説明

粘膜免疫賦活組成物

【課題】 生体の唾液、涙液、鼻汁、気道粘液、消化管分泌液、乳汁や腸管の粘膜面には、ウイルスや細菌などの外からの病原菌(抗原)に対して防御するために免疫グロブリンA(IgA)を主体とする強力な粘膜免疫機構が存在している。本発明は、副作用などの問題が無く、IgAとpIgRの産生増強することのできる安全性の高い新規な粘膜免疫賦活組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】 ガラクトマンナンを含有することにより上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な粘膜免疫賦活組成物に関する。さらに詳しくは、本発明は、ガラクトマンナンを含有する粘膜免疫賦活組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生体の唾液、涙液、鼻汁、気道粘液、消化管分泌液、乳汁や腸管の粘膜面には、ウイルスや細菌などの外からの病原菌(抗原)に対して防御するために免疫グロブリンA(IgA)を主体とする強力な粘膜免疫機構が存在している。IgAは分子量約39万の糖蛋白で、糖質を8%含み、heavy chainが2種類(α1、α2)存在してIgA1、IgA2の2つのサブクラスの区別がある。また、血清IgAと分泌型IgAに分けられるが、ほとんどが分泌型IgAで唾液、涙液、鼻汁、気道粘液、消化管分泌液や乳汁などの外分泌液中に高濃度に含まれており、それぞれの局所粘膜における防御機能を行っている。なお、分泌型IgAは、2量体の形で存在し、分泌成分とJoining chain(J鎖)が結合している。また、IgAは、母乳の中にもたくさん含まれている。これを飲んだ子供は、のどや消化管の表面にIgA抗体を受取とることで外からの抗原に対して体を守ることができる。
【0003】
粘膜面には、腸管免疫系と言われる多くのリンパ組織があり、IgA産生に強く関係している。腸管の断面図を見ると腸管の消化吸収をつかさどる器官の間に挟まって腸管独特のリンパ節がある。これがパイエル板(Peyer’s patch)であり、腸管での免疫の中枢的存在となっており、消化管の中でも非常に発違した防御システムを完成している。IgAが産生される一連の流れは、抗原提示細胞が、抗原の情報を収集し、T細胞がその情報を受けて、その物質に対して抗体を産生すべきか判断する。そして、実際にIgAを作る細胞がB細胞であり刺激を受けた活性化B細胞が、全身の血液循環により粘膜面に分布した後、IgA産生細胞(形質細胞)であるB細胞に分化してIgAを産生する。また、ポリメリックIg受容体(pIgR)を介したIgAの上皮内輸送粘膜免疫組織も分泌型IgAの産生に必要不可欠である。小胞体内でヒトpIgRはタンパク質として合成され、Golgi装置と呼ばれるところで糖の添加を受けて糖タンパク質になる。その後、胃、腸、肝などの上皮細胞の基底側細胞膜上や涙腺、唾液腺、乳腺などの腺房細胞に分布する。粘膜固有層の形質細胞より産生・分泌されたJ鎖を含む2量体のIgAはpIgRに結合した後、細胞内を輸送され、管腔側細胞膜上で切断され、分泌型IgAとして放出される。このように、局所粘膜面でのIgAの産生増強作用は、生体防御機構(獲得免疫)を増強することが期待される。したがって、効果的にIgAとpIgR産生を増強する方法が求められている。IgAとpIgR産生を増強する方法としては、例えば、1)フラクトオリゴ糖及びその組成物の提案(例えば特許文献1参照)しかしながら、1)の方法では、オリゴ糖自体に甘味を有するため添加できる食品が限定される。また、その効果が完全ではない。そこで、IgAとpIgR産生を増強する作用を有する新たな粘膜免疫賦活組成物の開発が望まれている。
【0004】
【特許文献1】特開2003−201239
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、副作用などの問題が無く、IgAとpIgRの産生増強することのできる安全性の高い新規な粘膜免疫賦活組成物を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、副作用や摂取困難などの問題が無く、生体防御機構を増強することが期待されるIgAとpIgRの産生増強のできる安全性の高い新規な粘膜免疫賦活組成物を開発すべく鋭意研究を重ねた結果、ガラクトマンナンを有効成分とするものは、IgAとpIgRの産生をより効果的に増強することを新規に見いだし、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、ガラクトマンナンを有効成分として含有することを特徴とする粘膜免疫賦活組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の粘膜免疫賦活組成物は、IgAとpIgRの産生を効果的に増強することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明における前記ガラクトマンナンとしては、ガラクトマンナンを主成分とするグァーガム、ローカストビーンガム、タラガム、カシアガム、セスバニアガム、フェニグリーク、ガラクトマンナン分解物等の天然粘質物があげられる。粘度の面から特に好ましくはガラクトマンナン分解物である。ガラクトマンナン分解物は、前記のガラクトマンナンを加水分解し低分子化することにより得られるものである。加水分解の方法としては、酵素分解法、酸分解法等、特に限定するものではないが、分解物の分子量が揃い易い点から酵素分解法が好ましい。酵素分解法に用いられる酵素は、マンノース直鎖を加水分解する酵素であれば市販のものでも天然由来のものでも特に限定されるものではないが、アスペルギルス属菌やリゾープス属菌等に由来するβ−マンナナーゼが好ましい。
【0009】
本発明に使用されるガラクトマンナンは、5,000〜300,000の平均分子量を持つことが望ましい。平均分子量5,000以上であれば本発明の好適なIgAとpIgRの産生増強効果を有するが、一方、平均分子量が300,000を超えると、粘度が高く食品に加工する場合に不都合が生じる場合が多いため、ガラクトマンナンの平均分子量は、5,000〜300,000である事が望ましい。特に好ましくは8,000〜20,000である。平均分子量の測定方法は、特に限定するものではないが、ポリエチレングリコール(分子量;2,000、20,000、200,000)をマーカーに高速液体クロマトグラフ法(カラム;YMC−Pack Diol−120(株)ワイエムシィ)を用いて、分子量分布を測定する方法等を用いることにより求めることができる。
【0010】
ガラクトマンナンは、種々の工業製品に好ましい物性を付与することが知られているが、このものがIgAとpIgRの産生増強効果を有することは従来知られていなかった。しかし、本発明者らの研究によると、上述のようなガラクトマンナンを食品組成物として摂取をつづけるとき、IgAとpIgRの産生増強効果が認められることが見出された。
【0011】
本発明では、ガラクトマンナンと配合する食品材料は特に限定されるものではなく、他の糖類、食物繊維、脂質、アミノ酸、蛋白質、さらにこれらに必要に応じて、乳酸菌、ビタミン、ミネラルのようなその他の機能性を有する物質を添加して粘膜免疫賦活組成物とすることができる。このようなガラクトマンナンの摂取方法としては、例えば、飲料、クッキー、スナック菓子、乳製品などの種々の食品とすることができるほか、例えば適当な増量剤、賦形剤などを用いて錠剤状、液状、シロップ状、顆粒状などの医薬品や健康食品の形態にすることもできる。ガラクトマンナンは、種々な食品に添加することが可能であることから容易に摂取することが可能であり、効果的にIgAとpIgRの産生を増強することができる。本発明におけるガラクトマンナンのIgAとpIgRの産生増強効果を試験例に基づいて詳しく説明する。
【0012】
以下、調製例及び試験例をあげて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に何ら制約されるものではない。
【0013】
(調製例1)
水900gに0.1N塩酸を加えてpH4.5に調整し、これにアスペルギルス属由来のβ−マンナナーゼ(阪急バイオインダストリー製)0.2gとグァーガム粉末(Lucid製)100gを添加混合して40〜45℃で21時間酵素を作用させた。反応後90℃、15分間加熱して酵素を失活させた。濾過分離(吸引濾過)して、不溶物を除去して得られた透明な溶液を減圧濃縮(エバポレーター;Yamato製)した後(固形分20%)、噴霧乾燥(大川原化工機(株))し、本発明品の粘膜免疫賦活組成物であるガラクトマンナン分解物(平均分子量 約30,000)65gが得られた。
【0014】
(調製例2)
水900gに0.1N塩酸を加えてpH3.0に調整し、これにアスペルギルス属由来のβ−マンナナーゼ(阪急バイオインダストリー製)0.15gとグァーガム粉末(Lucid製)100gを添加混合して40〜45℃で23時間酵素を作用させた。反応後90℃、15分間加熱して酵素を失活させた。濾過分離(吸引濾過)して、不溶物を除去して得られた透明な溶液を減圧濃縮(エバポレーター;Yamato製)した後(固形分20%)、噴霧乾燥(大川原化工機(株))し、本発明品の粘膜免疫賦活組成物であるガラクトマンナン分解物(平均分子量 約20,000)68gが得られた。
【0015】
(調製例3)
水900gに0.1N塩酸を加えてpH4.0に調整した。これにバチルス属由来のβ−マンナナーゼ(阪急バイオインダストリー製)0.25gとグァーガム粉末(Lucid製)100gを添加混合して50〜55℃で18時間酵素を作用させた。反応後90℃、15分間加熱して酵素を失活させた。濾過分離(吸引濾過)して、不溶物を除去して得られた透明な溶液を減圧濃縮(エバポレーター;Yamato製)した後(固形分20%)、噴霧乾燥(大川原化工機(株))し、本発明品の粘膜免疫賦活組成物であるガラクトマンナン分解物(平均分子量 約8,000)65gが得られた。
【0016】
(調製例4)
水900gに0.1N塩酸を加えてpH4.0に調整した。これにバチルス属由来のβ−マンナナーゼ(阪急バイオインダストリー製)0.25gとグァーガム粉末(Lucid製)100gを添加混合して50〜55℃で20時間酵素を作用させた。反応後90℃、15分間加熱して酵素を失活させた。濾過分離(吸引濾過)して、不溶物を除去して得られた透明な溶液を減圧濃縮(エバポレーター;Yamato製)した後(固形分20%)、噴霧乾燥(大川原化工機(株))し、本発明品の粘膜免疫賦活組成物であるガラクトマンナン分解物(平均分子量 約7,000)70gが得られた。
【実施例1】
【0017】
実験動物は、30匹の3週齢の雄性BALB/cマウスを日本クレア社より購入した。ガラクトマンナンは、実施例1〜4を用いた。オリゴ糖群はフラクトオリゴ糖を用いた。
【0018】
動物は対照群およびガラクトマンナン群(4群)とオリゴ糖群の計6群(1群5匹)に分けた。購入した日から試験終了日(摂取期間28日間)まで、対照群には基本飼料(表1)を、ガラクトマンナン群には基本飼料にガラクトマンナンを5%(w/w)、オリゴ糖群には、基本飼料にフラクトオリゴ糖を5%(w/w)添加した実験飼料を自由摂取させた。摂取終了後、腸組織よりパイエル板を摘出し、パイエル板リンパ球の分離培養(CO存在下37℃で7日間)を行った後、培養上清を回収し酵素免疫測定法によりIgA含量を測定した。また、大腸組織中のpIgR量もウェスタンブロッティング法により測定した。
【0019】
【表1】

【0020】
【表2】

【0021】
ガラクトマンナン摂取群では、パイエル板からのIgA産生量が対照群とオリゴ糖群に比較して有意に増加した(表2)。
【0022】
ガラクトマンナン摂取群では、大腸内のpIgR産生量が対照群とオリゴ糖に比較して有意に増加した(図1)。
【実施例2】
【0023】
実験動物は、30匹の4〜5週齢の雄性Sprague−Dawleyを日本クレア社より購入し。ガラクトマンナンは、実施例1〜4を用いた。オリゴ糖群はフラクトオリゴ糖(明治乳業(株)製)を用いた。動物は対照群およびガラクトマンナン群(4群)とオリゴ糖群の計6群(1群5匹)に分けた。購入した日から試験終了日(摂取期間14日間)まで、対照群には基本飼料AIN93G(表3)を、ガラクトマンナン群には基本飼料にガラクトマンナンを5%(w/w)、オリゴ糖群には、基本飼料にフラクトオリゴ糖を5%(w/w)添加した。摂取終了後、腸組織よりパイエル板を摘出し、パイエル板リンパ球の分離培養(CO2存在下37℃で7日間)を行った後、培養上清を回収し酵素免疫測定法によりIgA含量を測定した。また、大腸組織中のpIgR量もウェスタンブロッティング法により測定した。
【0024】
【表3】

【0025】
【表4】

【0026】
ガラクトマンナン摂取群では、パイエル板からのIgA産生量が対照群とオリゴ糖群に比較して有意に増加した(表4)。
【0027】
ガラクトマンナン摂取群では、大腸内のpIgR産生量が対照群とオリゴ糖群に比較して有意に増加した(図2)。
【0028】
(調製例5)
調製例1のガラクトマンナン分解物5gに粉糖93.5g、アラビアガム1.0g、ステアリン酸マグネシウム0.5g、香料適量の割合で混練して乾燥した後打錠し、IgAとpIgR産生を増強に有用な錠菓の製品100gを得た。なお、味と物性面でガラクトマンナン分解物無添加品と違いは認められなかった。
【0029】
(調製例6)
調製例1のガラクトマンナン分解物粉末5gにローファットミルク95.0gを加えIgAとpIgR産生を増強の改善に有用な乳飲料の製品100gを得た。なお、味と物性面でガラクトマンナン分解物無添加品と違いは認められなかった。
【0030】
(調製例7)
調製例2のガラクトマンナン分解物粉末3.0gにピーチピューレ40.0g、果糖ブドウ糖液糖10.0g、クエン酸0.1g、ビタミンC0.03g、フレーバー適量、水46.8gを加えIgAとpIgR産生を増強に有用な清涼飲料水の製品100gを得た。なお、味と物性面でガラクトマンナン分解物無添加品と違いは認められなかった。
【0031】
(調製例8)
調製例2のガラクトマンナン分解物粉末5.0gに強力粉51.0g、砂糖15.0g、食塩7.0g、イースト8.0g、イースト1.0g、バター10.0g、水30.0gの配合でパン焼き機を利用してIgAとpIgR産生を増強に有用な食パンの製品110gを得た。なお、味と物性面でガラクトマンナン分解物無添加品と違いは認められなかった。
【0032】
(調製例9)
調製例3のガラクトマンナン分解物粉末4.0gにグラニュー糖30.0g、水あめ35.0g、ペクチン1.0g、1/5アップル果汁2.0g、水28.0gで混合し85℃まで加熱した後、50℃まで冷却しIgAとpIgR産生を増強に有用なゼリーの製品100gを得た。なお、味と物性面でガラクトマンナン分解物無添加品と違いは認められなかった。
【0033】
(調製例10)
調製例3のガラクトマンナン分解物粉末4.0gにグラニュー糖30.0g、水あめ35.0g、ペクチン1.0g、1/5アップル果汁2.0g、水28.0gで混合し85℃まで加熱した後、50℃まで冷却しIgAとpIgR産生を増強に有用なゼリーの製品100gを得た。なお、味と物性面でガラクトマンナン分解物無添加品と違いは認められなかった。
【0034】
(調製例11)
調製例4のガラクトマンナン分解物末2.0gとアラビノガラクタン2.0gにグラニュー糖30.0g、水あめ35.0g、ペクチン1.0g、1/5アップル果汁2.0g、水28.0gで混合し85℃まで加熱した後、50℃まで冷却しIgAとpIgR産生を増強に有用なゼリーの製品100gを得た。なお、味と物性面でガラクトマンナン分解物無添加品と違いは認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の粘膜免疫賦活組成物は、ガラクトマンナンの効果により、効果的にIgAとpIgR産生を増強することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】実施例1での大腸内のpIgR産生量
【図2】実施例2での大腸内のpIgR産生量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラクトマンナンを含有することを特徴とする粘膜免疫賦活組成物。
【請求項2】
腸管粘膜におけるIgA産生増強作用を有する請求項1記載の粘膜免疫賦活組成物。
【請求項3】
腸管上皮細胞におけるポリメリックIg受容体(pIgR)の産生増強作用を有する請求項1記載の粘膜免疫賦活組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか記載の粘膜免疫賦活組成物を含有する飲食品

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−213671(P2006−213671A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−29804(P2005−29804)
【出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【出願人】(000204181)太陽化学株式会社 (244)
【Fターム(参考)】