38度(B1)−83度(B2)−45度(B3)のガントリ構成では、ガントリ長は約7mに維持される。図7の3番目のパネルでは、最終双極磁石の角度を70度に設定している。アイソセンタクリアランスとB2−B3空間を、先程の場合の値と等しく維持すると、B3の偏向角度が大きいため、ガントリ半径は、好適なソリューションと比べると、約0.15m小さくなっている。34度(B1)−54度(B2)−70度(B3)の構成では、ガントリ長は約7mとなる。
【0038】
最適なダブルコーンのガントリ構成は、一方では、最終双極磁石22の技術的実用化と費用との間、他方では、許容可能な最大寸法(ガントリ半径、ガントリ長)間での妥協点となる。良好な妥協案は、例えば、表1で示した仕様で60度の最終双極磁石22を選択するもので、60度双極磁石22は、妥当な費用で構築でき、例えば従来技術で使用された90度の最終双極磁石と比べて、サイズを大幅に縮小できる。上述したように、この好適な解決方法は、図6で図示したような、6.4mX10.5mの治療室設置面積に適する。しかしながら、当業者は、最終双極磁石22の偏向角度が90度未満になると、本発明の利点が得られることに気付くであろう。好適には、最終双極磁石22の偏向角度を80度未満とする。更に好適には、最終双極磁石22の偏向角度を70度未満とする。
【0039】
以上の説明は、粒子ビーム走査手段23を備えるガントリに関する。或いは、本発明によるガントリは、アイソセンタ27で広域ビームを供給するよう適合する粒子ビーム散乱手段を更に備えてもよい。
「広域ビーム」という語句は、X−Y面での標的サイズに略相当する、X−Y面でのサイズを有するビームのことであると理解されなければならない。この広域ビームを提供する散乱手段については、非特許文献7に記載されている。広域ビームは、例えば、二重散乱ビーム供給系で得られ、この二重散乱ビーム供給系は、通常、以下の構成要素を含む。第1散乱体(例えば、ホイル組)、第2散乱体、ビーム変調器(例えば、レンジモジュレータのホイールまたはリッジフィルタ)、開口部、及びレンジ補償器。広域ビームを提供する伝統的なガントリでは、散乱ビーム供給系の様々な構成要素を、最終双極磁石22の下流に配設する。しかしながら、散乱ビーム供給系を本発明による小型ガントリに組込むために、散乱手段の構成要素の中には、好適には最終双極磁石22の上流に配設するものもある。例えば、二重散乱系を採用した場合には、好適には、第1散乱体は、第2双極磁石21と第3(最終)双極磁石22との間に配設する。好適には、例えばリッジフィルタ等の他の構成要素を、第3双極磁石22の後に配設する。
【0040】
説明した実施形態は、陽子ガントリに焦点を当てているが、本発明は、陽子ガントリに限定するものではない。当業者は、本発明によるガントリの幾何形状を、例えば、炭素イオンまたは他の軽イオン等、如何なる種類の荷電粒子で使用するガントリに、容易に適用できる。同じビーム光学構成を、ビームの磁気剛性率の如何にかかわらず適用可能である。単に様々なビームラインの磁石における磁場を拡大縮小しさえすればよい。
【0041】
粒子線治療用ガントリは長年設計されてきたが、今までのところ、従来技術のガントリ設計に関する問題に対処するのに、解決方法は全く提案されていない。本発明によれば、新たなガントリ設計を提供し、従来技術の問題を解消するために解決方法を提供するという顕著な結果を齎した。本発明による新たなガントリ設計には、現行のガントリ設計(例えば、円錐状ガントリ、筒状ガントリ)と比べてかなりの利点がある。
【0042】
円錐状ガントリと比べて、本発明によるガントリで得られる主な利点として以下が認められる。
ガントリの直径及び長さが大きく減少する。
重いガントリ要素を、回転軸のより近くに配置できる。
機械的なガントリ構成がより安価になる。
【0043】
筒状ガントリ(例えば、バインリヒ氏が966頁(図8)及び967〜968頁でそれぞれ記載したようなPSI2ガントリまたはハイデルベルグの炭素線用ガントリ)と比べて、本発明によるガントリで得られる主な利点として以下が認められる。
最終偏向磁石のギャップ及び磁極面が大きく、より軽量で、エネルギー消費が少ない。
最終偏向磁石の重心が、回転軸により近く、その結果ガントリ機械構造に対して機械的制約が少ない。
走査構成の場合、アイソセンタで同じ特定の走査面積をカバーするのに、それほど強力な走査磁石は必要ない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸周りに回転し、粒子線治療に使用する粒子ビームを供給するアイソセントリックガントリであって、
粒子ビームを回転軸に略平行な方向でガントリに入射するガントリ入口点(25)を有するガントリのビームラインと、
粒子ビームをアイソセンタ(27)で回転軸に略直交する方向に供給し、単一面で粒子ビームを連続して曲げる第1双極磁石(20)、第2双極磁石(21)、第3双極磁石(22)と、
粒子ビームに焦点を合わせることと焦点を外すことを行う四極磁石(24)と、を備え、
第3双極磁石(22)の偏向角度が80度未満である
ことを特徴とするアイソセントリックガントリ。
【請求項2】
第3双極磁石(22)の偏向角度が60度である
請求項1に記載のアイソセントリックガントリ。
【請求項3】
ガントリ入口点(25)と第1双極磁石(20)の入口との間のビームライン部が、短いドリフト部である
請求項1または2に記載のアイソセントリックガントリ。
【請求項4】
第1双極磁石(20)と第2双極磁石(21)との間のビームライン部が、5個の四極磁石(24)を含み、第2双極磁石(21)と第3双極磁石(22)との間のビームライン部が、四極磁石(24)を全く含まない
請求項1ないし3のいずれかに記載のアイソセントリックガントリ。
【請求項5】
ガントリを少なくとも180度の角度範囲で回転させる手段を備える
請求項1ないし4のいずれかに記載のアイソセントリックガントリ。
【請求項6】
第2双極磁石(21)と第3双極磁石(22)との間に、アイソセンタ(27)で標的面積にわたり粒子ビームを走査する粒子ビーム走査手段(23)を備える
請求項1ないし5のいずれかに記載のアイソセントリックガントリ。
【請求項7】
ビーム走査手段(23)が、複合X−Y走査磁石を備える
請求項6に記載のアイソセントリックガントリ。
【請求項8】
アイソセンタ(27)で広域ビームを供する粒子ビーム散乱手段を備える
請求項1ないし5のいずれかに記載のアイソセントリックガントリ。
【請求項9】
粒子ビーム散乱手段が、第2双極磁石(21)と第3双極磁石(22)との間に配設した第1散乱手段と、第3双極磁石(22)の後に配設する第2散乱手段とを備える
請求項8に記載のアイソセントリックガントリ。
【請求項10】
粒子加速器と、粒子エネルギーを変化させる手段と、ビーム輸送系と、請求項1ないし9のいずれかに記載のアイソセントリックガントリとを含む
ことを特徴とする粒子線治療装置。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2013−505757(P2013−505757A)
【公表日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−530274(P2012−530274)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【特許番号】特許第5096644号(P5096644)
【特許公報発行日】平成24年12月12日(2012.12.12)
【国際出願番号】PCT/EP2010/064155
【国際公開番号】WO2011/036254
【国際公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(506035566)イオンビーム アプリケーションズ, エス.エー. (5)
【Fターム(参考)】