説明

粒子線照射装置及び粒子線照射方法

【課題】線量分布幅の小さいSOBPを重ね合わせてSOBPを形成する方式において、線量分布の体表から深い側の立下りが急峻なSOBPを形成できる粒子線照射装置及び粒子線照射方法を提供することにある。
【解決手段】エネルギー分布拡大装置部5は、第1の線量分布幅の小さいSOBPを形成するエネルギー分布拡大装置1と、線量分布の体表から最深部に急峻な第2の線量分布幅の小さいSOBPを形成するエネルギー分布拡大装置2とを備える。粒子線を照射してエネルギー分布拡大装置2により標的領域の体表からの最深部に線量分布の立下りが急峻なSOBPを形成し、最深部の次に深い領域から体表側の標的領域までを、エネルギー分布拡大装置1を複数回用いて、粒子線を照射して形成する線量分布幅の小さいSOBPを重ね合わせて、記標的領域に合う長さのSOBPを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子線照射装置及び粒子線照射方法に係り、特に、リッジフィルタを用いて線量分布の中で線量の高い領域を形成するのに好適な粒子線照射装置及び粒子線照射方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子線治療システム、例えば、陽子線治療システムは、がん治療の有効な手段の一つであり、今後、益々盛んに用いられる見込みである。陽子線治療では、患者の患部(標的領域)の線量分布を均一あるいは予め決められた分布に制御することが求められている。
線量分布を均一等に制御する方法として、陽子ビームの進行方向に垂直な面(照射野)には、散乱体を用いて陽子ビームを広げる方法や、陽子ビーム半径の小さいビームを用いて照射野面を走査する方法がある。
陽子ビームの進行方向(深さ方向)の線量分布の形成には、陽子ビームが停止する直前にエネルギーの大部分を放出してブラッグカーブと呼ばれる線量分布を形成する特性と、そのブラッグカーブのピークであるブラッグピークの、深さ方向での位置は体内に入射する陽子ビームのエネルギーの大きさで制御できる特性を利用し、陽子ビームのエネルギーを適切に選択し、陽子ビームを患部近傍で停止させてエネルギーの大部分を患部のがん細胞に与えるようにしている。ここで、ブラッグピークの、深さ方向での幅は数mmである。通常、患部は深さ方向にそれ以上の厚みをもっている。このような患部において患部全体の深さ方向に渡って粒子線を効果的に照射するには、深さ方向で患部大の広がり一様度の高い高線量領域(Spread Out Bragg Peak、以下SOBPという)を形成するように、陽子ビームのエネルギーと陽子ビームの照射量を制御する必要がある。 陽子ビームの進行方向(深さ方向)の線量分布の形成には、リッジフィルタやRMW(Range Modulation Wheel)を用いる方法、あるいは、加速器からのビームエネルギー種を変える方法で、SOBPを形成する(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
SOBPの形成において、リッジフィルタやRMWは、陽子ビームの照射で深さ方向にSOBPを1度に作ることができるが、患部形状が深さ方向に変化する患部では、患部以外に照射することになる。この方法では、形成するSOBP幅の大きさに対応したリッジフィルタやRMWを準備しておく必要があり、多数個を用意しておく必要がある。また、加速器からのビームエネルギーを変える方法では、患部形状に合わせて照射することが可能であるが、この方法では多数のエネルギー種を用意する必要がある。
また、リッジフィルタを用いる別の方法として、患部を積層に分割して照射する方法、すなわち、患部の分割に応じた幅の小さいSOBP(患部大のSOBPと区別するために、以下、これを線量分布幅の小さいSOBPと呼ぶことにする)を複数個作り、それを合わせて、患部形状に合うSOBPを形成する方法である(例えば、非特許文献2参照)。
【0004】
この方法は、線量分布幅の小さいSOBPをつなぎ合わせて、患部大のSOBPを生成するので、SOBPの長さに応じたリッジフィルタを用意する必要がないので、リッジフィルタの個数を低減することができる。この照射を行うための線量分布幅の小さいSOBPの形成には、複数個のブラッグピーク幅を拡大して、また、ピーク強度を調整したエネルギー分布拡大装置(リッジフィルタ等の深さ方向にエネルギーを拡大する装置の総称として以下これを用いる)を用いる。
【0005】
【非特許文献1】W. T. Chu, B. A. Ludewigt and T. R. Renner, Rev. Sci. Instrum. 64, 2055-2122, 1993.
【非特許文献2】B.Schaffner, et al. Med. Phys. 27 (4), 716-724, April 2000.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、線量分布幅の小さいSOBPを生成して、それらを合わせてSOBPを形成する方法において、積層数を減らし照射時間を減らすために、ブラッグピーク幅を拡大すると、照射領域の深さ側のSOBPの境界部分での線量分布の切れが悪く、線量分布の体表から深い側の立下りが急峻でなくなるという問題が生じる。この体表から深い側の立下りが急峻でないと、患部以外の正常組織に照射することになる。これを避けるために、線量分布幅の小さいSOBPを生成すると積層数が増大して、照射時間が長くなるという問題が生じる。
【0007】
本発明の目的は、線量分布幅の小さいSOBPを重ね合わせてSOBPを形成する方式において、線量分布の体表から深い側の立下りが急峻なSOBPを形成でき、短時間で照射できる粒子線照射装置及び粒子線照射方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記目的を達成するために、本発明は、粒子線を標的領域に照射する粒子線照射装置であって、線量分布形状の異なるSOBPを形成する複数のエネルギー分布拡大装置で、深さ方向の線量分布を合成するようにしたものである。
(2)上記目的を達成するために、本発明は、粒子線を標的領域に照射する粒子線照射装置であって、幾何形状の異なる複数のエネルギー分布拡大装置で、深さ方向の線量分布を合成するようにしたものである。
(3)上記(1)又は(2)において、好ましくは、照射線量を測定するモニタと、該照射線量を管理する制御部とを備え、標的領域を積層に分割し、積層毎に使用するエネルギー分布拡大装置、照射線量を定め、モニタで積層毎に照射線量を測定し、制御部で照射線量を管理して照射し、生成した線量分布幅の小さいSOBPを合成するようにしたものである。
(4)上記(3)において、好ましくは、第1の線量分布幅の小さいSOBPを形成するエネルギー分布拡大装置と、標的領域の体表からの最深部に第2の線量分布幅の小さいSOBPを形成するエネルギー分布拡大装置とを備え、粒子線を照射して前記エネルギー分布拡大装置により前記標的領域の体表からの最深部に第2の線量分布幅の小さいSOBPを形成し、最深部の次に深い領域から体表側の標的領域までを、前記エネルギー分布拡大装置を1回あるいは複数回用いて、前記粒子線を照射して形成する第1の線量分布幅の小さいSOBPを重ね合わせて、前記標的領域に合う長さのSOBPを形成するようにしたものである。
ここで、エネルギー分布拡大装置は、通常のエネルギー分布拡大装置よりも線量分布幅の小さいSOBPを生成するエネルギー分布拡大装置に対応し、エネルギー分布拡大装置は、線量分布の体表から深い側の立下りが急峻なSOBPを形成するエネルギー分布拡大装置に対応する。
【0009】
(5)上記(4)において、好ましくは、前記粒子線の照射深さを可変するレンジシフタと、前記レンジシフタを駆動するレンジシフタ駆動部と、加速器の粒子線エネルギーとして1種あるいは複数種類のエネルギー種とを備え、前記エネルギー分布拡大装置と、前記エネルギー分布拡大装置を用いて、前記レンジシフタ駆動部による前記レンジシフタと前記エネルギー種のどちらかあるいは共用により、前記粒子線の照射深さを変えて形成する高線量領域を重ね合わせるようにしたものである。
【0010】
(6)また、上記目的を達成するために、本発明は、粒子線を標的領域に照射する粒子線照射方法であって、粒子線を照射してエネルギー分布拡大装置により前記標的領域の体表からの最深部に第2の線量分布幅の小さいSOBPを形成し、最深部の次に深い領域から体表側の標的領域までを、エネルギー分布拡大装置1を1回あるいは複数回用いて、前記粒子線を照射して形成する第1の線量分布幅の小さいSOBPを重ね合わせて、前記標的領域に合う長さのSOBPを形成することを特徴とするようにしたものである。
かかる方法により、線量分布幅の小さいSOBPを重ね合わせてSOBPを形成する方式において、線量分布の体表から深い側の立下りが急峻なSOBPを形成できるものとなる。
【0011】
(8)また、上記目的を達成するために、本発明は、粒子線を標的領域に照射する粒子線照射方法であって、粒子線を、エネルギー分布拡大装置を通さないで、直接、標的領域に照射して、前記標的領域の体表からの深部領域に線量分布幅の小さいSOBPを形成し、前記深部領域の次に深いところから体表側の標的領域までを、エネルギー分布拡大装置1を1回あるいは複数回用いて、前記粒子線を照射して形成する線量分布幅の小さいSOBPを重ね合わせて、前記標的領域に合う長さのSOBPを形成するようにしたものである。
かかる方法により、線量分布幅の小さいSOBPを重ね合わせてSOBPを形成する方式において、線量分布の体表から深い側の立下りが急峻なSOBPを形成できるものとなる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、線量分布幅の小さいSOBPを重ね合わせてSOBPを形成する方式において、線量分布の体表から深い側の立下りが急峻なSOBPを形成でき、かつ、短時間で照射できるものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図1〜図9を用いて、本発明の第1の実施形態による粒子線照射装置の構成及び動作について説明する。
最初に、図1を用いて、本実施形態による粒子線照射装置の構成について説明する。ここでは、粒子線照射装置として、陽子線治療システムを例にして説明する。図1は、陽子線治療システムにおける陽子線照射装置の照射ノズル部の概略を示している。
図1は、本発明の第1の実施形態による粒子線照射装置の構成を示すブロック図である。
【0014】
陽子線照射装置には、加速器側から陽子ビーム1が入射する。陽子線照射装置は、ビームプロファイル等のモニタ2と、陽子ビームの走査電磁石3と、陽子ビーム径を広げる散乱体4と、エネルギー分布拡大装置部5と、レンジシフタ6と、線量モニタ7と、ブロックコリメータ8と、患者コリメータ9と、制御装置20と、エネルギー分布拡大装置駆動部22と、レンジシフタ駆動部24とを備えている。符号10は、患者に陽子ビームを当てる中心になるアイソセンタである。
【0015】
散乱体4は、陽子ビーム1のビーム径を広げるために用いられる。ビーム半径が小さいとビーム利用効率が大きくなるが、ビーム位置精度が厳しくなる。逆に、ビーム半径が大きいとビーム利用効率が小さくなるが、ビーム位置精度は緩和される。ここでは、散乱体4によって広げられたビーム半径としては、ペンシルビーム径より大きいものを用いる。
【0016】
陽子ビームの進行方向に垂直な照射野へ照射する方法としては、走査電磁石3を用いた、陽子ビームのスポット走査あるいはラスター走査、多重のワブラー走査、また、2重散乱体を用いる方法がある。
【0017】
エネルギー分布拡大装置部5には、各種のエネルギー分布拡大装置が陽子ビームに対して交換可能に配置されている。各種のエネルギー分布拡大装置については、図2〜図5を用いて後述するが、通常のエネルギー分布拡大装置、通常のエネルギー分布拡大装置よりも線量分布幅の小さいSOBPを生成するエネルギー分布拡大装置、線量分布の体表から深い側の立下りが急峻なSOBPを形成するエネルギー分布拡大装置等がある。エネルギー分布拡大装置駆動部22は、制御装置20からの制御指令に基づいて、陽子ビーム中に挿入するエネルギー分布拡大装置の種類を交換する。
【0018】
レンジシフタ6は、線量分布幅の小さいSOBPを生成するエネルギー分布拡大装置や線量分布の体表から深い側の立下りが急峻なSOBPを形成するエネルギー分布拡大装置で生成される線量分布幅の小さいSOBPの体表からの位置をシフトするのに用いられる。レンジシフタ6は、例えば、厚さの異なるレンジシフタ板から構成される。レンジシフタ板の厚さは、2倍毎に厚さを増やしていくバイナリー方式を用い、例えば、1mm、2mm、4mm、8mm、16mm、32mm、・・・を用いている。例えば、2mmと8mmのレンジシフタ板を用いると、10mmとなり、4mmと16mmのレンジシフタ板を用いると、20mmとなる。レンジシフタ駆動部24は、制御装置20からの制御指令に基づいて、陽子ビーム中に挿入するレンジシフタ板を選択し、陽子ビーム中に挿入する。
【0019】
次に、図2〜図5を用いて、本実施形態による粒子線照射装置のエネルギー分布拡大装置部5に用いる各種エネルギー分布拡大装置の構成について説明する。
図2は、本発明の第1の実施形態による粒子線照射装置のエネルギー分布拡大装置部に用いる通常のエネルギー分布拡大装置の構成及び機能説明図である。図3は、本発明の第1の実施形態による粒子線照射装置のエネルギー分布拡大装置部に用いる線量分布幅の小さいSOBPを生成するエネルギー分布拡大装置の構成及び機能説明図である。図4は、本発明の第1の実施形態による粒子線照射装置のエネルギー分布拡大装置部に用いる線量分布幅の小さいSOBPを生成するエネルギー分布拡大装置の構成を示す斜視図である。図5は、本発明の第1の実施形態による粒子線照射装置のエネルギー分布拡大装置部5に用いる線量分布の体表から深い側の立下りが急峻なSOBPを形成するエネルギー分布拡大装置の構成及び機能説明図である。
【0020】
最初に、図2を用いて、通常のエネルギー分布拡大装置について説明する。図2(a)に示すように、SOBPを形成する通常のエネルギー分布拡大装置RFは、下段から上段に行くに従って、幅が順次狭くなる構成を有している。図示の例では、7段の例を示しているが、通常のエネルギー分布拡大装置は30段前後である。なお、図示の例は、模式図であり、段の数、段の幅は、実際のエネルギー分布拡大装置寸法とは異なるものである。
【0021】
図2(a)に示すように、陽子ビーム1が、エネルギー分布拡大装置RFに照射され、エネルギー分布拡大装置RFの高さの異なる段で、段の高さに応じて到達する陽子ビームの位置が異なる。その結果、図2(b)に示すように、体表からの深さに対して、形成される各ブラッグピーク位置Pbp1,Pbp2,…が変わる。段数の少ないところを通過した陽子ビーム程、ブラッグピーク位置Pbpは、体表から深いところまで、到達する。各ブラッグピーク位置Pbp1,PBbp2,…を重ね合わせて、SOBP30が形成される。
【0022】
次に、図3を用いて、線量分布幅の小さいSOBPを生成するエネルギー分布拡大装置について説明する。図3(a)に示す線量分布幅の小さいSOBPを生成するエネルギー分布拡大装置M−RFは、図2に示した通常のエネルギー分布拡大装置RFに比べて段数が少なく、高さも低いエネルギー分布拡大装置である。図示の例では、3段の例を示しているが、これは模式図であり、段の数、段の幅は、実際のエネルギー分布拡大装置寸法とは異なるものである。形状としては、エネルギー分布拡大装置M−RFの左右の空隙部を含め、その幅をWM1として、1段目の幅WM2、2段目の幅WM3と徐々に狭くしていく。高さHm1は、線量分布幅の小さいSOBPの形状に合わせて決める。
【0023】
図3(a)に示すように、陽子ビーム1が、エネルギー分布拡大装置M−RFに照射され、エネルギー分布拡大装置M−RFの高さの異なる段で、段の高さに応じて到達する陽子ビームの位置が異なる。その結果、図3(b)に示すように、体表からの深さに対して、形成される各ブラッグピーク位置Pbpm1,Pbpm2,…が変わる。段数の少ないところを通過した陽子ビーム程、ブラッグピーク位置Pbpmは、体表から深いところまで、到達する。各ブラッグピーク位置Pbpm1,PBpm2,…を重ね合わせて、線量分布幅の小さいSOBP(PbpM)が形成される。
【0024】
そして、図3(c)に示すように、エネルギー分布拡大装置M−RFを用いて、第1の線量分布幅の小さいSOBP(PbpM1)を生成し、次に、図1にて説明したレンジシフタ6を用いて、あるいは、加速器のエネルギー種を変えて、あるいは、両者を用いて、体表からの位置をずらして、線量分布幅の小さいSOBP(PbpM2)を生成する。このようにして、線量分布幅の小さいSOBPを重ね合わせて、SOBP30Aを生成する。線量分布幅の小さいSOBPを生成するエネルギー分布拡大装置は、所望のSOBP30Aの形状になるように、重ね合わせる線量分布幅の小さいSOBPの形状を作るが、そのSOBP形状になるように、エネルギー分布拡大装置の段数、段の幅、高さを調整することになる。線量分布幅の小さいSOBPを重ね合わせて所望のSOBPの平坦度を担保するように、線量分布幅の小さいSOBPの形状を決める。
【0025】
図4に示すように、エネルギー分布拡大装置部5で用いる線量分布幅の小さいSOBPを生成するエネルギー分布拡大装置は、図3に示したエネルギー分布拡大装置M−RFが複数個、架台40の上に等間隔で配置され、固定されている。各エネルギー分布拡大装置M−RFの幅WM1とすると、両側には、空隙部が形成されているので、図4に示す空隙部の幅WG1は、両側にある空隙部の和となる。なお、架台を円形にして、エネルギー分布拡大装置を配列して、全体を円形状にすることもできる。
【0026】
しかし、この線量分布幅の小さいSOBP(PbpM)は、各ブラッグピークを拡大して、それらを重ね合わせるので、図3(c)の線量分布の体表から深い側の立下りが、急峻でなくなる。これを避けるために、図5にて説明する線量分布の体表から深い側の立下りが急峻なSOBPを形成するエネルギー分布拡大装置を用いる。
【0027】
次に、図5を用いて、線量分布の体表から深い側の立下りが急峻なSOBPを形成するエネルギー分布拡大装置SM−RFについて説明する。上記エネルギー分布拡大装置SM−RFは、図3(a)のエネルギー分布拡大装置M−RFより左右の空隙部を広くする。エネルギー分布拡大装置SM−RFの各段は、図3(a)と同様に1段目からその幅を徐々に狭くしていくが、各段の幅の比率は、エネルギー分布拡大装置M−RFとは異なる。
【0028】
エネルギー分布拡大装置M−RFでは、体表から標的領域の深い側に到達する陽子ビームは、図3(a)のエネルギー分布拡大装置M−RFの狭い間隙部を通過していたが、エネルギー分布拡大装置SM−RFでは、空隙部を広くしてありその部分を通過するビーム強度を増大させ、体表から標的領域の深い側に到達するブラッグカーブの強度は大きくなる。エネルギー分布拡大装置SM−RFの各段を通過する陽子ビームは、各段の幅の比率に応じてそのビーム強度が変わり、多くの段の通過を通過したブラッグカーブ程、ブラッグピークの位置が標的領域の体表から浅い側に到達する。その結果、図5(a)に示すように、各ブラッグカーブPbpsm1,Pbpsm2,…の重ね合わせで、分布は体表から深い側が急峻な立下りになり、浅い側はなだらかな立下りのSOBP(PbpSM)が形成される。
このSOBP(PbpSM)は、線量分布の体表から標的領域の深い側の立下りが急峻になり、線量分布の体表から浅い側は、エネルギー分布拡大装置M−RFで生成した線量分布幅の小さいSOBP(PbpM)との合成の際に、患部に形成するSOBPの平坦度を担保できる形状となる。
【0029】
図5(b)は、患部に形成するSOBPを示している。体表から標的領域の深い側には、エネルギー分布拡大装置SM−RFを用いて線量分布の体表から深い側の立下りが急峻なSOBP(PbpSM)を形成する。そこから浅い部分には、図3及び図4にて説明したエネルギー分布拡大装置M−RFを用いて線量分布幅の小さいSOBP(PbpM2)を生成する。さらに、レンジシフタ6を用いて、あるいは、加速器のエネルギー種を変えて、あるいは、両者を用いて、線量分布幅の小さいSOBP(PbpM2,PbpM3,…)を繰り返し生成することで、SOBP30Bを形成できる。この場合、線量分布幅の小さいSOBP(PbpM2,PbpM3,…)生成の繰り返し回数を制御することで、所望の長さのSOBP30Bを形成する。
線量分布の体表から深い側の立下りが急峻なSOBPを形成するエネルギー分布拡大装置で生成するSOBPの幅は、それとの合成に用いるエネルギー分布拡大装置M−RFで生成するSOBPの幅との関係で、任意の長さのSOBPの生成に好適なように決める。
【0030】
図4に示すエネルギー分布拡大装置M−RFの場合と同様に、エネルギー分布拡大装置部5で用いる線量分布の体表から深い側の立下りが急峻なSOBPを形成するエネルギー分布拡大装置は、図5に示したエネルギー分布拡大装置SM−RFが複数個、架台40の上に等間隔で配置され、固定して利用する。
【0031】
次に、図6及び図7を用いて、本実施形態による粒子線照射装置のエネルギー分布拡大装置部5の構成について説明する。
図6は、本発明の第1の実施形態による粒子線照射装置のエネルギー分布拡大装置部の第1の構成を示す平面図である。図7は、本発明の第1の実施形態による粒子線照射装置のエネルギー分布拡大装置部の第2の構成を示す平面図である。
【0032】
図6において、回転式のエネルギー分布拡大装置ホルダ42には、4個の円形開口部OP1,OP2,OP3,OP4が形成されている例である。エネルギー分布拡大装置ホルダ42は、矢印R1方向に、図1のエネルギー分布拡大装置駆動部22によって回転可能である。円形開口部OP2には、図5にて説明したエネルギー分布拡大装置SM−RFを架台の上に複数個設置されたものが載置される。円形開口部OP3には、図4にて説明したエネルギー分布拡大装置M−RFが載置される。円形開口部OP4には、図2にて説明したエネルギー分布拡大装置RFを架台の上に複数個設置されたものが載置される。円形開口部OP1には、何も載置されず、陽子ビームを照射野に直接照射するために用いられる。図6は4個設置の例であるが、エネルギー分布拡大装置SM−RFやエネルギー分布拡大装置M−RFで異なる種類のものを設置するにはその個数を増やすことになる。
【0033】
SOBPを生成するには、例えば、最初に、ホルダ42を回転移動して、円形開口部OP2を陽子ビームの位置に位置づけ、エネルギー分布拡大装置SM−RFを用いて照射する。次に、エネルギー分布拡大装置ホルダ42を回転して、エネルギー分布拡大装置M−RFを用いて、陽子ビームを照射する。さらに、その状態で、レンジシフタ6を用いて、あるいは、加速器のエネルギー種を変えて、あるいは、両者を用いて、深さ方向の照射位置を変えながら、照射を繰り返すことで、SOBPを作ることができる。
【0034】
また、通常のエネルギー分布拡大装置RFを使用する場合には、エネルギー分布拡大装置ホルダ42を回転して、その位置にセットして、陽子ビームを照射することができる。通常のエネルギー分布拡大装置RFを使用してSOBPを形成した後に、エネルギー分布拡大装置M−RFに交換して、線量分布幅の小さいSOBPを継ぎ足して、SOBP幅の大きいものを形成することができる。
また、陽子ビームを照射野に直接照射するには、円形開口部OP1を陽子ビームが通過する位置に回転移動することで行える。エネルギー分布拡大装置M−RF、エネルギー分布拡大装置SM−RF等と組み合わせて、所望のSOBPを形成することができる。
【0035】
このような構成により、各種のエネルギー分布拡大装置の交換が容易にでき、円形ホルダを用いることで、エネルギー分布拡大装置の交換に必要な空間を小さくすることができる。
【0036】
図7は、第2のホルダ構成を示している。エネルギー分布拡大装置ホルダ44は、長方形であり、図1に示したエネルギー分布拡大装置駆動部22によって矢印R2方向にスライド可能である。エネルギー分布拡大装置ホルダ44には、4個の円形開口部OP1,OP2,OP3,OP4が形成されている。円形開口部OP2には、図5にて説明したエネルギー分布拡大装置SM−RFを架台の上に複数個設置されたものが載置される。円形開口部OP3には、図4にて説明したエネルギー分布拡大装置M−RFが載置される。円形開口部OP4には、図2にて説明したエネルギー分布拡大装置RFを架台の上に複数個設置されたものが載置される。円形開口部OP1には、何も載置されず、陽子ビームを照射野に直接照射するために用いられる。
【0037】
次に、図8を用いて、本実施形態による粒子線照射装置によるSOBPの形成の各構成機器の動作について説明する。
図8は、本発明の第1の実施形態による粒子線照射装置によるSOBPの形成の各構成機器の動作について説明図である。
まず、標的領域大(患部大)のSOBP、体表からの深さ位置、全照射量等を決定する(ステップ50)。これは、治療計画等で決定される。これを基に、用いるエネルギー分布拡大装置の種類、標的領域大のSOBPを線量分布幅の小さいSOBPに分割した場合に使用するエネルギー分布拡大装置の順番、線量分布幅の小さいSOBP毎に対応して照射する照射線量を決定する(ステップ51)。
次に、エネルギー分布拡大装置をセットする(ステップ52)。このエネルギー分布拡大装置が、例えば、エネルギー分布拡大装置SM−RFの場合には、それをセットする。体表からのビームの到達位置に合わせて、ビームエネルギーを設定し、ビームサイズに合わせて散乱体の厚さを設定する(ステップ53)。この条件でビームを照射する(ステップ54)。
線量モニタ等のモニタで、線量を測定して、予め決めた照射線量に達しているかを判断する(ステップ55)。達していない場合には、満了になるまで照射して、線量分布幅の小さいSOBPを生成する。測定した線量が、予め決めた照射線量に達しているかの判断を、制御部で行う。
照射線量が満了すると、上記エネルギー分布拡大装置を用いて照射位置を変更して線量分布幅の小さいSOBPが形成するかを判断する(ステップ56)。このエネルギー分布拡大装置が、例えば、エネルギー分布拡大装置SM−RFの場合には、それで生成された線量分布幅の小さいSOBPが体表から患部の最深部に1個生成されればよいと予め決めた場合、上記エネルギー分布拡大装置を用いて照射位置を変更して線量分布幅の小さいSOBPが形成しないと判断する。
次に、エネルギー分布拡大装置を交換して、次の照射をするかを判断する段階に進む(ステップ57)。予め決めたエネルギー分布拡大装置の使用順番に従って、エネルギー分布拡大装置を交換して、次の照射をする場合、エネルギー分布拡大装置をセットする。このエネルギー分布拡大装置が、例えば、ある線量分布幅を生成するエネルギー分布拡大装置M−RFの場合には、それをセットする。
以下、上記と同様のステップを行い(ステップ53、54)、照射線量が満了すると、上記エネルギー分布拡大装置を用いて照射位置を変更して線量分布幅の小さいSOBPが形成するかを判断する(ステップ56)。例えば、このエネルギー分布拡大装置が、ある線量分布幅を生成するエネルギー分布拡大装置M−RFの場合で、これで生成される線量分布幅の小さいSOBPを複数回重ねてSOBPを形成する場合には、上記エネルギー分布拡大装置を用いて照射位置を変更して線量分布幅の小さいSOBPが形成すると判断して、次の位置に線量分布幅の小さいSOBPを生成するように、ビームエネルギー、散乱体厚さを設定する(ステップ53)。以下、同様のステップを繰り返し(ステップ54、55)、ステップ56に到る。
ステップ56で、上記エネルギー分布拡大装置を用いて照射位置を変更して線量分布幅の小さいSOBPが形成しないと判断する場合、予め決めたエネルギー分布拡大装置の使用順番に従って、エネルギー分布拡大装置を交換して、次の照射をするかを判断する段階に進む(ステップ57)。例えば、このエネルギー分布拡大装置が、別の線量分布幅を生成するエネルギー分布拡大装置M−RFの場合には、それをセットする。以下、同様のステップを繰り返す。予め決めたエネルギー分布拡大装置の使用順番に従って、次の照射をする必要がないと判断すると、ビーム照射は終了となる(ステップ58)。これで、粒子線照射装置による標的領域大のSOBPの形成が終了となる。
【0038】
以下では、ビームエネルギーの設定の仕方について説明する。SOBPの深さ方向の位置をどこに設定するかは、ビームエネルギーで決まる。ビームエネルギーの変え方としては、加速器でエネルギー種を変える方法と、レンジシフタで変える方法、両者を組み合わせる方法がある。ビームエネルギーの設定はこのいずれか、あるいは、両方で行う。例えば、加速器のエネルギー種のみで位置を変えようとすると、エネルギー種の数が膨大になるので、レンジシフタも用いる。また、一つのSOBPを形成する時に、加速器からのエネルギー種を変えないで、レンジシフタのみで線量分布幅の小さいSOBPの位置を移動させると、レンジシフタのレンジ調整範囲が大きくなって、レンジシフタの駆動装置が大きくなる。
【0039】
そこで、本実施形態では、SOBP形成時に、複数個の加速器からのエネルギー種とレンジシフタとの両方を用いる。線量分布の体表から深い側の立下りが急峻なSOBPを形成するエネルギー分布拡大装置SM−RFを用いて、線量分布幅の小さいSOBPを、標的領域の最深部に生成する場合、用意した加速器からのエネルギー種の中から、標的領域の最深部に到達する加速器からのエネルギー種を選び、照射する。あるいは、それに適したエネルギー種がない場合は、加速器からのエネルギー種とレンジシフタとを用いて標的領域の最深部に到達するビームエネルギーを形成して、照射する。
次に、エネルギー分布拡大装置M−RFを用いて、標的領域の最深部から浅い側の位置に、線量分布幅の小さいSOBPを形成する場合、上記と同様に、加速器からのエネルギー種とレンジシフタとの組み合わせを用いて、標的領域の最深部から浅い側の位置に到達するビームエネルギーを形成して、照射する。同様の方法で、線量分布幅の小さいSOBPの標的領域内の位置を移動させて、線量分布幅の小さいSOBPを繰り返し生成し、これらの線量分布幅の小さいSOBPを重ね合わせて、標的領域に合う長さのSOBPを形成する。
【0040】
次に、図9で、本実施形態による粒子線照射装置によるSOBPの形成について、線量分布の体表から深い側の立下りが急峻なSOBPと線量分布幅の小さいSOBPとを用いて説明する。
図9は、本発明の第1の実施形態による粒子線照射装置によるSOBPの形成について、線量分布の体表から深い側の立下りが急峻なSOBPと線量分布幅の小さいSOBPとを用いた説明図である。
【0041】
図8に示したプロセスに従って、図9(a)に示すように、各機器を作動し、体表から標的領域の深い側には、線量分布の体表から深い側の立下りが急峻なSOBPを形成するエネルギー分布拡大装置で線量分布幅の小さいSOBP(PbpSM)を形成し、そこから浅い部分には、線量分布幅の小さいSOBPを生成するエネルギー分布拡大装置を用いて、加速器からのエネルギー種とレンジシフタとの組み合わせを用いて、線量分布幅の小さいSOBP(PbpM2,PbpM3,…)を繰り返し生成し、その繰り返し回数を制御することで、SOBP30Bを形成する。線量分布幅の小さいSOBPを繰り返し生成する際、線量分布幅の小さいSOBPを生成するエネルギー分布拡大装置は同一のものを用いるとは限らず、種類の異なるものを複数個用いることもある。
【0042】
SOBP30Bの線量分布の体表から標的領域の深い側の立下りの急峻さの度合いは、線量分布の平坦部を100%とした場合、例えば、深い側(distal)の線量80%と線量20%の間の距離(distal fall-off)で表す場合がある。線量分布の体表から深い側の立下りが急峻なSOBPを形成するエネルギー分布拡大装置を用いることで、図5(c)の破線で示したように、線量分布幅の小さいSOBPを生成するエネルギー分布拡大装置で形成した緩慢な立下りから、実線で示したような急峻な立下りの分布にすることができる。図9(a)に示すように、線量分布の体表から深い側の立下りが急峻なSOBPを形成するエネルギー分布拡大装置で形成したSOBPを用いることで、Distal fall-offの距離では、従来のエネルギー分布拡大装置RFを使用した場合と同程度になる効果がある。
【0043】
本実施形態によれば、SOBPの線量分布の体表から標的領域の深い側の立下りの急峻さを劣化させることなく、従来のエネルギー分布拡大装置M-RFを用いる場合に比べて、同数程度かそれ以下の線量分布幅の小さいSOBPの繰り返し回数で、所望のSOBPを形成することができるので、照射時間を短縮できるという効果がある。また、積層数が少なく積層厚さを厚くできるので、各積層部の深さ方向の移動にロバストで、呼吸同期照射に適する。
【0044】
従来のエネルギー分布拡大装置RFを使用する場合、SOBPの長さに対応して用意する必要があり、その数は多くなる。その点、本発明では、線量分布幅の小さいSOBPを生成するエネルギー分布拡大装置を繰り返し用いることにより、SOBPの長さを変えられるので、線量分布幅の小さいSOBPを生成するエネルギー分布拡大装置と線量分布の体表から深い側の立下りが急峻なSOBPを形成するエネルギー分布拡大装置とを用いれば、所望のSOBPを作るのに、合計で2個あればよいことになる。また、以下で示す種類の異なる線量分布幅の小さいSOBPを生成するエネルギー分布拡大装置と線量分布の体表から深い側の立下りが急峻なSOBPを形成するエネルギー分布拡大装置とを、それぞれ複数個用意したとしても、用意する個数は、従来のエネルギー分布拡大装置RFの場合に比べて、大幅に減少する。このように、本発明は、従来に比べて、エネルギー分布拡大装置の個数を大幅に減少できるという効果がある。
【0045】
また、従来のエネルギー分布拡大装置RFでは、エネルギー分布拡大装置を複数種類用意して、SOBPの長さに応じて、エネルギー分布拡大装置RFを換える必要があった。
【0046】
本発明は、従来に比べて、エネルギー分布拡大装置の交換回数を減少でき、かつ、エネルギー分布拡大装置ホルダ42で、上記の構成により、各種のエネルギー分布拡大装置の交換が容易にでき、SOBPを形成するエネルギー分布拡大装置の交換装置が簡素化できるという効果がある。
【0047】
上記のように、加速器からのエネルギー種を複数個用意して、SOBPの生成中にエネルギー種を変えるようにした場合には、レンジシフタのレンジ調整範囲を狭くできるので、レンジシフタ板の枚数が減り、レンジシフタの駆動装置を簡素化できるという効果がある。
また、エネルギー分布拡大装置の形状等の変更に対しても、従来のエネルギー分布拡大装置RFの膨大な個数を作り変えることはなく、線量分布幅の小さいSOBPを生成するエネルギー分布拡大装置を数個作り変えればよく、フレキシブルに対応できるという効果がある。
【0048】
さらに、図9(b)に示すように、線量分布幅の小さいSOBPを生成するエネルギー分布拡大装置で形成した線量分布幅の小さいSOBP(PbpM2,PbpM3,PbpM4,…)の繰り返し回数を制御することにより、SOBP30Cの長さを制御して形成することができる。患部の大きさによってSOBPの長さは変わるが、医療的にこれまでSOBPの長さを1cm毎変える場合が多いので、線量分布幅の小さいSOBPの長さを、例えば、1cmにすると、線量分布幅の小さいSOBPを重ね合わせることで、所望の長さのSOBPを形成できる。このように、本発明によれば、線量分布の体表から深い側の立下りが急峻で、所望の長さのSOBPを形成できるといる効果がある。
【0049】
次に、図10を用いて、本発明の第2の実施形態による粒子線照射装置の構成及び動作について説明する。本実施形態による粒子線照射装置の構成は、図1と同様である。本実施形態では、線量分布幅の小さいSOBPを生成するエネルギー分布拡大装置の構成に特徴がある。
図10は、本発明の第2の実施形態による粒子線照射装置に用いる線量分布幅の小さいSOBPを生成するエネルギー分布拡大装置により生成されるSOBPの説明図である。
【0050】
線量分布幅の小さいSOBPを生成するエネルギー分布拡大装置の段数、幅、高さを調整することで、生成する線量分布幅の小さいSOBPの広がりの幅を変えることができる。例えば、図3(a)の線量分布幅の小さいSOBPを生成するエネルギー分布拡大装置に、段数、幅を増やして、それらの比率を調整して、ブラッグカーブの幅を大きくして、広がりの幅の大きいSOBPを作る。
【0051】
図10(a)は、図4の線量分布幅の小さいSOBPを生成するエネルギー分布拡大装置を用いてSOBPを形成した例で、図10(b)は、広がりの幅の大きいSOBPを用いることで、所望のSOBPを形成した例である。
【0052】
例えば、線量分布幅の小さいSOBPを生成するエネルギー分布拡大装置M−RFで生成した線量分布幅の小さいSOBPの広がりの幅を1cmとする場合、本実施形態による線量分布幅の小さいSOBPの広がりの幅を、2cmあるいは3cm等に設定する。例えば、12cm幅のSOBPを形成する場合、標的領域の体表からの最深部に、1cm幅の線量分布の体表から深い側の立下りが急峻なSOBP(PbpSM)を1個生成し、最深部の次に深い領域から体表側の標的領域までを、1cm幅の線量分布幅の小さいSOBP(PbpM2,PbpM3,…)を11個生成することで、12cm幅のSOBPを形成する場合、SOBPを形成する際の線量分布幅の小さいSOBPの繰り返し回数は12回となる。
【0053】
それに対して、本実施形態のように、広がりの幅の大きいSOBPを用いると、標的領域の体表からの最深部に1cm幅のSOBP(PbpSM)を1個生成し、最深部の次に深い領域から体表側の標的領域までを、2cm幅のSOBP(PbpM2’,PbpM3’,…)を5個と、1cm幅のSOBPを1個用いると、SOBP30Dを形成する際の線量分布幅の小さいSOBPの繰り返し回数は7回に減る。
【0054】
また、標的領域の体表からの最深部に1cm幅のSOBP(PbpSM)を1個生成し、最深部の次に深い領域から体表側の標的領域までを、3cm幅のSOBPを3個と、2cm幅のSOBPを1個用いると、SOBPを形成する際の線量分布幅の小さいSOBPの繰り返し回数は5回に減る。
このように、SOBPを形成する際の線量分布幅の小さいSOBPの繰り返し回数を減らすために、生成するSOBPの幅の異なるエネルギー分布拡大装置M−RFとエネルギー分布拡大装置SM−RFを、それぞれ、1個ないしは複数用意して、繰り返し回数を減らすことができる。
【0055】
このように、本実施形態によれば、広がりの大きいSOBPを用いることで、SOBPを形成する際の線量分布幅の小さいSOBPの繰り返し回数を減らすことができるメリットがある。すなわち、治療時間を短縮することができるという効果がある。また、幅が広いので、線量分布幅の小さいSOBPの位置のずれがあっても、SOBPの平坦度への影響は小さいという効果がある。
【0056】
次に、図11を用いて、本発明の第3の実施形態による粒子線照射装置の構成及び動作について説明する。本実施形態による粒子線照射装置の構成は、図1と同様である。本実施形態では、線量分布幅の小さいSOBPを生成するエネルギー分布拡大装置の構成に特徴がある。
図11は、本発明の第3の実施形態による粒子線照射装置に用いる線量分布幅の小さいSOBPを生成するエネルギー分布拡大装置により生成されるSOBPの説明図である。
【0057】
本実施形態の第1の例では、線量分布形状を変化させるものである。ここでは、図4に示す線量分布幅の小さいSOBPを生成するエネルギー分布拡大装置を用いるが、陽子ビーム強度を大きくする、あるいは、線量を管理して、図11(a)に示すように、線量の大きい線量分布幅の小さいSOBP(PbpM2A,PbpM3A,…)を作る。この線量分布幅の小さいSOBPの強度を増大させて、体表から浅い側で線量が大きくなるSOBP30Eを形成するものである。
【0058】
また、本実施形態の第2の例では、図4に示す線量分布幅の小さいSOBPを生成するエネルギー分布拡大装置を用いるが、陽子ビーム強度を小さくする、あるいは、線量を管理して、図11(b)に示すように、線量の小さい線量分布幅の小さいSOBP(PbpM2B,PbpM3B,…)を作る。この線量分布幅の小さいSOBPの強度を減少させて、体表から浅い側で線量が小さくなるSOBP30Fを形成するものである。
【0059】
本実施形態のように、陽子ビーム強度を制御する、あるいは、線量を管理して、線量分布幅の小さいSOBPの線量の大きさを制御することで、SOBPの線量分布を制御することができる。また、広がりの幅の大きいSOBPに、陽子ビーム強度を制御する、あるいは、線量を管理して、線量分布幅の小さいSOBPの線量の大きさを制御することを適用すれば、線量分布幅の小さいSOBPの繰り返し回数を減らしつつ、SOBPの線量分布を制御することができる。
このように、線量分布幅の小さいSOBPの線量の大きさを制御することで、SOBPの線量分布を所望の形状に制御することができるという効果がある。これは、特に、炭素ビームの場合、SOBPの線量分布に傾斜をつけつつ、線量分布の体表から深い側の立下りが急峻なSOBPを形成するのに効果的である。
【0060】
次に、本発明の第4の実施形態による粒子線照射装置の構成及び動作について説明する。本実施形態による粒子線照射装置の構成は、図1と同様である。
【0061】
本実施形態では、図4に示す線量分布幅の小さいSOBPを生成するエネルギー分布拡大装置を用いて、線量分布幅の小さいSOBPを作るが、体表から標的領域の深い側はエネルギー分布拡大装置を通過させないで、照射野を直接照射する。すなわち、図6、7に示すエネルギー分布拡大装置部のホルダ42の円形開口部OP1を陽子線が通過するようにして、照射野を直接照射する。
【0062】
直接照射するので、体表から標的領域の深い側でのブラッグピークの広がりは少なく、体表から深い側で線量分布の立下りが急峻になる。標的領域の深部領域の次に深いところから、線量分布幅の小さいSOBPを生成するエネルギー分布拡大装置を用いて、線量分布幅の小さいSOBPを形成していき、標的領域に合う長さのSOBPを形成する。
【0063】
本実施形態によれば、図4に示す1種類のエネルギー分布拡大装置を使用して、陽子ビームの直接照射と組み合わせて、SOBPを形成することができるという効果がある。
また、この直接照射は、SOBPの平坦度を担保するために、線量の不足している部分を照射するのに、この直接照射を用いることもできる。
【0064】
なお、以上の説明では、陽子ビームを用いた陽子線治療システムの照射装置とその方法を示したが、炭素、ヘリウム等の重粒子ビームを用いた粒子線治療システムの照射装置にも、本照射法は適用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の第1の実施形態による粒子線照射装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第1の実施形態による粒子線照射装置のエネルギー分布拡大装置部に用いる通常のエネルギー分布拡大装置の構成及び機能説明図である。
【図3】本発明の第1の実施形態による粒子線照射装置のエネルギー分布拡大装置部に用いる線量分布幅の小さいSOBPを生成するエネルギー分布拡大装置の構成及び機能説明図である。
【図4】本発明の第1の実施形態による粒子線照射装置のエネルギー分布拡大装置部に用いる線量分布幅の小さいSOBPを生成するエネルギー分布拡大装置の構成を示す斜視図である。
【図5】本発明の第1の実施形態による粒子線照射装置のエネルギー分布拡大装置部に用いる線量分布の体表から深い側の立下りが急峻なSOBPを形成するエネルギー分布拡大装置の機能説明図である。
【図6】本発明の第1の実施形態による粒子線照射装置のエネルギー分布拡大装置部の第1の構成を示す平面図である。
【図7】本発明の第1の実施形態による粒子線照射装置のエネルギー分布拡大装置部の第2の構成を示す平面図である。
【図8】本発明の第1の実施形態による粒子線照射装置によるSOBPの形成の説明図である。
【図9】本発明の第1の実施形態による粒子線照射装置によるSOBPの形成の説明図である。
【図10】本発明の第2の実施形態による粒子線照射装置に用いる線量分布幅の小さいSOBPを生成するエネルギー分布拡大装置により生成されるSOBPの説明図である。
【図11】本発明の第3の実施形態による粒子線照射装置に用いる線量分布幅の小さいSOBPを生成するエネルギー分布拡大装置により生成されるSOBPの説明図である。
【符号の説明】
【0066】
1…陽子ビーム
2…モニタ
3…走査電磁石
4…散乱体
5…エネルギー分布拡大装置部
6…レンジシフタ
7…線量モニタ
8…ブロックコリメータ
9…患者コリメータ
10…アイソセンタ
20…制御装置
22…エネルギー分布拡大装置駆動部
24…レンジシフタ駆動部
40…架台
42…ホルダ
RF…通常のエネルギー分布拡大装置
M−RF…線量分布幅の小さいSOBPを生成するエネルギー分布拡大装置
SM−RF…線量分布の体表から深い側の立下りが急峻なSOBPを形成するエネルギー分布拡大装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子線を標的領域に照射する粒子線照射装置であって、
線量分布形状の異なる高線量領域を形成する複数のエネルギー分布拡大装置で、深さ方向の線量分布を合成することを特徴とする粒子線照射装置。
【請求項2】
粒子線を標的領域に照射する粒子線照射装置であって、
幾何形状の異なる複数のエネルギー分布拡大装置で、深さ方向の線量分布を合成することを特徴とする粒子線照射装置。
【請求項3】
請求項1若しくは請求項2のいずれかに記載の粒子線照射装置において、
照射線量を測定するモニタと、該照射線量を管理する制御部とを備え、
前記標的領域を積層に分割し、該積層毎に、少なくとも、使用するエネルギー分布拡大装置、照射線量を定め、該モニタで該積層毎に照射線量を測定し、該制御部で照射線量を管理して線量分布を生成し、該線量分布を合成する粒子線照射装置。
【請求項4】
請求項3記載の粒子線照射装置において、
第1の高線量領域を形成するエネルギー分布拡大装置と、前記標的領域の体表からの最深部に第2の高線量領域を形成するエネルギー分布拡大装置とを備え、
粒子線を照射して前記エネルギー分布拡大装置により前記標的領域の体表からの最深部に第2の高線量領域を形成し、最深部の次に深い領域から体表側の標的領域までを、前記エネルギー分布拡大装置を1回あるいは複数回用いて、前記粒子線を照射して形成する第1の高線量領域を重ね合わせて、前記標的領域に合う長さの高線量領域を形成することを特徴とする粒子線照射装置。
【請求項5】
請求項4記載の粒子線照射装置において、
前記粒子線の照射深さを可変するレンジシフタと、
前記レンジシフタを駆動するレンジシフタ駆動部と、
加速器の粒子線エネルギーとして1種あるいは複数種類のエネルギー種とを備え、
前記エネルギー分布拡大装置1、前記エネルギー分布拡大装置2を用いて、前記レンジシフタ駆動部による前記レンジシフタと前記エネルギー種のどちらかあるいは共用により、前記粒子線の照射深さを変えて形成する高線量領域を重ね合わせることを特徴とする粒子線照射装置。
【請求項6】
請求項4記載の粒子線照射装置の粒子線照射方法であって、
粒子線を照射してエネルギー分布拡大装置2により前記標的領域の体表からの最深部に第2の高線量領域を形成し、
最深部の次に深い領域から体表側の標的領域までを、エネルギー分布拡大装置1を1回あるいは複数回用いて、前記粒子線を照射して形成する1の高線量領域を重ね合わせて、前記標的領域に合う長さの高線量領域を形成することを特徴とする粒子線照射方法。
【請求項7】
粒子線を標的領域に照射する粒子線照射方法であって、
粒子線を直接照射して、前記標的領域の体表からの深部領域に高線量領域を形成し、
前記深部領域の次に深いところから体表側の標的領域までを、エネルギー分布拡大装置1を1回あるいは複数回用いて、前記粒子線を照射して形成する高線量領域を重ね合わせて、前記標的領域に合う長さの高線量領域を形成することを特徴とする粒子線照射方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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