説明

粒子線治療装置

【課題】患者校正深測定の頻度を少なくすることができる粒子線治療装置を得る。
【解決手段】標準の照射条件により不定期または所定の間隔で実施された標準校正深測定結果及び種々の患者の治療照射条件に合うように複数の照射パラメータを変化させて予め測定された患者校正深基準データをデータベース14に保存しておき、データ処理計算機13は、このデータベース14に保存された患者校正深基準データ及び標準校正深測定結果を用いて、患者への粒子線の治療照射時の照射線量を算出し、この算出された照射線量に基づいて、患者への粒子線の治療照射が行われるようにして、患者校正深測定の頻度を少なくしたものである。このデータベース14に登録される患者校正深基準データとしては、過去の患者校正深測定結果が適切なデータであれば、これを登録することも可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、標準校正深及び患者校正深などの線量校正を行って癌治療を行う粒子線治療装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
粒子線治療装置を利用した癌治療においては、粒子線治療装置に付置されている線量モニタは、通常、相対線量のみ評価可能であり、絶対線量の評価ができないので、基準線量計による校正が必要である。また、患者の患部に照射する線量は、患者に対応した照射条件によって校正定数が異なるので、患者毎の校正定数が重要なパラメータとなり、個々の患者に対応した校正定数を求めておく必要がある。
粒子線治療装置は、線量モニタの測定値から照射済みの線量を求めるため、治療照射時、治療計画から指示された物理線量(Gy)を線量モニタの測定値であるカウント値に変換する必要がある。物理線量から線量モニタのプリセット値への変換は、気温、気圧のみならず機械的特性にも影響を受けるため、治療照射毎及び患者毎にそれぞれ標準校正深測定及び患者校正深測定を行う必要がある。
治療照射毎及び患者毎に実施する標準校正深測定及び患者校正深測定作業(時間)は、粒子線治療装置を利用した癌治療において、実際に患者に粒子線を照射する作業(時間)に比べて、非常に高い割合を占めている。このため、治療照射のオペレータの作業が煩雑化し、粒子線治療装置の治療への利用率を低下させる要因となっている。
粒子線治療装置を利用した治療システムは、以上のようになっているので、治療する患者の増大に伴い、オペレータの負担が増大し、患者に対する粒子線治療装置の効率的な運用に支障をきたす恐れがある。また、過去に行った患者校正深測定と同様の測定を何度も行う状況が発生し、治療データの管理のむだも増大する。
特許文献1には、放射線治療システムの放射線量校正を自動化するものが記載されている。
【0003】
【特許文献1】特表2004−508907号公報(第6〜10頁、図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の粒子線治療装置は、患者毎に患者校正深測定を実施することを前提にシステムが設計されている。このため、粒子線治療装置を利用した癌治療において、治療照射に先立ち、治療計画から指示された機械条件に従って粒子線を試験的に照射し、計画通りの線量が患部に照射されることを確認する患者測定(患者校正深測定、患者分布測定)を行う必要がある。この患者測定の結果は、治療照射時に行う線量計算の校正に用いる。従来、患者校正深測定は、患者毎に実施している。
【0005】
しかし、この従来の方法では、治療コース毎及び患者毎に線量校正に適用する患者校正深測定を実施しており、粒子線の治療照射時間に比べて患者校正深測定など、治療照射に至るまでの前段階の作業に多くの時間と労力が必要であり、オペレータの作業も煩雑化し、患者の増加に伴い、オペレータに大きな負担がかかる。
また、患者の治療照射の待ち時間も増大し、粒子線治療装置の医療サービスの低下を引き起す一因にもなっている。
また、粒子線治療装置の治療照射への利用率が低く、粒子線治療装置の採算性を低下させる要因ともなっている。
さらに、新しい患者に対し、過去の患者校正深測定と同様の機械的条件で、患者校正深測定を行う状況が発生してきており、類似の患者校正深測定結果のデータベース量が増大し、その管理運用が非効率的になり、人為的なミスを招く恐れも増大し、粒子線治療装置の運用が、非効率的、信頼性の低下、安全性の低下などにつながる恐れが出るなどの問題がある。
特許文献1のものでは、個々の放射線量校正の自動化は行えても、患者校正深測定を患者毎に実施することの負担を解決するものではなかった。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、患者校正深測定の頻度を少なくすることができる粒子線治療装置を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係わる粒子線治療装置においては、患者の患部に粒子線を照射して治療を行う粒子線治療装置において、標準の照射条件により実施された標準校正深測定結果及び種々の治療照射条件に合うように複数の照射パラメータを変化させて予め測定された患者校正深基準データが保存される記録装置、及びこの記録装置に保存された患者校正深基準データ及び標準校正深測定結果を用いて、患者への粒子線の治療照射時の照射線量を算出するデータ処理計算機を備え、データ処理計算機により算出された照射線量に基づいて、患者への粒子線の治療照射が行われるものである。
【発明の効果】
【0008】
この発明は、以上説明したように、患者の患部に粒子線を照射して治療を行う粒子線治療装置において、標準の照射条件により実施された標準校正深測定結果及び種々の治療照射条件に合うように複数の照射パラメータを変化させて予め測定された患者校正深基準データが保存される記録装置、及びこの記録装置に保存された患者校正深基準データ及び標準校正深測定結果を用いて、患者への粒子線の治療照射時の照射線量を算出するデータ処理計算機を備え、データ処理計算機により算出された照射線量に基づいて、患者への粒子線の治療照射が行われるので、患者校正深測定の頻度を少なくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
実施の形態1.
以下に、この発明の実施の形態1について、図に基づいて説明する。
図1は、この発明の実施の形態1による粒子線治療装置におけるデータの流れと手順を示すシーケンス図であり、標準校正深測定(含標準分布測定)、患者校正深測定(含患者分布測定)及び粒子線治療からなる線量評価の手順を示している。
図1において、標準校正深測定S1は適当な間隔で行われる。標準校正深測定S2は、必要な場合、治療当日に再測定される。この結果、適当な間隔で行われた標準校正深測定結果S1a及び、必要な場合に治療当日に再測定した標準校正深測定結果S2aが得られる。
患者校正深測定P1は、照射条件毎に照射パラメータを変えて患者校正深測定を予め実施し、基準データを得るものであり、患者校正深測定結果P1aが得られる。この患者校正深測定結果P1aは、照射条件、測定条件とともにデータベースM1の患者校正深基準データテーブルに保存される。なお、この基準データには、過去の患者校正深測定結果を登録することもできる。
線量計算C1は、基準データを格納した患者校正深基準データテーブルの該当する基準データから、線量計算に使用する患者校正定数を抽出して、実施される。粒子線治療照射R1は、線量計算C1を実施した後に、粒子線治療装置により患者に対して実施される。
【0010】
実施の形態1の患者校正深測定は、患者毎に測定するのではなく、照射条件毎に照射パラメータを変化させて、基準となる患者校正深を測定し、そのデータを予め患者校正深基準データとしてデータベースM1の患者校正深基準データテーブルに保存する。患者ごとの患者校正深測定を実施していない場合の治療照射は、当該基準データP1cを利用して線量計算C1を行う。但し、その患者の患者校正深測定を実施している場合は、その患者校正深測定結果を優先して利用する。
治療計画より指示された照射条件に適合する基準データP1cがデータベースM1に無い場合には、当該照射条件にて患者校正深測定を実施し、この測定結果をデータベースM1に登録し、これを用いて線量計算を実施する。すなわち、治療照射と同一条件で測定した患者校正深測定の測定結果を、治療時の補正に利用する患者校正深測定を行った対象の患者以外にも適用可能とする。
【0011】
図2は、この発明の実施の形態1による粒子線治療装置の標準校正深測定及び患者校正深測定における線量計測の構成を示すシステム図である。
図2において、粒子線治療装置は、次のように構成される。
粒子線治療装置の粒子線加速器で加速された粒子線3は、ビーム輸送系で照射ヘッド1に導かれ、ワブラ電磁石4aで粒子線3が必要な照射幅に広げられ、散乱体4bに入射され、治療照射に必要な散乱角を持った粒子線に広げられる。散乱体4bを出た粒子線は、リッジフィルタ5を通り、そのエネルギー幅を広げ、さらにレンジシフタ6を通って、そのエネルギーを減少させ、線量モニタヘッド7及び、平坦度モニタヘッド8と通って照射される線量及び平坦度がモニタされ、さらにコリメータ9を通って粒子線3の照射野が整形され、基準線量計ヘッド19に照射される。粒子線治療装置の照射ヘッド1は、さらに、線量モニタのアンプ及び制御回路10、及び平坦度モニタの差動アンプ及び制御回路11を有している。
信号処理回路12は、線量モニタのアンプ及び制御回路10からの信号及び平坦度モニタの差動アンプ及び制御回路11からの出力信号を処理し、データ処理計算機13に渡す処理を行う。記録装置に形成されたデータベース14は、データ処理計算機13で処理されたデータを記録する。データ処理計算機13には、表示モニタ15、キーボード16、さらに粒子線治療装置の照射系計算機17が接続される。照射パラメータ18は、標準校正深測定結果の特性を支配するパラメータであり、データ処理計算機13に入力される。基準線量計ヘッド19は、校正深測定に用いられ、この基準線量計ヘッド19には、基準線量計本体20が接続され、この基準線量計本体20は、データ処理計算機13に接続されている。
【0012】
図3は、この発明の実施の形態1による粒子線治療装置の治療照射時における線量計測の構成を示すシステム図である。
図3において、1、3〜18は図2におけるものと同一のものである。図3では、粒子線3に患者2の患部が照射される。
【0013】
図4は、この発明の実施の形態1による粒子線治療装置のデータの流れを示す流れ図であり、標準校正深測定、患者校正深測定及び治療照射の手順を詳細に示している。
図4において、データベースM1には、標準校正深測定及び患者校正深測定の結果が記録される。患者校正深測定前の直近に実施された標準校正深測定S1は、適当な間隔を置いた運転日に実施される。患者校正深測定P1は、これに対応する照射条件毎の患者校正深基準データ測定によって行われる。治療照射R1は、患者への粒子線の照射である。
【0014】
Q10〜Q23は、患者治療照射実施日に実施される手順を示している。
Q10は、データベースM1から当該患者の患者校正深測定結果を取得する。Q11は、Q10での当該患者校正深測定結果の取得が、適切に実施されたかどうかの妥当性を判断する。Q12は、データベースM1からの患者校正深測定結果の取得が、不適切(データ無し等)と判断された場合の処理で、治療計画より指示された照射条件に対応した患者校正深基準データを取得する。
Q13は、治療計画より指示された照射条件に対応した患者校正深基準データの取得が適正に実施されたかどうかの妥当性を判断する。Q14は、患者校正深基準データの取得が不適切(データ無し)と判断された場合の処理で、治療を中断し、当該患者校正深の測定に進む手順である。Q15は、患者校正深測定日を基準日として、データベースM1からの直近の標準校正深測定結果を取得する。Q16は、Q15の標準校正深測定結果の取得が適正に取得されたかどうかの妥当性を判断し、Q17は、Q15の標準校正深測定結果の取得が不適切と判断された場合の処理で、治療を中断し、標準校正深測定に進む手順である。Q18は、患者治療日を基準日として、データベースM1からの直近の標準校正深測定結果を取得する。Q19は、この標準校正深測定結果が適正に取得されたかどうかの妥当性を判断し、Q20は、Q18の標準校正深測定結果の取得が不適切と判断された場合の処理で、治療を中断し、標準校正深測定に進む手順である。
Q21は、標準校正深測定結果の取得が適切と判断された場合の処理で、取得された患者校正深測定結果または患者校正深基準データ及び標準校正深測定結果に基づき、線量を計算し、温度、気圧等の補正を行い、照射カウント数を算定する手順である。Q22は、Q21で求めた照射カウント数値を粒子線治療装置のプリセットカウンタに設定する手順である。R1は治療照射、Q23は、治療照射記録の作成で、作成された結果は、データベースM1に蓄積される。
【0015】
次に、動作について説明する。
図3で、粒子線治療装置の粒子線加速器で加速された粒子線3は、ビーム輸送系で照射ヘッド1に導かれ、ワブラ電磁石4aで粒子線3が必要な照射幅に広げられ、散乱体4bに入射され、治療照射に必要な散乱角を持った粒子線に広げられる。散乱体4bを出た粒子線は、リッジフィルタ5を通り、そのエネルギー幅を広げ、さらにレンジシフタ6を通って、そのエネルギーを減少させ、線量モニタヘッド7及び、平坦度モニタヘッド8と通って照射される線量及び平坦度がモニタされ、さらにコリメータ9を通って粒子線の照射野が整形され、患者2の患部に照射される。
【0016】
粒子線治療装置において、線量モニタヘッド7にて、モニタされる線量は相対値であり、測定感度が機械パラメータや温度、気圧などの周囲環境によって変化するので、標準校正深測定及び患者校正深測定を実施し、それらの結果をデータベースM1に記録し、治療照射時には、データベースM1から標準校正深測定結果及び患者校正深測定結果を取得し、温度気圧を測定し、照射カウント値の算出及び校正を行う。
図2において、標準校正深測定は、機器パラメータを標準条件にして行う。すなわち粒子線エネルギー、ワブラ電磁石4aの励磁電流、散乱体4bの種類(厚さ)、リッジフィルタ5の種類、レンジシフタ6の種類(厚さ)及びコリメータ9の開き(照射野の大きさ)などを標準条件にし、基準位置に置かれた基準線量計ヘッド19に粒子線を照射し、線量モニタ7の出力、平坦度モニタ8の出力及び基準線量計20の出力をデータ処理計算機13に入力してデータ処理し、基準線量計の出力と比較することにより、標準校正定数を求め、その結果をデータベースM1に記録する。
【0017】
一方、患者校正深測定は、一部の患者に対してのみ実施し、他の患者に対しては、照射条件(機械パラメータ)毎の基準となる患者校正深基準データの測定をコース毎及び線源データ毎に行い、線量計算に用いる患者校正定数を抽出するための基準データとしてデータベースM1の患者校正深基準データテーブルに登録し、治療時にはこの基準データテーブルより、患者校正定数を抽出し、これを用いて線量計算を行う。
患者校正深測定は、機器パラメータを治療計画で指示された治療する患者の照射条件に合わせ、すなわち、粒子線エネルギー、ワブラ電磁石4aの励磁電流、散乱体4bの種類(厚さ)、リッジフィルタ5の種類、レンジシフタ6の種類(厚さ)及びコリメータ9の開き(照射野の大きさ)照射角度(ガントリ角度)を治療計画で指示された治療する患者の照射条件に合わせて、照射条件に適合する基準位置に置かれた基準線量計ヘッド19に粒子線を照射し、線量モニタ7出力、平坦度モニタ8の出力及び基準線量計20の出力をデータ処理計算機13に入力し、基準線量計の出力と比較し、その結果をデータベースM1に記録する。
【0018】
一方、患者校正深基準データの測定は、機器パラメータを種々の照射条件に対応させ、すなわち粒子線エネルギー、ワブラ電磁石4aの励磁電流、散乱体4bの種類(厚さ)、リッジフィルタ5の種類、レンジシフタ6の種類(厚さ)及びコリメータ9の開き(照射野の大きさ)などを種々の照射条件に対応させ、照射条件に適合した基準位置に置かれた基準線量計ヘッド19に粒子線を照射し、線量モニタ7出力、平坦度モニタ8の出力及び基準線量計20の出力をデータ処理計算機13に入力し、データ処理し、患者校正深基準データを求め、データベースM1の患者校正深基準データテーブルに登録する。
【0019】
治療照射時にデータベースM1から取得した標準校正深測定結果が不適切の場合は、標準校正深測定を実施する。
また、データベースM1からの患者校正深測定結果の取得が不適切の場合も患者校正深測定を実施するか、患者校正深基準データテーブルより基準データを取得する。基準データ取得が適切であれば、患者校正定数として利用する。取得した基準データが不適切であれば、患者校正深測定を実施する。
また、決められた標準の照射条件及び標準の計測条件で、粒子線をファントムに照射し、水平及び垂直方向の線量分布を測定する標準分布測定も必要に応じて実施し、結果をデータベースM1に記録する。
一方、治療する患者の照射条件で、水平及び垂直方向の線量分布を測定する患者分布測定及び照射条件毎の基準分布測定(粒子線をファントムに照射し、水平及び垂直方向の線量分布の測定)も必要に応じて実施し、結果をデータベースM1に記録する。
以上で、粒子線治療照射に必要な標準校正深測定結果(直近及び患者治療当日の)、患者校正深測定結果、あるいは基準データ及び患者分布の校正データ等が準備される。
【0020】
図4において、治療照射に先立ち、Q10で、データベースM1から患者校正深測定結果を取得する。Q11で、Q10のデータベースM1からの患者校正深測定結果の取得の妥当性を判断する。データベースM1からの患者校正深測定結果の取得が適切な場合には、Q15に進み、標準校正深測定結果をデータベースM1から取得する。
Q11で、患者校正深測定結果の取得が不適切な場合(データ無し等)には、Q12に進み、データベースM1の患者校正深基準データテーブルの当該基準データから当該患者校正定数を取得し、Q13に進む。Q13では、当該患者校正定数取得の妥当性を判断する。当該患者校正定数の取得が適切な場合には、Q15に進み、Q15以下を実行する。
Q13で、当該患者校正定数の取得が不適切(データ無し等)な場合には、Q14に進み、治療操作を中断し、当該患者の患者校正深測定を実行し、その結果をデータベースM1に記録して、再びQ10に進み、患者校正深測定結果を取得する。この手順は、患者校正深測定結果のある患者に対しては、あくまでも患者校正深測定結果を優先するサイクルである。
【0021】
Q15では、患者校正深測定日を基準日とした直近の標準校正深測定結果をデータベースM1から取得し、Q16に進む。Q16で、標準校正深測定結果の取得の妥当性を判断する。標準校正深測定結果の取得が適切な場合には、Q18に進み、データベースM1から治療照射日を基準日とした直近の標準校正深測定結果を取得する。
Q16で、標準校正深測定結果の取得が不適切(データ無し等)な場合には、Q17で、治療を中断し、標準校正深の測定を実施し、その結果をデータベースM1に記録して、再びQ15に進み、標準校正深測定結果を取得する。
Q18では、データベースM1から治療照射日を基準日とした直近の標準校正深測定結果を取得し、Q19に進む。Q19では、標準校正深測定結果の取得の妥当性を判断する。標準校正深測定結果の取得が適切な場合には、Q21に進み、線量計算を実行する。標準校正深測定結果の取得が不適切(データ無し等)な場合には、Q20で、治療を中断し、標準校正深測定を実行し、その結果をデータベースM1に記録する。再びQ18に進み、Q19を経てQ21に進む。以上で線量校正の準備が完了する。
【0022】
Q19において、標準校正深測定結果の取得が適切な場合にはQ21に進み、上記Q10、Q15及びQ18で取得した各種の校正深に基づき線量計算を実施する。この線量計算では、温度、気圧等の補正も行う。次に、照射カウント値を設定するQ22に進む。Q22で、照射カウント値を治療照射装置のプリセットカウンタに設定し、R1で治療照射を実行する。
R1の治療照射が完了すると、Q23で、治療照射記録を作成し、その結果をデータベースM1に記録することにより、一連の粒子線治療照射が完了する。
【0023】
この発明は、上述のように、患者毎に行っていた患者校正深測定を患者毎に測定するのではなく、照射条件毎の基準となる患者校正深に相当した校正深測定を行い、患者校正深基準データとして予めデータベースM1に保存し、患者校正深測定を実施していない場合の治療照射には、この基準データを利用して線量計算を行う。但し、患者校正深測定を実施している場合は、患者校正深測定結果を優先する。
【0024】
この方法では、患者毎に患者校正深測定を実施する必要はなく、照射条件ごとの基準となる患者校正深基準データを予め収集し、データベースとして保存し、この保存された基準データを利用することにより、オペレータが校正深測定などに携わる時間が少なくなり、負担が軽減できる。
【0025】
実施の形態1によれば、以上のように、粒子線治療において、患者校正深測定を患者毎に測定する必要はなく、患者校正深測定を間引き、代わりに照射条件毎の基準となるデータ(患者校正深基準データ)を測定し、あるいは測定済みの患者校正深測定結果を照射条件毎にアレンジし、その結果をデータベースM1に記録し、患者校正定数として流用するため、治療照射のオペレータの作業が減り、オペレータの負担が軽減できる。
また、粒子線治療装置の治療への利用率も向上し、短期間に、より多くの患者の治療ができ、医療サービスの向上にも役立つ他、標準校正深データ、患者校正深データ、校正実績、治療照射などの治療実績を確実に記録・保管できるなどの特徴があり、効率的で、より安全な粒子線治療法及び粒子線治療装置を得ることができる。
【0026】
実施の形態2.
実施の形態1では、治療時に取得した患者校正深測定結果及び患者校正深基準データが、過去の他と同一の照射条件での患者校正深測定結果に比べて異なる場合がある。このような測定結果を取得して線量校正すると、誤った線量計算が行われる恐れがある。実施の形態2は、このような場合に対処するものである。
【0027】
図5は、この発明の実施の形態2による粒子線治療装置のデータの流れを示す流れ図である。
図5において、Q10、Q12、Q13、Q18、Q21〜Q23は図4におけるものと同一の処理である。これらの各処理は、実施の形態1と同様であるからその説明を省略する。
図5では、照射線量の誤差を許容値以下に保つようにする流れを示している。予め測定結果の変動幅の許容値(例えば2.5%)を設け、患者校正深測定結果あるいは患者校正深基準データ測定結果が、過去に実施した同一条件の測定結果や、シミュレーション等により求めた照射条件に対する理論値と比較し、許容値以下となった時の患者校正深測定結果及び患者校正深基準データ測定結果を、適正な患者校正深測定結果または患者校正深基準データとし、許容値以上の測定データと区分し、これらを分別記録し、適正な患者校正深測定結果または患者校正深基準データのみを補正用の患者校正深及び患者校正新基準データとして採用して、線量計算を実施し、照射線量の誤差を許容値以下に保つようにする。
【0028】
次に、動作について説明する。
図5において、Q24は、患者校正深測定値及び患者校正深基準データ測定値の適不適の判断基準であり、Q25は、患者校正深測定結果及び患者校正深基準データ測定結果をデータベースM1に記録する時のデータ誤差が許容値以下で有るか否かの判定を行う。Q24で、予め基準値(例えば従来測定値の平均値)と変動許容幅を設け、測定値と過去の測定結果やシミュレーション等により算出した理論値との差が変動許容幅以内のもののみをデータベースM1に記録する。Q10では、データベースM1からの患者校正深測定結果(複数)を取得し、Q26で、データベースM1から患者校正深測定結果が適切に取得されたかどうかの判断を行う。Q27では、適切に取得された場合に、患者校正深測定結果(複数)を表示する。Q28では、表示画面に表示された患者校正深測定結果の中から患者校正深基準データに採用する患者校正深測定値を選ぶ。Q29では、Q28で選ばれた患者校正深測定結果から患者校正深基準データとして、データベースM1の患者校正深基準データテーブルに追加登録する。このようにして高い精度の患者校正深基準データを得ることができる。
【0029】
実施の形態2によれば、以上により、粒子線治療において精度の高い治療照射が可能となり、安全で確実な粒子線治療が期待できる。
【0030】
実施の形態3.
実施の形態1では、患者校正深測定結果の取得は、治療計画から指定された線源データ名を利用して、全て条件を満たす照射条件の下に行っているので、患者校正深基準データテーブル内のデータ量はかなり多量となり、測定や検索には相当の時間がかかる。実施の形態3は、このような場合に対処するものである。
図6は、この発明の実施の形態3による粒子線治療装置の患者校正深基準データテーブルの一例を示す図である。
図6において、患者校正深基準データテーブルには、線源データ名称21と、粒子線エネルギー22と、リッジフィルタ厚さ/種類23と、ワブラ電磁石電流24と、散乱体の厚さ/種類25と、代表レンジシフタ厚さ/種類26と、校正深27と、レンジシフタ有効範囲上限値28と、レンジシフタ有効範囲下限値29と、患者校正定数30と、標準校正定数31の照射パラメータを有している。ここで、21〜27は代表レンジシフタ(69mm)での設定条件である。28、29は分割したレンジシフタ有効範囲を示している。
測定条件の一つである機器条件の中には、機器条件の変更が患者校正定数に与える影響を演算により算出可能な項目がある。例えば、レンジシフタの厚みがこれに該当し、代表レンジシフタ厚を条件とするものについては実測し、代表レンジシフタ厚の周辺の厚みについては演算で求めることにより、基準データを収集するための測定回数を減らすことが可能となる。これら代表レンジシフタ厚の実測値及び演算により求めたデータは、基準データとして登録することも可能であるし、代表レンジシフタ厚のみデータベース等に登録し、レンジシフタ厚の異なる基準データについては、検索時に演算を行うことで登録するデータ数の削減や、検索時間の短縮を図ることも可能である。
【0031】
図7は、この発明の実施の形態3による粒子線治療装置の患者校正深基準データテーブルの作成と運用処理を示す流れ図である。図7(a)は、患者校正深基準データのデータテーブル作成の流れ図であり、図7(b)は、患者校正深基準データテーブル運用の流れ図である。
【0032】
図7は、代表レンジシフタを69mmとした患者校正深基準データテーブル作成及び運用の流れ図である。
患者校正深基準データテーブルは、コース毎及び線源データ毎に患者校正定数の基準となる患者校正深基準データを測定し、その結果がデータベースM1に患者校正深基準データテーブルとして登録されるが、レンジシフタは、主に有効範囲内の代表レンジシフタが用いられる。レンジシフタに依存性がある場合は、有効範囲を細分化し、分割した任意の代表レンジシフタでの患者校正定数を代表レンジシフタでの測定結果から、多項式により求め、その値をデータベースM1に登録する。
次に、患者校正深基準データテーブル作成について説明する。
図7(a)のQ30では、レンジシフタの代表厚さを選択する。Q31では、代表レンジシフタでの患者校正深測定を実施する。Q32では、測定結果より患者校正定数を算定する。次いで、Q33で、レンジシフタの依存性をチェックする。依存性がある場合には、Q34で、レンジシフタ厚を分割する。次いで、Q35で、分割したレンジシフタ厚における患者校正定数を多項式により計算する。Q36では、Q34にて分割されたレンジシフタ厚が残っているかどうかをチェックし、残っていれば、Q35にて、患者校正定数の演算を行う。
Q33で、レンジシフタの依存性がなければ、Q37を実行し、Q32の計算結果をデータベースM1に登録する。また、Q36で、分割されたレンジシフタ厚が残っていなければ、Q37を実行し、Q35の計算結果をデータベースM1に登録する。
【0033】
次に、患者校正深基準データテーブル運用例について説明する。
図7(b)のQ40で、治療計画装置指定の線源データ名の指定を行う。Q41で、代表レンジシフタ毎に登録されている患者校正深基準データテーブルを検索する。Q42で、レンジシフタの依存性をチェックする。依存性があれば、Q43で、患者校正深基準データテーブルの中から実際に使用するレンジシフタの有効範囲を検索する。Q44で、レンジシフタ厚の有効範囲の重なりチェックを行い、有効範囲の重なりが有る場合には、Q45で、代表レンジシフタに近い方の範囲を参照し、Q46で、レンジシフタ有効範囲での患者校正定数を抽出し、線量計算の実施に移る。
Q42で、レンジシフタの依存性がなければ、Q46を実行する。また、Q44で、有効範囲の重なりがなければ、Q46を実行する。
【0034】
実施の形態3によれば、以上のような患者校正深基準データテーブルを利用することにより、患者校正深基準データの測定件数を削減できると同時に、患者校正深基準データそのものも削減でき、粒子線治療装置の稼働率の改善になる。
【0035】
実施の形態4.
実施の形態1では、治療時の計画値以外のガントリ角度で患者校正深測定を実施することがある。計画値以外のガントリ角度で患者校正深測定を実施した場合、実際の治療では計画値のガントリ角度で照射するため、照射線量計算時にガントリ角度の違いによる誤差が生じる。このため、ガントリ角度の違いを補正する必要がある。実施の形態4は、このような場合に対処するものである。
【0036】
図8は、この発明の実施の形態4による粒子線治療装置のガントリ角度補正係数テーブルの一例を示す図である。
図8において、ガントリ角度ごとの補正係数がテーブル化されている。
【0037】
ガントリ角度補正は、図8のようなガントリ角度補正係数テーブル(ガントリ角度補正係数表)を作成し、データベースとして登録しておき、治療時には、治療するガントリ角度(第二のガントリ角度)を指定し、ガントリ角度補正係数テーブルから、当該ガントリ角度補正係数を抽出し、補正を実行するようにする。
患者校正深測定を第一のガントリ角度として、例えばガントリ角度0°により行い、治療時の第二のガントリ角度を、例えばガントリ角度45°とすると、図8により、治療のプリセット計算時にガントリ角度補正係数1.045をプリセット値に積算することで補正を行う。
【0038】
実施の形態4によれば、こうすることにより、患者校正深測定あるいは患者校正深基準データ測定には、それぞれガントリ角度の情報を入れる必要がなくなり、患者校正深測定及び患者校正深基準データの測定件数も大幅に削減できるため、粒子線治療装置の稼働率が改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】この発明の実施の形態1による粒子線治療装置におけるデータの流れと手順を示すシーケンス図である。
【図2】この発明の実施の形態1による粒子線治療装置の標準校正深測定及び患者校正深測定における線量計測の構成を示すシステム図である。
【図3】この発明の実施の形態1による粒子線治療装置の治療照射時における線量計測の構成を示すシステム図である。
【図4】この発明の実施の形態1による粒子線治療装置のデータの流れを示す流れ図である。
【図5】この発明の実施の形態2による粒子線治療装置のデータの流れを示す流れ図である。
【図6】この発明の実施の形態3による粒子線治療装置の患者校正深基準データテーブルの一例を示す図である。
【図7】この発明の実施の形態3による粒子線治療装置の患者校正深基準データテーブルの作成と運用処理を示す流れ図である。
【図8】この発明の実施の形態4による粒子線治療装置のガントリ角度補正係数テーブルの一例を示す図である。
【符号の説明】
【0040】
1 照射ヘッド、2 患者、3 粒子線、4a ワブラ電磁石、4b 散乱体、
5 リッジフィルタ、6 レンジシフタ、7 線量モニタヘッド、
8 平坦度モニタヘッド、9 コリメータ、10 アンプ及び制御回路、
11 差動アンプ及び制御回路、12 信号処理回路、13 データ処理計算機、
14 データベース、15 表示モニタ、16 キーボード、17 照射系計算機、
18 照射パラメータ、19 基準線量計ヘッド、20 基準線量計本体。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の患部に粒子線を照射して治療を行う粒子線治療装置において、標準の照射条件により実施された標準校正深測定結果及び種々の治療照射条件に合うように複数の照射パラメータを変化させて予め測定された患者校正深基準データが保存される記録装置、及びこの記録装置に保存された上記患者校正深基準データ及び上記標準校正深測定結果を用いて、患者への上記粒子線の治療照射時の照射線量を算出するデータ処理計算機を備え、上記データ処理計算機により算出された照射線量に基づいて、患者への上記粒子線の治療照射が行われることを特徴とする粒子線治療装置。
【請求項2】
上記データ処理計算機は、上記患者校正深基準データの変動幅に許容値を設け、この許容値内の変動幅を有する上記患者校正深基準データを用いて上記照射線量の算出を行うことを特徴とする請求項1記載の粒子線治療装置。
【請求項3】
上記複数の照射パラメータの内、上記照射パラメータのとり得る所定範囲では測定結果に影響を及ぼさないような照射パラメータについては、上記所定範囲内のいずれかの値で代表させることを特徴とする請求項1または請求項2記載の粒子線治療装置。
【請求項4】
上記患者校正深基準データを測定するときの上記粒子線を照射する第一のガントリ角度と、患者への上記粒子線の治療照射で用いられる第二のガントリ角度との差に応じた補正係数を予め設定したガントリ角度補正係数表を、上記記録装置に記録させるとともに、患者への上記粒子線の治療照射時の照射線量の算出では、上記ガントリ角度補正係数表の補正係数を用いて補正されることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の粒子線治療装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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