説明

粘膜外用組成物

【課題】トロメタモールの防腐力を高め、従来使用されている防腐剤を配合しなくても優れた防腐効力を奏し、且つ炎症を起こしている粘膜に対する安全性が高い粘膜外用剤、特に眼科用組成物と耳鼻科用組成物を提供する。
【解決手段】トロメタモール0.1〜5w/v%を含有する眼科用組成物に、メントール、カンフル、ボルネオール、ゲラニオール及びリナロールから選ばれるテルペノイド類0.0001〜0.1w/v%を配合することを特徴とする眼科用組成物の防腐力向上方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は優れた防腐効力をもち、しかも眼や鼻などの粘膜に対する安全性が高く、アレルギー症状、各種炎症への適用に優れた粘膜外用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、点眼剤等の粘膜外用剤の防腐剤として、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、ソルビン酸、パラオキシ安息香酸エステル、チロメサール、フェニルエチルアルコール、アルキルアミノエチルグリシンが使用されている。その中でも、塩化ベンザルコニウムを代表とするカチオン型防腐剤は、幅広い抗菌スペクトルを持ち、少量でも防腐効果が高いという点から最も多く使用されている。日本における市販点眼剤の中で、カチオン型防腐剤を用いているものは61.8%(塩化ベンザルコニウムが60.5%、グルコン酸クロルヘキシジン1.3%)と半数以上を占めている(非特許文献1参照)。
【0003】
しかし、上記防腐剤は粘膜、特に眼粘膜に刺激を与えることがあり、中でもカチオン型防腐剤は眼刺激を助長することが知られている。例えば、塩化ベンザルコニウムを含む点眼剤を頻回点眼したり、角膜に障害がある人やドライアイ症状等を示す涙液の動態が正常でない人が点眼すると、角膜に障害をきたす等の副作用が発生するといわれており(非特許文献2参照)、安全性の面で懸念される。
【0004】
このような角膜上皮に対する障害は塩化ベンザルコニウムに限られたことではなく、他のカチオン型防腐剤、パラオキシ安息香酸エステル類などにも当てはまるものである(非特許文献3、4参照)。
【0005】
また、カチオン型防腐剤は正電荷を持つため、負電荷を持つ配合成分と相互作用し、白濁を生じてしまうことがある。この場合、使用する防腐剤を通常使用される濃度よりも低濃度で用いれば上記のような配合禁忌が生じない可能性はあるものの、本来の目的である防腐効力が低下するため、実際に応用するのは困難だった。
【0006】
そのため、配合される薬物によっては使用が制限されるカチオン型防腐剤を低濃度で配合し、しかも防腐効力が充分に発揮される方法について種々研究がなされている。そのような方法として、例えば上記防腐剤が塩化ベンザルコニウムであれば、これとは別の防腐剤であるパラオキシ安息香酸エステルとキレート剤とを併用する方法(特許文献1参照)、あるいはホウ酸イオンを組み合わせる方法(特許文献2参照)等が提案されている。
【0007】
しかし、これらの提案は、いずれも併用する防腐剤の濃度によっては眼刺激やアレルギーなどの問題を引き起こす可能性が懸念され、特にパラオキシ安息香酸エステル類は角膜障害性があるといわれていることなどからも、安全性に問題があるといえる。したがって、防腐力が高く、しかも刺激がない、安定な眼科用剤等の粘膜外用剤が望まれていた。
【0008】
一方、トロメタモールは、緩衝剤(トリス緩衝液)として知られている化合物である(非特許文献5参照)。また、眼科用組成物では、緩衝剤としての記載の他、特定の薬物の安定化剤としての記載(特許文献3、4参照)、脂溶性ビタミンの有効性向上剤としての記載(特許文献5参照)がある。さらに、特願2001−121619号明細書(特許文献6)には、トロメタモールを防腐剤として配合するコンタクトレンズ用眼科用組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公平7−5456号公報
【特許文献2】特開平10−130156号公報
【特許文献3】特開平8−291065号公報
【特許文献4】特開平11−302162号公報
【特許文献5】特開2002−104959号公報
【特許文献6】特願2001−121619号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】日本コンタクトレンズ学会誌35 p238〜241,1993年
【非特許文献2】眼科31 p43〜48 1989年、眼科33 p533〜538 1991年
【非特許文献3】あたらしい眼科 10 1909〜1911頁 1993年
【非特許文献4】日本コンタクトレンズ学会誌 35 238〜241頁 1993年
【非特許文献5】第十一改正日本薬局方解説書 B−551、1986年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、トロメタモールの防腐力を高め、従来使用されている防腐剤を配合しなくても優れた防腐効力を奏し、且つ炎症を起こしている粘膜に対する安全性が高い粘膜外用剤、特に眼科用組成物と耳鼻科用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行なった結果、トロメタモール及びテルペノイド類を含有する水溶液が優れた防腐効力をもつことを見い出した。さらに、この水溶液に多価アルコール類、グリチルリチン酸類、及びベルベリン類から選ばれる一種以上を配合することにより、更に防腐効力を高めることができ、且つ粘膜に対して優れた安全性を持つことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明は下記防腐力向上方法、眼科用防腐剤組成物及び防腐剤を提供する。
[1].トロメタモール0.1〜5w/v%を含有する眼科用組成物に、メントール、カンフル、ボルネオール、ゲラニオール及びリナロールから選ばれるテルペノイド類0.0001〜0.1w/v%を配合することを特徴とする眼科用組成物の防腐力向上方法。
[2].トロメタモール0.1〜5w/v%と、メントール、カンフル、ボルネオール、ゲラニオール及びリナロールから選ばれるテルペノイド類0.0001〜0.1w/v%とを含有することを特徴とする眼科用防腐剤組成物(但し、グリチルリチン酸類を含むものを除く)。
[3].トロメタモールと、メントール、カンフル、ボルネオール、ゲラニオール及びリナロールから選ばれるテルペノイド類とからなる眼科用組成物配合用の防腐剤であって、眼科用組成物に上記トロメタモールが0.1〜5w/v%、上記テルペノイド類が0.0001〜0.1w/v%となるように配合することを特徴とする眼科用組成物配合用の防腐剤。
【発明の効果】
【0014】
本発明は優れた防腐効力をもち、しかも眼や鼻などの粘膜に対する安全性が高く、アレルギー症状、各種炎症への適用に優れた粘膜外用組成物である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下本発明につき更に詳しく説明する。本発明において用いられるトロメタモールの含有量は、組成物中に好ましくは0.1〜5g/100ml(以下、w/v%)、より好ましくは0.2〜4w/v%、更に好ましくは0.2〜3w/v%である。この範囲で、特に防腐力が高く、しかも浸透圧が適切で刺激がない良好な粘膜外用組成物が得られる。
【0016】
本発明において用いられるテルペノイド類は、トロメタモールの防腐効力を増強する。テルペノイド類は、テルペン炭化水素、テルペンアルコール、テルペンアルデヒド、テルペンケトンがあげられる。また、炭素数により、モノテルペン、セスキテルペン、ジテルペン、トリテルペン、テトラテルペンがあるが、モノテルペンが好ましく使用される。具体的な好ましいテルペノイドには、メントール(l−メントール、dl−メントール)、カンフル(dl−カンフル、d−カンフル)、ボルネオール(d―ボルネオール、リュウノウ)、ゲラニオール、シネオール及びリナロールなどのモノテルペンやビタミンA(ジテルペン)、カロチノイド(テトラテルペン)が挙げられる。前記テルペノイド類は、精製された化合物を使用しても良いしテルペノイド類を含有する精油を用いてもよい。テルペノイド類を含有する精油としては、具体的には、ユーカリ油、ベルガモット油、ウイキョウ油、ローズ油、ハッカ油、ペパーミント油、スペアミント油、及びフタバガキ科植物の精油、ロズマリン油、ラベンダー油などが挙げらる。これらテルペノイド類(テルペノイドを含有する精油を含む)は、1種を単独で又は2種以上併用してもよい。
【0017】
テルペノイド類は、組成物中に好ましくは0.0001〜1w/v%含有される。より好ましくは0.0005〜0.2w/v%、更に好ましくは、0.001〜0.1w/v%の範囲である。この範囲で、トロメタモールの防腐効力を効果的に向上させしかも刺激がない良好な粘膜外用組成物が得られる。なお、テルペノイド類のうち、例えばメントールには殺菌、防腐作用のあることが知られているが、通常、粘膜外用剤などに配合される上記濃度範囲では、有効な殺菌、防腐作用は得られない。しかし、トロメタモールと併用することで、トロメタモールの防腐効力を著しく増強することができる。
【0018】
本発明における多価アルコール、グリチルリチン酸類、及びベルベリン類は、本発明の粘膜外用組成物の防腐効力をさらに増強する効果を有する。
【0019】
本発明において用いられる多価アルコールは、ヒドロキシ基を複数有する化合物であれば特に制限はないが、グリセリン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、マンニトール、グルコースが好ましく、特にグリセリン、プロピレングリコールが好ましい。多価アルコールの含有量は、組成物中0.01〜10w/v%が好ましく、より好ましくは0.01〜5w/v%、特に好ましくは0.1〜3w/v%である。この範囲で、特に優れた防腐効力が得られ、しかも使用感が良い良好な粘膜外用組成物が得られる。
【0020】
なお、多価アルコールのうち、例えば、プロピレングリコールには弱い抗真菌作用が認められるが、防腐効力は十分ではない。しかしトロメタモールと共に使用すると、防腐力向上剤として著しい効果を発揮するものである。
【0021】
本発明におけるベルベリン類としては、塩化ベルベリン、硫酸ベルベリン等があげられ、これらは1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。本発明では、上記ベルベリン類を含有する植物、例えばオウレン、オウレン末、オウバク、オウバク末等の生薬を配合することもできる。塩化ベルベリン類の含有量としては、組成物中0.0001〜0.1w/v%が好ましい。より好ましくは0.001〜0.05w/v%、特に好ましくは0.0.005〜0.025w/v%である。この範囲で、特に優れた防腐効力が得られ、しかも使用感が良い良好な粘膜外用組成物が得られる。
【0022】
本発明におけるグリチルリチン酸類は、グリチルリチン酸、グリチルリチン酸二カリウム、グリチルリチン酸三カリウム、グリチルリチン酸二ナトリウム、グリチルリチン酸三ナトリウム、グリチルリチン酸モノアンモニウム、グリチルリチン酸二アンモニウム等が好適に使用され、これらは1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。なお、本発明では、上記グリチルリチン酸類を含有する植物等、例えばカンゾウ、カンゾウエキス等の生薬を、配合することもできる。グリチルリチン酸類の含有量は、0.01〜2w/v%が好ましい。より好ましくは0.05〜1w/v%、特に好ましくは0.1〜0.5w/v%である。この範囲で、特に優れた防腐効力が得られ、しかも使用感が良い良好な粘膜外用組成物が得られる。特に、0.1%以上では、前記効果の他、有効成分の吸収性が向上し特に優れた薬効が得られるため、好ましい。
【0023】
本発明の粘膜外用剤は、粘膜用製剤に配合される各種有効成分を配合し、刺激がない優れた粘膜外用医薬製剤とすることができる。特に、抗炎症、抗アレルギー用の薬品として有用で、好ましい有効成分としては、抗アレルギー薬、抗ヒスタミン薬、血管収縮薬があげられる。
【0024】
抗アレルギー薬は、クロモグリク酸又はその塩(クロモグリク酸ナトリウム等)、アンレキサノクス、トラニラスト、ペミロラスト又はその塩(ペミロラストカリウム等)、ケトチフェン又はその塩(フマル酸ケトチフェン等)であり、好ましくはクロモグリク酸ナトリウム又はトラニラストである。これらは、市販のものを使用することができる。抗アレルギー薬の好ましい含有量は種類により異なるが、0.01〜10w/v%の範囲であることが好ましい。詳細には、例えばクロモグリク酸又はその塩の含量は0.1〜5w/v%(より好ましくは0.5〜3w/v%)、アンレキサノクスの含量は0.01〜7w/v%(より好ましくは0.05〜5w/v%)、トラニラストの含量は0.02〜10w/v%(より好ましくは0.05〜5w/v%)、ペミロラスト又はその塩の含量は0.01〜5w/v%(より好ましくは0.05〜3w/v%)、ケトチフェン又はその塩の含量は0.01〜8w/v%(より好ましくは0.05〜5w/v%)である。この範囲の量が、粘膜への安全性が高く、しかも優れた抗アレルギー作用が得られる。
【0025】
抗ヒスタミン薬としては、例えば、マレイン酸クロルフェニラミン、塩酸ジフェンヒドラミン、ジフェンヒドラミン、フマル酸クレマスチン、メキタジン、塩酸イプロヘプチン、塩酸イソチペンジル、等が挙げられるが、安全性および効果の面で優れたマレイン酸クロルフェニラミンおよび塩酸ジフェンヒドラミンが好ましく、安定性の面で優れるマレイン酸クロルフェニラミンがより好ましい。抗ヒスタミン薬の好ましい含量は、その種類によっても異なるが、通常、0.005〜1w/v%であり、より好ましくは0.01〜0.5w/v%である。この範囲が、充分な抗ヒスタミン作用、かつ粘膜に対する安全性の点から好ましい。
【0026】
血管収縮薬としては、例えば、塩酸ナファゾリン、塩酸テトラヒドロゾリン、硝酸ナファゾリン,硝酸テトラヒドロゾリン、塩酸メチルエフェドリン、塩酸フェニレフリン、塩酸メトキサミン、エピネフリン、塩酸エフェドリン等が挙げられるが、安定性の面で優れる塩酸ナファゾリンおよび塩酸テトラヒドロゾリンが好ましい。血管収縮薬の含量は、その種類によって異なるが、通常、0.001〜1w/v%であり、好ましくは0.005〜0.5w/v%である。この範囲が、充分な抗充血作用、粘膜に対する安全性の点から好ましい。
【0027】
その他の薬学的有効成分としては、例えば、消炎・収斂剤(メチル硫酸ネオスチグミン、ε−アミノカプロン酸、アラントイン、硫酸亜鉛、乳酸亜鉛、塩化リゾチーム、サリチル酸メチル、トラネキサム酸、アズレンスルホン酸ナトリウム、等)、水溶性ビタミン類(フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム、塩酸ピリドキシン、シアノコバラミン)、ビタミン類(ビタミンA類(例えば酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール)、ビタミンE類(酢酸トコフェロール(例えば、酢酸d−α−トコフェロール)、活性型ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12)、アミノ酸類(L−アスパラギン酸カリウム、L−アスパラギン酸マグネシウム、アミノエチルスルホン酸、コンドロイチン硫酸ナトリウム等)、サルファ剤、殺菌剤(スルファメトキサゾール、スルファメトキサゾールナトリウム、スルフイソキサゾール、スルフイソミジンナトリウム、イソプロピルメチルフェノール、ヒノキチオール、イオウ等)等、局所麻酔剤(リドカイン、塩酸リドカイン、塩酸プロカイン、塩酸ジブカイン等)、があげられる。有効成分は、各々の有効量を適宜配合することができる。
【0028】
本発明の粘膜外用組成物には、前記成分の他に、粘稠化剤を含有することが好ましい。粘稠化剤により薬物の滞留性を良好とし、多量の有効成分を配合せずに(即ち過剰の薬物による刺激がなく)薬効を持続させることが可能である。粘稠化剤としては、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマーなどのポリビニル系高分子化合物、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルセルロース等のセルロース系高分子化合物、ヒアルロン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸ナトリウム等の多糖類が挙げられる。前記中、ポリビニル系高分子化合物とセルロース系高分子化合物は、特に薬物の滞留性に優れ、しかも使用感が良好であるため好ましい。
【0029】
セルロース系高分子化合物としては、結晶セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロースなどが挙げられる。上記中、水酸基の水素原子の一部をメチル基、エチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシエチル基で置換したセルロースエーテルが好ましい。特に好ましいセルロース系高分子化合物は、メチルセルロース、ヒドロキシピロピルメチルセルロースである。これらは、粘膜のムチンに対する特異的な相互作用力が特に強く、薬物の有効性が著しく向上する。上記セルロースエーテルの水酸基の好ましいアルコキシル基置換率は10〜45%、特に15〜45%が好ましい。また、セルロース系高分子のムチンに対する相互作用力は、重量平均分子量5×104以上において実効的な有効性が高まり、特に5×104〜1×106、5×104〜5×105が好ましい。セルロース系高分子化合物の含有量は、好ましくは組成物中に0.01〜10w/v%、特に好ましくは0.05〜5w/v%の範囲で配合する。この範囲の含有量において、薬物の滞留性が特に良好となる。
【0030】
また、本発明で用いるビニル系高分子としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルメチルエーテルが挙げられ、好ましくはポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンである。ポリビニルアルコールはけん化度78mol%以上であり、好ましくは78〜96mol%、特に好ましくは85〜90mol%のものを使用する。好ましいビニル系高分子の重量平均分子量は1万〜30万、より好ましくは2万〜15万である。ビニル系高分子の含有量は、好ましくは組成物中に0.02〜20w/v%、より好ましくは0.05〜10w/v%、特に好ましくは0.1〜10w/v%である。この範囲の含有量において、薬物の滞留性が特に良好となる。
【0031】
上記粘稠化剤を用いて、組成物の20℃における粘度3mPa・s〜20mPa・s、好ましくは3mPa・s〜15mPa・sとなるように調整する。この範囲の粘度で、本発明の高分子化合物を配合した点眼剤の点眼容器からの出易さが良好で、しかもべたつきがなく使用性が良好である。
【0032】
本発明の粘膜外用組成物には、前記成分の他に、pH調整剤、緩衝剤、溶解補助剤、等張化剤、安定化剤、等の各種の添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲で含有することができる。
【0033】
pH調整剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、塩酸等が挙げられる。緩衝剤としては、例えば、ホウ酸又はその塩(ホウ砂等)、クエン酸又はその塩(クエン酸ナトリウム等)、リン酸又はその塩(リン酸一水素ナトリウム等)、酒石酸又はその塩(酒石酸ナトリウム等)、グルコン酸又はその塩(グルコン酸ナトリウム等)、酢酸又はその塩(酢酸ナトリウム等)、炭酸又はその塩(炭酸水素ナトリウム等)、各種アミノ酸類(ε−アミノカプロン酸、アスパラギン酸カリウム、アミノエチルスルホン酸、グルタミン酸、グルタミン酸ナトリウム等)又はそれらの組み合わせが挙げられる。好ましい緩衝剤は、ホウ酸又はその塩(ホウ砂等)、リン酸又はその塩(リン酸一水素ナトリウム等)、ε−アミノカプロン酸である。特に好ましくは、ホウ酸またはその塩を使用する。緩衝剤の含有量は、組成物中、好ましくは0.01〜3w/v%である。
【0034】
溶解補助剤としては、例えば、ポリオキシエチレン(p=60)硬化ヒマシ油などのポリオキシエチレン高級脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン(p=20)ソルビタンモノオレエートなどのポリオキシエチレンソルビタン高級脂肪酸エステル等が挙げられる。これらの含有量は、組成物中、0.001〜0.5w/v%であることが好ましく、0.001〜0.1w/v%であることがより好ましい。これらの界面活性剤は、刺激の点から、配合量は極力低減することが好ましく、特に好ましくは無配合とする。等張化剤としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム等が挙げられる。安定化剤としては、例えば、エデト酸ナトリウム、シクロデキストリン、亜硫酸塩、クエン酸又はその塩、ジブチルヒドロキシトルエン等が挙げられる。エデト酸ナトリウムであれば、組成中に0.001〜0.5w/v%配合することができ、好ましくは0.01〜0.2w/v%の範囲である。また、ジブチルヒドロキシトルエンであれば通常、0.001〜0.1w/v%配合することができ、好ましくは0.01〜0.01w/v%の範囲である。
【0035】
本発明の製剤のpHは、医薬として許容される範囲であれば特に制限はなく、通常、pH4〜9の範囲であり、より好ましくは5〜8.5である。また、グリチルリチン酸類を使用する場合、pH4〜6、特に4〜5.5とすると、薬物吸収性が飛躍的に向上するため、好ましい。本発明の組成物は、上記範囲のpHを維持するよう、必要に応じてpH調整剤や緩衝剤を配合する。
【0036】
本発明の製剤の浸透圧は、医薬として許容される範囲であれば特に制限はなく、通常、0.1〜5圧比であり、より好ましくは0.2〜2圧比に調整する。浸透圧は、必要に応じて、等張化剤で調整することができる。
【0037】
本発明の粘膜外用組成物は、塩化ベンザルコニウムなどの通常粘膜外用組成物に使用される防腐剤(医薬品添加物事典2000(日本医薬品添加剤協会編集、薬事日報社)に記載の眼科用に使用前例のある防腐剤)を含有しない防腐剤フリーの粘膜外用組成物として使用できる。詳しくは、OA使用やコンタクトレンズ装用による疲れ眼、ドライアイ、花粉症などのアレルギー症状などで過敏になっている眼に対しても刺激がない良好な眼科用剤として適用可能である。さらに、本発明の粘膜外用組成物の用途は特に制限されず、医療用点眼剤又は一般用点眼剤として使用される。ソフトコンタクトレンズ、ハードコンタクトレンズを装用した状態でも点眼可能であり、さらに本組成物は洗眼剤、コンタクトレンズ装着液としても使用することができる。特に、ソフトコンタクトレンズへの吸着が技術課題となるソフトコンタクトレンズ用の組成物として、有用である。また、鼻炎などの耳鼻科用医薬品としても使用することができる。
【0038】
即ち、本発明の粘膜外用組成物は、
・抗炎症及び/または抗アレルギー用の粘膜外用組成物・眼科用または耳鼻科用組成物であることを特徴とする粘膜外用組成物
・ドライアイ、疲れ眼症状改善用の眼科用組成物・ソフトコンタクトレンズ用眼科組成物として好ましく使用することができる。
【0039】
本発明の粘膜外用剤組成物の製造方法は、特に制限されるものではない。例えば、点眼剤の製造例として、以下のように調製することができる。約80重量%の精製水にトロメタモールを溶解し、希塩酸を用いpHを約7.3に調整する。更に各配合成分を加え溶解した後、再度pHを7.3に調整し、ポリエチレンテレフタレート製の点眼容器(15mL)に無菌充填することにより得られる。
【実施例】
【0040】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明し、本発明の効果を明らかにする。
【0041】
<実施例1、2および比較例1〜4>表1に示す組成で点眼剤を調製し(配合量:g/100mL)、以下に示す試験1、2を行なった。
<試験1> 眼刺激性試験
表1に示す処方の点眼剤を調製(配合量:g/100mL)、容器に充填し、厚生省科学研究報告(昭和45年)における点眼用保存剤粘膜刺激性短期試験方法に準じて行なった。なお、評価の基準は以下の通りである。
<評価基準>
◎:Draize法による平均評点が0点以上2点未満
○:同2点以上4点未満
△:同4点以上6点未満
×:6点以上
【0042】
<試験2> 防腐効力試験
防腐効力は、第14改正日本薬局方・参考情報の保存効力試験法を参考にし、一部変更を加えて実施した。被検菌株は以下に示す細菌および真菌の5種を用い、各実施例及び比較例の試料1mLあたり105〜106個になるように加え25℃に静置し、1日後に菌を接種した溶液1mLのそれぞれを培養後、生菌数を測定し、接種菌数に対する残存率(%)を算出した。
細菌:Pseudomonas aeruginosa ATCC9027、Escherichia coli ATCC8739、Staphylococcus aureus ATCC6538真菌:Candida albicans ATCC10231、Aspergillus niger ATCC16404
【0043】
【表1】

【0044】
表1の結果から明らかなように、(A)トロメタモール、(B)テルペノイド類としてボルネオールを含有する実施例4は、(B)成分を除いた比較例1に比べ1日後という短期での防腐効力が高まった。更に、実施例4の点眼剤組成物に(C)多価アルコールとしてプロピレングリコール、(D)グリチルリチン酸類としてグリチルリチン酸二カリウム(E)ベルベリン類として塩化ベルベリン、などを配合した実施例1〜3では、実施例4よりも顕著に防腐効力が高まった。また、実施例1〜4とも眼刺激性がなく、安全性が高いことが示された。
【0045】
<実施例5〜25>
表2〜5に示す組成の点眼剤(実施例5〜22)、洗眼剤(実施例23,24)及びコンタクト装着液(実施例25)を調製し、上記実験例1、2の評価を行ったところ、いずれも良好な結果が得られた。
【0046】
【表2】

【0047】
【表3】

【0048】
【表4】

【0049】
【表5】

【0050】
<抗アレルギー用医薬製剤>
表6に示す組成に従って、抗アレルギー用点眼剤を常法により調製した。アレルギー既往歴のある男性5名をパネラーとし、アレルギー(かゆみ)発症時に各点眼剤を投与したときのかゆみの改善度合いとその持続時間を調べた。グリチルリチン酸、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを配合した試験例1、2は、配合しない試験例3よりもかゆみの改善・持続性が良好で、優れた抗アレルギー用医薬製剤が得られた。また、各試験例とも、防腐力、刺激性の評価は良好であった。
【0051】
点眼直後のかゆみの改善度合いの評価基準
◎:かゆみが軽減された
○:かゆみがやや軽減された
△:かゆみが変わらない
×:かゆみがややひどくなった
××:かゆみがひどくなった
かゆみ改善の持続の度合いの評価基準
◎:120分以上持続した
○:60分以上120分未満の持続
△:20分以上60分未満の持続
×:20分未満の持続−:かゆみの改善なし、またはひどくなった
【0052】
【表6】

【0053】
【表7】

【0054】
さらに、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを以下の市販製品に替えて実施した結果、いずれも良好な評価結果(防腐力、低刺激性、かゆみ・充血の改善、持続性)を得た。また、表9の点眼剤も、良好な評価結果であった。
ヒドロキシプロピルメチルセルロース(「メトローズ60SH−50」「メトローズ65SH−50」「メトローズ65SH−400」、「メトローズ65SH−1500」「メトローズ65SH−4000」、全て信越化学工業(株)製)
メチルセルロース(「メトローズSM−100」「メトローズSM−400」「メトローズSM−1500」「メトローズSM−4000」、全て信越化学工業(株)製)
【0055】
【表8】

【0056】
【表9】

【0057】
表9の点鼻剤は、何れも、防腐力、低刺激性、鼻水・鼻詰まりの改善、持続性に優れていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トロメタモール0.1〜5w/v%を含有する眼科用組成物に、メントール、カンフル、ボルネオール、ゲラニオール及びリナロールから選ばれるテルペノイド類0.0001〜0.1w/v%を配合することを特徴とする眼科用組成物の防腐力向上方法。
【請求項2】
トロメタモール0.1〜5w/v%と、メントール、カンフル、ボルネオール、ゲラニオール及びリナロールから選ばれるテルペノイド類0.0001〜0.1w/v%とを含有することを特徴とする眼科用防腐剤組成物(但し、グリチルリチン酸類を含むものを除く)。
【請求項3】
トロメタモールと、メントール、カンフル、ボルネオール、ゲラニオール及びリナロールから選ばれるテルペノイド類とからなる眼科用組成物配合用の防腐剤であって、眼科用組成物に上記トロメタモールが0.1〜5w/v%、上記テルペノイド類が0.0001〜0.1w/v%となるように配合することを特徴とする眼科用組成物配合用の防腐剤。

【公開番号】特開2009−292841(P2009−292841A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−216491(P2009−216491)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【分割の表示】特願2002−304251(P2002−304251)の分割
【原出願日】平成14年10月18日(2002.10.18)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】