説明

糖鎖担持デンドリマーからなる標的選択的薬剤放出担体

【課題】薬剤を標的部位に送達し、該部位において放出可能な担体及び該担体によって薬剤が内包された医薬の提供。
【解決手段】式(I)に例示される糖鎖担持デンドリマーで形成される高分子ミセル構造からなる薬剤放出担体。


(式(I)中、Eは炭素、ケイ素、ゲルマニウムのいずれか、Eはケイ素、ゲルマニウムのいずれかであり、Rはヘテロ原子を含んでもよい炭化水素基で、Eを含んで環を形成してもよく、Rは炭化水素基又は環を有してもよい炭化水素鎖で、R、R及びRは酸素、窒素あるいはカルボニル基、エーテル基、アミド基を含んでもよい炭化水素鎖で、Yは糖鎖残基を示し、lは0〜2の整数であり、mは0〜2の整数であり、kは0又は1の数を示し、kが0のときは3−mは1である)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤を標的部位に送達し、送達部位において薬剤放出が可能な薬剤放出担体、及び該担体に薬剤が内包された医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
疾患の治療には、副作用を伴う場合があり、時には、その副作用によって二次的な疾患の発症が誘導される場合もある。例えば、癌の治療に使用される抗癌剤は、細胞の増殖を抑制し死滅させる効果を有するものが多いため、癌細胞以外の正常な細胞に対しても致死的な効果をもたらすことがある。このような治療に伴う好ましくない影響を回避するために、疾患部位特異的に薬剤を輸送する必要がある。薬物送達システム又は薬物輸送システム(DDS:ドラッグデリバリーシステム)については、薬剤を疾患部位に有効かつ安全に運ぶための手段として、これまでに多くの研究が行われてきた。
DDSを実現するための薬剤担体として、例えば、リポソームなどに標的疾患部位特異的に存在する分子などと特異的に結合するリガンド等を結合させたもの(特許文献1又は特許文献2)、リポソームや合成樹脂粒子などのコロイド粒子の表面にN−アセチルグルコサミン類を露出させたもの(特許文献3及び4)などが報告されている。また、リポソーム以外の担体としては、例えば、糖鎖の結合により標的部位に対する特異性を実現した多分岐多糖誘導体(特許文献5)、ポリペプチド又はポリサッカライドを主鎖として側鎖に糖鎖を導入し、糖鎖による標的選択性を発揮させ主鎖の生分解性を利用した担体(特許文献6)などが挙げられる。
【0003】
さらに、デンドリマーによって形成されるミセル構造を利用した薬剤担体についても、研究開発が進められつつある(特許文献7、特許文献8及び特許文献9)。デンドリマーとは、ギリシャ語の「dendra」(樹木)を語源とする規則正しく分岐した樹状高分子化合物の総称である。デンドリマーによる球状のナノメートルスケールの空間は、様々な官能基を組み込むことで比較的自由にデザイン可能であることから、ナノテクノロジーの分野において、新規デンドリマーのデザインが現在盛んに行われている。デンドリマーは、DDSの担体としての利用の他、生体系における外部刺激に応答する分子センサーとしての利用なども考慮されている。これまでに、発明者らは、ウィルスや細菌感染によって生じる疾患の予防及び治療法の開発を行ってきた。発明者らは、例えば、カルボシランデンドリマー上に病原性大腸菌O−157のベロ毒素に阻害活性を示す糖鎖を集積させた化合物(特許文献10)、デングウィルス(特許文献11)あるいはインフルエンザウィルス感染症に対し効果を示す糖鎖クラスター化合物(特許文献12及び特許文献13)などの研究開発を精力的に行ってきた。さらに最近では、デンドリマーを利用した疾患部位特異的に薬剤を送達するための担体の開発に取り組んできた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2005/011632
【特許文献2】WO2005/011633
【特許文献3】特開2007− 1923
【特許文献4】特開2009− 46413
【特許文献5】特開2005−314401
【特許文献6】特開平11−60603
【特許文献7】特開2001−206885
【特許文献8】特開2005−120068
【特許文献9】特開2007−238860
【特許文献10】特開2004−107230
【特許文献11】特開2005−306766
【特許文献12】特開2005−77276
【特許文献13】特開2008−81411
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、疾患部位特異的に薬剤を輸送又は送達するための薬剤担体の研究が、精力的に行われているが、現段階において、疾患部位の標的能力及び疾患部位における薬剤の放出能力の両方を有効に兼ね備えた薬剤放出担体の創製には未だ至っていない。
そこで、本発明は、糖鎖を担持させたデンドリマーによって形成されるミセル構造を有する薬剤輸送(又は送達)用担体の提供を目的とする。
さらに、本発明は、該担体を含む医薬組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本出願の発明者らは、機能性糖鎖担持カルボシランデンドリマーが、水中で疎水部であるカルボシランデンドリマーを内側に、親水性部である糖鎖を外側に配置したミセル構造をとることを明らかにし、本発明を完成させた。
薬剤を特定の組織へ送達するためには、その特定組織に薬剤送達の標的となる分子の存在が必要である。本発明において、発明者らは、そのような標的分子として糖鎖と結合する分子、特に、レクチンに着目し、薬剤放出担体の機能性分子として、糖鎖担持デンドリマーの利用を考慮した。
発明者らは、薬剤を内包した糖鎖担持デンドリマーからなるミセル構造体が、その糖鎖の標的分子(例えば、レクチンなど)に接触すると、ミセル構造の崩壊が生じ、内部に取り込まれていた薬剤が標的因子の付近で放出されることを確認した。従って、疾患部位に存在する標的分子と特異的に結合する糖鎖を担持したデンドリマーからなるミセル構造体を利用すれば、該疾患の治療のための薬剤を疾患部位に効率的に輸送し、放出することが可能になる。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(10)である。
(1)糖鎖担持デンドリマーによって形成される高分子ミセル構造からなる薬剤放出担体。
(2)前記糖鎖担持デンドリマーが以下の式(I)で示される化合物である上記(1)に記載の担体。
【化1】


(式(I)中、Eは、炭素、ケイ素、ゲルマニウムのいずれかであり、互いに同一でも異なっていてもよく、Eは、ケイ素、ゲルマニウムのいずれかであり、互いに同一でも異なっていてもよく、Rはヘテロ原子を含んでもよい同一又は異なった炭化水素基であり、場合によっては、Eを含んで環を形成してもよく、Rは、同一又は異なった炭化水素基又は環を有してもよい炭化水素鎖を示し、R、R及びRは酸素、窒素あるいはカルボニル基、エーテル基、アミド基を含んでもよい同一又は異なった炭化水素鎖を示し、Yは同一又は異なった糖鎖残基を示し、lは0〜2の整数であり、mは0〜2の整数であり、kは0又は1の数を示し、kが0のときは3−mは1である)
(3)E及びEがケイ素であり、kが1、lが2,mが0である上記(2)に記載の担体。
(4)Rが下記の式で表されるシロール基であってEを含んで環を形成している上記(3)に記載の担体。
【化2】


(式中、Xはケイ素、Rはフェニル基であり、nは4である。)
(5)Rがメチル基である上記(3)に記載の担体。
(6)上記(1)乃至(5)のいずれかの担体に薬剤を封入した、薬剤−担体複合物。
(7)前記薬剤がフラーレンである上記(6)に記載の薬剤−担体複合物。
(8)上記(1)乃至(5)のいずれかに記載の担体に薬剤又は遺伝子を封入した医薬組成物。
(9)前記薬剤がフラーレンである上記(8)に記載の医薬組成物。
(10)上記(1)乃至(5)のいずれかに記載の担体に化粧品を封入した化粧品組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、薬剤を所望の標的患部領域に正確に送達し、患部領域で薬剤を確実に放出することが可能となる。
【0009】
本発明の薬剤放出担体を使用して疾患の治療を行えば、患部以外の生体部位に対する薬剤の影響を最小限にすることができるため、副作用を軽減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、デンドリマーの基本的な骨格を模式的に示した図である。図では、糖鎖をグロボ3糖として例示した(●●●がグロボ3糖を表す)。
【図2】図2は、本発明の薬剤放出担体の作用機序を模式的に示したものである。糖鎖担持デンドリマーは、中央ケイ素に結合する疎水性官能基(図ではメチル基)を内側にしてミセル構造を形成する。このミセルの中に薬剤を取り込ませ、適当な方法によりこれを投与すると、糖鎖が標的する分子の存在部位へ薬剤と共に送達され、該存在部位において薬剤が放出される。
【図3】図3は、水のみ又は種々の濃度のダンベル(1)6−Lac溶液に対し、色素を可溶化したときのUVによる測定結果を示す。Aは、ジメチルダンベル(1)6−Lac溶液による結果を、Bは、シロールダンベル(1)6−Lac溶液による結果を示す。
【図4】図4は、糖鎖担持デンドリマー(ジメチルダンベル(1)6−Lac)によって形成されたミセル構造体の表面張力を測定した結果である。この結果から、臨界ミセル濃度(CMC)は、およそ2.0×10−6M程度と評価できる。
【図5】図5は、ジメチルダンベル(1)6−Lacによって形成されたミセル構造体に色素が内包されていることを確認した結果を示す。A−aは、ジメチルダンベル(1)6−Lac溶液を塩化メチレン層上に添加直後、A−bは、10秒程度容器ごと溶液を混合したのち10分間静置後の水層及び塩化メチレン層の様子を示す。A−cは、色素を含む塩化メチレン層上に水を載せた状態を示す。Bは、ジメチルダンベル(1)6−Lac溶液を塩化メチレン層上に添加し混合し、1分後及び10分後における水層のUV−bisスペクトルを測定した結果である。コントロールとして、塩化メチレンで抽出しなかったサンプルも測定した(1.0E-5M)。
【図6】図6は、シロールダンベル(1)6−Lacによって形成されたミセル構造体に色素が内包されていることを確認した結果を示す。A−aは、シロールダンベル(1)6−Lac溶液を塩化メチレン層上に添加直後、A−bは、10秒程度容器ごと溶液を混合したのち10分間静置後の水層及び塩化メチレン層の様子を示す。A−cは、色素を含む塩化メチレン層上に水を載せた状態を示す。Bは、シロールダンベル(1)6−Lac溶液を塩化メチレン層上に添加し混合し、1分後及び10分後における水層のUV−bisスペクトルを測定した結果である。コントロールとして、塩化メチレンで抽出しなかったサンプルも測定した(1.0E-5M)。
【図7】図7は、ジメチルダンベル(1)6−Lacによって形成されたミセル構造体に内包されている色素が放出されることを確認した結果である。A−aは、石英セルにクロロホルムを入れ、クロロホルム層上に色素を内包したジメチルダンベル(1)6−Lac溶液を0.3ml添加したものである。A−bは、A−aにPBSバッファーを0.3ml加えたものである。A−cは、A−bにピーナッツレクチン(PNA)(3.6mg)をPBSバッファー0.3mlで溶解させた溶液を加えたものである。Bは、Aのa、b、cを混合した後、4時間経過後の状態を示す。Cは、セルa,b,c混合後、静置し、任意の時間でクロロホルム層のUV−visスペクトルを測定し、その吸収極大波長の吸光度の変化を確認した結果である。
【図8】図8は、シロールダンベル(1)6−Lacによって形成されたミセル構造体に内包されている色素が放出されることを確認した結果である。A−aは、石英セルにクロロホルムを入れ、クロロホルム層上に色素を内包したシロールダンベル(1)6−Lac溶液を0.3ml添加したものである。A−bは、A−aにPBSバッファーを0.3ml加えたものである。A−cは、A−bにピーナッツレクチン(PNA)(3.6mg)をPBSバッファー0.3mlで溶解させた溶液を加えたものである。Bは、Aのa、b、cを混合した後、4時間経過後の状態を示す。Cは、セルa,b,c混合後、静置し、任意の時間でクロロホルム層のUV−visスペクトルを測定し、その吸収極大波長の吸光度の変化を確認した結果である。
【図9】図9は、水で調製したOil Orange SSを内包するシロールダンベル(1)6−Lacミセル構造体を凍結乾燥した後、水及びPBSバッファーに溶解し、吸光度を測定した結果である。比較のため、水(図中、「水」)及びPBSバッファー(図中、「PBSバッファー」)で調製したOil Orange SSを内包するシロールダンベル(1)6−Lacミセル構造体ついても吸光度を測定した。
【図10】図10は、2種類の色素(Oil Orange SS及びピレン)がシロールダンベル(1)6−Lacミセル構造体に内包されることを確認した結果である。Aは、Oil Orange SSのみ、あるいは、Oil Orange SS及びピレンを添加して調製したシロールダンベル(1)6−Lacミセル構造体溶液のUVスペクトルを測定した結果である。Bは、Oil Orange SSのみ、あるいは、Oil Orange SS及びピレンを添加して調製したシロールダンベル(1)6−Lacミセル構造体溶液に対し、励起波長335nmによるピレンの発光の有無を確認した結果である。
【図11】図11は、シロールダンベル(1)6−Lacによって形成されたミセル構造体にC60フラーレンが内包されていることを確認した結果を示す(「シロールダンベル(1)6−Lac+C60」)。「C60(トルエン)」は、トルエン中のC60のピーク波長を示すために行った実験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の第1の実施形態は、糖鎖担持デンドリマーによって形成される高分子ミセル構造からなる薬剤放出担体である。
デンドリマーの形態としては、例えば、ダンベル型、ファン型、ボール型などが知られている(図1を参照のこと)。本発明においては、薬剤を取り込むのに十分な形態のミセル構造を形成し得る形態であればいずれの形態のデンドリマーであっても使用することができるが、好ましくは、ダンベル型である。本発明の薬剤放出担体のミセル構造は、外側に糖鎖が露出されている。そのため、この糖鎖によって特異的に認識される分子、例えば、レクチンなどの分子が薬剤標的となる患部領域に存在していれば、該薬剤放出担体に取り込まれた薬剤を該患部領域まで輸送することが可能となる。患部領域に薬剤放出担体(及び薬剤)が到達すると、担体に担持された糖鎖が患部領域に存在する糖鎖認識分子と結合するためミセル構造が崩壊し、構造内に包含されていた薬剤が患部領域で放出される(図2を参照のこと)。
デンドリマーに担持させる糖鎖の形態は、単糖、二糖、オリゴ糖など如何なる形態であってもよい。また、糖鎖の種類も、治療対象である患部に存在する糖鎖認識分子と結合するものであれば、如何なるものであってもよく、治療目的に応じて適宜選択することができる。また、選択した糖鎖を適当な形態のデンドリマーに担持させることは、当業者であれば容易に実施することができる。例えば、WO2005/011632には、リポソーム担体に担持させる糖鎖が、α−1,2マンノビオース二糖鎖などの場合には、血中、肺、脳、各種癌組織、心臓、小腸、肝臓、脾臓及びリンパ節などへの薬剤送達に適し、オリゴマンノース6八糖鎖などは胸腺への薬剤送達に適することが開示されている。
【0012】
本発明の薬剤放出担体に担持された糖鎖が標的とする分子としては、糖鎖との結合が確認されており、所望の標的組織に存在するものであれば如何なるものであってもよいが、例えば、レクチンなどが標的分子として好ましい。レクチンは、糖鎖と結合することができるタンパク質のことである。レクチンと総称されるタンパク質には、例えば、セレクチン、コレクチンなどのC型レクチン、マンノース6リン酸結合性を有するP型レクチン、リシンB鎖関連のR型レクチン、動物細胞内輸送に関わるとされるL型レクチン、シグレックなどのI型レクチンなど、さらに、糖タンパク質のフォールディングに関与するとされているカルネキシン・カルレティキュリン、ガラクトースに特異性を示すガレクチンなどが含まれる。セレクチンは、白血球に発現しているLセレクチン、炎症性サイトカインなどの刺激により血管内皮上に発現するEセレクチン、ヒスタミンなどの刺激により血管内皮上に発現するPセレクチンの3分子属に分類され、組織特異的な発現が知られている。
従って、このような組織特異的に発現されるレクチンを標的とする糖鎖を、本発明の薬剤放出担体に担持させることで、組織特異的な薬剤送達が可能となる。また、ある種の癌や腫瘍細胞の表面上に特異的に存在するレクチン分子と結合する糖鎖を担持すれば、癌などの治療に効果的な薬剤放出担体を調製できる。
【0013】
本発明の薬剤放出担体を構成する糖鎖担持デンドリマーは、例えば、以下の式(I)で示される化合物を挙げることができる。
【化3】


(式(I)中、Eは、炭素、ケイ素、ゲルマニウムのいずれかであり、互いに同一でも異なっていてもよく、Eは、ケイ素、ゲルマニウムのいずれかであり、互いに同一でも異なっていてもよく、Rはヘテロ原子を含んでもよい同一又は異なった炭化水素基を示し、場合によっては、Eを含んで環を形成してもよく、Rは同一又は異なった炭化水素基を示し、R、R及びRは酸素、窒素あるいはカルボニル基、エーテル基、アミド基を含んでもよい同一又は異なった炭化水素鎖を示し、Yは同一又は異なった糖鎖残基を示し、lは0〜2の整数であり、mは0〜2の整数であり、kは0又は1の数を示し、kが0のときは3−mは1である)
【0014】
式(I)中、Eは、炭素、ケイ素、ゲルマニウムのいずれかであり、互いに同一でも異なっていてもよく、Eは、ケイ素、ゲルマニウムのいずれかであり、互いに同一でも異なっていてもよいが、炭素又はケイ素が好ましく、ケイ素が最も好ましい。
【0015】
は、同一又は異なったヘテロ原子を含んでもよい炭化水素基であり、場合によっては、Eを含んで環を形成してもよい。Rが炭化水素基の場合には炭素数1〜6のアルキル基、フェニル基、ビニル基、及びアリル基のいずれかが好ましく、炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基がより好ましく、メチル基がさらにより好ましい。また、Eを含んで環を形成する場合には、例えば、以下に示される置換基などであってもよく、特に、Eがケイ素であるシロール基が好ましい。
【化4】


式中、Rは同一でも異なってもよいアリール基であり、Xは、ケイ素又はゲルマニウムのいずれかが好ましく、特に、ケイ素が好ましい。nは1〜4の整数である。特に限定はしないが、Rは、例えば、p−((CHN)C、p−CHOC、p−CH、C、p−FCC、p−(NO)C、m−CH、m−FC、m−FCC、1−ナフチル、2−スチリル、ビフェニル、2−チエニル、ビチエニル、2−チアゾール、2−ピリジル、3−ピリジル、N−メチル−2−ピロリル、2,4,6−トリメチルフェニル(Mes)、2,4,6−トリイソプロピルフェニル(Tip)であり、特にC(フェニル基)が好ましく、この場合、nは4が好ましい。
【0016】
は、同一又は異なった炭化水素基を示すが、炭素数3〜6のアルキル基、フェニル基、ビニル基、及びアリル基のいずれかが好ましく、このうち炭素数3〜4のアルキル基又はフェニル基がより好ましい。
【0017】
、R及びRは酸素、窒素あるいはカルボニル基、エーテル基、アミド基を含んでもよい同一又は異なった炭化水素基を示すが、炭素数3〜12のアルキル基、アルキレン基、アルケニレン基及びアルコキシレン基(オキシアルキレン基)のいずれかが好ましく、このうち炭素数3〜6のアルキレン基がより好ましい。
【0018】
Yは、同一又は異なった糖鎖を表し、好ましくは、1糖〜10糖、より好ましくは、1糖〜5糖である。糖鎖の種類は、本発明の薬剤放出担体を送達する組織に存在するレクチンなどの糖鎖特異性に依存して、決定することができる。Yは、単一種類の糖鎖であっても、複数の種類の糖鎖の混合であってもよい。例えば、Yとして、ラクトース、シアリルラクトース、グロボトリオース、ラクト−N−ネオテトラオース、オリゴマンノースなどの他、生体内の特定の組織等に存在するレクチンと結合することが既知の糖鎖であれば、いかなるものであってもよい。
【0019】
式(I)の糖鎖担持デンドリマー化合物の構造は、k、l、mの組み合わせに応じて種々の構造を取り得るが代表的な化学式は下記のようになる。
【化5】


(式Ia、Ib、Ic及びId中、式(I)中、Eは、炭素、ケイ素、ゲルマニウムのいずれかであり、互いに同一でも異なっていてもよく、Eは、ケイ素、ゲルマニウムのいずれかであり、互いに同一でも異なっていてもよく、Rは、炭化水素基を示し、R、R及びRは酸素、窒素あるいはカルボニル基、エーテル基、アミド基を含んでもよい同一又は異なった炭化水素鎖を示し、Yは同一又は異なった糖鎖を示す)
【0020】
式(I)の化合物は、例えば、次の反応式に従って製造することができる。
【化6】


(上記式中、Xはハロゲン原子、Xは反応脱離性の保護基を示し、Yは、糖鎖である)
式(I)の化合物は、式(III)で表されるハロゲン化デンドリマーと式(IV)で表されるスルフィド化合物とを反応させ、必要に応じて、スルフィド化合物中の糖残基の保護基を脱離させることにより製造することができる。
【0021】
本発明の薬剤放出担体のミセル構造は、糖鎖担持デンドリマーを水や緩衝液などの適当な親水性溶媒に添加することで調製することができる。また、親水性溶媒にアセトンなどの両親媒性の溶媒を、例えば、親水性溶媒に対して0〜20%程度加えた溶媒に、糖鎖担持デンドリマーを添加してミセル構造を形成させると、水性溶媒のみで調製した場合よりも、大きな粒径のミセル構造を調製することができる。例えば、溶媒を水100%としてシロ−ダンベル(1)6−グロボ3糖を、0.01mg/ml程度の濃度となるように添加した場合には、粒径が0.01μm〜0.02μmのミセル構造が形成されるのに対し、水:アセトン=9:1の溶媒の場合には、0.2μm程度、水:アセトン=8:2の溶媒の場合には、0.3μm程度のミセル構造が形成される。このように、ミセル構造の粒径を調整することで、中に取り込ませる薬剤の量や種類に応じた薬剤放出担体の調製が可能となる。
ミセル構造を形成させるときの、糖鎖担持デンドリマーの濃度は、当業者において適宜表面張力測定法などによる臨界ミセル濃度などを検討し、決定することができる。薬剤を包摂したミセル構造を形成させるのに適当な溶媒中におけるデンドリマーの濃度としては、例えば、1.0×10−6M以上、好ましくは、1.0×10−5M以上、より好ましくは1.0×10−4M以上である。
【0022】
取り込ませる薬剤は、1種類のみならず、薬剤同士で変質等の影響を及ぼしあわない限り、複数種類であってもよい。適当な溶媒に、適当な濃度になるように糖鎖担持デンドリマーを添加したのち、所望の薬剤を適当量添加し、糖鎖担持デンドリマーを含む溶媒を、例えば、超音波処理してミセル構造を形成させると同時にその中に薬剤を取り込ませる。ここで、超音波処理はミセル構造の形成のために行うものであるが、特に、超音波処理に限定されるものではなく、超音波処理以外には、例えば、アセトンなどの両親媒性の溶媒と水との混合溶媒中で糖鎖担持デンドリマーと薬剤を混合しアセトン等の揮発性溶媒を揮発させて調製してもよく、超音波処理をせずに糖鎖担持デンドリマーと薬剤を含む溶液の温度を70℃〜90℃、好ましくは80℃程度に保温し強く攪拌しても調製することはできる。超音波による処理は、例えば、20℃〜70℃、好ましくは、40℃〜60℃で、数時間、例えば、1〜4時間、好ましくは3時間程度行うのがよい。その後、超音波処理した溶媒を適当な方法、例えば、室温に放置するなどして冷却する。冷却した溶媒を適当な方法でろ過等すると、ミセル構造体を調製することができる。
また、ミセル構造体を含む溶媒を乾燥させ(例えば、凍結乾燥など)、粉体として保存することも可能である。
【0023】
本発明の第2の実施形態は、本発明の薬剤放出担体に薬剤又は遺伝子を封入した、薬剤又は遺伝子−担体複合物、あるいは、本発明の薬剤放出担体に薬剤又は遺伝子を封入した医薬組成物、製剤、医薬である。
本発明の薬剤放出担体に封入される薬剤は、特に限定されるものではなく公知の薬剤を広く使用することができる。また、遺伝子治療などに使用するためのDNA、RNA等にも利用可能である。
本発明の薬剤放出担体に封入する薬剤としては、例えば、抗癌剤、免疫療法剤、中枢神経用薬剤、末梢神経用薬剤、呼吸器疾患治療剤、循環器用薬剤、ビタミン剤、抗炎症剤など多くの薬剤が利用可能である。特に好ましい薬剤は、ミセル構造の内部に取り込まれ得る程度の疎水性を備えたものである。公知の抗癌剤の多くは、疎水性のものが多いため、本発明の薬剤放出担体に封入する薬剤としては適している。公知の抗癌剤としては、例えば、メソトレキセート、フルオロウラシル、6−メルカプトプリン、ペントスタチンなどの代謝拮抗剤、シクロホスファミド、メルファラン、ダカルバシン、シスプラチン、カルボプラチン、ブレオマイシンなどのアルキル化剤、カンプトテシン、ドキソルビシン、エトポシドなどのトポイソメラーゼ阻害薬、ビンブラスチン、ビンクリスチン、コルヒチンなどの微小管重合阻害薬、パクリタキセル、ドセタキセルなどの微小管脱重合阻害薬などがある。
さらに、近年、その薬効が注目されているフラーレンなども、本発明の封入薬剤として適している。ここで、フラーレンとは、多数の炭素原子で構成されるクラスターの総称のことで、当業者においてフラーレン類として識別できる物質であれば如何なるものも含まれる。本発明の封入材として適するフラーレンとしては、例えば、代表的なC60(数字は炭素数をも表す。以下同じ)の他、C70、C74、C76、C78などを挙げることができる。また、場合によっては、Cのみからなるフラーレン以外にも、金属原子(例えば、スカンジウム、ランタン、セリウム、チタンなど)が内包されたフラーレンや、アルカリ金属、アルカリ土類金属がインターカレートした構造のフラーレン(例えば、K60、Ba60など)などを利用してもよい。C60フラーレンは、紫外線照射により、酸素(通常、3重項)を活性酸素(一重項酸素)に変換することができる。一重項酸素は、癌細胞などの破壊、あるいは、細菌細胞の破壊に効果を示すことから、癌の治療薬、又は、抗菌剤などとしての利用が期待されている。さらには、近年、HIVウィルスの増殖に必要なHIVプロテアーゼ活性を阻害されるとの知見も示されており、抗HIV製剤として利用の可能性も示唆されている。
【0024】
本発明の医薬組成物、製剤、医薬は、静脈内、皮内、皮下への投与を含み、経口(例えば、吸入なども含む)、経皮及び経粘膜など、治療上適切な投与経路に適合するように製剤化される。非経口的に、皮内、又は皮下への適用に使用される溶液又は懸濁液には、限定はしないが、注射用の水などの滅菌的希釈液、生理食塩水溶液、不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、又は他の合成溶媒、ベンジルアルコール又は他のメチルパラベンなどの保存剤、アスコルビン酸又は亜硫酸水素ナトリウムなどの抗酸化剤、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカインなどの無痛化剤、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)などのキレート剤、酢酸塩、クエン酸塩、又はリン酸塩などの緩衝剤、塩化ナトリウム又はデキストロースなど浸透圧調製のための薬剤を含んでもよい。
pHは塩酸又は水酸化ナトリウムなどの酸又は塩基で調製することができる。非経口的標品はアンプル、ガラスもしくはプラスチック製の使い捨てシリンジ又は複数回投与用バイアル中に収納される。
【0025】
注射剤として使用する場合、組成物は滅菌的でなくてはならず、また、シリンジを用いて投与されるために十分な流動性を保持していなくてはならない。該組成物は、調剤及び保存の間、化学変化及び腐食等に対して安定でなくてはならず、細菌及び真菌などの微生物由来のコンタミネーションを防止する必要がある。注射剤に使用する溶媒としては、例えば、水、エタノール、ポリオール(グリセロール、プロピレングリコール、及び液体ポリエチレングリコールなど)、及び適切な混合物を含む溶媒又は分散媒培地を使用することができる。種々の抗菌剤及び抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、及びチメロサールなどは、微生物のコンタミネーションの防止に対して使用可能である。また、糖、マンニトール、ソルビトールなどのポリアルコール及び塩化ナトリウムのような等張性を保つ薬剤が組成物中に含まれてもよい。吸着を遅らせることができる組成物には、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンなどの薬剤が含まれる。
経口組成物とする場合には、適当な方法、例えば、凍結乾燥法などによって、粉体等にし、例えば、ゼラチンのカプセル剤に包含されるか、加圧されて錠剤化することができる。経口的治療のためには、ミセル構造に悪影響を及ぼさないような賦形剤と共に取り込まれ、錠剤、トローチ又はカプセル剤の形態で使用される。また、経口組成物は、流動性担体を用いて調製することも可能であり、流動性担体中の該組成物は経口的に投与される。さらに、薬剤的に適合する結合剤、及び/又はアジュバント物質などが包含されてもよい。また、経口組成物の場合は、ミセル構造を破壊しないような溶媒に懸濁して投与することができる。
【0026】
本発明の医薬組成物、製剤又は医薬の適切な投与量レベルは、投与される患者の状態、投与方法等に依存するが、当業者であれば、容易に最適化することが可能である。
注射投与の場合は、例えば、一日に患者の体重あたり約0.1μg/kgから約500mg/kgを投与するのが好ましく、一般に1回又は複数回に分けて投与され得るであろう。好ましくは、投与量レベルは、一日に約0.1μg/kgから約250mg/kgであり、より好ましくは一日に約0.5〜約100mg/kgである。
経口投与の場合は、組成物は、好ましくは1.0から1000mgの活性成分を含む溶液の形態で提供され、好ましくは活性成分が1.0,5.0,10.0,15.0,20.0,25.0,50.0,75.0,100.0,150.0,200.0,250.0,300.0,400.0,500.0,600.0,750.0,800.0,900.0及び1000.0mgである。化合物は一日に1〜4回の投与計画で、好ましくは一日に1回又は2回投与される。
【0027】
医薬組成物又は製剤は、一定の投与量を保障すべく、均一単位投与量により構成されなくてはならない。単位投与量は、患者の治療に有効な1回の投与量を含んで製剤化された一単位のことである。本発明の単位投与量を決定する場合には、製剤化される薬剤の物理的、化学的特徴、期待される治療上の効果、及び該薬剤に特有な留意事項等が考慮される。
【0028】
本発明の医薬組成物はキットの形態で、容器、パック中に投与の説明書と共に含めることができる。本発明に係る医薬組成物、製剤又は医薬がキットとして供給される場合、該キットは、本発明の薬剤放出担体と有効成分である薬剤が異なる容器中に収納され、使用直前に混合するような形態であってもよい。
【0029】
また、本発明の医薬組成物、製剤又は医薬には、診断用医薬も含まれる。当該診断用医薬としては、例えば、糖鎖担持デンドリマーに標識化合物、例えば、放射性化合物、あるいは、蛍光色素分子などに結合させて本発明の薬剤放出担体を調製したものなどを使用することができる。このように調製した該薬剤放出担体が標的患部に到達すると、該標的患部が標識され、疾患部位の生体組織内における位置などを同定することができる。
【0030】
本発明のその他の実施形態には、本発明の薬剤放出担体に化粧品を有効成分として封入した化粧品組成物あるいは医薬部外品を有効成分として封入した医薬部外品組成物なども含まれる。ここで、化粧品とは、「人の身体を清潔にし、美化し、魅力を増し、容貌を変え、または、皮膚もしくは毛髪をすこやかに保つために身体に塗擦、散布、その他これらに類似する方法で使用されることが目的とされている物で、人体に対する作用が緩和なもの」のことである。また、医薬部外品とは、「作用が緩和であり、疾病の治療または予防に使用せず、身体の構造、機能に影響を及ぼすような使用目的を併せ持たないもの」として定義される。
本発明の化粧品組成物又は医薬部外品組成物は、化粧品又は医薬部外品の有効成分として使用可能な、例えば、ビタミンA、B、C及びEなどのビタミン類、エストロゲン、コルチゾンなどのホルモン類、リン酸−アスコルビン酸マグネシウム、プランセンタキス、アルブチンなどの皮膚漂白剤などを本発明の薬剤放出担体に封入したものなどを挙げることができる。
【0031】
以下の実施例は、あくまでも例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0032】
1.糖鎖担持デンドリマーによるミセル構造の形成
本実施例において、糖鎖担持デンドリマーとして以下のジメチルダンベル(1)6−Lacとシロールダンベル(1)6−Lacを使用し、公知の方法に則り(Journal of Colloid and Interface Science 273 (2004)148-154)、ミセル構造の形成実験を行った。また、ミセルに内包させる薬剤として、ここでは、疎水性の色素であるOil Orange SS(東京化成工業株式会社)とピレンを使用した(東京化成工業株式会社)。
【化7】


【化8】


ジメチルダンベル(1)6−Lacとシロールダンベル(1)6−Lacは公知の方法に従って合成を行った(Lorenz K. et al., Macromolecules 1995, 28, pp6657-6661;Koji Matsuoka et al., Tetrahedron Letters, 1999, 40, pp7839-7842;K. Hatano et al., Tetrahedron Letters, 2007 48, pp4365-4368)。
【0033】
合成したダンベル(1)6−Lac(3.1mg(1.0×10‐3mmol))を10mlメスフラスコ中にて、イオン交換水を用いてメスアップし、10ml糖鎖担持デンドリマー溶液を調製した。この溶液を20mlスクリュー管瓶に移し、そこへOrange OT(15mg(0.057mmol))を固体で加えた後、蓋を閉め密閉した。調製した溶液を超音波洗浄機で、40−60℃にて3時間超音波を照射し、その後2時間室温で放置し室温まで冷却した。その溶液をポアサイズ0.45μmのメンブランフィルターでろ過した。
得られた溶液のUV−visスペクトルからOil Orange SS由来のピーク(503nm,534nm)が確認されたことから、ダンベル(1)6−Lacの会合体の疎水性部位にOil Orange SSが取り込まれたことが示された(図3A(ジメチルダンベル(1)6−Lac)及びB(シロールダンベル(1)6−Lac))。また、本発明のミセル構造体を薬剤放出担体として使用する場合、さらに小さな粒径(例えば、0.20μm以下)で使用されることを考慮し、0.20μmフィルターでろ過した場合について検討したところ、糖鎖担持デンドリマーの濃度が1.0×10−5M程度以上の場合に、色素による吸収が認められた(データは示さず)。この結果から、薬剤(色素)濃度に対する糖鎖担持デンドリマーの濃度を高めにすることで、薬剤放出担体の粒径を小さくし得ることが分かる。
一方、糖鎖担持デンドリマーに変えてラクトースのみで上記実験を行ったところ、503nm,534nm波長のピークが検出されないため、ラクトースのみによる色素の内包は生じないことが確認された(データは示さず)。
次に、糖鎖担持デンドリマーによって形成される臨界ミセル濃度を、表面張力測定法及び可溶化法により測定したところ、各々。約2.0×10−6M程度及び約4.0×−6M程度であることが確認された(図4)。
また、水などの親水性溶媒にアセトンなど両親媒性の溶媒を一定割合添加し、動的光散乱法により形成されるミセルの粒径を測定したところ、水が100%の場合、形成されるミセルの粒径は、約0.01μm〜0.02μm程度であり、水90%に対しアセトン10%を添加した溶媒の場合、粒径は、約0.1μ〜0.2μm程度であり、水80%に対しアセトン20%を添加した溶媒の場合、粒径は、約0.3μm程度であった(データは示さず)。
なお、糖鎖担持デンドリマーによるミセル構造は、PBS、HEPES又はTrisなどの緩衝液中においても形成されるが、その効率は水を溶媒とした場合よりは、悪かった。この点については、緩衝液の性質、pH、無機物又は有機物などの条件を適宜選択することで改善すると考えられる。
【0034】
2.糖鎖担持デンドリマーによるミセル構造内への薬剤の内包の確認
上述のように調製したダンベル(1)6−Lac溶液を塩化メチレン層上に添加し(図5A−a(ジメチルダンベル(1)6−Lac)及び図6A−a(シロールダンベル(1)6−Lac))、10秒程度容器ごと溶液を混合したのち数分間静置した(図5A−b(ジメチルダンベル(1)6−Lac)及び図6A−b(シロールダンベル(1)6−Lac))。塩化メチレンと混合する前のダンベル(1)6−Lac溶液の水層は、赤色と呈していたが、塩化メチレンとの混合後、水層は薄いオレンジ色となり、下層の塩化メチレン層は無色であった。このことは、ミセル内に塩化メチレンが侵入し赤色がオレンジ色に変化し、色素はミセル内に留まり塩化メチレン層に移動しないことを示している。なお、ダンベル(1)6−Lacが存在しない場合、色素は塩化メチレン層に溶解し、水層には存在しないことも確認した(図5A−c(ジメチルダンベル(1)6−Lac)及び図6A−c(シロールダンベル(1)6−Lac))。塩化メチレンで抽出した時の水槽のUV−bisスペクトルを確認すると、抽出前のλmax=545nmから抽出後は、λmax=526nmに変化していることが確認された(図5B(ジメチルダンベル(1)6−Lac)及び図6B(シロールダンベル(1)6−Lac))。
【0035】
3.糖鎖担持デンドリマーによるミセル構造内からの薬剤の放出の確認
次に、糖鎖担持デンドリマーミセル構造体に内包された色素が、水/有機溶媒系において有機溶媒中に放出されることを視覚及び紫外吸収により確認した(図7:ジメチルダンベル(1)6−Lac、図8:シロールダンベル(1)6−Lac)。
石英セルにクロロホルムを3ml入れ、そこへ上述の方法で調製した色素内包ダンベル(1)6−Lac溶液を0.3ml加えた。これをセルaとした(図7A−a,B−a及び図8A−a,B−a)。セルaと同様に調製したセルへ更にPBSバッファーを0.3ml加えた。これをセルbとした(図7A−b,B−b及び図8A−b,B−b)。セルbと同様に調製したセルへ、ピーナッツレクチン(PNA)(3.6mg)をPBSバッファー0.3mlで溶解させた溶液を加えた。これをセルcとした(図7A−c,B−c及び図8A−c,B−c)。それぞれのセルを手で30回程度振り、静置し、任意の時間でクロロホルム層のUV−visスペクトルを測定し、吸収極大波長の吸光度の変化を確認した(図7C及び図8C)。
全てのセルa,b,cのUV−visスペクトルからOil Orange SS由来のピークが確認されたことから、ダンベル(1)6−Lacのミセル構造に取り込まれていたOil Orange SSがクロロホルムに溶出してきたことが示された。特に、セルcにおいては、混合直後、水層とクロロホルム層の界面に赤色の固形物が確認され、数日後に、ほぼ全ての色素がクロロホルム層に移動することが観察された。また、糖鎖の標的分子を添加すると、ゆっくりと色素が放出されるのに対し、バッファーを添加すると速やかに放出されることが分かった(図7C及び図8C)。
このことから、糖鎖担持デンドリマーによるミセル構造は、内包した薬剤を糖鎖の標的分子との接触による、徐放性の放出特性を示し、その放出速度は、適当な緩衝作用を示す物質と共存させることで、高められることが示唆された。
【0036】
4.糖鎖担持デンドリマーによるミセル構造に対する凍結乾燥の影響
水溶液中で形成させたOil Orange SS内包糖鎖担持デンドリマーミセル構造体を、凍結乾燥して粉体とした後、再度、凍結乾燥前と同体積の水及びバッファー溶液に溶解した。ミセル構造体を再懸濁させた溶液のUV−visスペクトルを確認したところ、吸光度は、凍結乾燥前の3/5程度に下がったものの、色素による吸収を確認することができた(図9)。従って、糖鎖担持デンドリマーによるミセル構造体は、凍結乾燥後においても、薬剤放出担体として使用することができることが分かった。
【0037】
5.複数の色素(薬剤)のミセル構造体内への内包の確認
上述と同様の方法により、Oil Orange SSに加え、ピレンを用いて、色素を内包した糖鎖担持デンドリマーによるミセル構造体を調製した。調製した色素を内包するミセル構造体溶液のUV−visスペクトルを測定した結果、Oil Orange SSを単独で用いた場合に比較して、ピレンを併用すると、吸光度の上昇が認められ(図10A)、また、ピレン由来のピーク(370nm−395nm)も確認することができた(図10B)。このことから、糖鎖担持デンドリマーによるミセル構造体は、複数の色素(薬剤)を内包し得ることが明らかとなった。
【0038】
6.糖鎖担持デンドリマーによるミセル構造内へのC60フラーレンの内包の確認
10mlメスフラスコにシロールダンベル(1)6−Lac(3.4mg)を入れ、イオン交換水を用いてメスアップすることで100μM溶液を10ml調製した。その溶液を20mlスクリュー管瓶に移し、そこへC60(2.2mg)を固体で加えた後、蓋を閉めて密閉した。これを超音波で20〜40℃で2分、その後60℃で一晩撹拌した。この溶液をメンブランフィルター(ポアサイズ:0.45μm)でろ過した。得られた溶液のUV−visスペクトルから500nm以上の領域にブロードな吸収が確認された(図11:「シロールダンベル(1)6−Lac+C60」で示すスペクトル)。トルエン中におけるC60のスペクトルの最大波長が500nm付近であること(図11:「C60(トルエン)」で示すスペクトル)、また、シロールデンドリマーには500nm以上で吸収がないことから、500nm以上の領域の吸収は、シロールダンベル(1)6−Lacに内包されたC60由来のものであると考えられる。
また、C60は、疎水性であり、水には難溶であるが、水を溶媒として行った本実験において、C60由来のスペクトルが検出されたことから、疎水性のC60がシロールダンベル(1)6−Lacで形成されたミセル構造内に取り込まれたことが示唆される。
以上のことから、シロールダンベル(1)6−Lacのミセル構造内の疎水性部にC60が取り込まれることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、標的部位に薬剤を送達し、該部位において放出することが可能な薬剤放出担体を提供するものである。従って、当該薬剤放出担体を使用することで、正常な部位に対する薬剤の影響を抑えることが可能となり、薬剤による副作用を軽減することができる。また、本発明の薬剤放出担体は、今後のDDS(ドラッグデリバリーシステム)の開発に大きく貢献するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖鎖担持デンドリマーによって形成される高分子ミセル構造からなる薬剤放出担体。
【請求項2】
前記糖鎖担持デンドリマーが以下の式(I)で示される化合物である請求項1に記載の担体。
【化1】


(式(I)中、Eは、炭素、ケイ素、ゲルマニウムのいずれかであり、互いに同一でも異なっていてもよく、Eは、ケイ素、ゲルマニウムのいずれかであり、互いに同一でも異なっていてもよく、Rはヘテロ原子を含んでもよい同一又は異なった炭化水素基であり、場合によっては、Eを含んで環を形成してもよく、Rは、同一又は異なった炭化水素基又は環を有してもよい炭化水素鎖を示し、R、R及びRは酸素、窒素あるいはカルボニル基、エーテル基、アミド基を含んでもよい同一又は異なった炭化水素鎖を示し、Yは同一又は異なった糖鎖残基を示し、lは0〜2の整数であり、mは0〜2の整数であり、kは0又は1の数を示し、kが0のときは3−mは1である)
【請求項3】
及びEがケイ素であり、kが1、lが2,mが0である請求項2に記載の担体。
【請求項4】
が下記の式で表されるシロール基であってEを含んで環を形成している請求項3に記載の担体。
【化2】


(式中、Xはケイ素、Rはフェニル基であり、nは4である。)
【請求項5】
がメチル基である請求項3に記載の担体。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかの担体に薬剤を封入した、薬剤−担体複合物
【請求項7】
前記薬剤がフラーレンである請求項6に記載の薬剤−担体複合物
【請求項8】
請求項1乃至5のいずれかに記載の担体に薬剤又は遺伝子を封入した医薬組成物。
【請求項9】
前記薬剤がフラーレンである請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
請求項1乃至5のいずれかに記載の担体に化粧品を封入した化粧品組成物。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−63587(P2011−63587A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−183559(P2010−183559)
【出願日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(504190548)国立大学法人埼玉大学 (292)
【Fターム(参考)】