説明

精製されたシリコンの製造方法

【課題】酸洗浄をより効果的に実施して、不純物であるアルミニウムが有利に低減されることにより精製されたシリコンを製造する方法を提供する。
【解決手段】本発明の精製されたシリコンを製造する方法は、アルミニウムを7重量%以上含有するシリコンを加熱してシリコン融液を得る溶融工程(S10)、当該シリコン融液を凝固してシリコン塊を得る凝固工程(S20)、当該シリコン塊を粉砕してシリコン粒子を得る粉砕工程(S30)、及びシリコン粒子を酸性溶液に3時間以上浸漬して酸洗浄する洗浄工程(S40)、をこの順に備え、凝固工程(S20)において、1350℃までの平均冷却速度が1.0×10℃/分以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精製されたシリコンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ICチップの封止材用フィラーや太陽電池用シリコンなどの原料として、金属シリコンが用いられる。このような金属シリコンの製造方法として、ハロゲン化ケイ素を金属アルミニウムにより還元する方法が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記方法により得られる還元シリコンには、不純物として多くのアルミニウムが含まれることから、太陽電池用シリコンなどの原料として供するためには、不純物を低減させる処理が必要となる。特許文献2には、このような不純物を含む金属シリコンの精製方法として、まず金属シリコンを粉砕した後、その粉砕物から特定の粒径のシリコン粒子を採取し、そのシリコン粒子をフッ化水素酸中に浸漬して酸洗浄する、金属シリコンの精製方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2−64006号公報
【特許文献2】特開2008−50180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2に開示されている金属シリコンの精製方法は、フッ化水素酸中に浸漬して酸洗浄するという簡便な方法により不純物を低減することができるために有用である。本発明は、このような酸洗浄をより効果的に実施して、不純物であるアルミニウムが有利に低減されることにより精製されたシリコンを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る精製されたシリコンの製造方法は、アルミニウムを7重量%以上含有するシリコンを加熱してシリコン融液を得る溶融工程、当該シリコン融液を凝固してシリコン塊を得る凝固工程、当該シリコン塊を粉砕してシリコン粒子を得る粉砕工程、及びシリコン粒子を酸性溶液に3時間以上浸漬して酸洗浄する洗浄工程、をこの順に備え、当該凝固工程において、1350℃までの平均冷却速度が1.0×10℃/分以上である。
【0007】
本発明において、上記酸性溶液が、フッ化水素酸、塩酸、硫酸、またはこれらの混合溶液であることが好ましい。
【0008】
本発明において、上記酸性溶液の温度が20℃以上100℃未満であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の精製されたシリコンの製造方法によると、酸洗浄を効果的に実施して、不純物であるアルミニウムの残存率が低い精製シリコンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の好ましい実施形態の精製されたシリコンの製造方法のフローチャートを表す。
【図2】実施例1に係るシリコン粒子の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る精製されたシリコンの製造方法は、アルミニウムを7重量%以上含有するシリコンを加熱してシリコン融液を得る溶融工程、シリコン融液を凝固してシリコン塊を得る凝固工程、シリコン塊を粉砕してシリコン粒子を得る粉砕工程、及び前記シリコン粒子を酸性溶液に3時間以上浸漬して酸洗浄する洗浄工程、をこの順に備え、凝固工程において、1350℃までの平均冷却速度が1.0×10℃/分以上である。以下、本発明に係る精製されたシリコンの製造方法について好ましい実施形態を例示して詳細に説明する。
【0012】
図1は、本発明の好ましい実施形態の精製されたシリコンの製造方法のフローチャートを表す。図1に表す実施形態の精製されたシリコンの製造方法は、アルミニウムを含有するシリコンを加熱してシリコン融液を得る溶融工程(S10)、該シリコン融液を凝固してシリコン塊を得る凝固工程(S20)、該シリコン塊を粉砕してシリコン粒子を得る粉砕工程(S30)、及び該シリコン粒子を酸性溶液に3時間以上浸漬して酸洗浄する洗浄工程(S40)をこの順に備える。洗浄工程(S40)は、シリコン粒子を酸性溶液中に3時間以上浸漬する酸浸漬工程(S41)の後に、好ましくは、シリコン粒子を水洗する水洗工程(S42)、さらにその後シリコン粒子を乾燥させる乾燥工程(S43)を備える。
【0013】
(溶融工程)
溶融工程(S10)に供されるアルミニウムを含有するシリコン(以下、「原料シリコン」とも言う)は、その大きさ、形状について限定されることはなく、たとえば、塊状、または粒子状である。原料シリコンは、アルミニウムの含有量が7重量%以上で、好ましくは7重量%以上20重量%未満のアルミニウムを含有する。アルミニウムの含有量が7重量%未満であると、本発明に係る精製による効果が低く好ましくない。
【0014】
原料シリコンとしては、アルミニウムが含まれているものであれば特に限定されないが、たとえば、ハロゲン化ケイ素を金属アルミニウムで還元して得られる還元シリコンが適している。その他、いわゆるイレブンナイン以上の高純度のシリコンと金属アルミニウムとの混合融液を冷却凝固させて得られるシリコン塊も本発明の製造方法で用いられる原料シリコンとして適している。混合融液に混合される金属アルミニウムとしては、通常アルミニウムとして市販されている電解還元アルミニウム、あるいは電解還元アルミニウムを偏析凝固法、三層電解法などの方法によって精製して得られる高純度アルミニウムが用いられる。不純物による汚染が少ない原料シリコン塊が得られる点で、純度99.9重量%、さらには99.95重量%以上の高純度アルミニウムが好ましく用いられる。本明細書における金属アルミニウムの純度は、金属アルミニウム100重量%から、鉄、銅、ガリウム、チタン、ニッケル、ナトリウム、マグネシウムおよび亜鉛の合計含有量を差引いて求められる純度である。
【0015】
溶融工程(S10)では、原料シリコンが溶融してシリコン融液となるまで加熱する。原料シリコンの加熱は、アルミニウムの酸化を抑制する点で、不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。不活性ガスとしては、たとえば、アルゴン、窒素などが挙げられる。溶融工程(S10)で得られるシリコン融液の温度は、1420℃以上であり、好ましくは1500℃以上かつ1650℃以下である。シリコン融液の温度が1420℃未満では、特にアルミニウム含有量が少ない場合、シリコン原料の溶融が不十分になる可能性があるため好ましくない。また、シリコン融液の温度が1650℃を超えると、シリコン融液をハンドリングし難くなり、また加熱に見合う効果を期待することは難しくなり、コスト的に不利になるので好ましくない。
【0016】
(凝固工程)
溶融工程(S10)で得られたシリコン融液は、凝固工程(S20)に供される。凝固工程(S20)において、シリコン融液は冷却され凝固し、シリコン塊となる。凝固工程(S20)において、シリコン融液(凝固部分を含む)の温度が1350℃となるまでは、1.0×10℃/分以上の平均冷却速度、好ましくは4.0×10℃/分以上の平均冷却速度、さらに好ましくは4.0×10℃/分以上でかつ1.0×10℃/分未満の平均冷却速度で冷却する。1350℃に達すると、アルミニウム含有シリコンの内、シリコン部分はほぼ凝固する。この温度までの平均冷却速度を上記のように制御することにより、粉砕工程(S30)を経た後段の洗浄工程(S40)において効果的にアルミニウムを除去することができる。
【0017】
シリコン融液は、アルミニウム部分を含めて全体が完全に凝固して塊状となるまで冷却を続ける。その温度はアルミニウムの含有量などによって変化するが、通常は1350℃以下まで冷却する。1350℃に達した後、さらに冷却を続ける場合、その冷却速度は特に限定されない。シリコン塊の厳密な温度検出が不要である等、制御が容易である観点から、1350℃に達した以降も、1350℃に達するまでと同様の温度制御を続けてもよい。
【0018】
平均冷却速度が1.0×10℃/分以上である凝固は、温度(例えば、50℃)を調節した黒鉛製の鋳型にシリコン融液を流し込む方法、温度を調節し、かつ回転する2本の金属製ロールの間にシリコン融液を流し込む方法等により行なうことができる。冷却についても加熱と同様に大気雰囲気中で行なってもよいが、アルミニウムの酸化を抑制する点から、不活性ガス雰囲気中で冷却することが好ましい。不活性ガスとしては、アルゴン、窒素などが挙げられる。
【0019】
(粉砕工程)
凝固工程(S20)で作製されたシリコン塊を、粉砕工程(S30)に供する。粉砕工程(S20)において、シリコン塊は粉砕されシリコン粒子となる。シリコン塊の粉砕方法としては、粉砕機を用いた機械作業による粉砕方法と、ハンマーを用いた手作業による粉砕方法とがある。粉砕機としては、衝撃式粉砕機、打撃式粉砕機、圧力式粉砕機等公知のいずれの粉砕機をも用いることができる。
【0020】
粉砕工程(S30)により得られたシリコン粒子は、そのまま全量採取して洗浄工程(S40)に供してもよいし、分級工程を経て、洗浄工程(S40)に供してもよい。洗浄工程(S40)に供されるシリコン粒子は、好ましくは粒径4mm以下、さらに好ましくは粒径50μm以上4mm以下のシリコン粒子である。粒径50μm未満では、洗浄工程(S40)において、洗浄液とともにシリコン粒子が流れやすくロスしてしまう可能性があり、またシリコン粒子のハンドリングが困難であり好ましくない。分級工程においては、従来から公知の方法が何れも採用可能であり、たとえば、サイクロン等の分級機、または篩を用いて分級を行うことができる。
【0021】
(洗浄工程)
<酸浸漬工程>
洗浄工程(S40)では、まず、シリコン粒子を酸性溶液中において浸漬処理することにより酸洗浄する酸浸漬工程(S41)を行なう。酸性溶液としては、たとえば、フッ化水素酸、硝酸、塩酸、またはこれらの混合溶液が用いられる。酸洗浄液の温度は、好ましくは20℃以上100℃未満である。液温20℃未満では、アルミニウムの除去速度が遅く、精製効率が悪いため好ましくない。液温100℃以上では、酸洗浄液が沸騰し、浸漬処理時の液はねや多量のミスト発生などの作業上の問題が発生する可能性があるため好ましくない。酸性溶液中での浸漬処理の時間は、好ましくは3時間以上で、より好ましくは7時間以上である。浸漬処理が3時間未満では、アルミニウム除去が十分でないため好ましくない。
【0022】
酸浸漬工程(S41)においては、アルミニウム以外にも、粉砕によってシリコン粒子の表面に露出された鉄、銅、ガリウム、チタン、ニッケル、ナトリウム、マグネシウム、亜鉛等の不純物が塩酸中に溶解せしめられると共に、塩酸がシリコン粒子内部に浸透して、シリコン粒子内の不純物が塩酸中に溶出せしめられる。
【0023】
酸性溶液中における浸漬処理を実施するに際しては、従来から公知の方法が何れも採用可能であって、何等限定されるものではないが、具体的には、たとえば、内面がフッ素樹脂コーティングされた容器を用い、そこにシリコン粒子と酸性溶液を投入し、そしてフッ素樹脂コーティングされた容器ごと湯浴内で加温して、シリコン粒子が容器の底に沈降しない程度の速度で攪拌することにより行なわれる。シリコン粒子および酸性溶液を投入する容器としては、酸腐食しないものであれば使用することができる。また、浸漬中は攪拌以外にも、たとえば超音波により洗浄する方法を採用することもできる。
【0024】
酸浸漬工程(S41)が終了した後、得られたシリコンスラリーに対して、酸洗浄されたシリコン粒子を取り出すべく、好ましくはろ過操作を行なう。このようなろ過操作には、従来から公知の方法が何れも採用され得るものであるが、一般に、ろ過速度及び固液分離能に優れている遠心ろ過装置を用いたろ過操作が、好ましく採用される。
【0025】
このように、酸浸漬工程(S41)が終了したシリコン粒子に対して、ろ過操作が実施されることにより、塩酸中に溶解または溶出せしめられた不純物や微細な不溶成分として析出した不純物が、分離、除去されることになる。
【0026】
<水洗工程、乾燥工程>
上述のろ過操作が終了したシリコン粒子を、好ましくは水洗工程(S42)に供し、さらに乾燥工程(S43)に供する。この水洗工程(S42)により、酸浸漬工程(S41)後のろ過操作によって分離、除去されなかった不純物、金属シリコン粒子表面に付着した不純物が、有利に確実に洗い流されて、得られるシリコン粒子の純度が有利に高められることになる。ここで使用される洗浄水としては、特に限定されるものではないが、たとえば、純水、イオン交換水、飲料水などが好ましい。このような洗浄水を使用することにより、水中に含まれる新たな不純物の混入を回避することができる。
【0027】
水洗工程(S42)における水洗方法は、特に限定されることはなく、たとえば、上記ろ過操作が実施された遠心ろ過装置内のシリコン粒子に、直接洗浄水をかけることによってスラリー状とし、さらにこのスラリーに対してろ過操作を繰り返すことにより実施することができる。水洗時間は、好ましくは2時間以上で、さらに好ましくは8時間以上である。水洗2時間未満では、水洗が不十分で、シリコン粒子の表面や内部に酸が残留するため好ましくない。
【0028】
水洗処理が施されたシリコン粒子を、その後、好ましくは乾燥工程(S43)に供する。乾燥工程(S43)における乾燥方法は、何ら限定されることはなく、従来から公知の方法にしたがって行なうことができる。たとえば、温度制御した乾燥機の中で乾燥させる方法や自然乾燥などが挙げられる。乾燥時間は、乾燥方法に応じて、シリコン結晶内部の結晶水が十分に除去されるように適宜に決定され得る。好ましくは8時間以上で、さらに好ましくは24時間以上である。乾燥8時間未満では、シリコン結晶内部の結晶水が十分に除去されない場合があるため好ましくない。
【0029】
アルミニウムを7重量%以上含有するシリコン原料を、上記の溶融工程(S10)、凝固工程(S20)、粉砕工程(S30)、洗浄工程(S40)を経て処理することにより、シリコン粒子中に存在するアルミニウムが効果的に除去され、精製されたシリコン粒子が作製される。
【実施例】
【0030】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例によって限定されるものではない。
【0031】
(実施例1)
高純度ポリシリコン(株式会社トクヤマ製)に、10重量%の含有量となるように金属アルミニウムを添加した混合物を容器に入れて、この容器を電気炉内に載置した。電気炉内を昇温して1550℃に加熱溶融したアルミニウム含有シリコン融液を得た(溶融工程)。次に、得られたアルミニウム含有シリコン融液200gが入った容器を電気炉から取り出し、直ちに融液を50℃に予熱した内径200mm、深さ45mmの黒鉛製の鋳型に流し込んで約500℃まで急速冷却し凝固させてアルミニウム含有シリコン塊を得た(凝固工程)。このときの平均冷却速度は4.0×10℃/分であった。そして、大気雰囲気中で室温にてアルミニウム含有シリコン塊を細かく粉砕した後(粉砕工程)、粒径0.5〜1mmのシリコン粒子を採取した(分級工程)。
【0032】
次に、採取した粒径0.5〜1mmのシリコン粒子中のアルミニウム濃度(重量%)を、発光分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、型番:SPS 4000)を用いてICP−発光分析法で化学分析した後、洗浄工程に供した。具体的には、シリコン粒子を90℃の36重量%塩酸中に投入して8時間酸浸漬を行なった(酸浸漬工程)。その後、ろ過装置にてろ過操作を行ない、ろ過装置内のシリコン粒子に対して水洗工程の水洗処理を12時間行なった。水洗処理は、ろ過装置内のシリコン粒子に純水をかけてスラリー状とし、このスラリーに対してろ過操作を繰り返し行なった。水洗工程の後、乾燥工程において乾燥処理を行なった。乾燥処理は、90℃に温度制御した送風乾燥機の中で12時間乾燥した。そして、乾燥工程後、すなわち洗浄工程後のシリコン粒子中のアルミニウム濃度(重量%)を、上述の発光分析装置を用いてICP−発光分析法で化学分析した。
【0033】
さらに、以下の式(1)よりアルミニウム残存率を算出した。ここで、上記にて測定した洗浄工程前のアルミニウム濃度をCb(Al)、洗浄工程後のアルミニウム濃度をCa(Al)とする。
【0034】
アルミニウム残存率(%)=Ca(Al)/Cb(Al)×100(%) 式(1)
実施例1においては、洗浄工程後のアルミニウム濃度は0.11重量%、アルミニウム残存率は1.1%であった。結果を表1に示す。
【0035】
(実施例2)
酸浸漬工程における酸浸漬時間を4時間としたこと以外は、実施例1と同様にしてシリコン粒子を作製した。洗浄工程後のアルミニウム濃度は0.11重量%、アルミニウム残存率は1.1%であった。結果を表1に示す。
【0036】
(比較例1)
酸浸漬工程における酸浸漬時間を1時間としたこと以外は、実施例1と同様にしてシリコン粒子を作製した。洗浄工程後のアルミニウム濃度は1.0重量%、アルミニウム残存率は10.1%であった。結果を表1に示す。
【0037】
(比較例2)
凝固工程において、アルミニウム含有シリコン融液を3.6℃/分の一定の冷却速度で500℃まで冷却してアルミニウム含有シリコン塊を得た以外は、実施例1と同様にしてシリコン粒子を作製した。洗浄工程後のアルミニウム濃度は0.51重量%、アルミニウム残存率は5.1%であった。結果を表1に示す。
【0038】
(比較例3)
凝固工程において、アルミニウム含有シリコン融液を3.6℃/分の一定の冷却速度で500℃まで冷却してアルミニウム含有シリコン塊を得たこと、および酸浸漬工程における酸浸漬時間を4時間としたこと以外は実施例1と同様にしてシリコン粒子を作製した。洗浄工程後のアルミニウム濃度は0.49重量%、アルミニウム残存率は4.9%であった。結果を表1に示す。
【0039】
(比較例4)
凝固工程において、アルミニウム含有シリコン融液を3.6℃/分の一定の冷却速度で500℃まで冷却してアルミニウム含有シリコン塊を得たこと、および酸浸漬工程における酸浸漬時間を1時間としたこと以外は実施例1と同様にしてシリコン粒子を作製した。洗浄工程後のアルミニウム濃度は0.63重量%、アルミニウム残存率は6.3%であった。結果を表1に示す。
【0040】
(比較例5)
溶融工程において、高純度ポリシリコン(株式会社トクヤマ製)に、金属アルミニウムを5重量%の含有量となるように添加した点以外は、実施例1と同様にしてシリコン粒子を作製した。洗浄工程後のアルミニウム濃度は0.41重量%、アルミニウム残存率は7.9%であった。結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
表1に表す結果から、実施例1及び実施例2においてはアルミニウム残存率が低くアルミニウムが効果的に低減されていることがわかる。
【0043】
(電子顕微鏡写真)
図2は、実施例1に係るシリコン粒子の電子顕微鏡写真であり、図2(a)は粉砕工程後、洗浄工程に供する前のシリコン粒子の電子顕微鏡写真であり、図2(b)は洗浄工程後のシリコン粒子の電子顕微鏡写真である。図2(a)に示す電子顕微鏡写真において、矢印を付した箇所に、左端上から右端下の方向に延在する筋状相が観察された。図2(b)に示す電子顕微鏡写真においては、この筋状相の構成物質が消失していることが観察された。
【0044】
図2に示す電子顕微鏡写真の結果、および表1に示す実施例1のアルミニウム残存率の結果から、筋状相の構成物質は、洗浄工程により低減されたアルミニウムを高濃度に含む材料であったことが推測される。以下、本発明の方法によりシリコン原料からアルミニウムが効果的に低減される理由について考察する。
【0045】
上記のように、洗浄工程前のシリコン粒子の組織を観察した結果、多くのシリコン粒子では、粒子内に存在する筋状相が観察された。また、多くの筋状相は一端または両端がシリコン粒子の表面に達していた。筋状相の少なくとも一端がシリコン粒子の表面に達していることにより、洗浄工程において筋状相の構成物質が洗い流されやすくなると推測される。また、筋状相の構成物質の大部分はアルミニウムであると推測される。以上の推測は、洗浄工程を経ることにより低いアルミニウムの残存率が得られた実施例1の結果と矛盾しない。
【0046】
一方、仮に筋状相が観察されたとしても、両端のいずれもがシリコン粒子の表面に達さない場合、酸浸漬液が筋状相内に浸入することが難しく、したがって筋状相の構成物質は洗い流されにくい状況になると推測される。例えば、シリコン原料中のアルミニウム含有率が本発明に係る含有率より低い場合(比較例5)は、少なくとも一端がシリコン粒子の表面に到達する程度に筋状相が成長することが難しく、したがって洗浄工程を経ても十分にアルミニウムが低減されない状況になることがあると推測される。また、例えば、シリコン原料中のアルミニウム含有率が本発明に係る含有率を満たしていても、冷却速度が本発明に係る冷却速度の範囲に入らず遅い場合(比較例2,3)、何らかしらの理由により少なくとも一端がシリコン粒子の表面に到達するような筋状相が形成されにくい状況にあり、したがって洗浄工程を経ても十分にアルミニウムが低減されない状況になることがあると推測される。すなわち、シリコン粒子のアルミニウム含有量および平均冷却速度に起因するシリコン粒子の組織の違いが、洗浄工程によるアルミニウム低減に影響していると推測される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムを7重量%以上含有するシリコンを加熱してシリコン融液を得る溶融工程、
前記シリコン融液を凝固してシリコン塊を得る凝固工程、
前記シリコン塊を粉砕してシリコン粒子を得る粉砕工程、及び
前記シリコン粒子を酸性溶液に3時間以上浸漬して酸洗浄する洗浄工程、をこの順に備え、
前記凝固工程において、1350℃までの平均冷却速度が1.0×10℃/分以上である、精製されたシリコンの製造方法。
【請求項2】
前記酸性溶液が、フッ化水素酸、塩酸、硫酸、またはこれらの混合溶液である、請求項1に記載の精製されたシリコンの製造方法。
【請求項3】
前記洗浄工程において、前記酸性溶液の温度が20℃以上100℃未満である、請求項1または2に記載の精製されたシリコンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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