説明

粘土薄膜及びその製造方法

【課題】乾燥時の強度やフレキシビリティのみならず、耐水性にも優れた粘土薄膜(自立性の粘土配向膜)を開発する。
【解決手段】粘土薄膜は、粘土が層状に堆積しており、乾燥時の引張強度が5MPa以上、水中に1分間浸漬した後で測定する湿潤引張強度が0.40MPa以上である。この粘土薄膜は、粘土と架橋剤を分散用液体中で分散し、得られる分散液から、非攪拌下、粘土と架橋剤を膜状に堆積し、かつ固液分離によって液体部分を除去することによって製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自立膜や保護膜として開発された粘土配向膜の改良技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、粘土薄膜は、基板などの表面に皮膜として形成されていた。これら皮膜はいずれも強度が低く、自立膜として膜単独で取り扱うのに必要な強度を備えたものは存在しなかった。
【0003】
近年、自立膜として必要な強度を備え、耐熱性及びフレキシビリティに優れた粘土薄膜が開発された(特許文献1〜2)。この特許文献1〜2では、粘土を水中に分散して均一な粘土分散液を調製し、この分散液を静置し、粘土粒子を沈積させ、分散媒である液体を固液分離手段で分離して膜状に形成し、粘土配向膜(粘土薄膜)を作成している。また更に、必要に応じて、温度110〜300℃で乾燥している。この自立膜は、耐熱性に優れたガスバリア材料(パッキン、ガスケット、シール材など)や、各種部材を防食性、防錆性、防汚性、耐熱性、酸化防止などの点で改善するための保護膜として使用することが提案されている。
【0004】
しかしこの粘土配向膜は耐水性が低く、水に触れるとたちまち強度が低下する。
【特許文献1】特開2005−104133号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2006−77237号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、乾燥時の強度やフレキシビリティのみならず、耐水性にも優れた粘土薄膜(自立性の粘土配向膜)を開発する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特許文献1〜2で得られるような自立性の粘土配向膜に架橋剤を含ませると、耐水性が著しく向上することを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち本発明にかかる粘土薄膜は、粘土が層状に堆積した薄膜であって、乾燥時の引張強度(以下、湿潤引張強度と区別するため、乾燥引張強度という)が5MPa以上、水中に1分間浸漬した後で測定する湿潤引張強度が0.40MPa以上である点に要旨を有する。好ましくは水中に24時間浸漬した後でも0.1MPa以上の湿潤引張強度を示す。この粘土薄膜は極めて緻密であり、全体的に平面方向の配向性を保ちつつ、層間の空隙は非常に小さく、層面同士が密着している。そのためガスバリア性にも優れており、ヘリウム、水素、酸素、窒素、又は空気に対する室温でのガス透過係数が、前記いずれの気体についても、例えば、1×10-11cm2-1cmHg-1未満程度である。さらに耐熱性にも優れており、温度250℃から温度700℃までの間の熱重量変化が通常5重量%以下であり、かつこの温度範囲内で示差熱のピークも認められないことが多い。また材料によっては(例えば、後述するポリマー、ポリマー前駆体などのポリマー系添加剤を用いた場合)、温度250℃から温度400℃までの間の熱重量変化が通常5重量%以下であり、かつこの温度範囲内で示差熱のピークも認められないことが多い。前記粘土としては、スメクタイト(雲母、バーミキュライト、モンモリロナイト、鉄モンモリロナイト、マグネシアンモンモリロナイト、鉄マグネシアンモンモリロナイト、バイデライト、アルミニアンバイデライト、サポナイト、アルミニアンサポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト、ノントロナイト、アルミニアンノントロナイト、ソーコナイトなど)が使用される。
【0008】
本発明の粘土薄膜は、粘土と架橋剤を分散用液体中で分散し、得られる分散液から、非攪拌下、粘土と架橋剤を膜状に堆積し、かつ固液分離(自然乾燥、加熱乾燥、真空乾燥、凍結真空乾燥、遠心分離、膜分離など)によって液体部分を除去することによって製造できる(内添法)。好ましくは平面体の上で前記分散液を静置し、温度30〜50℃で加熱することによって、分散用液体を蒸発させながら粘土と架橋剤を膜状に沈積させる。分散液中の粘土の濃度は、例えば、0.5〜10質量%であり、架橋剤の量(固形分基準)は、粘土100質量部に対して、例えば、0.1〜10質量部程度である。
【0009】
前記分散液は、さらにポリマー系添加剤(ポリマー、ポリマー前駆体など)を含有していてもよい。ポリマー系添加剤としては、ポリ乳酸、乳酸オリゴマー、ポリアミック酸などが例示できる。ポリマー系添加剤は、エマルジョンであってもよい。
【0010】
分散液から粘土を膜状に体積させるのに先だって、分散液を脱気処理することが推奨される。
【0011】
本発明の粘土薄膜は、粘土を分散用液体中で分散し、得られる分散液から粘土を膜状に堆積し、かつ固液分離によって液体部分を除去し、得られる薄膜をさらに架橋剤で処理することによっても製造できる(外添法)。内添法で得られた粘土薄膜(架橋剤と共に堆積させた粘土薄膜)を外添法と同様にしてさらに架橋剤で処理してもよい。
【0012】
さらに内添法又は外添法によって架橋剤による処理を行う場合、架橋剤で処理する際にポリマー系添加剤でも処理してもよい。
【0013】
前記粘土薄膜は、温度50〜300℃で加熱することが推奨される。
【0014】
架橋剤としては、フルオロシラン、複数のアルコキシル基を有するSi、複数のアルコキシル基を有する金属(Al、Tiなど)が使用できる。好ましい架橋剤は、複数のアルコキシル基を有するSi(アルコキシシラン剤)である。アルコキシシラン剤としては、1)R1m−Si−(OR2n (式中、R1はアミノ基が結合したC1-8アルキル基であり、R2はC1-8アルキル基である。mは0〜2の整数を示し、nは2〜4の整数を示し、mとnの合計は4である)、2)前記R1m−Si−(OR2n をオリゴマー化したもの、3)又はこれらの混合物が挙げられる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の粘土薄膜は、架橋剤で処理されているため、乾燥引張強度やフレキシビリティのみならず、耐水性(湿潤引張強度)にも優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、架橋剤の添加方式に応じて、内添法及び外添法の大きく2つに分けられる。まず始めに内添法について説明する。内添法では、粘土と架橋剤を分散用液体中で分散し、得られる分散液から、非攪拌下、粘土を膜状に堆積し、かつ固液分離によって液体部分を除去することによって粘土薄膜を製造している。非攪拌下で粘土を堆積しているため、極めて高度に配向した粘土薄膜が得られる。また架橋剤を使用しているため、粘土薄膜の耐水性が著しく改善される。なお架橋剤はそのままの状態で粘土薄膜に含まれるのではなく、溶媒や粘土と相互作用しながら(特にその一部の基が置換した状態で)粘土薄膜に含まれるものと思われる。
【0017】
前記粘土としては、スメクタイト(天然スメクタイト、合成スメクタイトなど)が用いられる。スメクタイトには、例えば、雲母、バーミキュライト、モンモリロナイト類(モンモリロナイト、鉄モンモリロナイト、マグネシアンモンモリロナイト、鉄マグネシアンモンモリロナイトなど)、バイデライト類(バイデライト、アルミニアンバイデライトなど)、サポナイト類(サポナイト、アルミニアンサポナイトなど)、ヘクトライト、スチーブンサイト,ノントロナイト類(ノントロナイト、アルミニアンノントロナイトなど)、ソーコナイトなどが含まれる。これら粘土は、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。好ましい粘土は、工業的に入手が容易である粘土、例えば、モンモリロナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト、サポナイトなど(特にモンモリロナイト)である。
【0018】
粘土鉱物は薄片状物や板状物であり、それらの大多数は層状構造である。モンモリロナイトを例にとってその性質をさらに詳細に説明する。プラスチックエージ2004年5月号に掲載されている論文「ナノコンポジット用モンモリロナイト添加剤」(鈴木敬三著)には、「モンモリロナイトの…基本となる…、Siイオンが4個の酸素イオンで囲まれたSiO4四面体が底面の3個の酸素を共有しながら二次元的に連結すると、酸素イオンは六角網目を形成しながら1枚のシートができる。このシートを四面体シートと名づける。各々の四面体の頂点に位置する酸素イオンも六角網目を形成する。この、頂点方向に形成された六角網の中心にOHイオンを配置する。四面体シート2枚を頂点酸素が向かい合う形で重ね合わせると、4個の酸素イオンと2個のOHイオンで構成される正八面体が、稜を共有しながら二次元的に連結したシートが形成される。このシートを八面体シートと名づける。八面体の中心には、Al、Mgなどの陽イオンが位置する。八面体シートには、1/2単位胞あたり陽イオンが入りうる席が3箇所ある。Mgのような2価の陽イオンは、3箇所全部に入りうるが、Alのような3価の陽イオンは2箇所にしか入れず、1箇所は空席になっている。モンモリロナイトの構造は、Si−O四面体シート2枚がAl−O、OH八面体シート1枚をサンドイッチ状に挟み込んだ構造である。…モンモリロナイトの場合、八面体陽イオンのAlの一部がMgで置換されており、結晶層は、陽電荷の不足=陰電荷、を有している。この陽電荷の不足を補うため、層間にNa+、Ca2+などの陽イオンと水分子が存在する。この陽イオンを交換性陽イオンあるいは層間イオンと呼んでいる。…モンモリロナイトの…最も特徴的なのは、層間に水分子を取り込み層間隔が大きくなることである。この性質を“膨潤性”と呼んでいる。…交換性陽イオンが、Na+であるかCa+であるかによって膨潤性が異なる。」と説明されている。またこの論文の図2には、層間の陽イオンをNa+またはCa2+に交換した場合、相対湿度40%での層間隔(隣接する二つの底面間の距離)が、Na+型で1.25nm、Ca2+型で1.5nmになることが示されている。また図3には、水/モンモリロナイト比(含水比)を変えた場合の層間隔が示されており、Na+型では含水比5倍で層間隔が約9nmになり、含水比20倍で層間隔は約15nmに広がるとされている。これに対してCa2+型では同様に含水比を変えても層間隔は2nmのままであることが示されている。
【0019】
以上の粘土鉱物(モンモリロナイト)の性質からすれば、粘土配向膜を調製する過程で、層間の交換性陽イオンをアルカリ金属イオンからアルカリ土類金属イオンに置換すれば、含水比の増大に伴う底面間隔の拡大(膨潤)を低減でき、耐水性の低下をある程度防止することは可能であると思料される。しかし、粘土粒子間は水素結合で結ばれているに過ぎないため、湿潤状態での引張強度を十分に高めることは難しい。そこで本発明では、架橋剤を使用することとした。粘土中の水酸基などの化学的な活性点を利用して粘土粒子を架橋することにより、粘土配向膜の湿潤引張強度を著しく向上させることができる。
【0020】
架橋剤としては、粘土(スメクタイトなど)の水酸基(−OH基)と結合可能な官能基を複数有する限り特に限定されないが、例えば、フルオロシラン、複数のアルコキシル基を有するSi、複数のアルコキシル基を有する金属(特にAl、Tiなど)が挙げられる。好ましい架橋剤は、複数のアルコキシル基を有するSi、Al、又はTiなどであり、特に好ましい架橋剤は複数のアルコキシル基を有するSi(以下、アルコキシシラン剤と称する)である。
【0021】
アルコキシシラン剤としては、テトラアルコキシシランや種々のシランカップリング剤が使用できる。シランカップリング剤には、ビニル系シランカップリング剤(ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランなど)、アミノ系シランカップリング剤(N−(2−アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N,N’−ビス[3−(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミンなど)、エポキシ系シランカップリング剤(3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなど)、クロル系シランカップリング剤(3−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシランなど)、メタクリロキシ系シランカップリング剤(3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランなど)、メルカプト系シランカップリング剤(3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン)、ケミチン系シランカップリング剤(N−(1,3−ジメチルブチリデン)−3−(トリエトキシシリル)−1−プロパンアミンなど)、カチオン系シランカップリング剤(N−[2−(ビニルベンジルアミノ)エチル]−3−アミノプロピルトリメトキシシラン・塩酸塩など)、予めオリゴマー化しておいたシランカップリング剤(特にアミノ系シランカップリング剤、エポキシ系シランカップリング剤など)などが含まれる。これらアルコキシシラン剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0022】
好ましいアルコキシシラン剤は、
1)下記式(1)で表される化合物(モノマー型アルコキシシラン剤)、
1m−Si−(OR2n …(1)
(式中、R1はアミノ基が結合したC1-8アルキル基であり、R2はC1-8アルキル基である。mは0〜2の整数を示し、nは2〜4の整数を示し、mとnの合計は4である)、
2)前記式(1)のモノマーをオリゴマー化したもの、又は
3)これらの混合物である。
【0023】
前記OR2が加水分解してシラノール基とアルコール(R2OH)を生成し、このシラノール基が自己縮合することによってアルコキシシラン剤はオリゴマー化し、またシラノール基が粘土のヒドロキシル基と縮合することによって粘土を架橋する。R2の炭素数が小さいほど加水分解速度が速くなり、逆に炭素数が大きいほど加水分解速度が遅くなる。加水分解速度が速すぎると分散液の粘度が速やかに高くなり、成膜操作が難しくなる。一方、加水分解速度が遅すぎると作業効率が低下する。R1の炭素数は、分散液の粘度に影響を与える成膜条件(温度、濃度など)に応じて適宜設定すればよいが、例えば、1〜8程度、好ましくは2〜5程度である。なお副生アルコール(R2OH)は、成膜過程で分散用液体(分散媒)と同様に除去(特に蒸発によって除去)するのが望ましい。R2の炭素数が小さいほど、副生アルコール(R2OH)の沸点が低くなって蒸発除去が容易になる。この観点から炭素数の上限は、例えば、4程度、特に3程度に設定してもよい。
【0024】
また式(1)のアルコキシシラン剤におけるアミノアルキル基(R1)は、粘土配向膜の均一性を高める効果がある。その結果、粘土配向膜の耐水性(湿潤引張強度)及び強度(乾燥引張強度)をさらに高めることができる。R1の炭素数は、例えば、1〜8程度、好ましくは2〜5程度である。
【0025】
なお式(1)のアルコキシシラン剤において、アミノアルキル基(R1)は必須ではなく、その数(m)は0であってもよい。アミノアルキル基(R1)は粘土を架橋した後も粘土配向膜中に残存し、この粘土配向膜を高温で使用すると、熱分解して膜外に排出される虞がある。アミノアルキル基(R1)の数(m)を0にし、アルコキシル基(OR2)の数(n)を4にすることで、粘土配向膜の高温耐久性をさらに高めることができる。一方、アミノアルキル基(R1)の数(m)を1〜2にすれば、上述した様に、粘土配向膜の耐水性(湿潤引張強度)及び強度(乾燥引張強度)をさらに高めることができる。
【0026】
また式(1)の化合物を予めオリゴマー化した場合にも、粘土配向膜の耐水性(湿潤引張強度)及び強度(乾燥引張強度)をさらに高めることができる。
【0027】
分散用液体(分散媒)としては、水、水溶性液体(アルコールなど)、またはこれらの混合液などの水親和性液体(水性液体)が好適に使用できる。なお分散用液体に水、又は水混合液を使用する場合、架橋剤中のアルコキシル基が分散液体中で加水分解し易い。従って好ましい液体(特に水/アルコール比)は、粘土と架橋剤の分散性、及び架橋剤の加水分解性に応じて適宜設定できる。
【0028】
粘土、テトラアルコキシシラン、アミノ系シランカップリング剤などを分散する場合、いずれも水中で均一に分散し易いため、均一分散性を重視する場合には分散媒にi)水又はii)水−アルコール混合液(特に10質量%以下の範囲でアルコールを含む水)を使用してもよい。ただし分散媒に水又は水−アルコール混合液(好ましくは水)を使用する場合には、上述した様に、早期の加水分解を回避することが推奨される。例えば、粘土と架橋剤を同時に分散媒に入れるよりは、粘土を分散媒に入れて攪拌して十分に均一に分散した後で、架橋剤を添加する方が望ましい。なお粘土の分散液の濃度(粘度)が高いと、架橋剤をそのまま(例えば原液のまま)添加した場合には、架橋剤を十分に分散できない虞がある。このような場合には、添加剤を予め分散媒で希釈してから添加してもよい。希釈用分散媒は、水、アルコール、水−アルコール混合液のいずれであってもよいが、架橋剤を添加した後の分散液の最終的な均一性に悪影響を与えないようにするのが望ましく、架橋剤添加後の分散液全体に対するアルコールの割合が10質量%以下(特に0質量%)にするのが推奨される。
【0029】
分散媒に使用するアルコールとしては、種々のアルコールが使用でき、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノールなどのC1-8アルコールが例示できる。好ましいアルコールは沸点が水より低いアルコール、例えば、メタノール、エタノールなどである。
【0030】
分散液中の粘土の濃度は、例えば、0.5〜10質量%、好ましくは0.8〜4質量%、さらに好ましくは1〜2質量%である。粘土の濃度が低いほど、一般に、平面方向で均一な配向膜を製造するのが容易になる。但し濃度が低すぎると、粘土粒子の堆積速度が粒子の大きさに応じて異なるため、膜厚方向に粒度分布が不均一になりやすく、また分散媒の除去に長時間を要して効率性が低下する。逆に粘土の濃度が高すぎると、粘土を十分に分散出来ず、膜の均一性が低下する。これらの影響を考慮して分散液中の粘土の濃度が設定される。
【0031】
分散液中の架橋剤の量(後述する外添法の場合は、含浸・塗布用の架橋剤含有液中の架橋剤の量)は、粘土に対する量として設定できる。架橋剤の量(架橋剤全量基準)は、粘土100質量部に対して、例えば、0.2〜20質量部程度、好ましくは1〜10質量部程度である。また架橋剤の固形分量を基準とする場合、架橋剤の量は、粘土100質量部に対して、例えば、0.1〜10質量部程度、好ましくは0.5〜5質量部程度である。内添法では、分散液中の架橋剤の濃度が低いほど、粘土の配向性を保つのに有利である(なお後述する外添法の場合は、含浸・塗布液中の架橋剤の濃度が高いほうが1回の処理で架橋剤の混入量が所定量以上に到達しやすくなり、成膜効率を高めるのに有利である)。また架橋剤の濃度が低いほど、粘土配向膜のフレキシビリティを高くできる。また逆に分散液中の架橋剤の濃度を高くするほど、耐水性(湿潤引張強度)や強度(乾燥強度)を高めることができる。架橋剤の量は、これらの影響を考慮して設定される。
【0032】
分散媒中での粘土と架橋剤の分散法は特に限定されず、例えば、分散媒を攪拌することによって分散してもよく、分散媒を激しく流動させることによって分散してもよく、高速回転式超音波分散を行ってもよい。分散度を高めるほど、湿潤引張強度や乾燥引張強度が高くなる。なお分散処理後、分散液の粘土が上昇し、気泡が発生することがある。そのまま成膜すると、膜体中に気泡が残り、湿潤引張強度や乾燥引張強度がかえって低下する虞がある。そのため分散条件を適宜制御して気泡が発生しないようにしてもよい。また後述するようにして、消泡してもよい。
【0033】
分散処理後、減圧処理(又は脱気処理)してから成膜することが推奨される。減圧処理(又は脱気処理)すれば、分散液に気泡が発生しても、消泡できる。また減圧処理すれば、分散液中に低沸点溶媒(前記アルコールなどの水溶性液体や後述する補助溶媒など)が存在しても、この低沸点溶媒を除去することができ、さらには必要に応じて回収することもできる。
【0034】
なお前記分散液には、適当な段階で(好ましくは分散処理前に)さらにポリマー系添加剤(ポリマー、ポリマー前駆体(モノマー反応物などの中間体など)など)を含有させてもよい。ポリマー系添加剤を用いることで、粘土結晶−架橋剤−ポリマー系添加剤間でネットワークを形成するためか、粘土薄膜の諸特性(例えば、柔軟性、湿潤引張強度、乾燥引張強度など)を更に向上させることができる。
【0035】
ポリマーやポリマー前駆体としては、分散媒(特に水)に対する親和性が優れているものが好ましく、例えば、樹脂エマルジョンが挙げられる。樹脂エマルジョンには、ポリオレフィンエマルジョン(ポリエチレンエマルジョン、ポリプロピレンエマルジョン、石油樹脂エマルジョン)、アクリル系エマルジョン(アクリル樹脂エマルジョン、アクリル−スチレン共重合樹脂エマルジョン、シリコーン−アクリル酸エステルハイブリッド樹脂エマルジョン)、酢酸ビニル系エマルジョン(酢酸ビニルエマルジョン、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョン)、エチレン−酢酸ビニル−アクリル酸エステル多元共重合樹脂エマルジョン、ポリ乳酸エマルジョン、フッ素樹脂エマルジョン、ウレタン系樹脂エマルジョン、アミノ樹脂エマルジョン(尿素グリオキザール系樹脂エマルジョン、変性メラミン樹脂エマルジョン、尿素高縮合樹脂などの硬化型アミノ樹脂エマルジョンなど;メラミン樹脂エマルジョン、尿素樹脂エマルジョン、ベンゾグアナミン樹脂エマルジョンなど)などが例示できる。
【0036】
また前記ポリマー又はポリマー前駆体としては、酸基やエステル基を有するものが好ましい。酸基やエステル基があれば、エマルジョン型でなくても、分散媒との親和性に優れている。
【0037】
特に好ましいポリマー系添加剤には、乳酸系添加剤(ポリ乳酸(特にポリ乳酸エマルジョン)、乳酸オリゴマーなど)、ポリアミック酸(ポリイミド前駆体)などが含まれる。乳酸系添加剤は、環境面で優れている。ポリアミック酸は、重合するとポリイミドを形成するため、粘土薄膜の優れた耐熱性を損なうことがない。
【0038】
ポリマー系添加剤の量(固形分基準)は、粘土100質量部に対して、例えば、1〜30質量部程度、好ましくは3〜20質量部程度、さらに好ましくは5〜15質量部程度である。
【0039】
ポリマー系添加剤を分散液に含有させる場合、補助溶媒でポリマー系添加剤を希釈(又は分散、或いは溶解)するなど、必要に応じて補助溶媒を用いてもよいが、補助溶媒の量は少ないほど(特に使用しないのが)望ましい。補助溶媒を低減することによって、成膜過程の安全性を高めることができ、また環境に対する負荷を低減できる。
【0040】
補助溶媒としては、低沸点(例えば沸点が水と同等以下)である溶媒や水溶性の溶媒が好ましい。低沸点の水溶性溶媒としては、例えば、アンモニア、ケトン類(アセトン、ジオキサンなど)、エーテル類(テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテルなど)、アルコール類(メタノール、エタノールなど)などが例示できる。これら補助系溶媒は、水と混合して使用してもよい。
【0041】
補助溶媒の量(補助溶媒を水と混合して使用する場合には、補助溶媒単独の量)は、ポリマー系添加剤1質量部に対して、例えば、50質量部以下、好ましくは10質量部以下、さらに好ましくは5質量部以下程度である。
【0042】
得られた分散液から、上述した様に、非攪拌下、粘土を膜状に堆積し、かつ固液分離によって液体部分を除去することによって粘土薄膜を製造できる。例えば、分散液を平面体(周囲に側壁を有する平面体、例えばトレーなど)の上で静置し、粘土を平面体の上に沈積させてもよい。なお平面体の表面を撥水処理しておき、水平を保った状態で乾燥すれば、自立膜を容易に得ることができる。より詳細に説明すると、粘土だけを成膜する場合には、引張強度が弱く、乾燥時の収縮によって亀裂が入りやすくなるため、大面積の自立膜の作製が難しいが、架橋剤を入れた場合には、膜の引張強度が強くなるので、粘土薄膜周囲を固定できるように工夫しておけば乾燥時に粘土薄膜が収縮に耐え亀裂が入らない。そして沈積面を撥水処理しておけば大面積の粘土薄膜であっても容易に剥がすことができ、大面積の自立膜(粘土薄膜)を容易に得ることができる。またフィルター表面に粘土と架橋剤を堆積(特に沈積)させれば、フィルター裏面に液体を排出することで、粘土薄膜をさらに容易に形成できる。
【0043】
固液分離には、乾燥(自然乾燥、加熱乾燥、真空乾燥、凍結真空乾燥)、遠心分離、膜分離などの種々の方法が採用できる。好ましい固液分離は、乾燥である。特に強制送風式乾燥機などのように温度30〜50℃の風を供給して分散媒を蒸発させながら粘土と架橋剤を膜状に沈積させれば、極めて静かな状態で沈積及び固液分離を行うことができ、配向性の著しく高い粘土配向膜が得られる。
【0044】
架橋剤は、必ずしも内添法によって添加する必要はなく、外添法によって添加してもよい。外添法では、架橋剤を使用しない以外は内添法と同様にして粘土配向膜(自立膜、保護膜)を得、この粘土配向膜を架橋剤で処理する。粘土配向膜を架橋剤で処理するには、架橋剤を含む溶液を粘土配向膜に塗布又は含浸し、次いで内添法の場合と同様にして固液分離(特に乾燥)すればよい。
【0045】
なお内添法によって得られた粘土配向膜を、外添法と同様にしてさらに架橋剤で処理してもよい。
【0046】
架橋剤の添加方法(内添法又は外添法)に合わせて、ポリマー系添加剤の添加方法を設定してもよい。すなわち成膜前に架橋剤を添加する内添法の場合、ポリマー系添加剤も成膜前に添加してもよく、成膜後に架橋剤を添加する外添法の場合、ポリマー系添加剤も成膜後に添加してもよい。なお必要に応じて、内添法によって架橋剤を添加する場合でもポリマー系添加剤を成膜後に添加してもよく、外添法によって架橋剤を添加する場合でもポリマー系添加剤を成膜前に添加してもよい。さらには成膜前及び成膜後の両方でポリマー系添加剤を添加してもよい。
【0047】
内添法及び/又は外添法によって得られた粘土配向膜は、さらに必要に応じて熱処理してもよい。熱処理によって湿潤引張強度及び乾燥引張強度をさらに高めることができる。また熱処理は、大気圧下(即ち無加圧下)で行ってもよいが、粘土配向膜を加圧した後で行う方が、或いは粘土配向膜を加圧しながら行う方がより効果的である。加圧の圧力の上限は特に限定されないが、例えば、20MPa程度である。熱処理の温度は、例えば、50〜300℃程度、好ましくは150〜300℃程度、特に200〜300℃程度の範囲から選択できる。加圧と組み合わせれば、低温でも熱処理の効果が得られる。なおポリアミック酸を用いて湿潤引張強度を上げる場合、熱処理温度は、例えば、260℃以上にすることが推奨される。一方、ポリ乳酸を熱処理する場合、ポリ乳酸が分解しないようにして熱処理することが推奨され、例えば、熱処理温度を200℃以下にしたり、非酸化性ガス雰囲気下(例えば、窒素雰囲気下)で熱処理することが望ましい。
【0048】
上記のようにして得られた本発明の粘土配向膜は、フレキシビリティ、乾燥引張強度、耐水性(湿潤引張強度)に優れている。乾燥引張強度は、例えば、5MPa以上、好ましくは8MPa以上、さらに好ましくは10MPa以上、特に15MPa以上である。なお乾燥引張強度は高いほど望ましく、上限は特に設定されないが、例えば、200MPa程度(又は150MPa程度、特に120MPa程度)であってもよい。またポリマー系添加剤を用いない場合の上限は、例えば、40MPa程度、特に30MPa程度(又は20MPa程度)であってもよい。
【0049】
湿潤引張強度は、水中に所定時間浸漬した後での引張強度として測定することができる。本発明の粘土配向膜を水中に1分間浸漬した後での引張強度(以下、1分後湿潤引張強度という)は、例えば、0.40MPa以上、好ましくは1MPa以上、さらに好ましくは4MPa以上、特に6MPa以上(例えば、10MPa以上、又は15MPa以上)である。1分後湿潤引張強度の上限は特に設定されないが、例えば、200MPa程度、又は100MPa程度、特に45MPa程度であってもよい。またポリマー系添加剤を用いない場合の上限は、例えば、25MPa程度(特に15MPa程度)であってもよく、さらに架橋剤の種類(例えばアミン系シランカップリング剤など)によっては10MPa程度(例えば、6MPa程度、特に4MPa程度)であってもよい。水中に5分間浸漬した後での引張強度(5分後湿潤引張強度)も、前記と同様の範囲内であることが推奨される。
【0050】
なお本発明の粘土配向膜の湿潤引張強度は、水中への浸漬時間の経過とともに低下し、約24時間経過する迄に安定し、以後は1週間経っても湿潤引張強度の大きな低下はみられない。本発明の粘土配向膜は、望ましくは、長時間(例えば24時間以上)水中に浸漬した後でも、優れた引張強度を示す(長時間耐水性)。長時間耐水性に優れる粘土配向膜では、水中に24時間浸漬した後での引張強度(24時間後湿潤引張強度)が、例えば、0.1MPa以上(好ましくは0.5MPa以上、さらに好ましくは1.0MPa以上である。24時間後湿潤引張強度の上限は特に設定されないが、例えば、20MPa程度(又は15MPa程度、特に10MPa程度)である。
【0051】
フレキシビリティを一律に規定するのは困難であるが、粘土配向膜の厚さが30〜50μm程度の場合、曲率半径を、例えば、2mm以下、好ましくは1mm以下にできる程度の可撓性がある。
【0052】
また本発明の粘土配向膜は、架橋剤を使用しているため、粘土層が緻密に形成されている。例えば本発明の粘土配向膜の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した場合、粘土層間の空隙が、幅0.1μm以下、好ましくは0.02μm(20nm)以下(特に5
nm以下)程度に抑制されている。
【0053】
さらに本発明の粘土配向膜は、粘土層が緻密に形成されているため、ガスバリア性も従来よりも向上している。本発明の粘土配向膜では、ヘリウム、水素、酸素、窒素、又は空気に対する室温でのガス透過係数が、前記いずれの気体についても、例えば、1×10-11cm2-1cmHg-1未満程度、好ましくは1×10-12cm2-1cmHg-1未満程度、さらに好ましくは1×10-13cm2-1cmHg-1未満程度である。
【0054】
加えて本発明の粘土配向膜は耐熱性にも優れている。例えば、粘土と架橋剤を用い、ポリマー系添加剤を使用しない非ポリマー系の粘土配向膜では、温度250℃から温度700℃までの間の熱重量変化が5重量%以下であり、かつこの温度範囲では示差熱のピークが認められない。またポリマー系添加剤としてポリアミック酸を使用した粘土配向膜では、室温から温度400℃までの間の熱重量変化が5質量%以下であり、かつこの温度範囲では示差熱のピークが認められない。
【0055】
粘土配向膜の膜厚は、例えば、1〜100μm程度、好ましくは10〜80μm程度、さらに好ましくは30〜50μm程度である。架橋剤によって分散液の粘度が上昇する(高分子化される)ため、粘土の濃度が低くても高粘度の分散液を得ることができ、厚さが10μm以下程度(特に5μm以下程度)の極めて薄い自立膜も製造できる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0057】
実施例1
6.0gの粘土(天然モンモリロナイト、商品名「クニピアF」、クニミネ工業(株)製)と、360gの蒸留水をガラス製容器に入れ、約10分間超音波分散(16,000rpm)して均一な粘土分散液を得た。0.24g(固形分基準に換算すると0.10g)のアルコキシシラン剤(アミン系シランカップリング剤(3−アミノプロピルトリエトキシシラン)、商品名「S330」(チッソ(株)製)、固形分含量約41質量%)を40gのメタノールに溶解し、速やかに上記分散液に加え、1分間超音波分散(10,000rpm)した。
【0058】
四辺に高さ1.5cmのゴム製の枠体を取り付けた平坦なポリテトラフルオロエチレン製板(枠体内寸法37cm×27cm)の上に前記分散液を注ぎ、水平を保ったまま温度50℃の温風循環式乾燥機に入れて静置して分散溶媒(水、メタノール)を蒸発させることにより、厚さ約40μmの半透明な粘土薄膜を得た。
【0059】
実施例2
アルコキシシラン剤(3−アミノプロピルトリエトキシシラン)を40gのメタノールに溶解させる代わりに、40gの水に溶解させる以外は、実施例1と同様にした。
【0060】
実施例3
1.0gの粘土(天然モンモリロナイト、商品名「クニピアF」、クニミネ工業(株)製)と、0.04g(固形分基準に換算すると0.02g)のアルコキシシラン剤(アミン系シランカップリング剤(3−アミノプロピルトリエトキシシラン)、商品名「S330」(チッソ(株)製)、固形分含量約41質量%)と、60gの蒸留水をガラス製容器に入れ、回転子(磁石)で約1時間攪拌(600rpm)して、均一な粘土分散液を得た。
【0061】
四辺に高さ1.5cmのゴム製の枠体を取り付けた平坦なポリテトラフルオロエチレン製板(枠体内寸法12cm×12cm)の上に前記分散液を注ぎ、水平を保ったまま温度50℃の温風循環式乾燥機に入れて静置して分散溶媒(水)を蒸発させることにより、厚さ約35μmの半透明な粘土薄膜を得た。
【0062】
実施例4
3−アミノプロピルトリエトキシシランに代えて、オリゴマー化したアミン系シランカップリング剤(商品名「MS3301」(チッソ(株)製)、固形分含量約40質量%)を0.04g(固形分基準に換算すると0.02g)使用する以外は、実施例3と同様にした。
【0063】
実施例5
アミン系シランカップリング剤(3−アミノプロピルトリエトキシシラン)に代えて、エポキシ系シランカップリング剤(3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、商品名「S510」(チッソ(株)製)、固形分含量約40質量%)を0.04g(固形分基準に換算すると0.02g)使用する以外は、実施例3と同様にした。
【0064】
比較例1
アルコキシシラン剤を使用しない以外は、実施例3と同様にした。
【0065】
実施例1〜5及び比較例1で得られた粘土薄膜の湿潤状態の引張強度と乾燥状態の引張強度を以下のようにして測定した。またフィルムを目視で観察し、表面状態を調べた。
【0066】
(1)湿潤引張強度
粘土薄膜から試験片(幅1cm×長さ5cm)を切り出し、水中に所定時間浸漬した後、JIS規格P8135に準拠して湿潤引張荷重(サンプルが切れる時点の荷重)を測定することによって湿潤引張強度を求めた。5回以上測定し(試料片5枚以上)、その平均値を求めた。
【0067】
(2)乾燥引張強度
粘土薄膜から試験片(幅1cm×長さ5cm)を切り出し、エアーコンディショナーで温度が23℃、湿度が50%に調整された室内に1日放置した後、JIS規格P8113に準拠して引張強度(乾燥引張強度)を求めた。5回以上測定し(試料片5枚以上)、その平均値を求めた。
【0068】
結果を表1に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
アルコキシシラン剤を使用しなかった比較例1に比べ、アルコキシシラン剤を使用した実施例1〜5は、水中に1分間浸漬した後の湿潤引張強度(1分後湿潤引張強度)が向上した。
【0071】
実施例1〜5を対比した場合、エポキシ系シランカップリング剤(実施例5)よりもアミン系シランカップリング剤(実施例2〜3)又はオリゴマー化したアミン系シランカップリング剤(実施例4)を使用した場合の方が、1分後湿潤引張強度及び乾燥引張強度が向上した。エポキシ系シランカップリング剤では、分散液の粘度が高くなって膜体に気泡が残存するのに対し、アミン系シランカップリング剤では均一な膜体が得られるためと思料される。なおエポキシ系シランカップリング剤を使用した場合でも、分散液の濃度などの製膜条件を調節して気泡を低減すれば、さらに強度(湿潤引張強度、乾燥引張強度)が向上することが期待できる。
【0072】
また分散液の溶媒を水−メタノール混合液にした場合(実施例1)に比べ、該溶媒を水単独にした場合(実施例2〜4)の方が1分後湿潤引張強度及び乾燥引張強度が向上した。分散液の分散性が高まって凝集物のない均一な膜が得られたためと思料される。
【0073】
さらにアミン系シランカップリング剤を使用した場合(実施例2〜3)よりも、そのオリゴマー化したカップリング剤を使用した場合(実施例4)の方が、湿潤引張強度及び乾燥強度が著しく向上する。カップリング剤の分子鎖が長くなるほど、粘土粒子が架橋しやすくなるためと思料される。
【0074】
(3)断面顕微鏡写真
粘土薄膜についてより詳細に評価するため、実施例2、実施例4、及び比較例1の粘土薄膜の断面を走査型電子顕微鏡((株)日立製作所製「S−2460N形」)で観察した。
【0075】
走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図1〜3に示す。図1は実施例2のSEM写真であり、図2は実施例4のSEM写真であり、図3は比較例1のSEM写真である。従来の粘土薄膜では粘土の層が粗いのに対し(図3参照)、本発明の粘土薄膜は粘土の層が著しく緻密に形成されている(図1〜2参照)。
【0076】
また以下に示すようにして、実施例2の粘土薄膜のガスバリア性及び熱的挙動を調べた。
【0077】
(4)ガスバリア性
バリダイン(Validyne)社製の圧力センサー(圧力トランスデューサー「AP−10」)を取り付けた(株)DJK製の気体透過度試験機気を用い、JIS K 7126に準拠して、ヘリウム、水素、酸素、窒素及び空気に対する薄膜のガスバリア性能(室温)を測定した。
【0078】
実施例2の粘土薄膜の透過係数は、いずれの気体に対しても、1×10-13cm2-1cmHg-1未満であった。この粘土薄膜のガスバリア性は、アルコキシシラン剤を使用しない従来の粘土薄膜よりも顕著に向上していた(例えば、特開2005−104133号公報の実施例4の粘土薄膜のガスバリア性3.2×10-11cm2-1cmHg-1に比べ、2桁以上向上した)。上記SEM写真に示されるように、本発明の粘土薄膜は粘土の層が著しく緻密に形成されるためと思料される。
【0079】
(5)熱的挙動
(株)リガク製の差動式示差熱天秤(TG8120型)を用い、実施例2の粘土薄膜から削り出した試料1.908mgを空気雰囲気中で10℃/分の昇温速度で加熱して熱重量(TG)−示差熱(DTA)分析を行った。
【0080】
結果を図4に示す。
【0081】
温度約100℃までの約10重量%程度の熱重量(TG)の減少は吸着水の蒸発によるものである。その後、温度700℃までは殆ど重量が減少せず(約3重量%程度)、無機物骨格の大きな変化はなく、通常の有機高分子材料にはない高い熱安定性を示した。
【0082】
比較例2〜4
比較例1によって得られた粘土薄膜を温度50℃(比較例2)、150℃(比較例3)、又は300℃(比較例4)で4時間加熱(熱処理)した。
【0083】
実施例6
濃度5質量%のアルコキシシラン剤(テトラエトキシシラン(TEOS:Tetraethyl orthosilicate))のイソブチルアルコール溶液に、比較例1によって得られた粘土薄膜を約10秒間浸漬し、引き上げて30分間乾燥し、さらに温度300℃で4時間加熱(熱処理)した。
【0084】
実施例7〜8
6.0gの粘土(天然モンモリロナイト、商品名「クニピアF」、クニミネ工業(株)製)と、360gの蒸留水をガラス製容器に入れ、回転子(磁石)で約15分攪拌(600rpm)して、均一な粘土分散液を得た。0.24g(固形分基準に換算すると0.10g)のアルコキシシラン剤(アミン系シランカップリング剤(3−アミノプロピルトリエトキシシラン)、商品名「S330」(チッソ(株)製)、固形分含量約41質量%)を40gの水に溶解し、速やかに上記分散液に加え、回転子(磁石)で約45分攪拌(600rpm)した。
【0085】
四辺に高さ1.5cmのゴム製の枠体を取り付けた平坦なポリテトラフルオロエチレン製板(枠体内寸法37cm×27cm)の上に前記分散液を注ぎ、水平を保ったまま温度50℃の温風循環式乾燥機に入れて静置して分散溶媒(水)を蒸発させることにより、厚さ約40μmの半透明な粘土薄膜を得た。
【0086】
この粘土薄膜をさらに温度150℃(実施例7)又は300℃(実施例8)で4時間加熱(熱処理)した。
【0087】
実施例9〜10
実施例7によって得られた熱処理前の粘土薄膜を、濃度5質量%のアルコキシシラン剤(TEOS)のイソブチルアルコール溶液に約10秒間浸漬し、引き上げて30分間乾燥し、さらに温度150℃(実施例9)又は300℃(実施例10)で4時間加熱(熱処理)した。
【0088】
実施例11〜12
実施例2によって得られた粘土薄膜を、濃度5質量%のアルコキシシラン剤(TEOS)のイソブチルアルコール溶液に約10秒間浸漬し、引き上げて30分間乾燥した。この浸漬−乾燥処理をさらに2回(合計3回)繰り返した後、温度150℃(実施例11)又は250℃(実施例12)で4時間加熱(熱処理)した。
【0089】
比較例2〜4および実施例6〜12で得られた粘土薄膜の湿潤引張強度及び乾燥引張強度を前記と同様にして測定した。
【0090】
結果を表2に示す。
【0091】
【表2】

【0092】
比較例2〜3と比較例4との対比から明らかなように、アルコキシシラン剤を使用しない場合でも、熱処理温度を高くすると湿潤引張強度は高くなる。しかしその向上幅は僅かであり、実施例6〜実施例12に示すようにアルコキシシラン剤を使用した場合の方が湿潤引張強度は顕著に高くなる。
【0093】
なおアルコキシシラン剤を成膜時に配合しなくても、成膜後に含浸させておけば、湿潤引張強度を高めることができる(実施例6)。また実施例7〜8に比べて実施例9〜12の方が湿潤引張強度が高いことから明らかな様に、アルコキシシラン剤を成膜時に配合した場合でも、成膜後にアルコキシシラン剤を含浸させれば湿潤引張強度をさらに高めることができる。しかも実施例9と実施例10の対比、及び実施例11と実施例12の対比から明らかな様に、アルコキシシラン剤の含浸後、熱処理を高い温度ですると湿潤引張強度をより一層高めることができる。加えて実施例9と実施例11との対比、及び実施例10と実施例12の対比から明らかな様に、含浸回数を増やすほど、湿潤引張強度をもう一段高めることができる。
【0094】
実施例13
6.0gの粘土(天然モンモリロナイト、商品名「クニピアF」、クニミネ工業(株)製)と、400gの蒸留水をガラス製容器に入れ、約10分間超音波分散(16,000rpm)して均一な粘土分散液を得た。0.24g(固形分基準に換算すると0.10g)のアルコキシシラン剤(アミン系シランカップリング剤(3−アミノプロピルトリエトキシシラン)、商品名「S330」(チッソ(株)製)、固形分含量約41質量%)を10gのメタノールに溶解し、速やかに上記分散液に加え、10分間超音波分散(16,000rpm)した。さらに回転子(磁石)を用いて約1時間攪拌(600rpm)し、次いで約30分間真空引きして消泡することによって、均一な粘土分散液を得た。
【0095】
四辺に高さ1.5cmのゴム製の枠体を取り付けた平坦なポリテトラフルオロエチレン製板(枠体内寸法37cm×27cm)の上に前記分散液を注ぎ、水平を保ったまま温度50℃の温風循環式乾燥機に入れて静置して分散溶媒を蒸発させることにより、厚さ約40μmの半透明な粘土薄膜を得た。
【0096】
実施例14
3−アミノプロピルトリエトキシシランに代えて、オリゴマー化したアミン系シランカップリング剤(商品名「MS3301」チッソ(株)製、固形分含量約40質量%)を0.60g(固形分基準に換算すると0.24g)使用する以外は、実施例13と同様にした。
【0097】
実施例15
実施例14と同様にして得られた粘土薄膜を、1.5℃/分の昇温速度で加熱し、温度250℃で約30分間保持した後、自然冷却した。
【0098】
実施例16
6.0gの粘土(天然モンモリロナイト、商品名「クニピアF」、クニミネ工業(株)製)と、400gの蒸留水をガラス製容器に入れ、約10分間超音波分散(16,000rpm)して均一な分散液を得た。1.2g(固形分基準に換算すると0.48g)のオリゴマー化したアミン系シランカップリング剤(商品名「MS3301」、チッソ(株)製、固形分含量約40質量%)を10gのメタノールに溶解し、速やかに上記分散液に加え、10分間超音波分散(16,000rpm)した。さらに回転子(磁石)を用いて約1時間攪拌(600rpm)し、次いで約30分間真空引きして消泡することによって、均一な粘土分散液を得た。
【0099】
四辺に高さ1.5cmのゴム製の枠体を取り付けた平坦なポリテトラフルオロエチレン製板(枠体内寸法37cm×27cm)の上に前記分散液を注ぎ、水平を保ったまま温度50℃の温風循環式乾燥機に入れて静置して分散溶媒を蒸発させることにより、厚さ約45μmの半透明な粘土薄膜を得た。
【0100】
得られた粘土薄膜を、1.5℃/分の昇温速度で加熱し、温度200℃で約6時間保持した後、自然冷却した。
【0101】
実施例17
粘土薄膜の加熱温度を280℃にする以外は、実施例15と同様にした。
【0102】
実施例18
実施例14と同様にして得られた粘土薄膜を、窒素雰囲気下、1.5℃/分の昇温速度で加熱し、温度200℃で6時間保持した後、自然冷却した。
【0103】
実施例13〜18で得られた粘土薄膜の湿潤引張強度(1分間、3分間、5分間、24時間、又は7日間水中に浸漬した後の湿潤引張強度)及び乾燥引張強度を前記と同様にして測定した。結果を表3に示す。
【0104】
【表3】

【0105】
実施例13〜15より明らかなように、湿潤引張強度は、時間の経過とともに低下していき、約24時間後に安定する。実施例13〜18の粘土薄膜は、24時間後の湿潤引張強度にも優れている。
【0106】
上記の結果をさらに詳細に説明すると、以下の通りである。すなわち無機ベースの粘土薄膜(粘土とシラン系架橋剤からなる粘土薄膜)間で比較すると、熱処理をしていない実施例13は、前記実施例1、2(表1)と比べ、乾燥引張強度と1分後湿潤引張強度の両方が向上した。その理由として、分散溶媒中の水とメタノールの割合の改善、架橋剤を添加した後の超音波分散条件(回転数、分散時間)の改善、さらにこの超音波分散に続く回転攪拌(スターラー攪拌)による架橋剤の加水分解反応の促進(シランカップリング剤中のエトキシ基のシラノール基への加水分解の促進)、真空引きによる消泡と低沸点成分(分散溶媒として用いたメタノール及び加水分解によって生成するエタノール)の除去効果などが挙げられる。実施例13はアミン系シランカップリング剤を用いた例であるが、オリゴマー化したシランカップリング剤を用いた実施例14でも、実施例4に比べ、乾燥引張強度と1分後湿潤引張強度が向上した。その理由として、実施例13と同様の改善処理を行っていること、さらには架橋剤を増量したことなどが挙げられる。
【0107】
ところで表には示していないが、架橋剤を用いることなく得た粘土薄膜(比較例1〜4参照)では、水中での浸漬時間を1分以上長くすると引張強度が限りなくゼロに近づく。例えば、架橋剤を用いない粘土薄膜は、水中に3分間浸漬した後では水中でも自重に耐えられず、溶けながら切れていくため、引張強度が測定不能になる。これに対して実施例13及び14では、浸漬時間を延長することによって湿潤引張強度が低下するものの、水が粘土の層状構造内部の隅々まで浸透されたと思われる24時間後であっても、湿潤引張強度は約1MPa程度の高い値を示す。このことから、成膜後の乾燥条件(50℃)程度であっても、架橋剤中のシラノール基と粘土中の水酸基とが脱水縮合によってシグマ結合しているのではないかと推察される。一方、架橋剤を用いない粘土薄膜は、僅か3分後に湿潤強度が実質ゼロ(測定不能)になることから、シグマ結合が形成されておらず、水に弱い水素結合によって構築されているのではないかと推察される。なお実施例13及び14の粘土薄膜において、24時間後よりも5分後や3分後の湿潤引張強度の方が高いのは、本発明の粘土薄膜が図1や図2に示すような緻密な層状構造を有しているためと推察される。層状構造が緻密になることにより、ガスバリア性のみならず、水の透過に対するバリア性までもが高まり、水が内部まで浸透しにくくなる結果、粘土粒子間の水素結合を長時間に亘って維持できるためと思われる。
【0108】
実施例15は、オリゴマー化したシランカップリング剤を用いて得られる粘土薄膜を更に温度250℃で30分間熱処理した例である。この実施例15は、熱処理しない実施例14に比べ、乾燥引張強度と湿潤引張強度(1分後、3分後、5分後、24時間後)がいずれも向上し、特に24時間後の湿潤引張強度が大きく向上した。このことから熱処理によって脱水縮合が促進され、シグマ結合が増加したと思われる。この実施例15の浸漬時間を更に1週間に延長しても、湿潤引張強度は殆ど変化しなかった。実施例16は、さらに架橋剤を2倍に増やし、熱処理条件を200℃、6時間に変更した例である。実施例16では、実施例15に比べ、乾燥引張強度は約40MPaまで向上したが、湿潤引張強度のさらなる向上は認められなかった。
【0109】
実施例19〜22
3.33g(固形分基準に換算すると0.60g)のポリアミック酸溶液(商品名「U−ワニス−S」、宇部興産(株)製、溶媒:N−メチル−2−ピロリドン、固形分含量約18質量%)を30gのアンモニア水(濃度:10質量%)に溶かし、ポリアミック酸希釈液を調製した。
【0110】
一方、6.0gの粘土(天然モンモリロナイト、商品名「クニピアF」、クニミネ工業(株)製)と、400gの蒸留水をガラス製容器に入れ、約10分間超音波分散(16,000rpm)して均一な分散液を得た。0.60g(固形分基準に換算すると0.24g)のオリゴマー化したアミン系シランカップリング剤(商品名「MS3301」、チッソ(株)製、固形分含量40質量%)を10gのメタノールに溶解し、速やかに上記分散液に加え、10分間超音波分散(16,000rpm)した。さらに回転子(磁石)を用いて約1時間攪拌(600rpm)し、前記ポリアミック酸希釈液を全て加えた後、10分間超音波分散(16,000rpm)し、次いで約30分間真空引きして消泡することによって、均一な粘土分散液を得た。
【0111】
四辺に高さ1.5cmのゴム製の枠体を取り付けた平坦なポリテトラフルオロエチレン製板(枠体内寸法37cm×27cm)の上に前記分散液を注ぎ、水平を保ったまま温度50℃の温風循環式乾燥機に入れて静置して分散溶媒を蒸発させることにより、厚さ約50μmの褐色の粘土薄膜を得た。
【0112】
得られた粘土薄膜を、無加圧下(実施例19、20、22)又は30MPaの加圧下(実施例21)、1.5℃/分の昇温速度で加熱し、温度250℃(実施例19〜21)又は280℃(実施例22)に到達後、その温度で30分間(実施例19、22)又は6時間(実施例20、21)保持し、自然冷却した。
【0113】
実施例23
乳酸(L体)を130℃で脱水重合することによって得られる乳酸オリゴマー(分子量約500)0.30gを10gのアセトンに溶かし、乳酸オリゴマー溶液を調製した。
【0114】
一方、6.0gの粘土(天然モンモリロナイト、商品名「クニピアF」、クニミネ工業(株)製)と、480gの蒸留水をガラス製容器に入れ、約10分間超音波分散(16,000rpm)して均一な分散液を得た。0.60g(固形分基準に換算すると0.24g)のオリゴマー化したアミン系シランカップリング剤(商品名「MS3301」、チッソ(株)製、固形分含量40質量%)を10gのメタノールに溶解し、速やかに上記分散液に加え、10分間超音波分散(16,000rpm)した。さらに回転子(磁石)を用いて約1時間攪拌(600rpm)し、前記乳酸オリゴマー溶液を全て加えた後、10分間超音波分散(16,000rpm)し、次いで約30分間真空引きして消泡することによって、均一な粘土分散液を得た。
【0115】
四辺に高さ1.5cmのゴム製の枠体を取り付けた平坦なポリテトラフルオロエチレン製板(枠体内寸法37cm×27cm)の上に前記分散液を注ぎ、水平を保ったまま温度60℃の温風循環式乾燥機に入れて静置して分散溶媒を蒸発させることにより、厚さ約45μmの褐色の粘土薄膜を得た。
【0116】
得られた粘土薄膜を、窒素雰囲気下、1.5℃/分の昇温速度で加熱し、温度200℃で6時間保持した後、自然冷却した。
【0117】
実施例24
0.30gの乳酸オリゴマーを10gのアセトンに溶かした乳酸オリゴマー溶液に代えて、6.0g(固形分基準に換算すると2.0g)のポリ乳酸エマルジョン(商品名「N−233」、中京油脂(株)製、固形分含量33.3質量%)を2gの30質量%アンモニア水と混合した調製液を使用する以外は、実施例23と同様にした。
【0118】
比較例5
6.0gの粘土(天然モンモリロナイト、商品名「クニピアF」、クニミネ工業(株)製)と、400gの蒸留水をガラス製容器に入れ、約10分間超音波分散(16,000rpm)して均一な分散液を得た。次いで、実施例19と同様にして調製したポリアミック酸水溶液(実施例19と同量)を加え、10分間超音波分散(16,000rpm)した。さらに回転子(磁石)を用いて約1時間攪拌(600rpm)し、次いで約30分間真空引きして消泡することによって、均一な粘土分散液を得た。
【0119】
四辺に高さ1.5cmのゴム製の枠体を取り付けた平坦なポリテトラフルオロエチレン製板(枠体内寸法37cm×27cm)の上に前記分散液を注ぎ、水平を保ったまま温度60℃の温風循環式乾燥機に入れて静置して分散溶媒を蒸発させることにより、厚さ約50μmの褐色の粘土薄膜を得た。
【0120】
得られた粘土薄膜を、1.5℃/分の昇温速度で加熱し、温度250℃で30分間保持した後、自然冷却した。
【0121】
実施例19〜24及び比較例5で得られた粘土薄膜の湿潤引張強度(5分間、又は24時間水中に浸漬した後の湿潤引張強度)及び乾燥引張強度を前記と同様にして測定した。結果を表4に示す。
【0122】
【表4】

【0123】
表4より明らかなように、ポリマー系添加剤(ポリアミック酸、乳酸オリゴマー、ポリ乳酸など)を用いると、乾燥引張強度が大きく向上する。より詳細に説明すると、以下の通りである。
【0124】
実施例19〜21は、ポリマー系添加剤としてポリアミック酸を用いた例であり、基本処方に該当する。ポリアミック酸は、ポリイミドの前駆体であり、通常は極性有機溶媒を用いて薄膜化処理又はコーティング処理をするが、極性有機溶媒を用いると環境に対する負荷が大きくなり、また回収作業が繁雑になる。実施例19〜21は、少量の水溶性溶媒(アンモニアなど)で希釈したポリアミック酸を用いれば、水中でもポリアミック酸が均一に分散するという知見に基づいたものである。このようにして得られる粘土薄膜は、高い湿潤引張強度及び乾燥引張強度を示し、特に乾燥引張強度が大きく向上する。
【0125】
ポリマー系添加剤(ポリアミック酸)の添加効果は、温度280℃で熱処理した実施例17及び実施例22、並びに温度250℃で熱処理した実施例19及び比較例5を対比することによってさらに明確になる。実施例17は架橋剤(シランカップリング剤)だけを添加してポリマー系添加剤(ポリアミック酸)を添加しなかった例であり、実施例19と実施例22は架橋剤(シランカップリング剤)とポリマー系添加剤(ポリアミック酸)の両方を添加した例であり、比較例5は架橋剤(シランカップリング剤)を添加せずポリマー系添加剤(ポリアミック酸)だけを添加した例である。ポリマー系添加剤を添加した実施例22の方が、ポリマー系添加剤を添加しない実施例17に比べ、湿潤引張強度及び乾燥引張強度の両方が大きく向上する。特に前記実施例19〜21の例に比べ、湿潤引張強度も大きく向上している点は特筆に値する。熱処理条件が適切であったためである。またポリアミック酸だけを添加した比較例5では、乾燥引張強度が約60MPaと極めて高いのに、水に浸漬すると急速に強度が低下し、5分後湿潤引張強度が実質的にゼロ(自重で切れ、測定不能)になるのに対し、実施例19ではさらに架橋剤を添加することにより、5分後及び24時間後の湿潤引張強度が共に大きく向上した。以上のことから、湿潤引張強度の向上には架橋剤が不可欠であること、ポリアミック酸はこの架橋剤の効果を補助していることが解る。
【0126】
実施例23〜24は、ポリマー系添加剤として乳酸系添加剤(ポリ乳酸、乳酸オリゴマー)を用いた例である。乳酸系添加剤を用いない実施例18と対比すると明らかな様に、これら実施例23〜24でも、乳酸系添加剤を用いることによって湿潤引張強度や乾燥引張強度が向上した。特にポリ乳酸を添加した実施例24は、湿潤引張強度が大きく向上した。
【0127】
また実施例19の粘土薄膜のガスバリア性を前記と同様にして調べた。実施例19の粘土薄膜の透過係数(室温)は、ヘリウム、水素、酸素、窒素及び空気のいずれに対しても、8.8×10-14cm2-1cmHg-1未満であった。
【0128】
さらに実施例19の粘土薄膜の熱的挙動も前記と同様にして調べた。結果を図5に示す。図5より明らかなように、室温から温度400℃までの間の熱重量変化が5重量%以下であり、かつこの温度範囲内では示差熱のピークが認められず、優れた熱安定性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明の粘土薄膜は自立膜として要求される強度を満足し、かつ柔軟性(フレキシビリティ)、耐水性(湿潤引張強度)、ガスバリア性、耐熱性などにも優れている。そのため本発明の粘土薄膜は、ガスバリア材料(パッキン、ガスケット、シール材など)、各種部材の保護膜として使用でき、化学産業分野のみならず、燃料電池をはじめとするエネルギー産業や情報技術(IT)産業を含む幅広い産業分野で新規材料として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0130】
【図1】図1は実施例2の粘土薄膜の断面のSEM写真である。
【図2】図2は実施例4の粘土薄膜の断面のSEM写真である。
【図3】図3は比較例1の粘土薄膜の断面のSEM写真である。
【図4】図4は実施例2の粘土薄膜の熱重量変化及び示差熱を示すグラフである。
【図5】図5は実施例19の粘土薄膜の熱重量変化及び示差熱を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘土が層状に堆積した薄膜であって、乾燥時の引張強度が5MPa以上、水中に1分間浸漬した後で測定する湿潤引張強度が0.40MPa以上である粘土薄膜。
【請求項2】
前記湿潤引張強度が、水中に24時間浸漬した後でも、0.1MPa以上である請求項1に記載の粘土薄膜。
【請求項3】
粘土と架橋剤とから製造される請求項1又は2に記載の粘土薄膜。
【請求項4】
さらにポリマー又はポリマー前駆体を配合することによって製造される請求項3に記載の粘土薄膜。
【請求項5】
前記ポリマー又はポリマー前駆体が、ポリ乳酸、乳酸オリゴマー、又はポリアミック酸である請求項4に記載の粘土薄膜。
【請求項6】
温度250℃から温度700℃までの間の熱重量変化が5重量%以下であり、かつこの温度範囲内で示差熱のピークが認められない請求項1〜3のいずれかに記載の粘土薄膜。
【請求項7】
室温から温度400℃までの間の熱重量変化が5質量%以下であり、かつこの温度範囲内で示差熱のピークが認められない請求項4又は5に記載の粘土薄膜。
【請求項8】
ヘリウム、水素、酸素、窒素、又は空気に対する室温でのガス透過係数が、前記いずれの気体についても1×10-11cm2-1cmHg-1未満である請求項1〜7のいずれかに記載の粘土薄膜。
【請求項9】
前記粘土がスメクタイトである請求項1〜8のいずれかに記載の粘土薄膜。
【請求項10】
前記粘土が、雲母、バーミキュライト、モンモリロナイト、鉄モンモリロナイト、マグネシアンモンモリロナイト、鉄マグネシアンモンモリロナイト、バイデライト、アルミニアンバイデライト、サポナイト、アルミニアンサポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト、ノントロナイト、アルミニアンノントロナイト、及びソーコナイトから選択される少なくとも1種である請求項1〜8のいずれかに記載の粘土薄膜。
【請求項11】
粘土と架橋剤を分散用液体中で分散し、
得られる分散液から、非攪拌下、粘土を膜状に堆積し、かつ固液分離によって液体部分を除去する粘土薄膜の製造方法。
【請求項12】
前記分散液中の粘土の濃度が、0.5〜10質量%である請求項11に記載の粘土薄膜の製造方法。
【請求項13】
架橋剤の量が、粘土100質量部に対して、固形分換算で0.1〜10質量部である請求項11又は12に記載の粘土薄膜の製造方法。
【請求項14】
前記分散液が、さらにポリマー又はポリマー前駆体を含有している請求項11〜13のいずれかに記載の粘土薄膜の製造方法。
【請求項15】
前記ポリマー又はポリマー前駆体が、これらのエマルジョンである請求項14に記載の粘土薄膜の製造方法。
【請求項16】
前記ポリマー又はポリマー前駆体が、ポリ乳酸、乳酸オリゴマー、又はポリアミック酸である請求項14に記載の粘土薄膜の製造方法。
【請求項17】
分散液から粘土を膜状に堆積させるのに先だって、分散液を減圧処理する請求項11〜16のいずれかに記載の粘土薄膜の製造方法。
【請求項18】
平面体の上で前記分散液を静置し、温度30〜50℃で加熱することによって、分散用液体を蒸発させながら粘土を膜状に沈積させる請求項11〜17のいずれかに記載の粘土薄膜の製造方法。
【請求項19】
自然乾燥、加熱乾燥、真空乾燥、凍結真空乾燥、遠心分離又は膜分離によって固液分離する請求項11〜18のいずれかに記載の粘土薄膜の製造方法。
【請求項20】
液体部分を除去することによって得られる粘土薄膜を、さらに架橋剤で処理する請求項11〜19のいずれかに記載の粘土薄膜の製造方法。
【請求項21】
粘土を分散用液体中で分散し、
得られる分散液から、非攪拌下、粘土を膜状に堆積し、かつ固液分離によって液体部分を除去し、
得られる薄膜をさらに架橋剤で処理する粘土薄膜の製造方法。
【請求項22】
架橋剤で処理する際に、ポリマー又はポリマー前駆体でも粘土薄膜を処理する請求項20又は21に記載の粘土薄膜の製造方法。
【請求項23】
請求項11〜22のいずれかに記載の方法で得られた粘土薄膜を、温度50〜300℃で加熱する粘土薄膜の製造方法。
【請求項24】
前記架橋剤が、フルオロシラン、複数のアルコキシル基を有するSi、複数のアルコキシル基を有する金属から選択される少なくとも1種である請求項11〜23のいずれかに記載の粘土薄膜の製造方法。
【請求項25】
前記架橋剤が、複数のアルコキシル基を有するSi、複数のアルコキシル基を有するAl、及び複数のアルコキシル基を有するTiから選択される少なくとも1種である請求項11〜23のいずれかに記載の粘土薄膜の製造方法。
【請求項26】
前記架橋剤が、1)R1m−Si−(OR2n (式中、R1はアミノ基が結合したC1-8アルキル基であり、R2はC1-8アルキル基である。mは0〜2の整数を示し、nは2〜4の整数を示し、mとnの合計は4である)、2)前記R1m−Si−(OR2n をオリゴマー化したもの、3)又はこれらの混合物である請求項11〜23のいずれかに記載の粘土薄膜の製造方法。

【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−7392(P2008−7392A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−298247(P2006−298247)
【出願日】平成18年11月1日(2006.11.1)
【出願人】(591167430)株式会社KRI (211)
【Fターム(参考)】