説明

精製酸化黒鉛粒子含有液の製造方法

【課題】十分薄い酸化黒鉛粒子を含有する酸化黒鉛粒子含有液の効率的な製造法を提供すること。
【解決手段】酸化黒鉛粒子を含有する酸化黒鉛粒子含有液を準備する準備工程と、酸化黒鉛粒子含有液を精製し、精製された精製酸化黒鉛粒子含有液を得る精製工程と、を含む精製酸化黒鉛粒子含有液の製造方法であって、精製工程が、ろ過膜を用いて酸化黒鉛粒子含有液をろ過し、ろ液と酸化黒鉛粒子を含む濃縮液とに分離するろ過工程と、濃縮液に分散媒を添加する分散媒添加工程とを含み、ろ過工程において、ろ過膜の表面に沿って、酸化黒鉛粒子含有液の流れを形成する、精製酸化黒鉛粒子含有液の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精製酸化黒鉛粒子含有液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、形状の異方性が高い物質の探索、及びその応用が急速に進行している。このような物質は、多数個で他の物質との複合体にする場合には、低い添加率で高強度などの各種性能を発現すると期待されている。またその形状が極めて細い線状(1次元)や極めて薄い平面状(2次元)で、その物質が電気的に半導体または良導体であれば、単独または少数個の集合体の場合に、電子物性などに量子的な効果を発現するとも期待されている。
【0003】
このような形状の異方性が高い物質としては、炭素原子を骨格とする平面状物質である酸化黒鉛が知られている。酸化黒鉛は黒鉛を特定の方法により酸化することで得られる黒鉛層間化合物の一種である。酸化黒鉛は2次元的な基本層が積み重なった多層構造体であり、一般に層数は非常に多い。酸化黒鉛の基本層は、ジグザグの炭素の列で数えて炭素原子1個分または2個分の厚さの、少しsp結合の傾向のあるsp結合主体の炭素骨格と、その骨格の両側の面に結合した酸性の水酸基とを有する構造を持つと考えられている(例えば、非特許文献1〜3)。
【0004】
このような酸化黒鉛の粒子は、その厚さが性能に大きく影響し、厚さが薄いほどフィラーとしての効果が高いことから、層数の少ない非常に薄い酸化黒鉛粒子を作製することが重要とされている。
【0005】
このような非常に薄い酸化黒鉛粒子は、例えば非特許文献4に開示されており、本発明者らも先に、そのような酸化黒鉛(層数が1枚の場合は例えば酸化グラフェンと呼ぶことが望ましい(グラフェンは黒鉛の1層分の名称))の薄膜状粒子を高収率で製造する方法を見出すと共に、それを還元して層数の非常に少ない黒鉛(層数が1枚の場合はグラフェンと呼ぶことが望ましい)類似の酸化黒鉛の薄膜状粒子を得たところである(特許文献1〜3)。
【0006】
酸化黒鉛の薄膜状粒子は、精製された酸化黒鉛粒子含有液中に含有された形態で製造され、この精製された酸化黒鉛粒子含有液は一般的には次のようにして製造される。即ち黒鉛を酸化剤により酸化して酸化黒鉛粒子を製造し、その酸化黒鉛粒子を含有する酸化黒鉛粒子含有液に対して、デカンテーション法、透析法、ろ過法、遠心分離法などを用いた精製を繰り返し行うことにより製造される。このような製造方法により、酸化黒鉛粒子含有液中の不純物イオンが除去され、酸化黒鉛粒子において静電的反発による層間分離が進行し、酸化黒鉛粒子の薄層化が図られることとなる。
【0007】
しかし、デカンテーション法では酸化黒鉛粒子の沈降が遅く、透析法では内外のイオンの濃度勾配が平衡に達することが必要となるため精製に多大な時間がかかる。
【0008】
ろ過法は、下記特許文献4及び非特許文献6に開示されているように、酸化黒鉛粒子を含む液をろ過することにより、酸化黒鉛粒子がろ過膜表面に平行に並んで膜を閉塞させるため、この閉塞現象を利用して酸化黒鉛の膜を形成するのに使用されるほど閉塞が起こりやすい。このようにろ過法を用いた精製では、酸化黒鉛粒子が薄膜状であるため、ろ過膜の閉塞が起こりやすく、精製を行うことが困難であると考えられている。
【0009】
これに対し、遠心分離法を用いた精製は、酸化黒鉛粒子の沈降速度を利用したものであり、短時間での精製が可能であるとされている。従って、遠心分離法を用いた精製は、酸化黒鉛粒子と不純物イオン等とを分離するのに有用である(例えば特許文献1,非特許文献5)。
【0010】
しかし、酸化黒鉛粒子が薄くなると、酸化黒鉛粒子を沈降させるために多くの時間が必要となり、特に基本層(酸化グラフェン)の層数が少なくなった酸化黒鉛粒子は沈降速度が極端に小さく、沈降に多大な時間が必要となっていた。このため、遠心分離法を用いた精製では、製造時間の短縮の点で改良の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002−53313号公報
【特許文献2】特開2003−176116号公報
【特許文献3】特開2005−63951号公報
【特許文献4】国際公開第2008/143829号
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】「黒鉛層間化合物」,第5章,炭素材料学会編,リアライズ社(1990)
【非特許文献2】T. Nakajima et al.A NEW STRUCTURE MODEL OF GRAPHITE OXIDE, Carbon,26, 357 (1988)
【非特許文献3】M. Mermoux et al.FTIR AND 13C NMR STUDY OF GRAPHITE OXIDE, Carbon,29, 469 (1991)
【非特許文献4】N. A. Kotov et al.Ultrathin Graphite Oxide-PolyelectrolyteComposites Prepared by Self-Assembly:Transition Between Conductive andNon-Conductive States, Adv. Mater., 8, 637 (1996)
【非特許文献5】M.Hirata. Thin-filmparticles of graphite oxide 1:: High-yield synthesis and flexibility of theparticles,Carbon 42,2929-2937(2004)
【非特許文献6】Eda,G et al.APPLIED PHYSICS LETTERS 92, 233305 (2008),Transparent and conducting electrodes for organic electronics from reduced grapheneoxide
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って、十分薄い酸化黒鉛粒子を含有する酸化黒鉛粒子含有液の効率的な製造法の確立が求められていた。
【0014】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、十分薄い酸化黒鉛粒子を含有する酸化黒鉛粒子含有液の効率的な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決するために、酸化黒鉛粒子が十分に薄くても、酸化黒鉛粒子含有液を短時間で精製できる精製酸化黒鉛粒子含有液の製造方法の確立を目指し、特にろ過法を用いた精製に着目して鋭意検討を重ねた。ここで、ろ過法は、上述したように、酸化黒鉛の薄い膜をろ過膜に形成してしまうことから、酸化黒鉛粒子のうち、特に基本層の層数が少ないものを含有する酸化黒鉛粒子含有液に対して、ろ過法で分散媒を分離することは実用的でないと考えられていた。このことは、いわゆるクロスフロー方式でろ過膜に酸化黒鉛粒子を流通させた場合でも同様であると考えられていた。
【0016】
ところが、本発明者らがろ過膜の表面に沿って酸化黒鉛粒子含有液の流れを形成しろ過を行ってみたところ、驚くべきことにろ過膜の閉塞が十分に抑制され、分散媒と酸化黒鉛粒子とを効率よく分離できることが判明した。そして、本発明者らがさらに鋭意研究を重ねた結果、上記の効果は、酸化黒鉛粒子が薄くなっても得られることが判明した。こうして本発明者らは以下の発明を完成するに至った。
【0017】
即ち本発明は、酸化黒鉛粒子を含有する酸化黒鉛粒子含有液を準備する準備工程と、酸化黒鉛粒子含有液を精製し、精製された精製酸化黒鉛粒子含有液を得る精製工程と、を含む精製酸化黒鉛粒子含有液の製造方法であって、前記精製工程が、ろ過膜を用いて酸化黒鉛粒子含有液をろ過し、ろ液と酸化黒鉛粒子を含む濃縮液とに分離するろ過工程と、前記濃縮液に分散媒を添加する分散媒添加工程とを含み、前記ろ過工程において、前記ろ過膜の表面に沿って、酸化黒鉛粒子含有液の流れを形成する、精製酸化黒鉛粒子含有液の製造方法である。
【0018】
この製造方法によれば、ろ過膜を用いたろ過工程において、ろ過膜の表面に沿って酸化黒鉛粒子含有液の流れが形成される。これにより、ろ過膜の閉塞が十分に抑制される。このため、酸化黒鉛粒子の層間分離の妨げとなっている酸化黒鉛粒子含有液中の不純物イオン等を酸化黒鉛粒子と効率よく分離させることが可能となる。さらにろ過工程は、酸化黒鉛粒子を沈降させるものではないため、遠心分離では沈降させることが困難なほどに基本層の層数が少なくなり十分に薄層化された酸化黒鉛粒子でも、酸化黒鉛粒子含有液の精製を効率よく行うことが可能である。加えて、各酸化黒鉛粒子には、酸化黒鉛粒子含有液の流れによってせん断力が加えられることから、薄層化の進行が促進され、単に精製を行ったときよりも効率的に、十分薄い酸化黒鉛粒子を含有する酸化黒鉛粒子含有液を製造することができる。
【0019】
前記ろ過工程においては、前記ろ過膜の表面に対する前記酸化黒鉛粒子含有液の流速を0.20m/s以上とすることが好ましい。
【0020】
この場合、ろ過膜の閉塞をより効果的に抑制することができる。その結果、不純物イオンをより効果的に酸化黒鉛粒子から分離することができる。またろ過膜の閉塞が抑制されることにより、ろ過をより長時間にわたって行うこともできる。このため、ろ過膜の洗浄の頻度を減らすことができ、精製酸化黒鉛粒子含有液をより短時間で製造することができる。
【0021】
前記ろ過工程においては、前記ろ過膜が中空糸膜であることが好ましい。この場合、膜面積が大きいため、短時間でろ過を行うことができる。
【0022】
前記ろ過工程において、前記酸化黒鉛粒子含有液を、前記中空糸膜の内側に流通させることが好ましい。
【0023】
この場合、酸化黒鉛粒子含有液を中空糸膜の外側に流通させる場合に比べて、ろ過膜の閉塞を容易に抑制することができる。
【0024】
前記分散媒添加工程で添加する分散媒が、前記酸化黒鉛粒子含有液中の分散媒と異なる分散媒であり、前記精製工程において、前記ろ過工程及び前記分散媒添加工程を繰り返し行うことも可能である。この場合、分散媒の種類を効率的に変えることが可能となる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、酸化黒鉛粒子が十分に薄くても、酸化黒鉛粒子含有液を短時間で精製できると同時に液の流れによるせん断力も加えられることから、十分薄い酸化黒鉛粒子を含有する酸化黒鉛粒子含有液の効率的な製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に含まれるろ過工程を実施するためのろ過装置の一例を示す概略図である。
【図2】ろ過膜としての中空糸膜を示す部分断面図である。
【図3】実施例1のろ過工程で得られたろ液の導電率とろ過時間との関係を示すグラフである。
【図4】実施例1で得られた精製酸化黒鉛粒子含有液中の酸化黒鉛粒子の粒度分布を示すグラフである。
【図5】比較例1で得られた精製酸化黒鉛粒子含有液中の酸化黒鉛粒子の粒度分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0028】
〔第1実施形態〕
まず本発明の第1実施形態について詳細に説明する。本実施形態では、ろ過膜として中空糸膜を使用する場合について説明する。
【0029】
[精製酸化黒鉛粒子含有液の製造方法]
本発明は、酸化黒鉛粒子を含有する酸化黒鉛粒子含有液を準備する準備工程と、酸化黒鉛粒子含有液を精製し、精製された精製酸化黒鉛粒子含有液を得る精製工程と、を含む精製酸化黒鉛粒子含有液の製造方法であって、精製工程が、ろ過膜を用いて酸化黒鉛粒子含有液をろ過し、ろ液と酸化黒鉛粒子を含む濃縮液とに分離するろ過工程と、濃縮液に分散媒を添加する分散媒添加工程とを含み、ろ過工程において、ろ過膜の表面に沿って、酸化黒鉛粒子含有液の流れを形成する、精製酸化黒鉛粒子含有液の製造方法である。
【0030】
この製造方法によれば、ろ過膜を用いたろ過工程において、ろ過膜の表面に沿って酸化黒鉛粒子含有液の流れが形成される。これにより、ろ過膜の閉塞が十分に抑制される。このため、酸化黒鉛粒子の層間分離の妨げとなっている酸化黒鉛粒子含有液中の不純物イオン等を酸化黒鉛粒子と効率よく分離させることが可能となる。さらにろ過工程は、酸化黒鉛粒子を沈降させるものではないため、遠心分離では沈降させることが困難なほどに基本層の層数が少なくなり十分に薄層化された酸化黒鉛粒子でも、酸化黒鉛粒子含有液の精製を効率よく行うことが可能である。加えて、各酸化黒鉛粒子には、酸化黒鉛粒子含有液の流れによってせん断力が加えられることから、単に精製を行ったときよりも効率的に十分薄い酸化黒鉛含有液を製造することができる。
【0031】
以下、上記準備工程及び精製工程について詳細に説明する。
【0032】
<準備工程>
準備工程は、酸化黒鉛粒子と、これを分散させる分散媒とを含有する酸化黒鉛粒子含有液を準備する工程である。
【0033】
酸化黒鉛粒子は、黒鉛を酸化することにより得られる。
【0034】
黒鉛としては、各種黒鉛が使用可能であるが、層構造が発達した結晶性の高い黒鉛が酸化黒鉛の収率が高く、基本層の層数が少ない酸化黒鉛が得られやすいという理由から好ましい。このような黒鉛として、天然黒鉛(特に良質なもの)、キッシュ黒鉛(特に高温で作られたもの)、高配向性熱分解黒鉛が好ましく用いられる他、これらの黒鉛の層間を予め広げた膨張黒鉛も好ましく用いられる。また、黒鉛中の金属元素などの不純物は、予め約0.5質量%以下になるまで除去されていることが望ましい。
【0035】
黒鉛の平均粒径は、酸化黒鉛粒子の平均粒径に反映されるため、合成したい酸化黒鉛粒子の平均粒径に応じて適宜選択すればよい。具体的には、酸化黒鉛粒子の平均粒径が例えば100nm以上である場合には、黒鉛の平均粒径を0.1μm以上100μm以下とすればよい。ここで、黒鉛の平均粒径を0.5μm以上50μm以下とすることが好ましく、1μm以上25μm以下とすることがさらに好ましい。黒鉛の平均粒径が0.1μm以上であると、平均粒径が0.1μm未満の場合に比べて、得られる酸化黒鉛粒子のアスペクト比が大きくなって形状異方性が大きくなり、黒鉛の平均粒径が100μm以下であると、黒鉛の平均粒径が100μmを超える場合に比べて、酸化に要する時間を短縮することができる。
【0036】
酸化黒鉛粒子の形状は、特に限定されるものではなく、種々の形状であってもよい。例えば酸化黒鉛粒子の形状は球状であっても平板状であってもよい。ここで、酸化黒鉛粒子の形状が平板状であると好ましい。酸化黒鉛粒子の形状が平板状であると、形状異方性がより高まり、形状異方性が小さい酸化黒鉛粒子と比べて、精製酸化黒鉛粒子含有液を用いて導電膜を製造した場合にその導電膜に導電性を発現させるのに必要な導電膜中の酸化黒鉛粒子の含有率を少なくすることができ、結果的に得られる導電膜からの酸化黒鉛粒子の脱離を抑制でき且つ導電膜の透明性をより高めることができる。
【0037】
酸化黒鉛粒子の形状が平板状である場合、酸化黒鉛粒子の平均粒径が100nm以上であることが好ましい。この場合、形状異方性が高い精製酸化黒鉛粒子が製造できる。
【0038】
酸化黒鉛粒子の「平均粒径」とは、光学顕微鏡または電子顕微鏡を使って5個の酸化黒鉛粒子を観察した場合に、酸化黒鉛粒子の平面方向の粒径の平均値を言うものとする。ここで、「粒径」とは、光学顕微鏡または電子顕微鏡を使って酸化黒鉛粒子を観察したときの酸化黒鉛粒子の最も長い対角線の長さを言うものとする。
【0039】
上記酸化黒鉛粒子としては、公知のBrodie法、Staudenmaier法、Hummers−Offeman法、特開2002−53313号公報および特開2003−176116号公報で開示される方法などによって、黒鉛を酸化することにより得られる酸化黒鉛粒子が利用できる。ここで、Brodie法は硝酸、塩素酸カリウムを使用して黒鉛を酸化させる方法であり、Staudenmaier法は、硝酸、硫酸及び塩素酸カリウムを使用して黒鉛を酸化させる方法である。またHummers−Offeman法は、硫酸、硝酸ナトリウム、過マンガン酸カリウムを使用して黒鉛を酸化する方法である。中でもHummers−Offeman法により製造することが、安全性が高く、短時間で酸化黒鉛粒子を製造できる点から好ましい。
【0040】
上記酸化黒鉛粒子を分散させるための分散媒は、酸化黒鉛粒子を分散させることが可能な液体であればいかなるものであってもよい。このような分散媒としては、例えばメタノール、エタノール、アセトン、2−ブタノン、水などを挙げることができる。中でも、酸化黒鉛粒子同士の凝集を防止する観点から、比誘電率が15以上であるメタノール、水が好ましい。特に水が好ましく、水の中でも特にイオン交換水を用いることがより好ましい。
【0041】
<精製工程>
精製工程は、上記の準備工程で得られた酸化黒鉛粒子含有液を精製し、精製された精製酸化黒鉛粒子含有液を得る工程であり、具体的には、上記の準備工程で得られた酸化黒鉛粒子含有液において、酸化黒鉛粒子の薄層化の妨げとなる不純物イオン等を酸化黒鉛粒子と分離するために行う工程である。
【0042】
(ろ過工程)
上記精製工程は、ろ過膜としての中空糸膜を用いて酸化黒鉛粒子含有液をろ過し、酸化黒鉛粒子を含有する濃縮液と、不純物イオン等を含有するろ液とに分離するろ過工程を含む。このろ過工程においては、中空糸膜の表面に沿って、酸化黒鉛粒子含有液の流れを形成する。
【0043】
図1は、ろ過工程を実施するろ過装置の一例を示す図である。図1に示すように、ろ過装置100は、酸化黒鉛粒子含有液を貯留する循環タンク1と、循環ポンプ2と、酸化黒鉛粒子含有液をろ過するろ過モジュール3とを備えている。ろ過モジュール3は中空糸膜を有しており、中空糸膜によって酸化黒鉛粒子含有液をろ過し、ろ液と酸化黒鉛粒子を含む濃縮液とに分離するものである。また循環タンク1とろ過モジュール3とは、酸化黒鉛含有液を供給する酸化黒鉛粒子含有液供給ラインL1によって接続されるとともに、ろ過モジュール3で得られた濃縮液を循環タンク1に返送する返送ラインL2によって接続されている。またろ過モジュール3には、ろ液を排出するろ液排出ラインL3が接続され、ろ液排出ラインL3からは、逆洗水を供給する逆洗水供給ラインL4が分岐している。逆洗水供給ラインL4には、逆洗水を貯留する逆洗タンク5と、逆洗水をろ過モジュール3に供給する逆洗ポンプ4とが設置されている。
【0044】
このろ過装置100では、循環タンク1に貯留された酸化黒鉛粒子含有液は、循環ポンプ2によって、酸化黒鉛粒子含有液供給ラインL1を経てろ過モジュール3に供給される。
【0045】
図2は、ろ過膜としての中空糸膜を示す部分断面図である。図2に示すように、中空糸膜10の一端から酸化黒鉛粒子含有液Aを導入すると、酸化黒鉛粒子含有液Aがろ過され、酸化黒鉛粒子を含む濃縮液Cと、酸化黒鉛粒子を含まず中空糸膜10を通過した不純物イオンを含むろ液Bとに分離される。濃縮液Cは、中空糸膜10の他端から排出され、返送ラインL2を経て循環タンク1に返送される。循環タンク1に返送された濃縮液Cは、循環タンク1内に貯留されている酸化黒鉛粒子含有液と混合され、再び酸化黒鉛粒子含有液として使用される。ろ液Bは、ろ液排出ラインL3を経て中空糸膜10の外側に排出される。詳しく述べると、ろ過モジュール3は、中空糸膜10を収容する筒状の密閉容器(図示せず)を有しており、ろ液Bは一旦その密閉容器内に排出され、この密閉容器からろ液排出ラインL3を経て中空糸膜10の外側に排出される。
【0046】
ろ過モジュール3で使用する中空糸膜10としては、例えばポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、酢酸セルロース、ポリスルホン、ポリイミド、セラミックなどの材料を用いることができる。
【0047】
中空糸膜10としては、UF膜を用いることが好ましい。UF膜を使った場合、膜表面の平滑性が高いため、酸化黒鉛粒子による膜の閉塞を効果的に抑制することができる。中空糸膜10としてUF膜を使用する場合、中空糸膜10の分画分子量は、酸化黒鉛粒子含有液中の不純物イオン等を通過させ、酸化黒鉛粒子を通過させない大きさであればよく、通常は1000〜500000であり、好ましくは3000〜10000である。
【0048】
中空糸膜10の内径は通常、0.05〜100mmであり、好ましくは0.5〜3mmである。これにより、酸化黒鉛粒子含有液の閉塞をより十分に抑制できるとともに、小さなろ過圧力で効果的に酸化黒鉛粒子含有液の流速を高めることができる。
【0049】
中空糸膜10の表面に沿って、酸化黒鉛粒子含有液の流れを形成する形態としては、酸化黒鉛粒子含有液を中空糸膜10の外側に流通させ、不純物イオン等を含むろ液を中空糸膜10の内側に排出させる形態と、酸化黒鉛粒子含有液を中空糸膜10の内側に流通させ、不純物イオン等を含むろ液を中空糸膜10の外側に排出させる形態とがある。
【0050】
これらのうち、酸化黒鉛粒子含有液を中空糸膜10の内側に流通させ、不純物イオン等を含むろ液を中空糸膜10の外側に排出させる方法が、効果的に酸化黒鉛粒子含有液の閉塞を抑制できることから好ましい。
【0051】
中空糸膜10の表面10aに対する酸化黒鉛粒子含有液Aの流速は0.2m/s以上であることが好ましい。この場合、中空糸膜10の閉塞をより効果的に抑制することができる。その結果、不純物イオンをより効果的に酸化黒鉛粒子から分離することができる。また中空糸膜10の閉塞が抑制されることにより、ろ過をより長時間にわたって行うこともできる。このため、中空糸膜10の洗浄の頻度を減らすことができ、精製酸化黒鉛粒子含有液をより短時間で製造することができる。
【0052】
中空糸膜10の表面10aに対する酸化黒鉛粒子含有液Aの流速はより好ましくは0.5m/s以上であり、さらに好ましくは1m/s以上である。但し、流速は10m/s以下であることが酸化黒鉛粒子の切断を防止する点から好ましい。
【0053】
上記酸化黒鉛粒子含有液Aの流速は以下のように定義される。
【0054】
【数1】

【0055】
上記式から分かるように、流速は、ろ過流量と、中空糸膜10の長手方向に直交する面における酸化黒鉛粒子含有液Aが流通する流路の面積とによって決定される。ここで、「流路の面積」とは、中空糸膜10の長手方向に直交する面と中空糸膜10の内壁面である表面10aとの交線によって囲まれる領域の面積に中空糸膜10の本数を乗じたものを意味する。
【0056】
ろ過圧力は通常、0.01〜10MPaであるが、0.02〜1MPaであることが好ましく、0.04〜0.2MPaであることがより好ましい。ろ過圧力を0.02〜1MPaとすることで、膜の閉塞が起こりにくく、ろ過流量も大きくすることができる。ろ過圧力は、流量等により調整することができる。
【0057】
酸化黒鉛粒子含有液Aを中空糸膜10の外側に流通させ、不純物イオン等を含むろ液を中空糸膜10の内側に排出させる形態を用いる場合でも、流速及びろ過圧力は、酸化黒鉛粒子含有液を中空糸膜10の内側に流通させ、不純物イオン等を含むろ液を中空糸膜10の外側に排出させる方法と同様である。具体的には、酸化黒鉛粒子含有液Aをろ過モジュール3の密閉容器内に流通させ、濃縮液Cを返送ラインL2を経て循環タンク1に返送し、ろ液Bを中空糸膜10の内側に集め、流通させて、ろ液排出ラインL3を経て中空糸膜10の外側に排出することになる。但し、上記流速の定義式において、「流路の面積」とは、中空糸膜10を収容する筒状の密閉容器の長手方向に直交する面と密閉容器の内壁面との交線によって囲まれる領域の面積から、密閉容器の長手方向に直交する面と中空糸膜の外周面との交線によって囲まれる領域の面積に中空糸膜10の本数を乗じた値を差し引いた面積を意味する。
【0058】
(分散媒添加工程)
精製工程は、ろ過により得られた濃縮液Cに分散媒を添加する分散媒添加工程を含む。分散媒は循環タンク1に連続あるいは断続的に添加され、循環する分散液中の酸化黒鉛粒子の濃度を調整するとともに不純物イオンの濃度を低下させる。ここで、分散媒としては通常、酸化黒鉛粒子含有液に含まれていた元の分散媒と同一のものが用いられるが、用途に応じて、酸化黒鉛粒子含有液に含まれていた元の分散媒と異なる分散媒を用いることもできる。この場合、ろ過工程を含む精製工程を繰り返し行うことで、酸化黒鉛粒子含有液に含まれていた元の分散媒を、これと異なる他の分散媒に置換することが可能となる。
【0059】
精製は酸化黒鉛粒子の平均厚さが0.4nm〜10nmになるまで実施することが好ましい。この場合、酸化黒鉛における基本層の層数が非常に少なく、平均厚さが薄いことで還元が容易となり、また、形状異方性が顕著に高く、そのため精製酸化黒鉛粒子含有液を用いて導電膜を製造した場合にその導電膜に導電性を発現させるために必要な導電膜中の酸化黒鉛粒子の含有率を低減することが可能となる。このため、導電膜について高い透明性が得られるとともに、導電膜からの酸化黒鉛粒子の脱離を顕著に抑制できる。
【0060】
酸化黒鉛粒子の「平均厚さ」とは、原子間力顕微鏡を使って5個の酸化黒鉛粒子について測定された厚さの平均値を言うものとする。
【0061】
精製工程は、ろ過工程及び分散媒添加工程を含んでいればよく、ろ過工程及び分散媒添加工程を含んでいれば、精製工程の最終段階が分散媒添加工程である必要はなく、ろ過工程であってもよい。
【0062】
なお、本発明において、「精製」とは、ろ過工程で得られるろ液の導電率を1/10以下まで低下させることを言う。
【0063】
(洗浄工程)
さらにろ過工程を繰り返し行う場合、ろ過工程を一時的に停止し、その間、中空糸膜10を洗浄する洗浄工程を行ってもよい。この洗浄の方法としては、例えば薬品洗浄、逆洗等、種々の方法があるが、短時間で行うことができることから、逆洗が好ましい。
【0064】
図1に示すろ過装置100においては、逆洗タンク5から逆洗水供給ラインL4及びろ液排出ラインL3を経て逆洗ポンプ4によりろ過モジュール3に逆洗水を供給することにより逆洗を行うことができる。
【0065】
(ろ過工程を含まない精製工程)
精製工程は、ろ過工程を含まない精製工程を含んでいなくてもよいが、ろ過工程を含まない精製工程を、ろ過工程を含む精製工程の前に含んでいる方が好ましい。ろ過工程を含まない精製工程を行った後にろ過工程を行うと、酸化黒鉛粒子含有液の酸性が弱くなっており、ろ過膜に与えるダメージを十分に低減できる。
【0066】
ろ過工程を含まない精製工程としては、例えばデカンテーション法、遠心分離法、透析法、イオン交換法を用いたものを挙げられる。これらの中でも、遠心分離法を用いた精製工程が、比較的短時間で酸化黒鉛粒子含有液の精製が可能であることから好ましい。
【0067】
遠心分離法を用いた精製工程は、例えば、酸化黒鉛粒子含有液を遠心分離する工程と、遠心分離された酸化黒鉛粒子含有液から上澄みを除去する工程と、分散媒を添加する分散媒添加工程を含む。ここで、分散媒としては通常、酸化黒鉛粒子含有液に含まれていた元の分散媒と同一のものが用いられるが、用途に応じて、酸化黒鉛粒子含有液に含まれていた元の分散媒と異なる分散媒を用いることもできる。この場合、精製工程を繰り返し行うことで、酸化黒鉛粒子含有液に含まれていた元の分散媒を、これと異なる他の分散媒に置換することが可能となる。
【0068】
上記遠心分離法を用いた精製工程は、酸化黒鉛粒子の平均厚さが50nm以上の段階で行うことが望ましい。この場合、酸化黒鉛粒子の沈降速度が適度なものとなる。精製が進むと酸化黒鉛粒子の平均厚さが小さくなって酸化黒鉛粒子の沈降速度が遅くなるため、上記遠心分離法を用いた精製工程は、精製の初期段階に行うことが望ましい。
【0069】
上記酸化黒鉛粒子は、精製酸化黒鉛粒子含有液を得るために、分散媒のほか、還元剤や高分子材料などの他の成分を添加してもよい。
【0070】
[導電体の製造方法]
上記精製酸化黒鉛粒子含有液の製造方法で得られた精製酸化黒鉛粒子含有液は、導電体の製造に使用することが可能である。ここで、「導電膜」とは、1.0×1012(Ω/□)以下の面積抵抗率を有する膜を言う。
【0071】
導電体を製造するには、上記のようにして得られた精製酸化黒鉛粒子含有液を、基体の表面上に塗布してフィルム状に形成し、その後酸化黒鉛粒子含有液を乾燥させて分散媒を除去し、コート膜を形成させた後、酸化黒鉛粒子の還元処理を行えばよい。
【0072】
精製酸化黒鉛粒子含有液の塗布の方法は、基体の表面上への塗布が可能であれば特に限定されるものではなく、例えばスピンコータ法、バーコータ法、ロールコータ法などの方法を用いることができる。
【0073】
精製酸化黒鉛粒子含有液を乾燥して分散媒を除去する際の加熱温度は、好ましくは30℃〜100℃、より好ましくは40℃〜80℃である。ただし、数分程度の短い時間であれば、高沸点の溶媒を除去する等の目的のために、200℃といった高温で加熱してもよい。コート膜形成後の酸化黒鉛粒子の還元は例えば、200℃で30分以上加熱処理することで達成される。
【0074】
なお、精製酸化黒鉛粒子含有液中に還元剤が含まれている場合には、酸化黒鉛粒子還元のための加熱温度を下げることができる。こうして導電体を得ることができる。
【0075】
〔第2実施形態〕
次に本発明の第2実施形態について説明する。
【0076】
本実施形態は、ろ過膜として、中空糸膜に代えて、円盤状平膜を用いる点で第1実施形態と相違する。
【0077】
ここで、円盤状平膜は通常、複数枚の円盤状平膜を互いに平行に配列させ、密閉容器中に収容された状態で使用される。ここで、複数の円盤状平膜にはそれらの中心を通るように回転軸が貫通し、その両端は密閉容器によって回転可能に支持される。この状態で、円盤状平膜を回転させることにより、円盤状平膜の表面に沿って、酸化黒鉛粒子含有液の流れを形成することができる。従って、本実施形態でも、第1実施形態と同様、精製酸化黒鉛粒子含有液を短時間で製造することができる。
【0078】
本実施形態では、酸化黒鉛粒子含有液の流速は、円盤の中心と外周の中間の位置(中心から半径の1/2だけ離れた位置)での膜の速度で定義され、円盤状平膜の半径r(m)と平膜の回転速度v(回/s)を使って以下のようにして計算される。
【数2】

【0079】
本発明は、上記第1及び第2実施形態に限定されるものではない。例えば上記第1及び第2実施形態では、ろ過膜として中空糸膜や円盤状平膜が使用されているが、これらに限らず、スパイラル型平膜なども使用することができる。
【0080】
また本発明の製造方法は、その精製工程に代えて、上述したろ過工程を含む濃縮工程を用いることで酸化黒鉛粒子含有液の濃縮に使用することもできる。この場合、濃縮工程において、ろ過工程の後に分散媒添加工程を行わなくても行ってもよいが、ろ過工程の後に分散媒添加工程を行う場合には、分散媒添加工程を行うたびごとに分散媒の添加量を減らす必要がある。
【実施例】
【0081】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0082】
(実施例1)
エスイーシー社製天然黒鉛SNO−3(純度99.97質量%以上)10gを、硝酸ナトリウム(純度99%)7.5g、硫酸(純度96%)621g、過マンガン酸カリウム(純度99%)45gからなる混合液中に入れ、約20℃で7日間、緩やかに撹拌しながら放置した。
【0083】
得られた高粘度の液を、5質量%硫酸水溶液1000cmに約1時間で撹拌しながら加え、さらに2時間撹拌した。
【0084】
得られた液に過酸化水素(30質量%水溶液)30gを加えて、2時間撹拌した。この液に対して遠心分離を一度行い、上澄みを除去した後、水を加えた。
【0085】
以上の操作を20回繰り返して行い、得られた20回分の液を混合した。そして、混合した液に水を加えることで、全液量が60Lになるように調整した。以下、この酸化黒鉛粒子分散液を「分散液A」と呼ぶ。
【0086】
次に、この分散液Aに対し、図1に示すろ過装置100を使用して精製を行った。具体的には、まず分散液Aを循環タンク1に入れた。そして、循環ポンプ2により、限外ろ過モジュール(ろ過膜:中空糸(材質:ポリスルホン、内径:1.4mm、本数:900本、)3、有効膜面積:4.5m、分画分子量:6000)に分散液Aを通液し、ろ過膜表面に沿うように分散液Aを流通させた。具体的にはろ過膜の内壁面に沿うように分散液Aを通液させた。このとき、ろ過膜表面に対する分散液Aの流速が2.5m/sとなるようにろ過流量を調節した。またこのとき、ろ過圧力は0.12MPaとした。
【0087】
こうして分散液Aに対し、ろ過膜を用いて繰り返し精製を行った。このとき、ろ過で減少した分の水については新たに加え、分散液中の酸化黒鉛粒子濃度が一定になるようにした。またろ過装置100においては、ろ過とろ過膜の逆洗とを交互に行った。逆洗は、逆洗タンク5に水を入れておき、逆洗を行う際に、逆洗ポンプ4により逆洗タンク5からろ過モジュール3に水を逆流させることによって行った。こうして精製酸化黒鉛粒子含有液を得た。
【0088】
ろ過モジュール3を用いてろ過を行っている間、ろ過時間とろ液の導電率との関係を調べた。結果を図3に示す。図3に示すように、時間とともにろ液の導電率が減少していることが分かる。これは、ろ液中に不純物イオン等が入り込んでいること、即ち、酸化黒鉛粒子と不純物イオン等とが効率よく分離されていることを示すものである。なお、図3において一定間隔で導電率が極端に下がっているのは、膜の逆洗を行った際に一時的に導電率が下がることに起因するものである。
【0089】
図3に示す結果より、分散液A(原料黒鉛200g)のろ液の導電率が1/1000まで低下(すなわち精製)するのに要した時間は5時間であった。
【0090】
また通液中、ろ過流量は100L/h以上であり、ろ過膜の閉塞によりろ液の流量が大きく減少することはなかった。
【0091】
なお、本実施例で得られた精製酸化黒鉛粒子含有液の粒度分布を測定した。具体的には、酸化黒鉛粒子の層数の相対比較は液相沈降式粒度分布計(HORIBA製超遠心式自動粒度分布測定装置CAPA−700)による粒度分布測定により行った。
【0092】
液相沈降式粒度分布計とは、粒径に応じて溶媒中の粒子の沈降速度が異なることを利用して粒子の粒径を評価する装置である。密度(ρ)、粘性係数(η)の溶媒中に存在する直径(D)、密度(ρ)の球形粒子はStokesの沈降式に従って一定速度で沈降することが知られており、液相沈降式粒度分布計ではこの理論を応用している(例えばHORIBA製超遠心式自動粒度分布測定装置CAPA−700マニュアル)。Stokesの沈降式は球形粒子に対する式で、形状異方性が高い粒子などについては正確な粒径を反映していない。しかし、溶媒の密度(ρ)、粘性係数(η)および粒子の密度(ρ)が同一の場合、得られる粒径の値は沈降速度と対応があり、粒径の値が小さいものほど沈降速度は遅くなっている。一方で、層数が少ない酸化黒鉛粒子ほど沈降速度が遅くなることから、同一のρ,η,ρで測定したデータをもとに粒径分布を比較することで層数の相対比較が可能になる。粒度分布測定は、下記表1に示す条件で行った。結果を図4に示す。なお、図4において、量(%)(面積基準)とは、全粒子について粒径を直径として求めた円の面積の総和において、ある粒径を持つ粒子の円の面積の和が占める割合を表す。図4に示すように、粒径は0.0〜0.5μmの範囲に集中しており、酸化黒鉛粒子の大部分について薄層化が進行したことが分かる。
【表1】

【0093】
(実施例2)
ろ過膜表面に対する分散液Aの流速を2.0m/sとなるようにろ過流量を調節したこと以外は実施例1と同様にして精製酸化黒鉛粒子含有液を得た。そして、実施例1と同様に、ろ過時間とろ液の導電率との関係を調べた。その結果、分散液Aのろ液の導電率が1/1000まで低下するのに要した時間は6時間であった。
【0094】
(実施例3)
ろ過膜表面に対する分散液Aの流速を1.5m/sとなるようにろ過流量を調節したこと以外は実施例1と同様にして精製酸化黒鉛粒子含有液を得た。そして、実施例1と同様に、ろ過時間とろ液の導電率との関係を調べた。その結果、分散液Aのろ液の導電率が1/1000まで低下するのに要した時間は8時間であった。
【0095】
(実施例4)
最後にろ過膜を用いてろ過を行った後、ろ過で減少した分の水を新たに加えなかったこと以外は実施例1と同様にして精製酸化黒鉛粒子含有液を得た。そして、実施例1と同様に、ろ過時間とろ液の導電率との関係を調べた。その結果、分散液Aのろ液の導電率が1/1000まで低下するのに要した時間は5.5時間であった。
【0096】
(比較例1)
実施例1で得られた分散液A(60L)のうち3L(原料黒鉛10g分)を抜き取り、この3Lの分散液Aに対し、3質量%硫酸/0.5質量%過酸化水素の混合水溶液を用いた遠心分離を行った後、水を用いた遠心分離を繰り返すことで分散液Aの精製を行った。こうして精製酸化黒鉛粒子含有液を得た。
【0097】
このとき、遠心分離後の上澄みの導電率が分散液Aの導電率の1/1000になるまで精製を繰り返した。精製が進むにつれて、酸化黒鉛粒子の沈降が遅くなり、十分沈降させるために長時間の遠心分離を行う必要があった。具体的には、3L分を精製するのに要した時間は30hであり、精製対象となる分散液Aが、実施例1の分散液Aの1/20という少ない量であったも係わらず、5倍以上の精製時間が必要であった。
【0098】
また比較例1で得られた精製酸化黒鉛粒子含有液について、実施例1と同様にして、酸化黒鉛粒子の粒度分布を測定した、結果を図5に示す。図5に示すように、比較例1で得られた精製酸化黒鉛粒子含有液では、粒径は0.0〜0.5μmの範囲に集中しておらず、0.0〜5.3μmの範囲、6.2〜7.4μmの範囲に分散して存在しており、酸化黒鉛粒子の薄層化の進行が遅いことが分かる。
【0099】
以上より、比較例1の方法で、実施例1の分散液Aに対して遠心分離法を用いた精製を行ったところ、分散液Aを、実施例1の分散液Aの1/20にしたにもかかわらず、精製までに30hを要することが分かった。即ち分散液Aは、既に遠心分離法を用いた精製では、沈降速度が遅くなり、十分な精製ができない状態にあった。
【0100】
これに対し、実施例1〜4では、精製までに要する時間が5〜8時間であった。このことから、実施例1〜4の方法は比較例1の方法に比べて、精製に要する時間を十分に短縮できることが分かった。
【0101】
よって、本発明によれば、十分に薄い酸化黒鉛粒子を含有する酸化黒鉛粒子含有液を効率的に製造できることが確認された。
【符号の説明】
【0102】
1…循環タンク、2…循環ポンプ、3…ろ過モジュール、4…逆洗ポンプ、5…逆洗タンク、100…ろ過装置、L1…酸化黒鉛粒子含有液供給ライン、L2…返送ライン、L3…ろ液排出ライン、L4…逆洗水供給ライン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化黒鉛粒子と分散媒とを含有する酸化黒鉛粒子含有液を準備する準備工程と、
酸化黒鉛粒子含有液を精製し、精製された精製酸化黒鉛粒子含有液を得る精製工程と、を含む精製酸化黒鉛粒子含有液の製造方法であって、
前記精製工程が、ろ過膜を用いて酸化黒鉛粒子含有液をろ過し、ろ液と酸化黒鉛粒子を含む濃縮液とに分離するろ過工程と、
前記濃縮液に分散媒を添加する分散媒添加工程とを含み、
前記ろ過工程において、前記ろ過膜の表面に沿って、酸化黒鉛粒子含有液の流れを形成する、精製酸化黒鉛粒子含有液の製造方法。
【請求項2】
前記ろ過工程において、前記ろ過膜の表面に対する前記酸化黒鉛粒子含有液の流速を0.20m/s以上とする、請求項1に記載の精製酸化黒鉛粒子含有液の製造方法。
【請求項3】
前記ろ過工程において、前記ろ過膜が中空糸膜である、請求項1又は2に記載の精製酸化黒鉛粒子含有液の製造方法。
【請求項4】
前記ろ過工程において、前記酸化黒鉛粒子含有液を、前記中空糸膜の内側に流通させる、請求項3に記載の精製酸化黒鉛粒子含有液の製造方法。
【請求項5】
前記分散媒添加工程で添加する分散媒が、前記酸化黒鉛粒子含有液中の分散媒と異なる分散媒であり、前記精製工程において、前記ろ過工程及び前記分散媒添加工程を繰り返し行う、請求項1〜4のいずれか一項に記載の精製酸化黒鉛粒子含有液の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−79701(P2011−79701A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−233186(P2009−233186)
【出願日】平成21年10月7日(2009.10.7)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】