説明

精製カーボンブラックの製造方法

【課題】カーボンブラック中に不純物として含まれるFe、Cuなどの金属成分を効率よく除去して、精製カーボンブラックを製造する簡便な方法を提供すること。
【解決手段】カーボンブラック水性分散液から金属を除去することにより精製カーボンブラックを製造する方法であって、該カーボンブラック水性分散液と陽イオン交換樹脂とを接触させて金属を除去する工程を含む精製カーボンブラックの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンブラック中に不純物として含まれるFe、Cuなどの金属分を除去し、精製カーボンブラックを得る簡便な方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンブラックは、ゴム補強材を中心とするゴム用途分野、樹脂着色剤、印刷インキ、塗料などの用途や樹脂等への導電性付与剤などの用途に広く使用されている。
カーボンブラックの製造方法には、1)原料を不完全燃焼させるファーネス法、2)バーナーチップで燃焼して炎とし、その炎をチャンネル鋼に接触させて捕集するコンタクト法、3)天然ガスを熱分解させるサーマル法などがある。このうちファーネス法が最も汎用されている。ファーネス法では、原料として主にクレオソート油や石油系重質油を使用し、これらを完全燃焼のための理論量に満たない量の空気と共に反応炉内へ吹き込んで不完全燃焼させた後、水で冷却し、最終的には水で捕捉して水性分散液として得る。
これらのカーボンカーボンブラックの原料にはFe、Cuなどの金属成分が含まれている。これらの金属成分はカーボンブラックの製造工程で濃縮され、さらに冷却水や製造設備からの金属成分の混入もあるため、カーボンブラックは様々な金属成分を含有するものとなる。そのため、例えば電池分野、半導体分野の如く金属成分の混入を極端に嫌う用途では、それらの金属成分を可能な限り除去し高純度化することが求められる。
カーボンブラックの金属量の低減方法としては、カーボンブラックの水性分散液を各種水溶性キレート剤と接触させ、カーボンブラックに含まれる金属成分を溶出させると共にキレート剤に捕捉して液相へ移行させた後、固液分離する方法(特許文献1)、カーボンブラック水性分散液を強攪拌後、ろ過等により分離する方法(特許文献2)、無機酸の水溶液により洗浄し溶出する方法(特許文献3)がある。
【0003】
【特許文献1】特開2005−113091号公報
【特許文献2】特開2005−220320号公報
【特許文献3】特開昭58−222157号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、カーボンブラックから金属を除去するのにキレート剤や無機酸を使用すると、精製したカーボンブラックから更にキレート剤や無機酸を除去する手間が必要になる。このように、精製したカーボンブラックをそのまま使用できず、精製したカーボンブラックからキレート剤等を更に除去する工程が必要となると、より費用が嵩むことになり、特に工業スケールでは影響が大きい。従って、本発明は、カーボンブラック中に不純物として含まれるFe、Cuなどの金属成分を効率よく除去して、精製カーボンブラックを製造する簡便な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らが鋭意検討した結果、カーボンブラックの水性分散液を陽イオン交換樹脂に接触させることにより、本発明の目的を達成できることを見出した。
すなわち、本発明は、カーボンブラック水性分散液から金属を除去することにより精製カーボンブラックを製造する方法であって、該カーボンブラック水性分散液と陽イオン交換樹脂とを接触させて金属を除去する工程を含む精製カーボンブラックの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、高純度カーボンブラックを簡単に得ることができる。本発明において用いる陽イオン交換樹脂は、再生することにより繰り返し使用できるため、経済的に有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
〔カーボンブラック〕
カーボンブラックは、一般に、天然ガス、アセチル、芳香族炭化水素油などを熱分解、不完全燃焼などさせてえられる微細な球状粒子の集合体であり、その製法には、ファーネス法、チャンネル法、サーマル法などがある。
本発明ではカーボンブラックとして、公知の各種カーボンブラックが使用でき、例えば通常入手可能なファーネスブラック、チャンネルブラック、ランプブラック等を用いることができる。中でもファーネスブラックを使用するのがより有効である。ファーネスブラックはFeやCuなどの金属成分が多く含まれる石油系、石炭系、ナフサ系重質油を原料としており、さらに、それらの金属成分が製造工程で濃縮されて最終的にカーボンブラックに含有されるため金属含有量が多く、本発明の効果が顕著に発揮される。カーボンブラックとしては、粒状にする前の状態のもの、例えば水性分散液の状態のものも使用することができる。
商業的に入手できるカーボンブラックとしては、例えば、三菱化学社製「♯3030B」、「♯3050B」、「♯3230B」、東海カーボン社製「トーカブラック♯5500」、「トーカブラック♯4500」、「トーカブラック♯4400」、「トーカブラック♯4300」、旭カーボン社製「旭♯HS−500」、「F−200」、「AX−010」「AX015」、キャボット社製「バルカンXC−72」、ケッチェンブラックインターナショナル社製「ケッチェンブラックEC300J」、「ケッチェンブラックEC600JD」等が挙げられる。
【0008】
〔カーボンブラック水性分散液〕
本発明では、カーボンブラックを水性分散液として陽イオン交換樹脂と接触させる。従って、本発明において、陽イオン交換樹脂と接触させるとき、カーボンブラックは、水可溶性有機溶媒を含んでいても良い水(以下、水性分散媒)の中で分散状態にある。分散状態は、カーボンブラックが分散媒中で一次粒子を形成している状態であるのが望ましいが、粒子一個一個が完全にバラバラの分散状態でなくても、つまり、ある程度二次粒子を形成している状態でもよい。陽イオン交換樹脂の粒子径に対してカーボンブラックの粒子径が十分に小さく、カーボンブラックが、陽イオン交換樹脂の粒子同士から構成される空隙に存在し得、陽イオン交換樹脂粒子の表面に接触できればよい。
水性分散液を調製するのに用いる水としては、不純物が混入することを防止するため、イオン交換水、超純水、蒸留水、限外濾過水を使用することが好ましい。
【0009】
水性分散媒に含まれていてもよい水可溶性有機溶剤としては、具体的にはメチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、イソブチルアルコール等のアルキルアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、エチレングリコールメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールエチル(又はブチル)エーテル、ジエチレングリコールアリルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル等のジアルキルエーテル類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類等を使用することができる。このうち、水との混合分散媒とした際に揮発・分離などが起こりにくく、安定したカーボンブラック水性分散液が得られるアルコール系が好ましい。特に炭素数が1〜4までの低級アルコールが好ましい。前記水可溶性有機溶媒の添加量としては、水に対して10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。
水性分散媒に対するカーボンブラックの割合は、固形分として、1〜30質量%が好ましい。前記水に対するカーボンブラックの割合が1質量%未満であると、処理量が増大して、生産性が低くなる場合がある。一方、30質量%を超えると、水性分散液が高粘度となり攪拌が困難となり、精製効率が低下してしまう場合や、陽イオン交換樹脂を固定床連続式プロセスとして使用する場合に液の流通が困難になる場合がある。なお、本明細書において、カーボンブラックの固形分量とは、孔径1μmのメンブランフィルターで捕集されるカーボンブラックを、150℃において24時間乾燥することにより得られるカーボンブラック粉末の重量をいう。
カーボンブラック水性分散液は、所定の量のカーボンブラックを少量ずつ水性分散媒に加えて攪拌することで得られる。また、ファーネス法において不完全燃焼で生成したカーボンブラックを水で冷却・捕集する工程で得られるカーボンブラックの水性分散液をそのまま用いることができる。
【0010】
前記水性分散液を調製する際の攪拌は、できる限りカーボンブラックを一次粒径まで凝集体を解すことが望まれる。このため、前記水性分散液を一般的な分散機やホモジナイザーで混合することが好ましい。具体的には、ディスパーザー、ハイスピードディスパーザー、ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、ビーズミル、コロイドミル、ジェットミル、スラッシャーミル、ボールミル、サンドミル、ウルトラファインミル、アイガーモーターミル、ダイノーミル、パールミル、アジテータミル、コボルミル、3本ロールミル、2本ロールミル等で混合する。また、これらを単独で用いても組合わせて用いてもよい。中でも比較的低粘度で大容量のスラリーを短時間で分散でき、かつ連続生産が可能なディスパーザーやホモジナイザーなどの攪拌装置を用いることがより好ましい。
【0011】
〔陽イオン交換樹脂〕
陽イオン交換樹脂としては、モノマー成分(例えば、スチレン)と架橋性モノマー成分(例えば、ジビニルスチレン)を重合して得られる3次元の架橋高分子基体にスルホン酸基やカルボキシル基のようなイオン交換能を持った交換基を導入して製造される合成樹脂が使用できる。交換基として強酸性型(スルホン酸基)、弱酸性型(カルボン酸基、リン酸基等)がともに使用できるが、金属除去効果が大きい点、より広いpH域にてイオン交換性を持つことから強酸性型が好ましい。
さらに対イオンによってナトリウム型(Na型)、酸型(H型)をともに使用することができるが、金属除去効果が大きい点、金属成分を極力低減する観点から酸型が好ましい。
さらに重合の際に架橋性モノマー量を増減させて、架橋度を調整することで得られる単純ゲル型(ゲル型)、拡大網目ゲル型(ポーラス型)、多孔性型(ハイポーラス型)の何れもが使用できる。
陽イオン交換樹脂の具体例としては、スチレンスルホン酸形の強酸性陽イオン交換樹脂(例えば、ローム・アンド・ハース・ジャパン社製、アンバーライトIR120B、アンバーライト200CT、三菱化学社製「ダイアイオンSK1B」、「ダイアイオンRCP160M」など)あるいはアクリル酸系またはメタクリル酸系カルボン酸形あるいはリン酸形あるいは水酸基形の弱酸性陽イオン交換樹脂(例えば、アンバーライトIRC50、三菱化学社製「ダイアイオンWK40」、「ダイアイオンWK10」など)が挙げられる。中でも強酸性型の強酸性陽イオン交換樹脂である三菱化学社製「SK1B」、「PK208」、「RCP160M」やロームアンドハース社製「アンバーライトIR120B」、「アンバーライト200CT」などが好ましく使用できる。
本発明においては使用後の陽イオン交換樹脂を再生して再び使用することが可能である。再生は、定法により、純水で洗浄後、Na型であれば塩化ナトリウム水溶液等、H型であれば希塩酸水溶液等を通液することで再生することができる。
【0012】
本発明において、カーボンブラック水性分散液と陽イオン交換樹脂とを接触させるには、カーボンブラック水性分散液中に陽イオン交換樹脂を添加し、必要により機械的攪拌や気体の吹き込み等により流動させる方法や、陽イオン交換樹脂を充填した充填層にカーボンブラック水性分散液を流通させる方法などにより行なうことができる。特に、攪拌槽中にカーボンブラック水性分散液と陽イオン交換樹脂を仕込み攪拌する方法(以下、「バッチ法」と称する)、陽イオン交換樹脂を充填したカラムにカーボンブラック水性分散液を通液する方法(以下、「カラム法」と称する)が簡便に行なうことができるため有利である。
【0013】
〔分散剤〕
カーボンブラック水性分散液に陽イオン交換樹脂を接触させる工程の前に、カーボンブラック水性分散液に分散剤を添加し、攪拌処理を行なうことにより、陽イオン交換樹脂による金属の除去率を顕著に向上させることができる。
本発明に用いられる分散剤としては、カーボンブラックを安定に微分散させることができるという点から、カーボンブラックと親和性の高い官能基を有する高分子系の界面活性剤、水溶性樹脂および水分散性樹脂を用いることができる。このような界面活性剤としては、アルキルナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、アクリル共重合体、スチレン誘導体のアクリル酸−スチレン共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体やポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリウレタン系の水溶性樹脂および水分散性樹脂があげられる。このうち、アルキルナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、スチレン−マレイン酸共重合体、ポリビニルピロリドン、が好ましい。
【0014】
また、上記高分子系界面活性剤の他に、カーボンブラックの分散性を向上させることのできるアニオン性界面活性剤やノニオン性界面活性剤を用いることもできる。
前記アニオン性界面活性剤としてはたとえば脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルアリールスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルジアリールエーテルジスルホン酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル塩、グリセロールボレイト脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセロール脂肪酸エステルなどがあげられる。
また、ノニオン性界面活性剤としてはたとえばポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレン誘導体、ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、アセチレンジオール、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル変性シリコーンなどのシリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤などがあげられる。
【0015】
カチオン性界面活性剤としては脂肪族アミン塩、第4級アンモニウム塩、スルホニウム塩、及びホスフォニウム塩等が挙げられる。
両性界面活性剤としてはアミノ酸型化合物、ベタイン型化合物等を用いることができる。
このうち、ノニオン性界面活性剤が好ましく、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミンがより好ましい。
前記の界面活性剤や樹脂は単独あるいは組み合わせて用いることが可能である。
特に適する分散剤は、ナフタレンスルフォン酸ホルマリン縮合物、ポリビニルピロリドン、ポリオキシエチレンアルキルエーテルである。ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物としては例えば、ポリティN-100K(ライオン(株))、デモールN(花王(株))、セルフロー(第一工業製薬(株))が、ポリビニルピロリドンとしては、ポリビニルピロリドンK-15(日本触媒(株))、Luvitec K(BASF)が、ポリオキシアルキレンエーテルとしては、EMALEX 100系(日本エマルジョン(株))、レオコールSC-50(ライオン株)等が市販品として入手可能であり、使用することができる。
上記分散剤の添加量はカーボンブラック水性分散液に含まれるカーボンブラックに対して固形分として20〜100質量%であることが好ましい。20%以下であると、分散が不十分となり、分散剤添加の効果を十分に得られないことがあり、また固定床法に適用する場合にはイオン交換樹脂充填塔に流通させることが困難となり、目詰まりによる圧力損失の増大や偏流による金属除去効率低下の原因になることがある。また100%以上であると、起泡性・粘度の増大により金属除去効率が低下してしまうことがあり、また固定床法に適用する場合にはイオン交換樹脂充填塔に流通させることが圧力損失の増大により困難となることがある。
【0016】
分散剤を添加することでカーボンブラック粒径を小さくした水性分散液を得ることができる。分散剤量等を調整することにより、粒子径が20μm以下、好ましくは10μm以下、さらに好ましくは5μm以下のものを得ることで、特に固定床法に適用する場合のイオン交換樹脂充填塔への通液性が向上する。なお、カーボンブラック粒子径は、動的光散乱法を用いて測定することができる。
カーボンブラック水性分散液の25℃における粘度は、1000mPa・s以下、好ましくは100mPa・s以下、より好ましくは20ma・s以下であり分散剤量やカーボンブラック添加量等で調整できる。前記範囲ではカラム通液性が向上する。なお、粘度はB型粘度計を用いて測定することができる。
【0017】
カーボンブラック水性分散液から精製カーボンブラックを分離する方法としては、遠心分離する方法、ろ過する方法、非水溶性有機溶媒へ水性分散液を入れて混合する方法などが挙げられる。前記水性分散液に凝集剤を混合して、カーボンブラックのフロックを形成し、ろ過することも可能である。前記非水溶性有機溶媒としては、トルエン、キシレン、ベンゼン、クロロホルム、ヘキサン、ヘプタン等である。前記凝集剤としては合成高分子凝集剤、無機凝集剤が挙げられ、ポリアクリルアミド、アクリルアミド・アクリル酸ナトリウム共重合体、アルキルアミノメタクリレート四級塩重合体、アルキルアミノアクリレート四級塩・アクリルアミド共重合体、硫酸バンド、ポリ塩化アルミニウム等を単独または組み合わせて使用することができる。安全上の観点から、遠心分離する方法やろ過する方法が好ましい。
カーボンブラックは、その製造方法により含まれる不純物の種類や量が異なるが、いずれの方法で製造した場合でも、不純物として、鉄や銅といった重金属、特に鉄が比較的多量に、例えばファーネスブラックであるケッチェンブラックには50ppm程度含まれる。本発明の方法により得られる精製カーボンブラックは、除去前の含有量にも因るが、2〜10ppm程度まで鉄の量を低減することができる。
【0018】
本発明をバッチ法又はカラム法で行なう場合の態様を以下に具体的に説明する。
〔バッチ法〕
水性分散液の調製方法
市販カーボンブラックと水を攪拌混合して得られる水性分散液を調製するか、又はファーネス法において、不完全燃焼で生成したカーボンブラックを水で冷却・捕集する工程で得られるカーボンブラックの水性分散液を用意する。
精製方法
(1)前記水性分散液に対して、通常、陽イオン交換樹脂1〜100質量%を混合し、一般的な攪拌機、例えばホモミキサー、パドル型やタービン型など一般的な攪拌翼付きの攪拌槽内等で1〜200時間攪拌する。陽イオン交換樹脂添加量は前記水性分散液から分離することが簡便となることから1〜40質量%が好ましく、1〜20質量%がより好ましい。イオン交換樹脂量が多いとイオン交換樹脂を分離する際、イオン交換樹脂にカーボンブラックが同伴しカーボンブラックの収率が低下する原因となる。
(2)得られた水性分散液を目開き0.045〜0.075mmのろ布やふるい上でイオン交換樹脂とカーボンブラック水性分散液とに分離する。目開きが0.075mmより大きいとイオン交換樹脂が混入する可能性が高くなり、0.045mmより小さいとカーボンブラックの目詰まりの発生により分離の効率が低下してしまう。
(3)前記水性分散液からカーボンブラックを分離する。
(4)精製されたカーボンブラックは、前記操作により分離されたカーボンブラックを加熱乾燥により得ることができるが、電池分野、半導体分野の如く導電性用途においては不活性ガス中で加熱乾燥することが好ましい。
【0019】
〔カラム法〕
水性分散液の調製方法
バッチ法について述べたのと同様にして調製する。
精製方法
(1)円筒カラムなどに陽イオン交換樹脂を充填し、イオン交換樹脂充填塔を作製する。
(2)このイオン交換樹脂充填塔に前記水性分散液を空間速度(h−1)SV=1〜50、好ましくは1〜20、より好ましくは1〜10の流速で通液するのが好ましい。
ここでSVは空間速度(Space Verosity)であり、水性分散液を1時間に処理できる液量の体積をイオン交換樹脂充填層の体積で割った値である。
(3)水性分散液からのカーボンブラックの分離工程以降は前記バッチ法と同様の方法で行なうことができる。
【実施例】
【0020】
実施例及び比較例で用いたカーボンブラック、分散剤、陽イオン交換樹脂、純水及び塩酸を以下に示す。
(1)使用試薬等
【0021】
【表−1】



【0022】
【表−2】

【0023】
(2)分析・評価方法
(i)金属量測定:高周波誘導結合プラズマ法
まず関東化学(株)製原子吸光分析用塩酸10mL、純水190mLを混合して成る希塩酸水溶液(以下、希塩酸A)と、同塩酸20mL、純水180mLを混合して成る希塩酸水溶液(以下、希塩酸B)を調製した。続いて希塩酸A 200mLとカーボンブラック10gとをねじ口ビン(500mL)に加え、卓上振とう機により150rpmで1.5時間攪拌した後、メンブレンフィルター(1μm)を用いて減圧濾過により固液分離を行なった。フィルター上に残ったカーボンブラックを30mLの純水で洗浄して得られた濾液を500mLのビーカーに移し、300℃で1.5時間加熱して残りが10mL程度になるまで蒸発させた後、25mLのメスフラスコに移し、希塩酸溶液Bで希釈したものをプラズマ原子発光分光(ICP)法にかけることによって行った。ICP分析装置としては、Optima5300 DV(株式会社パーキンエルマージャパン)を用いた。
(ii) 収率測定
{精製カーボンブラック(g)/仕込みカーボンブラック(g)}×100
(iii) カラム通液性
ガラス製クロマト管(内経30mm、長さ300mm)に強酸性陽イオン交換体(RCP160M)170mLを充填して樹脂カラムを調製した。充填時、イオン交換樹脂は適当量の純水を加えた樹脂スラリーとして充填し、カラム内の樹脂層に空気が入らないように常に純水で満たされた状態にしておいた。このカラムにカーボンブラック分散液の全量を通液し、処理液とした。通液後さらにカーボンブラック分散液と同量の純水を通液し、カラムに残存するカーボンブラックを洗浄し、洗浄液とした。以上の操作で得られた処理液と洗浄液から回収されるカーボンブラック量が、カラムに通液前のカーボンブラック分散液が含有していたカーボンブラック量の95質量%以上である場合、カラム通液性を良好『○』とした。
【0024】
(3)実施例
<バッチ式>
実施例1〜8
1リットルビーカー(槽径:230mm)に純水990gを加えた後、パドル型攪拌羽根(羽根枚数:2枚、羽根径:32mm、羽根幅:12mm、材質:テフロン(登録商標))を使用し、回転数200rpmで攪拌しながらカーボンブラック10gを少量ずつ加えていき、全量を添加した段階で、陽イオン交換樹脂を10%又は20%添加した。これを室温で3時間,6時間又は168時間、回転数200rpmで攪拌した後、目開き0.075mmのナイロン濾布上で該樹脂を分離し、得られたカーボンブラック水性分散液をNo.5Cの濾紙を用いて減圧濾過により固液分離を行った。濾紙上に残ったウェット状のカーボンブラックを150℃で24時間乾燥することにより、カーボンブラック粉末を得た。得られたカーボンブラック粉末の収率及び前記粉末に含まれる金属量を測定した。結果を表−3に示す。
【0025】
比較例1〜2
1リットルビーカー(槽径:230mm)に純水990gを加えた後、パドル型攪拌羽根(羽根枚数:2枚、羽根径:32mm、羽根幅:12mm、材質:テフロン(登録商標))を使用し、回転数200rpm)で攪拌しながらカーボンブラック10gを少量ずつ加えていき、全量を添加した段階で、室温で、3時間、回転数200rpmで攪拌を続けた後、目開き0.075mmのナイロン濾布上で該樹脂を分離し、得られたカーボンブラック水性分散液をNo.5Cの濾紙を用いて減圧濾過により固液分離を行った。濾紙上に残ったウェット状のカーボンブラックを150℃で24時間乾燥することにより、カーボンブラック粉末を得た。得られたカーボンブラック粉末の収率及び前記粉末に含まれる重金属量を測定した。結果を表−3に示す。
【0026】
<バッチ式+分散剤添加>
実施例9〜16
1リットルビーカー(槽径:230mm)に純水990gを加えた後、パドル型攪拌羽根(羽根枚数:2枚、羽根径:32mm、羽根幅:12mm、材質:テフロン(登録商標))を使用し、回転数200rpmで攪拌しながらカーボンブラック10gを少量ずつ加えていき、全量を添加した段階で、上乗せで陽イオン交換樹脂200g及び分散剤10gを加えた。これを室温で3時間、回転数200rpmで攪拌を続けた後、目開き0.075mmのナイロン濾布上で該樹脂を分離した。これを3時間静置させて後、1μmのメンブランフィルターを用いて減圧濾過により固液分離を行った。フィルター上に残ったウェット状のカーボンブラックを150℃で24時間乾燥することにより、カーボンブラック粉末を得た。得られたカーボンブラック粉末の収率及び前記粉末に含まれる重金属量を測定した。結果を表−4に示す。
<カラム式+分散剤>
【0027】
実施例17〜20
1リットルビーカー(槽径:230mm)に純水990gを加えた後、パドル型攪拌羽根(羽根枚数:2枚、羽根径:32mm、羽根幅:12mm、材質:テフロン(登録商標))を使用し、回転数200rpmで攪拌しながらカーボンブラック10gを少量ずつ加えていき、全量を添加した段階で、上乗せで分散剤10gを加えた後、3時間、回転数200rpmで攪拌した。これを予め用意しておいたガラス製クロマト管(内経30mm、長さ300mm)に陽イオン交換樹脂170mLを充填したカラムにSV5.0hr-1で2回通液させた。これを3時間静置させて後、1μmメンブランフィルターを用いて減圧濾過により固液分離した。フィルター上に残ったウェット状のカーボンブラックを150℃で24時間乾燥することにより、カーボンブラック粉末を得た。得られたカーボンブラック粉末の収率及び前記粉末に含まれる重金属量を測定した。結果を表−5に示す。
【0028】
比較例3〜4
1リットルビーカー(槽径:230mm)に純水990gを加えた後、パドル型攪拌羽根(羽根枚数:2枚、羽根径:32mm、羽根幅:12mm、材質:テフロン(登録商標))を使用し、回転数200rpmで攪拌しながらカーボンブラック10gを少量ずつ加えていき、全量を添加した段階で、室温で、攪拌を続けた後、実施例17〜20と同様のカラムを用いて通液させようと試みたが、カラムの目詰まりにより通液不能であった。







【0029】
【表−3】




【0030】
【表−4】



【0031】
【表−5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンブラック水性分散液から金属を除去することにより精製カーボンブラックを製造する方法であって、該カーボンブラック水性分散液と陽イオン交換樹脂とを接触させて金属を除去する工程を含む精製カーボンブラックの製造方法。
【請求項2】
カーボンブラック水性分散液と陽イオン交換樹脂とを接触させて金属を除去する工程の前に、カーボンブラック水性分散液に分散剤を添加し攪拌する工程を含む請求項1の精製カーボンブラックの製造方法。
【請求項3】
前記分散剤が、高分子系界面活性剤、水溶性樹脂及び水分散性樹脂からなる群から選ばれる請求項1又は2記載の精製カーボンブラックの製造方法。

【公開番号】特開2009−138054(P2009−138054A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−313681(P2007−313681)
【出願日】平成19年12月4日(2007.12.4)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】