粒子線照射方法
【課題】固有の安全性を有するブロードビームを用いて、複雑な形状のターゲットに対しても、可能な限りコンフォーマルに照射することが可能な方法を提供する。
【解決手段】照射不可部位14がターゲット12よりも照射下流側になるような照射方向F1,F2で粒子線を照射した場合に、所定線量が1度の照射で与えられる第1の領域12(#1a),12(#1b)を決定する。次に、ターゲット12のうち、照射方向に沿った深さが、第1の領域の深さd(#1a),d(#1b)よりも深い第2の領域12(#2)を決定する。そして、ボーラス及びエネルギーフィルタを介して、粒子線を、照射方向F1及び照射方向F2のそれぞれに沿って照射し、各第1の領域に対しては、照射方向F1,F2からの1度の照射で所定線量を与えると共に、各第2の領域12に対しては、第1の領域と共に照射することによって複数回照射し、その合計線量として所定線量を与える。
【解決手段】照射不可部位14がターゲット12よりも照射下流側になるような照射方向F1,F2で粒子線を照射した場合に、所定線量が1度の照射で与えられる第1の領域12(#1a),12(#1b)を決定する。次に、ターゲット12のうち、照射方向に沿った深さが、第1の領域の深さd(#1a),d(#1b)よりも深い第2の領域12(#2)を決定する。そして、ボーラス及びエネルギーフィルタを介して、粒子線を、照射方向F1及び照射方向F2のそれぞれに沿って照射し、各第1の領域に対しては、照射方向F1,F2からの1度の照射で所定線量を与えると共に、各第2の領域12に対しては、第1の領域と共に照射することによって複数回照射し、その合計線量として所定線量を与える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、癌などの治療に用いられる陽子線や重イオン線等の粒子線を、癌細胞などのターゲットに対して一様な線量で照射する照射方法に関する。
【背景技術】
【0002】
癌などに対する放射線治療の一種として、陽子線や重イオン線等の粒子線を用いることが知られている。この種の放射線治療においては、例えば癌細胞であるターゲットの近傍にある正常な臓器の細胞に対する必要以上な照射を避けながら、ターゲットに対して選択的に、かつ、一様な線量で照射することが要求される。
【0003】
図4は、この種の粒子線を用いた放射線治療の利点を説明するための概念図である。図4(a)は、人体50を任意の高さ位置で輪切りにした断面図の例であって、人体50の体軸と垂直な面内の1方向からエネルギーのそろった陽子線Pを広げて照射する状態を示している。図4(b)は、陽子線Pによって付与される線量の分布D(P)を示している。
【0004】
図4(a)に示すように、例えばシンクロトロンやサイクロトロン等の加速器(図示せず)から人体50に対して陽子線Pを照射した場合、陽子線Pは、人体50に入射後、ある深さd1において停止する特性がある。これによって、図4(b)に示すように、深さd1におけるエネルギーピーク(ブラッグピークと呼ばれる)を有し、ピークよりも深い位置における線量は殆どゼロであるような線量分布D(P)となる。図示していないが重イオン線も類似した特性を有する(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
また、図4(b)には、比較のために、人体50に対してX線を照射した場合の線量分布D(X)も示している。X線の線量分布D(X)は、陽子線Pの線量分布D(P)とは著しく異なり、入射後上昇してピークに達した後、指数関数的に減衰して行く。
【0006】
すなわち、粒子線は、図4(b)に示すように、ある深さd1の位置52における線量の集中性が高いという特性を有している。このため、体内に集中的に存在するような癌細胞に対して、他の正常な細胞や臓器に対する照射を避けながら、選択的に照射することができる。特に、ターゲット(例えば、位置52)よりも深い場所にある臓器や細胞に対しては、殆ど影響が小さい。仮に、X線で照射した場合には、ターゲットよりも浅い場所のみならず、深い場所にある臓器や細胞も照射を受ける。
【0007】
実際に、この種の粒子線を用いた放射線治療を行う場合には、照射前に、CTスキャン等を用いることにより、ターゲットの位置及び形状のみならず、周囲の臓器及び骨の位置や形状を3次元的な密度分布データとして把握しておくことが必要となる。この密度分布データから、ターゲットの最深部の形状、ターゲットの3次元的な広がり、ターゲットよりも上流側にある領域の密度の分布、近くにある重要臓器の位置と3次元的な広がりなどを抽出して、ターゲットに均一で十分な線量を付与しつつ、重要臓器の線量を許容できる値以下に抑えるような照射方法が検討される。
【0008】
3次元的に様々な形状を有するターゲット全体にわたって一様の線量で照射するためには、従来、大まかに分類して2つの方法が取られている。
【0009】
第1の方法は、図6(a)の概念図に示すように、細い粒子線ビームpを、ターゲット53全体にわたって少しずつ目標位置54を変えながら、かつ、ターゲット53全体の線量が一様になるように、場所に応じて粒子線ビームpのエネルギーを調整しながら照射する方法である。この方法は、スキャニング法(又は動的照射法)と称されている。
【0010】
スキャニング法では、どのような形状を有するターゲット53に対しても一様の線量で照射することができる高い自由度を持つという利点を有するので、図6(b)の線量分布図に示すように、ターゲット53全体にわたって一様の線量で照射すること、すなわちコンフォーマル照射が可能となる。この説明は、1門照射の場合であるが、照射門数が増えれば更に自由度が高くなる。図6(b)では、ターゲット53の照射線量を100%としたときの、周囲の照射線量の割合も示している。ターゲット53よりも照射上流側の部位も照射される一方、ターゲット53よりも照射下流側及び照射経路以外の部位の線量は殆どゼロである。
【0011】
しかしながらスキャニング法では、ターゲット53全体に対する照射が完了するまでに何度も照射するので、ターゲット53のサイズが大きいと、照射に要する時間も長くなる。このため、万が一、照射している最中にトラブルが発生し、装置の動作を継続できなくなると、不均一な線量分布のままで終わってしまう危険性があり、医療用途として利用には必ずしも適していない。ターゲット53が動いたり変形する場合も同様の問題が生じる。
【0012】
第2の方法は、図4(b)の陽子線Pの線量分布D(P)におけるピーク(ブラッグピーク)の幅を、ターゲット53の形状に合わせて広げる方法である。これは、スキャニング法とは異なり、ブロードな粒子線ビームを一度のみ照射することにより行われることからブロードビーム法(又は静的照射法)と称されている。一度のみの照射でターゲット全体の照射が完了するので、スキャニング法のようなトラブル、動き及び変形による影響を受けないという点で固有の安全性を有している。
【0013】
ブロードビーム法において、ブラッグピークの幅を、ターゲット53の形状に合わせて広げるためには、図5に示すように、まずボーラス60を用いて、ターゲット53の最深部(図中に示すターゲット53の右側縁部)の形状に沿って粒子線が到達するように調節する。なお、目標位置54の幅に応じてビーム幅を規定するために、例えば真鍮製のコリメータ57が適宜設けられる。
【0014】
更に、図7(a)に示すように、リッジフィルタ64等を、粒子線ビームPの経路途中に配置する。
【0015】
リッジフィルタ64は、公知であり、例えば真鍮やアルミ等からなり、平板65上に多数の断面三角状の尖端部66を配置してなる。粒子線ビームPがこのようなリッジフィルタ64を通過すると、粒子線の各成分が到達する深さが拡散され、図7(b)に示すように、ブラッグピークの幅がt0からt1へと広げられる。このようして広げられたブラッグピークは、スプレッドアウトブラッグピーク(SOBP)と呼ばれる。
【0016】
このように、ボーラス60によって、ターゲット53の最深部d1(図中に示すターゲット53の右側縁部)の形状に沿って粒子線が到達するようにするとともに、リッジフィルタ64によって、ターゲット53の深さ方向の寸法t1に合わせてブラッグピークの幅をt0からt1に広げることができる。ところが、ブラッグピークの幅は、リッジフィルタ64等によって一様に広げられるので、図8に示すように、ターゲット53が円形又は楕円形である場合、ターゲット53よりも手前の領域59もまた、ターゲット53とともに照射されてしまう。
【0017】
本来、この領域59は、正常な細胞又は臓器であるので、ターゲット53と同量の線量で照射されてはならない部位であり、ターゲット53よりも低い線量に落とす必要がある。従来法では、他の角度の照射を重ねる多門照射で分布を改善するしかなかった。
【0018】
そこで、筆者らによって、図9に示すように、リッジフィルタ64に代えて、非特許文献2に示すような積層型エネルギーフィルタ68を適用し、場所によってブラッグピークの幅を調整する技術が提案された。
【0019】
図10は、積層型エネルギーフィルタ68の断面構成例を示す図であり、リッジフィルタ64を積層させることによって構成されている。このような構成によって、層の段数が多い箇所を通過する粒子線P1は、ブラッグピークの幅が大きく広げられ、逆に、層の段数が少ない箇所を通過する粒子線P2は、ブラッグピークの幅が僅かに広げられる。
【0020】
したがって、ターゲット53の深さ方向の形状に従って、積層型エネルギーフィルタ68の横方向Lにおける段数を調整することによって、図8に示す領域59のような、ターゲット53と同じ線量で照射される部位を無くすことができる。
【非特許文献1】Rev. Sci. Instrum., Vol.64, No.8, 2055-2093, August 1993
【非特許文献2】Med. Phys. Vol.27, No.2, 368-373, February 2000
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
しかしながら、このような積層型エネルギーフィルタ68を適用し、ブロードビームを用いて照射する場合であっても、従来法では解決できない以下のような問題がある。
【0022】
この例を、図11を用いて説明する。図11(a)は、人体50をある高さ位置で輪切りにした断面図の例である。門のような形状(以下、「門形」と称する)のターゲット53に挟まれるようにして、正常な重要臓器70が位置している。この場合、図中上側と下側からの照射はできないと仮定する。このような場合、従来のブロードビーム法では、対向2門の照射を重ねる方法を取ることが多く、重要臓器70の被ばくは避けられない。
【0023】
図12に示すように、ターゲット53を、第1の領域53(#1)と、第2の領域53(#2)とに分割して、それぞれの領域を図中左右別々の方向から照射すれば重要臓器770の線量を抑えることができる。すなわち、図11(b)に示すように、図中左側から照射方向F1に沿って粒子線を照射することによって、第1の領域53(#1)を照射する。また、図中右側から照射方向F2に沿って粒子線を照射することによって、第2の領域53(#2)を照射する。
【0024】
このように、照射方向F1からターゲット53の左半分を照射して所定線量を与え、次に、照射方向F2からターゲット53の右半分を照射して所定線量を与えることによって、ターゲット53の全体に所定線量が与えられている。
【0025】
このような分割照射は、照射方向F1に沿った最初の照射が終了してから、粒子線のビーム取出口を照射方向F2にあわせて移動させて2回目の照射を行う。しかしながら、この間に、人体50が移動、あるいは変形すると、照射方向F2における深さが変動してしまい、図11(b)及び図12に示すような分割の中心線Cからずれてしまうことになる。
【0026】
その結果、図13(a)に示す照射領域図、及び、図13(a)中のA−A線に沿った線量分布である図13(b)に示すように、未照射部53cができたり、その逆に、図14(a)に示す照射領域図、及び、図14(a)中のB−B線に沿った線量分布である図14(b)に示すように、未照射部53eのみならず、重複照射により所定線量の200%照射される重複照射部53dができる恐れがある。
【0027】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、固有の安全性を有するブロードビームと積層エネルギーフィルタとを用いて、複雑な形状のターゲットに対しても、可能な限りコンフォーマルに照射することが可能な粒子線照射方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
上記の目的を達成するために、本発明では、以下のような手段を講じる。
【0029】
すなわち、本願の請求項1に係る発明は、照射不可部位への照射を回避しながら、ターゲットに対して一様な所定線量で粒子線を照射する照射方法であって、前記ターゲットのうち、前記照射不可部位が前記ターゲットよりも照射下流側になるような照射方向で照射した場合に、前記所定線量が1度の照射で与えられる1又は複数の第1の領域と、前記各第1の領域に対する照射方向を決定することと、前記ターゲットのうち、前記第1の領域以外の領域であって、かつ、前記決定されたそれぞれの照射方向に沿った深さが、対応する照射方向で照射される前記第1の領域の該照射方向に沿った深さよりも深い領域であって、前記第1の領域の何れかとともに照射されることによって複数回照射され、前記複数回照射されてなる合計線量が、前記所定線量となるような1又は複数の第2の領域を決定することと、前記決定された各照射方向に沿って前記粒子線を照射する前に、前記ターゲットよりも照射上流側に設けられたボーラスによって、前記照射される粒子線の線量分布の最深部が、対応する第1の領域及び第2の領域それぞれの、前記照射方向に沿った最深部になるように調整するとともに、前記ターゲットよりも照射上流側に設けられたエネルギーフィルタによって、前記照射される粒子線のエネルギーが、前記対応する第1の領域及び第2の領域それぞれの、前記照射方向に沿った深さにわたって均一に広げられるように調整することと、前記決定された各照射方向に沿って前記粒子線を照射し、前記各第1の領域に対してはそれぞれ、対応する照射方向からの1度の照射で前記所定線量を与えるとともに、前記各第2の領域に対しては、前記第1の領域の何れかとともに照射することによって複数回照射し、前記複数回照射されてなる合計線量として前記所定線量を与えることとを含むことを特徴とする照射方法である。
【0030】
また、本願の請求項2の発明は、前記決定された照射方向のうちの少なくとも2つは、互いに対向する方向であることを特徴とする請求項1に記載の照射方法である。
【0031】
更に、本願の請求項3の発明は、前記ターゲットは癌細胞であり、前記照射不可部位は正常な細胞又は臓器であり、照射によるリスクが無視できないものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の照射方法である。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、固有の安全性を有するブロードビームと積層エネルギーフィルタとを用いて、複雑な形状のターゲットに対しても、可能な限りコンフォーマルに照射することが可能な粒子線照射方法を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下に、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照しながら説明する。
【0034】
なお、以下の形態の説明に用いる図中の符号は、図4乃至図14と同一部分については同一符号を付して示すことにする。
【0035】
図1(a)は、人体10をある位置で輪切りにした断面図の例である。本実施の形態では、図1に示すような、門形の複雑な形状をした例えば癌細胞に犯された臓器のようなターゲット12を照射する場合を例に説明する。更に、門形のターゲット12に挟まれるようにして、正常な重要臓器14が位置している。
【0036】
このような場合、ブロードビームを用いて、重要臓器14を照射することなく、ターゲット12に対して選択的に、かつ、可能な限りコンフォーマルに陽子線や重イオン線等の粒子線を照射する方法について説明する。
【0037】
図2は、ブロードビームを用いて、ターゲット12に対して可能な限りコンフォーマルに粒子線を照射するためのモデル化の一例を示す概念図である。
【0038】
すなわち、ターゲット12を、2つの第1の領域12(#1a),12(#1b)と、1つの第2の領域12(#2)とに分割する。そして、図1(b)に示すように、図中左側から照射方向F1に沿って粒子線を照射することによって、第1の領域12(#1a)と第2の領域12(#2)とを照射する。また、図中右側から照射方向F2に沿って粒子線を照射することによって、第1の領域12(#1b)と第2の領域12(#2)とを照射する。
【0039】
ここで、第2の領域12(#2)は、照射方向F1に沿った深さd(#21)が、第1の領域12(#1a)の照射方向F1に沿った深さd(#1a)よりも深い。すなわち、d(#21)>d(#1a)である。同様に、第2の領域12(#2)は、照射方向F2に沿った深さd(#22)が、第1の領域12(#1b)の照射方向F2に沿った深さd(#1b)よりも深い。すなわち、d(#22)>d(#1b)である。
【0040】
また、照射方向F1,F2は、照射不可部分である正常な重要臓器14が、ターゲット12よりも照射下流側になるようにする。これによって、重要臓器14の照射を回避することができる。
【0041】
そして、何れの場合も、図9を用いて説明したように、人体50の手前側、すなわち、照射上流側には、コリメータ57、ボーラス60、及び積層型エネルギーフィルタ68を配置する。そして、図1(b)に示す照射方向F1から照射する場合には、ボーラス60によって、粒子線の線量分布の最深部が、第1の領域12(#1a)及び第2の領域12(#2)それぞれの、照射方向に沿った最深部d(#1a),d(#21)になるように調整する。また、積層型エネルギーフィルタ68によって、粒子線のエネルギーが、第1の領域12(#1a)及び第2の領域12(#2)それぞれの、照射方向F1に沿った深さにわたって均一に広がるように調整する。
【0042】
同様に、照射方向F2から照射する場合には、ボーラス60によって、粒子線の線量分布の最深部が、第1の領域12(#1b)及び第2の領域12(#2)それぞれの、照射方向に沿った最深部d(#1b),d(#22)になるように調整する。また、積層型エネルギーフィルタ68によって、粒子線のエネルギーが、第1の領域12(#1b)及び第2の領域12(#2)それぞれの、照射方向F2に沿った深さにわたって均一に広がるように調整する。
【0043】
更に、照射方向F1に沿った粒子線のブロードビームによる1度の照射で、第1の領域12(#1a)に所定線量が与えられるように粒子線のビーム量を調節する。第2の領域12(#2)は、ブラッグピークがより広げられることになるので、1度の照射で得られる線量は、所定線量よりも低くなるが、第2の領域12(#2)に所定線量の50%が与えられるように調節する。
【0044】
同様に、照射方向F2に沿った粒子線のブロードビームによる1度の照射で、第1の領域12(#1b)に所定線量が与えられるように粒子線のビーム量を調節する。第2の領域12(#2)は、ブラッグピークがより広げられることになるので、1度の照射で得られる線量は、所定線量よりも低くなるが、第2の領域12(#2)に所定線量の50%が与えられるように調節する。
【0045】
これによって、照射方向F1に沿った粒子線のブロードビームによる1度の照射で、第1の領域12(#1a)に所定線量が与えられるとともに、第2の領域12(#2)には、所定線量の50%が与えられる。
【0046】
更に、照射方向F2に沿った粒子線のブロードビームによる1度の照射で、第1の領域12(#1b)に所定線量が与えられるとともに、第2の領域12(#2)には、所定線量の残りの50%が与えられ、合計して所定線量が与えられる。これによって、ターゲット12の全域に亘って所定線量が与えられる。
【0047】
また、第2の領域12(#2)のように、1度に照射できる領域を物理的に分割することなく、例えば、2回の照射によって所定線量を分割して付与することにより、照射方向F1に沿った1回目の照射が終了してから、粒子線のビーム取出口を照射方向F2にあわせて移動させて2回目の照射を行うまでの間に、万が一、人体10が多少移動あるいは変形してしまい、照射深さdが若干変動しても、1回目の照射による照射領域と、2回目の照射による照射領域とが若干ずれるだけであるので、図3(a)中のC−C線に沿った線量分布である図3(b)、及びD−D線に沿った線量分布である図3(c)に示すように、周縁部12a〜12dのみが、予定の所定線量と異なるだけで済み、図13や図14に示すような未照射部53c,53eが生じたり、図14に示すように所定線量の2倍も照射されてしまう重複照射部53dが生じなくなる。
【0048】
上述したように、本発明の実施の形態に係る粒子線照射方法においては、上記のような作用により、固有の安全性を有するブロードビームを用いて分割照射するものの、図13や図14に示すような分割照射によるデメリットを受けることなく、重要臓器への照射を避けながら、複雑な形状のターゲットに対しても、可能な限りコンフォーマル照射することが可能となる。
【0049】
以上、本発明を実施するための最良の形態について、添付図面を参照しながら説明したが、本発明はかかる構成に限定されない。特許請求の範囲の発明された技術的思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0050】
上記実施の形態と同様の方法で、ターゲットに照射不可部位が囲まれている場合の照射も実現することができる。
【0051】
ターゲット12の形状及び分割パターンは、図2に限定されるものではなく、より複雑な形状のターゲットに対しては、より細かく分割し、それに合わせて照射回数を適宜決定する。よって、照射回数は、必ずしも、2回に限られるものではなく、3回以上とするようにしても良い。
【0052】
また、上記実施の形態では、2回に分けて分割照射する第2の領域12(#2)の1度の照射毎の線量を、等しく所定線量の50%ずつとしているが、各照射毎の線量を必ずしも等しくする必要は無く、第1の領域12(#1a),12(1#b)との関係から合理的になるように、あるいは任意に定めてよい。
【0053】
また、上記実施の形態では、照射方向F1と照射方向F2とは互いに対向する方向となっているが、必ずしも対向する必要は無く、照射を避けたい重要臓器との位置関係を考慮して、任意の方向(例えば、90°異なる方向)として良い。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】人体をある高さ位置で輪切りにした断面図の例、及び、本発明の実施の形態に従ってターゲットを2分割して照射する例を示す図。
【図2】図1(a)に示すターゲットを2分割した例を示す図。
【図3】図2に示すように2分割したターゲットにおいて、後半部分を照射する際にずれが生じ、未照射部が生じた場合における線量分布の一例を示す図。
【図4】粒子線を用いた放射線治療の利点を説明するための概念図。
【図5】ボーラスの作用を説明するための図。
【図6】スポットスキャニング法の概念図及び線量分布図の一例。
【図7】リッジフィルタを適用した照射の概念を示す図、及び、スプレッドアウトブラッグピークの原理を示す図。
【図8】ブロードビーム法により、ボーラスとリッジフィルタとを適用した体系により楕円形のターゲットを照射した場合に得られる線量分布の一例を示す図。
【図9】図7におけるリッジフィルタに代えて、積層型エネルギーフィルタを適用した体系の一例を示す図。
【図10】積層型エネルギーフィルタの断面構成例を示す図。
【図11】人体をある高さ位置で輪切りにした断面図の例、及び、従来技術に従ってターゲットを2分割して照射する例を示す図。
【図12】図11(a)に示すターゲットを2分割した例を示す図。
【図13】図12に示すように2分割したターゲットにおいて、第2の領域を照射する際にずれが生じ、未照射部が生じた場合における線量分布の一例を示す図。
【図14】図12に示すように2分割したターゲットにおいて、第2の領域を照射する際にずれが生じ、重複照射部が生じた場合における線量分布の一例を示す図。
【符号の説明】
【0055】
C…中心線、D…線量分布、F1…照射方向、F2…照射方向、P…陽子線、10…人体、12…ターゲット、14…臓器、50…人体、52…位置、53…ターゲット、53c,53e…未照射部、53d…重複照射部、54…目標位置、56…骨、57…コリメータ、59…領域、60…ボーラス、64…リッジフィルタ、65…平板、66…尖端部、68…積層型エネルギーフィルタ、70…臓器
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、癌などの治療に用いられる陽子線や重イオン線等の粒子線を、癌細胞などのターゲットに対して一様な線量で照射する照射方法に関する。
【背景技術】
【0002】
癌などに対する放射線治療の一種として、陽子線や重イオン線等の粒子線を用いることが知られている。この種の放射線治療においては、例えば癌細胞であるターゲットの近傍にある正常な臓器の細胞に対する必要以上な照射を避けながら、ターゲットに対して選択的に、かつ、一様な線量で照射することが要求される。
【0003】
図4は、この種の粒子線を用いた放射線治療の利点を説明するための概念図である。図4(a)は、人体50を任意の高さ位置で輪切りにした断面図の例であって、人体50の体軸と垂直な面内の1方向からエネルギーのそろった陽子線Pを広げて照射する状態を示している。図4(b)は、陽子線Pによって付与される線量の分布D(P)を示している。
【0004】
図4(a)に示すように、例えばシンクロトロンやサイクロトロン等の加速器(図示せず)から人体50に対して陽子線Pを照射した場合、陽子線Pは、人体50に入射後、ある深さd1において停止する特性がある。これによって、図4(b)に示すように、深さd1におけるエネルギーピーク(ブラッグピークと呼ばれる)を有し、ピークよりも深い位置における線量は殆どゼロであるような線量分布D(P)となる。図示していないが重イオン線も類似した特性を有する(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
また、図4(b)には、比較のために、人体50に対してX線を照射した場合の線量分布D(X)も示している。X線の線量分布D(X)は、陽子線Pの線量分布D(P)とは著しく異なり、入射後上昇してピークに達した後、指数関数的に減衰して行く。
【0006】
すなわち、粒子線は、図4(b)に示すように、ある深さd1の位置52における線量の集中性が高いという特性を有している。このため、体内に集中的に存在するような癌細胞に対して、他の正常な細胞や臓器に対する照射を避けながら、選択的に照射することができる。特に、ターゲット(例えば、位置52)よりも深い場所にある臓器や細胞に対しては、殆ど影響が小さい。仮に、X線で照射した場合には、ターゲットよりも浅い場所のみならず、深い場所にある臓器や細胞も照射を受ける。
【0007】
実際に、この種の粒子線を用いた放射線治療を行う場合には、照射前に、CTスキャン等を用いることにより、ターゲットの位置及び形状のみならず、周囲の臓器及び骨の位置や形状を3次元的な密度分布データとして把握しておくことが必要となる。この密度分布データから、ターゲットの最深部の形状、ターゲットの3次元的な広がり、ターゲットよりも上流側にある領域の密度の分布、近くにある重要臓器の位置と3次元的な広がりなどを抽出して、ターゲットに均一で十分な線量を付与しつつ、重要臓器の線量を許容できる値以下に抑えるような照射方法が検討される。
【0008】
3次元的に様々な形状を有するターゲット全体にわたって一様の線量で照射するためには、従来、大まかに分類して2つの方法が取られている。
【0009】
第1の方法は、図6(a)の概念図に示すように、細い粒子線ビームpを、ターゲット53全体にわたって少しずつ目標位置54を変えながら、かつ、ターゲット53全体の線量が一様になるように、場所に応じて粒子線ビームpのエネルギーを調整しながら照射する方法である。この方法は、スキャニング法(又は動的照射法)と称されている。
【0010】
スキャニング法では、どのような形状を有するターゲット53に対しても一様の線量で照射することができる高い自由度を持つという利点を有するので、図6(b)の線量分布図に示すように、ターゲット53全体にわたって一様の線量で照射すること、すなわちコンフォーマル照射が可能となる。この説明は、1門照射の場合であるが、照射門数が増えれば更に自由度が高くなる。図6(b)では、ターゲット53の照射線量を100%としたときの、周囲の照射線量の割合も示している。ターゲット53よりも照射上流側の部位も照射される一方、ターゲット53よりも照射下流側及び照射経路以外の部位の線量は殆どゼロである。
【0011】
しかしながらスキャニング法では、ターゲット53全体に対する照射が完了するまでに何度も照射するので、ターゲット53のサイズが大きいと、照射に要する時間も長くなる。このため、万が一、照射している最中にトラブルが発生し、装置の動作を継続できなくなると、不均一な線量分布のままで終わってしまう危険性があり、医療用途として利用には必ずしも適していない。ターゲット53が動いたり変形する場合も同様の問題が生じる。
【0012】
第2の方法は、図4(b)の陽子線Pの線量分布D(P)におけるピーク(ブラッグピーク)の幅を、ターゲット53の形状に合わせて広げる方法である。これは、スキャニング法とは異なり、ブロードな粒子線ビームを一度のみ照射することにより行われることからブロードビーム法(又は静的照射法)と称されている。一度のみの照射でターゲット全体の照射が完了するので、スキャニング法のようなトラブル、動き及び変形による影響を受けないという点で固有の安全性を有している。
【0013】
ブロードビーム法において、ブラッグピークの幅を、ターゲット53の形状に合わせて広げるためには、図5に示すように、まずボーラス60を用いて、ターゲット53の最深部(図中に示すターゲット53の右側縁部)の形状に沿って粒子線が到達するように調節する。なお、目標位置54の幅に応じてビーム幅を規定するために、例えば真鍮製のコリメータ57が適宜設けられる。
【0014】
更に、図7(a)に示すように、リッジフィルタ64等を、粒子線ビームPの経路途中に配置する。
【0015】
リッジフィルタ64は、公知であり、例えば真鍮やアルミ等からなり、平板65上に多数の断面三角状の尖端部66を配置してなる。粒子線ビームPがこのようなリッジフィルタ64を通過すると、粒子線の各成分が到達する深さが拡散され、図7(b)に示すように、ブラッグピークの幅がt0からt1へと広げられる。このようして広げられたブラッグピークは、スプレッドアウトブラッグピーク(SOBP)と呼ばれる。
【0016】
このように、ボーラス60によって、ターゲット53の最深部d1(図中に示すターゲット53の右側縁部)の形状に沿って粒子線が到達するようにするとともに、リッジフィルタ64によって、ターゲット53の深さ方向の寸法t1に合わせてブラッグピークの幅をt0からt1に広げることができる。ところが、ブラッグピークの幅は、リッジフィルタ64等によって一様に広げられるので、図8に示すように、ターゲット53が円形又は楕円形である場合、ターゲット53よりも手前の領域59もまた、ターゲット53とともに照射されてしまう。
【0017】
本来、この領域59は、正常な細胞又は臓器であるので、ターゲット53と同量の線量で照射されてはならない部位であり、ターゲット53よりも低い線量に落とす必要がある。従来法では、他の角度の照射を重ねる多門照射で分布を改善するしかなかった。
【0018】
そこで、筆者らによって、図9に示すように、リッジフィルタ64に代えて、非特許文献2に示すような積層型エネルギーフィルタ68を適用し、場所によってブラッグピークの幅を調整する技術が提案された。
【0019】
図10は、積層型エネルギーフィルタ68の断面構成例を示す図であり、リッジフィルタ64を積層させることによって構成されている。このような構成によって、層の段数が多い箇所を通過する粒子線P1は、ブラッグピークの幅が大きく広げられ、逆に、層の段数が少ない箇所を通過する粒子線P2は、ブラッグピークの幅が僅かに広げられる。
【0020】
したがって、ターゲット53の深さ方向の形状に従って、積層型エネルギーフィルタ68の横方向Lにおける段数を調整することによって、図8に示す領域59のような、ターゲット53と同じ線量で照射される部位を無くすことができる。
【非特許文献1】Rev. Sci. Instrum., Vol.64, No.8, 2055-2093, August 1993
【非特許文献2】Med. Phys. Vol.27, No.2, 368-373, February 2000
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
しかしながら、このような積層型エネルギーフィルタ68を適用し、ブロードビームを用いて照射する場合であっても、従来法では解決できない以下のような問題がある。
【0022】
この例を、図11を用いて説明する。図11(a)は、人体50をある高さ位置で輪切りにした断面図の例である。門のような形状(以下、「門形」と称する)のターゲット53に挟まれるようにして、正常な重要臓器70が位置している。この場合、図中上側と下側からの照射はできないと仮定する。このような場合、従来のブロードビーム法では、対向2門の照射を重ねる方法を取ることが多く、重要臓器70の被ばくは避けられない。
【0023】
図12に示すように、ターゲット53を、第1の領域53(#1)と、第2の領域53(#2)とに分割して、それぞれの領域を図中左右別々の方向から照射すれば重要臓器770の線量を抑えることができる。すなわち、図11(b)に示すように、図中左側から照射方向F1に沿って粒子線を照射することによって、第1の領域53(#1)を照射する。また、図中右側から照射方向F2に沿って粒子線を照射することによって、第2の領域53(#2)を照射する。
【0024】
このように、照射方向F1からターゲット53の左半分を照射して所定線量を与え、次に、照射方向F2からターゲット53の右半分を照射して所定線量を与えることによって、ターゲット53の全体に所定線量が与えられている。
【0025】
このような分割照射は、照射方向F1に沿った最初の照射が終了してから、粒子線のビーム取出口を照射方向F2にあわせて移動させて2回目の照射を行う。しかしながら、この間に、人体50が移動、あるいは変形すると、照射方向F2における深さが変動してしまい、図11(b)及び図12に示すような分割の中心線Cからずれてしまうことになる。
【0026】
その結果、図13(a)に示す照射領域図、及び、図13(a)中のA−A線に沿った線量分布である図13(b)に示すように、未照射部53cができたり、その逆に、図14(a)に示す照射領域図、及び、図14(a)中のB−B線に沿った線量分布である図14(b)に示すように、未照射部53eのみならず、重複照射により所定線量の200%照射される重複照射部53dができる恐れがある。
【0027】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、固有の安全性を有するブロードビームと積層エネルギーフィルタとを用いて、複雑な形状のターゲットに対しても、可能な限りコンフォーマルに照射することが可能な粒子線照射方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
上記の目的を達成するために、本発明では、以下のような手段を講じる。
【0029】
すなわち、本願の請求項1に係る発明は、照射不可部位への照射を回避しながら、ターゲットに対して一様な所定線量で粒子線を照射する照射方法であって、前記ターゲットのうち、前記照射不可部位が前記ターゲットよりも照射下流側になるような照射方向で照射した場合に、前記所定線量が1度の照射で与えられる1又は複数の第1の領域と、前記各第1の領域に対する照射方向を決定することと、前記ターゲットのうち、前記第1の領域以外の領域であって、かつ、前記決定されたそれぞれの照射方向に沿った深さが、対応する照射方向で照射される前記第1の領域の該照射方向に沿った深さよりも深い領域であって、前記第1の領域の何れかとともに照射されることによって複数回照射され、前記複数回照射されてなる合計線量が、前記所定線量となるような1又は複数の第2の領域を決定することと、前記決定された各照射方向に沿って前記粒子線を照射する前に、前記ターゲットよりも照射上流側に設けられたボーラスによって、前記照射される粒子線の線量分布の最深部が、対応する第1の領域及び第2の領域それぞれの、前記照射方向に沿った最深部になるように調整するとともに、前記ターゲットよりも照射上流側に設けられたエネルギーフィルタによって、前記照射される粒子線のエネルギーが、前記対応する第1の領域及び第2の領域それぞれの、前記照射方向に沿った深さにわたって均一に広げられるように調整することと、前記決定された各照射方向に沿って前記粒子線を照射し、前記各第1の領域に対してはそれぞれ、対応する照射方向からの1度の照射で前記所定線量を与えるとともに、前記各第2の領域に対しては、前記第1の領域の何れかとともに照射することによって複数回照射し、前記複数回照射されてなる合計線量として前記所定線量を与えることとを含むことを特徴とする照射方法である。
【0030】
また、本願の請求項2の発明は、前記決定された照射方向のうちの少なくとも2つは、互いに対向する方向であることを特徴とする請求項1に記載の照射方法である。
【0031】
更に、本願の請求項3の発明は、前記ターゲットは癌細胞であり、前記照射不可部位は正常な細胞又は臓器であり、照射によるリスクが無視できないものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の照射方法である。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、固有の安全性を有するブロードビームと積層エネルギーフィルタとを用いて、複雑な形状のターゲットに対しても、可能な限りコンフォーマルに照射することが可能な粒子線照射方法を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下に、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照しながら説明する。
【0034】
なお、以下の形態の説明に用いる図中の符号は、図4乃至図14と同一部分については同一符号を付して示すことにする。
【0035】
図1(a)は、人体10をある位置で輪切りにした断面図の例である。本実施の形態では、図1に示すような、門形の複雑な形状をした例えば癌細胞に犯された臓器のようなターゲット12を照射する場合を例に説明する。更に、門形のターゲット12に挟まれるようにして、正常な重要臓器14が位置している。
【0036】
このような場合、ブロードビームを用いて、重要臓器14を照射することなく、ターゲット12に対して選択的に、かつ、可能な限りコンフォーマルに陽子線や重イオン線等の粒子線を照射する方法について説明する。
【0037】
図2は、ブロードビームを用いて、ターゲット12に対して可能な限りコンフォーマルに粒子線を照射するためのモデル化の一例を示す概念図である。
【0038】
すなわち、ターゲット12を、2つの第1の領域12(#1a),12(#1b)と、1つの第2の領域12(#2)とに分割する。そして、図1(b)に示すように、図中左側から照射方向F1に沿って粒子線を照射することによって、第1の領域12(#1a)と第2の領域12(#2)とを照射する。また、図中右側から照射方向F2に沿って粒子線を照射することによって、第1の領域12(#1b)と第2の領域12(#2)とを照射する。
【0039】
ここで、第2の領域12(#2)は、照射方向F1に沿った深さd(#21)が、第1の領域12(#1a)の照射方向F1に沿った深さd(#1a)よりも深い。すなわち、d(#21)>d(#1a)である。同様に、第2の領域12(#2)は、照射方向F2に沿った深さd(#22)が、第1の領域12(#1b)の照射方向F2に沿った深さd(#1b)よりも深い。すなわち、d(#22)>d(#1b)である。
【0040】
また、照射方向F1,F2は、照射不可部分である正常な重要臓器14が、ターゲット12よりも照射下流側になるようにする。これによって、重要臓器14の照射を回避することができる。
【0041】
そして、何れの場合も、図9を用いて説明したように、人体50の手前側、すなわち、照射上流側には、コリメータ57、ボーラス60、及び積層型エネルギーフィルタ68を配置する。そして、図1(b)に示す照射方向F1から照射する場合には、ボーラス60によって、粒子線の線量分布の最深部が、第1の領域12(#1a)及び第2の領域12(#2)それぞれの、照射方向に沿った最深部d(#1a),d(#21)になるように調整する。また、積層型エネルギーフィルタ68によって、粒子線のエネルギーが、第1の領域12(#1a)及び第2の領域12(#2)それぞれの、照射方向F1に沿った深さにわたって均一に広がるように調整する。
【0042】
同様に、照射方向F2から照射する場合には、ボーラス60によって、粒子線の線量分布の最深部が、第1の領域12(#1b)及び第2の領域12(#2)それぞれの、照射方向に沿った最深部d(#1b),d(#22)になるように調整する。また、積層型エネルギーフィルタ68によって、粒子線のエネルギーが、第1の領域12(#1b)及び第2の領域12(#2)それぞれの、照射方向F2に沿った深さにわたって均一に広がるように調整する。
【0043】
更に、照射方向F1に沿った粒子線のブロードビームによる1度の照射で、第1の領域12(#1a)に所定線量が与えられるように粒子線のビーム量を調節する。第2の領域12(#2)は、ブラッグピークがより広げられることになるので、1度の照射で得られる線量は、所定線量よりも低くなるが、第2の領域12(#2)に所定線量の50%が与えられるように調節する。
【0044】
同様に、照射方向F2に沿った粒子線のブロードビームによる1度の照射で、第1の領域12(#1b)に所定線量が与えられるように粒子線のビーム量を調節する。第2の領域12(#2)は、ブラッグピークがより広げられることになるので、1度の照射で得られる線量は、所定線量よりも低くなるが、第2の領域12(#2)に所定線量の50%が与えられるように調節する。
【0045】
これによって、照射方向F1に沿った粒子線のブロードビームによる1度の照射で、第1の領域12(#1a)に所定線量が与えられるとともに、第2の領域12(#2)には、所定線量の50%が与えられる。
【0046】
更に、照射方向F2に沿った粒子線のブロードビームによる1度の照射で、第1の領域12(#1b)に所定線量が与えられるとともに、第2の領域12(#2)には、所定線量の残りの50%が与えられ、合計して所定線量が与えられる。これによって、ターゲット12の全域に亘って所定線量が与えられる。
【0047】
また、第2の領域12(#2)のように、1度に照射できる領域を物理的に分割することなく、例えば、2回の照射によって所定線量を分割して付与することにより、照射方向F1に沿った1回目の照射が終了してから、粒子線のビーム取出口を照射方向F2にあわせて移動させて2回目の照射を行うまでの間に、万が一、人体10が多少移動あるいは変形してしまい、照射深さdが若干変動しても、1回目の照射による照射領域と、2回目の照射による照射領域とが若干ずれるだけであるので、図3(a)中のC−C線に沿った線量分布である図3(b)、及びD−D線に沿った線量分布である図3(c)に示すように、周縁部12a〜12dのみが、予定の所定線量と異なるだけで済み、図13や図14に示すような未照射部53c,53eが生じたり、図14に示すように所定線量の2倍も照射されてしまう重複照射部53dが生じなくなる。
【0048】
上述したように、本発明の実施の形態に係る粒子線照射方法においては、上記のような作用により、固有の安全性を有するブロードビームを用いて分割照射するものの、図13や図14に示すような分割照射によるデメリットを受けることなく、重要臓器への照射を避けながら、複雑な形状のターゲットに対しても、可能な限りコンフォーマル照射することが可能となる。
【0049】
以上、本発明を実施するための最良の形態について、添付図面を参照しながら説明したが、本発明はかかる構成に限定されない。特許請求の範囲の発明された技術的思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0050】
上記実施の形態と同様の方法で、ターゲットに照射不可部位が囲まれている場合の照射も実現することができる。
【0051】
ターゲット12の形状及び分割パターンは、図2に限定されるものではなく、より複雑な形状のターゲットに対しては、より細かく分割し、それに合わせて照射回数を適宜決定する。よって、照射回数は、必ずしも、2回に限られるものではなく、3回以上とするようにしても良い。
【0052】
また、上記実施の形態では、2回に分けて分割照射する第2の領域12(#2)の1度の照射毎の線量を、等しく所定線量の50%ずつとしているが、各照射毎の線量を必ずしも等しくする必要は無く、第1の領域12(#1a),12(1#b)との関係から合理的になるように、あるいは任意に定めてよい。
【0053】
また、上記実施の形態では、照射方向F1と照射方向F2とは互いに対向する方向となっているが、必ずしも対向する必要は無く、照射を避けたい重要臓器との位置関係を考慮して、任意の方向(例えば、90°異なる方向)として良い。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】人体をある高さ位置で輪切りにした断面図の例、及び、本発明の実施の形態に従ってターゲットを2分割して照射する例を示す図。
【図2】図1(a)に示すターゲットを2分割した例を示す図。
【図3】図2に示すように2分割したターゲットにおいて、後半部分を照射する際にずれが生じ、未照射部が生じた場合における線量分布の一例を示す図。
【図4】粒子線を用いた放射線治療の利点を説明するための概念図。
【図5】ボーラスの作用を説明するための図。
【図6】スポットスキャニング法の概念図及び線量分布図の一例。
【図7】リッジフィルタを適用した照射の概念を示す図、及び、スプレッドアウトブラッグピークの原理を示す図。
【図8】ブロードビーム法により、ボーラスとリッジフィルタとを適用した体系により楕円形のターゲットを照射した場合に得られる線量分布の一例を示す図。
【図9】図7におけるリッジフィルタに代えて、積層型エネルギーフィルタを適用した体系の一例を示す図。
【図10】積層型エネルギーフィルタの断面構成例を示す図。
【図11】人体をある高さ位置で輪切りにした断面図の例、及び、従来技術に従ってターゲットを2分割して照射する例を示す図。
【図12】図11(a)に示すターゲットを2分割した例を示す図。
【図13】図12に示すように2分割したターゲットにおいて、第2の領域を照射する際にずれが生じ、未照射部が生じた場合における線量分布の一例を示す図。
【図14】図12に示すように2分割したターゲットにおいて、第2の領域を照射する際にずれが生じ、重複照射部が生じた場合における線量分布の一例を示す図。
【符号の説明】
【0055】
C…中心線、D…線量分布、F1…照射方向、F2…照射方向、P…陽子線、10…人体、12…ターゲット、14…臓器、50…人体、52…位置、53…ターゲット、53c,53e…未照射部、53d…重複照射部、54…目標位置、56…骨、57…コリメータ、59…領域、60…ボーラス、64…リッジフィルタ、65…平板、66…尖端部、68…積層型エネルギーフィルタ、70…臓器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
照射不可部位への照射を回避しながら、ターゲットに対して一様な所定線量で粒子線を照射する照射方法であって、
前記ターゲットのうち、前記照射不可部位が前記ターゲットよりも照射下流側になるような照射方向で照射した場合に、前記所定線量が1度の照射で与えられる1又は複数の第1の領域と、前記各第1の領域に対する照射方向を決定することと、
前記ターゲットのうち、前記第1の領域以外の領域であって、かつ、前記決定されたそれぞれの照射方向に沿った深さが、対応する照射方向で照射される前記第1の領域の該照射方向に沿った深さよりも深い領域であって、前記第1の領域の何れかとともに照射されることによって複数回照射され、前記複数回照射されてなる合計線量が、前記所定線量となるような1又は複数の第2の領域を決定することと、
前記決定された各照射方向に沿って前記粒子線を照射する前に、前記ターゲットよりも照射上流側に設けられたボーラスによって、前記照射される粒子線の線量分布の最深部が、対応する第1の領域及び第2の領域それぞれの、前記照射方向に沿った最深部になるように調整するとともに、前記ターゲットよりも照射上流側に設けられたエネルギーフィルタによって、前記照射される粒子線の線量分布が、前記対応する第1の領域及び第2の領域それぞれの、前記照射方向に沿った深さにわたって均一に広げられるように調整することと、
前記決定された各照射方向に沿って前記粒子線を照射し、前記各第1の領域に対してはそれぞれ、対応する照射方向からの1度の照射で前記所定線量を与えるとともに、前記各第2の領域に対しては、前記第1の領域の何れかとともに照射することによって複数回照射し、前記複数回照射されてなる合計線量として前記所定線量を与えることと
を含むことを特徴とする照射方法。
【請求項2】
前記決定された照射方向のうちの少なくとも2つは、互いに対向する方向であることを特徴とする請求項1に記載の照射方法。
【請求項3】
前記ターゲットは癌細胞であり、前記照射不可部位は正常な細胞又は臓器であり、照射によるリスクが無視できないものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の照射方法。
【請求項1】
照射不可部位への照射を回避しながら、ターゲットに対して一様な所定線量で粒子線を照射する照射方法であって、
前記ターゲットのうち、前記照射不可部位が前記ターゲットよりも照射下流側になるような照射方向で照射した場合に、前記所定線量が1度の照射で与えられる1又は複数の第1の領域と、前記各第1の領域に対する照射方向を決定することと、
前記ターゲットのうち、前記第1の領域以外の領域であって、かつ、前記決定されたそれぞれの照射方向に沿った深さが、対応する照射方向で照射される前記第1の領域の該照射方向に沿った深さよりも深い領域であって、前記第1の領域の何れかとともに照射されることによって複数回照射され、前記複数回照射されてなる合計線量が、前記所定線量となるような1又は複数の第2の領域を決定することと、
前記決定された各照射方向に沿って前記粒子線を照射する前に、前記ターゲットよりも照射上流側に設けられたボーラスによって、前記照射される粒子線の線量分布の最深部が、対応する第1の領域及び第2の領域それぞれの、前記照射方向に沿った最深部になるように調整するとともに、前記ターゲットよりも照射上流側に設けられたエネルギーフィルタによって、前記照射される粒子線の線量分布が、前記対応する第1の領域及び第2の領域それぞれの、前記照射方向に沿った深さにわたって均一に広げられるように調整することと、
前記決定された各照射方向に沿って前記粒子線を照射し、前記各第1の領域に対してはそれぞれ、対応する照射方向からの1度の照射で前記所定線量を与えるとともに、前記各第2の領域に対しては、前記第1の領域の何れかとともに照射することによって複数回照射し、前記複数回照射されてなる合計線量として前記所定線量を与えることと
を含むことを特徴とする照射方法。
【請求項2】
前記決定された照射方向のうちの少なくとも2つは、互いに対向する方向であることを特徴とする請求項1に記載の照射方法。
【請求項3】
前記ターゲットは癌細胞であり、前記照射不可部位は正常な細胞又は臓器であり、照射によるリスクが無視できないものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の照射方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2009−89853(P2009−89853A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−262638(P2007−262638)
【出願日】平成19年10月5日(2007.10.5)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月5日(2007.10.5)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]