説明

精製白色ワセリンの製造方法

【課題】優れた光安定性及び皮膚に対する高い安全性を有する精製白色ワセリンの製造方法を提供する。
【解決手段】白色ワセリンを第VIII族金属触媒の存在下、170〜250℃、6〜30MPaの条件下で水素化して、275nmの紫外部吸光度(1w/v%イソオクタン溶液の値、光路長1cm)を0.25以下にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬軟膏基材、化粧品基材、スキンケアー軟膏等として用いられる精製白色ワセリン(ペテロラタム)の製造方法に関し、詳しくは、光に対して安定であり、皮膚刺激性のない精製白色ワセリンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
白色ワセリンは、パラフィン基原油から得た固形析出物等を原料として、水蒸気蒸留処理又は溶剤脱ロウ法処理により粗製品を製造した後、硫酸洗浄法や水素添加法等の化学処理を行い、更には、活性白土等による脱色処理を行い精製されたもので、炭素数16〜40の分岐鎖パラフィンを主体とするものである。
このようにして得られた白色ワセリンは、中性で刺激性も少なく、寒暖による粘度変動や動植物性油脂のような酸敗も少ないため、主に化粧品基材や医薬軟膏基材として用いられている。
【0003】
しかしながら、上記方法によって製造された市販の白色ワセリンは、石油残油成分を原料とし、微量の芳香族化合物、硫黄化合物、有色樹脂状物質等の不純物を含んでいるため、太陽光線に数時間晒すだけで黄変し、過酸化物価(POV)の高いものとなる。光酸化により生成した過酸化物は自動酸化反応を起こし、アルデヒドやケトン化合物に変化して皮膚刺激の原因となるため、過酸化物価が高いことは、皮膚刺激の危険性が高いことを意味する。
また、市販の白色ワセリンには、揮発性有機化合物が微量に含まれており、この揮発性有機化合物が原因となって皮膚刺激を引き起こす可能性がある。このように、従来の市販の白色ワセリンは、光安定性及び皮膚に対する安全性の点で十分に満足できるものではなかった。
【0004】
光安定性及び皮膚に対する安全性を改善した精製ワセリンに関する発明としては、充填剤が充填されたカラムにワセリンを通液してワセリン中に含まれる極性物質を除去した精製ワセリンが報告されている(特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2004−345979号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように市販の白色ワセリンは、微量の芳香族化合物等の不純物を含むため、太陽光線(紫外線)によって酸化しやすく、また、微量の揮発性有機化合物も含むことから、長期にわたって連用する医薬軟膏基材、化粧品基材、スキンケアー軟膏等として用いるためには、光安定性及び皮膚に対する安全性を更に向上させる必要があった。
そこで、本発明は、優れた光安定性及び皮膚に対する高い安全性を有する精製白色ワセリンの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、光酸化しにくく、それにより皮膚刺激性も少ない白色ワセリンを提供すべく鋭意検討した結果、第VIII族金属触媒の存在下で水素化し、275nmの紫外部吸光度を0.25以下にすることによって、太陽光線による白色ワセリンの黄変と過酸化物価の急激な上昇を抑えられることを見出し、かかる知見に基づき、精製白色ワセリンの製造方法を完成するに至った。
すなわち、本発明は、白色ワセリンを第VIII族金属触媒の存在下、170〜250℃、6〜30MPaの条件下で水素化して、275nmの紫外部吸光度(1w/v%イソオクタン溶液の値、光路長1cm)を0.25以下にすることを特徴とする精製白色ワセリンの製造方法である。
また、本発明者は、上記方法により製造された精製白色ワセリンを、更に加熱及び減圧下にストリップすることにより、太陽光線による黄変と過酸化物価の上昇を抑えた上で、白色ワセリン特有の臭い成分や水素化による着臭成分(いわゆる水添臭)を除去するとともに、白色ワセリン中に含まれる揮発性有機化合物を除去することができることを見出し、かかる知見に基づき、より高度の精製白色ワセリンの製造方法を完成させた。
すなわち、もう1つの本発明は、白色ワセリンを第VIII族金属触媒の存在下、170〜250℃、6〜30MPaの条件下で水素化して、275nmの紫外部吸光度(1w/v%イソオクタン溶液の値、光路長1cm)を0.25以下とし、次いで、80〜130℃、絶対圧1〜20kPaの条件下で不活性ガス又は水蒸気を吹き込み、該白色ワセリンをストリップすることにより、該白色ワセリン中に含まれるトルエン、トリメチルペンタン、及びジメチルヘキサンなどの炭素数12以下の炭化水素を除去することを特徴とする精製白色ワセリンの製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の精製白色ワセリンの製造方法は、上述したように、所定の条件下で白色ワセリンを水素化し、該白色ワセリンの275nmの紫外部吸光度を0.25以下とすることにより、従来の市販品に比べて、飛躍的に向上した光安定性を有し、かつ、皮膚刺激性がない精製白色ワセリン、すなわち、太陽光線による黄変や変臭の発生が少なく、皮膚に対する安全性がきわめて高い精製白色ワセリンを提供することができる。
また、本発明の精製白色ワセリンの製造方法は、上記水素化に加えて、所定の条件下で白色ワセリンをストリップすることにより、皮膚刺激の原因となり得る揮発性有機化合物を有効に除去し、その結果、皮膚に対する安全性を更に向上させた高度の精製白色ワセリンを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の製造方法は、上述したように、まず、原料の白色ワセリンを周期律表の第VIII族金属触媒の存在下で水素化する。原料の白色ワセリンは、特に限定されるものではないが、一般には[背景技術]の欄で述べた方法によって製造された市販の白色ワセリンである。市販されている白色ワセリンは、通常、275nmで0.5〜1.5程度の紫外部吸光度を有している。なお、いくつかの白色ワセリンについて、紫外部吸光度と太陽光線による外観変化の状況を比較検討した結果、275nmにおいて0.5以上の紫外部吸光度を有する白色ワセリンは、太陽光線に晒すと数時間で黄変し、過酸化物価も酸化安定の目安とされる1.0の値を短時間で超えてしまうことが分かっている。
【0010】
第VIII族金属触媒としては、Pt、Ni、Co、Ru、Pd、Rh、Ir等が挙げられ、好ましくは珪藻土、アルミナ等を担体とする安定化Ni触媒が用いられる。第VIII族金属触媒の使用量は、特に限定されるものではなく、水素化の対象となる白色ワセリンの紫外部吸光度(275nm)の値等に応じて適宜決定すればよい。通常は原料である白色ワセリンの1〜10重量%が望ましい。また、第VIII族金属触媒に加えて、Mo、W等の第VI族金属を併用することもできる。
【0011】
本発明の製造方法は、上述した白色ワセリンを第VIII族金属触媒の存在下で水素化し、該白色ワセリンの275nmにおける紫外部吸光度(1w/v%イソオクタン溶液の値、光路長1cm)を0.25以下にする。すなわち、本発明の製造方法は、白色ワセリンを単に水素化するのではなく、水素化後の白色ワセリンの275nmにおける紫外部吸光度が0.25以下になるように水素化を行うという点に特徴がある。水素化後の白色ワセリンの275nmにおける紫外部吸光度が0.25を超えると、得られた該白色ワセリンは、過酸化物価が上昇しやすく、安定度の目安とされる1.0の値を短期間で超えてしまうため、光安定性及び皮膚に対する安全性の点で十分に良好であるとはいえないのに対し、275nmにおける紫外部吸光度を0.25以下にすると、過酸化物価が上昇しにくくなり、過酸化物価が1.0を超えるまでの期間が非常に長くなるという優れた効果が得られる。275nmにおける白色ワセリンの紫外部吸光度を0.25以下にするためには、水素化の条件としては、170〜250℃、特には200〜220℃の温度で、6〜30MPaの圧力範囲で圧力が高いほど好ましいが、経済性を考慮すると8〜10MPaの水素圧力とするのが好ましい。この条件下で1時間以上、一般には、3〜10時間、接触水素化することにより、白色ワセリン中に微量に存在する275nmの紫外部吸収をもつナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、フェナントレン誘導体、及びベンゾ(α)ピレン等の多環芳香族化合物等からなる不純物の量を効果的に低減させて、275nmの紫外部吸光度が0.5〜1.5程度の一般に市販されている白色ワセリンから、紫外部吸光度が0.25以下の精製白色ワセリンを得ることができる。なお、太陽光線による白色ワセリンの酸化のしやすさは、白色ワセリン中に微量に存在する上記多環芳香族化合物等の不純物の量によると考えられるが、この多環芳香族化合物等の量を紫外吸光分析の吸光度で評価する場合、紫外光275nmの吸光度で評価することが可能である。
【0012】
本発明の製造方法は、上記水素化で得られた精製白色ワセリンに対し、引き続いてストリッピングを行い、該白色ワセリン中に含まれる微量の揮発性有機化合物であるトルエン、トリメチルペンタン、及びジメチルヘキサンを除去する。これにより、白色ワセリンの皮膚に対する安全性を更に向上させることができる。
このストリッピングは、上記揮発性有機化合物を有効に除去するために、50℃以上の温度、特には80〜130℃の温度条件、及び絶対圧65kPa以下、特には絶対圧1〜20kPaの減圧条件下で、白色ワセリンに不活性ガス又は水蒸気を吹き込むことによって行い、該不活性ガスとしては、窒素ガス、CO2ガス、ヘリウムガス、及びこれらを主成分とする混合ガスが採用され、特には窒素ガスが好ましい。窒素ガスを選択した場合、通常、窒素ガスを0.3m3/h以上流しながら3〜12時間ストリップするのが好ましい。
【実施例】
【0013】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0014】
[実施例1、比較例1]
原料の白色ワセリンとして、275nmの紫外部吸光度(光路長1cm、1w/v%イソオクタン溶液の値。以下、同様)の値が0.95である白色ワセリンを使用し、温度200℃、圧力8MPaの条件下、該白色ワセリンに対して5重量%の安定化Ni触媒を用いて該白色ワセリンを5時間水素化し、精製白色ワセリンを得た。この精製白色ワセリンの275nmにおける紫外部吸光度の値は0.25であった。
対照物質として、上記した原料の白色ワセリン(275nmの紫外部吸光度0.95)を使用し、精製白色ワセリン(実施例1)と原料の白色ワセリン(比較例1)を、シャーレにそれぞれ45g採取し、太陽光に直接晒して、白色ワセリンの経時的な色調変化を比較した。その結果を図1に示す。図1において、上段は実施例1、下段は比較例1であり、(a)は1時間後、(b)は3時間後、(c)は6時間後、(d)は9時間後の各白色ワセリンの色調を示す。
更に、精製白色ワセリン(実施例1)と原料の白色ワセリン(比較例1)を、シャーレにそれぞれ45g採取し、太陽光に直接晒して、過酸化物価(meq/kg)の経時的変化を比較した。その結果を表1に示す。
【0015】
【表1】

【0016】
図1から分かるように、原料の白色ワセリンは3時間後で明らかに着色し、6時間後、9時間後と着色の度合が強くなっていった。一方、精製白色ワセリンは、9時間後でも着色はほとんどなかった。
また、表1から分かるように、精製白色ワセリンは、過酸化物価の上昇が非常に緩やかであるのに対し、原料の白色ワセリンは、過酸化物価の急激な上昇が認められた。
以上の結果から、光酸化による着色の程度と過酸化物価の間には、ある程度の相関があり、また、過酸化物価が1.0を超えると着色が著しいことが分かった。
【0017】
[実施例2、比較例2]
原料の白色ワセリンとして、275nmの紫外部吸光度の値が0.68である白色ワセリンを使用し、温度220℃、圧力9MPaの条件下、該白色ワセリンに対して5重量%の安定化Ni触媒を用いて該白色ワセリンを5時間水素化し、精製白色ワセリンを得た。この精製白色ワセリンの275nmにおける紫外部吸光度の値は0.19であった。
対照物質として、上記した原料の白色ワセリン(275nmの紫外部吸光度0.68)を使用し、精製白色ワセリン(実施例2)と原料の白色ワセリン(比較例2)を、シャーレにそれぞれ45g採取し、太陽光に直接晒して、白色ワセリンの過酸化物価(meq/kg)の経時的変化を比較した。その結果を表2に示す。
【0018】
【表2】

【0019】
表2から分かるように、原料の白色ワセリンでは、3時間の太陽光照射で過酸化物価が着色の目安とされる1.0を超えてしまい、過酸化物価の急激な上昇が認められたが、精製白色ワセリンでは、過酸化物価の上昇が非常に緩やかで、過酸化物の生成は低く抑えられていた。
【0020】
[実施例3、比較例3]
実施例2で得た精製白色ワセリンを1Lのフラスコに仕込み、温度110℃、絶対圧3kPa、窒素ガス流量20ml/minの条件下で4時間ストリップし、精製白色ワセリンを得た。
対照物質として、比較例2の原料の白色ワセリンを使用し、精製白色ワセリン(実施例3)と比較例2の原料の白色ワセリン(比較例3)を、バイアル瓶にそれぞれ1g取り、90℃に加温した時のヘッドスペースをGC−MS分析(ガスクロマトグラフ質量分析)した。その結果を図2に示す。
図2から分かるように、原料の白色ワセリンでは、揮発性有機化合物であるトルエン、トリメチルペンタン、ジメチルヘキサンを検出したが、精製白色ワセリンでは何も検出されなかった。このことから、上記ストリップにより、原料の白色ワセリン中に含まれている上記揮発性有機化合物を除去できることが分かった。
【0021】
[比較例4]
実施例2において、反応温度を160℃にする以外は同様の条件で水素化処理を行い、精製白色ワセリンを得た(比較例4)。この精製白色ワセリンの275nmにおける紫外部吸光度の値は0.38であった。
実施例2と同様に、この精製白色ワセリンを太陽光に直接晒して、過酸化物価(meq/kg)の経時的変化を測定した。その結果を表3に示す。
【0022】
【表3】

【0023】
表3の結果から分かるように、比較例4の精製白色ワセリンには、実施例2の精製白色ワセリンに比べて、太陽光照射による過酸化物価の上昇が認められた。このことから、水素化の程度が弱く、275nmにおける紫外部吸光度が0.25を超える精製白色ワセリンでは、精製効果が弱いことが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】精製白色ワセリン(実施例1)と原料の白色ワセリン(比較例1)の経時的な色調変化を示す写真であり、上段は実施例1、下段は比較例1であり、(a)は1時間後、(b)は3時間後、(c)は6時間後、(d)は9時間後の各白色ワセリンの色調を示す。
【図2】精製白色ワセリン(実施例3)と原料の白色ワセリン(比較例3)のGC−MS分析の結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白色ワセリンを第VIII族金属触媒の存在下、170〜250℃、6〜30MPaの条件下で水素化して、275nmの紫外部吸光度(1w/v%イソオクタン溶液の値、光路長1cm)を0.25以下にすることを特徴とする精製白色ワセリンの製造方法。
【請求項2】
白色ワセリンを第VIII族金属触媒の存在下、170〜250℃、6〜30MPaの条件下で水素化して、275nmの紫外部吸光度(1w/v%イソオクタン溶液の値、光路長1cm)を0.25以下とし、次いで、80〜130℃、絶対圧1〜20kPaの条件下で不活性ガス又は水蒸気を吹き込み、該白色ワセリンをストリップすることにより、該白色ワセリン中に含まれるトルエン、トリメチルペンタン、及びジメチルヘキサンを除去することを特徴とする精製白色ワセリンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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