説明

糖鎖分離方法、検体分析方法、液体クロマトグラフィー装置、並びに糖鎖分析方法及び糖鎖分析装置

【課題】短時間で効率的に糖タンパク質の糖鎖を分離する。
【解決手段】検体を順相液体クロマトグラフィー1及び逆相液体クロマトグラフィー2のうちの一方により分離する第1分離工程と、該第1分離工程において分離された検体を含む第1溶出液をイオン交換カラム3に通液させて検体を吸着させる検体吸着工程と、前記イオン交換カラム3から検体を溶出させ、得られた検体を含む第2溶出液を順相液体クロマトグラフィー1及び逆相液体クロマトグラフィー2のうちの他方により分離する第2分離工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疾患診断などにおける糖タンパク質の分析に用いる糖鎖の分離方法、順相及び逆相の液体クロマトグラフィーを利用した検体の分析方法、及びこれに用いる液体クロマトグラフィー装置、並びに、糖鎖の分析方法及び分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
糖タンパク質の糖鎖は、診断分野、特に癌診断において重要な役割を担う。すでにシアリルルイスエックス、シアリルTn、CA50、CA15−3といった糖鎖は癌化に伴い血中濃度が増加することが明らかになっており、これらと特異的に結合する抗体によってその存在の有無を調べることができる。
しかし抗体は必ずしも目的糖鎖のみを認識するとは限らず、抗体によっては目的以外の糖鎖を認識することもあり、近年は選択性の高い分析化学的手法による糖鎖解析が注目されている。
【0003】
糖タンパク質の糖鎖の分析方法としては、糖鎖を糖タンパク質から切り出した後に蛍光化合物で標識し、それを順相液体クロマトグラフィー(以下、適宜「順相HPLC」という)および逆相液体クロマトグラフィー(以下、適宜「逆相HPLC」という)で分離する分析方法が一般的である(非特許文献1)。
【0004】
糖タンパク質から糖鎖を切り出す方法は、糖鎖切断酵素を利用する方法(非特許文献2)、および無水ヒドラジンを利用する方法(非特許文献3)がある。しかし、酵素を用いる方法はタンパク質内に深く取り込まれた糖鎖を完全に切り出せない、という欠点がある。したがって、多くの場合は無水ヒドラジンによる化学的手法が利用されている。
【0005】
また、多くの天然糖鎖にはその構成糖としてアセチル化糖(具体的にはN−アセチルグルコサミン、N−アセチルガラクトサミン、N−アセチルノイラミン酸など)が含まれるが、これら糖鎖のアセチル基はヒドラジン分解時に脱離してしまう。このため、ヒドラジン分解後にアセチル化を行なう必要がある。そこで、従来はヒドラジン留去後に飽和炭酸水溶液および無水酢酸を加えてアセチル化する方法が一般的であった。
【0006】
さらに、順相HPLC及び逆相HPLCで分離する過程においては、順相HPLCと逆相HPLCとが異なる分離能を有するため、糖鎖の種類によっては、順相HPLCで分離が困難なものであっても、逆相HPLCでは容易に分離できることが多い。そのため、従来はこれら順相HPLCと逆相HPLCの組み合わせにより、数十、数百種類の糖鎖を最終的に単一の糖鎖にまで分離する方法が用いられていた。
【0007】
ところで、省力化、高速化を目的として、液体クロマトグラフィーに用いる装置(以下、適宜「HPLC装置」という)を複数自動バルブスイッチを介してオンラインで結合する例は多数報告されている。例えばWoltersらはイオン交換カラムと逆相カラムを接続し、生体内の多数のタンパク質断片(ペプチド)を分離することに成功している(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Hase S., Ikenaka T., Matsushima Y.; J.Biochem.,90,407−414(1981)
【非特許文献2】S.Takasaki,T.Mizuochi,A.Kobata,“Methods in Enzymology ”,ed.by V.Ginsburg, Vol.83, p.263, Academic Press, New York(1982)
【非特許文献3】Takahashi N., Biochemical and Biophysical Research Communications, 76, 1194−1200(1977)
【非特許文献4】Wolters D.A., Washburn M.P.,YatesJ.R.; Anal.Chem.,73(23) 5683−5690(2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来のように無水ヒドラジンを利用する方法により糖タンパク質から糖鎖を得る場合、(1)高沸点のヒドラジンを除去するのに時間がかかる、(2)一度に多量のヒドラジンを蒸発させる場合に取り扱いが難しくなる、などの課題があり、多数の検体を処理する場合には多くの時間を費やした。つまり、従来の無水ヒドラジンにより糖タンパク質から糖鎖を得る方法には、処理時間や取り扱いに課題あった。
【0010】
また、無水ヒドラジンを利用する方法により切り出した糖鎖のアセチル基脱離部位を再度アセチル化する場合、ヒドラジン留去後に飽和炭酸水溶液および無水酢酸を加えてアセチル化するという従来の方法では、アセチル化反応に時間がかかる他、系内に残る多量の塩を脱塩するために多くの時間を必要としていた。つまり、構成糖としてアセチル化糖を含む糖鎖については、ヒドラジン除去後の糖鎖のアセチル化、脱塩といった一連の処理においてもそれぞれ長い処理時間を必要とすることから、短時間で糖鎖を得ることは困難であった。
【0011】
さらに、順相HPLCと逆相HPLCとを組み合わせて分析を行なう場合には、順相HPLCの溶出液を、装置間を接続して直接オンラインで逆相HPLCに導くことはできなかった。なぜならば、順相HPLCの溶離液は、逆相HPLCにとって非常に強い溶出効果を持っており、例えば、直接順相HPLCから逆相HPLCに導いた場合には糖鎖がまったく逆相カラムに保持されないからである。逆相HPLCから順相HPLCに導いた場合も同様である。これに対応するため、従来は、順相HPLCによる分析の後、逆相HPLCを行なう前に溶媒置換を行なっていた。溶媒置換は、具体的には、順相HPLCからの溶出液を一度試験管に分取し、それを濃縮乾燥機またはエバポレータで溶媒を留去し、その後で水に再溶解する、という工程を行なうものである。しかし、この方法は多大な労力を要するとともに、多数の検体を分析するときには多くの時間を必要としていた。つまり、順相HPLCと逆相HPLCとは直接オンラインで接続することが出来なかったため、順層HPLC及び逆相HPLCに用いる装置相互の間で、一旦溶出液を分取し、溶媒の留去、再溶解するという、溶媒置換の工程が必要であった。即ち、分析に多大な労力を要するとともに、多数の検体を分析するときには時間がかかるという課題があった。
【0012】
また、非特許文献4のような例は、いずれも一方の溶出条件が他方の保持条件となる場合のみ組み合わせが可能であり、順相HPLCと逆相HPLCのような、一方の溶出条件が他方の溶出条件ともなってしまうような、いわゆる溶媒置換が必要となる組み合わせをオンラインで接続する報告はこれまでになかった。
【0013】
本発明は上記の課題に鑑みて創案されたもので、短時間で効率的に糖タンパク質の糖鎖を分離すること、並びに、分離された糖鎖に代表される各種の検体を短時間で効率的に分析することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討した結果、耐アルカリ性の充填剤を充填したカラムに糖タンパク質のヒドラジン分解液を通液し、更に、ヒドラジンを溶出させる洗浄溶媒を通液することにより、糖タンパク質のヒドラジン分解液から糖鎖を分離することができることを見出した。また、順相液体クロマトグラフィー及び逆相液体クロマトグラフィーのうちの一方により分離した後の検体を含む第1溶出液をイオン交換カラムに通液させて検体を吸着させた後、イオン交換カラムから検体を溶出させて順相液体クロマトグラフィー及び逆相液体クロマトグラフィーのうちの他方により分離することにより検体を短時間で効率的に分析することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0015】
即ち、本発明の要旨は、糖タンパク質のヒドラジン分解液から糖鎖を分離する方法であって、糖鎖を保持し得る耐アルカリ性の充填剤を充填したカラムに、糖タンパク質のヒドラジン分解液を通液する糖鎖保持工程と、前記カラムに、ヒドラジンを溶出させる洗浄溶媒を通液する洗浄工程とを備えたことを特徴とする、糖鎖分離方法に存する(請求項1)。この糖鎖分離方法により、短時間で効率的に糖タンパク質の糖鎖を分離することができる。
【0016】
また、本発明の別の要旨は、糖タンパク質のヒドラジン分解液から糖鎖を分離する方法であって、糖鎖を保持し得る充填剤を充填したカラムに、糖タンパク質のヒドラジン分解液を通液する糖鎖保持工程と、前記カラムに、ヒドラジンを溶出させる洗浄溶媒を通液する洗浄工程と、前記カラムに、アセチル化反応剤を通液するアセチル化工程と、前記カラムに、アセチル化反応剤を溶出させる脱塩剤を通液する反応剤洗浄工程とを備えたことを特徴とする、糖鎖分離方法に存する(請求項2)。この糖鎖分離方法により、短時間で効率的に糖タンパク質の糖鎖を分離することができ、また、糖タンパク質の糖鎖が本来アセチル基を有している場合、ヒドラジン分解液中で脱離していたアセチル基を短時間に付加することができる。
【0017】
また、本発明の更に別の要旨は、糖タンパク質のヒドラジン分解液から糖鎖を分離する方法であって、糖鎖を保持し得る充填剤を充填したカラムに、糖タンパク質のヒドラジン分解液を通液する糖鎖保持工程と、前記カラムに、ヒドラジンを溶出させる洗浄溶媒を通液する洗浄工程と、前記カラムに、糖鎖を溶出させうるアセチル化反応剤を通液するアセチル化溶出工程とを備えたことを特徴とする、糖鎖分離方法に存する(請求項3)。この糖鎖分離方法によっても、短時間で効率的に糖タンパク質の糖鎖を分離することができ、また、糖タンパク質の糖鎖が本来アセチル基を有している場合、ヒドラジン分解液中で脱離していたアセチル基を短時間に付加することができる。
【0018】
さらに、前記充填剤は、耐アルカリ性であることが好ましい(請求項4)。これにより、アルカリによって分解した充填剤がカラムから溶出し糖鎖と混合することを防止でき、また、充填剤がアルカリで分解して糖鎖の保持力が低下することを防止できる。
【0019】
また、本発明の更に別の要旨は、検体を順相液体クロマトグラフィー及び逆相液体クロマトグラフィーのうちの一方により分離する第1分離工程と、該第1分離工程において分離された検体を含む第1溶出液をイオン交換カラムに通液させて検体を吸着させる検体吸着工程と、前記イオン交換カラムから検体を溶出させ、得られた検体を含む第2溶出液を順相液体クロマトグラフィー及び逆相液体クロマトグラフィーのうちの他方により分離する第2分離工程とを備えたことを特徴とする、検体分析方法に存する(請求項5)。この検体分析方法により、順相及び逆相クロマトグラフィーを用いて、各種の検体を短時間で効率的に分析することができる。
【0020】
このとき、前記イオン交換カラムはカチオン交換カラムであることが好ましい(請求項6)。さらに、前記検体は、糖タンパク質の糖鎖であることが好ましい(請求項7)。これにより、糖鎖を確実にイオン交換カラムに吸着させることが可能となり、安定した分析を行なうことが可能となる。
【0021】
また、本発明の更に別の要旨は、順相液体クロマトグラフィーによる分離を行なう順相液体クロマトグラフィー部と、逆相液体クロマトグラフィーによる分離を行なう逆相液体クロマトグラフィー部と、イオン交換カラムとを備え、該イオン交換カラムは、該順相液体クロマトグラフィー部及び該逆相液体クロマトグラフィー部のうちの一方から流出した第1溶出液が該イオン交換カラムに流入し、該イオン交換カラムから流出した第2溶出液が該順相液体クロマトグラフィー部及び該逆相液体クロマトグラフィー部のうちの他方に流入するよう、該順相液体クロマトグラフィー部及び該逆相液体クロマトグラフィー部の間に接続されることを特徴とする、液体クロマトグラフィー装置に存する(請求項8)。この液体クロマトグラフィー装置により、順相及び逆相クロマトグラフィーを用いて、各種の検体を短時間で効率的に分析することができる。
【0022】
このとき、該液体クロマトグラフィー装置は、該イオン交換カラムの移動相を、該イオン交換カラムに吸着した検体を溶出させる移動相と溶出させない移動相との間で切り替える移動相切替部を備えることが好ましい(請求項9)。これにより、上記の分析の操作を簡単にすることができる。
【0023】
また、本発明の更に別の要旨は、糖タンパク質をヒドラジンにより分解して糖タンパク質のヒドラジン分解液を調製する分解工程と、該分解工程で調製した前記ヒドラジン分解液を、糖鎖を保持し得る充填剤を充填したカラムに通液する糖鎖保持工程と、前記カラムに、ヒドラジンを溶出させる洗浄溶媒を通液する洗浄工程と、前記カラムに、アセチル化反応剤を通液するアセチル化工程と、前記カラムに、前記アセチル化反応剤を溶出させる脱塩剤を通液する反応剤洗浄工程と、前記カラムから糖鎖を溶出させ、得られた糖鎖を含む検体液を順相液体クロマトグラフィー及び逆相液体クロマトグラフィーのうちの一方により分離する第1分離工程と、該第1分離工程において分離された糖鎖を含む第1溶出液をイオン交換カラムに通液させて糖鎖を吸着させる糖鎖吸着工程と、前記イオン交換カラムから糖鎖を溶出させ、得られた糖鎖を含む第2溶出液を順相液体クロマトグラフィー及び逆相液体クロマトグラフィーのうちの他方により分離する第2分離工程とを備えたことを特徴とする、糖鎖分析方法に存する(請求項10)。この分析方法により、短時間で効率的に糖タンパク質の糖鎖を分析することが可能となる。
【0024】
また、本発明の更に別の要旨は、上記の糖鎖分析方法に用いる糖鎖分析装置であって、糖鎖を保持し得る充填剤が充填されたカラムと、順相液体クロマトグラフィーにより糖鎖の分離を行なう順相液体クロマトグラフィー部と、逆相液体クロマトグラフィーにより糖鎖の分離を行なう逆相液体クロマトグラフィー部と、イオン交換カラムとを備え、該カラムは、該カラムから流出した検出液が該順相液体クロマトグラフィー部及び該逆相液体クロマトグラフィー部の一方に流入するように接続されるとともに、該イオン交換カラムは、該順相液体クロマトグラフィー部及び該逆相液体クロマトグラフィー部のうちの一方から流出した第1溶出液が該イオン交換カラムに流入し、該イオン交換カラムから流出した第2溶出液が該順相液体クロマトグラフィー部及び該逆相液体クロマトグラフィー部のうちの他方に流入するよう、該順相液体クロマトグラフィー部及び該逆相液体クロマトグラフィー部の間に接続されることを特徴とする、糖鎖分析装置に存する(請求項11)。この分析装置を用いることにより、短時間で効率的に糖タンパク質の糖鎖を分析することが可能となる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の糖鎖分離方法によれば、短時間で効率的に糖タンパク質の糖鎖を分離することができる。
また、本発明の分析方法または液体クロマトグラフィー装置によれば、糖鎖その他の検体を短時間で効率的に分析することができる。
さらに、本発明の糖鎖分析方法または糖鎖分析装置によれば、糖鎖を短時間で効率的に分析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態としての検体分析方法に用いる液体クロマトグラフィー装置の要部を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態としての糖鎖分析方法に用いる糖鎖分析装置の要部を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施例に用いる液体クロマトグラフィー装置の要部を示すブロック図である。
【図4】本発明の実施例で検出した、糖鎖の順相HPLCクロマトグラムと逆相HPLCクロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図を用いて本発明の実施形態について説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において任意に変形して実施することができる。
【0028】
I.糖タンパク質の糖鎖の分離
まず、糖タンパク質から糖鎖を分離する方法について説明する。
本実施形態では、まず、糖タンパク質のヒドラジン分解液を調製する分解工程を行なって糖タンパク質から糖鎖を切り出し、次に、本発明の糖鎖分離方法によってヒドラジン分解液から糖鎖を分離する。ここで、本発明の糖鎖分離方法は、糖タンパク質のヒドラジン分解液から糖鎖を分離する方法であって、糖鎖を保持し得る充填剤を充填したカラムに、糖タンパク質のヒドラジン分解液を通液する糖鎖保持工程と、前記カラムに、ヒドラジンを溶出させる洗浄溶媒を通液する洗浄工程とを有する。さらに、糖タンパク質の糖鎖が、ヒドラジンによる糖鎖の切り出し前にアセチル基を有している場合には、洗浄工程後、カラムにアセチル化反応剤を通液するアセチル化工程と、カラムにアセチル化反応剤を溶出させる脱塩剤を通液する反応剤洗浄工程とを行なう。
【0029】
以下、詳細に説明する。
[1]分解工程
分解工程では糖タンパク質をヒドラジンにより分解して、糖タンパク質のヒドラジン分解液を調製する。
ヒドラジン分解液の調製方法に特に制限は無く、公知の任意の方法により調製することができる。ただし、通常は、分析の対象となる試料(臓器、組織、糖タンパク質等)にヒドラジンを加え、加熱することにより調製する。これにより、ヒドラジン分解液中でタンパク質はほぼ完全に分解し、タンパク質に結合していた糖鎖はタンパク質から遊離する。なお、上記の方法によりヒドラジン分解液を調製する場合、加熱する温度は通常60℃以上、好ましくは90℃以上、また、通常150℃以下、好ましくは110℃以下である。
【0030】
この際、試料中の糖鎖がアセチル基を有するものである場合には、ヒドラジンにより糖鎖からアセチル基が脱離し、ヒドラジン分解液中の糖鎖はアセチル基を有さない糖鎖になる。このように、糖タンパク質に結合した状態ではアセチル基を有していた糖鎖がヒドラジン分解によってそのアセチル基を失ったものを、以下適宜「アセチル基脱離糖鎖」と呼ぶ。また、本明細書においては糖鎖とは、アセチル基を有しているものと有していないものとを区別せずに広く指す語として用いる。また、ここでいう糖鎖とは、グルコース、ガラクトース、マンノース、フコース、N−アセチルグルコサミン、N−アセチルガラクトサミン、シアル酸などを構成糖とするもので、これらが複数グリコシド結合でつながったもの、または単糖も含まれる。
【0031】
[2]糖鎖保持工程
糖鎖保持工程では、分解工程において調製したヒドラジン分解液をカラム(以下適宜、「糖鎖保持カラム」という)に通液する。
糖鎖保持カラムの充填剤は、糖鎖を保持しうる性能をもつ充填剤であれば他に制限は無く、任意の物質を用いることができる。具体例を挙げると、通常、オクタデシルシラン、オクチルシラン、シクロヘキシルシラン、フェニルシラン、シアノプロピルシラン、シリカゲルなどのシリカ系充填剤;フロリジルなどのケイ酸マグネシウム系充填剤;スチレンジビニルベンゼンなどのポリスチレン系充填剤;アミノ、アミドなどの順相系充填剤;グラファイトカーボンなどのカーボン系充填剤;セルロース、セファデクスなどの高分子糖系充填剤等が挙げられる。ただし、ヒドラジン溶解液はアルカリ性であるので、充填剤の加水分解による劣化、及び残骸流出防止の観点より、耐アルカリ性の物質が好ましく、具体的には、グラファイトカーボン、スチレンジビニルベンゼン等が好ましい。ここで耐アルカリ性とは、pH=7以上の溶液と接した場合、分解または変性しないことをいう。なお、これら充填剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
さらに、上記充填剤の充填密度は任意であるが、通常0.2g/cm2以上、好ましくは0.3g/cm2以上、また、通常1.0g/cm2以下、好ましくは0.8g/cm2以下である。
【0032】
糖鎖保持カラムにヒドラジン分解液を通液することにより、ヒドラジン分解液中の糖鎖はカラムの充填剤に保持される。
ヒドラジン分解液の通液速度は任意であるが、糖タンパク質などの試料の量、及び、使用するカラムの体積などに応じて設定することが好ましい。例えば、通常0.1mL/min以上、好ましくは0.5mL/min以上、また、通常100mL/min以下、好ましくは5mL/min以下が望ましい。
【0033】
[3]洗浄工程
洗浄工程では、糖鎖保持工程でヒドラジン分解液を通液した糖鎖保持カラムに、ヒドラジンを溶出させる洗浄溶媒を通液する。糖鎖保持カラムに洗浄溶媒を通液することにより、糖鎖を糖鎖保持カラムの充填剤に保持したままヒドラジンを完全に除去することができる。
【0034】
ここで、洗浄溶液とは、糖鎖を糖鎖保持カラムに保持させた状態のままヒドラジンを溶出させる性質を備えたものであれば任意の液体を用いることができる。したがって、使用する洗浄溶液の具体的な種類は、使用する糖鎖保持カラムに応じて選択することができる。
【0035】
例えば、糖鎖保持カラムの充填剤がグラファイトカーボン等のカーボン系充填剤やスチレンジビニルベンゼン等のポリスチレン系充填剤などである逆相系カラムに対しては、洗浄用液として水や、酢酸塩水溶液、ギ酸アンモニウム水溶液、酢酸トリエチルアミン水溶液、酢酸ナトリウム水溶液、リン酸ナトリウム水溶液などの水溶液等を用いることが好ましく、水、酢酸アンモニウム水溶液、ギ酸アンモニウム水溶液などを用いることがより好ましく、中でも酢酸アンモニウム水溶液が特に好ましい。
また、充填剤がセルロースなどである順相系カラムに対しては、メタノール、エタノール、ブタノール、アセトニトリル、アセトン、クロロホルムなどの有機溶媒を用いることが好ましく、中でもブタノール、エタノール、若しくはそれらの混合溶媒を用いることがより好ましい。
なお、上記の洗浄溶液は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0036】
洗浄溶液の通液量及び通液速度は、糖タンパク質などの試料の量、及び、使用する糖鎖保持カラムの体積などに応じて設定することが好ましい。例えば、通液量は任意であるが、カラム体積の通常1倍以上、好ましくは3倍以上、また、通常50倍以下、好ましくは20倍以下が望ましい。また、通液速度も任意であるが、通常0.1mL/min以上、好ましくは1.0mL/min以上、また、通常100mL/min以下、好ましくは10mL/min以下が望ましい。
以上のように、糖鎖保持工程及び洗浄工程を行なうことにより、ヒドラジン分解液中の糖鎖を分離し、糖鎖保持カラムの充填剤に保持された糖鎖として得ることができる。
【0037】
[4]アセチル化工程
次に、アセチル化工程を行なう。糖鎖が本来糖タンパク質中でアセチル基を有しているものである場合には、洗浄工程の直後では目的とする糖鎖を得ることができない。即ち、このような場合にはヒドラジン分解液中では糖鎖からアセチル基が脱離するため、洗浄工程直後には、目的とする糖鎖からアセチル基が脱離したアセチル基脱離糖鎖が得られる。したがって、アセチル基を有する糖鎖を得るためには、アセチル基脱離糖鎖のアセチル基が脱離した部分をアセチル化することが必要となる。
【0038】
アセチル化工程では、洗浄工程でヒドラジンを除去した後の糖鎖保持カラムに、アセチル化反応剤を通液する。糖鎖保持カラムにアセチル化反応剤を通液することにより、充填剤に保持されたアセチル基脱離糖鎖をアセチル化して、目的とする糖鎖にすることができる。
アセチル化反応剤は、アセチル基脱離糖鎖をアセチル化することができる流体であれば他に制限は無い。ただし、通常は、アセチル化試薬を水またはバッファーに溶解したものを用いる。
【0039】
アセチル化試薬は、アルコール、アミンをそれぞれエステル、アミドに変換しうるものをいい、公知のものを任意に用いることができる。具体例を挙げると、無水酢酸、アセチルブロマイド、アセチルクロライド、アセチルイミダゾールなどが挙げられる。中でも無水酢酸が好ましい。なお、アセチル化試薬は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0040】
また、アセチル化試薬を溶解するバッファーや溶媒としても、任意の液体を用いることができる。具体例としては、充填剤としてグラファイトカーボン等のカーボン系充填剤やスチレンジビニルベンゼン等のポリスチレン系充填剤などを用いた逆相系カラムに対しては、酢酸アンモニウム水溶液、ギ酸アンモニウム水溶液、酢酸ナトリウム水溶液、トリスヒドロキシメチルアミノメタン水溶液、酢酸トリメチルアミン水溶液などが用いられ、中でもトリスヒドロキシメチルアミノメタン水溶液が望ましい。なお特に、バッファーや溶媒として上記のような水溶液を用いる場合、その水溶液の濃度は、その水溶液の通液によって糖鎖がカラムから流出せず、且つ、アセチル化反応によるpH変動を抑制することができれば任意である。通常0.1M以上、好ましくは0.5M以上、また、通常2.0M以下、好ましくは1.0M以下が望ましい。この濃度が薄すぎるとアセチル化反応により生じる酸によってpHが低下し反応が停止する虞があり、また、この高度が高すぎると糖鎖がカラムから流出する虞がある。
また、充填剤がセルロースなどである順相系カラムに対しては、エタノール、ブタノールなどのアルコール類;アセトン、アセトニトリルなどの水溶性溶媒などを挙げることができる。なお、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0041】
アセチル化試薬の濃度も任意であるが、通常は、使用する糖鎖保持カラムの充填剤に応じて設定する。例えば、糖鎖保持カラムの充填剤としてグラファイトカーボン等のカーボン系充填剤やスチレンジビニルベンゼン等のポリスチレン系充填剤を用いた場合、アセチル化試薬の濃度は通常0.1重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、また、通常10重量%以下、好ましくは3重量%以下である。また、例えば、充填剤としてセルロースを用いた場合、アセチル化試薬の濃度は通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上、また、通常80重量%以下、好ましくは10重量%以下である。
【0042】
さらに、アセチル化反応剤には適宜、緩衝剤を混合してpHを調整することが望ましい。例えば、糖鎖保持カラムの充填剤としてグラファイトカーボン等のカーボン系充填剤やスチレンジビニルベンゼン等のポリスチレン系充填剤などを用いた場合には、緩衝剤によりアセチル化試薬のpHを、通常4以上、好ましくは5以上、また、通常10以下、好ましくは8以下とする。pHが高すぎるとアセチル化試薬が加水分解する虞があり、また、pHが低すぎるとアセチル化が進行しない可能性がある。
【0043】
また、アセチル化反応剤の通液量は、糖タンパク質などの試料の量、及び、使用する糖鎖保持カラムの体積などに応じて設定することが好ましい。通液量は、通常0.1mL/min以上、好ましくは0.2mL/min以上、より好ましくは0.5mL/min以上、また、通常10mL/min以下、好ましくは5mL/min以下、より好ましくは2mL/min以下が望ましいが、特にこれに限定されるものではない。
【0044】
[5]反応剤洗浄工程
反応剤洗浄工程では、アセチル化工程でアセチル化反応剤を通液した後の糖鎖保持カラムに、脱塩剤(反応剤洗浄剤)を通液する。糖鎖保持カラムに脱塩剤を通液することにより、糖鎖保持カラム内のアセチル化反応剤を除去し、目的とする糖鎖を得ることができる。
脱塩剤は糖鎖をカラムに保持し、且つアセチル化反応剤(バッファー中に緩衝剤としての塩が存在している場合は、その塩を含む)を溶出させることができるものであれば特に制限は無く、任意のものを用いることができる。具体例としては、上記洗浄工程で用いた洗浄溶液と同様のものを用いることができる。また、脱塩材は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
また、通液する脱塩剤の量は、使用する糖鎖保持カラムの体積に対して、通常1倍以上、好ましくは2倍以上、より好ましくは3倍以上、また、通常10倍以下、好ましく8倍以下、より好ましくは6倍以下である。
【0045】
以上のように、反応剤洗浄工程を行なうことにより、目的とする糖鎖を得ることができる。ただし、上記アセチル化工程及び反応剤洗浄工程は省略しても良い。即ち、糖タンパク質のヒドラジン分解液から糖鎖を分離する方法であって、糖鎖を保持し得る耐アルカリ性の充填剤を充填したカラムに、糖タンパク質のヒドラジン分解液を通液する糖鎖保持工程と、前記カラムに、ヒドラジンを溶出させる洗浄溶媒を通液する洗浄工程とを行なうことでも、目的とする糖鎖を得ることができる。具体的には、糖鎖が糖タンパク質に結合した状態においてもアセチル基を有さない種類の糖鎖である場合などがこれに当たる。
【0046】
[6]その他
糖鎖は、充填剤に保持された状態で得ることができる。この糖鎖は、充填剤に保持された状態のまま用いても良いが、通常は、糖鎖保持カラムに溶出溶剤を通液し、充填剤に保持された糖鎖を溶出溶剤中に溶出させる。糖鎖を溶出させる工程を、溶出工程と呼ぶ。
溶出溶媒は充填剤に保持された糖鎖を溶出させることができれば他に制限はないが、通常は、糖鎖保持カラムの充填剤に応じて選択することが望ましい。具体例としては、糖鎖保持カラムの充填剤としてグラファイトカーボン等のカーボン系充填剤やスチレンジビニルベンゼン等のポリスチレン系充填剤などを用いた場合は、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類や、アセトン、アセトニトリル等の水溶性溶媒などが挙げられる。さらに、これらの溶出溶媒は、水または緩衝液との混合液等、他の液体中に溶出溶媒を含む溶液として通液しても良い。また、充填剤としてセルロースを用いた場合は、緩衝液、または緩衝液/エタノール混合液など緩衝液を含む溶液が挙げられる。なお、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0047】
さらに、溶出溶媒の通液量は、糖鎖保持カラムの体積の通常1倍以上、好ましくは2倍以上、より好ましくは3倍以上、また、通常20倍以下、好ましくは10倍以下、より好ましくは5倍以下である。
なお、ここで溶出溶媒に無水酢酸を加えるとさらにアセチル化の効果を上げることができる。加える無水酢酸の量は、溶出溶媒に対して、通常0.1体積%以上、好ましくは0.5体積%以上、より好ましくは1.0体積%以上、また、通常50体積%以下、好ましくは10体積%以下、より好ましくは5体積%以下である。
溶出した液(検体液)は、例えばエバポレータもしくは濃縮遠心器にて溶媒を留去し、糖タンパク質の糖鎖を得ることができる。
【0048】
また、上述したアセチル化工程に代えて、糖鎖保持カラムに、糖鎖を溶出させうるアセチル化反応剤を通液するアセチル化溶出工程を行なってもよい。即ち、[1]分離工程、[2]糖鎖保持工程、[3]洗浄工程を行なった後、[4′]アセチル化溶出工程を行なうようにしてもよい。これにより、アセチル基脱離糖鎖をアセチル化することと、糖鎖保持カラムから糖鎖を溶出させることとを、一つの工程で行なうことができる。
【0049】
アセチル化溶出工程で用いるアセチル化反応剤は、アセチル基脱離糖鎖をアセチル化することができ、且つ、糖鎖保持カラムに保持された糖鎖を溶出させることができるものであれば他に制限は無い。具体例としては、上述したアセチル化試薬を酢酸トリエチルアミン水溶液やアセトニトリルなどの溶出溶媒に溶解したものが挙げられる。
【0050】
特に、アセチル化試薬として無水酢酸を用いる場合には、[4′]アセチル化溶出工程を行なう利点が顕著である。即ち、上記[4]アセチル化工程を行なうときには、無水酢酸のようにpHの変化によって加水分解するものをアセチル化試薬として用いる場合、アセチル化反応液中に緩衝剤を共存させてpHをコントロールすることが望ましくなる。しかし、[4′]アセチル化溶出工程では、糖鎖の溶出と同じ工程でアセチル化を行なうため、アセチル化試薬を溶出溶媒(アセトニトリル)に溶解させることができる。無水酢酸はアセトニトリル中で安定なので、例えばアセチル化反応によって酢酸が生成してpHが変化しても、無水酢酸は容易には加水分解されない。したがって、無水酢酸を用いた場合に緩衝剤を用いなくてもアセチル化を確実に行なうことができるとともに、反応剤洗浄工程が不要となり、アセチル基脱離糖鎖のアセチル化することと、糖鎖保持カラムからの糖鎖を溶出させることとを、一つの工程で行なうことができる。
【0051】
以上のように、本発明の糖鎖分離方法によれば、加熱に要する時間が不要となり、従来よりも短時間で糖鎖を得ることができる。また、糖鎖保持カラムを用いてヒドラジン分解液から糖鎖を分離するため、操作が容易になり、効率的に糖鎖の分離を行なうことができる。
また、単一の糖鎖保持カラムを用いて、一連の流れの中でアセチル基脱離糖鎖のアセチル化を行なうため、従来よりも操作を簡単にすることができ、また、アセチル化に要する時間を短縮することができる。さらに、アセチル化反応剤を除去する反応剤洗浄工程も従来よりも短時間で行なうことが可能となる。
【0052】
II.液体クロマトグラフィーによる分析
次に、本発明の検体分析方法(糖鎖分析方法)を用いた検体の分析について説明する。ここでは、検体として上記分離方法にて取得した糖タンパク質の糖鎖を分析する場合を例として説明するが、検体について制限は無く、任意の単体及び化合物を検体とすることができる。
また、検体は通常、適当な溶媒中に溶解または分散した検体液とされて分析される。ここで、検体を溶解または分散させる溶媒に制限は無く、検体の種類等に応じて任意の溶媒を用いることができるが、検体が糖鎖である場合には、水、緩衝液などが挙げられる。本実施形態では、溶媒として水を用いることとし、したがって、検体液として糖鎖の水溶液を用いることとして説明する。また、検体は使用する検出器12,16等に応じて標識されていてもよい。
【0053】
1.分析装置
図1は、本発明の一実施形態としての検体分析方法に用いる分析装置(液体クロマトグラフィー装置)の要部を示すブロック図である。このクロマトグラフィー装置は、順相液体クロマトグラフィー部(以下適宜、「順相HPLC部」という)1、逆相液体クロマトグラフィー部(以下適宜、「逆相HPLC部」という)2、イオン交換カラム3、再生液供給部4、置換液供給部5、溶出液供給部6、バルブスイッチング(移動相切替部)7、バルブスイッチング8、及び制御部100を備えている。
【0054】
順相HPLC部1は、順相HPLCにより検体の分離を行なうように構成されており、移動相供給部9、オートインジェクタ10、順相カラム11、及び、検出器12を備えている。
移動相供給部9は、順相カラム11に向けて移動相を供給する部分であり、複数(ここでは2個)の移動相貯蔵部9Aと、それぞれの移動相貯蔵部9Aに接続されたグラジエントポンプ9Bとを備えている。
【0055】
移動相貯蔵部9Aには、順相HPLCの移動相となる液体(以下適宜、「順相溶離液」という)が貯蔵されていて、各移動相貯蔵部9Aに貯蔵された順相溶離液の極性は異なるようになっている。ここで、順相溶離液の種類に特に制限は無く、公知のものを任意に使用することができる。具体例としては、アセトニトリル、アセトン、クロロホルム、トルエン、ベンゼン、ヘキサンなどが挙げられる。なお、順相溶離液は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。さらに、各移動相貯蔵部9A内の順相溶離液は、例えば水溶液として用いるなど、任意の液体と混合又は溶解して用いてもよい。ここでは、順相溶離液として、それぞれ濃度の異なるアセトニトリル水溶液を用いるものとして説明する。
【0056】
グラジエントポンプ9Bは移動相貯蔵部9A内の順相溶離液を順相カラム11に向けて送出するものであり、移動相貯蔵部9Aそれぞれの下流に接続されている。さらに、各グラジエントポンプ9Bは制御部100により稼動を制御されるようになっている。なお、図1において、グラジエントポンプ9Bと制御部100との接続は途中を省略し、符号cで示す鎖線矢印はすべて制御部100による制御を表わすものとする。また、図1において、他の構成要素に対する制御部100の制御も同様に符号cで示す鎖線矢印で示すものとする。
【0057】
上記のように、グラジエントポンプ9Bは、制御部100の制御にしたがって順相溶離液の送出量を変化させるように構成されている。したがって、移動相供給部9では、移動相貯蔵部9Aに貯蔵された、それぞれ異なる極性を有する順相溶離液の送出割合を、グラジエントポンプ9Bそれぞれの送出量を変化させることで調整し、順相カラム11を通液する順相溶離液の極性を制御するようになっている。
なお、グラジエントポンプ9B、及び、後述するグラジエントポンプ13Bは、高圧、低圧いずれのタイプも用いられるが、高圧グラジエントポンプは効果的に溶媒を混合できる面で優れるため好ましい。
【0058】
オートインジェクタ10は、順相カラム11に検体液を自動的に注入する機器であり、移動相供給部9の下流側、且つ、順相カラム11の上流側に設置されている。したがって、オートインジェクタ10から注入された検体液は、順相カラム11の上流側で、移動相供給部9から送出された順相溶離液と混合されて順相カラム11に流入するようになっている。さらに、オートインジェクタ10は制御部100と接続され、制御部100により稼動を制御されるようになっている。
【0059】
順相カラム11は、流入した検体液中の検体を順相HPLCにより分離するためのカラムであり、移動相供給部9から送出された順相溶離液と、オートインジェクタ10により注入される検体液とが流入するよう、オートインジェクタ10の下流側に接続されている。なお、以下の説明において、順相カラム11から流出する液体、即ち、順相カラム11内で順相HPLCにより分離された後の検体を含む溶出液を、第1溶出液と呼ぶ。
【0060】
順相カラム11に充填される充填剤は、通常は移動相である順相溶離液よりも高い極性を有する充填剤であり、その具体的な種類は分析の目的に応じて適宜選択することができる。順相カラム11の例としては、アミノ基カラム、シアノ基カラム、ジオール基カラム、アミド基カラム等が挙げられる。特に、糖鎖を検体とした分析を行なう際には、糖鎖分離能の観点から、アミド基カラムが好ましい。具体的な順相カラムとしては、例えば東ソー製Amide−80カラムや昭和電工製Shodex Asahipak NH2P−50が挙げられる。
【0061】
検出器12は、任意の手法によって順相カラム11から流出する第1溶出液中の検体を検出する機器であり、順相カラム11の下流に接続されている。その種類に特に制限は無いが、順相HPLCに好適な具体例としては、紫外線吸収検出器、蛍光検出器、示差屈折率検出器糖が用いられる。なかでも、糖鎖を感度よく検出するためには、蛍光検出器が好ましい。なお、本実施形態では蛍光検出器を検出器12として用いるものとする。
【0062】
次に、逆相HPLC部2について説明する。逆相HPLC部2は逆相HPLCにより検体の分離を行なうように構成されており、イオン交換カラム3の下流に接続されている。さらに、逆相HPLC部2は移動相供給部13、バルブスイッチング14、逆相カラム15、及び検出器16を備えている。
【0063】
移動相供給部13は、移動相供給部9と同様に、極性を変えながら逆相カラム15に向けて移動相を供給する部分であり、複数(ここでは2個)の移動相貯蔵部13Aと、それぞれの移動相貯蔵部13Aに接続されたグラジエントポンプ13Bとを備えている。
【0064】
移動相貯蔵部13Aには、逆相HPLCの移動相となる液体(以下適宜、「逆相溶離液」という)が貯蔵されていて、各移動相貯蔵部13Aに貯蔵された逆相溶離液の極性は異なるようになっている。ここで、逆相溶離液の種類に特に制限は無く、公知のものを任意に使用することができる。具体例としては、酢酸アンモニウム水溶液、酢酸ナトリウム水溶液、リン酸ナトリウム水溶液などの緩衝液と、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アセトニトリルなどとの混合液が挙げられる。なお、逆相溶離液は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。さらに、各移動相貯蔵部13A内の順相溶離液は、任意の液体と混合又は溶解して用いてもよい。ここでは、逆相溶離液として、アンモニウムアセテート及びブタノールの水溶液を用いるものとして説明する。
【0065】
グラジエントポンプ13Bは移動相貯蔵部13A内の逆相溶離液を逆相カラム15に向けて送出するものであり、移動相貯蔵部13Aそれぞれの下流に接続されている。さらに、各グラジエントポンプ13Bは制御部100と接続され、制御部100により稼動を制御されるようになっている。
【0066】
上記のように、グラジエントポンプ13Bは、制御部100の制御にしたがって逆相溶離液の送出量を変化させるように構成されている。したがって、移動相供給部13では、それぞれ異なる極性を有する逆相溶離液の送出割合を、グラジエントポンプ13Bそれぞれの送出量を変化させることで調整し、逆相カラム15を通液する移動相の極性を制御するようになっている。
【0067】
バルブスイッチング14は、イオン交換カラム3の下流、且つ、移動相供給部13の下流に接続された送液経路の切替器である。また、バルブスイッチング14は、制御部100に接続され、制御部100の制御に応じて流入した液体の流出先を切り替えるように構成されている。さらに、バルブスイッチング14の流出側は逆相カラム15と、装置外部へ通じる図示しない廃液排出口とに接続されている。したがって、バルブスイッチング14は、制御部100の制御に従って、イオン交換カラム3から流入する液体と、移動相供給部13から流入する逆相溶離液とを、装置外部と逆相カラム15とのいずれかに送出するという切り替えを行なうように構成されている。
【0068】
なお、バルブスイッチング14及び、バルブスイッチング7,8はそれぞれ溶媒、溶出液、洗浄液の送液経路を切り替える装置であれば特に制限はなく任意のものを用いることができるが、本実施形態のように、コンピューター制御により自動的に送液経路が切り替えられるものが、省力化、高速化を目的とする上では好ましい。
【0069】
逆相カラム15は、イオン交換カラム3から流出する検体を含んだ溶出液(以下適宜、「第2溶出液」という)中の検体を逆相HPLCにより分離するためのカラムであり、バルブスイッチング14を経てイオン交換カラム3から送出された第2溶出液が流入するように、バルブスイッチング14の下流に接続されている。
【0070】
逆相カラム15に充填される充填剤は、通常は移動相である逆相溶離液よりも低い極性を有する充填剤であり、その具体的な種類は分析の目的に応じて適宜選択することができる。逆相カラム15の例としては、オクタデシル基カラム、オクチル基カラム、ブチル基カラム、フェニル基カラム、C30カラム等が挙げられる。特に、糖鎖を検体とした分析を行なう際には、糖鎖分離能の観点から、オクタデシル基カラム、C30カラムが好ましい。逆相カラムの具体例としては、例えば島津製作所製Shim−pack CLC−ODSやナカライテスク製Cosmosil 5C18−Pが挙げられる。
【0071】
検出器16は、任意の手法によって逆相カラム15から流出する液体(以下適宜、「第3溶出液」という)中の検体を検出する機器であり、逆相カラム15の下流に接続されている。その種類に特に制限は無いが、逆相HPLCに好適な具体例としては、紫外線吸収検出器、蛍光検出器、示差屈折率検出器、質量分析装置等が用いられる。なかでも、糖鎖を感度よく検出するためには、蛍光検出器、質量分析装置が好ましい。なお、本実施形態では蛍光検出器を検出器16として用いるものとする。
また、検出器16の下流側は、図示しない廃液排出口に接続されている。
【0072】
イオン交換カラム3は、第1溶出液を通液させて、それに含まれる検体を吸着させるものである。即ち、イオン交換カラム3にとって、第1溶出液の溶媒である順相溶離液は、イオン交換カラム3に吸着した検体を溶出させない移動相であり、したがって、第1溶出液をイオン交換カラム3に通液させると、検体は吸着されるが、順相溶離液はそのままイオン交換カラム3の外に流出するようになっている。
【0073】
また、イオン交換カラム3は、順相HPLC部1から送出された第1溶出液が流入するように設置されている。具体的には、順相HPLC部1よりも下流側、即ち、検出器12よりも下流側に、後述するバルブスイッチング7を介して接続されている。さらに、イオン交換カラム3の下流側には、逆相HPLC部2のバルブスイッチング14が接続されていて、イオン交換カラム3から流出した第2溶出液が逆相HPLC部2に流入するように構成されている。なお、イオン交換カラム3は、分析効率を高めるため、ここでは並列に複数本(本実施形態では、5本)設けられている。なお、イオン交換カラム3は1本のみで形成してもよく、また、複数本を直列につないでも良い。
【0074】
イオン交換カラム3はアニオン交換カラム及びカチオン交換カラムの何れであっても良いが、検体の種類や分析の目的などに応じて選択することが望ましい。また、イオン交換カラム3に用いるイオン交換樹脂に制限は無く任意のイオン交換樹脂を用いることができる。例えば、アニオン交換カラムに用いるイオン交換樹脂としては、4級アンモニウム基等を有する強塩基性アニオン交換樹脂、ジエチルアミノエチル基等を有する弱塩基性アニオン交換樹脂などが挙げられる。また、例えば、カチオン交換カラムにイオン交換樹脂としては、スルホプロピル基等を有する強酸性カチオン交換樹脂、カルボキシメチル基等を有する弱酸性カチオン交換樹脂などが挙げられる。このうち、検体として糖鎖を分析する場合には、強酸性カチオン交換樹脂を使用することが好ましい。本実施形態では、イオン交換カラム3として、カチオン交換カラムを用いるものとして説明する。
また、検体として糖鎖を分析する場合、イオン交換樹脂の交換容量は、通常0.1meq/g(即ち、0.1×10-3当量/g)以上のものが好ましい。
【0075】
バルブスイッチング7はイオン交換カラム3に通液する流体(本実施形態では、第1溶出液、再生液、置換液、吸着検体溶出液)を切り替える移動相切替部として機能する送出経路の切替器であり、上記のように、順相HPLC部1の下流側、且つ、イオン交換カラム3の上流側に接続されている。また、バルブスイッチング7は制御部100に接続されて、制御部100の制御に応じて流入した液体の流出先を切り替えるように構成されている。
【0076】
バルブスイッチング7の流入側には、順相HPLC部1(詳しくは、検出器12)に加え、後述するバルブスイッチング8が接続されている。なお、バルブスイッチング8の上流には再生液供給部4、置換液供給部5、及び溶出液供給部6が接続されている。
また、バルブスイッチング7の流出側はイオン交換カラム3に加え、装置外部へ通じる図示しない廃液排出口に接続されている。したがって、バルブスイッチング7は、制御部100の制御に従って、順相HPLC部1から流入する第1溶出液、並びに、バルブスイッチング8を経て流入する再生液供給部4からの再生液、置換液供給部5からの置換液、及び溶出液供給部6からの吸着検体溶出液を、装置外部とイオン交換カラム3とのいずれかに送出する切り替えを行なうように構成されている。
【0077】
具体的には、順相HPCL部1からの第1溶出液、即ち、順相溶離液を含む第1溶出液と、再生液供給部4からの再生液と、置換液供給部5からの置換液と、溶出液供給部6からの吸着検体溶出液とを切り替える。ここで、第1溶出液中の順相溶離液は、イオン交換カラム3にとって、吸着した検体を溶出させない移動相である。また、溶出液供給部6からの吸着検体溶出液は、イオン交換カラム3にとって、吸着した検体を溶離させる移動相である。したがって、バルブスイッチング7は、イオン交換カラム3の移動相を、イオン交換カラム3に吸着した検体を溶出させる移動相と溶出させない移動相との間で切り替える移動相切替部として機能する。
【0078】
バルブスイッチング8は、上記のように、再生液供給部4、置換液供給部5、及び溶出液供給部6の下流側、且つ、バルブスイッチング7の上流側に接続された送液経路の切替器である。また、バルブスイッチング8は、制御部100に接続されて制御部100の制御に応じて流出させる液体の切り替えを行なうように構成されている。したがって、バルブスイッチング8は、制御部100の制御に従って、再生液供給部4、置換液供給部5、及び溶出液供給部6から流入する再生液、置換液、及び吸着検体溶出液のうちのいずれかをバルブスイッチング7に送り出すよう、送液経路切り替えを行なうように構成されている。
【0079】
再生液供給部4は、イオン交換カラム3内のイオン交換樹脂を再生させる再生液を供給する部分であり、再生液貯蔵部4Aと、ポンプ4Bとを備えている。再生液はイオン交換カラム3に応じて任意のものを用いることができる。例えば、酢酸水溶液、ギ酸水溶液、弱塩酸水溶液などを用いることができる。ここでは再生液として、酢酸水溶液を用いるとして説明する。
【0080】
再生液貯蔵部4Aには、再生液である酢酸水溶液が貯蔵されている。
また、ポンプ4Bは再生液貯蔵部4A内の酢酸水溶液をバルブスイッチング8に送出するように形成されていて、再生液貯蔵部4Aの下流に接続されている。さらに、ポンプ4Bは制御部100と接続され、制御部100により稼動を制御されるようになっている。なお、ポンプ4B、及び、後述するポンプ5B,6Bとしては、ダブルブランジャータイプやシングルブランジャータイプ等が用いられるが、ダブルブランジャータイプは安定した流速を得る面で優れるため好ましい。
【0081】
置換液供給部5は、イオン交換カラム3内のイオン交換樹脂を再生させた後や、イオン交換カラム3に第1溶出液を通液した後に、イオン交換カラム3内に残留した再生液や順相溶離液を除去する置換液を供給するものとして形成されており、置換液貯蔵部5Aと、ポンプ5Bとを備えている。置換液はイオン交換カラム3に応じて任意のものを用いることができる。例えば、脱塩水、純水、蒸留水などが挙げられ、検体として糖鎖を用いる場合には、不純物混合防止の観点から、純水、蒸留水が好ましい。ここでは置換液として、水を用いるとして説明する。
【0082】
置換液貯蔵部5Aには、置換液である水が貯蔵されている。
また、ポンプ5Bは置換液貯蔵部5A内の水をバルブスイッチング8に送出するものであり、置換液貯蔵部5Aの下流に接続されている。さらに、ポンプ5Bは制御部100と接続され、制御部100により稼動を制御されるようになっている。
【0083】
溶出液供給部6は、後述するようにイオン交換カラム3内に吸着された検体を溶出させる溶出液である吸着検体溶出液を供給する部分であり、溶出液貯蔵部6Aと、ポンプ6Bとを備えている。吸着検体溶出液はイオン交換カラム3や検体等に応じて任意のものを用いることができる。検体が糖鎖である場合の吸着検体溶出液としては、例えば、高濃度塩溶媒を用いることができる。なお、高濃度塩溶媒は、糖鎖を溶出させることができるものであれば公知のものを任意に用いることができる。また、この高濃度塩溶媒に溶解している塩の具体例としては、酢酸アンモニウム塩、酢酸トリエチルアミン塩、酢酸ナトリウム塩、リン酸ナトリウム塩、リン酸水素ナトリウム塩、リン酸アンモニウム塩、リン酸水素アンモニウム塩等が挙げられる。さらに、高濃度塩溶媒の濃度は、通常0.001M以上、好ましくは0.1M以上、また、通常1M以下、好ましくは0.5M以下である。本実施形態では、吸着検体溶出液として酢酸アンモニウム水溶液を用いるものとして説明する。
【0084】
溶出液貯蔵部6Aには、吸着検体溶出液である酢酸アンモニウム水溶液が貯蔵されている。
また、ポンプ6Bは溶出液貯蔵部6A内の酢酸アンモニウム水溶液をバルブスイッチング8に送出するものであり、溶出液貯蔵部6Aの下流に接続されている。さらに、ポンプ6Bは制御部100と接続され、制御部100により稼動を制御されるようになっている。
【0085】
2.分析方法
次に、上述した分析装置を用いた分析方法を説明する。なお、次に説明する前処理工程以外の各工程は、制御部100の制御によって自動的に行なわれる。さらに、以下の説明においては各工程は順次行なうように説明するが、各工程は適宜、連続的に行なうようにしてもよい。
【0086】
<前処理工程>
まず、必要に応じて検体液中の検体を標識する。本実施形態では糖タンパク質の糖鎖を検体としており、また、検出器12,16として蛍光検出器を用いているので、蛍光用の標識試薬で標識を行なう。用いる試薬に特に制限は無いが、例えば、2−アミノピリジン、2−アミノベンズアミド、3−アミノキノン、4−アミノ安息香酸ブチル、4−トリメチルアンモニウムアニリン、1−フェニル−3−メチル−5−ピラゾロン等の誘導体化試薬を蛍光用の標識試薬として用いることができる。
【0087】
標識の具体的手法の一例を挙げると、標識試薬として2−アミノピリジンを用いた場合、2−アミノピリジンと酢酸との混合溶液を検体である糖鎖に対し過剰量加え、90℃で1時間加熱する。その後、還元剤を酢酸・水溶液を糖鎖に対して過剰量加え、さらに80℃で30分加熱して反応させる。この際用いる還元剤はジメチルアミンボロン、シアノトリヒドロホウ酸ナトリウム等が好ましいが、特に限定しない。反応後にはフェノール/クロロホルム(1:1)混合液及び水を加え、よく攪拌後、水相をとりだして乾固し、標識糖鎖を得る。
【0088】
<HPLC準備工程>
続いて、イオン交換カラム3の再生を行なう。
まず、制御部100はバルブスイッチング7,8を切り替え、再生液供給部4とイオン交換カラム3とを連通させるとともに、再生液供給部4内のポンプ4Bを稼動させる。これにより、再生液供給部4Aから各イオン交換カラム3に酢酸水溶液が送られる。イオン交換カラム3に酢酸水溶液が通液すると、イオン交換カラム3は水素型に変換される。
また、制御部100はバルブスイッチング14を切り替え、イオン交換カラム3と排出口とを連通させる。これにより、イオン交換カラム3から流出した酢酸水溶液は、バルブスイッチング14を経て排出口から排出される。
【0089】
次に、制御部100はバルブスイッチング8を切り替え、置換液供給部5とイオン交換カラム3とを連通させるとともに、置換液供給部5内のポンプ5Bを稼動させる。さらに、バルブスイッチング8の切り替えに伴い、ポンプ4Bは停止させる。
これにより、置換液供給部5Aから各イオン交換カラム3に水が送られる。イオン交換カラム3に水が通液すると、イオン交換カラム3内は水によって置換され、イオン交換カラム3に残留していた酢酸水溶液はイオン交換カラム3から除去される。また、イオン交換カラム3から流出した酢酸水溶液及び水は、バルブスイッチング14を経て排出口から排出される。
再生が完了したら、制御部100はポンプ5Bを停止させる。
【0090】
<第1分離工程>
次に、第1分離工程において、以下のようにして検体液を順相カラム1に通液させ、順相HPLCにより糖鎖の分離を行ない、糖鎖の分析をする。
まず、制御部100はバルブスイッチング7を切り替えて、順相HPLC部1と廃液排出口とを連通させる。次いで、オートインジェクタ10を制御して、オートインジェクタ10から検体液を注入する。注入された検体液は順相カラム11に流入し、検体液内の糖鎖は順相カラム11の入り口に留まる。検出液の溶媒である水は、バルブスイッチング7を経て排出口から排出される。
【0091】
検体液の注入後、所定時間が経過したら、制御部100は、バルブスイッチング7を制御して順相HPLC部1とイオン交換カラム3とを連通させるとともに、グラジエントポンプ9Bそれぞれを稼動させ、移動相供給部9から順相カラム11への順相溶離液の送液を開始する。また、バルブスイッチング14を制御してイオン交換カラム3と排出口とを連通させる。
これにより、順相カラム11の入り口に留まっていた糖鎖は、順相溶離液とともに順相カラム11内を通る。この際、制御部100はグラジエントポンプ9Bそれぞれの送液量を調整して、順相溶離液の極性を所定の勾配で変化させながら、送液を行なう。
【0092】
糖鎖は順相カラム11内で順相HPLCにより分離され、その極性に応じて順相溶離液とともに順相カラム11の出口から流出し、検出器12を通液する。ここで、順相カラム11から流出した、順相溶離液中に糖鎖を含む液体が第1溶出液である。
第1溶出液が検出器12を通液する際、検出器12は糖鎖を蛍光によって検出し、これにより、順相HPLCによる分析が行なわれる。また、検出器12による測定値は、例えば、検出器16による測定値と合わせて2次元分析を行ない、予め構造を決定している標品糖鎖の液体クロマトグラフィー保持時間(LC保持時間)と比較して糖鎖を特定するのに用いられる。
検出器12を通液後、第1溶出液はバルブスイッチング7を経てイオン交換カラム3に流入することになる。
【0093】
<検体吸着工程>
続いて、検体吸着工程を行なうが、通常、この検体吸着工程は上記第1分離工程と連続して行なわれる。
第1分離工程で分離された糖鎖を含む第1溶出液は、上述したように、イオン交換カラム3に流入する。一般に検体は、正に帯電している場合にはカチオン交換カラムに吸着し、負に帯電している場合にはアニオン交換カラムに吸着する。本実施形態のように糖鎖を2−アミノピリジンで標識した場合は糖鎖が正に帯電しているため、イオン交換カラム3に第1溶出液が流入すると、第1溶出液中の糖鎖はカチオン交換カラムであるイオン交換カラム3に吸着する。また、イオン交換カラム3に流入した第1溶出液の順相溶離液は、バルブスイッチング14を経て排出口から排出される。
【0094】
<イオン交換カラム洗浄工程>
次に、制御部100はバルブスイッチング7,8を切り替え、置換液供給部5とイオン交換カラム3とを連通させるとともに、ポンプ5Bを稼動させる。また、バルブスイッチング7の切り替えに伴い、制御部100はグラジエントポンプ9Bを停止させる。
これにより、置換液供給部5Aから各イオン交換カラム3に水が送られる。イオン交換カラム3に水が通液すると、イオン交換カラム3内は水によって置換され、イオン交換カラム3に残留していた順相溶離液はイオン交換カラム3から除去される。一方、糖鎖は、イオン交換カラム3に吸着した状態を維持する。
また、イオン交換カラム3から流出した酢酸水溶液及び水は、バルブスイッチング14を経て排出口から排出される。
【0095】
<第2分離工程>
次に、第2分離工程において、以下のようにしてイオン交換カラム3から糖鎖を溶出させ、得られた第2溶出液を逆相カラム15に通液させ、逆相HPLCにより糖鎖の分離を行ない、糖鎖の分析をする。
【0096】
まず、制御部100はバルブスイッチング8を切り替えて溶出液供給部6とイオン交換カラム3とを連通させるとともに、バルブスイッチング14を切り替えてイオン交換カラム3と逆相カラム15とを連通させる。また、バルブスイッチング7の切り替えに伴い、ポンプ5Bを停止させる。次いで、制御部100は、ポンプ6Bを制御して溶出液貯蔵部6A内の酢酸アンモニウム水溶液をイオン交換カラム3に送出する。
【0097】
これにより、イオン交換カラム3に吸着していた糖鎖は酢酸アンモニウム水溶液によって溶出される。この際、イオン交換カラム3から溶出した、酢酸アンモニウム水溶液中に糖鎖を含む液体が第2溶出液である。第2溶出液は、バルブスイッチング14を経て逆相カラム15に流入し、第2溶出液内の糖鎖は逆相カラム15の入り口に留まり、溶媒である酢酸アンモニウム水溶液は廃液排出口から排出される。
【0098】
次いで、制御部100はバルブスイッチング14を切り替えて、移動相供給部13と逆相カラム15とを連通させるとともに、グラジエントポンプ13Bそれぞれを稼動させ、移動相供給部13から逆相カラム15への逆相溶離液の送液を開始する。また、バルブスイッチング14の切り替えに伴い、ポンプ6Bを停止させる。
これにより、逆相カラム15の入り口に留まっていた糖鎖は、逆相溶離液とともに逆相カラム15内を通る。この際、制御部100はグラジエントポンプ13Bそれぞれの送液量を調整して、逆相溶離液の極性を所定の勾配で変化させながら、送液を行なう。
【0099】
糖鎖は逆相カラム15内で逆相HPLCにより分離され、その極性に応じて逆相溶離液とともに逆相カラム15の出口から流出し、検出器16を通液する。このとき、逆相カラム15から流出した、逆相溶離液中に糖鎖を含む液体を第3溶出液という。
第3溶出液が検出器16を通液する際、検出器16は糖鎖を蛍光によって検出し、これにより、逆相HPLCによる分析が行なわれる。また、検出器16による測定値は、第1分離工程で説明したように、検出器12による測定値と合わせて2次元分析を行ない、予め構造を決定している標品糖鎖の液体クロマトグラフィー保持時間(LC保持時間)と比較して糖鎖を特定するのに用いられる。
なお、検出器16を通液した第3溶出液は、廃液排出口から排出される。
【0100】
以上、説明したように、本発明の検体分析方法及び液体クロマトグラフィー装置によれば、糖鎖その他の検体を短時間で効率的に分析することができる。即ち、検体を順相HPLC及び逆相HPLCを用いて分離しようとすると、従来は順相HPLCを行なった後で一度検体を第1溶出液から取り出してから逆相HPLCを行なっていたため、分析操作に多くの手間を要していた。ところが、本発明によれば、検体を液体の流れの中で操作するため、短時間で簡単に分離をすることができる。
【0101】
また、順相HPLC部1と逆相HPLC部2とをイオン交換カラム3を介してオンラインで接続したため、制御部100を用いて分析に要する工程を自動化することができ、省力化、高速化が可能となる。
【0102】
<その他>
以上、本発明の一実施形態としての糖鎖分離方法並びに検体分析方法、糖鎖分析方法、及び液体クロマトグラフィー装置を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、任意に変形して実施することができる。
例えば、上記順相HPLC部1と逆相HPLC部2との順を逆にしてもよい。即ち、検体が、逆相HPLC部2、イオン交換カラム3、順相HPLC部1という順に流れるように構成してもよい。即ち、まず検体液を逆相HPLC部2に通液して逆相HPLCで検体を分離後、逆相HPLC部2で分離された検体を含む第1溶出液をイオン交換カラム3に通液させて吸着させ、イオン交換カラム3から検体を溶出させ、得られた検体を含む第2溶出液を順相HPLC部1に通液して順相HPLCで分離させるようにしてもよい。これによっても、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0103】
また、上記液体クロマトグラフィー装置及び検体分析方法によれば、糖鎖以外の検体を分離し、分析することも可能である。分析の対象となる検体は、順相及び逆相HPLCにより分離でき、帯電性を有する単体及び化合物が該当する。検体自身がイオン性のものの例としては、シアル酸、アミノ糖などを含む糖鎖や、たんぱく質、ペプチド、アミノ酸等が挙げられる。
【0104】
さらに、検体それ自体は帯電性を有していなくとも、上記実施形態の標識試薬のように、帯電しうる化合物と反応や相互作用して帯電性を有したものも検体として用いることができる。ここで、正に帯電しうる化合物としては、例えば2−アミノピリジン、2−アミノベンズアミド、3−アミノキノン、4−アミノ安息香酸ブチル、4−トリメチルアンモニウムアニリン、1−フェニル−3−メチル−5−ピラゾロンなどが挙げられる。また、負に帯電しうる化合物としては、例えば8−アミノナフタレン−1,3,6−トリスルホン酸、8−アミノピレン−1,3,6−トリスルフォン酸などが挙げられる。なかでも、検体として糖鎖を分析対象とする場合には、2−アミノピリジン、2−アミノベンズアミドにより誘導化された糖鎖に用いるのが好ましい。
【0105】
また、バルブスイッチング7,8,14は、それぞれ送液経路を振り分ける目的で、複数組み合わせて使用することもできる(図3のバルブスイッチング7,17,18参照)。
また、上記実施形態では分析対象である糖鎖を、本発明の糖鎖分離方法により取得したものを用いるとして説明したが、酵素処理法など、別の方法で糖鎖を取得するようにしてもよい。ただし、安全性、省力、高速等の観点より、本発明の糖鎖分離方法を用いて糖鎖を得るようにすることが好ましい。
【0106】
また、上述した糖鎖分析方法を行なうため、オートインジェクタ10の上流に、「I.糖たんぱく質の糖鎖の分離」に用いる糖鎖保持カラムを接続してもよい。その場合に用いる糖鎖分析装置の要部構成を、図2にブロック図として示す。なお、図2において図1と同じ符号で示す部分は、同様のものを示す。
【0107】
図2の構成では、オートインジェクタ10の上流に、糖鎖を保持し得る充填剤を充填した糖鎖保持カラム20と、糖鎖保持カラム20とオートインジェクタ10との間に設けられた標識部21とが接続されているほかは、図1を用いて説明した分析装置と同様の構成となっている。
【0108】
糖鎖保持カラム20は、上記「I.糖たんぱく質の糖鎖の分離」で説明した糖鎖の分離を行なうためのカラムであり、下流側に図示しない切り替え弁付の排出口を有している。したがって、糖鎖保持カラム20から溶出する糖鎖を含んだ検体液は標識部21を経てオートインジェクタ10に流入し、糖鎖保持カラム20から流出する検体液以外の液体は図示しない排出口から排出されるように構成されている。なおここでは、検体液及び検体液以外の液体の切り替えは、上記切り替え弁で行なうものとする。
また、標識部21は検体液中の検体の標識を行なう部分である。ここでは、蛍光用の標識試薬を検体液と混合する部分である。
【0109】
このような糖鎖分析装置を用いれば、糖鎖の分離及び分析を短時間で効率的に行なうことが可能となる。
さらに、糖鎖保持カラム20の上流に、糖鎖保持工程においてヒドラジン分解液を糖鎖保持カラム20に導入するヒドラジン分解液導入部、洗浄工程において洗浄溶媒を糖鎖保持カラム20に導入する洗浄溶媒導入部、アセチル化工程においてアセチル化反応剤を糖鎖保持カラム20に導入するアセチル化反応剤導入部、反応剤洗浄工程において脱塩剤を糖鎖保持カラム20に導入する脱塩剤導入部、糖鎖保持カラム20から溶出させる溶出溶媒を導入する溶出溶液導入部、アセチル化溶出工程において糖鎖を溶出させうるアセチル化反応剤を糖鎖保持カラム20に導入するアセチル化溶出液導入部などを設け、「I.糖たんぱく質の糖鎖の分離」で説明した各工程をそれぞれ自動化してもよい。
【実施例】
【0110】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0111】
I.糖タンパク質からの糖鎖の分離
[実施例1]
分解工程として、試料であるマウスの腎臓アセトン沈殿物2mgに、ヒドラジン200μLを加え、95℃、10時間加熱し、糖タンパク質のヒドラジン分解液とした。
その後、糖鎖保持工程として、洗浄溶媒として50mM酢酸アンモニウム水溶液(以下α液)を2mL添加してよく混合し、α液と混合したヒドラジン分解液をグラファイトカーボンカラム(GLサイエンス製 300mg)に通液した。
さらに洗浄工程として、洗浄溶媒であるα液10mLをカラムに通液して、ヒドラジンをカラムから完全に溶出させた。
【0112】
次に、アセチル化工程として、アセチル化反応剤として無水酢酸を1体積%含む0.5Mトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液(pH=7)20mLをカラムに通液した。
その後、反応剤洗浄工程として、さらに洗浄溶媒であるα液5mLをカラムに通液し、反応残液を溶出させた。
【0113】
続いて、アセトニトリル:α液(体積比6:4)混合液に1体積%の無水酢酸を加えた溶出溶液5mLをカラムに通液し、未反応糖鎖を完全にアセチル化するとともに糖鎖をカラムから溶出させた。
【0114】
次に、エバポレータで溶媒を留去したあと、2−アミノピリジン552mgを酢酸200μLに溶解した溶液を20μL加え、ヒートブロックにて90℃60分加熱した。次に、ジメチルアミンボラン200mgを酢酸80μLと水50μLとの混合液に溶解させた溶液70μLを加えて80℃、35分間加熱した。反応後に水180μL、水飽和フェノール/クロロホルム(重量比1/1)溶液90μLを加え、よく混合後下層を取り除いた。この操作を計3回繰り返した後、クロロホルムを90μL加えて同様によく混合して下層を除いた。なお、この操作をピリジルアミノ化という。
【0115】
上層は凍結乾燥後、水25μL、0.5M酢酸アンモニウム水溶液(pH=5)3μL、ノイラミニダーゼ水溶液2μL(ナカライ製)を加えて37℃1時間反応させ、シアル酸を糖鎖より遊離させた。なお、この操作をシアリダーゼ処理という。
【0116】
次に、カートリッジフィルターにてろ過した後、ろ液を順相液体クロマトグラフィーで10フラクションに分取し、それぞれのフラクションを逆相クロマトグラフィーにて分析した。順相および逆相HPLCの条件をそれぞれ表1,2に示す。なお、表1,2のA液及びB液は、それぞれ移動相を構成する液体であり、これらA液とB液とを混合して移動相の極性を調整するようになっていて、上記実施形態の移動相貯蔵部9A,13Aに貯蔵された順相溶離液及び逆相溶離液に該当する。また、表1,2において、「B:a%(T1分)→B:b%(T2分)」という記載は、B溶液の濃度を、(T2−T1)分間で、a%からb%まで変化させたことを意味する。ただし、T1,T2,a,bはそれぞれ実数を表わす。また、表1,2において%は体積を基準とした百分率を表わす。
【0117】
【表1】

【0118】
【表2】

【0119】
10検体を同時に実施したところヒドラジン分解後から糖鎖のアセチル化(溶出工程終了)までに要した時間は30分だった。また本法による糖鎖のアセチル化率を表3に示す。
【0120】
[実施例2]
実施例1と同様にして、分離工程及び洗浄工程を行なった。
続いて、アセチル化溶出工程として、アセトニトリル:β液(重量比6:4)混合液に2重量%の無水酢酸を加えた溶出溶液5mLをカラムに通液し、糖鎖を完全にアセチル化
するとともに糖鎖をカラムから溶出させた。ここでβ液とは、50mMの酢酸トリエチルアミン塩水溶液をいう。
【0121】
次に、エバポレータで溶媒を留去した後、実施例1と同様にして、ピリジルアミノ化、シアリダーゼ処理、順相及び逆相HPLCによる分析を行ない、糖鎖のアセチル化の反応率を測定した。
10検体を同時に実施したところヒドラジン分解後から糖鎖のアセチル化(溶出工程終了)までに要した時間は20分だった。また本法による糖鎖のアセチル化率を表3に示す。
【0122】
[比較例1]
実施例1の分解工程と同様にして、ヒドラジン分解液を調製した。
次いで、ヒドラジン分解液から真空ポンプでヒドラジンを留去し、さらに共沸効果の高いトルエンを加えてヒドラジンを完全に留去させた。
次に、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を200μL、無水酢酸8μLを加えて氷上5分間反応し、さらに飽和炭酸水素ナトリウム水溶液200μL、無水酢酸8μLを加えて氷上で30分間反応させた。
【0123】
次にイオン交換樹脂(ダウエックスX8:プロトン活性化)を約2g加え、よく撹はん後、グラスウールを詰めたパスツールピペットでろ過した。ろ液はエバポレータで水を留去した。実施例1と同様の方法でピリジルアミノ化を行ない、且つ、順相液体クロマトグラフィー、逆相液体クロマトグラフィーで分析した。
10検体につき、ヒドラジン分解後からアセチル化糖鎖を得るまでに要した時間は10時間だった。
【0124】
また、比較例1の反応率を100%としたときの実施例1,2のアセチル化の反応率を、表3に示す。表3によると、実施例1,2では比較例とほぼ同様の反応率でアセチル化糖鎖を極めて短時間で分離・取得することが出来ることが確認された。
【0125】
【表3】

【0126】
II.糖タンパク質糖鎖の分析
本実施例で用いた分析装置の概要を、図3に示す。図3に示す分析装置では、イオン交換カラム3を5本ずつのグループ2つを用い、合計10個のイオン交換カラムを用いた。また、イオン交換カラム3の上記5本ずつのグループそれぞれに対応して、上流側にバルブスイッチング17を接続し、下流側にバルブスイッチング18を接続した。バルブスイッチング17,18はそれぞれ制御部100により制御されている。以上の構成のほかは、図3に示す分析装置は図1を用いて上述した分析装置と同様の構成となっている。なお、図3において図1と同様の符号を用いて示す部分は、同様のものを表わす。
【0127】
即ち、本実施例で用いた分析装置は、順相HPLC部1(グラジエントポンプ9B、カラ11・検出器12)の下流に、バルブスイッチング7(Guilson製Valve
mate)を接続し、さらにさらにバルブスイッチング17に接続して、各バルブスイッチング17にイオン交換カラム3(昭和電工製Shodex IEC SP−825 8mmID×75mm)を5本ずつ並列に接続した。それぞれのイオン交換カラム3は再びバルブスイッチング18に集約し、さらに逆相HPLC部2内のバルブスイッチング14に集約させて、逆相カラム15に導いた。ただし、再生液である酢酸水溶液の濃度は0.5M、吸着検体溶出液である酢酸アンモニウム水溶液の濃度は0.5Mのものを用いた。
【0128】
まず、バルブスイッチング7,8を介して、ポンプ4Bにより、再生液貯蔵部4A中の0.5M酢酸水溶液を全てのイオン交換カラム3に5mL(1mL/分×5分)通液して、イオン交換カラム3を水素型に変換した。また、バルブスイッチング14,18を切り替え、イオン交換カラム3を通液した液体は、バルブスイッチング14を経て排出口から排出されるようにした。
その後、バルブスイッチング8を切り替えて、ポンプ5Bにより、置換液貯蔵部5A中の水を5mL(1mL/分×5分)通液してカラム内の酢酸溶液を水に置換した。
【0129】
次に、第1分離工程として、オートインジェクタ10から検体液を順相カラム11に注入し、検体を上記表1に示す条件によって順相HPLCで分離し、検出器12で検出した。それとともに、糖鎖吸着工程として、予め設定した時間によってバルブスイッチング7を切り替えて、順相HPLC部1から送出された第1溶出液を時間ごとに分けて10本のイオン交換カラム3それぞれに通液させた。以下適宜、10本のイオン交換カラム3について、第1溶出液を通液させた順に、1番目のイオン交換カラム、2番目のイオン交換カラム、・・・、10番目のイオン交換カラムと呼ぶこととする。
【0130】
その後、バルブスイッチング7,8を切り替えて、置換液供給部5からすべてのイオン交換カラム3に水を1mL/minの流速で5分間通液し、イオン交換カラム3内の順相溶離液を完全に水に置換した。
次に、第2分離工程として、バルブスイッチング8,18,14の切替えにより、1番目のイオン交換カラム3と逆相カラム15とを接続した。また同時に、溶出液供給部6から0.5M酢酸アンモニウム水溶液を1番目のイオン交換カラム3に5分間通液した。イオン交換カラム3に吸着していた糖鎖は、この段階で酢酸アンモニウム水溶液によって溶出され、第2溶出液として逆相カラム15に導かれた。続いてバルブスイッチング14の切り替えにより逆相用グラジエントポンプ13と逆相カラム15を接続し、逆相用溶離液を逆相カラム15に送液して、検体を分離した。
同様にして、2番目〜10番目のイオン交換カラムについても、それぞれ逆相HPLCによる分離を行なった。
【0131】
測定試料として、糖鎖であるピリジルアミノ化グルコースオリゴマー(タカラ製)を用いた結果、図4に示すように、順相HPLCにより10本のイオン交換カラム3それぞれに分取したグルコース鎖長6〜15の各糖鎖は、逆相HPLCで単一成分となって検出されることを確認した。なお、図4において、順相HPLCの各ピークに付した数字は、糖鎖のグルコース鎖長を表わす。
また、ピーク面積(回収率)は99%であった。
以上から、本発明の検体分析方法を用いれば、順相及び逆相HPLCを用いて検体の分析を確実に行なえることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0132】
本発明を用いることにより、順相液体クロマトグラフィーおよび逆相液体クロマトグラフィーを用いた2次元分析の省力化・高速化が見込まれ、糖タンパク質糖鎖の解析診断、癌、リュウマチ等の診断、バイオ医薬の品質管理、検査薬の探索等の分野において用いられる。
【符号の説明】
【0133】
1 順相HPLC部
2 逆相HPLC部
3 イオン交換カラム
4 再生液供給部
4A 再生液貯蔵部
4B,5B,6B ポンプ
5 置換液供給部
5A 置換液貯蔵部
6 溶出液供給部
6A 溶出液貯蔵部
7 バルブスイッチング(流体切替部)
8,14,17,18 バルブスイッチング
9,13 移動相供給部
9A,13A 移動相貯蔵部
9B,13B グラジエントポンプ
10 オートインジェクタ
11 順相カラム
12,16 検出器
15 逆相カラム
20 糖鎖保持カラム
21 標識部
100 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体を順相液体クロマトグラフィー及び逆相液体クロマトグラフィーのうちの一方により分離する第1分離工程と、
該第1分離工程において分離された検体を含む第1溶出液をイオン交換カラムに通液させて検体を吸着させる検体吸着工程と、
前記イオン交換カラムから検体を溶出させ、得られた検体を含む第2溶出液を順相液体クロマトグラフィー及び逆相液体クロマトグラフィーのうちの他方により分離する第2分離工程とを備えた
ことを特徴とする、検体分析方法。
【請求項2】
前記イオン交換カラムがカチオン交換カラムである
ことを特徴とする、請求項1記載の検体分析方法。
【請求項3】
前記検体が、糖タンパク質の糖鎖である
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の検体分析方法。
【請求項4】
順相液体クロマトグラフィーによる分離を行なう順相液体クロマトグラフィー部と、
逆相液体クロマトグラフィーによる分離を行なう逆相液体クロマトグラフィー部と、
イオン交換カラムとを備え、
該イオン交換カラムは、該順相液体クロマトグラフィー部及び該逆相液体クロマトグラフィー部のうちの一方から流出した第1溶出液が該イオン交換カラムに流入し、該イオン交換カラムから流出した第2溶出液が該順相液体クロマトグラフィー部及び該逆相液体クロマトグラフィー部のうちの他方に流入するよう、該順相液体クロマトグラフィー部及び該逆相液体クロマトグラフィー部の間に接続される
ことを特徴とする、液体クロマトグラフィー装置。
【請求項5】
該イオン交換カラムの移動相を、該イオン交換カラムに吸着した検体を溶出させる移動相と溶出させない移動相との間で切り替える移動相切替部を備える
ことを特徴とする、請求項4記載の液体クロマトグラフィー装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−169691(P2010−169691A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−57573(P2010−57573)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【分割の表示】特願2004−129963(P2004−129963)の分割
【原出願日】平成16年4月26日(2004.4.26)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)