説明

粘度を高めた醤油含有液状調味料

【課題】粘度を高めることにより味付け対象物への浸透や浸潤の防止を図り、もって液状調味料の摂取量、即ち塩分の摂取量を抑え、更には、料理の飾り付けとしても使用できるようにした、醤油含有液状調味料を提供する。
【解決手段】味付け対象物に浸透又は浸潤しないか、又はしにくい液状調味料であって、粘度が52〜128Pa・Sである醤油含有液状調味料、及び、内容物を排出するためのノズル又は排出口を有し、内容物を押し出す際に変形する柔軟性容器であって、該柔軟性容器に前記醤油含有液状調味料を充填した、容器入り醤油含有液状調味料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、醤油含有液状調味料(以下、「液状調味料」という。)に係り、更に詳しくは、粘度を高めることにより味付け対象物への浸透や浸潤の防止を図り、もって液状調味料の摂取量、即ち塩分の摂取量を抑え、更には、料理の飾り付けとしても使用できるようにした液状調味料に関する。
【背景技術】
【0002】
醤油は大豆を利用した液状の醸造調味食品である。醤油は、大豆と小麦で作った麹を原料とする普通醤油、大豆だけの麹を原料とするたまり醤油とに大別できる。また、普通醤油には、比較的色と味が濃く作られた濃い口醤油と色がうすい淡口醤油がある。 このような醤油は、日本人一人当たり一年間に10〜14リットルほどが消費されているといわれている。
【0003】
醤油の原料の一つに食塩がある(図1参照)。食塩は摂取量が多いと高血圧や心臓病、腎臓病などの原因となることが指摘されている。
【0004】
そこで、塩分の割合を通常の醤油より減らした、いわゆる減塩醤油が提案されている(例えば特許文献1参照)。減塩醤油の塩分は通常6%〜13%で、一般的な醤油と同様の使用量であれば、塩分の摂取量は少なくなるはずであり、高血圧や心臓病、腎臓病に注意を払う消費者に普及すると考えられていた。
【0005】
しかし、実際は減塩醤油は必ずしも十分に効果を発揮しておらずあまり普及していない。これは、味が淡く感じるため、その分多く使用され、その結果塩の摂取量は一般の醤油と変わらないからと思われる。そうであれば、当然のことではあるが、一般の醤油でも使用量を少なくすれば減塩醤油を使用しなくても減塩醤油と同じように食塩の摂取量が少なくなるはずである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−232729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般の醤油の使用量が多くなる原因の一つとして粘度が低いことがあげられる。粘度が低いと味付け対象物の表面に付着しにくい。このために味付け対象物が生野菜を主材料とするサラダのように、醤油が表面に付着しにくい素材の場合は、注いだ醤油の多くは味付け対象物から流れ落ち、味付けに必要な量以上の量を注いでしまう結果、醤油の使用量が多くなり、余分な量の醤油は食器の底に溜まることになる。
【0008】
サラダの素材中に醤油が浸透や浸潤しやすい素材が含まれている場合は、溜まった醤油に浸漬された状態となり、醤油は味付け対象物に浸潤し或いは毛細管現象などによって味付け対象物内に取り込まれる。その結果この味付け対象物を食すると多くの醤油を摂取することとなる。
【0009】
また、味付け対象物が、酢飯と魚介類を組み合わせたにぎり寿司や巻き寿司の場合は、食する人の好みにもよるが、酢飯側を醤油を浸漬する場合がある。
この場合は、酢飯(飯塊)の飯粒間に醤油が毛細管現象や浸透等によって取り込まれ、飯粒間内部で貯留される結果、この寿司を食すると多くの醤油を摂取することになる。
刺身の場合は、魚介類に醤油が浸潤して必要以上に付着又は含有することもある。
【0010】
更に、醤油は欧米においても調味料として使用され、醤油に食酢または柑橘類の果汁、食塩、砂糖類、香辛料などを加え調整したいわゆるぽん酢タイプの醤油を含有する液状調味料が好まれている。
西洋料理では平皿が多く使用され、サラダの盛りつけにも平皿が使用される。ぽん酢タイプの液状調味料の場合も醤油の場合と同じように味付け対象物から流れ落ちて皿の底に溜まり、皿底に溜まった液状調味料が配膳する際に流動し、皿の鍔縁を汚したり、流動の大きさによっては皿からこぼれ落ちる場合もある。
【0011】
ところで、味覚を感じるのは一般的には食品が舌に接触したときであり、特に水溶液の状態のときが強く感じる。固形物を食べるときは、そのものが舌の上で壊れて水溶成分が出てこない限り、表面にある味しか感じないので弱い味になる。
【0012】
この事象を具体的に説明する。例えば同じ味付けを施した硬軟二種類の寒天を例に取ると、寒天が硬い場合は、水溶成分が出ることなく舌の上を通過するために味を感じない。しかし寒天が軟らかい場合は舌の上で簡単に壊れて水溶成分が出るために味を濃く感じる。
【0013】
また、刺身の場合は、口の中で小さく壊れるまでかみ砕く人は殆どいないと考えられるので、表面に付着している醤油のみで味を感じ、内部に浸潤した醤油は味には関与しないと考えられる。したがって刺身が有する醤油のうち、味覚の対象となるのは表面に付着している分だけであって、刺身内に浸潤した分は味覚の対象から除かれるから、浸潤した量だけ醤油の摂取量が多くなる。
【0014】
本発明者等はこれらの知見から、醤油又は液状調味料の粘度を高めれば、味付け対象物への浸潤や毛細管現象等による浸透が防止され、液状調味料の摂取量、即ち塩分の摂取量を抑えることができ、ひいては減塩効果を発揮できることに着目し、鋭意研究を重ね、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題を解決するために本発明が講じた手段は次のとおりである。
本発明は、味付け対象物に浸透又は浸潤しないか、又はしにくい液状調味料であって、粘度が52Pa・S以上である醤油含有液状調味料である。
【0016】
本発明は、味付け対象物に浸透又は浸潤しないか、又はしにくい液状調味料であって、粘度が52〜128Pa・Sである醤油含有液状調味料である。
【0017】
本発明は、内容物を排出するためのノズル又は排出口を有し、内容物を押し出す際に変形する柔軟性容器であって、該柔軟性容器に請求項1又は2記載の液状調味料を充填した、容器入り醤油含有液状調味料である。
【0018】
(作用)
本発明に係る液状調味料は、酢飯や握り飯のように加圧成型した飯塊に味付けする場合、粘度が高いために毛細管現象が起こりにくく、一般の醤油のようには飯粒間に浸透しないので、醤油の摂取量が減少する。
また、粘度が高いので、飯粒や魚介類などに浸潤することも防止でき、減塩効果の高い液状調味料として寿司料理に好適である。
【0019】
柔軟性容器に充填した液状調味料は、使用に当たっては手で容器を加圧して内容物を排出するのであるが、粘度が高いので排出の調整が容易であり、加圧した分に比例して液状調味料はノズル又は排出口から排出されるため、必要以上の液状調味料を使用することを防止でき、塩分の摂取低減に寄与する。
【0020】
液状調味料を味付け対象物の表面に飾り付けとして使用する場合、高い粘度を有するので飾り付けの形が崩れにくく、料理の盛りつけの見栄えをよくすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明は上記構成を有し、下記の効果を奏する。
(1) 液状調味料は、前記粘度であることから味付け対象物へ浸透や浸潤しにくい。したがって液状調味料の摂取量、即ち塩分の摂取量を抑えることが期待できる。
【0022】
(2) 柔軟性容器に充填した液状調味料は、使用に当たっては手で容器を加圧して内容物を排出するのであるが、粘度が高いので排出の調整が容易であり、加圧した分に比例して液状調味料はノズル又は排出口から排出されるため、必要以上の液状調味料を使用することを防止でき、塩分の摂取低減に寄与する。
【0023】
(3) 液状調味料を味付け対象物の表面に飾り付けとして使用する場合、高い粘度を有するので飾り付けの形が崩れにくく、料理の盛りつけの見栄えをよくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】一般的な醤油の製造工程を示した流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明を実施の形態に基づき詳細に説明する。
本願発明に係る液状調味料に使用する醤油は、図1に示すように通常の方法で製造された醤油であり、普通醤油(濃い口醤油又は淡口醤油)、たまり醤油等をあげることができ、特段種類は限定されない。
【0026】
本発明に係る醤油含有液状調味料としては、実施例に示す醤油調味料の他にポン酢調味料をあげることができる。ポン酢調味料は、柚子果汁のような柑橘類の絞り汁に醤油を加えた液状調味料である。必要に応じて酢、味醂、鰹節、昆布、水などを加えることもある。これらの配合も特段限定されない。
【0027】
醤油含有液状調味料は、粘度は、52Pa・S以上、好ましくは52〜128Pa・Sであり、より好ましくは52〜120Pa・Sである。
【0028】
粘度が52Pa・Sに満たないと、味付け対象物へ浸透や浸潤しやすく、必要以上の量の醤油含有液状調味料を摂取することになる。飯塊の味付けに使用した場合は、醤油含有液状調味料が飯塊の飯粒間に毛細管現象によって取り込まれ、飯粒間で貯留され、醤油成分に含まれる塩分を多く摂取することになる。また、保形性に欠け、時間の経過により形が崩壊し、醤油含有液状調味料を料理の飾り付けに使用することが困難となる。
【0029】
粘度は、52Pa・S以上であれば本発明の目的は達成される。しかし、粘度が128Pa・Sを超えると柔軟性容器に充填した場合に、醤油含有液状調味料をノズル又は排出口から押し出して排出しにくくなり、また、個人差はあるが食感の点で一般的ではなくなる場合が生じる。
したがって、発明の目的を達成する範囲内で使用勝手と食感の観点から、より好ましいのは52〜120Pa・Sである。
【0030】
醤油含有液状調味料の粘度を高くするために、増粘剤として増粘多糖類を使用する。増粘多糖類としては、ペクチン、カラギナン、グアーガム、ローカストビーンガム、タマリンドガム、キサンタンガム、CMC(カルボキシメチルセルロース)
、加工でん粉、でん粉等をあげることができる。
【実施例】
【0031】
〔醤油調味料〕
実施例1から12は、図1に示す通常の製造方法で製造される醤油に増粘剤として増粘多糖類(キサンタンガム、CMC)を添加して得られた液状調味料である。増粘剤の添加量と粘度の変化を見るため、増粘剤の添加量を0.50重量%から開始し、発明の効果が得られると想定される範囲については増粘剤の添加量の間隔を細かく区分して増やしていき、3.0重量%まで添加して実施例1から12とした。実施例1から12の液状調味料において異なる点は、増粘剤の量だけであり、その他は同じである。
【0032】
測定に使用した粘度計はデジタル粘度計(DIGITAL VISCOMETER) DVL-BII、製造元:株式会社トキメック 発売元:東機産業株式会社である。測定条件としては、No.4ローターを使用し、試料を100mlトールビーカーに入れ、回転数3.0rpm、温度20℃で測定した。その結果を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
表1から分かるように、増粘剤が1.50重量%の場合は、粘度が21Pa・sであったのが、2.00重量%になると粘度は52Pa・sとなり、急激に粘度は高くなる。
【0035】
また、実施例1から12で得られた醤油含有液状調味料の飯塊への浸透の程度を測定した。測定は、皿に液状調味料を2mmの深さまで入れ、その中に、にぎり寿司を酢飯を下側にして浸漬して1分間放置して毛細管現象による液状調味料の上昇の高さを測定することで行った。その結果を表2に示す。
【0036】
【表2】

【0037】
表2から明らかなように、増粘剤の添加量が1.00重量%未満の場合は飯塊への浸透の度合いが大きく、1.00重量%では浸透による高さは6.00mmである。しかし1.50重量%以上になると飯塊への浸透度合いが低くなり浸透による高さは2.7mmと少なくなるために、酢飯が含有する醤油の量は少なくなる。
【0038】
また、保形性を測定する指標として、ノズルを備えた柔軟性容器に液状調味料を入れ、ノズルから液状調味料を排出して皿の上に線を描き、その形状の崩壊性を見た。その結果を表1に示している。表1から明らかなように、保形性の観点からは、増粘剤の添加量は、2.00重量%以上が好ましいことが分かる。
【0039】
以上のように、飯塊への浸透性と、保形性の観点からは、増粘剤の添加量は、2.00重量%以上が好ましく、粘度は52Pa・s以上が好ましい。
【0040】
なお、液状調味料は、西洋料理では料理の装飾、特に線状模様を描く場合に使用される場合がある。この場合、調理人は前記柔軟性容器のノズルから一定の速度で排出しながら線を描くが、増粘剤の量が2.70重量%以上になると、線を描く場合に容器から液状調味料が円滑に出にくくなり線が連続しなくなる場合が生じる。
【0041】
したがって増粘剤の添加量の上限は、線を描く速度と線が続く速度との調和の観点から2.60重量%以下が好ましいく、そのときの粘度は128Pa・s以下が好ましい。
【0042】
〔ポン酢調味料〕
実施例1で使用した醤油30重量%に、液糖20重量%、柚子果汁11重量%、醸造酢 10重量%、かつおだし2重量%、水27重量%を配合して十分に撹拌し、更に増粘剤を配合してポン酢液状調味料を得た。
【0043】
表3に示す実施例1から10は、前記方法で得られたポン酢調味料に増粘剤として増粘多糖類(キサンタンガム、CMC)を添加して得られた粘度の変化を調べた結果を表している。ポン酢調味料の場合は、醤油調味料に比べて増粘剤の添加量が多く必要となることは経験的に知得しているところから、増粘剤の添加量は2.20重量%から開始し、増粘剤の添加量を0.10重量%ずつ増やしていき、3.10重量%まで添加して実施例1から10とした。
【0044】
実施例1から10の液状調味料において異なる点は、増粘剤の量だけであり、その他は同じである。
【0045】
また、測定に使用した粘度計は、前記醤油調味料の場合と同様に、デジタル粘度計(DIGITAL VISCOMETER) DVL-BII、製造元:株式会社トキメック 発売元:東機産業株式会社である。測定条件としてはNo.4ローターを使用し、試料を100mlトールビーカーに入れ、回転数3.0rpm、温度20℃で測定した。その結果を表3に示す。
【0046】
【表3】

【0047】
飯塊への浸透性と、保形性に対する実験の結果は醤油調味料の場合と比較して、大きな変化はなく、したがって、飯塊への浸透性と、保形性の観点からは、粘度の下限は52Pa・s以上が好ましい。
【0048】
なお、実施例8の粘度は132Pa・s、実施例9の粘度は140Pa・sであるが、ポン酢液状調味料の性状も醤油液状調味料の性状も大体同じであるところから、粘度の上限の128Pa・s以下が好ましい。
【0049】
なお、本明細書で使用している用語と表現は、あくまでも説明上のものであって、なんら限定的なものではなく、本明細書に記述された特徴およびその一部と等価の用語や表現を除外する意図はない。また、本発明の技術思想の範囲内で、種々の変形態様が可能であるということは言うまでもない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
味付け対象物に浸透又は浸潤しないか、又はしにくい液状調味料であって、粘度が52Pa・S以上である醤油含有液状調味料。
【請求項2】
味付け対象物に浸透又は浸潤しないか、又はしにくい液状調味料であって、粘度が52〜128Pa・Sである醤油含有液状調味料。
【請求項3】
内容物を排出するためのノズル又は排出口を有し、内容物を押し出す際に変形する柔軟性容器であって、該柔軟性容器に請求項1又は2記載の液状調味料を充填した、容器入り醤油含有液状調味料。

【図1】
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【公開番号】特開2012−205580(P2012−205580A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−75981(P2011−75981)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000170495)合名会社まるはら (1)
【Fターム(参考)】