説明

粘膜送達ペンタボディ複合体(MDPC)による粘膜免疫応答の誘導

本発明は、例えば、粘膜送達ペンタボディ複合体(MDPC)を投与することにより、鼻内及び/又は口腔粘膜抗体応答並びに体液性抗体応答を特異的に誘導する新規手法を提供する。MDPCは、標的抗原と、標的抗原に強い親和性を有する粘膜送達ペンタボディ(MDP)を混合することによって形成される複合体である。MDPは、五量体化ドメイン(コレラ毒素(CT)又は熱不安定毒素(LT)のBサブユニットを含む、AB5毒素ファミリーのBサブユニットを含み得る)への単一ドメイン抗体(sdAb;標的抗原に特異的に結合する)の融合タンパク質である。五量体化ドメインは五量体に自己組織化することができ、それを介して五量体単一ドメイン抗体又はペンタボディが形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
国際公開第03/046560号(米国特許出願第20060051292号に相当する)は、一部には、抗体の結合特性を改善することに関する。この参考文献は粘膜ワクチンへの参照を含まない。
【背景技術】
【0002】
粘膜ワクチン、例えばポリオワクチンが早期に成功を収めたにもかかわらず、有効で長時間持続する抗原特異的免疫応答の誘導はいまだ課題のままである(1)。大部分の抗原は有効な粘膜免疫を自発的には誘導しないので、有効な経口又は経鼻ワクチンを開発するには、典型的にはアジュバントが必要である。
【0003】
現在試験される粘膜免疫系は、細菌の弱毒化突然変異株、抗原をミクロスフェアにリポソーム被包した種々の製剤(2)、脂質構造体及びウイルス粒子(3)を含む。試験された粘膜アジュバントは、CpG DNA(4)、細菌毒素(5)、例えばコレラ毒素(CT)(6、7)、大腸菌熱不安定毒素(LT)(8、9)及びそれらの誘導体を含む。これらの中で、CT又はLTに基づくアジュバントが使用されてきた(10)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
CT及びLTはどちらも、有核細胞上の細胞受容体G1に結合するBサブユニット五量体(11)、及びADPリボシルトランスフェラーゼ(12)であり、毒性実体であるAサブユニット単量体から成る。それ故、非毒性Aサブユニット変異体を作製すること又はBサブユニットだけを使用することによって毒素の毒性を低減する試みが為されてきた。CT又はLTのアジュバント性と毒性の分離が1つの理論であった。アジュバント性は保存されているが、はるかに低い毒性を有するCT又はLT変異体も期待された。CT及びLTの毒性低減はしばしばアジュバント性の喪失に結びつくが、CT変異体が生成され(13〜17)、試験されている。
【0005】
もう1つの方策は、CT又はLTの非毒性受容体結合Bサブユニット五量体、それ故CTB又はLTBと呼ばれるものを使用することである。CTB及びLTBは、一部の症例ではホロ毒素のアジュバント性を保存することが報告されている。LTBをアジュバント添加したインフルエンザサブユニット抗原は、i.n.免疫後、防御性鼻内IgAを誘導することが認められた(18)。しかし、抗原へのCTB又はLTBの添加は、多くの報告された症例において有意の粘膜IgAを誘導しなかった。化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)のSfbIタンパク質のフィブロネクチン結合ドメインはそれらの1つであった(19)。
【0006】
さらにもう1つの手法は、マンソン住血吸虫(Schistosoma mansoni)の28kDaグルタチオン−S−トランスフェラーゼのT細胞及びB細胞エピトープをCTBに融合することであった(20)。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、例えば、粘膜送達ペンタボディ複合体(MDPC)を投与することにより、鼻内及び/又は口腔粘膜抗体応答並びに体液性抗体応答を特異的に誘導する新規手法を提供する。MDPCは、標的抗原と、標的抗原に強い親和性を有する粘膜送達ペンタボディ(MDP)を混合することによって形成される複合体である。MDPは、五量体化ドメインへの単一ドメイン抗体(sdAb;標的抗原に特異的に結合する)の融合タンパク質である。一部の実施形態では、五量体化ドメインは、AB5毒素ファミリーのBサブユニット(21)、特にコレラ毒素(CT)又は熱不安定毒素(LT)のBサブユニットであり得る。五量体化ドメインは五量体に自己組織化することができ、それを介して五量体単一ドメイン抗体又はペンタボディが形成される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本研究において構築したsdAb及びCTBに基づくペンタボディ。(A)3つの相補性決定領域に下線を付した、BSA7、BSA8、BSA12及びBSA16の配列。(B)sdAb及びそれらのペンタボディの一次構造の概略図。ompAシグナルペプチドはタンパク質の分泌の間に除去される。CTBとsdAbは15アミノ酸リンカー(L)によって連結され、c−Myc検出タグ(myc)及び6×ヒスチジン精製タグで標識されている。(C)精製BSA8、BSA12、BSA16、C3C−BSA8、C3C−BSA12及びC3C−BSA16(レーン1〜6)のSDS−PAGE。
【0009】
【図2】BSAと本研究において構築した抗体との相互作用。(A)10、20、40、60、80及び100nMの濃度でのBSA8のBSAへの結合。(B)1、2、5、10、20及び50nMの濃度でのBSA12のBSAへの結合。(C)25、100、300、500、1000、2000及び3000nMの濃度でのBSA16のBSAへの結合。(D)長い解離時間で、10nMでのBSA12のBSAへの結合。適合が妥当に良好であるB、C及びDでは、実際のデータ点については白い円を使用し、1:1結合モデルの適合には実線を使用している。(E)10nM C3C−BSA8、C3C−BSA12及びC3C−BSA16のBSAへの結合;(F)10nM C3C−BSA8のBSAへの結合;(G)1μM BSAのC3C−BSA8、C3C−BSA12及びC3C−BSA16への結合、並びに(H)1.2μM BSAのC3C−BSA8への結合。(F)及び(H)は、C3C−BSA8とBSAとの間の相互作用を示すためであるが、使用したスケールにより(E)及び(G)では見えない。
【0010】
【図3】ペンタボディとBSAとの間でのタンパク質複合体の形成。Superdex 200(商標)でのBSA(A)及びペンタボディC3C−BSA12(B)のSECプロフィールを上のパネルに示す。C3C−BSA8とC3C−BSA16のプロフィールはC3C−BSA12のものと非常に類似しており、示していない。(C)1mg/ml BSA 80μl及び1mg/ml C3C−BSA 168μlの混合物(モル比=5:1)のSECプロフィール。C3C−BSA12の容量を3:1(D)、2:1(E)及び1:1(F)のモル比を有するように調整した。同様に、3:1のモル比のC3C−BSA16とBSA(G)及びC3C−BSA8とBSA(H)の混合物のSECプロフィールを示した。比較を容易にするため、すべてのグラフを100に基準化した。C3C−BSA12は、例えば、強固な複合体を形成することが示されている。
【0011】
【図4】最初の免疫から5週間後のBSA特異的な全身及び粘膜免疫応答。5匹のマウスの群を、PBS、BSA単独(CTRL)で又は指示されている試薬を添加したBSAで鼻腔内又は経口的に3回免疫した。各々のパネルの一番右側に、経口的BSA/C3C−BSA12免疫後のBSA特異的免疫応答を示す。
【0012】
【図5】分泌型IgA(sIgA)を形成するために、MDPと標的抗原との間で強固な複合体の形成(BSA/C3C−BSA12相互作用の場合のように)が必要であることを示す概略図。免疫応答の誘導は、おそらく有核細胞上の細胞受容体GIへのペンタボディの結合を通して媒介される。標的抗原、BSA及び送達分子(例えばCTB)の間に相互作用がない場合又は標的抗原へのMDPの親和性が、例えばBSA/C3C−BSA16の場合のように、強固なMDPCを形成するのに十分なほど強くない場合は、抗原特異的粘膜免疫応答はほとんど検出されなかった。標的抗原への単一ドメイン抗体の解離定数(K)は、10−7M又はそれ以下、好ましくは10−9M又はそれ以下、又は最も好ましくは10−11M又はそれ以下であるべきである。
【0013】
【図6】この図は、粘膜送達ペンタボディ複合体(MDPC)を示す。MDPCは、標的抗原と粘膜送達ペンタボディ(MDP)を含む複合体である。MDPは、五量体化ドメインに融合した単一ドメイン抗体(sdAb)の融合タンパク質である。sdAbは、標的抗原に特異的に且つ高い親和性で結合する。五量体化ドメインは、AB毒素ファミリーのBサブユニットであり得る(21)。(配列の簡単な説明)
【0014】
配列番号:1は、例えば実施例3で考察するsdAb「BSA7」のアミノ酸配列を提供する。
【0015】
配列番号:2は、例えば実施例3で考察するsdAb「BSA8」のアミノ酸配列を提供する。
【0016】
配列番号:3は、例えば実施例3で考察するsdAb「BSA12」のアミノ酸配列を提供する。
【0017】
配列番号:4は、例えば実施例3で考察するsdAb「BSA16」のアミノ酸配列を提供する。
【0018】
配列番号:5は、低親和性ペンタボディ「C3C−BSA8」のアミノ酸配列を提供する。
【0019】
配列番号:6は、高親和性ペンタボディ「C3C−BSA12」のアミノ酸配列を提供する。
【0020】
配列番号:7は、低親和性ペンタボディ「C3C−BSA16」のアミノ酸配列を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、例えば、粘膜免疫応答並びに体液性抗体応答を誘導する粘膜送達ペンタボディを使用した、標的抗原の特異的鼻腔内及び/又は経口粘膜送達を提供する。本発明はまた、一部には、ペンタボディと共に抗原を送達することによって特異的粘膜免疫応答を誘導する新規手順に関する。
【0022】
ペンタボディとは、五量体単一ドメイン抗体(sdAb)を指す。sdAbは、免疫グロブリンの重鎖(V)又は軽鎖(V)の可変領域を指す。従来のIgG由来のsdAbは、それらのV及びV対応物と対合させるために使用されるV又はVの分子表面の疎水性部分のために凝集する傾向がある。
【0023】
天然に軽鎖を欠く重鎖抗体(HCAb)が、ラクダ科の動物(22)、例えばラクダ、ラマ及びアルパカ、並びにサメ(23)において発見された。これらの重鎖だけのIg分子の可変領域、またはVHは単に抗原結合だけに関与する。従来のIgG由来のsdAbと異なり、ラクダ科動物のHCAbからのsdAbは、軽鎖及びC1ドメインと相互作用する必要がない。従って、従来のIgGではより疎水性の残基(Val37、Gly44、Glu45及びTyr47)が通常使用される場合に、より親水性の残基が認められた(Phe37、Glu44、Arg45及びGly47)。結果として、ラクダ科動物のsdAbは、単独で発現される場合、通常は単量体タンパク質として存在する(24)。本発明による使用のためのラクダ科動物sdAbは、典型的には非凝集性で、高度に熱安定であり、高度に界面活性剤耐性で、比較的高いタンパク質分解耐性を有し、そして免疫ライブラリーからの単離により又はインビトロでの親和性成熟により、高い親和性を有する。sdAbを志賀毒素1型のBサブユニット(stx1−B)に融合することにより、五量体sdAb又はペンタボディ生成された。
【0024】
OH157:H7を含む大腸菌の腸管出血性種によって産生される志賀毒素1型及び志賀毒素2型は、コレラ毒素(コレラ菌(Vibrio cholerae))、熱不安定エンテロトキシン(LT及びLT−II)(大腸菌(Escherichia-coli))、百日咳毒素(百日咳菌(Bordetella pertussis))と共に、AB毒素ファミリーの成員である(21)。それらは、各々の毒素が、受容体結合に関与するBサブユニット五量体及び毒性実体であるAサブユニット単量体から成るので、このように分類される。ペンタボディは、相同な五量体を形成し、トリプシン及びケモトリプシン消化に対して比較的耐性であり、比較的良好な熱安定性(T=52℃)を有していた。また、stx1−Bの、その細胞受容体G3への結合能力を保持していた。Stx1Bとコレラ毒素のBサブユニット(CTB)又は大腸菌熱不安定毒素のBサブユニット(LTB)は比較的低い配列同一性を有するが、3つのタンパク質は著明な構造類似性を共有する。
【0025】
本発明は、一部には、CTBを五量体化ドメインとして使用してペンタボディを構築すること及び粘膜抗原送達のためのそのG1結合を利用することに関する。本技術を適用できる方法の一例は、標的抗原(この場合はBSAがモデル抗原として選択される)に対するCTB−ペンタボディの構築及び抗原特異的粘膜免疫応答の誘導のためのその使用においてである。本明細書で述べる粘膜送達システムの一部の実施形態では、CTB又はLTBをペンタボディ複合体中で使用する。これは、抗原と粘膜表面を架橋するCTB−ペンタボディ又はLTB−ペンタボディの使用を可能にし、それによってワクチン製剤における付加的なアジュバントの必要性を排除する。従って、本発明は、一部には、コレラ毒素Bサブユニット(CTB)を用いた粘膜免疫応答の誘導のための新規方法に関する。
【0026】
一部の実施形態は、五量体単一ドメイン抗体又は「ペンタボディ」によって標的抗原をG1発現細胞に連結することを含む。抗原としてのウシ血清アルブミン(BSA)に対して種々の親和性を有する単一ドメイン抗体(sdAb)を、BSAで免疫したラマの抗体レパートリーからファージディスプレイ技術を用いて惹起した。これらの抗体を、CTBに融合してペンタボディを作製することによって五量体化した。BSAを担持するペンタボディの能力はそれらの親和性によって直接決定されることが認められ、これは、マウスにおいてBSA特異的免疫応答を有するそれらの能力に影響を及ぼした。高親和性ペンタボディC3C−BSA12(配列番号:6)は、CTによって媒介されるものと同等のBSA特異的分泌型IgAを誘導することができ、一方低親和性ペンタボディC3C−BSA8(配列番号:5)及びC3C−BSA16(配列番号:7)、並びにCTB単独は、IgA産生を誘導するより低い能力を示した。
【0027】
CTB又はLTBへの抗原特異的sdAbの融合は、抗原とCT又はLT毒素のB又はAサブユニットとの間で分子融合物を生成せずに抗原全体を粘膜表面に輸送することを可能にする。このプラットフォームは、さらなる適用のため及び粘膜ワクチンのさらなる開発のために使用できる。本明細書で報告する結果はまた、抗原がCTB−ペンタボディによって送達されて、抗原特異的粘膜免疫応答を誘導し得ることを明らかに示す。
【0028】
一部の実施形態を要約すると、抗原への強力な結合を有するCTBに基づくペンタボディによって粘膜免疫応答を誘導する、すなわち抗原を送達する新規手順が本明細書で提示される。生化学的結果(図2及び3)と免疫学的結果(図4)との比較も、粘膜免疫におけるCTBの役割を例証する。一部の実施形態では、粘膜免疫応答を誘導するために、抗原をMDPに強固に結合することができる、すなわち両者の間で強固な複合体が形成される(図5)。
【0029】
本明細書ではBSAを抗原として使用し、例示する。これは、本発明が様々な他の抗原に関して機能することを明らかにする。そのような他の抗原は、米国立アレルギー・感染症研究所(National Institute of Allergy and Infectious Diseases)のウエブサイト上に列挙されている(新興及び再興感染症として)、以下の生物から得られるものを含む:
第I群−過去20年間に新たに確認された病原体
アカントアメーバ症(Acanthamebiasis)
オーストラリアコウモリリッサウイルス(Australian bat lyssavirus)
非定型バベシア属(Babesia)
バルトネラ・ヘンセラ(Bartonella henselae)
エールリヒア症(Ehrlichiosis)
エンセファリトゾーン・クニクリ(Encephalitozoon cuniculi)
エンセファリトゾーン・ヘレム(Encephalitozoon hellem)
エンテロシトゾーン・ビエヌーシ(Enterocytozoon bieneusi)
ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)
ヘンドラウイルス(Hendra)又はウマモービリウイルス(equine morbilli virus)
C型肝炎
E型肝炎
ヒトヘルペスウイルス8型
ヒトヘルペスウイルス6型
ライムボレリア症(Lyme borreliosis)
パルボウイルスB19
第II群−再興病原体
エンテロウイルス71型
クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)
ムンプスウイルス(Mumps virus)
A群連鎖球菌属(Streptococcus、Group A)
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)
第III群−バイオテロの潜在的可能性がある外的病原因子
NIAID−カテゴリーA
・炭疽菌(Bacillus anthracis)(炭疽)
・ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)毒素(ボツリヌス中毒)
・ペスト菌(Yersinia pestis)(ペスト)
・大痘瘡(Variola major)(痘瘡)及び他の関連ポックスウイルス
・野兎病菌(Francisella tularensis)(野兎病)
・ウイルス性出血熱
−アレナウイルス属(Arenaviruses)
・LCM、フニンウイルス(Junin virus)、マチュポウイルス(Machupo virus)、グアナリトウイルス(Guanarito virus)
・ラッサ熱
−ブンヤウイルス属(Bunyaviruses)
・ハンタウイルス属(Hantaviruses)
・リフトバレー熱
−フラビウイルス属(Flaviruses)
・デング熱
−フィロウイルス(Filoviruses)
・エボラ出血熱
・マールブルグ熱
NIAID−カテゴリーB
・類鼻疽菌(Burkholderia pseudomallei)
・コクシエラ・バーネッティイ(Coxiella burnetii)(Q熱)
・ブルセラ種(Brucella)(ブルセラ症)
・鼻疽菌(Burkholderia mallei)(鼻疽)
・オウム病クラミジア(Chlamydia psittaci)(オウム病)
・リシン毒素(トウゴマ(Ricinus communis)由来)
・ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)のε毒素
・ブドウ球菌(Staphylococcus)エンテロトキシンB
・発疹チフス(発疹チフスリケッチア(Rickettsia prowazekii))
・食品又は水由来の病原体
−細菌
・下痢原性大腸菌(Diarrheagenic E.coli)
・病原性ビブリオ菌(Pathogenic Vibrios)
・赤痢菌種(Shigella species)
・サルモネラ属
・リステリア菌(Listeria monocytogenes)
・カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)
・腸炎エルシニア(Yersinia enterocolitica)
−ウイルス(カリシウイルス属(Caliciviruses)、A型肝炎)
−原生動物
・クリプトスポリジウム・パルバム(Cryptosporidium parvum)
・シクロスポラ・カヤタネンシス(Cyclospora cayatanensis)
・ランブル鞭毛虫(Giardia lamblia)
・赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)
・トキソプラスマ(Toxoplasma)
−真菌
・微胞子虫類(Microsporidia)
・付加的なウイルス性脳炎
−西ナイルウイルス(West Nile virus)
−ラクロスウイルス(LaCrosse)
−カリフォルニア脳炎
−VEE
−EEE
−WEE
−日本脳炎ウイルス(Japanese Encephalitis virus)
−キャサヌール森林病ウイルス(Kyasanur Forest virus)
NIAID−カテゴリーC
新興感染症の脅威、例えばニパーウイルス(Nipah virus)及び付加的なハンタウイルス
【0030】
NIAID優先分野:
・ダニ媒介出血熱ウイルス(Tick-borne hemorrhagic fever viruses)
−クリミア−コンゴ出血熱ウイルス(Crimean-Congo Hemorrhagic Fever virus)
・ダニ媒介脳炎ウイルス(Tick-borne encephalitis viruses)
・黄熱病
・多剤耐性TB
・インフルエンザ
・他のリケッチア属
・狂犬病
・プリオン病
・チクングニヤウイルス(Chikungunya virus)
・重症急性呼吸器症候群関連コロナウイルス(SARS−CoV)
・性感染病原体に関する研究を除く、抗菌剤耐性
−抗菌剤耐性の機序に関する研究
−病原体集団内での抗菌剤耐性遺伝子の出現及び/又は拡大の調査
−ヒト集団内での抗菌剤耐性病原体の出現及び/又は拡大の調査
−耐性機序を標的する治療手法に関する研究
−耐性出現を克服するための既存抗菌剤の改変
・広域スペクトル抗菌剤の開発を焦点とする、構築された脅威及び天然に生じる薬剤耐性病原体に関する、抗菌剤研究
・微生物、微生物産物及び抗原を認識し、それに応答する非適応免疫機序の検討と定義される、先天性免疫
・コクシジオイデス・イミチス(Coccidioides immitis)(2008年2月に追加)
・コクシジオイデス・ポサダシ(Coccidioides posadasii)(2008年2月に追加)
【0031】
上記で、特に注目すべき病原体の例に下線を付している(第I群及び第II群の各々1つ、並びに第III群の4つの病原体)。これら6つの例示的病原体/抗原対は、細菌、ウイルス及び毒素、並びに消化器経及び呼吸器系感染症を含む。これらについて、抗原/対を以下で括弧内に示す。さらなるそのような選択及び対合は、本開示を利用して当業者によって実施され得る。各病原体について、2以上の抗原が標的抗原として同定され得る。
C型肝炎(糖タンパク質E1及びE2)
黄色ブドウ球菌(PsaA)
炭疽菌(炭疽)(炭疽毒素)
下痢原性大腸菌(志賀毒素)
カンピロバクター・ジェジュニ(MOMP)
インフルエンザ(ノイラミイニダーゼ、赤血球凝集素)
【0032】
用語が本明細書で使用される場合、「動物」は、哺乳動物及びヒトを含む。この用語はまた、畜牛、乳牛、ブタ(hogs、pigs)、ウマ、ニワトリ、家禽及び生産動物を含む。獣医学適用に関しては、本発明はネコ、イヌ、ウサギ等を含む。
【0033】
本明細書で参照するか又は引用するすべての特許、特許出願、仮出願及び公表文献は、本明細書の明白な教示と矛盾しない範囲でそれらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0034】
特に指示又は示唆されない限り、「a」、「an」及び「the」という用語は、本明細書で使用される場合「少なくとも1つ」を意味する。
【0035】
以下は、本発明を実施するための手順を説明する実施例である。これらの実施例は限定されるものとして解釈されるべきではない。特に明記されない限り、すべてのパーセンテージは重量比であり、すべての溶媒混合物比率は容積比である。
【実施例】
【0036】
実施例1
実験材料
大腸菌TG1及びM13KO7ヘルパーファージは、New England Biolabs(Mississauga,Ont)から購入した。ベクターpSJF2(29)のように5×Hisタグタンパク質を発現する代わりに6×Hisタグタンパク質を発現する、発現ベクターpSJF2Hは、Dr.J.Tanha(IBS,NRC)の好意により提供された。CTBをコードするDNAは、Dr.D.Miller(U.of Toronto)から贈られた。CTタンパク質はSigma(St.Louis,Missouri)から購入し、組換えCTBはSBL Vaccine AB(Stockholm,Sweden)から購入した。5ml固定化金属アフィニティークロマトグラフィー(IMAC)High−Trap(商標)キレート化アフィニティーカラムはGE Healthcare(Uppsala,Sweden)から入手した。
【0037】
実施例2
BSAに特異的なsdAbの単離
雌性ラマをBSAで免疫した。このラマのVHレパートリーからsdAbファージミドディスプレイライブラリーを構築し、このライブラリーをBSAに対するsdAbの単離のために使用した。
【0038】
ラマの免疫ファージディスプレイライブラリーを、Reacti−Bind(商標)マレイン酸無水物活性化マイクロタイタープレートウエルに前吸着させた1mg/ml BSAに対してパニングした。約1011ファージをウエルに添加し、抗原結合のために37℃で2時間インキュベートした。未結合ファージを除去した後、ウエルを0.05% Tween 20を添加したリン酸緩衝食塩水(PBST)で、1回目のラウンドについては6回洗浄し、各追加ラウンドについて洗浄回数を1回ずつ増加した。100mM トリエチルアミン100μlと共に10分間インキュベートしてファージを溶出し、その後溶出液を1M Tris−HCl(pH7.5)200μlで中和した。ファージをとりだし、M13KO7を用いて増幅して、次のラウンドのパニングのために使用した。3回のラウンドのパニング後、溶出したファージを使用して対数期増殖期の大腸菌TG1に感染させ、M13KO7によってとりだした。生じたファージをファージELISAにおいて使用した。
【0039】
ファージELISAのために、96穴プレートのウエルを5μg/ml BSAで一晩被覆し、次に1%カゼインを用いて37℃で2時間ブロックした。ファージをカゼインで一晩前ブロックし、前ブロックしたウエルに添加して、1時間インキュベートした。陽性ファージクローンを標準ELISA手順によって検出し、この手順は、分析した38のファージクローンのうち35がBSAに結合したことを明らかにした。
【0040】
これらのクローンを配列決定のために送付した。これらのクローンの配列分析は、4つのsdAb:BSA7、BSA8、BSA12及びBSA16を明らかにした(図1A)。
【0041】
実施例3
sdAbの構築、発現及び特性付け
4つのsdAb(BSA7、BSA8、BSA12及びBSA16;それぞれ配列番号:1〜4)をコードするDNAをPCRによって増幅し、BbsI及びBamHI制限部位と隣接させた。生成物をpSJF2HのBbsI及びBamHI部位にクローニングして、pBSA7、pBSA8、pBSA12及びpBSA16を作製した。
【0042】
すべてのクローンをLB−アンピシリン25mlに接種し(30)、200rpmで振とうしながら37℃で一晩インキュベートした。翌日、培養物20mlを使用して、0.4% カザミノ酸、5mg/l ビタミンB1及び200μg/ml アンピシリンを添加したM9培地(0.2%グルコース、0.6% NaHPO、0.3% KHPO、0.1% NHCl、0.05% NaCl、1mM MgCl、0.1mM CaCl)1lに接種し、24時間培養した。次に、10×TB栄養素(12%トリプトファン、24%酵母抽出物及び4%グリセロール)100ml、100mg/ml アンピシリン2ml及び1M イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)1mlを培養物に添加し、200rpmで振とうしながら28℃でさらに65〜70時間インキュベーションを継続した。遠心分離によって大腸菌細胞を収集し、リゾチームで溶解した。細胞溶解産物を遠心分離し、透明な上清をHigh−Trap(商標)キレート化アフィニティーカラムに負荷して、Hisタグタンパク質を精製した。
【0043】
4つのsdAb遺伝子をペリプラズム発現ベクターpSJF2Hにクローニングして、sdAb発現ベクターを作製し(図1B)、発現されたタンパク質を固定化金属アフィニティークロマトグラフィー(IMAC)によって精製した。タンパク質3.1、16.2及び6.2mgを、それぞれpBSA8、pBSA12及びpBSA16の大腸菌培養物1lから得た(図1C)。BSA7発現からはほとんどタンパク質が得られず、このタンパク質のさらなる分析は実施しなかった。
【0044】
精製タンパク質をHBS−E緩衝液に対して透析した。凝集物の形成又はその不在を評価するため、先に述べられているように(31)HBS中でSuperdex 75(商標)又はSuperdex 200(商標)カラム(Amersham Phamacia,Piscataway,NJ)を用いて、BSA8、BSA12及びBSA16に関してサイズ排除クロマトグラフィーを実施した。Superdex 75(商標)カラムでのBSA8(11.87ml)、BSA12(11.72ml)及びBSA16(11.80ml)の溶出容積は、同じ条件下で実施した分子量マーカーの溶出容積に基づき、3つのタンパク質すべてが単量体として存在することを示唆した。その3つのタンパク質のいずれにも凝集性は見られなかった。
【0045】
実施例4
親和性測定
固定化BSA及び他のSAに対するBSA8、BSA12及びBSA16の相互作用についての結合動態を、BIACORE 3000(GE Healthcare)を使用した表面プラズモン共鳴(SPR)によって測定した。BSA(Sigma) 1700RUをリサーチグレードのCM5センサーチップ(BIACORE)に固定化した。エタノールアミンでブロックした表面を対照標準として使用した。固定化は、製造者によって供給されたアミンカップリングキットを使用して10mM 酢酸pH4.5中50μg/mlのタンパク質濃度で実施した。抗体をSuperdex 75(GE Healthcare)カラムに通して、BIACORE分析の前に単量体を分離した。
【0046】
すべての場合に、分析は、0.005%界面活性剤P20を添加したHBS−E緩衝液(10mM HEPES、150mM NaCl及び3mM EDTA、pH7.4)中25℃で、20μl/分の流速にて実施した。表面を100mM HClで再生した(3秒間)。データをBIAevaluation 4.1ソフトウエアで解析した。
【0047】
3つのsdAb、BSA8、12及び16のBSAに対する親和性をBiacore 3000を用いてSPRによって測定した。3つのsdAbすべてがBSAに特異的に結合した(図2)。BSA12(図2B)及びBSA16(図2C)によってより高い結合能力(約150RU)が達成されたが、BSA8のBSAへの結合に関しては約40RUの応答だけが記録された(図2A)。BSA8は、5×10−3l/秒の解離速度(k)及び100nMの範囲内の推定解離定数(K)でBSAへの結合を示した。SPRプロフィールが1:1結合モデルに適合しなかったため、正確なKは測定できなかった(図2A)。
【0048】
BSA12はBSAへの極めて強固な結合を有する(図2B)。非常に高い親和性の結合物に関してはより長い解離時間を必要とする、正確な親和性値を測定するため、1〜50nMの多数の濃度で5分間及び10nMで4時間、解離を再び観測した(図2D)。各々の結合を3回実施し、得られたデータは再現可能であった。これらの実験は、2.5×10−1/秒のk及び1×10−5/秒のkを明らかにし、4×10−12Mの算定Kを与えた(表1)。極めて緩やかな解離速度にもかかわらず、相互作用は1:1結合モデルに良好に適合する(図2D)。
【表1】

【0049】
従って、一部の好ましい実施形態では、結合親和性(解離速度定数(モル)で表した)は、10−7超、2.8×10−7超及び4×10−12超であり得る。
【0050】
実施例5
ペンタボディの構築、発現及び特性付け
CTBに基づくペンタボディを標準的な分子クローニング手順によって構築した。CTBをコードするDNAをPCRによって増幅し、それぞれ5’末端と3’末端でBbsI制限部位及びリンカー配列GGGGSGGGGSGGGGSをコードするDNAと隣接させた。BSA8、BSA12及びBSA16をコードするDNAをPCRによって増幅し、それぞれ5’末端と3’末端でリンカー配列GGGGSGGGGSGGGGSをコードするDNA及びBamHI制限部位と隣接させた。CTBと3つのsdAbをオーバーラップ伸長PCRによってDNAレベルで融合させる。最終PCR産物をBbsI及びBamHIによって消化し、同じ酵素で消化したpSJF2に連結して、クローンpC3C−BSA8、pC3C−BSA12及びpC3C−BSA16を作製した(図1)。
【0051】
3つのタンパク質の発現を実施例3で述べたように実施した。CTBに基づくペンタボディを、ペプチドリンカーGGGGSGGGGSGGGGSを用いて3つの単離sdAb、BSA8、BSA12及びBSA16の各々をCTBのC末端に融合することによって構築した。生成されたクローンC3C−BSA8、C3C−BSA12及びC3C−BSA16(図1B)は、それぞれ28,257、28,396及び28,786ダルトンのサブユニット分子量を有する。3つのタンパク質を大腸菌において発現させ、IMACによって精製した(図1C)。タンパク質10、23及び7mgをそれぞれC3C−BSA8、C3C−BSA12及びC3C−BSA16から得た。
【0052】
実施例6
標的抗原に対するペンタボディの親和性
3つのCTBに基づくペンタボディの結合を評価するため、再びSPR分析を実施した。3つのタンパク質すべてが固定化BSAへの特異的結合を示した(図2)。それらの単量体対応物と同様に挙動して、C3C−BSA12及びC3C−BSA16は高い能力の結合(約700RU、図2E)を達成したが、C3C−BSA8は高い能力の結合を示さなかった(約45RU、図2E及び2F)。
【0053】
C3C−BSA12は、10−5l/秒より遅いkでBSAへの最も強固な結合を示した。これは、9×10−6l/秒というBSA12のkに非常に近い。この結果は、非常に低いkを有するsdAbに関して、五量体化は見かけ上そのアビディティーを上昇させないことを示した。これは、五量体化によって機能的親和性の非常に大きな増大が達成され得る、低親和性sdAbの五量体化とは異なる(例えばC3C−BSA8及びC3C−BSA16参照)。結合の多価的な性質の故に、結合の正確なkは計算できなかった。
【0054】
固定化ペンタボディへのBSAの結合(図2G及び2H)は、単量体結合に関して認められたのと同様の結合パターンを明らかにした。しかし、解離速度は計算しなかった。BSAの小さな部分は二量体として存在する(図3A)。
【0055】
実施例7
BSA−ペンタボディ複合体の形成
BSA−ペンタボディ複合体の形成は、CTB−ペンタボディを介した抗原の送達のために重要であり、これをサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)で試験した。3つのペンタボディとBSAをSuperdex 200(商標)でのSECによって分析し、CTBのように五量体を形成するそれらの能力を測定した。3つのペンタボディすべてがSuperdex 200(商標)カラムで約13mlの容積にて溶出した(図3B、3つのタンパク質はほとんど同一のグラフを有するので、C3C−BSA12のプロフィールだけを示した)。同じ条件下で試験した分子量マーカーに基づき、3つのタンパク質すべての実際の分子量を約220kDaと決定した。この数はそれらのサブユニットの分子量の7〜8倍であるが、3つのタンパク質は、CTBの結晶構造に基づきまだ五量体とみなされる。
【0056】
3つのタンパク質全部から単量体は認められなかった。グラフはまた、タンパク質が非常に小さな凝集体を形成することを示した(図3B)。
【0057】
単量体BSAは67kDaの分子量を有し、CTBに基づくペンタボディは約143kDaの推定分子量を有する。BSA(図3A)及びC3C−BSA12(図3B)は、Superdex 200(商標)カラムで試験した場合、14.09及び13.03mlの主要溶出ピークを有する。C3C−BSA12とBSAを5:1のモル比で、すなわちBSA12とBSAに関しては1:1のモル比で混合した場合、タンパク質複合体が形成された(図3C、9.80mlのピーク)が、大きなBSAピークがまだ可視であった。3:1のペンタボディ:BSA比では(図3D)、BSAのピークはほぼ完全に消失した。これは、1つのC3C−BSA12ペンタボディが約3個のBSA分子を担持できることを示唆する。ペンタボディ:BSA比を2:1(図3E)及び1:1(図3F)にさらに低下させると、おそらくBSAによるペンタボディ分子内のBSA結合部位の競合によって引き起こされた、複合体ピークの9.8からそれぞれ10.10及び10.32mlへのシフトが生じた。
【0058】
C3C−BSA16(図3G)及びC3C−BSA8(図3H)もBSAと複合体を形成する。しかし、14.08mlという遊離BSAピークの高さは、BSAの大部分が未結合のままであることを示唆する。加えて、タンパク質複合体ピークの位置も、BSAとC3C−BSA16/C3C−BSA8との結合と解離が絶え間なく起こっていることを示唆する。結論として、C3C−BSA12はBSAと強固なタンパク質複合体を形成することができるが、C3C−BSA8及びC3C−BSA16は強固なタンパク質複合体を形成することができなかった。
【0059】
実施例8
抗原特異的粘膜免疫応答の誘導
6〜8週齢の雌性Balb/cマウスをCharles Rivers Laboratory(St.Constant,Quebec)から購入した。動物を、the Canadian Council on Animal Care Guide to the Care and Use of Experimental Animalsの推奨に従ってthe Animal Facility of the Institute for Biological Sciences,National Research Council of Canada,Ottawaにおいて飼育した。実験プロトコールは施設内動物実験委員会によって承認された。
【0060】
マウスの群(n=5)を0、14及び21日目に経口(0.1ml)又は鼻腔内(50μl)経路で様々なワクチン製剤によって免疫した。経口免疫については、18ゲージの給餌針を介した強制栄養法によってワクチンを投与した。i.n.免疫については、注射用食塩水0.25ml中0.1mg及び0.05mg/kg体重のケタミン及びキシラジンのi.p.注射によってマウスを麻酔し、P100ピペッターを用いてマウス外鼻腔にワクチンを交互に投与した。CTB 7.5μg、ペンタボディ7.5mg又はCT 1μgを添加した又は添加していないBSA 10μgをi.n.免疫において使用した。経口免疫ではペンタボディ75μgを添加したBSA 100μgを使用した。
【0061】
35日目に、免疫学的アッセイのための試料を収集した。血液を尾静脈から又は安楽死させたマウスの心穿刺によって収集し、血清を遠心分離によって分離した。糞便試料のために、3〜4の新鮮排泄されたペレットを氷上に保存した1.5mlマイクロチューブに収集し、10×(w/v)の抽出緩衝液(PBS中の5%ウシ胎仔血清、0.02%アジ化ナトリウム)中で強くボルテックスした。次にチューブを16,000×gで10分間遠心分離し、上清を収集した。P100ピペットを使用して、PBS 50ml(pH7.2)を覚醒マウスの膣に緩やかに注入し、回収することによって(3〜4回)膣洗浄液試料を収集した。CO窒息によってマウスを安楽死させた後、鼻洗浄液及び胆汁試料を収集した。胆汁を採取するため、胆嚢を0.5mlマイクロチューブに入れ、抽出緩衝液0.1mlを添加した。胆嚢を鋏で切断することによって「浸軟(macerated)」させた。チューブを穏やかにボルテックスし、遠心分離して(10,000×gで5分間)、上清を収集した。鼻洗浄液試料のために、上部気管に小さな切断部を作製し、洗浄チューブを頭部の方に0.5〜10cm挿入した。鼻腔をPBS 1mlで洗い流し、鼻の前開口部から洗浄液を収集した。すべての試料をアッセイまで−20℃で保存した。
【0062】
BSA特異的IgA及びIgG抗体を間接ELISA法によって測定した。簡単に述べると、96穴平底Immunolon 2(登録商標)マイクロプレート(Thermo Electron Corporation,Milford,MA,USA)を、0.1M 重炭酸緩衝液(pH9.6)100μl中の5μg BSA/ウエルで4℃にて一晩被覆した。被覆したプレートを2回洗浄し、PBS中の2%脱脂乳で室温にて1時間ブロックした。適切に希釈した試料のアリコート(100μl/ウエル)を2組ずつのウエルに添加し、プレートを室温で3時間インキュベートした。特に指示されない限り、ELISAアッセイのために使用した試料希釈は、糞便及び鼻洗浄液IgAについては1:2、膣、血清及び胆汁IgAについては1:20、そして血清IgGについては1:2000であった。プレートを3回洗浄した後、アルカリホスファターゼ結合ヤギ抗マウスIgA(1:1000)又はIgG H+L(1:3000)を添加し(すべてCaltag Laboratories,Burlingame,CA,USAより)、プレートを室温で1時間インキュベートした。p−ニトロフェニルホスフェート(pNPP)基質(Kirkegaard and Perry Laboratories,Inc.,Gaithersburg,MD,USA)の添加によって呈色反応を発現させ、自動ELISAプレートリーダー(354型、Thermo Labsystems,Helsinki,Finland)及びMultiskan Accent(登録商標)ソフトウエア(Thermo Labsystems)を使用して、10〜60分間のインキュベーション期間後に405nmで光学密度(OD)を測定した。
【0063】
この試験では、BSAを、Balb/cマウスを免疫するためのモデル抗原として使用した。CT、CTB及びCTB−ペンタボディを、BSA特異的免疫応答を誘導するか又は増強するそれらの能力を試験するために免疫の前にBSAに添加した。オボアルブミン(OVA)が、様々な免疫プラットフォームを試験する免疫学的検討においてモデル抗原としてしばしば使用されるが、OVAに対する多少のバックグラウンド免疫応答が存在する。これは、マウスSAとのその低い配列同一性(15%)に起因すると考えられる。その代わりに、本発明者らは、配列同一性分析に基づき、BSAが誘導する低いバックグラウンド免疫により(マウスSAとの70%の配列同一性)、BSAをモデル抗原として選択した。
【0064】
BSA単独で免疫した場合、血清、鼻洗浄液、糞便懸濁液、膣又は胆汁液中でBSA特異的抗体は検出できなかった(図4)。BSAへのCTBの添加も、無視し得る量の糞便IgAを除き、検出可能な抗体応答を誘導しなかった。これに対し、アジュバントとしてのCTの添加は、すべてのマウスにおいてBSA特異的血清IgG、血清IgA、鼻内及び糞便IgA並びに一部のマウスでは胆汁及び膣IgAを生じさせ、少なくともBSAモデル抗原に関して、CTは強力な粘膜アジュバントであるが、CTBはアジュバント性を有さないことを明らかにした。3つのBSA結合CTB−ペンタボディと混合したBSAによる免疫は多様な結果を与えた。3つのCTB−ペンタボディのうちの2つ、C3C−BSA8及びC3C−BSA16は、BSA特異的抗体力価にごくわずかな影響しか及ぼさなかった。しかし、C3C−BSA12と混合したBSAによる免疫は、CTをアジュバントとして添加したBSAによって誘導されるものと同等の、血清中のBSA特異的IgG及びIgA力価を誘導した。加えて、BSAに添加したC3C−BSA12は、実際に、CTとBSAよりも強力な鼻及び糞便のBSA特異的IgA、並びに同様の膣及び胆汁のBSA特異的IgA応答を誘導した(図4)。しかし、BSAに対する胆汁粘膜応答は、C3C−BSA12群のマウスの1匹だけとCT群からの2匹のマウスだけが応答したので、明瞭ではなかった。これらの結果は、sdAbを介してCTBに抗原を連結することが抗原特異的粘膜免疫応答を誘導する実行可能な方策であることを明らかに示した。この実験を1回反復し、同様の結果を認めた。
【0065】
もう1つの実験では、5匹のマウスをBSA/C3C−BSA12複合体で経口的に免疫した。この免疫は、消化器及び膣表面上並びに胆汁中で粘膜IgA産生を生じさせた。しかし、存在する場合は、非常に低いIgA応答が鼻洗浄液中で認められた。従って、経口免疫は必ずしも鼻内sIgAを誘導するわけではない。この所見は、Holmgren and Czerkinsky(1)によって要約された文献におけるコンセンサスとは異なる。
【0066】
これらの結果はまた、抗原送達におけるペンタボディの能力がsdAbの親和性に依存することを示す:C3C−BSA12は、BSA特異的粘膜免疫応答を誘導するようにBSAを送達することができる唯一のペンタボディであり(図4)、同時に3つのペプチドの中でより強力な結合体である。3つのsdAbの正確な親和性はまだ決定されないままである。
【0067】
実施例9
さらなる適用
ペンタボディを形成する融合タンパク質の能力を評価した。この技術のもう1つの適用は、対象とする抗原を含有する複雑な植物細胞、細菌、酵母又は哺乳動物細胞抽出物中での抗原−ペンタボディの形成においてである。次に、ペンタボディのBサブユニットに結合するアフィニティーマトリックスを使用して抗原−ペンタボディ複合体をマトリックスから精製することができる。その結果は、生産マトリックスからの抗原の迅速な捕捉、濃縮及び製剤である。
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの抗原を動物に送達するための方法であって、粘膜送達ペンタボディ複合体(MDPC)を粘膜経路によって動物に投与することを含み、前記MDPCが、
標的抗原及び
標的抗原に対して親和性を有する粘膜送達ペンタボディ(MDP)
を含有し、前記MDPが、
五量体化ドメイン及び
前記五量体化ドメインに融合した単一ドメイン抗体(sdAb)
を含有する融合タンパク質であり、
前記sdAbが標的抗原に特異的に結合し、
前記五量体化ドメインがAB5毒素のBサブユニットを含有する、方法。
【請求項2】
前記Bサブユニットがコレラ毒素(CT)又は熱不安定毒素(LT)に由来する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記MDPが、前記sdAbを前記五量体化ドメインに連結するリンカーを含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記MDPが五量体として自己組織化する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記sdAbが前記五量体化ドメインのN末端又はC末端に融合している、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
標的抗原が防御抗原である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記MDP及び前記標的抗原が高い親和性で複合体を形成する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記標的抗原を前記MDPと混合し、その前記MDP混合物を前記動物に投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記MDP及び前記標的抗原を1:1〜1:5のモル比で混合する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記粘膜経路が経鼻、経眼、経口、経直腸又は経膣である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記方法が抗原特異的粘膜免疫応答を誘導する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記方法が抗原特異的体液性免疫応答を誘導する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記方法が抗原特異的細胞性免疫応答を誘導する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記免疫応答が、粘膜部位における抗原特異的分泌型IgA抗体応答を特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
MDPCを含有する粘膜ワクチンであって、前記MDPCが、
標的抗原及び
前記標的抗原に対して高い親和性を有する粘膜送達ペンタボディ(MDP)
を含有し、前記MDPが、
五量体化ドメイン及び
前記五量体化ドメインに融合したsdAb
を含有する融合タンパク質であり、
前記sdAbが標的抗原に特異的に結合し、そして
前記五量体化ドメインがAB5毒素のBサブユニットを含有する、粘膜ワクチン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−505893(P2012−505893A)
【公表日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−532181(P2011−532181)
【出願日】平成21年10月13日(2009.10.13)
【国際出願番号】PCT/US2009/060495
【国際公開番号】WO2010/045225
【国際公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(501035309)ダウ アグロサイエンシィズ エルエルシー (197)
【出願人】(595006223)ナショナル リサーチ カウンシル オブ カナダ (25)
【Fターム(参考)】