説明

粒状炭酸バリウム組成物粉末

【課題】水性媒体への分散性が高い炭酸バリウム粉末を提供する。
【解決手段】側鎖にポリオキシアルキレン基を有するポリカルボン酸もしくはその無水物からなるポリマーが表面に付着している、BET比表面積が30m2/g以上で、一次粒子の投影面積円相当径の平均が5〜50nmであり、該投影面積円相当径の変動係数が40%以内にある粒状炭酸バリウム組成物粉末。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性媒体への分散性が高い粒状炭酸バリウム組成物粉末及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭酸バリウム粉末の用途の一つとして、チタン酸バリウム粉末などの誘電体セラミック粉末の製造原料の用途がある。誘電体セラミック粉末は、積層セラミックコンデンサの誘電体セラミック層の構成材料として利用されている。
【0003】
電子機器の小型化に伴って、積層セラミックコンデンサにおいても小型化が求められている。積層セラミックコンデンサの小型化のためには、積層セラミックコンデンサの誘電体セラミック層の薄層化が必要となる。この誘電体セラミック層の薄層化のためには、微細な誘電体セラミック粉末が不可欠である。
【0004】
微細なチタン酸バリウム粉末を製造するには、微細で、かつ反応性の高い、すなわちBET比表面積の大きい二酸化チタン粉末や炭酸バリウム粉末が必要となる。
【0005】
BET比表面積の大きい炭酸バリウム粉末を製造する方法として、特許文献1には、炭酸バリウムスラリーと粒状媒体との混合物を、好ましくは多価アルコール、アスコルビン酸、ピロリン酸、カルボン酸及びカルボン酸塩から選ばれる粒子成長抑制剤の存在下にて粒状媒体が高速で流動する状態で流動処理する方法が開示されている。この特許文献1には、上記の方法を利用することによって、BET比表面積が5〜50m2/g、レーザー
回折法により求められる平均粒径が0.01〜1.0μmの炭酸バリウム粉末が得られる旨の記載がある。なお、特許文献1には、粒子成長抑制剤として用いることができるカルボン酸及びカルボン酸塩の例として、クエン酸、カルボキシメチルセルロース、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、リンゴ酸、マレイン酸、酒石酸、アジピン酸、アクリル酸、ポリカルボン酸、ポリアクリル酸、及びこれらのナトリウム塩、アンモニウム塩の記載がある。
【0006】
一方、微細な二酸化チタン粉末の製造方法としては、特許文献2に硫酸チタニルを水とアルコールとの混合溶液に溶解した後、その溶液を加熱還流する方法が開示されている。この特許文献2によれば、この方法を利用することによって、平均粒子径で5.5〜12.0nmのナノオーダーの二酸化チタン粉末が得られるとされている。
【特許文献1】特開2004−59372号公報
【特許文献2】特開平11−1321号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記特許文献1に開示されているように、炭酸バリウム粉末を水性媒体中にて粒状媒体を用いて粉砕処理することによって、微細な炭酸バリウム粒子を得ることは可能である。しかしながら、炭酸バリウム粒子は微細になるに伴って凝集性が強くなり、凝集粒子を形成し易くなる傾向がある。このため、水性媒体中にて得られた微細な炭酸バリウム粒子を一旦乾燥して粉末にすると、微細な微粒子として水性溶媒に再分散させることが難しくなることがある。特に、チタン酸バリウム粉末の製造においては、二酸化チタン粉末と炭酸バリウム粉末とを湿式混合法により混合することが一般的に行なわれている。従って、チタン酸バリウム粉末の原料として用いる炭酸バリウム粉末は、水性媒体への分散性が高い方が好ましい。
従って、本発明の目的は、水性媒体への分散性が高い炭酸バリウム粉末及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、側鎖にポリオキシアルキレン基を有するポリカルボン酸もしくはその無水物からなるポリマーが表面に付着している、BET比表面積が30m2/g以上で、一次粒子の投影面積円相当径の平均が5〜50nmであり、該投影面積円相当径の変動係数が40%以内にある粒状炭酸バリウム組成物粉末にある。投影面積円相当径は、市販の画像解析ソフトウェアを用いて、電子顕微鏡写真に撮された個々の一次粒子の画像を解析することにより求めることができる。
【0009】
本発明の粒状炭酸バリウム組成物粉末の好ましい態様は次の通りである。
(1)ポリマーが側鎖にポリオキシアルキレン基を有するポリカルボン酸無水物である。(2)上記のポリカルボン酸無水物が無水マレイン酸の重合体からなる。
(3)BET比表面積が30〜50m2/gの範囲にある。
(4)一次粒子のアスペクト比の平均が2以下である。
(5)測定対象の粉末0.5gを濃度0.2質量%のヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液50mLに投入し、次いで超音波ホモジナイザーにより出力80Wで5分間分散処理することにより調製した懸濁液に含まれる粒子のレーザー回折散乱法により測定された体積基準の粒度分布から求められる体積基準の平均粒子径が0.5μm以下であって、粒子径が1μm以上の粒子の含有率が10体積%以下である。
(6)測定対象の粉末0.5gを濃度0.2質量%のヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液50mLに投入し、次いで超音波ホモジナイザーにより出力80Wで5分間分散処理することにより調製した懸濁液とした場合に、その懸濁液の波長600nmにおける吸光度が1.00以下である。
【0010】
本発明はまた、BET比表面積が30m2/g以上の炭酸バリウム粉末を水性媒体中にて、平均粒子径が10〜1000μmの範囲にある粒状媒体を用いて、側鎖にポリオキシアルキレン基を有するポリカルボン酸もしくはその無水物からなるポリマーの存在下にて10分以上粉砕し、次いで乾燥することからなる上記本発明の粒状炭酸バリウム組成物粉末の製造方法にもある。
【0011】
本発明の粒状炭酸バリウム組成物粉末の製造方法における好ましい態様は次の通りである。
(1)炭酸バリウム粉末が、液温が5〜15℃の範囲にあり、水酸化バリウム濃度が3〜20質量%の範囲にある水酸化バリウム水性懸濁液を撹拌しながら、該懸濁液に二酸化炭素ガスを、クエン酸の存在下にて、該懸濁液中の水酸化バリウム1gに対して0.5〜20mL/分の範囲の流量にて導入することにより、水酸化バリウムを炭酸化させて炭酸バリウム粒子を生成させることにより製造されたものである。
(2)側鎖にポリオキシアルキレン基を有するポリカルボン酸もしくはその無水物からなるポリマーを、炭酸バリウム水性懸濁液の固形分に対して0.1〜20質量%の範囲にて存在させる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の粒状炭酸バリウム組成物粉末は、従来の炭酸バリウム粉末と比べて微細で、かつ工業的に実用性の高い分散方法を用いて、一次粒子もしくはそれに近い微粒子として水性媒体に分散させることができる。従って、本発明の粒状炭酸バリウム組成物粉末を、湿式混合法を用いて、他の無機物微粉末と混合することにより、容易に均一な粉末混合物を得ることができる。
また、本発明の粒状炭酸バリウム組成物粉末の製造方法を利用することにより、微細でかつ水性媒体への分散性の高い粒状炭酸バリウム組成物粉末を工業的に容易に製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の粒状炭酸バリウム組成物粉末は、一次粒子のサイズが投影面積円相当径の平均として5〜50nmの範囲にあり、その投影面積円相当径の平均に対する変動係数が40%以内にある。
本発明において、投影面積円相当径(ヘイウッド径ともいう)は、粒子の投影面積と同じ面積を持つ円の直径を意味する。一次粒子の投影面積円相当径は、電子顕微鏡写真の画像解析、すなわち電子顕微鏡写真に写された個々の一次粒子毎に投影面積を求めて、その投影面積と同じ面積を持つ円の直径を算出することにより求めることができる。変動係数は、投影面積円相当径の標準偏差を投影面積円相当径の平均値で割った値の百分率を意味する。一次粒子の投影面積円相当径の平均は、5〜30nmの範囲にあることが好ましく、5〜25nmの範囲にあることが特に好ましい。一次粒子の投影面積円相当径の平均に対する変動係数は、35%以内にあることが好ましい。
【0014】
本発明の粒状炭酸バリウム組成物粉末は、その表面に、側鎖にポリオキシアルキレン基を有するポリカルボン酸もしくはその無水物からなるポリマーが付着している。このポリマーは、側鎖のポリオキシアルキレン基が親水性であるため、粒状炭酸バリウム組成物粉末の水性媒体への分散性を向上させる効果がある。粒状炭酸バリウム組成物粉末の表面に付着しているポリマーは、側鎖にポリオキシアルキレン基を有するポリカルボン酸無水物であることが好ましい。ポリカルボン酸無水物は、無水マレイン酸の重合体からなることが好ましい。側鎖にポリオキシアルキレン基を有するポリカルボン酸無水物の例としては、日本油脂株式会社製のマリアリムAKM−0531、マリアリムAKM−1511−60、マリアリムHKM−50A、マリアリムHKM−150Aを挙げることができる。粒状炭酸バリウム組成物粉末の表面に上記のポリマーが付着していることは、フーリエ変換赤外分光測定装置(FT−IR)を用いて、組成物粉末表面の赤外吸収スペクトルにより確認することができる。
【0015】
本発明の粒状炭酸バリウム組成物粉末は、一次粒子が立方体状もしくは球状又はこれらに近い形状であることが好ましい。一次粒子のアスペクト比(長径/短径)の平均は、2以下であることが好ましい。アスペクト比は、粒子の外郭に接するように、かつその面積が最も小さくなるように描いた長方形の長辺と短辺との比を意味する。
【0016】
本発明の粒状炭酸バリウム組成物粉末は、BET比表面積が30m2/g以上の炭酸バリウム粉末を水性媒体中にて、平均粒子径が10〜1000μmの範囲にある粒状媒体を用いて、側鎖にポリオキシアルキレン基を有するポリカルボン酸もしくはその無水物からなるポリマーの存在下にて10分以上粉砕し、次いで乾燥することからなる方法により製造することができる。
【0017】
BET比表面積が30m2/g以上の炭酸バリウム粉末は、液温が5〜15℃の範囲にあり、水酸化バリウム濃度が3〜20質量%の範囲にある水酸化バリウム水性懸濁液を撹拌しながら、該懸濁液に二酸化炭素ガスを、クエン酸の存在下にて、該懸濁液中の水酸化バリウム1gに対して0.5〜20mL/分の範囲の流量にて導入することにより、水酸化バリウムを炭酸化させて炭酸バリウム粒子を生成させることにより製造することができる。
【0018】
水酸化バリウム懸濁液の水酸化バリウム濃度は、3〜10質量%の範囲にあることが好ましい。水酸化バリウム懸濁液に添加するクエン酸の量は、生成する炭酸バリウム粒子に対して3〜10質量%の範囲であることが好ましく、3〜7質量%の範囲にあることがより好ましい。
【0019】
水酸化バリウム懸濁液に導入する二酸化炭素ガスの流量は、懸濁液中の水酸化バリウム1gに対して0.5〜20mL/分の範囲、好ましくは0.5〜10mL/分の範囲となる流量である。二酸化炭素ガスは、単独で水酸化バリウム懸濁液に導入してもよいし、窒素、アルゴン、酸素及び空気などの水酸化バリウムに対して不活性なガスとの混合ガスとして水酸化バリウム懸濁液に導入してもよい。水酸化バリウムの炭酸化の終点は、懸濁液のpHが7以下となった時点とすることができる。
【0020】
水酸化バリウムの炭酸化により生成した炭酸バリウム粒子は、ろ過、デカンテーションあるいは遠心分離などの通常の方法により懸濁液から分離して、水などで洗浄した後、乾燥することができる。また、懸濁液を直接噴霧乾燥してもよい。
【0021】
本発明では、上記のようにして得た炭酸バリウム粒子を水性媒体中にてセラミック製ビーズを用いて、側鎖にポリオキシアルキレン基を有するポリカルボン酸もしくはその無水物からなるポリマーの存在下で粉砕し、次いで乾燥することによって、微細な炭酸バリウム粉末を製造する。
【0022】
炭酸バリウム粒子の粉砕に用いる炭酸バリウム水性懸濁液は、炭酸バリウム粒子が水性媒体に、全体量に対する固形分量として5〜40質量%の範囲となる量にて分散されていることが好ましい。
【0023】
側鎖にポリオキシアルキレン基を有するポリカルボン酸もしくはその無水物からなるポリマーの添加量は、炭酸バリウム水性懸濁液の固形分に対して0.5〜20質量%、特に1〜10質量%となる範囲であることが好ましい。
【0024】
炭酸バリウム粒子の粉砕に用いる炭酸バリウム水性懸濁液は、水酸化バリウム懸濁液の炭酸化により得られた炭酸バリウム懸濁液をそのまま、あるいは濃縮して用いてもよい。また、水酸化バリウム懸濁液の炭酸化により得られた炭酸バリウム懸濁液を一旦乾燥させ、炭酸バリウム粉末として、この炭酸バリウム粉末を再度、水性媒体に分散させて調製してもよい。
【0025】
セラミック製ビーズとしては、酸化ジルコニウムビーズや酸化アルミニウムビーズなどの通常の粉砕操作に用いられる公知のビーズを用いることができる。ビーズの平均粒子径は、一般に10〜1000μm、特に30〜500μmの範囲にあることが好ましい。
【0026】
粉砕装置には、通常の粒子の粉砕に用いられる公知のメディアミルを用いることができる。メディアミルを用いて炭酸バリウム粒子を粉砕する際のビーズ撹拌羽根の周速は3〜15m/分の範囲にあることが好ましく、5〜9m/分の範囲にあることが特に好ましい。
【0027】
粉砕時間は、炭酸バリウム水性懸濁液の炭酸バリウム濃度やセラミック製ビーズの平均粒子径などの要因により異なるが、ミル内の滞留時間で通常は1〜200分、好ましくは10〜100分である。側鎖にポリオキシアルキレン基を有するポリカルボン酸もしくはその無水物からなるポリマーは、粉砕の開始前、あるいは粉砕の途中で炭酸バリウム水性懸濁液に添加することができる。
【0028】
粉砕後の炭酸バリウム水性懸濁液は、懸濁液の乾燥に通常用いられる装置を用いて乾燥することができるが、スプレードライヤあるいはドラムドライヤを用いて乾燥することが好ましい。
【0029】
本発明の粒状炭酸バリウム組成物粉末は、従来の炭酸バリウム粉末と比べて、一次粒子が微細で、かつ粒子サイズが揃ったものである。このため、本発明の粒状炭酸バリウム組成物粉末を、超音波分散などの工業的に実用性の高い分散方法を用いて水性媒体に分散させると、炭酸バリウムが一次粒子もしくはそれに近い微粒子として分散した炭酸バリウム懸濁液を得ることができる。例えば、本発明の粒状炭酸バリウム組成物粉末0.5gを濃度0.2質量%のヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液50mLに投入し、次いで超音波ホモジナイザーにより出力80Wで5分間分散処理することにより調製した懸濁液は、レーザー回折散乱法によって測定された体積基準の粒度分布から求められる体積基準の平均粒子径が、通常は0.5μm以下、好ましくは0.3μm以下で、粒子径が1μm以上の粒子の含有率が、通常は10体積%以下、好ましくは5体積%以下であり、凝集粒子が少ない。このため、その炭酸バリウム懸濁液は、波長600nmにおける吸光度が1.00以下、特に0.10〜0.90の範囲と小さい値を示す。なお、上記の方法により求められる体積基準の平均粒子径は、一次粒子の投影面積円相当径の平均の1〜20倍の範囲にあることが好ましく、1〜10倍の範囲にあることが特に好ましい。
【0030】
以上のように本発明の粒状炭酸バリウム組成物粉末は、微細で、かつ水性媒体への分散性が高いため、湿式混合法などの通常の方法を用いて、二酸化チタンなどの他の無機物粉末と均一に混合することができる。従って、本発明の粒状炭酸バリウム組成物粉末は、微細で、かつ組成が均一なことが要求されるチタン酸バリウムなどの誘電体セラミック粉末の原料粉末として有利に使用することができる。
【実施例】
【0031】
[実施例1]
冷却装置付き反応容器に、純水3000gを投入し、水温を10℃に調節した後、純水にクエン酸・1水和物13.9gと、水酸化バリウム・8水和物404.8gとを加えて混合して、水酸化バリウム濃度6.4質量%、クエン酸濃度0.37質量%(生成する炭酸バリウムに対して5質量%)の水酸化バリウム懸濁液を調製した。
この水酸化バリウム懸濁液の液温を10℃にした後、ポリテトラフルオロエチレン製撹拌翼にて400rpmの回転速度で撹拌しながら、懸濁液に二酸化炭素ガスを0.5L/分(水酸化バリウム1gに対して2.3mL/分)の流量にて、懸濁液のpHが7.0になるまで導入して、水酸化バリウムを炭酸化させて、炭酸バリウム粒子の懸濁液を製造した。なお、二酸化炭素ガス導入中は、懸濁液の液温は10℃に調節した。得られた炭酸バリウム粒子の懸濁液の一部を取り出して、ろ過し、水洗した後、乾燥した。得られた炭酸バリウム粉末のBET比表面積は、53.3m2/gであった。また、得られた炭酸バリウム粉末を電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM、(株)日立ハイテクノロジーズ製S−4800)を用いて観察したところ、炭酸バリウム粉末の粒子形状は針状であることが確認された。
【0032】
得られた炭酸バリウム水性懸濁液を、メディアミルに投入し、直径300μmの酸化ジルコニウム製ビーズを用いて、ビーズ充填量80体積%、ローター周速7.0m/秒の条件にて、炭酸バリウム粒子を粉砕した。滞留時間が30分を経過した時点で、側鎖にポリオキシアルキレン基を有するポリカルボン酸無水物からなるポリマー分散剤(日本油脂(株)製、マリアリムAKM−1511−60)を懸濁液中の固形分に対して8質量%となる量にて添加して、さらに同じ条件で滞留時間が60分間となるまで粉砕処理した。次いで、粉砕処理終了後の炭酸バリウム水性懸濁液を、スプレードライヤにて乾燥した。
【0033】
粉砕処理終了後の炭酸バリウム懸濁液を、ドラムドライヤにて乾燥して、炭酸バリウム粉末を得た。得られた炭酸バリウム粉末の表面をフーリエ変換赤外分光測定装置(FT−IR)を用いて1回反射ATR法(ダイヤモンド45°、分解能4cm-1)にて分析した。その結果、側鎖にポリオキシアルキレン基を有するポリカルボン酸無水物からなるポリマー分散剤に起因する赤外吸収ピークが検出され、炭酸バリウム粉末は表面に、側鎖にポリオキシアルキレン基を有するポリカルボン酸無水物からなるポリマー分散剤が付着している組成物粉末であることが確認された。
【0034】
得られた炭酸バリウム粉末をFE−SEMを用いて観察した。その結果、炭酸バリウム粉末の粒子形状は粒状であることが確認された。FE−SEM写真から画像解析ソフトウェア((株)マウンテック製、MacView ver3.5)を用いて、一次粒子の投影面積円相当径とアスペクト比を測定した結果、投影面積円相当径の平均は30nmであり、その投影面積円相当径の平均に対する変動係数は20.5%であり、そしてアスペクト比の平均は1.31であった。また、得られた炭酸バリウム粉末のBET比表面積は39.3m2/gであった。
【0035】
上記の粒状炭酸バリウム組成物粉末0.5gと濃度0.2質量%のヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液50mLとを、容量100mLのガラス製ビーカに投入し、超音波ホモジナイザー(US−300T、定格出力:300W、直径26mmチップ使用、(株)日本精機製作所製)に出力80W(電流値:300μA)で5分間分散処理を行なって粒状炭酸バリウム組成物懸濁液を調製した。そして、該懸濁液に含まれる炭酸バリウム粒子の体積基準の粒度分布と吸光度とを測定した。その結果、体積基準の粒度分布から求めた平均粒子径は0.14μm、粒子径が1μm以上の粒子の含有率は3.7体積%であり、吸光度は0.80であった。この結果から、該懸濁液には、微細な炭酸バリウム組成物粒子が均一に分散していることが確認された。
【0036】
[粒度分布の測定方法]
粒状炭酸バリウム組成物懸濁液を、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置[日機装(株)製、マイクロトラック粒度分布測定装置9320HRA(X−100)]に投入し、体積基準の粒度分布を測定する。
【0037】
[吸光度の測定方法]
粒状炭酸バリウム組成物懸濁液と濃度0.2質量%のヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液とを、それぞれ開口径1×1cmの石英製吸光度測定用角柱セルに投入して、分光光度計((株)日立ハイテクノロジーズ製、分光光度計U−2800)を用いて波長600nmの吸光度を測定し、粒状炭酸バリウム組成物懸濁液の吸光度から濃度0.2質量%のヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液の吸光度を引いた値を求める。
【0038】
[比較例1]
側鎖にポリオキシアルキレン基を有するポリカルボン酸無水物からなるポリマー分散剤の代わりに、ポリカルボン酸アンモニウム分散剤(サンノプコ(株)製、SNディスパーサント5468)を懸濁液の固形分に対して8質量%となるように添加する以外は、実施例1と同様にして炭酸バリウム粉末を製造した。
【0039】
得られた炭酸バリウム粉末の表面を実施例1と同様にFT−IRを用いて1回反射ATR法にて分析した。その結果、ポリカルボン酸アンモニウム分散剤に起因する赤外吸収ピークが検出され、炭酸バリウム粉末の表面に、ポリカルボン酸アンモニウム分散剤が付着していることが確認された。
【0040】
得られた炭酸バリウム粉末をFE−SEMを用いて観察した。その結果、炭酸バリウム粉末の粒子形状は粒状であることが確認された。FE−SEM写真から画像解析ソフトウェアを用いて、一次粒子の投影面積円相当径とアスペクト比を測定した結果、投影面積円相当径の平均は30nmであり、その投影面積円相当径の平均に対する変動係数は22.0%であり、そしてアスペクト比の平均は1.31であった。また、得られた炭酸バリウム粉末のBET比表面積は80.0m2/gであった。
【0041】
上記の粒状炭酸バリウム組成物粉末0.5gと濃度0.2質量%のヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液50mLとを、容量100mLのガラス製ビーカに投入し、実施例1と同様に分散処理を行なって粒状炭酸バリウム組成物懸濁液を調製した。そして、該懸濁液に含まれる炭酸バリウム粒子の体積基準の粒度分布と吸光度とを実施例1と同様に測定した。その結果、体積基準の粒度分布から求めた平均粒子径は9.87μm、粒子径が1μm以上の粒子の含有率は100体積%であり、吸光度は1.70であった。この結果から、該懸濁液には、炭酸バリウム組成物粒子が大きな凝集体を形成して分散していることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
側鎖にポリオキシアルキレン基を有するポリカルボン酸もしくはその無水物からなるポリマーが表面に付着している、BET比表面積が30m2/g以上で、一次粒子の投影面積円相当径の平均が5〜50nmであり、該投影面積円相当径の変動係数が40%以内にある粒状炭酸バリウム組成物粉末。
【請求項2】
ポリマーが、側鎖にポリオキシアルキレン基を有するポリカルボン酸無水物である請求項1に記載の粒状炭酸バリウム組成物粉末。
【請求項3】
ポリカルボン酸無水物が無水マレイン酸の重合体からなる請求項2に記載の粒状炭酸バリウム組成物粉末。
【請求項4】
BET比表面積が30〜50m2/gの範囲にある請求項1に記載の粒状炭酸バリウム
組成物粉末。
【請求項5】
一次粒子のアスペクト比の平均が2以下である請求項1に記載の粒状炭酸バリウム組成物粉末。
【請求項6】
測定対象の粉末0.5gを濃度0.2質量%のヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液50mLに投入し、次いで超音波ホモジナイザーにより出力80Wで5分間分散処理することにより調製した懸濁液に含まれる粒子のレーザー回折散乱法により測定された体積基準の粒度分布から求められる体積基準の平均粒子径が0.5μm以下であって、粒子径が1μm以上の粒子の含有率が10体積%以下である請求項1に記載の粒状炭酸バリウム組成物粉末。
【請求項7】
測定対象の粉末0.5gを濃度0.2質量%のヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液50mLに投入し、次いで超音波ホモジナイザーにより出力80Wで5分間分散処理することにより調製した懸濁液とした場合に、その懸濁液の波長600nmにおける吸光度が1.00以下である請求項1に記載の粒状炭酸バリウム組成物粉末。
【請求項8】
BET比表面積が30m2/g以上の炭酸バリウム粉末を水性媒体中にて、平均粒子径が10〜1000μmの範囲にある粒状媒体を用いて、側鎖にポリオキシアルキレン基を有するポリカルボン酸もしくはその無水物からなるポリマーの存在下にて10分以上粉砕し、次いで乾燥することからなる請求項1に記載の粒状炭酸バリウム組成物粉末の製造方法。
【請求項9】
炭酸バリウム粉末が、液温が5〜15℃の範囲にあり、水酸化バリウム濃度が3〜20質量%の範囲にある水酸化バリウム水性懸濁液を撹拌しながら、該懸濁液に二酸化炭素ガスを、クエン酸の存在下にて、該懸濁液中の水酸化バリウム1gに対して0.5〜20mL/分の範囲の流量にて導入することにより、水酸化バリウムを炭酸化させて炭酸バリウム粒子を生成させることにより製造されたものである請求項8に記載の粒状炭酸バリウム組成物粉末の製造方法。
【請求項10】
側鎖にポリオキシアルキレン基を有するポリカルボン酸もしくはその無水物からなるポリマーを、炭酸バリウム水性懸濁液の固形分に対して0.1〜20質量%の範囲にて存在させる請求項8に記載の粒状炭酸バリウム組成物粉末の製造方法。

【公開番号】特開2008−266134(P2008−266134A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−83944(P2008−83944)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000119988)宇部マテリアルズ株式会社 (120)
【Fターム(参考)】