説明

粘膜炎治療用組成物の使用

本発明は哺乳動物対象の治療に使用する、キトサンと、ヘパリン、ヘパラン硫酸及びデキストラン硫酸から成る群から選択される負荷電性多糖類とのイオン型錯体を含む組成物に関連している。また、キトサンと、ヘパリン、ヘパラン硫酸及びデキストラン硫酸から成る群から選択される負荷電性多糖類とのイオン型錯体を含む組成物組成物を哺乳類意動物対象の粘膜炎に局所適用し、改善又は治療する方法に関連している。本発明は更に、イオン型結合体錯体及び負荷電性多糖類を含む医薬組成物に関連している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は粘膜炎の治療又は予防に使用する医薬組成物に関連する。本発明は更に、粘膜炎の治療又は予防の方法を含む。
【背景技術】
【0002】
粘膜炎は、消化管の内側を覆う粘膜の痛みを伴う炎症および潰瘍を指す医療用語である。粘膜炎は、しばしば癌の化学療法と放射線治療の副作用としてあらわれる。粘膜炎は、粘膜が存在すれば体のどこにでも発生する可能性があるが、消化管や口腔内が最も一般的である。口腔粘膜炎は口の中で発生する炎症や潰瘍を意味し、癌治療においてよく生じる衰弱をもたらす副作用である。口腔粘膜炎は、一般的にWHOの基準1乃至4の範囲で等級化されており、グレード4が最も重症である。グレード3の口腔粘膜炎の患者は固形食を食べることができず、グレード4の患者は同様に液体を消費することができない。
【0003】
口腔内及び胃腸粘膜炎は、高用量の化学療法や造血幹細胞移植(HSCT)を受けている患者では100%にも達し、頭頸部の悪性腫瘍による放射線治療を受けている患者では80%であり、化学療法を受けている患者に広範な影響を与えている可能性がある。消化管粘膜炎は死亡率や罹患率を高め、医療費の上昇に寄与している。
【0004】
ほとんどの癌治療において、患者の約5乃至15%が粘膜炎を患っている。しかし、5−フルオロウラシル(5−FU)を使用した場合、40%までの患者が粘膜炎を発生し、10乃至15%がグレード3又は4の口腔粘膜炎である。イリノテカンでは20%を超える患者が深刻な胃腸(GI)粘膜炎を伴っている。骨髄移植レシピエントの75乃至85%が粘膜炎を経験し、特にメルファランを使用する場合、口腔粘膜炎が最も一般的であり、衰弱をもたらす。
【0005】
頭頸部または骨盤または腹部への放射線治療により、通常50%を超える患者が、それぞれグレード3及び4の口腔粘膜炎又はGI粘膜炎を伴う。頭頸部放射線療法を受けている患者の中には治療終了後にも痛みや口腔機能の低下が長く続く者もいる。臨床試験によると、分割放射線量は70%を超える患者の粘膜炎のリスクを高める。口腔粘膜炎は、全身放射線照射を受けるHSCTレシピエントの間で特に深刻であり長期にわたる。
【0006】
現在、粘膜炎の治療は主に補助的である。口腔衛生が、治療の主力であり、患者は4時間ごとと就寝時に口内を清潔にし、患者の粘膜炎が悪化する場合は、より頻繁に行う。水溶性のゼリーは、口を潤滑するのに使用できる。塩の洗口液は、痛みを和らげ、食べかすをきれいにすることにより感染を避けることができる。グルコン酸クロルヘキシジンや粘性リドカインなどの医薬洗口液は、痛みの緩和に使用することができる。パリフェルミンは、ヒトKGF(ケラチノサイト成長因子)であり、上皮細胞の増殖、分化、および移行の向上を示している。サイトカインや炎症の他の修飾子(例えば、IL−1、IL−11およびTGF−β3)、アミノ酸補給(例えばグルタミン)、ビタミン類、コロニー刺激因子、寒冷療法、及びレーザー治療を含む実験的な治療が報告されている。口腔粘膜炎の痛みは、濃縮経口ゲル製品(例えばGELCLAIR(商標))などのバリア保護剤によって症状が緩和されることがある。CAPHOSOL(商標)は、放射線と高用量の化学療法による口腔粘膜炎の予防と治療を可能にする口内洗浄剤である。バリア保護剤の多くで問題となるのは、一日4乃至10回といった非常に頻繁な適用を要することである。
【0007】
ただれや潰瘍はウイルス、細菌または真菌による感染に発展しうる。痛みと味覚認識の欠如は、食事を困難にし体重減少につながる。潰瘍は局所感染の部位や口腔細菌叢の侵入の門戸として機能し、敗血症につながった例もある(特に免疫抑制患者)。化学療法を受けている全患者の約半数は、このような深刻な口腔粘膜症の発症により、癌治療の変更を要する容量制限を受け、予後の悪化につながる。従って、粘膜炎の改良した予防と治療方法の差し迫った必要性が依然として存在している。
【発明の概要】
【0008】
本発明の目的は、粘膜炎に苦しむ患者に投与することで、粘膜炎の症状を軽減する局所用医薬組成物を提供することである。
【0009】
本発明の別の目的は、粘膜炎に苦しむ患者又は発症する危険性のある患者に投与することで、粘膜炎の発症又は増悪を予防する局所用医薬組成物を提供することである。
【0010】
本発明の更なる目的は、持続的な効果を提供することで必要な投与の頻度を減らす粘膜炎の治療、又は予防用の局所医薬組成物を提供することである。
【0011】
本発明の更なる別の目的は、癌治療の患者に、より多くの苦痛を引き起こすことなく、高用量の化学療法、放射線療法、及び/又は幹細胞療法の使用を可能にする粘膜炎の予防又は局所医薬組成物を提供することである。
【0012】
上記の目的だけでなく、本開示の観点から当業者に明らかな更なる目的は、本発明の様々な態様によって達成される。
【0013】
第一の態様において、本発明は、キトサンと、ヘパリン、ヘパラン硫酸及びデキストラン硫酸から成る群から選択される負荷電性の多糖類とのイオン結合型錯体を含む哺乳動物対象における粘膜炎の治療用組成物を提供する。
【0014】
負荷電性の多糖類の水溶液とキトサンを混合すると、すぐにイオン結合型錯体が形成され、沈殿する。このようなイオン結合型錯体においては、キトサンが生体内の負荷電性多糖類を酵素分解から保護し、それによって負荷電性多糖類の半減期と有益な効果が大幅に持続する。
【0015】
本明細書で開示する粘膜炎の治療用の組成物、方法および使用は、一般的に哺乳動物の対象に、特にヒトの対象に適用することができる。
【0016】
本発明の当該組成物は、好ましくは、例えば、粘膜炎が原因で損傷した粘膜の表面、又は粘膜炎が原因で粘膜が損傷する危険がある等、治療が必要な部位に局所的に適用する。
【0017】
口腔の粘膜、または粘膜の傷、ただれ又は潰瘍など、粘膜の表面に適用する場合、この組成物は、それが適用される表面を覆う物理的なバリアを形成する。フィルムとも呼ばれるこの物理的な障壁は、対象又は物質と、この表面との直接接触を防ぐのに役立つ。さもなければ、この表面に露出するかもしれない神経終末との直接接触により、患者に不快感や痛みを引き起こす。このような対象又は物質の例として、口腔粘膜炎の場合には、患者の歯、食品若しくは食べかすなどの外部の物質又は材料、飲料及び患者の口の中に入ることがあるその他の物質若しくは材料が挙げられる。
【0018】
この物理的な障壁は、更に、粘膜の傷、ただれや潰瘍への細菌の侵入を防ぎ、それによって感染のリスクの減少に役立つ。
【0019】
直接接触する対象や物質を伴う傷ついた粘膜表面への接触防止は、傷の炎症と感染を防ぐので、治癒プロセスをさらに早めるのに役立つ。
【0020】
この組成物は、傷ついた又は感作した粘膜を保護する物理的な障壁として単に機能するだけではない。粘膜に適用するキトサンと負荷電性多糖類との間のイオン結合型錯体は、更に、この粘膜へ例えばヘパリンの徐放といった負荷電性多糖類を提供する。キトサンが分解される際、イオン結合型錯体中に存在する負荷電性多糖類が徐々に放出される。ヘパリンは、固有の抗菌、抗炎症、痛みの緩和および創傷治癒の特性がある。従って、傷ついた粘膜の表面におけるヘパリンの徐放は、粘膜炎を患っている患者に非常に有益である。
【0021】
この組成物は、WHOのグレード1、2、3または4の口腔粘膜炎などの進行した粘膜炎を患っている患者の治療に使用できる。
【0022】
また、この組成物は、粘膜炎を発症するリスクのある患者の予防処置に用いることができる。
【0023】
キトサンは、正に荷電し、β−D−グルコサミン残基が直鎖状に1、4−結合した多糖類である。キトサンは、例えばカニやエビの殻に含まれるポリマーであるキチンを部分的に脱N−アセチル化して形成される。脱N−アセチル化は、例えば、キチンの強塩基または酸処理によって行われ、アセトアミド基からアミン基へ変換する。キトサンは、生体内でリゾチームとその他のグルコサミニダーゼによってモノマーとオリゴマーに分解される。N−アセチル−D−グルコサミンが豊富なキトサンは、生体外ではD−グルコサミン残基の割合が高いキトサンよりも速く分解され、生体内でも同様である。本発明の組成物と共に使用されるキトサンは、一般的に50乃至99%の範囲内の脱アセチル化度である。しかし、脱アセチル化度が約80乃至95%の範囲内のキトサンが粘膜炎の治療用組成物に特に有用であることが発見された。したがって、本実施態様で、この組成物に使用するキトサンは、脱アセチル化度が50乃至99%の範囲内であり、好ましくは80乃至95%の範囲内である。
【0024】
キトサンは、口腔内又は消化管に存在する条件等の生理的条件下で、生理学的に許容可能な、非有害で、容易に代謝される小成分に分解される。最も負に荷電した多糖類も、口腔内や消化管に存在しうる条件等の生理的条件下で炭水化物のモノマーやオリゴマーといった非有害で、容易に代謝される小成分に分解される。生体内で自然に分解され小成分を発生する負荷電性多糖類類の例としては、ヘパリン、ヘパラン硫酸およびデキストラン硫酸がある。この組成物は、好ましくはキトサンと、ヘパリン、ヘパラン硫酸およびデキストラン硫酸からなる群から選択される負荷電性多糖類類とを含んでいてもよい。このような組成物は、分解時に生物学的に分解可能であり、無毒性で、天然起源で、及び/又は容易に代謝される残基を生ずる点で有利である。
【0025】
ある実施態様では、負荷電性多糖類はヘパリンである。したがって、この実施態様では、本発明の組成物は、キトサン−ヘパリンイオン結合型錯体でできている。このようなイオン結合型錯体のキトサンとヘパリンの重量比は、約1:1乃至10:1であり、例えば、約1:1乃至約5:1である。より具体的な間隔の例は、約3:1乃至約4:1、約2:1乃至約3:1である。イオン結合型錯体に含まれるキトサンとヘパリンの重量比は、当該錯体の物理的特性、具体的にはレオロジー特性や接着性に影響を与える。さらに、過剰のヘパリンを持つことは、血液中のヘパリンと血漿タンパク質間の相互作用により、厄介な血液凝固の危険性を伴う。上記の範囲は、組成物が使われることになる特定の状況に基き、当業者が最適な比率を見出すガイドラインとして解釈すべきである。
【0026】
本発明組成物のこの実施態様の投与において、前記キトサンが寄与する正電荷の数は、イオン結合型錯体中の負荷電性多糖類に寄与する負電荷の数を超えている。負荷電性多糖類に比べ、電荷基準で過剰に存在するキトサンにより当該組成物は治療部位に固定される。一般的に、粘膜及び傷や粘膜の潰瘍の表面は負に帯電しているためである。治療領域中にこの組成物が固定化されているため、キトサンの分解時に負荷電性多糖類が徐々に局所放出される。
【0027】
この組成物の実施態様では、キトサン中の正電荷と、負荷電性多糖類類中の負電荷の比率は、好ましくは10:1乃至10:8の範囲内であり、好ましくは10:3乃至10:6の範囲内であり、より好ましくは10:4乃至10:5の範囲内である。10:4乃至10:5の範囲内の電荷比は特に有利である。それは、この組成物が、粘膜表面や口内炎によって引き起こされる粘膜の傷、ただれ又は潰瘍に対して非常に良好な接着力を提供し、それでもなお例えばヘパリンなどの負荷電性多糖類を治療効果に関連する放出率で表面に提供するからである。
【0028】
この組成物は好ましくは局所投与用に調整できる。更に好ましくは、この組成物は粘膜の表面に局所投与するように調整できる。ある実施態様においては、この組成物は、洗口液の形態で用いられている。
【0029】
この組成物は、液体媒質中にキトサンとヘパリンの結合型錯体の粒子の懸濁させた形態であってよい。液体媒質は、好ましくは、水または水をベースにしたものでよい。組成物中の錯体の濃度によって、この組成物は、懸濁液又はゲルと呼ばれることがある。
【0030】
この組成物中のキトサンと負荷電性多糖類との錯体の総濃度は、好ましくは、この組成物を表面に適用する際、この錯体の被膜が形成されるように選択される。
【0031】
この組成物の粘度は、一般的にキトサンと前記負荷電性多糖類との錯体の濃度の増加と共に高くなる。組成物中のキトサンと負荷電性多糖類の錯体の総濃度は、患者がこの組成物で口をすすぐ際、患者の口腔内粘膜に膜を形成することができるような組成物の粘度になるように選択することが好ましい。
【0032】
組成物中のキトサンと負荷電性多糖類との錯体の総濃度は、通常、組成物の全重量に対して、0.1乃至5重量%の範囲、好ましくは0.1乃至3重量%の範囲でよい。
【0033】
組成物中のキトサンと負荷電性多糖類との錯体の総濃度は、この組成物の全重量に対して、例えば0.5乃至5重量%の範囲にあれば適切な粘度を確保しうる。この組成物の全重量に対して1乃至3重量%の範囲の総濃度が好ましい。
【0034】
この組成物が、うがい薬の形態で提供される場合、組成物中のキトサンと負荷電性多糖類との錯体の総濃度は、組成物の全重量に対して0.1乃至0.5重量%であり、例えば0.2乃至0.4重量%の範囲が有用であることが見出されている。従って、本実施態様では、この組成物中のキトサンと負荷電性多糖類との錯体の総濃度は、組成物の全重量に対して0.1乃至0.5重量%、例えば0.2乃至0.4重量%の範囲である。
【0035】
この組成物は、さらに様々な薬学的に許容される賦形剤や添加剤を含んでいてもよい。そのような賦形剤や添加剤の例としては、緩衝液、界面活性剤、粘度調整剤、香味剤、および抗真菌剤および抗細菌剤などの抗菌剤であるが、これらに限定されない。この組成物は、また、消泡剤を含んでいてもよい。
【0036】
ある実施態様において、この組成物は、さらに抗真菌剤や抗菌剤などの抗菌剤を含む。このような薬剤の例としては、メチルパラベンおよびプロピルパラベンがあるが、これらに限定されない。
【0037】
ある実施態様において、この組成物はさらに、消泡剤、例えば、シリコン系消泡剤を含む。例えば、うがい薬の形態で適用する場合、消泡剤は、組成物の泡立ちを防ぐのに有用である。
【0038】
この組成物はまたさらに、治癒や痛みを緩和する組成物の効果を向上させることができる追加の医薬活性剤を含んでもよい。このような追加の医薬活性剤の例としては、鎮痛剤、抗炎症剤、抗生物質があるが、これらに限定されない。
【0039】
この組成物は、例えば、口腔、食道気道、消化管、泌尿生殖器官、および鼻と気道に影響を与える全てのタイプの粘膜炎の治療に有用であるが、とりわけ口腔及び消化管粘膜炎の治療に適しており、特に口腔粘膜炎である。この組成物の、傷ついた表面を覆う物理的な障壁を形成する能力による保護及び/又は、治療、及び創傷治癒特性の組み合わせは、食道粘膜炎などの口腔や消化管粘膜炎の治療によく適している。
【0040】
従って、ある実施態様においては治療する粘膜炎は、口腔又は消化管粘膜炎であり、好ましくは口腔粘膜炎である。
【0041】
粘膜炎の最も一般的な原因は、放射線療法、化学療法や幹細胞治療による癌治療法であり、本発明の組成物はこのような群の患者の治療には特に有効である。粘膜炎の発症は比較的、正確に放射線療法、化学療法や幹細胞治療の手順の開始に関連して予測しうるからである。粘膜炎の発症の予測を可能にすることにより、粘膜炎を発症するリスクがある患者の予防的処置することができ、それにより、何らかの症状が生じる前に患者の治療をすることができる。従って、この組成物は放射線療法、化学療法や幹細胞治療を受けている患者の痛みや不快感を大幅に減らすことができる。さらに、この組成物による治療、そして特に予防的処置は、患者の苦痛をより多く引き起こすことなく、癌の治療において、患者に高用量の化学療法、放射線療法及び/又は幹細胞療法を用いることができる。
【0042】
従って、本実施態様では、この組成物は、癌の治療によって引き起こされる粘膜炎の治療用に使用する。癌の治療は化学療法、放射線療法または幹細胞療法からなる群から選ばれる一つ以上の治療が含まれるうる。
【0043】
第二の態様において、本発明は、治療を必要とする部位に、キトサンと、ヘパリン、ヘパラン硫酸及びデキストラン硫酸から成る群から選択される負荷電性多糖類とのイオン結合型錯体を含む組成物を局所適用することで哺乳動物対象の粘膜炎を治療または予防する方法を提供する。
【0044】
本明細書において使用する「哺乳類」という用語は、特に明記されない限りヒトを含む。
【0045】
本明細書において使用する用語「局所」とは、一般的には皮膚や粘膜、例えば口、喉、目、膣または肛門、など体表面への医薬組成物の適用を意味する。
【0046】
この組成物は、一般的に創傷、損傷のある粘膜、若しくは潰瘍などの治療が必要な部位、又は例えば癌の治療の処置により損傷を受ける危険性がある膜に適用する。この組成物は治療又は保護を受けるべき面を覆うフィルムを形成するのに十分な量適用するのが好ましい。この組成物は、投与期間に一度または適切な回数を、単層または1以上の層を有するフィルムが形成されるように適用してもよい。適切な治療法は、例えば粘膜炎のグレードと重症度、及びフィルムの持続時間に影響を及ぼす患者特有の要因に応じて、当業者により決定することができる。
【0047】
この組成物は、ゲル、懸濁液、ローション、クリーム、軟膏、泡、又はスプレーとして局所投与に適した任意の形態で適用されうる。この組成物は、好ましくは、ゲルまたは懸濁液の形態で適用されることがある。口腔粘膜炎の治療においては、好ましくは、この組成物がうがい薬の形で適用されることがある。
【0048】
本発明の第二の態様の方法で使用する組成物は、本発明の第一態様で上述した通り更に定義されうる。
【0049】
粘膜炎のタイプは、本発明の第一の態様に関して上述したように、更に定義されうる。
【0050】
粘膜炎の原因は、本発明の第一の態様に関して上述したように、更に定義されうる。
【0051】
粘膜炎の治療方法は、粘膜炎を発症する危険性がある患者において、粘膜炎の症状の発現を防ぐために予防的に使用する場合に特に有効である。したがって、この方法の実施例では、患者は未だに粘膜炎を患っていないが、粘膜炎を発症するリスクがある者である。患者は、例えば、化学療法、放射線療法または幹細胞療法による治療の対象又はそのような治療の対象になる者を意図している。この組成物による治療、特に予防的処置による治療は、癌治療を受けている患者が用量制限になるほど深刻な粘膜炎を発症するリスクを軽減しうる。この組成物による治療、特に予防的処置による治療は、癌治療において、患者に、より多くの苦痛を引き起こすことなく、高用量の化学療法、放射線療法及び/又は幹細胞療法を用いることができる。
【0052】
第三の態様において、本発明は、局所投与に適したキトサンとヘパリンの懸濁液を含む医薬組成物を提供し、前記キトサンの脱アセチル化度は80乃至95%の範囲内であり、前記キトサンの正電荷と、前記負荷電性多糖類の負電荷の比率は10:4乃至10:5の範囲内にあり、前記組成物中の前記キトサンと前記負荷電性多糖類の総濃度は、この組成物の全重量に対して0.1乃至5重量%の範囲であり、好ましくは1乃至3重量%など、0.1乃至3重量%である。
【0053】
この組成物が、うがい薬の形態で提供される場合、この組成物中の前記キトサンと前記負荷電性多糖類の総濃度は、この組成物の全重量に対して0.1乃至0.5重量%であり、例えば0.2乃至0.4重量%の範囲が有用であることが見出された。従って、ある実施態様では、この組成物中の前記キトサンと前記負荷電性多糖類の総濃度は、組成物の全重量に対して0.1乃至0.5重量%であり、例えば0.2乃至0.4重量%の範囲が有用である。
【0054】
本発明の第三の態様における組成物は、粘膜炎の治療に特に有用である。本発明者らは、本発明の第三の態様に記載の組成物が、粘膜の負傷、損傷又は潰瘍の治療上の特性に関して非常に有益な組み合わせを提供することを見出した。この有益な特性の組み合わせは、良好な創傷治癒や痛みの緩和効果、有利な劣化の期間、粘膜及び粘膜の傷、ただれ又は潰瘍の表面への最適な接着性及び、良好なフィルム形成特性を具え、粘膜の表面に物理的な障壁の形成を可能にしている。
【0055】
口腔や喉などの粘膜上で十分な耐久性のある保護膜を形成することができる組成物を提供するのは困難である。しかし、本発明の第三の態様に記載の組成物は、意外にも十分な耐久性と接着剤だけではく、治療部位へのヘパリンの放出を制御する保護フィルムを提供する。これは生理学的に許容される分解性産物に、生物学的に分解される。本発明の第三の態様の組成物のさらなる実施態様および利点は、本発明の第一の態様の点で説明されているとおりである。
【0056】
この第四の態様では、本発明は哺乳類対象の粘膜炎の治療に使用する医薬品の製造における、キトサンと、ヘパリン、ヘパラン硫酸及びデキストラン硫酸からなる群から選択される負荷電性多糖類類とのイオン結合型錯体を含む組成物の使用を提供する。言い換えれば、本発明は、哺乳動物対象の粘膜炎の治療に使用するキトサンと負荷電性多糖類類とのイオン結合型錯体を含む組成物を、さらに提供する。
【0057】
本発明の第四の態様に係る使用は、更に、発明の第一態様に関して上述したものと同様に定義されうる。
【0058】
本発明の全ての態様の、全ての実施態様の、全ての特徴は、組み合わせが当業者によって過度の実験なしに決定できる限り、任意の可能な組み合わせで使用することができる。
【実施例】
【0059】
本発明のさらなる理解のために、以下に非限定的実施例を記載する。
【0060】
実施例1−粘膜炎の治療の局所用組成物の調製
メチルパラベン(1.31g)とプロピルパラベン(0.131g)を、0.115Mの酢酸緩衝液(1L、pH4.5)に加え、加熱しながら攪拌し、このパラベンが完全に溶解したところで、溶液を室温に冷却した。
【0061】
この冷却した溶液160gにサッカリンナトリウム(0.5g)を添加し、攪拌下で溶解させ、次いで90%の脱アセチル化度のキトサン(ChitoClear(登録商標)Primex ehf,ノルウェー)を2.5g加え、キトサンのすべてが溶解されるまで溶液を撹拌した。
【0062】
一方で、攪拌中に31gのパラベンを含む酢酸緩衝液に、1.0gのヘパリンナトリウム(Scientific Protein Laboratories)を添加して溶解させた。
【0063】
このヘパリン溶液と前記キトサン溶液を混合した懸濁液を5分間にわたって攪拌した。次いで50gのソルビトール溶液(70%水溶液)をこの懸濁液に添加し、撹拌を更に2分間続けた。攪拌下で、ペパーミントオイル(0.5g)をポリエチレングリコールソルビタンモノラウレート(tween20、4.5g)に溶解させ、次いでこのペパーミント溶液を、ヘパリン/キトサンの混合物に添加し、さらに5分間攪拌を続けた。
【0064】
実施例2−粘膜炎の治療の局所用組成物の調製
メチルパラベン(2.53g)とプロピルパラベンを(0.253g)を0.015Mの酢酸緩衝液(1L、pH4.5)に加え加熱をしながら攪拌し、このパラベンが完全に溶解したところで、溶液を室温に冷却した。
【0065】
この冷却した溶液160gにサッカリンナトリウム(0.2g)を添加し、攪拌下で溶解した。溶液に、37.5mgの消泡剤(Simethicone PD30、Basildon Chemical Company Ltd,英国)を撹拌中に添加した。90%の脱アセチル化度のキトサン(ChitoClear(登録商標)Primex ehf,ノルウェー)を0.625g加え、全てのキトサンが溶解するまで溶液を撹拌した。
【0066】
一方で、38gのパラベンを含む酢酸緩衝液に0.25gのヘパリンナトリウム(Scientific Protein Laboratories)を攪拌しながら添加して溶解させた。
【0067】
このヘパリン溶液と、このキトサン溶液を混合した懸濁液を5分間にわたって攪拌した。次いで50gのソルビトール溶液(水中70%溶液)を、この懸濁液に添加し、撹拌をさらに2分間続けた。攪拌下でペパーミントオイル(0.2g)をポリエチレングリコールソルビタンモノラウレート(tween20、1.0g)に溶解させ、次いで、ペパーミント溶液をヘパリン/キトサン混合物に添加し、さらに5分間攪拌を続けた。
【0068】
実施例3−粘膜炎を患っているヒト患者の治療。
71歳の男性患者は、頭頸部悪性腫瘍に対する放射線照射の治療を受けた。この患者は、放射線照射の前に治療のプロトコルにしたがって定期的な歯科治療を受けていた。多くの他の患者同様、この患者も放射線誘発口腔粘膜炎に苦しんだ。彼のケースでは、粘膜炎は口腔内に自発的潰瘍を伴う、最も深刻な度合いであった。粘膜炎により飲食に強い痛みを伴い、生活の質(quality of life)が著しく低下した。
【0069】
この患者に、実施例1で調製したゲル懸濁液の治療を行なった。患者自身が、この懸濁液5mLで口をすすぎ、残渣を排出することで投与を行なった。この手順を3回繰り返し、繰り返しにつき5mL懸濁液を使用した。3×5mLの懸濁液を別に投与した同日に、一回以上、別の3×5mLの懸濁液の投与を行なった。2回の治療を受けた一日後に、患者は潰瘍や痛みから開放され、通常どうり飲食ができた。彼は自身の判断で、粘膜の痛みを感じることなくカニ肉まで食べていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳類対象の粘膜炎の治療に使用する、キトサンと、ヘパリン、ヘパラン硫酸、及びデキストラン硫酸から成る群から選択される負荷電性多糖類とのイオン結合型錯体から成ることを特徴とする組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の組成物において、前記キトサンのジアセチル化度が50乃至99%の範囲内であり、好ましくは80乃至95%の範囲内であることを特徴とする組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の組成物において、前記負荷電性多糖類がヘパリンであることを特徴とする組成物。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の組成物において、前記キトサンの正電荷と、前記負荷電性多糖類の負電荷の比率が10:1乃至10:8の範囲内であり、好ましくは10:3乃至10:6の範囲内であり、より好ましくは10:4乃至10:5の範囲内にあることを特徴とする組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の組成物において、前記組成物中の前記キトサンと前記負荷電性多糖類の総濃度が、前記組成物の全重量に対して0.1乃至5重量%の範囲内にあり、好ましくは0.1乃至3重量%の範囲内にあることを特徴とする組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の組成物において、前記組成物中の前記キトサンと前記負荷電性多糖類の総濃度が、前記組成物の全重量に対して0.1乃至0.5重量%の範囲内にあることを特徴とする組成物。
【請求項7】
請求項5に記載の組成物において、前記組成物中の前記キトサンと前記負荷電性多糖類の総濃度が、前記組成物の全重量に対して0.1乃至0.5重量%の範囲内にあり、好ましくは1乃至3重量%の範囲内にあることを特徴とする組成物。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の組成物において、当該組成物が抗菌剤を含むことを特徴とする組成物。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の組成物において、当該組成物が消泡剤を含むことを特徴とする組成物。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の組成物において、前記粘膜炎が胃腸粘膜炎であることを特徴とする組成物。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載の組成物において、前記粘膜炎が口腔粘膜炎であることを特徴とする組成物。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか1項に記載の組成物において、前記粘膜炎が癌の治療により生ずることを特徴とする組成物。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれか1項に記載の組成物において、前記粘膜炎が化学療法、放射線療法、又は幹細胞療法に起因することを特徴とする組成物。
【請求項14】
哺乳動物対象の粘膜炎を予防又は治療する方法であって、キトサンと、ヘパリン、ヘパラン硫酸、及びデキストラン硫酸から成る群から選択される負荷電性多糖類とのイオン結合型錯を含む組成物を、治療を必要とする部位に局所適用するステップを具えることを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法において、前記組成物が、更に請求項2乃至9に記載のいずれか1項に従って定義されていることを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項14又は15に記載の方法において、前記粘膜炎が、更に請求項10乃至13のいずれか1項に従って定義されていることを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項14乃至16のいずれか1項に記載の方法において、前記患者が未だに粘膜炎を発症していないが、発症の危険性があることを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項14乃至17のいずれか1項に記載の方法において、前記患者が化学療法、放射線療法、又は幹細胞療法を受けることを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項14乃至18のいずれか1項に記載の方法において、前記組成物が洗口体の形態で供されることを特徴とする方法。
【請求項20】
キトサン及びヘパリン溶液を含む局所投与用の医薬組成物において、前記キトサンのジアセチル化度が80乃至95%の範囲内にあり、前記キトサンの正電荷と、前記負荷電性多糖類の負電荷の比率が10:4乃至10:5の範囲内であり、そして前記キトサンと前記負荷電性多糖類の総濃度が当該組成物の重量に基づき0.1乃至5重量%の範囲内にあることを特徴とする医薬組成物。
【請求項21】
請求項20に記載の医薬組成物が、ゲルの形態であることを特徴とする医薬組成物。
【請求項22】
請求項20に記載の医薬組成物が、洗口体の形態であることを特徴とする医薬組成物。
【請求項23】
請求項22に記載の医薬組成物において、前記組成物中の前記キトサンと前記負荷電性多糖類の総濃度が当該組成物の全重量に対して0.1乃至0.5重量%の範囲内にあることを特徴とする医薬組成物。
【請求項24】
哺乳動物対象の治療に使用する医薬品の製造に、キトサンと、ヘパリン、ヘパラン硫酸及びデキヅトラン硫酸から成る群から選択される負荷電性多糖類とのイオン型錯体を含む組成物の使用。
【請求項25】
請求項24に記載の使用において、前記組成物が、更に請求項2乃至9のいずれか1項に従って定義されていることを特徴とする使用。
【請求項26】
請求項24又は25に記載の使用において、前記粘膜炎が、更に請求項10乃至13のいずれか1項で定義されていることを特徴とする使用。

【公表番号】特表2012−529506(P2012−529506A)
【公表日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−514923(P2012−514923)
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際出願番号】PCT/SE2010/050650
【国際公開番号】WO2010/144044
【国際公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(511295416)エーエクスセラ アクチエボラグ (1)
【氏名又は名称原語表記】EXTHERA AB
【Fターム(参考)】