説明

精製活性炭の製造方法

【課題】 天然有機素材を焼成して得られた活性炭から、硫黄分を除去して精製活性炭を製造しうる方法を提供する。
【解決手段】 本発明の製造方法は、天然有機素材を焼成して得られた活性炭を、減圧下に、無機酸の水溶液と接触させることを特徴とする。好ましくは無機酸が塩酸または硝酸である。水溶液における無機酸の濃度は、無機酸のプロトンに換算して0.5モル/L以上である。無機酸の水溶液が、アルコール類などの界面張力低下剤を含む。活性炭を無機酸の水溶液に浸漬し、絶対圧力で0.06MPa以下の圧力下に、0〜100℃で接触させる。天然有機素材を焼成して得られ、硫黄分の含有量が硫黄原子換算の質量百万分率で60ppm以下である活性炭が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精製活性炭の製造方法に関し、詳しくは天然素材を焼成して得られた活性炭から、硫黄分の少ない精製活性炭を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
活性炭は、例えば化学プラントにおける原料ガス、精製ガスなどの精製工程を始めとする各種の用途に広く用いられている。かかる活性炭の製造方法としては、有機物を焼成する方法が知られており、有機物としては安価であることから、ヤシ殻、石炭、木質などのような天然に産出する天然有機素材が多く用いられている。このような天然有機素材から得られる活性炭には、天然有機素材中の不純物に由来して、数百ppmもの硫黄分が含まれている。
【0003】
硫黄分が少なく、高純度の活性炭を製造し得る方法として、例えばフェノール樹脂のような硫黄分を含まない合成樹脂を用い、これを焼成する方法は知られている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2000−233916号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、合成樹脂は、天然有機素材と比べて高価である。一方、硫黄分を含む有機素材から活性炭に含まれる硫黄分を除去して、硫黄分の少ない精製活性炭を得る方法は、これまでに知られていない。
したがって、本発明の課題は、天然有機素材を焼成して得られた活性炭から、硫黄分を除去して精製活性炭を製造しうる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、天然有機素材を焼成して得られた活性炭を、減圧下に、無機酸の水溶液と接触させることにより、硫黄分を除去することができることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明のに係る精製活性炭の製造方法は、以下の構成を有する。
(1) 天然有機素材を焼成して得られた活性炭を、減圧下に、無機酸の水溶液と接触させることを特徴とする精製活性炭の製造方法。
(2)無機酸が塩酸または硝酸である(1)に記載の製造方法。
(3) 水溶液における無機酸の濃度が、無機酸から遊離可能な水素イオンの濃度に換算して0.5モル/L以上である(1)または(2)に記載の製造方法。
(4)無機酸の水溶液が、界面張力低下剤を含む(1)〜(3)のいずれかに記載の製造方法。
(5)活性炭を無機酸の水溶液に浸漬して接触させる(1)〜(4)のいずれかに記載の製造方法。
(6)活性炭を絶対圧力で0.06MPa以下の圧力下に接触させる(1)〜(5)のいずれかに記載の製造方法。
(7)活性炭を0℃以上100℃以下の無機酸の水溶液の温度で接触させる(1)〜(6)のいずれかに記載の製造方法。
本発明の活性炭は。天然有機素材を焼成して得られ、硫黄分の含有量が、硫黄原子換算の質量百万分率で、60ppm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法によれば、天然有機素材を焼成して得られた活性炭から、硫黄分の少ない精製活性炭を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の製造方法に用いられる活性炭は、天然有機素材を焼成して得られたものであり、天然有機素材としては、例えばヤシ殻、石炭、木質などが挙げられる。このような活性炭としては様々なものが市販されており、本発明の製造方法では、このような市販の活性炭をそのまま使用することができる。市販の活性炭としては、例えば日本エンバイロケミカルズ(株)から販売されている「白鷺G2c」、「白鷺GM2x」、「白鷺GH2x」、「白鷺WH2C」などが挙げられる。
【0009】
活性炭の粒子径は特に限定されるものではなく、例えば細かな粉末状の粉末活性炭であってもよいし、粒子径0.5mm〜5mm程度に造粒された成形活性炭であってもよいし、成形後、破砕された破砕活性炭であってもよい。
【0010】
本発明の製造方法では、かかる活性炭を無機酸の水溶液と接触させる。無機酸としては、例えば塩酸(HCl)、硝酸(HNO3)などのように、一分子中に遊離可能な水素イオンを1個有する無機酸であってもよいし、硫酸(H2SO4)などのように、一分子中に遊離可能な水素イオンを2個有する無機酸であってもよく、好ましくは塩酸、硝酸である。水溶液における無機酸の濃度は、無機酸から遊離可能な水素イオン〔H+〕に換算して通常0.5モル/L以上、好ましくは1.5モル/L以上であり、無機酸水溶液の使用量に見合った効果が得られる点で、通常は5モル/L以下である。
【0011】
無機酸の水溶液には、活性炭の細孔内に水溶液が十分に浸透して、より多くの硫黄分を除去できる点で、例えばメタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類などのような、水溶液の界面張力を低下させうる界面張力低下剤を添加してもよい。界面張力低下剤を添加して用いる場合、その添加量は、水溶液100質量部あたり通常は1質量部〜10質量部程度である。
【0012】
無機酸水溶液の活性炭との接触は通常、無機酸の水溶液に活性炭を浸漬することにより行われる。浸漬している間は、攪拌することなく静置しておいても硫黄分を除去することができるが、水溶液中で活性炭が沈殿すると、十分に接触できないこともあるため、活性炭が沈殿しない程度に攪拌することが好ましい。
【0013】
無機酸の水溶液の使用量は、活性炭に対して、容易に浸漬し得、硫黄分を十分に除去しうる点で、通常3質量倍以上、好ましくは5質量倍以上であり、浸漬後の混合物から活性炭を容易に取り出しうる点で、通常30質量倍以下、好ましくは20質量倍以下である。
【0014】
無機酸水溶液の活性炭との接触は減圧下に行われ、通常は絶対圧力で0.06MPa以下、好ましくは0.03MPa以下、さらに好ましくは0.02MPa以下の圧力下に行われる。接触温度は、通常0℃以上、好ましくは10℃以上であり、通常は100℃以下、好ましくは70℃以下、さらに好ましくは50℃以下である。接触時間は、通常5分以上であり、生産性の点で通常60分以下、好ましくは30分以下である。
【0015】
かくして活性炭を無機酸の水溶液と接触させることにより、活性炭に含まれる硫黄分が水溶液中に抽出されて、目的の活性炭を得ることができる(以下、前記得られた活性炭を精製活性炭という。)。得られた精製活性炭は、接触後の水溶液から、例えば通常の濾過操作によって取り出すことができる。取り出された精製活性炭は通常、例えばイオン交換水などの洗浄水により洗浄される。洗浄は、洗浄後の洗浄水の水素イオン濃度がpH5〜pH7になるまで行うことが好ましい。洗浄後の精製活性炭は、通常、乾燥される。
【0016】
かくして得られる精製活性炭は、天然有機素材を焼成して得られるものであって、硫黄分が少ない活性炭であり、その含有量は、硫黄原子換算の質量百万分率で、例えば60ppm以下である。
【0017】
かくして得られる精製活性炭は硫黄分が少ないので、例えば硫黄分により被毒されうる触媒の存在下に、原料化合物ガスを反応させて、目的化合物ガスを得る化学プロセスにおいて、原料化合物ガスに不純物として含まれる不純物を除去するための吸着剤として用いても、精製活性炭から遊離する硫黄分が少ないので、触媒の寿命低下を抑えることができる。
【0018】
上記の化学プロセスとしては、例えば酸化チタンまたは酸化アルミニウムに酸化ルテニウムを担持した触媒の存在下に、ガス状の塩化水素および酸素(O2)を反応させて、塩素(Cl2)を製造するプロセスが挙げられ、精製活性炭は、ガス状の塩化水素または酸素に含まれる不純物を除去するための吸着剤として用いられる。
【0019】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例によって限定されるものではない。
本発明の以下の実施例において、硫黄など元素の定量分析には、ICP(Inductively coupled plasma)発光法を用いて測定を行った。また、圧力測定には、ブルドン管を用いた。
【実施例1】
【0020】
硫黄分含有量(硫黄原子換算)280ppmの原料活性炭〔日本エンバイロケミカルズ(株)製、「白鷺WH2C 8/32」、元素分析値を表1に示す。〕を大気中で保管した後、8gを三角フラスコに入れ、塩酸〔塩化水素濃度2モル/Lの塩化水素水溶液〕75gおよびエタノール5gを加えた。次いで、室温(約25℃)で、真空ポンプにより絶対圧力で100mmHg(約0.013MPa)まで減圧して脱気し、同圧力を維持しながら10分間静置したのち、大気圧に戻す操作を3回繰り返した。その後、濾過操作により活性炭を取り出し、イオン交換水により、洗浄後の洗浄水の水素イオン濃度がpH6程度となるまで洗浄し、加熱乾燥機により大気中、120℃で加熱乾燥して、精製活性炭を得た。この精製活性炭の元素分析の結果を表1に示す。この精製活性炭の硫黄分含有量(硫黄原子換算)は36ppmであった。
【実施例2】
【0021】
塩酸に代えて、硝酸水溶液〔硝酸濃度2モル/L〕75gを用いた以外は、実施例1と同様に操作して、精製活性炭を得た。この精製活性炭の元素分析の結果を表1に示す。
【実施例3】
【0022】
エタノールを用いなかった以外は、実施例1と同様に操作して、精製活性炭を得た。この精製活性炭の元素分析の結果を表1に示す。
【実施例4】
【0023】
活性炭〔白鷺WH2C 8/32〕は粒状であり、これを粉砕してから用いた以外は、実施例1と同様に操作して、精製活性炭を得た。この精製活性炭の元素分析の結果を表1に示す。なお、粉砕後の活性炭の粒径は、1μm〜10μmであった。
【実施例5】
【0024】
脱気後の静置時間を48時間とした以外は、実施例1と同様に操作して、精製活性炭を得た。この精製活性炭の元素分析の結果を表1に示す。
【実施例6】
【0025】
塩酸〔塩化水素濃度2モル/L〕に代えて、塩化水素濃度1モル/Lの塩酸75gを用いた以外は、実施例1と同様に操作して、精製活性炭を得た。この精製活性炭の元素分析の結果を表1に示す。
【0026】
[比較例1]
減圧することなく静置した以外は、実施例1と同様に操作して、精製活性炭を得た。この精製活性炭の元素分析の結果を表1に示す。
【表1】


表1から、実施例1〜6の精製活性炭は比較例の精製活性炭と比較して硫黄分が少なく、高純度であることがわかる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然有機素材を焼成して得られた活性炭を、減圧下に、無機酸の水溶液と接触させることを特徴とする精製活性炭の製造方法。
【請求項2】
無機酸が塩酸または硝酸である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
水溶液における無機酸の濃度が、無機酸から遊離可能な水素イオンの濃度に換算して0.5モル/L以上である請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
無機酸の水溶液が、界面張力低下剤を含む請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
活性炭を無機酸の水溶液に浸漬して接触させる請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
活性炭を絶対圧力で0.06MPa以下の圧力下に接触させる請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
活性炭を0℃以上100℃以下の無機酸の水溶液の温度で接触させる請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
天然有機素材を焼成して得られ、硫黄分の含有量が、硫黄原子換算の質量百万分率で、60ppm以下であることを特徴とする活性炭。