説明

精油成分を吸着させた機能性粉末

【課題】優れた作用を有し、安全性の高い、抗菌性機能性粉末を提供すること。
【解決手段】精油成分を有効成分として多孔質炭酸カルシウムに吸着させた抗菌性機能性粉末を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性を有する精油成分を粉末化して、優れた抗菌用材を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
梨の袋がけに見られるように果実への病害を防止するためには、多大の労務が必要とされている。一般に、穀物や柑橘類へ発生する菌類及び害虫による病害は、従来農薬による散布、ポストハーベストにより駆除されてきた。しかしながら、農薬の残留が厳しく管理されており、農薬の代替として様々な天然物が検討されている。その中に柑橘等から得られる精油成分が抗菌性を有し、害虫忌避に効果があることが知られている。しかしながら、精油成分は揮発し易い液体のため、精油成分を吸着した除放性粉体の開発が要望されている。現在のところ、精油成分の吸着及び除放性はサイクロデキストリンが適しており検討が進められている。
【0003】
しかしながら、サイクロデキストリンの吸着量は精油成分1重量部に対して、3〜10重量部と少ない。サイクロデキストリンは分子量からα型・β型・γ型の3種類と化学的に修飾した修飾サイクロデキストリンが有り、用途に応じて使用されている。それらの価格はkg当り数千円〜数万円と高額なため、農薬の代替として抗菌・害虫忌避のために用いることは難しいのが現状である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、油吸着等に用いられている安価な多孔質炭酸カルシウムを担体として用いることにより、除放性を有する精油成分の粉末が得られることを見出し、それを有効成分とする機能性粉末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の抗菌性を有した機能性粉体は、多孔質炭酸カルシウムに精油成分を吸着保持させるものである。多孔質炭酸カルシウムとしては、炭酸カルシウムの連鎖状粒子の集合体からなるものであること。比表面積10〜100m/g、空隙容積0.7〜2.5mL/g及び吸油量50mL/100g以上、好ましくは、比表面積20〜100m/g、空隙容積1.2〜2.5mL/g及び吸油量100mL/100g以上であること、さらに、精油成分と多孔質炭酸カルシウムとの割合が1重量部:1〜3重量部であることなどが好ましい。本発明の機能性粉末は穀物や柑橘類へ直接散布しても良く、穀物や柑橘類の包装材料へ混合しても抗菌効果を得ることができることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の抗菌性を有した機能性粉末は、多孔質炭酸カルシウムに精油成分を吸着保持させるもので、優れた抗菌用材を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明で使用する炭酸カルシウムは多孔質炭酸カルシウムであって、従来一般に使用されている炭酸カルシウムとは相違し、空隙率が高く、給油性、給水性に優れたものである。使用した多孔質炭酸カルシウムは、特開平8−198623号公報に記載されている条件にて製造することができる。炭酸カルシウム粒子が連鎖状に集合した多孔質炭酸カルシウムが、精油成分を吸着保持することが確認された。しかしながら、このような用途で従来から使用されている炭酸カルシウムは使用されていなかった。
【0008】
多孔質炭酸カルシウムに吸着保持させる精油成分としては、たとえばオレンジ油を蒸留して得られるリモネン及びその類縁物質、ニーム油、ハッカ油、レモングラス油などの精油成分が挙げられる。
【0009】
本発明の機能性粉末においては、当然のことながら多孔質炭酸カルシウムの微細な空隙に十分な量の精油成分を吸着保持させることが必要である。そのための多孔質炭酸カルシウムと精油成分の比率としては、精油成分1重量部に対して1〜3重量部の多孔質炭酸カルシウムを使用することが好ましい。
【0010】
多孔質炭酸カルシウムに精油成分を吸着保持させ、本発明の機能性粉末を作製する方法としては、上述のように多孔質炭酸カルシウムの微細な空隙に十分な精油成分が吸着・保持されれば良く、多孔質炭酸カルシウムへ精油成分を噴霧、散布、塗布、浸漬または含浸法により、あるいは、混和、混練または混合させる方法など、従来から行われている方法を適宜選択して行えばよい。
【0011】
精油成分で流動性のない素材は、適当な溶剤に溶解して混合し、必要に応じて乾燥させても良い。精油成分は揮発性が強いため、多孔質炭酸カルシウムへ吸着・保持させて徐々に放出を行うが、必要であればアルコール可溶のトウモロコシ蛋白であるツェインをコーティングすることにより、長期の保持・放出が可能となる。
【実施例】
【0012】
以下、本発明の実施例を挙げて説明するが、本発明はその実施例に限定されるものではない。
【0013】
〔実施例1〕
多孔質炭酸カルシウム(白石カルシウム製;ポアカルーN)10kgを2軸万能攪拌機(ダルトン製 型式;60DMV−Qr)へ投入し、公転速度23rpm、自転速度42rpmにて攪拌を行う。次に、オレンジオイル(ヤスハラケミカル製;テルペンアルコールK)6kgを攪拌している多孔質炭酸カルシウム粉末へ100g/分の流速で噴霧し、吸着・保持させ、機能性粉末Aを15.7kg得た。
【0014】
〔実施例2〕
多孔質炭酸カルシウム(白石カルシウム製;ポアカルーN)10kgを2軸万能攪拌機(ダトン製 型式;60DMV−Qr)へ投入し、公転速度23rpm、自転速度42rpmにて攪拌を行う。次に、オレンジオイル(ヤスハラケミカル製;テルペンアルコールK)6kgを攪拌している多孔質炭酸カルシウム粉末へ100g/分の流速で噴霧し、吸着・保持させ粉末を得た。さらに、その粉末の表面に、ツェイン(小林香料製;小林ツェインDP)500gを80%エタノール10Lに溶解した溶液を攪拌しながら散布し、コーティングした。散布の後に2軸万能攪拌機を60℃に過熱して減圧下でエタノール・水を除去し、機能性粉末Bを14.4kg得た。尚、オレンジオイルの吸着量は実施例1の機能性粉末Aに比べ65%の吸着・保持となった。
【0015】
〔実施例3〕
得られた機能性粉末の抗菌効果を確認するため、梨の病害性カビである紋羽菌を用いた抗菌試験を行った。寒天培地シャーレへ紋羽菌を塗布し、φ10mmのろ紙に0.1gのオレンジオイルを含浸させシャーレ中央に静置した。30℃暗所で保管し抗菌作用で生じるリングを確認した。同様の条件で実施例1及び2で得られた機能性粉末をオレンジオイルが0.1gと為るように塗布して菌の増殖を確認した。
【0016】
【表1】

【0017】
表1に示すように、オレンジオイル部においては、オレンジオイルが揮発により減少すると抗菌作用が無くなり濾紙上まで菌が侵食する。実施例1で得られた機能性粉末Aは、除放性により3倍の抗菌作用を示し、更に実施例2で得られたツェインコーティングにより除放性に持続性を持たせた機能性粉末Bでは、6倍の抗菌作用が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明機能性粉末は、多孔質炭酸カルシウムに抗菌性を有する精油成分を吸着保持させたものであり、穀物及び果実へ散布するか包装資材へ混合させることにより、従来農薬により防除していたカビ等の菌汚染を防止することができる。しかも、多孔質炭酸カルシウム及び精油成分の一部は食品添加物に認可されており、安全性が担保された抗菌・害虫忌避効果を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
精油成分を有効成分とする抗菌性を有した機能性粉末。
【請求項2】
多孔質炭酸カルシウムに精油成分を吸着させることを特徴とする請求項1に記載の機能性粉末の製造方法。
【請求項3】
多孔質炭酸カルシウムが、炭酸カルシウムの連鎖状粒子の集合体からなることを特徴とする請求項2に記載の機能性粉末の製造方法。
【請求項4】
多孔質炭酸カルシウムが、比表面積10〜100m/g、空隙容積0.7〜2.5mL/g及び吸油量50mL/100g以上、好ましくは、比表面積20〜100m/g、空隙容積1.2〜2.5mL/g及び吸油量100mL/100g以上であることを特徴とする請求項2または3に記載の機能性粉末の製造方法。
【請求項5】
多孔質炭酸カルシウムと精油成分の割合が、精油成分1重量部に対して多孔質炭酸カルシウムが1〜3重量部であることを特徴とする請求項2〜4に記載の機能性粉末の製造方法。
【請求項6】
多孔質炭酸カルシウムに精油成分を吸着させて得られる粉末に、ツェインをコーティングして除放性を持たすことを特徴とする請求項2〜5に記載の機能性粉末の製造方法。

【公開番号】特開2010−150178(P2010−150178A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−329401(P2008−329401)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(591082421)丸善製薬株式会社 (239)
【Fターム(参考)】