説明

粒間スペースが長くなった形質転換植物

【課題】粒間スペースが増加した植物の製造方法、粒間スペースが増加した植物を再生し得る細胞、該細胞より再生された粒間スペースが増加した植物体などを提供することを課題とする。
【解決手段】SG1遺伝子を過剰発現する植物を作成し、粒間スペースを野生型と比較した。その結果、形質転換体では野生型と比較し粒間スペースが短くなっていることが確認された。なお粒間スペースの測定は、本発明者らが開発した粒間スペースを簡便に測定できるソフトウエアを用いて行った。次に本発明者らは、SG1遺伝子及びその相同遺伝子であるSGL2遺伝子が粒間スペースの決定に関与しているのではないかと考え、SG1遺伝子およびSGL2遺伝子の両方の発現が抑制された植物体を作成し、粒間スペースの測定を試みた。その結果、これら2遺伝子の発現が抑制された植物体は野生型と比較し、粒間スペースが増加していることが確認された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SG1遺伝子の発現を阻害する物質及びSGL2遺伝子の発現を阻害する物質の導入による粒間スペースが増加した植物の製造方法、粒間スペースが増加した植物を再生し得る細胞、該細胞より再生された粒間スペースが増加した植物体などに関する。
【背景技術】
【0002】
イネ科穀物を育種する際に、イネの粒のサイズ及び穂における粒の密度は重要な要因で、これまで様々な研究がなされてきた。イネの粒のサイズに関しては、イネのブラシノステロイド(BR)生合成変異体brd1, d2, d11, brd2等の解析によりBRの欠損は粒サイズを小さくすることが明らかになっている(Mori et al., 2002(非特許文献1), Hong et al.,2003(非特許文献2), Tanabe et al., 2005(非特許文献3), Hong et al., 2005(非特許文献4))。またBRシグナル伝達に関与していると考えられるイネ3量体Gタンパク質のαサブユニットの欠損であるd1変異体も粒サイズが小さくなることが知られている(Oki et al., 2009(非特許文献5))。一方BRシグナル伝達因子であるBU1の過剰発現体は粒サイズを大きくすることが報告されている(Tanaka et al., 2009(非特許文献6))。一方自然界に存在する量的形質座位(QTL)の解析により、粒長を決定する遺伝子GS3Grain Size 3)が単離されているが、この遺伝子の不完全型(ORFのC末端部が欠失)で粒が長くなることが示されている(Fan et al., 2006(非特許文献7), Takano-Kai et al., 2009(非特許文献8))。
【0003】
一方穂における粒の密度に関しては、田口らはDN1DENSE PANICLE 1)遺伝子に変異が入ったDn1を持つイネで着粒数が増加しかつ植物が矮性化することを示している(特開2007-49970(特許文献1))。同様にDEP1(DENSE AND ERECT PANICLE1)遺伝子に変異が入ったdep1を持つイネはdep1がdominant negativeに作用し、密穂かつ短穂で、穂あたりの粒数が多い表現型を示すことも明らかにされている。密穂になる原因として1次枝梗、及び2次枝梗の数が増えることが示されている(Huang et al., 2009(非特許文献9))。しかしながら、これまでイネの粒間スペースを制御する遺伝子について、実際に粒間スペースを測定して明確に言及した報告は我々の知る限りない。
【0004】
本発明者らはイネアクチベーションタギングラインを作製し(Mori et al., 2007(非特許文献10))、その中から短粒半矮性のSg1変異体を単離している(森ら、2006(非特許文献11))。この変異体の原因遺伝子SG1をイネに再導入過剰発現することにより、Sg1変異体と同様の表現型を示すことを明らかにしている(Mori et al., 2006(非特許文献12))。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-49970
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Mori, M. et al., (2002) Plant Physiol. 130:1152-1161
【非特許文献2】Hong, Z. et al., (2003) Plant Cell 15: 2900-2910
【非特許文献3】Tanabe, S. et al., (2005) Plant Cell 17:776-790
【非特許文献4】Hong, Z. et al., (2005) Plant Cell 17:2243-2254
【非特許文献5】Oki, K. et al., (2009) Plant Cell Physiol. 50:161-172
【非特許文献6】Tanaka, A. et al., (2009) Plant Physiol. 151:669-680
【非特許文献7】Fan, C.H. et al., (2006) Theor. Appl. Genet. 112:1164-1171
【非特許文献8】Takano-Kai, N. et al., (2009) Genetics 182:1323-1334
【非特許文献9】Huang, X. et al.,(2009)Nature Genetics 41:494-497
【非特許文献10】Mori, M. et al., (2007) Plant Mol. Biol. 65:357-371
【非特許文献11】森ら、(2006) 第47回植物生理学会年会講演要旨集、259
【非特許文献12】Mori, M. et al., (2006) Abstracts of 8th International Congress of Plant Molecular Biology, 201
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、散穂(穂が疎ら)である植物(粒間スペースが増加した植物)を提供することにある。より具体的には本発明は、粒間スペースが増加した植物の製造方法、粒間スペースが増加した植物を再生し得る細胞、該細胞より再生された粒間スペースが増加した植物体などを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するにあたり本発明者らは、SG1遺伝子を過剰発現する植物を作成し、その粒間スペースを野生型と比較した。その結果、形質転換体では野生型と比較し粒間スペースが短くなっていることが確認された。なお粒間スペースの測定は、本発明者らが開発した粒間スペースを簡便に測定できるソフトウエアを用いて行った。
次に本発明者らは、SG1遺伝子及びその相同遺伝子であるSGL2遺伝子が粒間スペースの決定に関与しているのではないかと考え、SG1遺伝子およびSGL2遺伝子の両方の遺伝子の発現が抑制された植物体を作成し、粒間スペースの測定を試みた。その結果、これら2遺伝子の発現が抑制された植物体は野生型と比較し、粒間スペースが増加していることが確認された。
本発明はこのように、粒間スペースを制御する遺伝子を見出したことに基づくものであり、以下〔1〕〜〔8〕に関する。
〔1〕以下の工程を含む、粒間スペースが増加した形質転換植物体の製造方法;
(a)SG1遺伝子の発現を阻害する物質及びSGL2遺伝子の発現を阻害する物質を植物細胞に導入する工程、及び
(b)工程(a)の細胞から植物を再生させる工程。
〔2〕SG1遺伝子の発現を阻害する物質及びSGL2遺伝子の発現を阻害する物質が導入された細胞であって、粒間スペースが増加した形質転換植物体を再生しうる細胞。
〔3〕〔2〕に記載の細胞から再生された粒間スペースが増加した植物体。
〔4〕〔3〕に記載の植物体の子孫またはクローンである、粒間スペースが増加した植物体。
〔5〕〔3〕または〔4〕に記載の粒間スペースが増加した植物体の繁殖材料。
〔6〕SG1遺伝子の発現を阻害する物質及びSGL2遺伝子の発現を阻害する物質を有効成分として含有する、植物の粒間スペースを増加させるための薬剤。
〔7〕再生された形質転換植物体の粒間スペースを測定する工程をさらに含む、〔1〕に記載の方法。
〔8〕再生された形質転換植物体の粒間スペースを測定する工程が以下のコンピュータ処理を含む、〔7〕に記載の方法;
(a)再生された形質転換植物体の画像データをコンピュータに読み込む工程、
(b)工程(a)の画像データ上における小枝梗分岐点間の長さをコンピュータに入力する工程、
(c)実測値が既知の物体の画像データをコンピュータに読み込み、当該物体の画像データ上における長さをコンピュータに入力する工程、
(d)工程(c)の物体の実測値をコンピュータに入力し、当該物体の画像データにおける長さと実測値のスケール値を計算する工程、および
(e)工程(b)で入力された小枝梗分岐点間の長さおよび工程(d)で計算されたスケール値をもとに小枝梗分岐点間の長さの実測値を計算する工程。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、散穂(穂が疎ら)である形質転換植物(粒間スペースが長くなった形質転換植物)が提供された。イネ科のソルガム等では散穂になると、鳥が止まりにくくなり、鳥害の被害が減少することが知られている。従って本発明の粒間スペースが増大した形質転換植物は、農業上有用である。
また本発明の形質転換植物体は、粒間スペースが増大すると同時に種子の長粒化も伴う。そのため、本発明の形質転換植物体は1個体あたりの収量増加につながると考えられ有用である。
また本発明により、植物の粒間スペースを測定するためのソフトウエアが提供された。ソフトウエアを用いた方法では、定規による実測は必要なく、コンピュータ画像上で端点を指定することが可能であり、また測定値入力の手間がない。そのため、短時間に多くの測定を行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】イネの穂の各器官の名称および粒間スペースの定義を示す図および写真である。(a)イネの穂の各器官の名称を示す(図はOryzabaseより引用)。(b)粒間スペースの定義を示す。太線で示した部分の長さを粒間スペースと定義する。細線で示した部分は小枝梗。
【図2a】SG1遺伝子のDNA塩基配列および推定アミノ酸配列を示す図である。大文字で表示した塩基はORF相当領域であり、小文字で表示した塩基は非翻訳領域である。点線で囲った領域はRNAiのトリガー配列として用いた3’-非翻訳領域を示す。
【図2b】SGL2遺伝子のDNA塩基配列および推定アミノ酸配列を示す図である。大文字で表示した塩基はORF相当領域であり、小文字で表示した塩基は非翻訳領域である。点線で囲った領域はRNAiのトリガー配列として用いた3’-非翻訳領域を示す。
【図3】SG1SGL2RNAiベクターの構築を示す図である。
【図4】WTとSG1過剰発現イネ(SG1:OX)の比較を示す写真およびグラフである。(a) 穂の写真。SG1:OXはS61-1系統を使用。(b) SG1の転写レベル。SG1:OXはS61-1系統を使用。(c)種子の長さ。#1、#2は系統の穂ごとのデータ。(d)粒間スペース。#1、#2は系統の穂ごとのデータ。
【図5a−e】WTとSG1SGL2ダブルノックダウンイネ(SG1SGL2RNAi)の比較を示す写真およびグラフである。(a)SG1及びSGL2の転写レベル。SG1SGL2RNAiは#2,#4の2系統を使用。(b)穂の写真。(c)種子の写真。(d)種子の長さ。(e)粒間スペース。
【図5fg】WTとSG1SGL2ダブルノックダウンイネ(SG1SGL2RNAi)の比較を示す写真およびグラフである。(f)玄米の長さ。(g)玄米の10粒重。
【図6】計測ソフトウエア実行画面を示す写真である。
【図7】計測ソフトウエアを使った計測手順を示す図である。
【図8】座標位置から長さを求める方法を示す写真である。
【図9】ソフトウエアの結果出力を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は粒間スペースが増加した形質転換植物体の製造方法、および当該方法によって得られる粒間スペースが増加した形質転換植物体に関する。当該方法は以下の工程を含む。
(a)SG1遺伝子の発現を阻害する物質及びSGL2遺伝子の発現を阻害する物質を植物細胞に導入する工程、及び
(b)工程(a)の細胞から植物を再生させる工程。
本発明において粒間スペースとは、頴花(粒)についた小枝梗のつけ根(分岐点)間の、穂軸または枝梗の長さ(小枝梗分岐点間の長さ)を意味する(図1b)。本発明の粒間スペースは、頴花の退化が認められない部分における小枝梗のつけ根間の、穂軸または枝梗の長さであることが好ましい。
本発明において「粒間スペースが増加した形質転換植物体」は「粒間スペースが長くなった形質転換植物体」、「散穂である形質転換植物体」、「穂が疎らである形質転換植物体」と表現することも出来る。
【0012】
本発明の「SG1遺伝子の発現を阻害する物質」の好ましい態様としては、例えば以下の(a)〜(d)からなる群より選択される化合物(核酸)および当該核酸が導入されたベクターを挙げることができる。
(a)SG1遺伝子の発現をRNAi効果により阻害する作用を有する核酸
(b)SG1遺伝子の転写産物またはその一部に対するアンチセンス核酸
(c)SG1遺伝子の転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有する核酸
(d)SG1遺伝子の発現を共抑制効果により阻害する作用を有する核酸
【0013】
また「SGL2遺伝子の発現を阻害する物質」の好ましい態様としては、例えば以下の(a)〜(d)からなる群より選択される化合物(核酸)および当該核酸が導入されたベクターを挙げることができる。
(a)SGL2遺伝子の発現をRNAi効果により阻害する作用を有する核酸
(b)SGL2遺伝子の転写産物またはその一部に対するアンチセンス核酸
(c)SGL2遺伝子の転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有する核酸
(d)SGL2遺伝子の発現を共抑制効果により阻害する作用を有する核酸
【0014】
本発明における「核酸」とはRNAまたはDNAを意味する。また所謂PNA(peptide nucleicacid)等の化学合成核酸アナログも、本発明の核酸に含まれる。PNAは、核酸の基本骨格構造である五単糖・リン酸骨格を、グリシンを単位とするポリアミド骨格に置換したもので、核酸によく似た3次元構造を有する。
【0015】
特定の内在性遺伝子の発現を阻害する方法としては、標的遺伝子配列と同一もしくは類似した配列を有する二本鎖RNAを用いたRNA干渉(RNA interference、以下「RNAi」と略称する)を挙げることが出来る。
【0016】
RNAiは、標的遺伝子のmRNAと相同な配列からなるセンスRNAとこれと相補的な配列からなるアンチセンスRNAとからなる二本鎖RNA(以下、「dsRNA」と略称する)を細胞等に導入することにより、標的遺伝子mRNAに特異的かつ選択的に結合して破壊を誘導し、当該標的遺伝子を切断することにより標的遺伝子の発現を効率よく阻害する(抑制する)現象である。例えば、dsRNAを細胞内に導入すると、そのRNAと相同配列の遺伝子の発現が抑制(ノックダウン)される。このようにRNAiは、標的遺伝子の発現を抑制し得ることから、従来の煩雑で効率の低い相同組換えによる遺伝子破壊方法に代わる簡易な遺伝子ノックアウト方法として、注目されている。RNAiに用いるRNAは、SG1遺伝子、SGL2遺伝子もしくは該遺伝子の部分領域と必ずしも完全に同一である必要はないが、完全な相同性を有することが好ましい。
【0017】
dsRNAのターゲットとしては、SG1遺伝子、SGL2遺伝子上の領域であれば特に限定されるものではなく、任意の領域を全てターゲット候補とすることが可能である。dsRNAは、例えばSG1遺伝子の塩基配列(DDBJのアクセッション番号AK110733、Os09g0459200、配列番号:1)、SGL2遺伝子の塩基配列(DDBJのアクセッション番号AK110321、Os02g0762600、配列番号:3)等をもとに作成することができる。より具体的には、その配列の一部の領域をターゲット候補とすることが可能であり、例えば、SG1遺伝子の塩基配列の一部領域(例えば、SG1の3’-非翻訳領域約300bp(図2aの点線で囲った領域、第883位から第1098位(配列番号:16の21〜321番目の塩基配列)))、SGL2遺伝子の塩基配列の一部領域(例えば、SGL2の3’-非翻訳領域約420bp(図2bの点線で囲った領域、第680位から第1097位(配列番号:17の10〜426番目の塩基配列)))等をもとに作成することができる。
【0018】
また本発明においては、SG1遺伝子の発現をRNAi効果により阻害する作用を有する核酸およびSGL2遺伝子の発現をRNAi効果により阻害する作用を有する核酸が結合した核酸を細胞に導入することも可能である。具体的には、SG1遺伝子の塩基配列の一部領域(例えばSG1の3’-非翻訳領域約300bp(配列番号:16の21〜321番目の塩基配列))とSGL2遺伝子の塩基配列の一部領域(例えばSGL2の3’-非翻訳領域約420bp(配列番号:17の10〜426番目の塩基配列))が結合した核酸を用いることにより、SG1遺伝子およびSGL2遺伝子の発現を抑制することが可能である。このような核酸として、より具体的には、センス鎖として配列番号:5に記載の塩基配列を含む核酸、アンチセンス鎖として配列番号:5に記載の塩基配列に相補的な塩基配列を含む核酸からなる二本鎖RNAを例示できるがこれに限定されない。
【0019】
また二本鎖のRNA分子は、一方の端が閉じた構造の分子、例えば、ヘアピン構造を有するRNAであってもよい。植物では、セルロースやペクチン質からなる強固な細胞壁が存在するため、dsRNAを細胞内へ直接導入することが極めて難しい。そのため、植物では転写後にdsRNAが形成されることを期待した逆方向反復塩基配列(inverted repeat sequence)の構造を持つベクターで形質転換する方法が専ら利用されている。
ヘアピン構造を有するRNAとして、例えば、配列番号:5に記載の塩基配列と配列番号:5に記載の塩基配列に相補的な塩基配列とがリンカーで結合した塩基配列を有する核酸が挙げられるがこれらに限定されない。
リンカーとしてはGUSリンカー(配列番号:18)、Pdkイントロン (Wesley et al., Plant Journal, 2001, 27: 581-590, NCBIのアクセッション番号AJ311873の4293から5234)、Nopaline synthase プロモーターの部分断片 (Chuang and Meyerowitz, Proc Natl Acad Sci, 2000, 97: 4985-4990)等が挙げられるがこれらに限定されない。
本発明のdsRNAにはこのような、一本鎖の一部の領域が他の領域と相補鎖を形成するためにステムループ構造を有するRNA分子(分子内において二本鎖RNA構造を形成し得る分子)もまた含まれる。
【0020】
また本発明の好ましい態様としては、SG1遺伝子、SGL2遺伝子の発現をRNAi効果により抑制し得るRNAにおいて、1もしくは少数のRNAが付加もしくは欠失された構造の二本鎖RNAであっても、上述のSG1遺伝子、SGL2遺伝子の発現を抑制する機能を有するものであれば、本発明のdsRNAに含まれる。
【0021】
RNAi機構の詳細については未だに不明な部分もあるが、DICERといわれる酵素(RNase III核酸分解酵素ファミリーの一種)が二本鎖RNAと接触し、二本鎖RNAがsmall interfering RNA(siRNA)と呼ばれる小さな断片に分解されるものと考えられている。本発明におけるRNAi効果を有する二本鎖RNAには、DICERによって分解される前の二本鎖RNAに加え、siRNAが含まれる。そのままの長さではRNAi効果を有さないような長鎖のRNAであっても、細胞においてRNAi効果を有するsiRNAへ分解されることが期待されるため、本発明における二本鎖RNAの長さは、特に制限されない。
【0022】
例えば、SG1遺伝子、SGL2遺伝子のmRNAの全長もしくはほぼ全長の領域に対応する長鎖二本鎖RNAを、例えば、予めDICERで分解させ、その分解産物を細胞に導入することが可能である。この分解産物には、RNAi効果を有する二本鎖RNA分子(siRNA)が含まれることが期待される。この方法によれば、RNAi効果を有することが期待されるmRNA上の領域を、特に選択しなくともよい。即ち、RNAi効果を有する本発明の上述の遺伝子のmRNA上の領域は、必ずしも正確に規定される必要はない。
【0023】
本発明の「RNAi効果により抑制し得る二本鎖RNA」は、当業者においては、該二本鎖RNAの標的となるSG1遺伝子、SGL2遺伝子の塩基配列を基に、適宜作製することができる。一例を示せば、配列番号:1(SG1遺伝子)、3(SGL2遺伝子)に記載の塩基配列をもとに、本発明の二本鎖RNAを作製することができる。即ち、配列番号:1、3に記載の塩基配列をもとに、該配列の転写産物であるmRNAの任意の連続するRNA領域を選択し、この領域に対応する二本鎖RNAを作製することは、当業者においては、通常の試行の範囲内において適宜行い得ることである。また、該配列の転写産物であるmRNA配列から、より強いRNAi効果を有するdsRNA配列を選択することも、当業者においては、公知の方法によって適宜実施することが可能である。また、一方の鎖が判明していれば、当業者においては容易に他方の鎖(相補鎖)の塩基配列を知ることができる。dRNAは、当業者においては市販の核酸合成機を用いて適宜作製することが可能である。また、所望のRNAの合成については、一般の合成受託サービスを利用することができる。
【0024】
また、本発明におけるdsRNAは、必ずしも標的配列に対する一組の二本鎖RNAである必要はなく、標的配列を含んだ領域に対する複数組の二本鎖RNAの混合物であってもよい。ここで標的配列に対応した核酸混合物としてのdsRNAは、当業者においては市販の核酸合成機およびDICER酵素を用いて適宜作成することが可能であり、また、所望のRNAの合成については、一般の合成受託サービスを利用することができる。
【0025】
dsRNAを細胞に導入するには、in vitroで合成したSG1、SGL2遺伝子の発現をRNAi効果により阻害する作用を有する核酸をプラスミドDNAやベクターに連結してこれを細胞に導入する方法、2本のRNAをアニールする方法などを採用することができる。
【0026】
また、本発明におけるdsRNAは、必ずしも全てのヌクレオチドがリボヌクレオチド(RNA)でなくともよい。即ち、本発明において、dsRNAを構成する1もしくは複数のリボヌクレオチドは、対応するデオキシリボヌクレオチドであってもよい。この「対応する」とは、糖部分の構造は異なるものの、同一の塩基種(アデニン、グアニン、シトシン、チミン(ウラシル))であることを指す。例えば、アデニンを有するリボヌクレオチドに対応するデオキシリボヌクレオチドとは、アデニンを有するデオキシリボヌクレオチドのことを言う。また、前記「複数」とは特に制限されないが、好ましくは2〜5個程度の少数を指す。
【0027】
さらに、本発明の上記dsRNAを発現し得るDNA(ベクター)もまた、本発明のSG1遺伝子、SGL2遺伝子の発現を抑制し得る物質の好ましい態様に含まれる。例えば、本発明の上記二本鎖RNAを発現し得るDNA(ベクター)は、該二本鎖RNAの一方の鎖をコードするDNA、および該二本鎖RNAの他方の鎖をコードするDNAが、それぞれ発現し得るようにプロモーターと連結した構造を有するDNAである。あるいは、二本鎖RNAのそれぞれの鎖は同一のベクターに挿入されたものであっても、別々のベクターに挿入されたものであってもよい。また、SG1遺伝子の発現を抑制し得るdsRNAおよびSGL2遺伝子の発現を抑制し得るdsRNAは、同一のベクターで発現させることも、別々のベクターで発現させることも可能である。
本発明の上記RNAは、当業者においては、一般的な遺伝子工学技術により、適宜作製することができる。より具体的には、本発明のRNAをコードするDNAを公知の種々の発現ベクターへ適宜挿入することによって、本発明の発現ベクターを作製することが可能である。
【0028】
特定の内在性遺伝子の発現を阻害する方法としては、アンチセンス技術を利用する方法も当業者によく知られている。アンチセンス核酸が標的遺伝子の発現を阻害する作用としては、以下のような複数の要因が存在する。即ち、三重鎖形成による転写開始阻害、RNAポリメラーゼによって局部的に開状ループ構造が作られた部位とのハイブリッド形成による転写阻害、合成の進みつつあるRNAとのハイブリッド形成による転写阻害、イントロンとエクソンとの接合点におけるハイブリッド形成によるスプライシング阻害、スプライソソーム形成部位とのハイブリッド形成によるスプライシング阻害、mRNAとのハイブリッド形成による核から細胞質への移行阻害、キャッピング部位やポリ(A)付加部位とのハイブリッド形成によるスプライシング阻害、翻訳開始因子結合部位とのハイブリッド形成による翻訳開始阻害、開始コドン近傍のリボソーム結合部位とのハイブリッド形成による翻訳阻害、mRNAの翻訳領域やポリソーム結合部位とのハイブリッド形成によるペプチド鎖の伸長阻害、および核酸とタンパク質との相互作用部位とのハイブリッド形成による遺伝子発現阻害などである。このようにアンチセンス核酸は、転写、スプライシングまたは翻訳など様々な過程を阻害することで、標的遺伝子の発現を阻害する(平島および井上, 新生化学実験講座2 核酸IV遺伝子の複製と発現, 日本生化学会編, 東京化学同人, 1993, 319-347.)。
【0029】
本発明で用いられるアンチセンス核酸は、上記のいずれの作用により、SG1遺伝子、SGL2遺伝子の発現および/または機能を阻害してもよい。一つの態様としては、SG1遺伝子、SGL2遺伝子のmRNAの5'端近傍の非翻訳領域に相補的なアンチセンス配列を設計すれば、遺伝子の翻訳阻害に効果的と考えられる。また、コード領域もしくは3'側の非翻訳領域に相補的な配列も使用することができる。このように、SG1遺伝子、SGL2遺伝子の翻訳領域だけでなく、非翻訳領域の配列のアンチセンス配列を含む核酸も、本発明で利用されるアンチセンス核酸に含まれる。使用されるアンチセンス核酸は、適当なプロモーターの下流に連結され、好ましくは 3'側に転写終結シグナルを含む配列が連結される。このようにして調製された核酸は、公知の方法を用いることで所望の植物(細胞)に形質転換することができる。アンチセンス核酸の配列は、形質転換される植物(細胞)が有する内在性のSG1遺伝子、SGL2遺伝子またはその一部と相補的な配列であることが好ましいが、遺伝子の発現を有効に抑制できる限りにおいて、完全に相補的でなくてもよい。転写されたRNAは標的遺伝子の転写産物に対して好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相補性を有する。アンチセンス核酸を用いて標的遺伝子の発現を効果的に阻害するには、アンチセンス核酸の長さは少なくとも15塩基以上25塩基未満であることが好ましいが、本発明のアンチセンス核酸は必ずしもこの長さに限定されず、例えば100塩基以上、または 500塩基以上であってもよい。
【0030】
本発明のアンチセンス核酸は特に制限されないが、例えばSG1遺伝子の塩基配列(DDBJのアクセッション番号AK110733、Os09g0459200、配列番号:1)、SGL2遺伝子の塩基配列(DDBJのアクセッション番号AK110321、Os02g0762600、配列番号:3)等をもとに作成することができる。
【0031】
SG1遺伝子、SGL2遺伝子の発現の阻害は、リボザイム、またはリボザイムをコードするDNAを利用して行うことも可能である。リボザイムとは触媒活性を有するRNA分子を指す。リボザイムには種々の活性を有するものが存在するが、中でもRNAを切断する酵素としてのリボザイムに焦点を当てた研究により、RNAを部位特異的に切断するリボザイムの設計が可能となった。リボザイムには、グループIイントロン型やRNase Pに含まれるM1 RNAのように400ヌクレオチド以上の大きさのものもあるが、ハンマーヘッド型やヘアピン型と呼ばれる40ヌクレオチド程度の活性ドメインを有するものもある(小泉誠および大塚栄子, タンパク質核酸酵素, 1990, 35, 2191.)。
【0032】
例えば、ハンマーヘッド型リボザイムの自己切断ドメインは、G13U14C15という配列のC15の3'側を切断するが、その活性にはU14とA9との塩基対形成が重要とされ、C15の代わりにA15またはU15でも切断され得ることが示されている(Koizumi, M. et al., FEBS Lett,1988, 228, 228.)。基質結合部位が標的部位近傍のRNA配列と相補的なリボザイムを設計すれば、標的RNA中のUC、UUまたはUAという配列を認識する制限酵素的なRNA切断リボザイムを作出することができる(Koizumi, M. et al., FEBS Lett, 1988, 239, 285.、小泉誠および大塚栄子, タンパク質核酸酵素, 1990, 35, 2191.、Koizumi, M. et al., NuclAcids Res, 1989, 17, 7059.)。
【0033】
また、ヘアピン型リボザイムも本発明の目的に有用である。このリボザイムは、例えばタバコリングスポットウイルスのサテライトRNAのマイナス鎖に見出される(Buzayan, JM., Nature, 1986, 323, 349.)。ヘアピン型リボザイムからも、標的特異的なRNA切断リボザイムを作出できることが示されている(Kikuchi, Y.& Sasaki, N., Nucl Acids Res,1991, 19, 6751.、菊池洋, 化学と生物, 1992, 30, 112.)。
【0034】
標的を切断できるよう設計されたリボザイムは、植物細胞中で転写されるようにカリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーターなどのプロモーターおよび転写終結配列に連結される。しかし、その際、転写されたRNAの5'末端や3'末端に余分な配列が付加されていると、リボザイムの活性が失われてしまうことがある。このようなとき、転写されたリボザイムを含むRNAからリボザイム部分だけを正確に切り出すために、リボザイム部分の5'側や3'側に、トリミングを行うためのシスに働く別のトリミングリボザイムを配置させることも可能である (Taira et. al., Protein Eng. 3: 733, 1990、Dzianott and Bujarski, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 86: 4823, 1989、Grosshans and Cech, Nucleic Acids Res. 19: 3875, 1991、Taira et. al., Nucleic Acids Res. 19: 5125, 1991)。
【0035】
また、このような構成単位をタンデムに並べ、標的遺伝子内の複数の部位を切断できるようにして、より効果を高めることもできる(Yuyama et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 186: 1271, 1992)。このようなリボザイムを用いて本発明で標的となる遺伝子の転写産物を特異的に切断し、該遺伝子の発現を抑制することができる。
【0036】
内在性遺伝子の発現の抑制はさらに、標的遺伝子配列と同一もしくは類似した配列を有するDNAの形質転換によってもたらされる「共抑制」によっても達成されうる。「共抑制」とは、植物に標的内在性遺伝子と同一若しくは類似した配列を有する遺伝子を形質転換により導入すると、導入する外来遺伝子および標的内在性遺伝子の両方の発現が抑制される現象のことをいう。共抑制の機構の詳細は明らかではないが、植物においてはしばしば観察される(Curr. Biol. 7: R793, 1997、Curr. Biol. 6: 810, 1996)。
【0037】
例えば、SG1遺伝子およびSGL2遺伝子が共抑制された植物体を得るためには、SG1遺伝子(DDBJのアクセッション番号AK110733、Os09g0459200、配列番号:1)およびSGL2遺伝子(DDBJのアクセッション番号AK110321、Os02g0762600、配列番号:3)若しくはこれらと類似した配列を有するDNAを発現できるように作製したベクターDNAを目的の植物へ形質転換し、得られた植物体から粒間スペースが増大した植物を選択すればよい。共抑制に用いる遺伝子は、標的遺伝子と完全に同一である必要はないが、少なくとも70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば、95%、96%、97%、98%、99%以上)の配列の同一性を有する。
【0038】
さらに、本発明における内在性遺伝子の発現の抑制は、標的遺伝子のドミナントネガティブの形質を有する遺伝子を植物へ形質転換することによっても達成することができる。ドミナントネガティブの形質を有する遺伝子とは、該遺伝子を発現させることによって、植物体が本来持つ内在性の野生型遺伝子の活性を消失もしくは低下させる機能を有する遺伝子のことをいう。
【0039】
本発明の「SG1遺伝子の発現を阻害する物質」および「SGL2遺伝子の発現を阻害する物質」は、上記核酸がベクターに挿入された物であってもよい。本発明におけるベクターとしては、植物細胞内で挿入遺伝子を発現させることが可能なものが好ましく、例えばpANDA、pCAMBIA、pBI121、pRiceFOXベクターなどのベクターが挙げられるが、特に制限はない。本発明のベクターは、例えば、植物細胞内での恒常的な遺伝子発現を行うためのプロモーター(例えば、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーター等)を有していてもよい。このようなプロモーターを使用する場合、プロモーターの下流に、本発明の核酸が機能的に結合した核酸を設計する。そして設計された核酸を含むベクターを植物細胞に導入する。これにより得られた形質転換植物細胞を再生させることによって、SG1遺伝子の発現を阻害する物質及びSGL2遺伝子の発現を阻害する物質が導入された形質転換植物体を得ることが出来る。本発明はこのように、プロモーターの下流に、上記核酸が機能的に結合した核酸も提供する。ここで「機能的に結合」とは、プロモーター配列に転写因子が結合することにより、上記核酸の発現が誘導されるように、プロモーター配列と該核酸とが結合していることを言う。
なおこれら以外にも、外的な刺激により誘導的に活性化されるプロモーターを有するベクターを用いることも可能である。
【0040】
また、本発明の発現阻害物質には、上述のSG1遺伝子、SGL2遺伝子の発現調節領域(例えば、プロモーター領域)と結合することにより、上述のSG1遺伝子、SGL2遺伝子の発現を阻害する化合物が含まれる。該化合物は、例えばSG1遺伝子、SGL2遺伝子のプロモーターDNA断片を用いて、該DNA断片との結合活性を指標とするスクリーニング方法により、取得することが可能である。また当業者においては、所望の化合物について、上述のSG1遺伝子、SGL2遺伝子の発現を阻害するか否かの判定を公知の方法、例えばレポーターアッセイ法等により適宜実施することができる。
【0041】
SG1遺伝子の発現を阻害する物質及びSGL2遺伝子の発現を阻害する物質を導入する植物細胞の種類としては、例えば、イネ、小麦、大麦、トウモロコシ、ソルガム等の単子葉植物、シロイヌナズナ、ペチュニア、ナタネ、トマト、大豆等の双子葉植物等が挙げられるがこれらに限定されない。
SG1遺伝子の発現を阻害する物質及びSGL2遺伝子の発現を阻害する物質が導入される植物細胞の形態は、植物体を再生しうるものであれば、特に制限はなく、例えば、懸濁培養細胞、プロトプラスト、葉の切片、カルスなどが含まれる。本発明はこのように、SG1遺伝子の発現を阻害する物質及びSGL2遺伝子の発現を阻害する物質が導入された細胞であって、粒間スペースが増加した植物体を再生しうる細胞を提供する。また、当該細胞から再生された粒間スペースが増加した植物体、当該植物体の子孫またはクローンである粒間スペースが増加した植物体、並びにこれらの植物体の繁殖材料を提供する。
【0042】
SG1遺伝子の発現を阻害する物質及びSGL2遺伝子の発現を阻害する物質の植物細胞への導入は、例えば、ポリエチレングリコール法、電気穿孔法(エレクトロポーレーション)、アグロバクテリウムを介する方法、パーティクルガン法等の当業者に公知の方法によって実施することができる。アグロバクテリウムを介する方法においては、例えばNagelらの方法(Nagel, R. et al. FEMS Microbiol Lett. 67, 1990, 325-328.)にしたがって、上述の核酸が挿入された発現ベクターをアグロバクテリウムに導入し、このアグロバクテリウムを直接感染法やリーフディスク法で植物細胞に感染させることにより、SG1遺伝子の発現を阻害する物質、SGL2遺伝子の発現を阻害する物質を植物細胞に導入することができる。
【0043】
植物細胞からの植物体の再生は、植物の種類に応じて当業者に公知の方法で行うことが可能である。例えば、イネであればFujimuraら(Fujimura. et al. Tissue Culture Lett. 2, 1995, 74.)の方法が挙げられ、小麦であればHarrisら(Harris, R. et al. Plant Cell Reports. 7, 1988, 337-340)の方法やOzgenら(Ozgen, M. et al. Plant Cell Reports. 18, 1998, 331-335)の方法が挙げられ、大麦であればKiharaとFunatsuki(Kihara, M. and Funatsuki, H. Breeding Sci. 44, 1994, 157-160.)の方法やLursとLorz(Lurs, R. and Lorz, H. Theor. Appl. Genet. 75, 1987, 16-25.)の方法が挙げられ、トウモロコシであればShillitoら(Shillito, R.D., et al. Bio/Technology, 7, 1989, 581-587.)の方法やGordon-Kammら(Gordon-Kamm, W.J. et al. Plant Cell. 2(7), 1990, 603-618.)の方法が挙げられ、ソルガムであればWenら(Wen, F.S., et al. Euphytica. 52, 1991, 177-181.)の方法やHagio(Hagio, T. Breeding Sci. 44, 1994, 121-126.)の方法が挙げられるが、これらに限定されない。
またシロイヌナズナであればAkamaら(Akama. et al. Plant Cell Reports. 12, 1992, 7-11.)の方法が挙げられ、ペチュニアであればJorgensenら(Jorgensen, R.A. et al. Plant Mol. Biol. 31, 2004, 957-973.)の方法が挙げられ、ナタネであればWangら(Wang, Y.P. et al. Plant Breeding. 124, 2005, 1-4.)の方法が挙げられ、トマトであればKoblitzとKoblitz(Koblitz, H and Koblitz, D. Plant Cell Reports. 1, 1982, 143-146.)の方法やMorganとCocking(Morgan, A. and Cocking, E.C. Z.Pflanzenpysiol. 106, 1982, 97-104.)の方法が挙げられ、大豆であればLazzeriら(Lazzeri, P.A. et al., Plant Mol. Biol. Rep. 3, 1985, 160-167.)の方法やRanchら(Ranch, J.P. et al., In Vitro Cell Dev. Biol. 21, 1985, 653-658.)の方法が挙げられるが、これらに限定されない。
【0044】
再生され、かつ栽培した形質転換植物体中のSG1遺伝子、SGL2遺伝子の発現は、公知のPCR法やサザンハイブリダイゼーション法によって、又は植物体中のDNAの塩基配列を解析することによって確認することができる。この場合、形質転換植物体からのDNAの抽出は、公知のJ.Sambrookらの方法(Molecular Cloning、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989)に準じて実施することができる。再生させた植物体中に存在するSG1遺伝子、SGL2遺伝子の発現量を、PCR法を用いて解析する場合には、再生した植物体から抽出したDNAを鋳型として増幅反応を行う。また、本発明のSG1遺伝子、SGL2遺伝子の塩基配列に従って適当に選択された塩基配列をもつ合成したオリゴヌクレオチドをプライマーとして用い、これらを混合させた反応液中において増幅反応を行うこともできる。増幅反応においては、DNAの変性、アニーリング、伸張反応を数十回繰り返すと、SG1遺伝子、SGL2遺伝子のDNA配列を含むDNA断片の増幅生成物の有無を確認することが出来る。増幅生成物を含む反応液を例えばアガロース電気泳動にかけると、増幅された各種のDNA断片が分画されて、そのDNA断片がSG1遺伝子、SGL2遺伝子に対応することを確認することが可能である。
【0045】
植物体の粒間スペースが増加しているか否かは、対照と比較することによって判断することが出来る。本発明において対照とは、本発明の植物体と同じ種の植物体であって、SG1遺伝子およびSGL2遺伝子の両方の遺伝子の発現が阻害されていない植物体を意味する。本発明においては、野生型と比較してわずかでも粒間スペースが増加している限り、どのような植物も「粒間スペースが増加した形質転換植物体」に含まれる。
植物体の粒間スペースは、例えば、本発明者らが開発したソフトウエアを用いて測定することが出来る。以下に本発明者らが開発したソフトウエア(穂計測ソフトウエア)を用いた種子の長さや粒間スペース等の測定方法を示す。なお本発明の穂計測ソフトウエアを用いて測定可能な植物の部位は種子の長さや粒間スペースに限定されない。
【0046】
図6に、穂計測ソフトウエアの外観図を示す。
計測ソフトウエアは、計測対象のイネを撮影した画像を表示する画像表示エリア(102)と、データの入力操作や計測値をデータファイルに出力するなどソフトウエアを操作するソフトウエア操作メニュー(101)の画面構成から構成される。
計測作業者は、画像表示エリア(102)上でマウス(103)を操作し、穂軸や種子の根元など計測したい器官の端点となる位置でマウスを重ねた後、コンピュータ(特にメモリやハードディスク等の記憶装置)に画像上の座標位置(104)を記録する操作を実行する。この操作を、計測したい器官の数だけ繰り返し実行し、ソフトウエアを介してコンピュータに記録された座標位置の情報から、座標間の距離を計算する。このような方法により、例えば粒間スペースや種子等の画面上の長さを求める。事前に計測したスケール値を使い画面上の長さを実測値に変換し、その結果をデータファイルやモニタ等の出力装置に実測値として出力する。
【0047】
図7に、計測ソフトウエアを使った種子の長さ(粒長)および粒間スペースの計測作業の手順を示す。
ソフトウエアを開始(201)後、事前に準備した計測する植物(例えばイネ)が撮影された画像ファイルを指定し、ソフトウエアを介して当該画像データをコンピュータに読み込む(202)と、ソフトウエアの画像表示エリアに読み込んだ画像ファイルが表示される。ここで、読み込んだ画像ファイルはコンピュータ内のメモリやハードディスク等の記憶装置に記憶させてもよい。次に、マウスを操作して、読み込んだ画像データ上の種子の両端を指定しその座標をコンピュータに記録する。また画像上の種子の長さをコンピュータに記録する (203)。粒間スペースについては、個々の穂軸または枝梗について、小枝梗分岐点(小枝梗のつけ根)間の長さをコンピュータに記録する。小枝梗分岐点間の穂軸または枝梗が曲がっていて直線で結べない場合は、小枝梗分岐点間を折れ線で近似した長さをコンピュータに記録する。折れ線を構成する経由点(変曲点近くの点)をここでは中間点と定義する。小枝梗分岐点と、必要な場合は更に中間点でマウスを操作し各点の座標位置をコンピュータに記録する(204)。
最後に、画面上の長さと実測値とを変換するために必要なスケール値を求める。事前に撮影しておいた実測値が既知の 物体(例えば定規、長さの分かっている紙(方眼紙等)やプラスチックなどで出来た小片などが挙げられるがこれらに限定されない)の画像ファイルをコンピュータに読み込む。実測値が既知の物体が撮影された画像ファイルは、例えば、植物と同時に(一緒に)撮影しておいたものとすることができる。実測値が既知の物体が撮影された画像データにおける当該物体の長さを、種子の長さを計測したときと同様の操作でコンピュータに記録する。また、対応する実測値を、ソフトウエアを介してコンピュータに入力操作する(205)。取得した画面上の長さを P、実測値を M とすると、スケール値は M/P の計算式で求める。記録した画面上の種子の長さ、穂軸または枝梗の座標位置、計算したスケール値を使い、後述する方法で実際の種子の長さや粒間スペース(小枝梗分岐点間の長さ)を求めデータファイルをコンピュータに保存(206)し終了(207)する。
【0048】
図8に、穂軸または枝梗上の座標位置から粒間スペースを求める方法を説明する。
ユーザーがソフトウエアを介して画像上の点を入力すると、画像上の小枝梗分岐点301(X1, Y1)、302(X2, Y2)、303(X3, Y3)、中間点321(X21, Y21) がコンピュータに記録される。記録した座標位置から粒間スペースHは次の方法で計算する。中間点がない粒間スペース301-302の距離は、小枝梗分岐点の座標間のユークリッド距離を計算して求める(数1)。中間点のある粒間スペース302-303の距離は、小枝梗分岐点と中間点のユークリッド距離を中間点の数だけ求め、その総和を計算して求める(数2)。
【0049】
【数1】

【0050】
【数2】

【0051】
種子の長さ(304)は、中間点のない粒間スペースと同様にユーザーが記録した種子の端点のユークリッド距離を計算して求める。
【0052】
図9に、ソフトウエアが出力するデータファイルの例を示す。
計測した粒間スペースまたは種子の画像上の長さ(402)とスケール値(401)を使って求めた実際の長さ(403)を対にした表形式で出力する。
【0053】
本発明の形質転換植物体の製造方法はこのように、形質転換植物体の粒間スペースを測定する工程を含むことが出来る。形質転換植物体の粒間スペースを測定する工程は、例えばコンピュータ処理を含むことが出来る。
本発明は、このようなコンピュータを用いた粒間スペースを測定する工程を含む、粒間スペースが増加した形質転換植物体の製造方法に関する。より具体的には、本発明は、以下の工程を含む粒間スペースが増加した形質転換植物体の製造方法に関する。
(a)本明細書に記載の方法により粒間スペースが増加した形質転換植物体を提供する工程、及び
(b)コンピュータを用いて、工程(a)の形質転換植物体の粒間スペースを測定する工程
上記方法においては、さらに、粒間スペースが増加した形質転換植物体を選択する工程を含むことが出来る。
【0054】
本発明において、コンピュータを用いた植物の粒間スペースの測定は、例えば以下の工程を含むことが出来るが以下に限定されない。
(a)植物体の画像データをコンピュータに読み込む(入力する)工程、
(b)工程(a)の画像データにおける小枝梗分岐点間の長さを入力し、コンピュータに記録する工程、
(c)実測値が既知の物体の画像データをコンピュータに読み込む(入力する)工程、
(d)工程(c)の画像データにおける物体の長さを入力し、コンピュータに記録する工程、
(e)工程(c)の物体の実測値を入力し、コンピュータに記録し、工程(d)において入力された当該物体の画像データにおける長さを用いて実測値のスケール値を計算する工程、および
(f)工程(b)で入力された小枝梗分岐点間の長さおよび工程(e)で計算されたたスケール値をもとに小枝梗分岐点間の長さの実測値を計算する工程。
また本発明において、コンピュータを用いた植物の種子の長さの測定は、例えば以下の工程を含むことが出来るが以下に限定されない。
(a)植物体の画像データをコンピュータに読み込む(入力する)工程、
(b)工程(a)の画像データにおける種子の位置または長さを入力し、コンピュータに記録する工程、
(c)実測値が既知の物体の画像データをコンピュータに読み込む(入力する)工程、
(d)工程(c)の画像データにおける物体の長さを入力し、コンピュータに記録する工程、
(e)工程(c)の物体の実測値を入力し、コンピュータに記録し、工程(d)において入力された当該物体の画像データにおける長さを用いて実測値のスケール値を計算する工程、および
(f)工程(b)で入力された種子の位置または長さおよび工程(e)で計算されたたスケール値をもとに種子の長さの実測値を計算する工程。
本発明の植物の粒間スペースの測定方法、種子の長さの測定方法において測定対象となる植物としては、イネ、ソルガム、キビ、ヒエ、アワなどが挙げられるがこれらに限定されない。これらの植物は野生型であっても任意の遺伝子による形質転換植物体であってもよい。形質転換植物体としては、SG1遺伝子及びSGL2遺伝子の発現が抑制され粒間スペースおよび種子の長さが増加した形質転換植物体(例えばイネ)、SG1遺伝子が過剰発現され粒間スペースおよび種子の長さが減少した形質転換植物体(例えばイネ)などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0055】
また本発明は、以下の工程を含む粒間スペースが増加した形質転換植物体の製造方法に関する。また本発明は、以下の工程を含む粒間スペースが増加した形質転換植物体の粒間スペースの測定方法に関する。
(a)SG1遺伝子の発現を阻害する物質及びSGL2遺伝子の発現を阻害する物質を植物細胞に導入する工程、
(b)工程(a)の細胞から植物を再生させる工程、
(c)植物体の画像データをコンピュータに読み込む(入力する)工程、
(d)工程(c)の画像データにおける小枝梗分岐点間の長さを入力し、コンピュータに記録する工程、
(e)実測値が既知の物体の画像データをコンピュータに読み込む(入力する)工程、
(f)工程(e)の画像データにおける物体の長さを入力し、コンピュータに記録する工程、
(g)工程(e)の物体の実測値を入力し、コンピュータに記録し、工程(f)において入力された当該物体の画像データにおける長さを用いて実測値のスケール値を計算する工程、および
(h)工程(d)で入力された小枝梗分岐点間の長さおよび工程(g)で計算されたたスケール値をもとに小枝梗分岐点間の長さの実測値を計算する工程。
また本発明は、以下の工程を含む種子の長さが増加した形質転換植物体の製造方法に関する。また本発明は、以下の工程を含む種子の長さが増加した形質転換植物体の種子の長さの測定方法に関する。
(a)SG1遺伝子の発現を阻害する物質及びSGL2遺伝子の発現を阻害する物質を植物細胞に導入する工程、
(b)工程(a)の細胞から植物を再生させる工程、
(c)植物体の画像データをコンピュータに読み込む(入力する)工程、
(d)工程(c)の画像データにおける種子の位置または長さを入力し、コンピュータに記録する工程、
(e)実測値が既知の物体の画像データをコンピュータに読み込む(入力する)工程、
(f)工程(e)の画像データにおける物体の長さを入力し、コンピュータに記録する工程、
(g)工程(e)の物体の実測値を入力し、コンピュータに記録し、工程(f)において入力された当該物体の画像データにおける長さを用いて実測値のスケール値を計算する工程、および
(h)工程(d)で入力された種子の位置または長さおよび工程(g)で計算されたスケール値をもとに種子の長さの実測値を計算する工程。
【0056】
従来粒間スペースの測定は、定規で実測値を測定し、それを入力することにより行われていた。しかしこの方法は煩雑であり、多くの測定を行うのに時間を要する。一方本発明の穂計測ソフトウエアを用いた方法では、定規による実測は必要なく、コンピュータ画像上で端点を指定することにより行うことが可能であり、また測定値入力の手間がない。そのため、短時間に多くの測定を行うことが可能である。
【0057】
一旦、「SG1遺伝子の発現を阻害する物質」および「SGL2遺伝子の発現を阻害する物質」が導入された形質転換植物体が得られれば、該植物体から有性生殖又は無性生殖により子孫を得ることが可能である。また、該植物体やその子孫あるいはクローンから細胞や器官、繁殖材料(例えば、種子、果実、切穂、塊茎、塊根、株、カルス、プロトプラスト等)を単離し、それらを基に該植物体を量産することも可能である。本発明には、「SG1遺伝子の発現を阻害する物質」および「SGL2遺伝子の発現を阻害する物質」が導入された植物細胞、該細胞を含む植物体、該植物体の器官(例えば花、葉、根、茎等)、該植物体の子孫及びクローン、並びに該植物体、その子孫及びクローンの繁殖材料が含まれる。これらの植物細胞、該細胞を含む植物体、該植物体の器官、該植物体の子孫及びクローン、並びに該植物体、その子孫及びクローンの繁殖材料は、粒間スペースが増加した植物体の作製に使用することが可能である。
【0058】
また本発明は、SG1遺伝子の発現を阻害する物質及びSGL2遺伝子の発現を阻害する物質を有効成分として含有する、植物の粒間スペースを増加させるための薬剤に関する。SG1遺伝子の発現を阻害する物質及びSGL2遺伝子の発現を阻害する物質としては上述のものを用いることが出来る。本発明の薬剤においては、有効成分であるSG1遺伝子の発現を阻害する物質及びSGL2遺伝子の発現を阻害する物質以外に、例えば、滅菌水、生理食塩水、植物油、界面活性剤、脂質、溶解補助剤、緩衝剤、保存剤等が必要に応じて混合されていてもよい。
【0059】
なお、種々のタグラインや変異体ライン(Krishnan, A. et al., Plant Physiol. 149, 2009, 165-170.)の利用により、あるいはジーンターゲッティング法(Endo, M. et al., Plant J. 52, 2007, 157-166.)により、SG1遺伝子及びSGL2遺伝子の発現がノックアウトされた植物体を得ることも可能である。本発明はこのような方法によって得られる、SG1遺伝子及びSGL2遺伝子の発現が抑制された植物体であって、粒間スペースが増加した植物体も提供するものである。
【実施例】
【0060】
以下実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[材料及び方法]
1.SG1過剰発現イネ
SG1過剰発現イネについてはSG1遺伝子(AK110733, Os09g0459200)をトウモロコシユビキチンプロモーター下に連結し過剰発現させ(Mori et al., 2006)、過剰発現を確認済みのS61系統を使用した。形質転換イネの栽培は隔離温室28℃で行った。なおSG1遺伝子の発現レベルの定量は、内部標準に18S rRNA遺伝子を用いてReal-time PCR法を用いて行った。使用したプライマーは以下の通り。SG1:プライマー5(配列番号:10)及びプライマー6(配列番号:11); 18S rRNA:プライマー9(配列番号:14)及びプライマー10(配列番号:15)。
【0061】
2.粒長及び粒間スペースの測定
今回新たに開発した、上述の穂計測ソフトウエアを用いて測定した。具体的な操作方法は上述の通りである。
【0062】
3.SG1SGL2RNAiベクターの構築
RNAiベクターにはpANDAベクター(Miki, D. et al., Plant Cell Physiol. 45, 2004, 490-495;Miki, D. et al., Plant Physiol. 138, 2004, 1903-1913.)を使用した。SG1およびSGL2の発現をRNAi法により抑制するための植物発現ベクター、pANDA-SGL2SG1iの構築の概略を示す(図3)。SG1遺伝子のcDNA配列(配列番号1、図2a)の601位から615位の配列の上流に11塩基の人工的配列及びSGL2遺伝子のcDNA配列(配列番号:3、図2b)の1089位から1098位の配列を連結したプライマー1(配列番号:6)とSG1遺伝子のcDNA配列(配列番号:1)の883位から901位と相補的な配列を含むプライマー2(配列番号:7)を用いて、SG1遺伝子のcDNA (配列番号:1)を含むプラスミドを鋳型とし、94℃、/1分の後、96℃/10秒、55℃/10秒、72℃/1分を30サイクルの条件でPCR反応1を行ない、SG1の3’-非翻訳領域約300bp(図2aの点線で囲った領域、第883位から第1098位)を含むPCR産物1(配列番号:16)を得た。同時に、9塩基の人工的配列及びSGL2のcDNA配列(配列番号:3、図2b)の680位から701位の配列を含むプライマー3(配列番号:8)、7塩基の人工的配列及びSGL2のcDNA配列(配列番号:3)の1075位から1097位と相補的な配列を含むプライマー4(配列番号:9)を用いて、SGL2遺伝子のcDNA(配列番号:3)を含むプラスミドを鋳型とし、PCR反応1と同条件でPCR反応2を行ないSGL2の3’-非翻訳領域約420bp(図2bの点線で囲った領域、第680位から第1097位)を含むPCR産物2(配列番号:17)を得た。続いて、PCR反応1の産物とPCR反応2の産物の一部を混合し、共通して含まれる配列をアニールさせたものを鋳型として、PCR反応1で使用したプライマー2(配列番号:7)とPCR反応2で使用したプライマー3(配列番号:8)を用いて、上記の条件でPCR反応3を行ない、SGL2の3’-非翻訳領域420bpの下流にSG1の3’-非翻訳領域300bpが連結された約740bpのPCR産物3(配列番号:5)を得た。PCR反応3の産物をPCRクリーンアップキット(QIAGEN)で精製した後、pENTR-D TOPOベクター(Invitrogen)にクローン化した。得られた組み換えプラスミドを用いてシーケンス反応を行い、SGL2の非翻訳領域420bpとSG1の3’-非翻訳領域300bpがタンデムに正しい方向に入っている事を確認した。続いて、SGL2とSG1の3’-非翻訳領域(合計約740bp)が入った組み換えプラスミドを用いて、LRクロナーゼ反応(Invitorgen)によりpANDAベクターにクローン化し、組み換えプラスミドpANDA-SGL2SG1iを得た。
【0063】
4.形質転換イネの作製
イネの品種は日本晴を用いた。イネの形質転換はアグロバクテリウムEH105株を用いて高速形質転換法(Toki, S. et al., Plant J. 47, 2006, 969-976.)で行った。
【0064】
5.ノックダウンイネにおける遺伝子の発現レベルの比較
出穂1-3日目の開花前の頴花4つとその枝梗からTotal RNAを抽出した。抽出したRNAからPrimeScriptII first-strand cDNA synthesis kit (Takara Bio)を用いて1st strand cDNAを合成した。Thermal Cycler Dice TP800 system(Takara Bio)及びSYBR Premix Ex Taq II (Takara Bio)を用いてReal-time RT-PCR法で発現レベルを比較した。なおSG1, SGL2遺伝子の発現レベルの定量は、内部標準に18S rRNA遺伝子を用いて行った。使用したプライマーは以下の通り。SG1:プライマー5(配列番号:10)及びプライマー6(配列番号:11); SGL2:プライマー7(配列番号:12)及びプライマー8(配列番号:13);18S rRNA:プライマー9(配列番号:14)及びプライマー10(配列番号:15)。
【0065】
[結果]
1.SG1の過剰発現イネの粒間スペースの短縮
SG1過剰発現として使用したS61系統の写真及び発現レベルを示す(図4a,b)。SG1過剰発現イネ(SG1:OX)の種子の長さ(粒長)及び粒間スペースを測定しWT(日本晴)と比較した(図4c,d)。すると粒長についてはすでに報告したとおりにSG1:OXで短くなっていたが、粒間スペースについてもWTに比べ短くなっていた。このことから、SG1の過剰発現により粒間スペースを短くできることが初めて示された。
【0066】
2.SG1及びSGL2のノックダウンイネの作製と解析
SG1をノックダウン(KD)するイネを作製することにより、過剰発現体と逆の表現型が認められるかどうか調べることにした。SG1には相同性のある遺伝子SGL1(Os08g0474100),SGL2(Os02g0762600)が存在するが、SGL1に対応するcDNAは報告されていないため、SGL1は機能していない可能性が高い。一方SGL2はSG1と同様の機能を持っている可能性があるので、SG1とSGL2の2つの遺伝子を同時にKDするイネを作製することにした。
SG1の3’非翻訳領域300bp及びSGL2の3’非翻訳領域420bpを用いてRNAi用ベクターpANDASGL2SG1iを作製した(図3)。このプラスミドを用いてアグロバクテリウム法でイネを形質転換し、SG1及びSGL2を同時にノックダウンするイネSG1SGL2RNAiを作製した。SG1及びSGL2は葉ではほとんど発現していないため、出穂後1-3日目位に開花前の頴花と枝梗をサンプリングして発現レベルを調べた。SG1SGL2RNAi-2,4は確かにSG1及びSGL2の発現レベルがWTより低下しており(図5a)、種子の長さは逆に長くなっており(図5c,d)、粒間スペースも長くなっていた(図5b,e)。更に種皮をむいた玄米の長さも長くなっており、その結果玄米の重さも重くなっていた(図5f,g)。以上のことからSG1SGL2の両方の発現を抑制することにより、粒長及び粒間スペースを長くできることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、粒間スペースが増加した形質転換植物体の製造方法;
(a)SG1遺伝子の発現を阻害する物質及びSGL2遺伝子の発現を阻害する物質を植物細胞に導入する工程、及び
(b)工程(a)の細胞から植物を再生させる工程。
【請求項2】
SG1遺伝子の発現を阻害する物質及びSGL2遺伝子の発現を阻害する物質が導入された細胞であって、粒間スペースが増加した形質転換植物体を再生しうる細胞。
【請求項3】
請求項2に記載の細胞から再生された粒間スペースが増加した植物体。
【請求項4】
請求項3に記載の植物体の子孫またはクローンである、粒間スペースが増加した植物体。
【請求項5】
請求項3または4に記載の粒間スペースが増加した植物体の繁殖材料。
【請求項6】
SG1遺伝子の発現を阻害する物質及びSGL2遺伝子の発現を阻害する物質を有効成分として含有する、植物の粒間スペースを増加させるための薬剤。
【請求項7】
再生された形質転換植物体の粒間スペースを測定する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
再生された形質転換植物体の粒間スペースを測定する工程が以下のコンピュータ処理を含む、請求項7に記載の方法;
(a)再生された形質転換植物体の画像データをコンピュータに読み込む工程、
(b)工程(a)の画像データ上における小枝梗分岐点間の長さをコンピュータに入力する工程、
(c)実測値が既知の物体の画像データをコンピュータに読み込み、当該物体の画像データ上における長さをコンピュータに入力する工程、
(d)工程(c)の物体の実測値をコンピュータに入力し、当該物体の画像データにおける長さと実測値のスケール値を計算する工程、および
(e)工程(b)で入力された小枝梗分岐点間の長さおよび工程(d)で計算されたスケール値をもとに小枝梗分岐点間の長さの実測値を計算する工程。

【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【図5fg】
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【図7】
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【図9】
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【図1】
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【図4】
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【図5a−e】
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【図6】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−182760(P2011−182760A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54518(P2010−54518)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年11月20日、http://share.dynacom.jp/mbsj2009abst/index.php?p_no=4P−0610&btn_syousai=onを通じて発表。平成21年12月12日、特定非営利活動法人日本分子生物学会主催の研究集会「第32回日本分子生物学会年会」において文書をもって発表。
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)農林水産省「平成19年度アグリ・ゲノム研究の総合的な推進」(有用遺伝子活用のためのイネゲノム研究・ゲノム育種による効率的品種育成技術の開発)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(501167644)独立行政法人農業生物資源研究所 (200)
【Fターム(参考)】