説明

精密加工機の温調装置

【課題】精密加工機械およびこれを取り囲むカバー内の温度を全体として安定して一定に保つことができ、環境温度の変動をなくして機械精度の向上に寄与する。
【解決手段】加工機械を収容するカバー66の内部に空気を吹き出す吹出口72とカバー66内部の空気を吸い込む吸込口74とを有する空調装置70をカバー66の外に配設し、ベッド10の鋳抜き空間を通してベッド10を貫通する空気吹出ダクト77a、77bを空調装置70に接続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、光学フィルム成型用の金型ロールを加工するロール旋盤などの精密加工機において温度環境を一定に保つのに用いられる温調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ロール旋盤による超精密加工が進歩し、液晶パネルに使用されるレンチキュラーレンズ、クロスレンチキュラーレンズ、プリズムシートなどを成形するロール金型の超精密加工が実現されている。
【0003】
この種の超精密加工を行うロール旋盤では、超精密加工を実現するためには、従来のロール旋盤では問題とならなかった様々な問題を解決する必要がある。
【0004】
従来から、加工機の環境温度変化による悪影響を避けるために、様々な対策が講じられている。工場内には、照明、モータなどの様々な発熱源があり、発熱により環境温度が変動すると、ベッドなどの構造物に熱変形が発生し、加工精度に悪影響を与えるからである。
【0005】
この種の環境温度の変動を抑制するために、精密加工機をカバーで取り囲み、カバー内の温度を調整することが行われている。
例えば、特許文献1では、工作機械を囲むカバーとして多孔性熱遮蔽体からなるカバーを提案している。この多孔性遮蔽体を用いて工作機械を取り囲むことによって、工作機械をカバー外の温度変化の影響から遮断させている。
【0006】
他方、加工機械にも、モータ、案内面など多くの発熱部があり、カバーで覆っただけでは温度調整としては不十分となる。そこで、特許文献2では、カバーの内部を加工エリアと、それ以外のエリアに区分し、加工エリアと、それ以外のエリアとで発熱量に応じた送風量で冷却用エアをカバー天井上からカバー内部に吹き出すことを提案している。
【0007】
その他、従来から行われている温度対策としては、加工機械自体を恒温室に入れたり、ベッドなどの構造物に冷却水を流すことが行われている。
【特許文献1】特開2005−254334号公報
【特許文献2】特開2003−291050号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、カバーで加工機械を取り囲み、冷却用の空気を吹き出す従来の温調方式では、加工機械に向かって空気を吹き付けるため、機械の発熱部と、発熱していない部分とをバランス良く、安定して冷やすことが困難であり、機械全体の温度を一定に保ち、機械の内部と外部との温度差を小さくすることが困難であった。
【0009】
他方、ベッドなどの機械構造に冷却水を流す従来の温調方式では、個々の発熱部分を冷やすことは容易であるが、逆に過冷却になったり機械全体の温度を一定に保つことが困難であった。また、冷却水の漏れ、錆びの発生という問題もあった。
【0010】
そこで、本発明の目的は、前記従来技術の有する問題点を解消し、精密加工機械の構造物およびこれを取り囲むカバー内の温度を全体として安定して一定に保つことができるようにし、環境温度の変動をなくして機械精度の向上に寄与する精密加工機の温調装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するために、本発明は、鋳抜き空間が内部に仕切られたベッドを有し、精密加工機全体をカバーの内部に収容するようにした精密加工機の温調装置であって、前記カバーの内部に空気を吹き出す吹出口と該カバー内部の空気を吸い込む吸込口とを有する空調装置を前記カバーの外に配設し、前記ベッドの鋳抜き空間を通して該ベッドを貫通する空気吹出ダクトを前記空調装置に接続したことを特徴とするものである。
【0012】
本発明では、前記空気吹出ダクトは、前記ベッドの鋳抜き空間を貫通する第1の吹出ダクトと、前記ベッドの一端側に設けられ、前記吹出口と接続されて前記第1の吹出ダクトの一端に空気を分配する第1の分配ダクトと、前記ベッドの他端側に配置され、前記第1の吹出ダクトの他端に空気を分配する第2分配ダクトと、前記第1分配ダクトと前記第2分配ダクトを相互に連結する連結ダクトと、から構成することができる。
【0013】
また、本発明では、前記第1の吹出ダクトは、ベッドの長手方向に平行に延びる複数本の吹出ダクトからなり、前記空調装置には、前記カバーの内部を天井に沿って延び、空気を加工機の機上から吹き出す第2の吹出ダクトが接続される。
【0014】
また、本発明では、前記ベッドには、該ベッドの長手方向に延びる複数の鋳抜き空間が形成され、前記鋳抜き空間を仕切る隔壁には、前記隣合う鋳抜き空間同士を連通する鋳抜き穴がベッド長手方向に配列していることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ベッド全体を均一に安定して温度管理できるので、機械の発熱部、発熱していない部分とを含めて機械全体をバランス良く、安定した温度管理が可能となり、機械全体の温度環境を一定に保ち、機械の内部と外部との温度差を小さくし、超精密加工の加工精度向上に資することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明による超精密加工機の温調装置の一実施形態を示す正面図。
【図2】同実施形態による超精密加工機の温調装置の平面図。
【図3】同実施形態の温調装置による空気の吹出状況状態を示す断面図。
【図4】同実施形態の温調装置による空気の吹出状況状態を示す正面図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明による精密加工機の温調装置の一実施形態について、添付の図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明による温調装置が適用されるロール旋盤の正面を示す図、図2は同ロール旋盤の平面図である。図1、図2において、参照番号24はロール旋盤を示している。
【0018】
まず、ロール旋盤24について説明する。ベッド10上には、主軸台27と心押台28が設置されており、ロール30は、主軸台27と心押台28とによって回転可能に支持されている。
【0019】
図1に示すように、ベッド10の上には、2つ一組のテーブル32、32が設置されており、このテーブル32は、ベッド10の長手方向と直角の方向に移動することができる。
【0020】
この実施形態のロール旋盤24では、刃物台をリニアモータ駆動で走行させるエアスライド装置40がテーブル32、32に搭載されている。
【0021】
テーブル32の上には、レール受け33を介して断面T字型のガイドレール41がロール30と平行に支持されている。このガイドレール41には、エアスライダ42が嵌合し、ガイドレール41に沿って、リニアモータにより浮揚状態で走行するようになっている。エアスライダ42は、刃物台を兼用しており、ロール30を切削するバイトはエアスライダ42に取り付けられている。なお、このロール旋盤24では、エアスライド装置40が配置されている側が前側である。
【0022】
次に、図1、図2に示されるように、本実施形態のロール旋盤24は、機械カバー66の中に収容されていて、加工中は、機械カバー66によって四囲および天井を取り囲まれている。
【0023】
この機械カバー66は、ロール旋盤24を前側から覆う前カバー67と、ロール旋盤24を背後から覆う後カバー68とに2分割されている。図3に示すように、前カバー67の正面には、引き戸式にドア69が取り付けられている。前カバー67と後カバー68は閉じたカバーを構成している。
【0024】
この実施形態では、機械カバー66の外側には、空調された空気を送って機械カバー66の内部を空調する空調装置70が設置されている。この空調装置70には、機械カバー66の内部に空気を吹き出す吹出口72と、機械カバー66の内部の空気を吸い込む吸込口74とを有し、空調装置70と機械カバー66の間を空気が循環するようになっている。
【0025】
空調装置70の吹出口72には、空気を分配するための第1の分配ダクト75が接続されている。この第1分配ダクト75と対をなすようにして、ベッド10の反対側の端に第2の分配ダクト76が設置されている。このうち、第1分配ダクト75には、ベッド10の長手方向に延びる2本の第1吹出ダクト77a、77bの一端が接続されているとともに、連結ダクト78の一端が接続されている。この連結ダクト78の他端には第2分配ダクト76が接続されている。そして、第2分配ダクト76には、第1吹出ダクト77a、77bの他端が接続されている。したがって、空調装置70の吹出口72から送風されてくる空気は、第1分配ダクト75で第1吹出ダクト77a、77bと連結ダクト78にそれぞれ分配され、連結ダクト78を通ってくる空気は、第2分配ダクト76から第1吹出ダクト77a、77bに送られる。このようにして第1吹出ダクト77a、77bには両端から空気が送られるようになっている。なお、第1吹出ダクト77a、77bには、多数の図示しない空気吹出用の小穴が開いており、これらの空気吹出用の小穴から空気が外に噴き出されるようになっている。
【0026】
この実施形態では、第1吹出ダクト77a、77bの他に、機械カバー66の天井に沿って長手方向に延びる第2の吹出ダクト80が配設されており、この第2吹出ダクト80は、空調装置70と接続されている。この第2吹出ダクトにも空気吹出用の小穴が多数形成されている。
【0027】
図3に示すように、第1吹出ダクト77a、77bは、ベッド10特有の鋳抜き構造を合理的に活用している。
すなわち、ベッド10は鋳物製であるので、材料および重量軽減のために、隔壁によって複数の空間が仕切られた鋳抜き構造を有している。このベッド10では、図3に示すように、例えば、空間81乃至85が仕切られている。これら空間81乃至85は、それぞれベッド10の長手方向に延びる空間をなしている。そして、2本ある第1吹出ダクト77a、77bのうち、一方の第1吹出ダクト77aは空間82に収容され、他方の第1吹出ダクト77bは、空間84に収容されている。
【0028】
これらの空間81乃至85を区画する隔壁には、鋳抜き穴が形成されており、隣合う空間同士は、鋳抜き穴によって連通するようになっている。例えば、第1吹出ダクト77aが入れられている空間82は、鋳抜き穴86、87を介してそれぞれ隣の空間81、83に通じている。これら鋳抜き穴86、87は、ベッド10の長手方向に一定の間隔で複数形成されている。また、第1吹出ダクト77bを収容する空間84を区画する隔壁のうち、上壁には鋳抜き穴88が形成されており、ベッド10の外部に開放されている。
【0029】
本実施形態による超精密加工機の温調装置は、以上のように構成されるものであり、次に、その作用並びに効果について説明する。
ロールの加工は、図3、図4に示されるように、後カバー68と前カバー67とは一体になって機械カバー66が閉じた中で行われる。ロール加工の間、機械カバー66の内部は、外気とは遮断されることになる。
【0030】
加工中、空調装置70から送られてくる空気は、第1分配ダクト75、第2分配ダクト76からそれぞれ第1吹出ダクト77a、77bの両端部から送り込まれ、矢印で示されるように、空気吹出用の小穴からベッド内部の空間81乃至85に吹き出されることになる。なお、第1吹出ダクト77a、77bの両端部から空気を送り込むことにより、圧力損失によるムラをなくし全体として均一に空気を分散させることができる。
【0031】
これとともに、機上に配設されている第2吹出ダクト80の空気吹出穴からも温度管理された空気がロール旋盤に向かって吹き出される。
【0032】
本実施形態の温調装置によれば、元来、鋳物製のベッド10が有する鋳抜き構造を合理的に温度管理に利用しているので、特に、ダクトを配管するためにベッド10を改造する必要もなく、第1吹出ダクト77a、77bをベッド10の内部に配設することができる。しかも、第1吹出ダクト77a、77bから吹き出された空気は、ベッド10内部の空間81乃至85にくまなく行き渡り、発熱部分に片寄ることなく、ベッド10の温度を全体として均一にかつ安定して保つことができる。
【0033】
また、ベッド10の温度を全体として均一に保つために、この実施形態では、2本の第1吹出ダクト77a、77bを挿設しているが、空間81乃至85は、鋳抜き穴86、87を介して連通しあっているので、少ない本数のダクトで全体に満遍なく空気を送ることができる。
【0034】
また、天井には、第2吹出ダクト80が設けられており、機上からも空気が噴出するようにもなっており、ロール旋盤の内部と外側の温度差が可及的に少なくなるように機械カバー内部の温度環境を一定に保持することができる。
【0035】
超精密加工を実施するロール旋盤の場合、僅かな温度変動も加工精度に影響を及ぼすため、温度環境が変化した場合、温度が安定するまで加工を休止する必要があったが、本実施形態のような温調装置によれば、温度環境を安定して保つことができるため、超精密加工の加工精度と加工能率の向上に寄与できる。
【0036】
以上、本発明による超精密加工機の温調装置について、好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は、精密加工機としてはロール旋盤以外の精密加工機にも適用できることはもちろんである。
【符号の説明】
【0037】
10…ベッド、24…ロール旋盤、27…主軸台、28…心押台、42…エアスライダ、66…機械カバー、70…空調装置、72…吹出口、75…第1分配ダクト、76…第2分配ダクト、77a、77b…第1吹出ダクト、78…連結ダクト、80…第2吹出ダクト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳抜き空間が内部に仕切られたベッドを有し、精密加工機全体をカバーの内部に収容するようにした精密加工機の温調装置であって、
前記カバーの内部に空気を吹き出す吹出口と該カバー内部の空気を吸い込む吸込口とを有する空調装置を前記カバーの外に配設し、前記ベッドの鋳抜き空間を通して該ベッドを貫通する空気吹出ダクトを前記空調装置に接続したことを特徴とする精密加工機の温調装置。
【請求項2】
前記空気吹出ダクトは、前記ベッドの鋳抜き空間を貫通する第1の吹出ダクトと、
前記ベッドの一端側に設けられ、前記吹出口と接続されて前記第1の吹出ダクトの一端に空気を分配する第1の分配ダクトと、
前記ベッドの他端側に配置され、前記第1の吹出ダクトの他端に空気を分配する第2分配ダクトと、
前記第1分配ダクトと前記第2分配ダクトを相互に連結する連結ダクトと、からなることを特徴とする請求項1に記載の精密加工機の温調装置。
【請求項3】
前記第1の吹出ダクトは、ベッドの長手方向に平行に延びる複数本の吹出ダクトからなることを特徴とする請求項2に記載の精密加工機の温調装置。
【請求項4】
前記空調装置には、前記カバーの内部を天井に沿って延び、空気を加工機の機上から吹き出す第2の吹出ダクトが接続されたことを特徴とする請求項1に記載の精密加工機の温調装置。
【請求項5】
前記ベッドには、該ベッドの長手方向に延びる複数の鋳抜き空間が形成され、前記鋳抜き空間を仕切る隔壁には、前記隣合う鋳抜き空間同士を連通する鋳抜き穴がベッド長手方向に配列していることを特徴とする請求項2に記載の精密加工機の温調装置。
【請求項6】
前記精密加工機は、ベッド上にロールを回転可能に支持する主軸台と心押台が設置され、ベッド上に搭載された刃物台を備えたロール旋盤であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかの項に記載の精密加工機の温調装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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