説明

粘着剤組成物および粘着シート

【課題】優れた高温保持力および低温接着力を実現し得る粘着剤を形成可能な粘着剤組成物および該組成物を用いた粘着シートを提供する。
【解決手段】本発明により提供される粘着剤組成物は、モノマー混合物の共重合反応物を含む。該モノマー混合物は、必須成分として、炭素数1〜20のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート(モノマーm1)およびイミダゾール基を有する不飽和モノマー(モノマーm2)を、任意成分として、アミド基を有する不飽和モノマー(モノマーm3)を含む。モノマーm1の量は、全モノマー成分の50質量%以上である。モノマーm2の量、あるいはモノマーm2およびm3の合計量は、全モノマー成分の12質量%以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル系粘着(感圧接着ともいう。以下同じ。)剤組成物および粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、物品の固定(接合)、搬送、保護、装飾等の種々の局面において粘着シートが活用されるようになってきている。かかる粘着シートの代表例として、アクリル系粘着剤組成物を用いて形成された粘着剤層を備えるものが挙げられる。このようなアクリル系粘着剤組成物は、典型的には、アクリル系重合体をベースポリマーとする粘着剤層を形成し得るように構成されている。アクリル系粘着剤組成物に関連する従来技術文献として特許文献1および2が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−153913号公報
【特許文献2】特開2008−222953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
粘着シート(典型的には両面接着性の粘着シート)による接合部を含む部材などの物品が高温環境(例えば、80℃以上)に長期間保持される場合、かかる高温環境下でも該接合部の剥離が起こらないよう、使用される粘着シートは、凝集性の高い粘着剤層を備えることが望ましい。特に、該接合部が高温環境で一定の負荷(剪断方向への負荷)の下に長期間保持される場合では、高い凝集性が求められる。一方、凝集性を高めると、一般に、タック(べたつき)が低下して、低温環境下での接着力が不足気味になる。しかし、上記部材が低温から高温まで幅広い温度域に置かれ得る場合(例えば、被着体が車両等に含まれる部材の場合)、優れた高温保持力(高温加負荷環境下での凝集性)と良好な低温接着性(低温環境下での接着性)とが同時に求められる。
【0005】
本発明は、優れた高温保持性と良好な低温接着性とが同時にバランスよく実現された粘着剤層を形成可能なアクリル系粘着剤組成物を提供することを一つの目的とする。また、かかる組成物を用いた粘着シートを提供することを他の一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明により提供される粘着剤組成物は、モノマー混合物の共重合反応物を少なくとも含む。そのモノマー混合物は、モノマーm1として、下記式(I):
CH=C(R)COOR (I)
ここで、Rは水素原子またはメチル基であり、Rは炭素数1〜20のアルキル基である;で表されるアルキル(メタ)アクリレートと、モノマーm2として、イミダゾール基を有する不飽和モノマーと、を含む。このモノマー混合物は、さらに、モノマーm3として、アミド基を有する不飽和モノマーを任意に含み得る。上記モノマー混合物に含まれるモノマーm1の量は、全モノマー成分の50質量%以上である。また、モノマーm2の量、あるいはモノマーm2,3の合計量は、全モノマー成分の12質量%以上である。上記共重合反応物は、上記モノマー混合物の完全重合物であってもよく、部分重合物であってもよい。この明細書において、完全重合物とは、上記モノマー混合物をほぼ完全に(すなわち、モノマー成分の略全部を)共重合反応させて得られる結果物をいう。また、部分重合物とは、上記モノマー混合物の一部の分量を共重合反応させて得られる結果物をいう。該部分重合物は、典型的には、上記モノマー混合物に含まれるモノマーが部分的に共重合してなるポリマー(比較的低重合度のポリマーを含み得る。例えば、質量平均分子量が概ね1×10以下のポリマー(オリゴマーと称されることもある。)を含んでもよい。)と、未反応のモノマーとを含む。上記共重合反応物は、上記モノマーおよび/またはそれらの共重合体の他、共重合反応に使用された他の成分(重合開始剤、溶媒、分散媒等)を含み得る。なお、ここで不飽和モノマーとは、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリロイル基等のエチレン性不飽和基を有するモノマーを指す。
【0007】
かかる組成の粘着剤組成物によると、主モノマー(主たるモノマー成分;全モノマー成分の50質量%以上を占めるモノマー)としてのモノマーm1に加え、モノマーm2を、あるいはモノマーm2,m3を併せて、上記所定量含むモノマー混合物の部分重合物を少なくとも含むことから、優れた高温保持性と良好な低温接着性とを両立した粘着剤層が形成され得る。粘着剤層は、例えば、上記粘着剤組成物を基材上に付与(塗付)した後、必要に応じて適宜加工処理を施して硬化させることにより形成することができる。
【0008】
上記モノマーm2の一好適例として、1−ビニルイミダゾールが挙げられる。また、上記モノマーm3としては、下記式(II):
【化1】

で表されるN−ビニル環状アミドが好ましく用いられる。式(II)中のRは、二価の有機基である。特に好ましいN−ビニル環状アミドとして、N−ビニル−2−ピロリドンが例示される。
【0009】
ここに開示される粘着剤組成物の一態様では、上記モノマー混合物が、モノマーm2を、全モノマー成分の12質量%以上の割合で含む。他の一態様では、上記モノマー混合物が、上記モノマーm3を全モノマー成分の0.1質量%以上の割合で含む。
【0010】
他の一態様では、上記粘着剤組成物が、架橋剤を更に含む。かかる粘着剤組成物によると、粘着性能(高温保持力、低温接着性等)バランスのより優れた粘着剤(粘着シートの粘着剤層であり得る。以下同じ。)を実現することができる。
【0011】
他の側面として、本発明によると、ここに開示されるいずれかの粘着剤組成物から形成された粘着剤層を備える粘着シートが提供される。この粘着シートは、典型的には、かかる粘着剤層を基材の少なくとも片面に備える。該基材は、粘着剤層を支持するものであり、非剥離性基材、剥離ライナー等であり得る。かかる粘着シートは、優れた高温保持性および低温接着性を同時に実現し得る。
【0012】
さらに他の側面として、本発明によると、粘着シートを製造する方法が提供される。この方法は、以下の工程:
(X)モノマーの混合物を共重合反応に供して粘着剤組成物を調製すること;
(Y)基材上に上記組成物を塗付すること;および、
(Z)塗付された上記組成物に硬化処理を施して粘着剤層を形成すること;
を包含する。上記モノマー混合物は、(a)次式(I):CH=C(R)COOR(式中、Rは水素原子またはメチル基であり、Rは炭素数1〜20のアルキル基である。);で表されるアルキル(メタ)アクリレートを含む。さらに、(b)モノマーm2を全モノマー成分の12質量%以上、あるいはモノマーm2およびモノマーm3を合計で全モノマー成分の12質量%以上、含む。
【0013】
上記(X)の工程において、上記共重合反応は、未反応モノマーが多く残存する初期段階のみ(すなわち、部分的に)行ってもよく、未反応モノマーがほとんど残存しない最終段階まで(すなわち、ほぼ完全に)行ってもよい。必要に応じて、溶媒の除去または添加、架橋剤の添加等を行ってもよい。上記(Z)の工程において、上記組成物の塗付後の硬化処理は、乾燥(加熱)、架橋、追加の共重合反応、エージング等であり得る。これら加工処理は、一種のみであってもよく、二種以上であってもよい。二種以上(例えば、架橋および乾燥)を、同時に、または多段階に亘って、行ってもよい。例えば、単に乾燥させるだけの処理(加熱処理等)も、ここでいう硬化処理に含まれる。かかる方法によると、高温保持力および低温接着性に優れた粘着シートを効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る粘着シートの一構成例を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明に係る粘着シートの他の一構成例を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明に係る粘着シートの他の一構成例を模式的に示す断面図である。
【図4】本発明に係る粘着シートの他の一構成例を模式的に示す断面図である。
【図5】本発明に係る粘着シートの他の一構成例を模式的に示す断面図である。
【図6】本発明に係る粘着シートの他の一構成例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0016】
ここに開示される粘着剤組成物は、モノマーm1,m2を必須成分として少なくとも含むモノマー混合物の共重合反応物を含む。該モノマー混合物は、モノマーm3を任意で含み得る。
【0017】
モノマーm1は、下記式(I)で表される一種または二種以上のアルキル(メタ)アクリレート(アルキルアルコールの(メタ)アクリル酸エステル)である。ここで「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸およびメタクリル酸を包含する概念である。
【0018】
CH=C(R)COOR (I)
ここで、式(I)中のRは、水素原子またはメチル基である。また、式(I)中のRは、炭素数1〜20のアルキル基である。該アルキル基は直鎖状であってもよく、分岐を有してもよい。式(I)で表されるアルキル(メタ)アクリレートの具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、イソペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、ノナデシル(メタ)アクリレート、エイコシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらのうちRが炭素数2〜14(以下、このような炭素数の範囲を「C2−14」と表すことがある。)のアルキル基であるアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、RがC2−10のアルキル基(例えば、n−ブチル基、2−エチルヘキシル基等)であるアルキル(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0019】
好ましい一つの態様では、モノマーm1の総量のうち凡そ70質量%以上(より好ましくは凡そ90質量%以上)が、上記式(1)におけるRがC2−10(より好ましくはC4−8)のアルキル(メタ)アクリレートである。モノマーm1の実質的に全部がC2−10アルキル(より好ましくはC4−8アルキル)(メタ)アクリレートであってもよい。上記モノマー混合物は、例えば、モノマーm1としてn−ブチルアクリレート(BA)を単独で含む組成、2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA)を単独で含む組成、BAおよび2EHAの二種を含む組成、等であり得る。
【0020】
上記モノマー混合物に含まれるモノマーm1の量(二種以上のアルキル(メタ)アクリレートが含まれる場合は、それらの合計量)は、全モノマー成分の凡そ50〜88質量%(好ましくは凡そ60〜85質量%)であり得る。モノマーm1の含有量が上記範囲よりも少なすぎる粘着剤組成物では、該組成物から形成される粘着剤層の粘着性能(タック、特に低温接着性)が不足がちになることがある。上記範囲よりも多すぎると、上記モノマー混合物に含ませ得るモノマーm2の量またはモノマーm2,m3の合計量が少なくなるため、優れた高温保持性および低温接着性をバランスよく実現することが困難になる場合がある。なお、上記モノマー混合物の組成(モノマー組成)は、典型的には、該混合物を共重合させて得られる共重合体の共重合割合(共重合組成)に概ね対応する。
【0021】
上記モノマー混合物は、モノマーm1に加えて、モノマーm2として、一種または二種以上のイミダゾール基含有不飽和モノマーを含む。例えば、ビニル基やアリル基等のエチレン性不飽和基を有するイミダゾールを用いることができる。かかる不飽和モノマーとして、例えば、1−ビニルイミダゾール、1−アリルイミダゾール、2−ビニルイミダゾール、1−ビニル−2−メチルイミダゾール、1−メチル−2−ビニルイミダゾール、1−メチル−5−ビニルイミダゾール、1−エチル−5−ビニルイミダゾール、1−プロピル−5−ビニルイミダゾール、1−ブチル−5−ビニルイミダゾール、1−ビニル−2,4−ジメチルイミダゾール、N−[2−(1H−イミダゾール−4−イル)エチル]アクリルアミド、1−ビニルベンゾイミダゾール、2−ビニルベンゾイミダゾール、1−ビニル−2−メチルベンゾイミダゾール、4−[(1H−ベンゾイミダゾール−2−イル)チオメチル]スチレン、N−[2,2,3−トリクロロ−1−(1H−イミダゾール−1−イル)プロピル]アクリルアミド、N−[4−(1H−イミダゾール−4−イル)ベンジル]アクリルアミド、N−(1H−ベンゾイミダゾール−5−イル)アクリルアミド、3−エテニル−5,5−ジメチル−1H−イミダゾール−2,4(3H,5H)−ジオン等が挙げられる。特に好ましいモノマーm2として、1−ビニルイミダゾールが例示される。これらイミダゾール基含有不飽和モノマーは、一種を単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
モノマーm2は、その分子間の相互作用によって、粘着剤の凝集性向上に寄与する成分として機能し得る。上記モノマー混合物に含まれるモノマーm2の量は、後述するモノマーm3を使用しない場合、凡そ12質量%以上(好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上)とする。モノマーm2の量が少なすぎると、低温接着性および一定負荷存在下での剥がれに対する耐久性が不足がちになる場合がある。上記モノマーm2含有量の上限は、例えば、凡そ40質量%(好ましくは35質量%、より好ましくは30質量%)とすることができる。モノマーm2の量が多すぎると、十分なタックや低温接着性が実現されない場合がある。
【0023】
上記モノマー混合物は、任意成分として、モノマーm3を含み得る。モノマーm3としては、一種または二種以上のアミド基含有不飽和モノマーが用いられる。例えば、N−ビニル環状アミド、およびN−アルキル基を有してもよい(メタ)アクリルアミド等から選択される一種または二種以上のモノマーであり得る。N−ビニル環状アミドの具体例としては、N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピペリドン、N−ビニル−3−モルホリノン、N−ビニル−2−カプロラクタム、N−ビニル−1,3−オキサジン−2−オン、N−ビニル−3,5−モルホリンジオン等が挙げられる。N−アルキル基を有してもよい(メタ)アクリルアミドの具体例としては、(メタ)アクリルアミド;N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−n−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−オクチル(メタ)アクリルアミド等のN−アルキル(メタ)アクリルアミド;および、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジイソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジ(n−ブチル)(メタ)アクリルアミド、N,N−ジ(t−ブチル)(メタ)アクリルアミド等のN,N−ジアルキル(メタ)アクリルアミド;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド等のアミノアルキル基含有(メタ)アクリルアミド;等が挙げられる。他のアミド基含有不飽和モノマーとして、N−(メタ)アクリロイルモルホリン、N−(メタ)アクリロイルピロリドン、N−(メタ)アクリロイルピロリジン等のN−(メタ)アクリロイル基を有する複素環が例示される。
【0024】
特に好ましいアミド基含有不飽和モノマーとして、下記式(II):
【化2】

で表されるN−ビニル環状アミド(N−ビニルラクタム)が例示される。ここで、Rは、ラクタム環に含まれる原子数が3〜5であり、且つ二価の有機基である。上記式(II)中のRは、好ましくは飽和または不飽和の炭化水素基であり、より好ましくは飽和炭化水素基(例えば、炭素数3または4のアルキレン基)である。かかる組成のモノマー成分によると、粘着特性バランスにより優れた粘着剤層が実現され得る。N−ビニル環状アミドの好適例として、N−ビニル−2−ピロリドンが挙げられる。
【0025】
モノマーm3は、モノマーm2と併せて用いられることにより、粘着剤の凝集性向上に寄与する成分として機能し得る。モノマーm3を使用する場合、上記モノマー混合物に含まれるモノマーm3の量は、モノマーm2の含有量に応じて、モノマーm2およびm3の合計量が凡そ12質量%以上(好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上)となるように適宜選択することができる。例えば、モノマーm3の量を、全モノマー成分の0.1質量%以上とし、モノマーm2,m3の合計量が上記範囲内となるように選択すればよい。モノマーm3を使用する場合、モノマーm2,m3の合計量が少なすぎると、低温接着性および一定負荷存在下での剥がれに対する耐久性が不足がちになる場合がある。上記モノマーm2,m3の合計量の上限は、モノマーm2と同様に、例えば、凡そ40質量%(好ましくは35質量%、より好ましくは30質量%)とすることができる。モノマーm2,m3の合計量が多すぎると、十分なタックや低温接着性が実現されない場合がある。モノマーm2とモノマーm3との配合比(m2:m3)は、10:1〜1:10程度(より好ましくは5:1〜1:5程度)とすることが好ましい。
【0026】
上記モノマー混合物に含まれるモノマーm1,m2もしくはモノマーm1,m2,m3の合計量は、例えば、全モノマー成分の凡そ70質量%以上であり得る。上記合計量が全モノマー成分の凡そ80質量%以上(例えば90質量%以上)であることが好ましい。
【0027】
上記モノマー混合物は、モノマーm1,m2,m3に加えて、他の任意成分として、モノマーm4を含んでもよい。モノマーm4は、モノマーm1,m2,m3に相当するモノマー以外の一種または二種以上のモノマーであり得る。例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基等のエチレン性不飽和基を一個または二個以上有する各種モノマーを用いることができる。
【0028】
モノマーm4は、モノマーm2,m3に相当するモノマー以外(すなわち、イミダゾール類およびアクリルアミド類以外)の窒素原子含有モノマーであり得る。例えば、アミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等の、アミノ基を有する(メタ)アクリレート;N−ビニルピリジン、N−ビニルピリミジン、N−ビニルピペラジン、N−ビニルピロール等の、ビニル基を有するN含有複素環;アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のシアノアクリレート;等が挙げられる。また、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド等の、マレイミド系モノマー;N−メチルイタコンイミド、N−エチルイタコンイミド、N−ブチルイタコンイミド、N−2−エチルヘキシルイタコンイミド、N−ラウリルイタコンイミド、N−シクロヘキシルイタコンイミド等の、イタコンイミド系モノマー;N−(メタ)アクリロキシメチレンスクシンイミド、N−(メタ)アクリロイル−6−オキシヘキサメチレンスクシンイミド、N−(メタ)アクリロイル−8−オキシヘキサメチレンスクシンイミド等の、スクシンイミド系モノマー;他、イミド基を有するモノマーが挙げられる。
【0029】
モノマーm4の他の例として、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等の、脂環式炭化水素基を有する(メタ)アクリレート;フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等の、芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリレート;上記式(I)におけるRが炭素数21以上のアルキル基であるアルキル(メタ)アクリレート;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、8−ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、10−ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、12−ヒドロキシラウリル(メタ)アクリレート、[4−(ヒドロキシメチル)シクロヘキシル]メチルアクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;等の各種(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0030】
モノマーm4のさらに他の例として、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル系モノマーや、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸;無水マレイン酸、無水イタコン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸無水物;等のカルボキシル基含有モノマーが挙げられる。
【0031】
モノマーm4の含有量(二種以上を含む場合にはそれらの合計含有量)は、全モノマー成分の凡そ30質量%以下とすることが適当である。モノマーm4の含有量は、全モノマー成分の凡そ10質量%以下とすることが好ましく、凡そ5質量%以下(例えば凡そ2質量%以下)とすることがより好ましい。あるいは、モノマーm4を実質的に含有しないモノマー混合物を用いてもよい。モノマーm4の含有量が多すぎると、その粘着剤組成物を用いて形成された粘着シートにおいて、所望の高温保持性および/または低温接着性が実現されないことがある。
【0032】
好ましい一態様では、これらモノマーm4のうちカルボキシル基含有モノマーの使用量を10質量%以下とする。あるいは、上記モノマー混合物は、カルボキシル基含有モノマーを実質的に含まない組成であってもよい。ここに開示される粘着剤組成物においては、モノマーm2(またはモノマーm2およびm3)を用いることにより、アクリル酸やメタクリ酸等のエチレン性不飽和カルボン酸を用いなくても、十分な凝集性が得られる。このように、エチレン性不飽和カルボン酸の使用を省略し得ることは、低温接着性向上の観点から有利である。また、金属腐食性低減の観点からも好ましい。
【0033】
ここに開示される粘着剤組成物は、上記モノマー混合物の共重合反応物を少なくとも含む。上記モノマー混合物の共重合方法は特に限定されず、従来公知の各種重合方法を適宜採用することができる。例えば、熱重合開始剤を用いて行う重合方法(溶液重合、エマルション重合、塊状重合等の熱重合);光重合開始剤の存在下での光(紫外線等)照射によって行う光重合;放射線(β線、γ線等)等の高エネルギー線の照射によりラジカル、カチオン、アニオン等を発生させて行う放射線重合;等を適宜採用することができる。
【0034】
重合の態様は特に限定されず、従来公知のモノマー供給方法、重合条件(温度、時間、圧力等)、モノマー以外の使用成分(重合開始剤、界面活性剤)を適宜選択して行うことができる。例えば、モノマー供給方法としては、全モノマー混合物を一度に反応容器に供給(一括供給)してもよく、徐々に滴下して供給(連続供給)してもよく、何回分かに分割して所定時間ごとに各分量を供給(分割供給)してもよい。モノマー混合物は、一部または全部を、溶媒に溶解させた溶液、もしくは適当な乳化剤とともに水に乳化させた分散液として供給してもよい。
【0035】
共重合反応を行う際に用いる重合開始剤としては、重合方法に応じて、公知乃至慣用の重合開始剤から一種または二種以上を適宜選択して使用することができる。熱重合(溶液重合、エマルション重合等)には、例えば、アゾ系重合開始剤、過酸化物系開始剤、過酸化物と還元剤との組み合わせによるレドックス系開始剤、置換エタン系開始剤等を使用することができる。熱重合は、例えば20〜100℃(典型的には40〜80℃)程度の温度で好ましく実施され得る。光重合には、各種光重合開始剤を使用することができる。
【0036】
アゾ系重合開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’−アゾビス−2−メチルブチロニトリル、ジメチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、4,4’−アゾビス−4−シアノバレリアン酸、アゾビスイソバレロニトリル、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二硫酸塩、2,2’−アゾビス(N,N’−ジメチレンイソブチルアミジン)ジヒドロクロライド等が例示される。
【0037】
過酸化物系開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;ジベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーマレエート、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、過酸化水素等が例示される。
【0038】
レドックス系開始剤としては、過酸化物とアスコルビン酸との組み合わせ(過酸化水素水とアスコルビン酸との組み合わせ等)、過酸化物と鉄(II)塩との組み合わせ(過酸化水素水と鉄(II)塩との組み合わせ等)、過硫酸塩と亜硫酸水素ナトリウムとの組み合わせ等が例示される。
置換エタン系開始剤としては、フェニル置換エタン等が例示される。
【0039】
光重合開始剤としては、ケタール系光重合開始剤、アセトフェノン系光重合開始剤、ベンゾインエーテル系光重合開始剤、アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤、α−ケトール系光重合開始剤、芳香族スルホニルクロリド系光重合開始剤、光活性オキシム系光重合開始剤、ベンゾイン系光重合開始剤、ベンジル系光重合開始剤、ベンゾフェノン系光重合開始剤、チオキサントン系光重合開始剤等が挙げられる。
【0040】
ケタール系光重合開始剤の具体例としては、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン[例えば、商品名「イルガキュア651」(チバ・ジャパン社製品)]等が挙げられる。
【0041】
アセトフェノン系光重合開始剤の具体例としては、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン[例えば、商品名「イルガキュア184」(チバ・ジャパン社製品)]、2,2−ジエトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、4−フェノキシジクロロアセトフェノン、4−(t−ブチル)ジクロロアセトフェノン等が挙げられる。
ベンゾインエーテル系光重合開始剤の具体例としては、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等が挙げられる。
【0042】
アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤としては、例えば商品名「ルシリンTPO」(BASF社製品)等を使用することができる。
α−ケトール系光重合開始剤の具体例としては、2−メチル−2−ヒドロキシプロピオフェノン、1−[4−(2−ヒドロキシエチル)フェニル]−2−メチルプロパン−1−オン等が挙げられる。
芳香族スルホニルクロリド系光重合開始剤の具体例としては、2−ナフタレンスルホニルクロライド等が挙げられる。
光活性オキシム系光重合開始剤の具体例としては、1−フェニル−1,1−プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)−オキシム等が挙げられる。
ベンゾイン系光重合開始剤の具体例としてはベンゾインが挙げられる。
ベンジル系光重合開始剤の具体例としてはベンジルが挙げられる。
【0043】
ベンゾフェノン系光重合開始剤の具体例としては、ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、3,3’−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン、ポリビニルベンゾフェノン、α−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等が挙げられる。
チオキサントン系光重合開始剤の具体例としては、チオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン、ドデシルチオキサントン等が挙げられる。
【0044】
重合開始剤の使用量は、通常の使用量であればよく、例えば、全モノマー成分100質量部に対して0.001〜5質量部(典型的には0.01〜2質量部、例えば凡そ0.01〜1質量部))程度の範囲から選択することができる。重合開始剤の使用量が多すぎるか或いは少なすぎると、所望の粘着性能が得られ難くなる場合がある。
【0045】
エマルション重合に用いられる乳化剤(界面活性剤)としては、アニオン系乳化剤、ノニオン系乳化剤等を使用できる。アニオン系乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸ナトリウム等が例示される。ノニオン系乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー等が例示される。また、これらのアニオン系またはノニオン系乳化剤にラジカル重合性基(ビニル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ビニルエーテル基(ビニルオキシ基)、アリルエーテル基(アリルオキシ基)等)が導入された構造のラジカル重合性乳化剤(反応性乳化剤)を用いてもよい。このような乳化剤は、一種のみを単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。乳化剤の使用量(固形分基準)は適宜選択すればよく、例えば、全モノマー成分100質量部に対して、凡そ0.2〜10質量部程度(好ましくは凡そ0.5〜5質量部程度)とすることができる。
【0046】
ここに開示される粘着剤組成物に含まれる共重合反応物は、上記モノマー混合物を少なくとも部分的に共重合させて得られる結果物であり、部分重合物であってもよく、完全重合物であってもよい。すなわち、上記共重合反応物におけるモノマーの重合率(モノマーコンバーション)は特に制限されず、上記粘着剤組成物は未反応のモノマーを含んでもよく、実質的に含まなくてもよい。また、共重合反応に用いられた他の成分(重合開始剤、溶媒、分散媒等であり得る。)を含み得る。上記粘着剤組成物には、上記共重合反応物に加え、必要に応じて、重合開始剤、溶媒、分散媒等の他成分を更に追加してもよい。
【0047】
共重合反応物の重合率は以下の方法で求められる。
[重合率測定]
共重合反応物から約0.5gのサンプルを採取して質量Wp1を精秤する。次いで、該サンプルを130℃に2時間加熱することにより未反応モノマーを揮発させ、その加熱後に残ったサンプルの質量Wp2を精秤する。重合率は、各値を以下の式に代入することにより求められる。
重合率 =(Wp2/Wp1)×100%
【0048】
一態様において、上記共重合反応物は、重合率が例えば2〜40質量%程度(好ましくは5〜25質量%程度)の部分重合物であり得る。該部分重合物は、モノマー成分の一部から形成された共重合体と未反応のモノマーとが混在するシロップ状をなし得る。以下、かかる性状の部分重合物を「モノマーシロップ」ということがある。上記モノマー混合物の部分重合を行う際の重合方法は特に制限されず、上述のような各種重合方法が採用され得る。かかる態様の粘着剤組成物は、更に硬化(重合)させる(典型的には、更なる共重合反応に供して完全重合物と同程度まで重合率を高める)ことにより粘着剤を形成し得る構成とする。該組成物の硬化のための重合方法は特に制限されず、上記モノマー混合物の部分重合に用いた重合方法(上記組成物を調製する際の重合方法)と同じであってもよく、異なってもよい。かかる態様の粘着剤組成物は、重合率が低く未反応モノマーを含むことから、溶媒または分散媒によって希釈されなくても、塗工可能な粘度を有するものであり得る。したがって、かかる態様は、例えば、溶媒を実質的に含まない形態(無溶剤型)の粘着剤組成物に好ましく適用され得る。無溶剤型粘着剤組成物は、溶媒または分散媒を必要としない重合方法(光重合または放射線重合等)により硬化可能な構成とすることにより、該組成物を適当な基材(剥離ライナーであってもよい。)に塗付した後、光照射または放射線照射等の簡便な硬化処理により粘着剤層を形成することができる。このとき、必要に応じて適当な架橋処理等を施してもよい。
上記部分重合物の重合率が高すぎると、粘着剤組成物の形態によっては、該組成物の取扱性が損なわれる場合があり得る。例えば、無溶剤型粘着剤組成物とした場合、粘度が高くなりすぎて常温での塗工が困難となる場合がある。一方、重合率が低すぎると、該組成物の硬化により得られる粘着剤の特性が不安定になりやすく、また該組成物の粘度が低すぎて塗工し難くなる場合がある。
【0049】
無溶剤型の粘着剤組成物は、例えば、上記モノマー混合物を光重合により部分的に共重合させることによって容易に調製することができる。また、光重合以外の重合方法による部分重合によって、あるいは各種重合方法によって得られた比較的低分子量の共重合体と未反応のモノマーとを混ぜ合わせて、上記光重合によって得られる部分重合物に相当するものを調製してもよい。効率性および簡便性の観点から、光重合により上記モノマー混合物の部分重合を行うことが好ましい。光重合によると、光の照射量を変えることによって、上記部分重合物の重合率(モノマー転化率)を容易に制御して、粘度を調整することができる。また、得られた部分重合物は光重合開始剤を既に含むことから、該組成物を更に硬化させて粘着剤を形成する際、そのままで光硬化し得る構成となっている。このとき、必要に応じて光重合開始剤を追加してもよい。追加する光重合開始剤は、部分重合に使用した光重合開始剤と同じであってもよく、異なってもよい。光重合以外の方法で調製された無溶剤型粘着剤組成物は、光重合開始剤を添加することにより光硬化性とすることができる。光硬化性の無溶剤型粘着剤組成物は、厚手の粘着剤層を容易に形成し得るという利点を有する。また、有機溶媒を用いないことから、環境衛生上も好ましい。
【0050】
光重合開始剤の使用量は特に制限されず、例えば、上述の一般的な重合開始剤の使用量を適宜採用することができる。なお、ここでいう光重合開始剤の使用量は、粘着剤組成物の製造過程において使用される光重合開始剤の総量をいう。したがって、光重合によって得られた部分重合物に光重合開始剤を追加(後添加)してなる粘着剤組成物では、該部分重合で用いた分と追加分との合計量を指す。
【0051】
一態様において、上記共重合反応物は、上述の方法により測定される重合率が凡そ95質量%以上(好ましくは凡そ99質量%以上)の完全重合物である。かかる態様は、例えば、粘着剤成分が溶媒(有機溶媒、水、またはこれらの混合物)で適度な粘度に希釈(溶解または分散)された形態(溶剤型(有機溶媒溶液状)、水溶液状、エマルション状等)の粘着剤組成物に好ましく適用することができる。かかる形態の粘着剤組成物は、完全重合物を含む態様とすることにより、該組成物を適当な基材(剥離ライナーであってもよい。)に塗付した後、乾燥等の簡便な硬化処理により粘着剤層を形成することができる。このとき、必要に応じて適当な架橋処理等を施してもよい。
【0052】
溶剤型の粘着剤組成物は、例えば、上記モノマー混合物を溶液重合に供することによって容易に調製することができる。溶液重合によると、完全重合物が効率よく形成され得る。溶液重合以外の重合方法によって得られた共重合反応物(典型的には、上記溶液重合によって得られる完全重合物に相当するもの)を、適当な有機溶媒に溶解させることによっても調製することができる。効率性の観点から、溶液重合による調製が好ましい。溶剤型粘着剤組成物は、調整や塗工後の硬化処理にかかる時間が比較的短いという利点がある。
【0053】
エマルション状の粘着剤組成物は、例えば、上記モノマー混合物をエマルション重合に供することによって容易に調製することができる。エマルション重合によると、完全重合物が効率よく形成され得る。エマルション重合以外の重合方法によって得られた共重合反応物(典型的には、上記エマルション重合によって得られる完全重合物に相当するもの)を、水性溶媒(典型的には水)に適当な乳化剤の存在下で乳化させることによっても調製することができる。効率性の観点から、エマルション重合による調製が好ましい。
【0054】
好ましい一態様では、ここに開示される粘着剤組成物は、架橋剤を含有する。かかる架橋剤の使用により、該組成物から形成される粘着剤層に適度な凝集力および粘着力を付与することができる。架橋剤としては、粘着剤の分野において従来公知のものを適宜選択することができる。例えば、多官能(メタ)アクリレート、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、アジリジン系架橋剤、メラミン系架橋剤、金属キレート系架橋剤、金属塩系架橋剤、過酸化物系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、尿素系架橋剤、アミノ系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、カップリング剤系架橋剤(例えばシランカップリング剤)等を用いることができる。これらのうち一種を単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。架橋剤は、上記モノマー混合物の共重合反応(完全重合または部分重合)後に添加(すなわち後添加)することが好ましい。
【0055】
上記共重合反応物が部分重合物である態様(典型的には、光重合を採用する場合)においては、上記架橋剤として、多官能(メタ)アクリレート(すなわち、一分子内に二以上の(メタ)アクリロイル基を有するモノマー)を好ましく用いることができる。例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、1,2−エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等が挙げられる。重合反応性(架橋反応性)等の観点から、多官能アクリレートの使用がより好ましい。好ましい一態様では、架橋剤として一種または二種以上(典型的には一種)の多官能(メタ)アクリレートのみを使用する。あるいは、本発明の効果が顕著に損なわれない範囲で、かかる多官能(メタ)アクリレートと他の架橋剤(例えばイソシアネート系架橋剤)とを併用してもよい。多官能(メタ)アクリレートの使用量は、モノマー成分100質量部に対して例えば凡そ0.001〜5質量部とすることができる。好ましくは、凡そ0.01〜3質量部(例えば凡そ0.05〜0.5質量部)とすることが適当である。例えば、二官能(メタ)アクリレートを使用する場合は多めに、三官能(メタ)アクリレートを使用する場合は少なめに、と適宜選択すればよい。架橋剤の量が少なすぎると十分な架橋効果が発揮されず、凝集力(保持特性)が低下傾向となることがある。一方、架橋剤の量が多すぎると、硬化後の粘着剤の弾性率が高くなりすぎて、接着力やタックが低下しやすくなることがある。
【0056】
上記共重合反応物が完全重合物である態様(典型的には、溶液重合を採用する場合)においては、エポキシ系架橋剤、イソシアネート系架橋剤等を好ましく使用することができる。好ましい一態様では、架橋剤として、一種または二種以上(典型的には一種)のエポキシ系架橋剤のみ、あるいは一種または二種以上(典型的には一種)のイソシアネート系架橋剤のみを使用する。あるいは、本発明の効果が顕著に損なわれない範囲で、これら架橋剤と上述の他の各種架橋剤とを併用してもよい。
【0057】
エポキシ系架橋剤の例としては、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシレンジアミン,ジグリシジルアニリン、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビタンポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、アジピン酸ジグリシジルエステル、o−フタル酸ジグリシジルエステル、トリグリシジル−トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、レゾルシンジグリシジルエーテル、ビスフェノール S ジグリシジルエーテル、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)ベンゼン、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)トルエン、1,3,5−トリグリシジルイソシアヌル酸、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、グリセリントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパングリシジルエーテル等の、1分子内にエポキシ基を2個以上または3個以上有するエポキシ系化合物が挙げられる。例えば、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサンを好ましく用いることができる。
【0058】
イソシアネート系架橋剤の例としては、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、1,4−テトラメチレンジイソシアネート、2−メチル−1,5−ペンタンジイソシアネート、3−メチル−1,5−ペンタンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート;イソホロンジイソシアネート、シクロヘキシルジイソシアネート、水素添加トリレンジイソシアネート、水素添加キシレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート、水素添加テトラメチルキシレンジイソシアネート等の脂環族ポリイソシアネート;2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルエーテルジイソシアネート、2−ニトロジフェニル−4,4’−ジイソシアネート、2,2’−ジフェニルプロパン−4,4’−ジイソシアネート、3,3’−ジメチルジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、4,4’−ジフェニルプロパンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、ナフチレン−1,4−ジイソシアネート、ナフチレン−1,5−ジイソシアネート、3,3’−ジメトキシジフェニル−4,4’−ジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート;キシリレン−1,4−ジイソシアネート、キシリレン−1,3−ジイソシアネート等の芳香脂肪族ポリイソシアネート;等が挙げられる。
【0059】
なお、イソシアネート系架橋剤としては、上記で例示したイソシアネート系化合物の二重体や三量体、反応生成物または重合物(例えば、ジフェニルメタンジイソシアネートの二重体や三量体、トリメチロールプロパンとトリレンジイソシアネートとの反応生成物、トリメチロールプロパンとヘキサメチレンジイソシアネートとの反応生成物、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート、ポリエーテルポリイソシアネート、ポリエステルポリイソシアネート)等も用いることができる。例えば、トリメチロールプロパンとトリレンジイソシアネートとの反応生成物を好ましく用いることができる。
【0060】
本態様におけるこれら架橋剤の使用量は、例えば、モノマー成分100質量部(粘着剤組成物におけるモノマー成分の重合率が略100%である場合には、形成された共重合体100質量部に概ね対応する。)に対して凡そ0.001〜10質量部(例えば凡そ0.001〜5質量部)とすることができ、0.01〜5質量部(例えば0.01〜3質量部)程度とすることが好ましい。架橋剤の使用量が少なすぎると十分な効果(粘着性能を向上させる効果)が発揮され難く、該使用量が多すぎても粘着特性のバランスが崩れやすくなる。
【0061】
ここに開示される粘着シートに具備される粘着剤層は、その粘着剤のゲル分率fgが例えば凡そ20〜90%程度であることが好ましい。かかるゲル分率を有する粘着剤(架橋剤を含む組成では架橋後の粘着剤)が形成されるように、モノマー組成、粘着剤組成物におけるモノマー成分の重合率、形成される共重合体の分子量、粘着剤層の形成条件(乾燥条件、光照射条件等)、架橋剤の種類および使用量等の条件を適宜設定するとよい。粘着剤のゲル分率が低すぎると、凝集力が不足しがちとなる。一方、ゲル分率が高すぎると、粘着力やタックが低下しやすくなることがある。ゲル分率が凡そ25〜90%(例えば凡そ60〜85%)の範囲にある粘着剤によると、より良好な粘着性能が実現され得る。
ここで「粘着剤のゲル分率fg」とは、次の方法により測定される値をいう。該ゲル分率は、粘着剤のうち酢酸エチル不溶分の質量割合として把握され得る。
【0062】
[ゲル分率測定方法]
粘着剤サンプル(質量Wg1)を平均孔径0.2μmの多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜(質量Wg2)で巾着状に包み、口をタコ糸(質量Wg3)で縛る。この包みを酢酸エチル50mLに浸し、室温(典型的には23℃)で7日間保持して粘着剤層中のゾル成分のみを上記膜外に溶出させた後、上記包みを取り出して外表面に付着している酢酸エチルを拭き取り、該包みを130℃で2時間乾燥させ、該包みの質量Wg4を測定する。粘着剤のゲル分率fgは、各値を以下の式に代入することにより求められる。
fg =[(Wg4−Wg2−Wg3)/Wg1]×100%
なお、上記多孔質ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜としては、日東電工株式会社から入手可能な商品名「ニトフロン(登録商標)NTF1122」(平均孔径0.2μm、気孔率75%、厚さ85μm)またはその相当品を使用することが望ましい。
【0063】
上記モノマー混合物の共重合反応を行う際には、必要に応じて連鎖移動剤(分子量調節剤あるいは重合度調節剤としても把握され得る。)を使用することができる。連鎖移動剤としては、公知または慣用の連鎖移動剤を一種または二種以上使用することができる。連鎖移動剤の使用量は、通常と同程度の使用量であればよく、例えば、モノマー原料100質量部に対して凡そ0.001〜0.5質量部程度の範囲から選択することができる。
【0064】
ここに開示される粘着剤組成物は、粘着剤組成物の分野において一般的な各種の添加剤を任意成分として含有し得る。かかる任意成分としては、粘着付与剤(ロジン系樹脂、石油系樹脂、テルペン系樹脂、フェノール系樹脂、ケトン系樹脂等)、可塑剤、軟化剤、充填剤、着色剤(顔料、染料等)、酸化防止剤、レベリング剤、安定剤、防腐剤等が例示される。このような添加剤は、従来公知のものを常法により使用することができ、特に本発明を特徴づけるものではないので、詳細な説明は省略する。
【0065】
ここに開示される粘着剤組成物は、必要に応じた硬化処理(乾燥、架橋、重合等)により形成された粘着剤に含まれる上記モノマー混合物の最終共重合物(完全重合物に含まれるアクリル系共重合体に相当する。)が、凡そ50質量%以上(より好ましくは凡そ70質量%以上、例えば90質量%以上)を占めるように構成されていることが好ましい。かかる粘着剤組成物は、より粘着性能のよい粘着剤を形成するものとなり得る。
【0066】
本発明に係る粘着シートは、ここに開示されるいずれかの粘着剤組成物を用いて形成された粘着剤層を備える。かかる粘着剤層をシート状基材(支持体)の片面または両面に固定的に(当該基材から粘着剤層を分離する意図なく)設けた形態の粘着シート(いわゆる基材付き粘着シート)であってもよく、あるいは該粘着剤層を例えば剥離ライナー(剥離紙、表面に剥離処理を施した樹脂シート等)のような剥離性を有する支持体上に設けた形態(貼付時に粘着剤層を支持する基材が剥離ライナーとして除去される形態)の粘着シート(いわゆる基材レス粘着シート)であってもよい。ここでいう粘着シートの概念には、粘着テープ、粘着ラベル、粘着フィルム等と称されるものが包含され得る。なお、上記粘着剤層は連続的に形成されたものに限定されず、例えば点状、ストライプ状等の規則的あるいはランダムなパターンに形成された粘着剤層であってもよい。
【0067】
ここに開示される粘着シートは、例えば、図1〜図6に模式的に示される断面構造を有するものであり得る。このうち図1,図2は、両面接着性の基材付き粘着シート(基材付き両面粘着シート)の構成例である。図1に示す粘着シート11は、基材1の両面に粘着剤層2が設けられ、それらの粘着剤層2が、少なくとも該粘着剤層側が剥離面となっている剥離ライナー3によってそれぞれ保護された構成を有している。図2に示す粘着シート12は、基材1の両面に粘着剤層2が設けられ、それらの粘着剤層のうち一方が、両面が剥離面となっている剥離ライナー3により保護された構成を有している。この種の粘着シート12は、該粘着シート12を巻回することにより他方の粘着剤層を剥離ライナー3の裏面に当接させ、該他方の粘着剤層もまた剥離ライナー3によって保護された構成とすることができる。
【0068】
図3,図4は、基材レス粘着シートの構成例である。図3に示す粘着シート13は、基材レスの粘着剤層2の両面が、少なくとも該粘着剤層側が剥離面となっている剥離ライナー3によってそれぞれ保護された構成を有する。図4に示す粘着シート14は、基材レスの粘着剤層2の一面が、両面が剥離面となっている剥離ライナー3により保護された構成を有し、これを巻回すると粘着剤層2の他面が剥離ライナー3に当接して該他面もまた剥離ライナー3で保護された構成とできるようになっている。
【0069】
図5,図6は、片面接着性の基材付き粘着シートの構成例である。図5に示す粘着シート15は、基材1の片面に粘着剤層2が設けられ、その粘着剤層2の表面(接着面)が、少なくとも該粘着剤層側が剥離面となっている剥離ライナー3によって保護された構成を有する。図6に示す粘着シート16は、基材1の一面に粘着剤層2が設けられた構成を有する。その基材1の他面は剥離面となっており、粘着シート16を巻回すると該他面に粘着剤層2が当接して該粘着剤層の表面(接着面)が基材1の他面で保護された構成とできるようになっている。
【0070】
上記基材としては、例えば、ポリプロピレンフィルム、エチレン−プロピレン共重合体フィルム、ポリエステルフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム等のプラスチックフィルム;ポリウレタンフォーム、ポリエチレンフォーム等のフォーム基材;クラフト紙、クレープ紙、和紙等の紙;綿布、スフ布等の布;ポリエステル不織布、ビニロン不織布等の不織布;アルミニウム箔、銅箔等の金属箔;等を、粘着シートの用途に応じて適宜選択して用いることができる。上記プラスチックフィルムとしては、無延伸フィルムおよび延伸(一軸延伸または二軸延伸)フィルムのいずれも使用可能である。また、基材のうち粘着剤層が設けられる面には、下塗剤の塗付、コロナ放電処理等の表面処理が施されていてもよい。基材の厚みは目的に応じて適宜選択できるが、一般的には概ね10μm〜500μm(典型的には10μm〜200μm)程度である。
【0071】
上記粘着剤層は、ここに開示されるいずれかの粘着剤組成物の硬化層であり得る。すなわち、該粘着剤組成物を適当な基材(剥離ライナーであってもよい。)に付与(典型的には塗付)した後、硬化処理を適宜施すことにより好ましく形成され得る。二種以上の硬化処理(乾燥、架橋、重合等)を行う場合、これらは、同時に、または多段階に行うことができる。
部分重合物を用いた粘着剤組成物では、典型的には、上記硬化処理として、最終的な共重合反応を行う(部分重合物を更なる共重合反応に供して完全重合物を形成する)。例えば、光硬化性の粘着剤組成物であれば、光照射を行う。必要に応じて、架橋、乾燥等の硬化処理を行ってもよい。例えば、光硬化性粘着剤組成物で乾燥させる必要がある場合は、乾燥後に光硬化を行うとよい。
完全重合物を用いた粘着剤組成物では、典型的には、上記硬化処理として、必要に応じて乾燥(加熱乾燥)、架橋等の処理を行う。
【0072】
粘着剤組成物の塗付は、例えば、グラビアロールコーター、リバースロールコーター、キスロールコーター、ディップロールコーター、バーコーター、ナイフコーター、スプレーコーター等の慣用のコーターを用いて行うことができる。架橋反応の促進、製造効率向上等の観点から、粘着剤組成物の乾燥は加熱下で行うことが好ましい。該組成物が塗付される支持体の種類にもよるが、例えば凡そ40〜150℃程度の乾燥温度を採用することができる。
なお、基材付き粘着シートの場合、基材に粘着剤組成物を直接付与して粘着剤層を形成してもよく、剥離ライナー上に形成した粘着剤層を基材に転写してもよい。
【0073】
粘着剤層の厚さは特に限定されないが、通常は、例えば凡そ10μm以上(好ましくは凡そ20μm以上、より好ましくは凡そ30μm以上)とすることにより良好な粘着性能(例えば接着強度)が実現され得る。例えば、粘着剤層の厚さを凡そ30〜200μm程度とすることが適当である。
【0074】
ここに開示される粘着シートは、JIS Z 0237に準じ、実施例中の記載のとおり行われる高温保持力試験において、80℃および100℃のいずれの温度でも、試験片が被着体であるベークライト板から少なくとも2時間は落下しないという優れた高温保持性を発揮し得る。さらに、実施例中に記載される低温接着力試験において測定される温度5℃での剥離強度が、ABS板およびアクリル板のいずれに対しても20N/25mm以上という優れた低温接着性を同時に実現し得る。
【0075】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明において「部」および「%」は、特に断りがない限り質量基準である。
【0076】
<例1>
2EHA96部およびVIM4部からなるモノマー混合物100部に対し、光重合開始剤として2,2−ジメトキシ1,2−ジフェニルエタン−1−オン(チバ・ジャパン社製品、商品名「イルガキュア651」)0.05部および1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニルケトン(チバ・ジャパン社製品、商品名「イルガキュア184」)0.05部を加えた。この混合物を窒素ガス雰囲気下で攪拌して溶存酸素を十分に除去した後、該混合物に紫外線を照射することにより、上記モノマー混合物の部分重合物(重合率22.6%)を得た。
【0077】
この部分重合物に対し、架橋剤として、使用したモノマー混合物100部当たり、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA)0.05部を添加した。この添加剤入り部分重合物を一枚目の剥離ライナーに塗付し、この塗付層上に二枚目の剥離ライナーを更に積層した。この塗付層に対して照度約5mW/cm、光量約720mJ/cmの条件で紫外線を照射し、厚さ50μmの粘着剤層(ゲル分率69%)を形成して、両面粘着シートを得た。上記剥離ライナーとしては、いずれも、上記粘着剤層に接する面がシリコーン系剥離剤で剥離処理された厚さ38μmのポリエチレンフタレート(PET)フィルムを使用した。
【0078】
<例2>
モノマー混合物の組成を、2EHA92部/VIM4部/NVP4部とした。その他は例1と同様にして、両面粘着シートを得た。部分重合物の重合率は、13.2%であった。硬化後の粘着剤のゲル分率は、64%であった。
【0079】
<例3>
モノマー混合物の組成を、2EHA90部/アクリル酸10部とし、HDDAの量(モノマー混合物100部当たりの量;他の例においても同様)を、0.04部とした。その他は例1と同様にして、両面粘着シートを得た。部分重合物の重合率は、10%であった。硬化後の粘着剤のゲル分率は、69.7%であった。
【0080】
<例4>
モノマー混合物の組成を、2EHA85部/VIM15部とし、HDDAの量を、0.025部とした。その他は例1と同様にして、両面粘着シートを得た。部分重合物の重合率は、22.6%であった。硬化後の粘着剤のゲル分率は、71.9%であった。
【0081】
<例5>
冷却管、窒素導入管、温度計、滴下漏斗および攪拌機を備えた反応容器に2EHA85部、VIM15部、酢酸エチル123部を加え、緩やかに攪拌しながら窒素ガスを導入して容器内を窒素置換した。この反応液を60℃まで加熱し、AIBN(重合開始剤)0.2部を加え、同温度で5.5時間重合反応を行った。次いで70℃まで加熱し、同温度で2時間さらに重合反応を行った。得られたアクリル系重合体溶液に、該溶液に含まれるアクリル系重合体100部当たり、エポキシ系架橋剤(三菱ガス化学株式会社製、商品名「TETRAD−C」)0.5部を加え、均一に攪拌混合した。
【0082】
これを一枚目の剥離ライナーに塗付し、100℃で3分間乾燥(硬化)させて厚さ50μmの粘着剤層を形成した。この粘着剤層に二枚目の剥離ライナーを積層して、両面粘着シートを得た。上記剥離ライナーとしては、例1と同様のものを使用した。乾燥後の粘着剤のゲル分率は、83%であった。
【0083】
<例6>
モノマー混合物の組成を、2EHA80部/VIM20部とし、HDDAの量を、0.015部とした。その他は例1と同様にして、両面粘着シートを得た。部分重合物の重合率は、21.3%であった。硬化後の粘着剤のゲル分率は、68.5%であった。
【0084】
<例7>
モノマー混合物の組成を、2EHA80部/VIM10部/ACMO10部とし、HDDAの量を、0.1部とした。その他は例1と同様にして、両面粘着シートを得た。部分重合物の重合率は、13.7%であった。硬化後の粘着剤のゲル分率は、88%であった。
【0085】
<例8>
モノマー混合物の組成を、2EHA80部/VIM4部/NVP16部とし、HDDAの量を、0.02部とした。その他は例1と同様にして、両面粘着シートを得た。部分重合物の重合率は、約13%であった。硬化後の粘着剤のゲル分率は、71.3%であった。
【0086】
<例9>
モノマー混合物の組成を、2EHA80部/NVP20部とし、HDDAの量を、0.02部とした。その他は例1と同様にして、両面粘着シートを得た。部分重合物の重合率は、13.5%であった。硬化後の粘着剤のゲル分率は、57.7%であった。
【0087】
<例10>
モノマー混合物の組成を、2EHA75部/AA25部とし、HDDAの量を、0.04部とした。その他は例1と同様にして、両面粘着シートを得た。部分重合物の重合率は、7.4%であった。硬化後の粘着剤のゲル分率は、85.1%であった。
【0088】
<例11>
モノマー混合物の組成を、2EHA70部/NVP30部/AA1.5部とし、HDDAの量を、0.02部とした。その他は例1と同様にして、両面粘着シートを得た。部分重合物の重合物は、12.7%であった。硬化後の粘着剤のゲル分率は、73.0%であった。
【0089】
<例12>
モノマー混合物の組成を、2EHA70部/DEAA30部とし、HDDAの量を、0.08部とした。その他は例1と同様にして、両面粘着シートを得た。部分重合物の重合率は、11.1%であった。硬化後の粘着剤のゲル分率は、49.0%であった。
【0090】
[粘着剤のゲル分率]
各例の粘着剤のゲル分率は、上述した方法により測定した。多孔質PTFE膜(質量W2)としては、100mm×100mmの商品名「ニトフロン(登録商標)NTF1122」(日東電工株式会社製品)を使用した。タコ糸(質量W3)は、太さ1.5mm、長さ約100mmのものを使用した。粘着剤サンプル(質量W1)には、各粘着シートを20cmのサイズにカットしたものから両方の剥離ライナーを剥がしたものを用いた。
【0091】
例1〜12の粘着シートについて、以下の評価試験を行った。それらの結果を各例に係るモノマー組成、架橋剤使用量、重合方法、fg、Tgとともに表1に示す。
【0092】
[高温保持力]
[80℃]
各粘着シートの80℃保持力を、クリープ試験機を用いて測定した。すなわち、各粘着シートの一枚目の剥離ライナーを剥がして露出した第1粘着面に、厚さ25μmのPETフィルムを貼り合わせた。これを幅10mmにカットして試験片を作製した。上記試験片から二枚目の剥離ライナーを剥がして露出した第2粘着面を、幅10mm、長さ20mmの接着面積にてベークライト板に貼り付けた。これを80℃で30分間保持した後、ベークライト板を垂下し、試験片の自由端に500gの荷重を付与した。JIS Z 0237に準じて、該荷重が付与された状態で80℃の環境下に2時間放置し、2時間経過時点における試験片の初期貼り付け位置からのズレ距離(mm)を測定した。
[100℃]
各粘着シートの100℃保持力を80℃保持力と同様にして測定した。
【0093】
[低温接着力]
[対アクリル板]
各粘着シートから一枚目の剥離ライナーを剥がして露出した第1粘着面に、厚さ50μmのPETフィルム(剥離処理なし)を貼り合わせた。これを25mm幅にカットして試験片を作製し、該試験片を5℃、50%RHの環境下に30分間保持した。上記試験片から二枚目の剥離ライナーを剥がし、5kgのローラを一回転がす方法で被着体に圧着した。上記被着体としては、イソプロピルアルコールを染み込ませたクリーンウェスで10往復擦って洗浄した清浄なアクリル板を使用した。これを5℃の環境下に30分間保持した後、引張試験機を用いて引張速度300mm/分、剥離角度180°の条件でアクリル板に対する剥離強度(N/25mm)を測定した。
[対ABS板]
アクリル板の代わりに上記同様に洗浄したABS板を用いて、ABS板に対する剥離強度(N/25mm)を測定した。
【0094】
【表1】

【0095】
表1に示されるように、主成分たるモノマーm1に加えて十分な量のモノマーm2(VIM)を用いてなる例4〜6の粘着シートは、80℃および100℃での保持力試験におけるズレ距離が0.2mm以下且つ5℃での剥離強度が20N/25mm以上という、いずれも優れた高温保持力および低温接着力を同時に実現した。また、モノマーm2の使用量が12%未満であっても、十分な量のモノマーm3を用いてなる例7,8の粘着シートは、例4〜6と同様に、いずれも優れた高温保持力および低温接着力を示した。さらに、例4,5の結果に示されるとおり、同様の組成のモノマー混合物を用いた場合、該混合物の重合方法が異なっても、優れた高温保持性および低温接着性を示す粘着シートが形成された。
一方、モノマーm2の使用量またはモノマーm2,m3の合計使用量が少なかった例1,2;モノマーm2を用いずモノマーm3を用いてなる例9,11,12;モノマーm2,m3のいずれをも用いなかった例3,10;のいずれの粘着シートも、高温保持力および低温接着力の少なくともいずれかが不十分であった。
【0096】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0097】
1:基材
2:粘着剤層
3:剥離ライナー
11,12,13,14,15,16:粘着シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系粘着剤組成物であって、
以下の条件:
(a)モノマーm1として、次式(I):
CH=C(R)COOR (I)
ここで、Rは水素原子またはメチル基であり、Rは炭素数1〜20のアルキル基である;で表されるアルキル(メタ)アクリレートを、全モノマー成分の50質量%以上含む;および、
(b)モノマーm2を全モノマー成分の12質量%以上、あるいはモノマーm2およびモノマーm3を合計で全モノマー成分の12質量%以上、含む、
ここで、モノマーm2は、イミダゾール基を有する不飽和モノマーであり、
モノマーm3は、アミド基を有する不飽和モノマーである;
のいずれをも満たすモノマー混合物の共重合反応物を含む、粘着剤組成物。
【請求項2】
前記モノマー混合物が、モノマーm2を、全モノマー成分の12質量%以上含む、請求項1に記載の粘着剤組成物。
【請求項3】
前記モノマー混合物が、モノマーm3を、全モノマー成分の0.1質量%以上含む、請求項1または2に記載の粘着剤組成物。
【請求項4】
前記モノマーm2が1−ビニルイミダゾールである、請求項1から3のいずれか一項に記載の粘着剤組成物。
【請求項5】
架橋剤をさらに含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の粘着剤組成物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の組成物から形成された粘着剤層を備える、粘着シート。
【請求項7】
粘着シートを製造する方法であって:
(X)モノマー混合物を共重合反応に供して粘着剤組成物を調製すること、ここで、該モノマー混合物は、以下の条件:
(a)モノマーm1として、下記式(I):
CH=C(R)COOR (I)
ここで、Rは水素原子またはメチル基であり、Rは炭素数1〜20のアルキル基である;で表されるアルキル(メタ)アクリレートを、全モノマー成分の50%以上含む;および、
(b)モノマーm2を全モノマー成分の12質量%以上、あるいはモノマーm2およびモノマーm3を合計で全モノマー成分の12質量%以上、含む、
ここで、モノマーm2は、イミダゾール基を有する不飽和モノマーであり、
モノマーm3は、アミド基を有する不飽和モノマーである;
のいずれをも満たす;
(Y)基材上に上記組成物を塗付すること;および、
(Z)塗付された上記組成物を硬化させて粘着剤層を形成すること;
を包含する、粘着シート製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−132405(P2011−132405A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−294490(P2009−294490)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】