説明

粒成長させた粘土鉱物粒子及び粘土鉱物粒子製造方法

【課題】粒成長させた粘土鉱物粒子、その製造方法及びその製品を提供する。
【解決手段】粘土鉱物粒子を人為的に成長させた粘土鉱物粒子であって、成長前後の粒子の直径の比率が1.1から1000倍の範囲にあり、粒子の直径が0.05μmから100μmの範囲であり、そのアスペクト比が50から1000の範囲であり、板状の形態を有する、ことを特徴とする粘土鉱物粒子、粘土鉱物微粒子と水系溶媒により構成される懸濁液を、水熱処理することにより、粒成長させた粘土鉱物粒子を製造する方法、及び上記粘土鉱物粒子を用いて作製された、高分子を含む膜材。
【効果】粒成長させた板状の粘土鉱物粒子として、アスペクト比の高い、数十nm以上の結晶サイズを有する薄片状粒子を製造し、提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒成長させた粘土鉱物粒子及び粘土鉱物微粒子の粒子成長方法に関するものであり、更に詳しくは、層状粘土鉱物微粒子の粒子直径が、数十nm以上で、かつアスペクト比の大きな板状形態の結晶に成長させることを可能とする粘土鉱物微粒子の粒子成長方法に関するものである。本発明は、粘土鉱物微粒子を主要成分とする自立薄膜であって、有機添加物の量を減らしても自立膜の機械的強度や柔軟性が劣化することのない自立薄膜を好適に製造することを可能とする粒成長させた粘土鉱物粒子の製造方法及びその製品を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
層状粘土鉱物は、板状形態を有する結晶であり、例えば、キャスト法や各種の薄膜調製方法により、基板上に容易に薄膜を形成することが知られている。また、この層状粘土鉱物は、高分子樹脂を添加することにより、機械的強度や柔軟性の優れた自立膜を形成する。この自立膜は、層状粘土鉱物結晶が配向性を持って高密度に積層しているため、優れたガス遮蔽性を有しており、例えば、包装材や封止材、絶縁材等の用途として期待されている(特許文献1、2)。
【0003】
他方で、上記自立膜の耐熱性は、膜内に含まれる耐熱性の低い高分子樹脂に依存するため、粘土鉱物が持つ本来の耐熱性よりも低い。したがって、自立膜の耐熱性を向上させるためには、高分子樹脂等の有機添加物の添加量を抑制する必要がある。しかしながら、有機添加物の量を減らし、粘土鉱物の占める割合を増やすと、自立膜の機械的強度や柔軟性が劣化するという問題があった。
【0004】
その原因は、ほとんどの層状粘土鉱物の粒子が、数十nm程度のサイズの微細な粒子であるため、その微粒子が積層して自立膜を形成した際に、粒子間の粒界が多いため、クラックが生成しやすく、結果的に膜の機械的強度や柔軟性が低下するためと考えられている。この問題を解決するには、層状粘土鉱物微粒子を、粒子直径がより大きく、かつアスペクト比(=直径/厚み)の大きな板状粒子に成長させる必要があると考えられる。以上のことから、層状粘土鉱物微粒子を、アスペクト比(=直径/厚み)の大きな板状形態を保持しながら、直径数十nm以上の粒子に成長させる方法の開発が求められる。
【0005】
板状結晶の作製に関する先行技術としては、例えば、一般的な板状結晶の粒径制御方法として、アルミナ粒子を水熱条件下で合成する方法が行われている(特許文献3)。この方法により、アスペクト比の高い板状のアルミナ結晶が得られる。しかしながら、この方法は、板状形態を保持するために結晶抑制剤を添加する必要があり、結晶サイズの成長が困難である。また、得られるアルミナ粒子は、顔料に適した粉体形状であり、自立膜の形成に適していない。
【0006】
また、これまで、一般に、水熱処理による粘土合成プロセスが実用化されている。これらは、原料ゲルを水熱条件におき、粘土を結晶として得るというものである。しかし、このようにして得られる粘土粒子のサイズは、直径にして数十nm程度であった。
【0007】
また、先行文献には、例えば、結晶性シリケート類の粒径制御方法として、シリケート原料水溶液を亜臨界温度(300℃)まで特定の昇温速度で昇温する方法が開示されている(特許文献4)。この方法により、結晶径の揃った、粒度分布がシャープな結晶性シリケートが得られる。しかしながら、得られる粒子の粒径はサブミクロン程度であり、自立膜形成に十分なサイズを有していない。
【0008】
このように、従来、板状アルミナ結晶の作製、水熱処理による粘土合成プロセス、及び結晶性シリケート類の粒径制御等に関する技術が種々提案されているが、従来の方法は、自立膜を対象としたものではない、結晶サイズの成長が困難である、高温側で不純物が生成する、粒子の粒径はサブミクロン程度である、等の問題点があり、層状粘土鉱物微粒子を、粒子直径が数十nm以上で、かつアスペクト比の大きな板状粒子に成長させることが可能な粘土粒子成長技術は開発されていないのが実情であった。
【0009】
【特許文献1】特開2005−104133号公報
【特許文献2】特開2005−313604号公報
【特許文献3】特開平6−316413号公報
【特許文献4】特開昭63−190706号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、粘土微結晶の成長法について鋭意研究を重ねた結果、粘土微結晶を水に懸濁し、その懸濁液を水熱条件下にまで加熱・加圧した後、冷却することにより、粘土鉱物微結晶の結晶サイズが増大することを見出し、この知見に基づいて、更に、懸濁液を構成する溶媒種、固液比、温度条件、水熱処理プロセス等を鋭意検討し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明は、上記従来技術の実情に鑑みてなされたものであって、機械的強度や柔軟性の高い自立膜の製造を可能とする、粒成長させた粘土鉱物粒子の製造方法を提供すること、具体的には、板状粘土粒子の直径が数十nm以上であり、かつアスペクト比(=直径/厚み)の大きな粒子に成長させることを可能とする粘土鉱物粒子の成長技術及びその製品を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)粘土鉱物粒子を人為的に成長させた粘土鉱物粒子であって、成長前後の粒子の直径の比率が1.1から1000倍の範囲にあり、成長後の粘土鉱物粒子が、1)粒子の直径が0.05μmから100μmの範囲である、2)そのアスペクト比が50から1000の範囲である、3)板状の形態を有する、ことを特徴とする粘土鉱物粒子。
(2)粘土鉱物微粒子が、層状粘土鉱物及び/又は層状ポリ珪酸である、前記(1)記載の粘土鉱物粒子。
(3)粘土鉱物粒子を人為的に成長させる方法が、粘土鉱物粒子と水系溶媒により構成される懸濁液を、水熱処理することである、前記(1)記載の粘土鉱物粒子。
(4)成長後の粘土鉱物粒子が、添加物なしで自立膜になる特性を有する、前記(1)記載の粘土鉱物粒子。
(5)前記(1)から(4)のいずれかに記載の粘土鉱物粒子を製造する方法であって、粘土鉱物粒子と水系溶媒により構成される懸濁液を、水熱処理することにより、上記粘土鉱物粒子を得ることを特徴とする粒成長させた粘土鉱物粒子の製造方法。
(6)懸濁液中の粘土鉱物微粒子の割合が、0.001〜30重量パーセントである、前記(5)記載の方法。
(7)水系溶媒が、水又は、エタノール、メタノール、プロパノール及びジオキサンの1種類以上が水と混合してなる溶液である、前記(5)記載の方法。
(8)水熱温度条件が、温度135から500℃の範囲である、前記(5)記載の方法。
(9)水熱処理を、流通法もしくはバッチ法により行う、前記(5)から(8)のいずれかに記載の方法。
(10)水熱処理を、流通法もしくはバッチ法の繰り返し、もしくは流通法とバッチ法の組み合わせによって行う、前記(5)から(9)のいずれかに記載の方法。
(11)バッチ法による水熱処理後の冷却速度が、0.001から0.1℃/秒の範囲である、前記(9)記載の方法。
(12)流通法による水熱処理の冷却速度が、1から50℃/秒の範囲である、前記(9)記載の方法。
(13)前記(1)から(4)のいずれかに記載の粒成長させた粘土鉱物粒子を用いて作製された、高分子を含む膜材。
【0013】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、粘土鉱物微粒子を人為的に成長させた粘土鉱物粒子であって、成長前後の粒子の直径の比率が1.1から1000倍の範囲にある粘土鉱物粒子であり、粒子の直径が0.05μmから100μmの範囲であり、そのアスペクト比が50から1000の範囲であり、板状の形態を有する、ことを特徴とするものである。
【0014】
成長前後の粒子の直径の比率は、次のように定義される。
比率=(成長後の粒子の直径)/(成長前の粒子の直径)
ここで、粒子の直径とは、板状形態を有する粘土粒子を構成する表面のうち、最も大きい面積を有する表面の直径のことであり、結晶学的にはc軸方向と垂直に交わる、a軸とb軸に平行な結晶面の面積の直径を指す。その直径を計測する方法としては、光散乱法によって粒度分布を測定する方法がある。更に、直接的な方法としては、粘土粒子を含んだ縣濁液をディップコートやスピンコート法によって基板上に展開し、粘土粒子を一つ一つ区別できるようにした後、電子顕微鏡や原子間力顕微鏡により、その直径を計測する方法がある。
【0015】
本発明では、粘土鉱物微粒子が、層状粘土鉱物及び/又は層状ポリ珪酸であること、粘土鉱物粒子を人為的に成長させる方法が、粘土鉱物微粒子と水系溶媒により構成される懸濁液を、水熱処理することであること、成長後の粘土鉱物粒子が、添加物なしで自立膜になる特性を有すること、を好ましい実施の態様としている。
【0016】
また、本発明は、粒成長させた粘土鉱物粒子を製造する方法であって、粘土鉱物粒子と水系溶媒により構成される懸濁液を、水熱処理することにより、上記粘土鉱物粒子を得ることを特徴とするものである。また、本発明は、上記の粒成長させた粘土鉱物粒子を用いて作製された、高分子を含む膜材の点に特徴を有するものである。
【0017】
上述のように、本発明の粒子成長法は、粘土鉱物の微粒子を、水系溶媒に分散・懸濁した後、その懸濁液を水熱条件にまで加熱し、更に、一定速度で冷却することを特徴とするものである。本発明に用いる粘土鉱物としては、天然あるいは合成物、好適には、例えば、カオリナイト、ハロイサイト、バイデライト、セリサイト、モンモリロナイト、スメクタイト、ヘクトライト、サポナイト、スティーブンサイト、バーミキュライト、タルク、雲母などの粘土が例示される。
【0018】
また、層状ポリ珪酸としては、好適には、例えば、ケニアイト、マカタイト、カネマイト、マガディアイト、アイラライトなどのポリ珪酸が例示される。これらを1種類ないし混合物を、水系溶媒に懸濁して用いる。水系溶媒としては、好適には、例えば、水、エタノール、メタノール、ジオキサンが例示されるが、これらに制限されるものではない。本発明では、これらの、1種類ないしは2種類以上からなる混合液に粘土鉱物粒子を分散・懸濁する。粘土の分散濃度としては、好適には、0.001から30重量パーセント、更に好適には、0.1から10重量パーセントの範囲内である。
【0019】
粘土鉱物懸濁液を水熱条件まで加熱する方法としては、懸濁液を耐熱容器(オートクレーブ)に封入することによって加熱する方法(バッチ法)、ないしは、懸濁液を、加熱した耐圧配管中を流通させる方法(流通法)が例示される。水熱条件としては、水の臨界点近傍領域の温度と圧力が好ましく、具体的には、温度は、好ましくは、200〜500℃、更に好ましくは、水の臨界温度の近傍である300〜400℃の範囲である。
【0020】
また、圧力は、好ましくは、3〜100MPa、更に好ましくは、10〜50MPaの範囲である。懸濁液が亜臨界温度で加熱されることにより、水系溶媒に対する粘土鉱物の溶解速度が増加し、水熱条件下で、粘土微粒子は溶解すると同時に、これらを核にした高い過飽和条件下で、大きな粒子へと結晶化する。
【0021】
本発明では、他の構造の粘土鉱物の結晶化を避けるために、水熱状態に到達直後、冷却することが好ましいが、再結晶化を促進するために、その状態を1〜5時間程度保持しても良い。粘土鉱物懸濁液を冷却する速度としては、耐熱容器中での加熱法と流通法の場合とで速度が異なり、耐熱容器中での加熱法では、0.1〜0.001℃/秒、流通法では1から50℃/秒の範囲が好ましい。水熱状態で溶解した微結晶が同時に結晶核となって高い過飽和状態の条件下で、溶液からの結晶成長が進行することにより、粒子の粗大化が起きる。
【0022】
結晶成長過程と平行して、水熱処理により結晶端面が活性化され、結晶同士の静電的な凝集も生じる。これらの効果が作用することにより、成長前と比較して、比率にして最大1000倍、粒子径にして最大100μmのフィルム状の凝集粒子を形成する。得られたフィルム状凝集粒子は、板状結晶である粘土鉱物の凝集体であり、その形態は、板状結晶を反映した薄片状の粒子である。
【0023】
本発明により、粘土鉱物微粒子を粒成長させた粘土鉱物粒子を製造し、提供することができる。本発明の粘土鉱物粒子は、アスペクト比の大きな板状形態を保持しながら、数十nm以上の粒子に成長したものであり、有機添加物の添加量を低減させても自立膜を作製することが可能であることから、従来品の膜性能に加えて、高い耐熱性、難燃性を付加した膜材とすることが実現できる利点を有している。
【0024】
本発明の粒成長させた粘土鉱物粒子及び該粘土鉱物粒子を用いて作製された膜材は、粒子の直径が0.05μmから100μm程度の範囲であり、かつアスペクト比が50から1000程度の範囲であり、処理後の粒子サイズは、光散乱法で決定される処理前の直径にして1.1〜100倍に増加すること、フィルム状凝集粒子が形成されることでアスペクト比が増加すること、から、製品を分析することにより、例えば、膜材の断面の構造を観察することにより、処理前の数十nm程度の粘土鉱物微粒子と区別(識別)することが可能である。
【0025】
本発明では、バッチ法、流通法を単独で用いるばかりでなく、両方を組み合わせること、もしくはそれぞれの方法を複数回繰り返すことにより、結晶成長の進行、粒子の粗大化、結晶同士の静電的な凝集等を制御して、生成される粒子の直径の粗大化及び形態を調製することが可能である。
【0026】
本発明では、粘土鉱物懸濁液の調製条件(溶媒種、固液比、温度)、水熱条件(温度、圧力、時間)、冷却条件(温度、時間)等を適宜調節することにより、結晶成長の進行、粒子の粗大化、結晶同士の静電的な凝集の程度を制御して、生成される粒子のサイズ、形態を調整することが可能である。これらの条件については、原料粘土鉱物の種類、生成される粒子の使用目的等に応じて任意に設定することができる。本発明は、原料粘土鉱物粒子の粒子サイズを数十nm以上の板状粒子に成長させる成長方法として高い技術的意義を有する。
【0027】
本発明の水熱処理方法で作製される層状粘土鉱物粒子は、粒子直径が数十nm以上(約0.05μm〜100μm)で、かつ大きなアスペクト比(約50〜1000の範囲)の板状形態を有しているので、その粒子を積層して自立膜を形成した際に、膜の機械的強度や柔軟性が低下することがなく、自立膜を形成することができる。したがって、本発明の粒成長させた粘土鉱物粒子を使用することにより、有機添加物の量を減らし、粘土鉱物の占める割合を増やした自立膜を形成することが可能となり、それにより、膜の機械的強度や柔軟性を低下させることなく、耐熱性、難燃性を高めた自立膜を作製し、提供することを実現することが可能となる。
【0028】
本発明の層状粘土鉱物の粒成長方法は、水熱条件下で、粘土微粒子を溶解させ、それと同時に、溶解した微粒子を過飽和状態のもとで、溶液から結晶化を進行させ、大きな粒子へ結晶成長させることを基本原理とするものである。したがって、本発明は、水熱条件下で溶解し、過飽和状態のもとで、溶液から結晶化することができる層状粘土鉱物であれば、その種類、天然物あるいは合成物の違い等にかかわらず、後記する実施例の方法に準じて粒成長させることが可能であり、本発明は、これらの層状粘土鉱物の全てを適用対象とするものである。
【発明の効果】
【0029】
本発明によって、次のような効果が奏される。
(1)本発明により、粒成長させた板状の粘土鉱物粒子として、数十nm以上(約0.1μmから100μm)の結晶サイズを有し、アスペクト比の高い(約50から1000の範囲)板状形態の薄片状粒子を製造し、提供することができる。
(2)該粘土鉱物粒子からなる膜材料は、自立膜を形成することが可能であり、有機添加物の添加量を低減して、高い耐熱性を付与した、粘土鉱物を主成分とする、機械的強度と柔軟性の優れた膜材を作製し、提供することができる。
(3)このような膜材は、従来のガス遮蔽性に加え、高い耐熱性・難燃性を保有しているため、例えば、高温条件で安定に使用可能な封止材、絶縁材等に利用可能である。
(4)本発明により、層状粘土鉱物粒子を、アスペクト比の大きな板状形態を保持しながら、数十nm以上の粒子に成長させることが可能な層状粘土鉱物の粒子成長方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0031】
(1)スティーブンサイトの水熱処理
スティーブンサイト(製品名:スメクトンST、クニミネ社製)の0.2重量パーセント水溶液250ミリリットルを調製した後、ステンレス内筒に移し変え、耐熱容器中に静置した。該容器を密閉した後、4時間かけて所定の温度にまで昇温した。その後、その温度で10時間保持した。10時間保持後、放冷した。冷却された溶液を回収し、平均粒子直径(Z−average値)を測定した。更に、粒子の透過電子顕微鏡観察を行った。これらの処理を、135、150、200、300、400℃の温度で行い、各温度でそれぞれ4回処理を行った。このときの冷却速度は、0.008から0.02℃/秒の範囲であった。
【0032】
(2)結果
図1に、処理後の溶液の写真を示す。処理前の溶液は白色な縣濁液であるが、処理後の溶液は白濁部分と透明部分に分離した。白濁部分はスティーブンサイトの微粒子が濃縮していると考えられる。処理後の溶液の白濁部分は、処理温度が増加するに従い、下に沈降しているのが分かる。これは、スティーブンサイトの微粒子が粗大化し、粒子の重量が増加し、沈降したためである。
【0033】
水熱処理前後のスティーブンサイトの粒子の平均直径(Z−average値)を、粒子径測定装置(シスメックス社製 ゼータサイザーナノシリーズ Nano−S)により測定した。図2に、水熱処理の条件と処理後の溶液のZ−average値、処理前後の粒子の大きさの比率、透過電顕写真を示す。
【0034】
処理前のスティーブンサイトの平均粒子直径は、36.6nmであった。それに対して、処理後のZ−average値は、処理温度と共に増加し、粘土微粒子の大きさが279から11320nmの範囲で増加した。処理前後の粘土粒子のZ−average値から大きさの比率を計算すると、その値は、8から309倍まで増加した。また、粘土微粒子の電子顕微鏡観察を行ったところ、粒子は板状の形態を保持しつつZ−average値に対応する大きさにまで成長していた。電子顕微鏡像から粒子の厚みを見積もり、アスペクト比(=Z−average値/厚み)を計算したところ、成長後の粒子のアスペクト比は、約50から1000の範囲であった。
【実施例2】
【0035】
(1)ヘクトライトの水熱処理
へクトライト(製品名:ルーセンタイトSWN、コープケミカル社製)の0.2重量パーセント水溶液250ミリリットルを調製した後、ステンレス内筒に移し変え、容積500ミリリットルの耐熱容器に静置した。該容器を密閉した後、3時間かけて400℃にまで昇温した。その後、400℃で3時間保持した。保持中の圧力は、22MPaであった。3時間保持後、20時間かけて73℃にまで放冷した。冷却速度は、0.005℃/秒であった。放冷後、冷却された溶液150mlを回収した。
【0036】
処理後の平均粒子直径(Z−average値)を粒子径測定装置(シスメックス社製 ゼータサイザーナノシリーズ Nano−S)により測定したところ、処理前のへクトライトの平均粒子直径が、62であるの対し、処理後のヘクトライトの平均粒子直径は551nmに増加した。処理前後の粒子直径の比率は、8.9であった。
【0037】
(2)サポナイトの水熱処理
同様の実験を、サポナイト(製品名:スメクトンSA、クニミネ社製)に対して行った。この際、溶液濃度は、0.2重量パーセントであった。容器を密閉した後、4時間かけて所定の温度にまで昇温した。この処理を3回行った。3回の処理中、温度は400℃から417℃の範囲であり、保持時間1もしくは3時間であった。保持中の圧力は、4.8から57MPaの範囲であった。保持後、室温付近まで放冷した。冷却速度は、0.005℃/秒であった。
【0038】
図3に、水熱処理の条件と処理後の溶液のZ−average値、処理前後の粒子の大きさの比率、透過電顕写真を示す。処理後の平均粒子直径(Z−average値)は、処理前のサポナイトの平均粒子直径が90nmであるの対し、処理後のサポナイトの平均粒子直径は、942から1210nmの範囲で増加した。処理前後の直径の比率は、11から14の範囲であった。また、粘土微粒子の電子顕微鏡観察を行ったところ、粒子は板状の形態を保持しつつZ−average値に対応する大きさにまで成長していた。電子顕微鏡像から粒子の厚みを見積もり、成長後の粒子のアスペクト比を計算したところ、約80から120の範囲であった。
【0039】
(3)モンモリロナイトの水熱処理
同様の実験を、モンモリロナイト(製品名:クニピアF、クニミネ社製)に対して行った。この際、溶液濃度は、0.2重量パーセントであった。容器を密閉した後、4時間かけて400℃にまで昇温した。その後、400℃で10時間保持した。10時間保持後、放冷した。冷却された溶液を回収し、平均粒子直径(Z−average値)を測定した。更に、粒子の透過電子顕微鏡観察を行った。これらの処理を、4回処理行った。保持中の圧力は、4.8から57MPaの範囲であり、このときの冷却速度は、0.007から0.02℃/秒の範囲であった。電子顕微鏡像から粒子の厚みを見積もり、成長後の粒子のアスペクト比を計算したところ、約200であった。
【0040】
図4に、水熱処理の条件と処理後の溶液のZ−average値、処理前後の粒子の大きさの比率、透過電顕写真を示す。処理後の平均粒子直径(Z−average値)は、処理前のモンモリロナイトの平均粒子直径が552nmであるの対し、処理後のモンモリロナイトの平均粒子直径は、平均1015nmに増加した。処理前後の直径の比率は、1.8であった。また、粘土微粒子の電子顕微鏡観察を行ったところ、粒子は板状の形態を保持しつつZ−average値に対応する大きさにまで成長していた。
【実施例3】
【0041】
(スティーブンサイト高濃度処理)
スティーブンサイト(製品名:スメクトンST、クニミネ社製)の1及び10重量パーセント水溶液30ミリリットルを調製した後、テフロン(登録商標)内筒に移し変え、密栓し、ステンレス耐熱容器中に静置した。該容器を密閉した後、4時間かけて200℃まで昇温した。その後、その温度で10時間保持した。10時間保持後、放冷した。テフロン(登録商標)内筒から溶液を回収し、0.2重量パーセントに希釈した後、平均粒子直径(Z−average値)を測定した。
【0042】
これらの処理を、各濃度でそれぞれ3回行った。このときの冷却速度は、0.02℃/秒の範囲であった。処理前のスティーブンサイトの平均粒子直径は、36.6nmであったのに対して、得られた平均粒子直径は、1重量パーセント処理で505±59nm、10重量パーセント処理で1564±448nmであった。処理前後の直径の比率は、1重量パーセントと10重量パーセントに対して、それぞれ14と43であった。
【実施例4】
【0043】
へクトライト(製品名:ルーセンタイトSWN、コープケミカル社製)の0.1重量パーセント水溶液を2リットル調製した。その溶液を、液層ポンプを用いて、400℃に加熱されたオーブン内の1/8インチステンレスチューブに導入した。その際、液圧は25MPa、流速50cc/分であり、このステンレスチューブの長さは30mであった。オーブン内の溶液の滞在は約2分であり、オーブン外に排出された溶液は、ステンレスチューブを介して冷却水と接触し、室温付近まで冷却された。冷却速度は、26℃/秒であった。冷却された溶液を500ml回収した。
【0044】
同様の加熱実験を、スティーブンサイト(スメクトンST、クニミネ社製)についても行った。得られた溶液中の粘土粒子の平均直径(Z−average値)を粒子径測定装置(シスメックス社製 ゼータサイザーナノシリーズ Nano−S)を用いて測定したところ、処理前のへクトライトの粒子の平均直径が、62nmであったのに対し、流通加熱後の平均直径は、92nmに増加していた。スティーブンサイトについては、加熱前の平均直径が、それぞれ、36nmであるのに対して、加熱後の平均直径は、73nmに増加した。処理前後の直径の比率は、ヘクトライト、スティーブンサイトに対してそれぞれ、1.5と2.5であった。
【0045】
[比較例1]
水熱処理前のスティーブンサイト(スメクトンST)粉末100mgを蒸留水に縣濁して濃度1パーセントに調整した後、キャスト法により薄膜を調製した。得られた薄膜の写真を図5(1)に示す。スティーブンサイトは基板上に薄膜を形成した。しかしながら、ピンセットで膜を採取することが困難であり、強制的にはがそうとすると、膜が壊れて粉体となった。
【実施例5】
【0046】
(スティーブンサイトの流通試験と成膜)
スティーブンサイト(スメクトンST)の0.1重量パーセント水溶液を調製した。その溶液を、液層ポンプを用いて、400℃に加熱されたオーブン内の1/16インチステンレスチューブに導入した。その際、液圧は25MPa、流速10cc/分であり、このステンレスチューブの長さは50mであった。オーブン内の溶液の滞在は約3分であり、オーブン外に排出された溶液は、ステンレスチューブを介して冷却水と接触し、室温付近まで冷却された。冷却速度は、26℃/秒であった。回収された溶液は500mlであった。流通処理後溶液中のスティーブンサイトの平均直径を測定したところ、90.3nmであった。流通処理前のスティーブンサイトの平均直径は55.1nmであり、処理前後の直径の比率は、1.6倍であった。
【0047】
得られた溶液から溶媒を除去し、スティーブンサイトの粉末を得た。得られた粉末100mgを再度蒸留水に縣濁して濃度1パーセントに調整した後、キャスト法により薄膜を調製した。得られた薄膜の写真を図5(2)に示す。処理後のスティーブンサイトは基板上で薄膜を形成し、更にピンセットで採取することが可能であった。ピンセットで採取後も折り曲げられた状態で膜の形態を保持していた。
【実施例6】
【0048】
(スティーブンサイトの多段流通試験)
スティーブンサイト(スメクトンST)の0.1重量パーセント水溶液を2リットル調製した。その溶液を、液層ポンプを用いて、400℃に加熱されたオーブン内の1/16インチステンレスチューブに導入した。その際、液圧は25MPa、流速10cc/分であり、このステンレスチューブの長さは50mであった。オーブン内の溶液の滞在時間は約3分であり、オーブン外に排出された溶液は、ステンレスチューブを介して冷却水と接触し、室温付近まで冷却された。冷却速度は、26℃/秒であった。
【0049】
得られた溶液に対して上記条件で流通処理を再度、再々度繰り返した。1、2、3回目処理で得られた溶液の量は、それぞれ270、460、470mlであった。溶液中のスティーブンサイトの平均直径を測定したところ、1、2、3回目処理に対して、それぞれ、76.5、96.7、105nmであった。流通処理前のスティーブンサイトの平均直径は55.1nmであり、処理前後の直径比を求めると、それぞれ、1.4、1.8、1.9倍であった。
【実施例7】
【0050】
上記実施例2で作製した水熱処理のサポナイト(スメクトンSA)及びヘクトライト(ルーセンタイトSWN)の懸濁溶液を遠心分離した後、少量の蒸留水を加えてゲル状態にした後、キャスト法により自立膜を作製した。その結果、膜の機械的強度と柔軟性の高い自立膜を形成することができた。
【0051】
[参考例1]
実施例1の300と400℃の水熱処理で得られたスティーブンサイト粒子の端面の電子顕微鏡写真を、処理前のスティーブンサイト粒子及びモンモリロナイト粒子の端面の電子顕微鏡写真と比較した(図6)。モンモリロナイトは、自立膜を容易に形成する粘土鉱物として知られている。その端面は、マイクロオーダーの板状微粒子が積層しており、かつそれらの層が曲がりくねるように変形している。このような褶曲構造が、膜の強度を向上させ、自立性と柔軟性を発現させていると考えられる。
【0052】
それに対して、処理前のスティーブンサイト粒子の端面は、微細な微粒子が緻密に積層した断面を形成しているため、外部からの力によって容易に粒子間に亀裂が生じやすく、膜の強度は高くない。一方、300及び400℃での水熱処理後のスティーブンサイト粒子の端面では、処理前と比較して微粒子のサイズが大きくなり、かつ層が曲がりくねるように変形していることが観察される。この構造は、モンモリロナイトの端面構造と類似しており、水熱処理後のスティーブンサイト粒子が自立膜を形成しやすくなっていることが分かる。
【0053】
[参考例2]
実施例5で得たスティーブンサイト粉末を0.051gとり、それを10mlのスクリュー管に移し、そこへ蒸留水10.25gを加えた。スターラーで1時間30分、800rpmで攪拌し、十分に分散させた。その後、ポリアクリル酸ナトリウムを0.0137g加え、スターラーのプレート温度を110℃とし、更に1時間30分攪拌した。攪拌終了後、真空脱泡し、ペーストを底面4cm×4cm、高さ5mmのテフロン(登録商標)枠を貼り付けたFEPシート上へ流し込み、自然乾燥させた。図7に見られるように、自立性のある光透過性の粘土高分子コンポジット膜を形成できた。
【産業上の利用可能性】
【0054】
以上詳述したように、本発明は、層状粘土鉱物微粒子を粒成長させた粘土鉱物粒子及びその製造方法に係るものであり、本発明により、アスペクト比が高く、数十nm以上の結晶サイズを有する薄片状粒子を製造し、提供することができる。本発明の粘土鉱物粒子は、従来品の膜性能に加えて、特に、高い耐熱性と難燃性を付与した膜材に形成することが可能であり、例えば、高温条件で安定に使用可能な封止材、絶縁材等を製造し、提供することができる。本発明は、層状粘土鉱物粒子を、アスペクト比の大きな板状形態を保持しながら、数十nm以上の粒子に成長させることを可能とする層状粘土鉱物の粒成長技術及びそれにより層状粘土鉱物の機械的特性を制御する技術を提供するものとして高い技術的意義を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】水熱処理前後の溶液写真(左から処理前、200℃、300℃、400℃水熱処理後)を示す。
【図2】水熱処理前後のスティーブンサイトの平均粒径、処理前後の粒子の平均直径の比率及び粒子の透過電子顕微鏡写真を示す。
【図3】水熱処理前後のサポナイトの平均粒径、処理前後の粒子の平均直径の比率及び粒子の透過電子顕微鏡写真を示す。
【図4】水熱処理前後のモンモリロナイトの平均粒径、処理前後の粒子の平均直径の比率及び粒子の透過電子顕微鏡写真を示す。
【図5】流通処理前後のスティーブンサイト粒子から得られた薄膜の写真を示す。(1):流通処理前のスティーブンサイトから得られた薄膜、(2):流通後のスティーブンサイトから得られた薄膜。
【図6】水熱処理前後のスティーブンサイト及びモンモリロナイトの電子顕微鏡観察像を示す。(1):モンモリロナイト、(2):水熱処理前のスティーブンサイト、(3):300℃水熱処理後のスティーブンサイト、(4):400℃水熱処理後のスティーブンサイト。
【図7】ポリアクリル酸と流通処理を行ったスティーブンサイトからなる粘土高分子コンポジット膜の写真を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘土鉱物粒子を人為的に成長させた粘土鉱物粒子であって、成長前後の粒子の直径の比率が1.1から1000倍の範囲にあり、成長後の粘土鉱物粒子が、(1)粒子の直径が0.05μmから100μmの範囲である、(2)そのアスペクト比が50から1000の範囲である、(3)板状の形態を有する、ことを特徴とする粘土鉱物粒子。
【請求項2】
粘土鉱物微粒子が、層状粘土鉱物及び/又は層状ポリ珪酸である、請求項1記載の粘土鉱物粒子。
【請求項3】
粘土鉱物粒子を人為的に成長させる方法が、粘土鉱物粒子と水系溶媒により構成される懸濁液を、水熱処理することである、請求項1記載の粘土鉱物粒子。
【請求項4】
成長後の粘土鉱物粒子が、添加物なしで自立膜になる特性を有する、請求項1記載の粘土鉱物粒子。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の粘土鉱物粒子を製造する方法であって、粘土鉱物粒子と水系溶媒により構成される懸濁液を、水熱処理することにより、上記粘土鉱物粒子を得ることを特徴とする粒成長させた粘土鉱物粒子の製造方法。
【請求項6】
懸濁液中の粘土鉱物微粒子の割合が、0.001〜30重量パーセントである、請求項5記載の方法。
【請求項7】
水系溶媒が、水又は、エタノール、メタノール、プロパノール及びジオキサンの1種類以上が水と混合してなる溶液である、請求項5記載の方法。
【請求項8】
水熱温度条件が、温度135から500℃の範囲である、請求項5記載の方法。
【請求項9】
水熱処理を、流通法もしくはバッチ法により行う、請求項5から8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
水熱処理を、流通法もしくはバッチ法の繰り返し、もしくは流通法とバッチ法の組み合わせによって行う、請求項5から9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
バッチ法による水熱処理後の冷却速度が、0.001から0.1℃/秒の範囲である、請求項9記載の方法。
【請求項12】
流通法による水熱処理の冷却速度が、1から50℃/秒の範囲である、請求項9記載の方法。
【請求項13】
請求項1から4のいずれかに記載の粒成長させた粘土鉱物粒子を用いて作製された、高分子を含む膜材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2007−308361(P2007−308361A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−107648(P2007−107648)
【出願日】平成19年4月16日(2007.4.16)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】