説明

粘度測定装置

【課題】流動帯電が生じ易い物質は、測定中に電荷が蓄積するので正確な粘度が得られない。
【解決手段】試料液を入れた容器内に導電性の回転子をいれ、当該回転子に対して、外部から回転磁界を与えることによって回転する回転数と、前記回転磁界の回転数に基づいて、当該試料液の粘度を測定する粘度測定装置において、少なくとも上記容器内面に導電性を持たせる構成とし、回転子、容器内面の双方に電荷が蓄積することを防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は粘性測定装置に関し、特に、回転子に回転磁界を与えて流動帯電が生じ易い物質の粘性を測定する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
物質の粘性の測定は、医薬品、食品、塗料、インク、化粧品、化学薬品、紙、接着剤、繊維、プラスチック、ビール、洗剤、コンクリート混和剤、シリコン等の製造過程で、品質管理、性能評価、原料管理、研究開発に不可欠な測定技術である。
【0003】
粘性度を測定する方法として、毛細管法、振動子を接触させる方法、回転子を用いる方法等がある。
【0004】
上記した測定方法のうち、回転子を用いる方法はWO2009/131185(出願番号:PCT/JP2009/058089)に開示するような構成になっている。
【0005】
すなわち、試料液を充填した容器に、導電性の回転子(球)を沈め、当該回転子に、上記容器の外部から回転磁界を与えるようになっている。
【0006】
この構成により、回転磁界が、回転子に与えられると、回転子に発生する電流と回転磁界との間にローレンツ力が働き、回転磁界に伴って回転子が回転する。このとき、回転子の回転速度は回転磁界の回転速度との間で粘度に応じた遅れが発生するので、この関係を利用して、粘度を算出するようになっている。
【0007】
すなわち、回転子の回転速度と回転磁界の回転速度の差は、所定の傾きを持った一次式で表され、当該一次式の傾きを粘度とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2009/131185号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の国際公開2009/131185に開示の発明は、回転子として市販の金属球を、容器として市販のガラス製試験管等を使用することができる。ところが、流動帯電が生じ易い試料液を扱う場合、回転子の回転にともなって、上記容器内で流動帯電が発生する。
【0010】
このため、回転子と容器との間に上記電荷による吸引力が発生し、回転子の回転速度は本来の回転速度よりも遅くなることになる。
【0011】
図6は、25℃における水(●)とシリコンオイル(△)とトルエン(○)とを測定対象にした場合の結果を示すものである。水は、時間の経過にともなって測定誤差が大きくなることはないが、一方、流動帯電が生じ易いシリコンオイルやトルエンは、短時間であっても発生する誤差が顕著になっている。特に、測定時間の経過に伴うトルエンの粘度の不定期な上昇は著しい。
【0012】
本発明は上記従来の事情に鑑みて提案されたものであって、流動帯電が生じ易い試料液を測定する場合に回転子の回転にともなう電荷の発生を抑える粘度測定装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために本発明は以下の手段を採用している。まず、本発明は、試料液を入れた容器内に導電性の回転子をいれ、当該回転子に対して、外部から回転磁界を与えることによって回転する回転数と、前記回転磁界の回転数に基づいて、当該試料液の粘度を測定する粘度測定装置を前提とする。
【0014】
上記装置において、本発明は少なくとも上記容器内面に導電性を持たせる構成としている。
【0015】
導電性を持たせる構成としては、上記容器全体が導電性物質で形成されている場合、あるいは、上記容器内面に導電性物質がコーティングされている構成、更に容器内部に、金属線若しくは導電性線材を挿入する構成をとることができる。
【発明の効果】
【0016】
上記構成により、回転子の回転にともなって試料液と回転子との間で発生する電荷が、導電性の容器、あるいは導電性コーティング物質や金属線若しくは導電性線材を介して分散し、回転子、容器内面の双方に電荷が蓄積することを防止することができ、従って、時間経過に伴う測定誤差の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は本願が適用される装置の概念図である。
【図2】図2は本発明に使用する容器の一例を示す図である。
【図3】図3は本発明に使用する容器の他の一例を示す図である。
【図4】図4は本願によるシリコンオイルの粘度の測定結果を示すグラフである。
【図5】図5は本願によるトルエンの粘度の測定結果を示すグラフである。
【図6】図6は従来技術による測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は本発明を適用する装置の概要を示す図である。
【0019】
容器1に試料が充填され、その中に回転子6たる、導電性の球(ここではアルミニウム)が入れられる。この球に対して、容器1の外部から回転磁界を与えるようになっている。回転磁界はどのような構成によって与えてもよいが、図1では、一例として複数極の電磁コイル2・・5を容器1の周囲に配置して、回転制御部7によって各電磁コイル2・・5の位相を、所定速度で一方の方向に順次進めるようにしている。
【0020】
上記の構成によって、磁界が回転すると、導電性の回転子6には回転磁界に伴って、電流が誘起され、当該電流と磁界との間に働くローレンツ力によって、回転子6は回転することになる。この回転数ΩSは、試料の粘度に依存するので、当該回転子6の回転状態がカメラ11によって捕らえられ、その映像が画像処理部9によって処理されて、回転子6の回転数ΩSを算出するようになっている。粘度検出部8には前記電磁コイルに与えられる回転磁界の回転数ΩBが上記回転制御部7から、また、前記回転子6の回転数ΩSが画像処理部9より与えられており、この2つの回転数より、粘度が算出されることになる。
【0021】
ところで、上記装置において、試料液が流動帯電し易い物質であると、時間経過とともに、回転する回転子1と試料液との間に発生する摩擦によって、回転子1の表面に電荷が蓄積され、それに伴って容器1の側にも前記回転子とは逆の電荷が蓄積することになる。この電荷は回転子1の回転を阻止する方向に働くので、回転子1の回転速度は、本来得られるべき値よりも小さくなり、図6を用いて説明したように、時間経過とともに見かけ上の粘度が大きくなるような測定結果が出ることになる。
【0022】
そこで、図2に説明するように、上記容器1の少なくとも内面に導電膜21をコーティングして導電性を持たせて、上記発生する電荷を外部に逃がす構成を採ることによって、上記の不都合を解消することができる。尚、上記容器1の内面に導電膜21をコーティングする方法は、例えば、上記容器1の内部で銀鏡反応を生じさせて、当該容器1の内面に銀からなる導電膜21を形成させる銀鏡反応法が採用される。
【0023】
また、図3に示すように、容器1に金属線若しくは導電性線材22(リード線)を挿入して、蓄積する電荷を外部に逃がす構成とすることもできる。
【0024】
図4は、上記図2に示した構成の容器を用いて、25℃におけるシリコンオイルの粘度を測定した場合を示すものである。□に示すように経時的に測定結果に変化を生じないことが理解できる一方、容器に導電性を持たせない場合(△)は図6で説明したと同様、経時的に測定結果の誤差が大きくなることが理解できる。
【0025】
尚、図4では、シリコンオイルの粘度を測定した場合を示しているが、当該シリコンオイルと同様に、流動帯電が生じ易い他の試料、例えば、トルエンの粘度を測定する場合であっても、上記容器1の内面に導電性を持たせる構成を採用すれば、上述と同様に、経時的に測定結果に誤差が生じず、安定して試料の粘度を測定することが可能である。
【0026】
図5には、上記容器1の内面に上記導電膜21をコーティングしていない場合の25℃におけるトルエンの粘度の測定結果(図5中、○)と、上記容器1の内面に上記導電膜21をコーティングした場合(上記図2に対応する容器1)の25℃におけるトルエンの粘度の測定結果(図5中、□)とを示す。
【0027】
図5に示すように、上記導電膜21が上記容器1の内面に無い場合では(図5中、□)、測定時間の経過にともなって、当該容器1内で流動帯電が生じる。すると、生じた電荷により上記回転子6が上記容器1の内面(壁面)に吸着し、当該回転子6の回転が阻止され、当該回転子6の回転数が見かけ上小さくなる。つまり、上記回転子6は本来得られるべき速度で回転することが出来ない。そのため、算出されるトルエンの粘度が時間の経過にともなって不規則に上昇し、当該トルエンの粘度を安定して測定することが出来ないことが理解できる。これに対して、上記導電膜21が上記容器1の内面に設けられている場合では(図5中、□)、トルエンと当該導電膜2とが電気的に接触し、流動帯電により発生した電荷が外部に逃げる。そのため、当該流動帯電の電荷により、上記回転子6の回転が阻止されることが無い。つまり、上記回転子6は本来得られるべき速度で回転する。これにより、上記トルエンの粘度が経時的に変化せずに、当該トルエンの粘度を安定して測定することが出来ることが理解できる。
【0028】
上記構成により、流動帯電が生じ易い試料液の粘度を測定する場合であっても、電荷が蓄積することなく、回転子は本来得られるべき速度で回転し、正確な粘度を得ることができる効果がある。
【0029】
尚、本発明では、上記容器1の内面に上記導電膜21をコーティングする方法として、銀鏡反応法を採用したが、例えば、メッキ法、金属蒸着法、電子ビーム蒸着法などを採用して、当該容器1の内面に導電性を持たせても構わない。
【0030】
又、図2では、内面に導電膜21をコーティングさせた容器1を採用し、図3では、外部に接地された導電性線材22を挿入させた容器1を採用して、前記容器1内面に導電性を持たせたが、他の構成でも構わない。例えば、非磁性で、導電性を有する容器1を採用して、当該容器1内面に導電性を持たせても構わない。当該構成であっても、流動帯電が生じ易い特定の試料の粘度を正確に測定することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、流動帯電が生じ易い試料液の粘度を測定する場合であっても、正確な粘度を得ることができるので、産業上の利用性は極めて大きい。
【符号の説明】
【0032】
1 容器
2・・5 回転磁界
6 回転子
7 回転制御部
8 粘度検出部
9 画像処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料液を入れた容器内に回転子をいれ、当該回転子に対して、外部から回転磁界を与えることによって回転する回転子の回転数と、前記回転磁界の回転数に基づいて、当該試料液の粘性を測定する粘性測定装置において、
少なくとも上記容器内面に導電性を持たせたことを特徴とする粘度測定装置。
【請求項2】
上記容器内面に導電性物質がコーティングされている請求項1に記載の粘度測定装置。
【請求項3】
上記容器内面に金属線若しくは導電性線材が挿入された請求項1に記載の粘度測定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−191294(P2011−191294A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−31442(P2011−31442)
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【出願人】(000161932)京都電子工業株式会社 (29)