説明

糖類の加水分解用触媒及びそれを用いた糖類の加水分解方法

【課題】 ショ糖等の二糖類やスターチ等の多糖類をオリゴ糖や単糖類に効率的に分解することが可能な優れた触媒作用を有しており、しかも再使用による劣化が十分に抑制されかつ分解生成物からの分離が容易であり、経済的で環境への負荷が小さい糖類の加水分解用触媒を提供すること。
【解決手段】 炭素原子を1以上有する2価以上の第一の有機基と、前記第一の有機基中の同一若しくは異なる炭素原子に結合した2以上のケイ素原子と、前記ケイ素原子に結合した1以上の酸素原子と、前記ケイ素原子及び/又は該ケイ素原子に酸素原子を介して結合しているケイ素原子に結合した1価以上の第二の有機基とからなる骨格を有し、中心細孔直径が1〜30nmである複数の細孔を有するメソポーラス有機シリカからなり、少なくとも前記複数の細孔の内壁面に存在する前記第一及び/又は第二の有機基にスルホン基が結合していることを特徴とする糖類の加水分解用触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖類の加水分解用触媒、並びにそれを用いた糖類の加水分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
単糖類はエタノール、酢酸、酪酸等の合成原料になるため、石油資源に頼ることなく再生可能なバイオマス資源を使った単糖類の化学合成プロセスの構築が求められている。このような状況の下、セルロースやスターチ等の多糖類を分解してオリゴ糖や単糖類を製造する方法として、例えば特開2003−135052号公報(特許文献1)に記載の酵素処理法、例えば特開平10−327900号公報(特許文献2)に記載の超臨界処理法、例えば特開平11−313700号公報(特許文献3)に記載の酸処理法が開発されている。
【0003】
しかしながら、酵素処理法においては、酵素による糖類の分解活性に限界があるため、多糖類を一旦オリゴ糖に分解し、更に別の酵素により単糖類まで分解する必要があり、分解工程が多段となるという問題があった。また、酵素処理法においては、分解生成物と酵素との分離が容易ではなく、更に酵素は一般に繰り返し使用が困難であるためコストが掛かり廃棄物も多いという問題があった。
【0004】
また、超臨界処理法においては、200〜300℃に加熱された加圧熱水のような高温高圧条件下で実施されるため、高価な装置が必要となり、エネルギー消費量も多いことからコストが掛かるという問題があった。
【0005】
さらに、酸処理法においては、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、亜硫酸等の鉱酸やシュウ酸、クエン酸、酢酸、ギ酸等の有機酸が用いられるが、このような酸やそれらの塩を分解生成物から分離することが容易ではなく、分解生成物から酸や塩を除去する工程が必要となるという問題があった。
【0006】
一方、様々な物質を吸着、貯蔵等するための材料として、近年、孔径1〜30nm程度のメソサイズの細孔(メソ孔)が非常に規則的に配列したメソ多孔体が注目されており、このようなメソ多孔体の合成及び機能開発に関する研究が積極的に行われてきた。そのような研究の一つとして、本発明と発明者の一部が重複する特開2003−305370号公報(特許文献4)及び特開2004−51573号公報(特許文献5)においては、細孔の内壁面等にスルホン基を導入したメソポーラス有機シリカが開示されており、このようなメソポーラス有機シリカが固体酸触媒等として有用であることが示唆されている。
【0007】
しかしながら、このようなメソ多孔体を糖類の加水分解用触媒として用いることに関してなされた報告はなく、特許文献4及び特許文献5においても、それらに記載のメソポーラス有機シリカを糖類の加水分解用触媒として用いることについては何ら示唆されていなかった。
【特許文献1】特開2003−135052号公報
【特許文献2】特開平10−327900号公報
【特許文献3】特開平11−313700号公報
【特許文献4】特開2003−305370号公報
【特許文献5】特開2004−51573号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、ショ糖等の二糖類やスターチ等の多糖類をオリゴ糖や単糖類に効率的に分解することが可能な優れた触媒作用を有しており、しかも再使用による劣化が十分に抑制されかつ分解生成物からの分離が容易であり、経済的で環境への負荷が小さい糖類の加水分解用触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、細孔の内壁面等にスルホン基を導入したメソポーラス有機シリカを糖類の加水分解用触媒として用いることにより、糖類を効率的に分解することが可能でかつ再使用による劣化が十分に抑制されるという優れた触媒作用が達成され、しかも分解生成物からの触媒の分離が容易で前記目的が達成されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の糖類の加水分解用触媒は、炭素原子を1以上有する2価以上の第一の有機基と、前記第一の有機基中の同一若しくは異なる炭素原子に結合した2以上のケイ素原子と、前記ケイ素原子に結合した1以上の酸素原子と、前記ケイ素原子及び/又は該ケイ素原子に酸素原子を介して結合しているケイ素原子に結合した1価以上の第二の有機基とからなる骨格を有し、中心細孔直径が1〜30nmである複数の細孔を有するメソポーラス有機シリカからなり、
少なくとも前記複数の細孔の内壁面に存在する前記第一及び/又は第二の有機基にスルホン基が結合していることを特徴とするものである。
【0011】
本発明の糖類の加水分解用触媒においては、前記骨格が、下記一般式(1):
【0012】
【化1】

【0013】
[式(1)中、Rは炭素原子を1以上有する2価以上の第一の有機基を示し、Rは、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアシルオキシ基、及び、下記一般式(2):
【0014】
【化2】

【0015】
[式(2)中、Rは、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアルコキシ基及び置換基を有していてもよいアシルオキシ基からなる群から選択される少なくとも一つの基を示し、pは0〜2の整数を示す。ただし、Rが複数存在する場合はRは同一でも異なっていてもよい。]
で表される基からなる群から選択される少なくとも一つの基を示し、nは1〜3の整数を示し、mは2以上の整数を示す。ただし、ケイ素原子が結合するR中の炭素は同一でも異なっていてもよく、全ての構成単位においてn=3ではなく、構成単位中にRが複数存在する場合はRは同一でも異なっていてもよく、少なくとも前記複数の細孔の内壁面に存在するR及び/又はRにはスルホン基が結合している。]
で表される構成単位の少なくとも1種類からなるものであることが好ましい。
【0016】
また、本発明の糖類の加水分解用触媒においては、前記一般式(1)で表される構成単位中のRが前記一般式(2)で表される基であり、少なくとも前記複数の細孔の内壁面に存在するRには前記置換基としてスルホン基が結合していることがより好ましい。
【0017】
また、本発明の糖類の加水分解方法は、前記本発明の加水分解用触媒と糖類とを接触させることを特徴とする方法である。
【0018】
なお、本発明の糖類の加水分解用触媒によって糖類が効率的に分解され、しかも再使用による劣化が十分に抑制されるようになる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明において用いたメソポーラス有機シリカの細孔径は二糖類や多糖類が入り込める十分な大きさを有しているため、細孔内における反応物の拡散抵抗が小さくなり、拡散律速による活性の低下が十分に防止される。さらに、本発明において用いたメソポーラス有機シリカは均一なナノ細孔を有しており、このような均一なナノ細孔には反応物を細孔内に濃縮する効果もあるため、細孔の内壁面に導入されているスルホン基による糖類の加水分解反応が促進されたものと本発明者らは推察する。また、本発明において用いたメソポーラス有機シリカは安定な骨格構造を有しており、細孔の内壁面においてこのような安定な骨格にスルホン基が化学的に結合しているため、再使用による劣化が十分に抑制され、繰り返しの使用が可能となったものと本発明者らは推察する。さらに、本発明の触媒においては、触媒作用を有するスルホン基がメソポーラス有機シリカに固定化されているため、ろ過等の簡易な操作で分解生成物から本発明の触媒を容易に分離することが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ショ糖等の二糖類やスターチ等の多糖類をオリゴ糖や単糖類に効率的に分解することが可能な優れた触媒作用を有しており、しかも再使用による劣化が十分に抑制されかつ分解生成物からの分離が容易であり、経済的で環境への負荷が小さい糖類の加水分解用触媒を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0021】
先ず、本発明の糖類の加水分解用触媒において用いるメソポーラス有機シリカについて説明する。すなわち、本発明において用いられるメソポーラス有機シリカは、
(i)炭素原子を1以上有する2価以上の第一の有機基と、
(ii)第一の有機基中の同一若しくは異なる炭素原子に結合した2以上のケイ素原子と、
(iii)前記ケイ素原子に結合した1以上の酸素原子と、
(iv)前記ケイ素原子及び/又はそのケイ素原子に酸素原子を介して結合している他のケイ素原子に結合した1価以上の第二の有機基と、
からなる骨格を有し、中心細孔直径が1〜30nmである複数の細孔を有するものである。
【0022】
本発明にかかる第一の有機基は、炭素原子を1以上有しており、2以上の金属原子と結合するために2価以上の価数を有することが必要である。このような有機基としては、例えば、アルカン、アルケン、アルキン、ベンゼン、シクロアルカン等の炭化水素から2以上の水素原子が脱離して生じる2価以上の有機基が挙げられる。なお、本発明にかかるメソポーラス有機シリカは、上記第一の有機基を1種のみ含むものであっても、2種以上含むものであってもよい。
【0023】
また、このような第一の有機基としては、適度な架橋度を有する結晶性の高いメソポーラス有機シリカが得られる傾向にあるという観点から、メチレン基(−CH2−)、エチレン基(−CH2CH2−)、トリメチレン基(−CH2CH2CH2−)、テトラメチレン基(−CH2CH2CH2CH2−)、1,2−ブチレン基(−CH(C25)CH−)、1,3−ブチレン基(−CH(CH3)CH2CH2−)、フェニレン基(−C64−)、ビフェニレン基(−C64−C64−)、ジエチルフェニレン基(−C24−C64−C24−)、ビニレン基(−CH=CH−)、プロペニレン基(−CH2−CH=CH2−)、ブテニレン基(−CH2−CH=CH−CH2−)、アミド基(−CO−NH−)、ジメチルアミノ基(−CH2−NH−CH2−)、トリメチルアミン基(−CH2−N(CH3)−CH2−)等が挙げられる。これらの中でも、より結晶性の高いメソポーラス有機シリカ粒子が得られる傾向にあるという観点から、メチレン基、エチレン基、フェニレン基、ビフェニレン基が好ましい。
【0024】
また、本発明にかかるメソポーラス有機シリカにおいては、上記第一の有機基中の同一若しくは異なる炭素原子に2以上のケイ素原子が結合しており、これらのケイ素原子に1以上の酸素原子が結合している。さらに、本発明にかかるメソポーラス有機シリカにおいては、前記ケイ素原子及び/又はそのケイ素原子に酸素原子を介して結合している他のケイ素原子に1価以上の第二の有機基が結合している。なお、全てのケイ素原子に第二の有機基が結合している必要はなく、本発明にかかるメソポーラス有機シリカを構成するケイ素原子の少なくとも一部に第二の有機基が結合していればよい。また、本発明にかかるメソポーラス有機シリカは、上記第二の有機基を1種のみ含むものであっても、2種以上含むものであってもよい。
【0025】
このような第二の有機基としては、置換基を有していてもよいアルキル基(好ましくは、メチル基、エチル基等の炭素数1〜10の低級アルキル基)、置換基を有していてもよいアルケニル基(好ましくは、ビニル基等の炭素数1〜10の低級アルケニル基)、置換基を有していてもよいアリール基(好ましくは、フェニル基、ビフェニル基等)、置換基を有していてもよいアルコキシ基(好ましくは、メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜10の低級アルコキシ基)、置換基を有していてもよいアシルオキシ基(好ましくは、アセトキシ基、ベンゾイルオキシ基等の炭素数1〜10の低級アルコキシ基)が挙げられる。
【0026】
このような本発明にかかるメソポーラス有機シリカとしては、その骨格が、下記一般式(1)で表される構成単位の少なくとも1種からなるものであることが好ましい。
【0027】
【化3】

【0028】
ここで、上記一般式(1)中、Rは炭素原子を1以上有する2価以上の第一の有機基を示し、この第一の有機基については先に説明した通りである。また、上記一般式(1)中のRは、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアシルオキシ基、及び、下記一般式(2):
【0029】
【化4】

【0030】
で表される基からなる群から選択される少なくとも一つの基を示す。なお、上記一般式(2)中におけるRは、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアルコキシ基又は置換基を有していてもよいアシルオキシ基を示し、これらは前記第二の有機基として説明したものと同様のものである。また、上記一般式(2)中におけるpは0〜2の整数を示し、Rが複数存在する場合、Rは同一でも異なっていてもよい。
【0031】
さらに、上記一般式(1)中のnは1〜3の整数、mは2以上の整数をそれぞれ示す。ただし、ケイ素原子が結合するR中の炭素は同一でも異なっていてもよく、全ての構成単位においてn=3ではなく、構成単位中にRが複数存在する場合はRは同一でも異なっていてもよい。また、前記一般式(1)(前記一般式(2)を含む)における「−O1/2−」とは、これらが2つ結合することにより「−O−」となる基を表す。
【0032】
このような前記一般式(1)中のRは、本発明にかかるメソポーラス有機シリカを合成する際に用いるシリカ原料に由来する基であっても、後述するスルホン基を導入するために用いられる化合物に由来する基であってもよいが、前者としてアルコキシ基、後者として前記一般式(2)で表される基を含んでいることが好ましい。このような場合、本発明にかかるメソポーラス有機シリカは、Rとしてアルコキシ基と前記一般式(2)で表される基とを含むこととなり、メソポーラス有機シリカを構成するケイ素原子の少なくとも一部にそれらが結合していればよい。
【0033】
また、このような前記一般式(1)中のRが置換基を有している場合、かかる置換基としてはスルホン基、メルカプト基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基等が挙げられるが、後述するスルホン基(−SOH)か、或いはスルホン基に変換することが可能な置換基であることが好ましく、このようなスルホン基に変換することが可能な置換基としてはメルカプト基(−SH)が特に好ましい。さらに、このような置換基を有している有機基(前記一般式(2)中におけるRを含む)としては、前記置換基が炭素原子を介してケイ素原子に結合するものであることが好ましく、中でもスルホン酸アルキル基(−C2x−SOH)及び/又はメルカプトアルキル基(−C2x−SH)が特に好ましい。
【0034】
以上説明した本発明にかかるメソポーラス有機シリカは、中心細孔直径が1〜30nm、好ましくは1〜10nm、より好ましくは1〜5nm、である複数の細孔を有している。中心細孔直径が1nm未満である場合は、細孔の平均の大きさが分解の対象となる酵素の大きさよりも小さくなることが多くなるため、触媒性能が低下する。他方、中心細孔直径が30nmを超える場合は、触媒の比表面積が低下して、触媒性能が低下する。
【0035】
ここで、本発明における「中心細孔直径」とは、細孔容積(V)を細孔直径(D)で微分した値(dV/dD)を細孔直径(D)に対してプロットした曲線(以下、「細孔径分布曲線」という)の最大ピークにおける細孔直径である。また、細孔径分布曲線は、次に述べる方法により求めることができる。すなわち、メソポーラス有機シリカを液体窒素温度(−196℃)に冷却して窒素ガスを導入し、定容量法あるいは重量法によりその吸着量を求め、次いで、導入する窒素ガスの圧力を徐々に増加させ、各平衡圧に対する窒素ガスの吸着量をプロットし、吸着等温線を得る。この吸着等温線を用い、Cranston-Inklay法、Pollimore-Heal法、BJH法等の計算法により細孔径分布曲線を求めることができる。
【0036】
また、本発明にかかるメソポーラス有機シリカは、細孔径分布曲線における中心細孔直径の±40%の範囲に全細孔容積の60%以上が含まれることが好ましい。ここで、「細孔径分布曲線における最大ピークを示す細孔直径の±40%の範囲に全細孔容積の60%以上が含まれる」とは、例えば、中心細孔直径が3.00nmである場合、この3.00nmの±40%、すなわち1.80〜4.20nmの範囲にある細孔の容積の合計が、全細孔容積の60%以上を占めていることを意味する。この条件を満たすメソポーラス有機シリカは、細孔の直径が非常に均一であることを意味する。
【0037】
さらに、本発明にかかるメソポーラス有機シリカの比表面積は、特に制限されないが、700m2/g以上であることが好ましい。このような比表面積は、吸着等温線からBET等温吸着式を用いてBET比表面積として算出することができる。
【0038】
また、本発明にかかるメソポーラス有機シリカは、そのX線回折パターンにおいて、1nm以上のd値に相当する回折角度に1本以上のピークを有することが好ましい。X線回折ピークはそのピーク角度に相当するd値の周期構造が試料中にあることを意味する。したがって、1nm以上のd値に相当する回折角度に1本以上のピークがあることは、細孔が1nm以上の間隔で規則的に配列していることを意味する。
【0039】
さらに、このようなメソポーラス有機シリカが有する細孔は、多孔体の表面のみならず内部にも形成される。かかるメソ多孔体における細孔の配列状態(細孔配列構造又は構造)は特に制限されないが、2d−ヘキサゴナル構造、3d−ヘキサゴナル構造又はキュービック構造であることが好ましい。また、このような細孔配列構造は、ディスオーダの細孔配列構造を有するものであってもよい。
【0040】
ここで、メソ多孔体がヘキサゴナルの細孔配列構造を有するとは、細孔の配置が六方構造であることを意味する(S.Inagaki et al., J.Chem.Soc.,Chem.Commun., p.680(1993)、S.Inagaki et al., Bull.Chem.Soc.Jpn., 69,p.1449(1996)、Q.Huo et al., Science, 268,p.1324(1995)参照)。また、メソ多孔体がキュービックの細孔配列構造を有するとは、細孔の配置が立方構造であることを意味する(J.C.Vartuli et al., Chem.Mater., 6,p.2317(1994)、Q.Huo et al., Nature, 368,p.317(1994)参照)。また、メソ多孔体がディスオーダの細孔配列構造を有するとは、細孔の配置が不規則であることを意味する(P.T.Tanev et al., Science, 267,p.865(1995)、S.A.Bagshaw et al., Science, 269,p.1242(1995)、R.Ryoo et al., J.Phys.Chem., 100,p.17718(1996)参照)。また、前記キュービック構造は、Pm−3n、Ia−3d、Im−3m又はFm−3m対称性であることが好ましい。前記対称性とは、空間群の表記法に基づいて決定されるものである。
【0041】
次に、本発明の糖類の加水分解用触媒について説明する。すなわち、本発明の糖類の加水分解用触媒は、前述のメソポーラス有機シリカからなり、少なくとも前記複数の細孔の内壁面に存在する前記第一及び/又は第二の有機基(前記一般式(1)においてはR及び/又はR)にスルホン基(−SOH)が結合しているものである。
【0042】
このように、本発明の触媒においては、前述のメソポーラス有機シリカにおける少なくとも細孔の内壁面にスルホン基が導入されており、かかるスルホン基は、前記第一及び/又は第二の有機基(前記一般式(1)においてはR及び/又はR)、好ましくは前記第二の有機基(前記一般式(1)においてはR)、特に好ましくは前記第二の有機基としての前記一般式(2)におけるR、を介してケイ素原子に化学的に結合している。
【0043】
このようなメソポーラス有機シリカの細孔内においては、拡散律速による活性の低下が十分に防止されると共に反応物が濃縮されるため、細孔の内壁面に導入されたスルホン基による糖類の加水分解反応が促進される。さらに、メソポーラス有機シリカの安定な骨格にスルホン基が化学的に結合しているため、再使用による触媒の劣化が十分に抑制される。
【0044】
なお、本発明の触媒においては、メソポーラス有機シリカの少なくとも細孔の内壁面にスルホン基が導入されていればよいが、内壁面以外の表面や、内壁の内部にスルホン基が導入されていてもよい。
【0045】
また、本発明の触媒に導入されたスルホン基の量は、酸量として滴定法により求めることができる。例えば、スルホン基を含むメソポーラス有機シリカを所定の濃度の塩化ナトリウム水溶液に分散させた後、所定の濃度の水酸化ナトリウム水溶液で滴定することによって、スルホン基の量(酸量)を求めることができる。
【0046】
本発明の触媒に導入されるスルホン基の量は、特に制限されないが、0.01M水酸化ナトリウム水溶液を用いて滴定により求めたスルホン基の量(酸量)が、0.2〜2mmol/g程度であることが好ましい。スルホン基の量(酸量)が上記下限未満では、スルホン基による触媒作用が低下し易くなる傾向にあり、他方、上記上限を超えると、得られる触媒の材料強度が低下する傾向にある。
【0047】
このような本発明の触媒の形状は、特に限定されないが、糖類の加水分解用触媒として使用する際の利便性の観点から、粒子状或いは膜状であることが好ましい。例えば、粒子状の場合には、球状、六角柱状又は十八面体状の形状を有することが好ましい。
【0048】
形状が粒子状の場合、粒子の平均粒径は0.01〜100μmであることが好ましく、0.01〜50μmであることがより好ましく、0.1〜50μmであることが特に好ましい。触媒の平均粒径が0.01μm未満である場合は、粒子が飛散しやすく取り扱いが困難となる傾向にあり、他方、平均粒径が100μmを超える場合は、触媒内部の細孔が十分に利用できなくなる傾向にある。
【0049】
本発明の糖類の加水分解用触媒は、粉末のまま使用してもよいが、必要に応じて成形して使用してもよい。成形する手段はどのようなものでも良いが、押出成形、打錠成形、転動造粒、圧縮成形、CIP等が好ましい。その形状は使用箇所、方法に応じて決めることができ、たとえば円柱状、破砕状、球状、ハニカム状、凹凸状、波板状等が挙げられる。
【0050】
次に、本発明の糖類の加水分解用触媒を製造する方法について説明する。本発明の触媒を製造する方法は、特に制限されず、前述のメソポーラス有機シリカの少なくとも細孔内壁面にスルホン基が導入されてなるものを得ることができる方法であればよいが、以下の3つの方法(I)〜(III)が好ましい方法として挙げられる。
【0051】
(I)後述するシリカ原料を界面活性剤を含む水溶液に加えて酸性又はアルカリ性条件下で加水分解及び重縮合せしめてメソポーラス有機シリカを得る際に、後述するスルホン基を導入するための化合物を前記水溶液に同時に添加して本発明の触媒を製造する方法(以下、このような方法を「one pot」法という)。
【0052】
(II)後述するシリカ原料を界面活性剤を含む水溶液に加えて酸性又はアルカリ性条件下で加水分解及び重縮合せしめてメソポーラス有機シリカを得た後、後述するスルホン基を導入するための化合物を用いてメソポーラス有機シリカの少なくとも細孔の内壁面にスルホン基を結合させて本発明の触媒を製造する方法(以下、このような方法を「grafted」法という)。
【0053】
(III)後述するシリカ原料を界面活性剤を含む水溶液に加えて酸性又はアルカリ性条件下で加水分解及び重縮合せしめてメソポーラス有機シリカを得た後、濃硫酸、発煙硫酸、無水硫酸等を用いてメソポーラス有機シリカの少なくとも細孔の内壁面にスルホン基を直接的に結合させて本発明の触媒を製造する方法(以下、このような方法を「direct」法という)。
【0054】
先ず、「one pot」法について説明する。本発明にかかるメソポーラス有機シリカを合成する際に用いるシリカ原料としては、例えば下記一般式(3)で表される化合物が用いられ、後述する界面活性剤の存在下でこのような化合物の少なくとも1種類を加水分解及び重縮合せしめることによりメソポーラス有機シリカを得ることができる。
【0055】
【化5】

【0056】
ここで、上記一般式(3)中、R1及びmはそれぞれ先に述べた一般式(1)中のR1及びmと同義であり、ケイ素原子が結合するR1の炭素は同一でも異なっていてもよい。また、qは1〜3の整数を示す。さらに、上記一般式(3)中のXは1価の加水分解性基を示し、このような加水分解性基としては、アルコキシ基(好ましくは、メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜10の低級アルコキシ基)、水酸基、アシルオキシ基(好ましくは、アセトキシ基、ベンゾイルオキシ基等の炭素数1〜10の低級アルコキシ基)、ハロゲン原子(塩素原子、フッ素原子、臭素原子、沃素原子)等が挙げられる。また、上記一般式(3)中のRは、ケイ素原子に結合した炭素原子を有する1価の有機基を示し、このような有機基としては、アルキル基(好ましくは、メチル基、エチル基等の炭素数1〜10の低級アルキル基)、アルケニル基(好ましくは、ビニル基等の炭素数1〜10の低級アルケニル基)、アリール基(好ましくは、フェニル基、ビフェニル基等)等が挙げられる。
【0057】
なお、Rで表される有機基は置換基を有していてもよく、かかる置換基としてはスルホン基、メルカプト基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基等が挙げられるが、スルホン基(−SOH)か、或いはスルホン基に変換することが可能な置換基であるメルカプト基(−SH)が特に好ましい。このようなスルホン基及び/又はメルカプト基を有する化合物をシリカ原料として用いる場合、この化合物(シリカ原料)が後述するスルホン基を導入するための化合物を兼ねることができる。
【0058】
また、本発明においては、上記一般式(3)で表される化合物に、更なるシリカ原料としてアルコキシシラン等を加えて重縮合せしめてもよく、このようなアルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン等が挙げられる。さらに、このようなアルコキシシランとして、スルホン基、メルカプト基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基等の官能基を有するものを用いてもよく、特にスルホン基及び/又はメルカプト基を有するアルコキシシランを用いる場合はそのアルコキシシランが後述するスルホン基を導入するための化合物を兼ねることができる。
【0059】
本発明の触媒を得るためには、上記シリカ原料と共に、スルホン基を導入するための化合物を用いることが好ましい。このようなスルホン基を導入するための化合物としては、例えば下記一般式(4)で表される化合物が好適に用いられる。
【0060】
【化6】

【0061】
ここで、上記一般式(4)中、X1は先に述べた一般式(3)中のX1と同義であり、rは1〜3の整数を示す。また、上記一般式(4)中のXは、スルホン基(−SOH)又はスルホン基に変換することが可能な置換基(特に好ましくはメルカプト基(−SH))を有する1価の有機基を示す。このような有機基としては、スルホン基又はそれに変換することが可能な置換基を有するアルキル基(好ましくは、メチル基、エチル基等の炭素数1〜10の低級アルキル基)、スルホン基又はそれに変換することが可能な置換基を有するアルケニル基(好ましくは、ビニル基等の炭素数1〜10の低級アルケニル基)、スルホン基又はそれに変換することが可能な置換基を有するアリール基(好ましくは、フェニル基、ビフェニル基等)等が挙げられ、中でもスルホン酸アルキル基(−C2x−SOH)及び/又はメルカプトアルキル基(−C2x−SH)が特に好ましい。
【0062】
本発明にかかるメソポーラス有機シリカを合成する際に、前記シリカ原料と共に用いる界面活性剤としては、陽イオン性、陰イオン性、非イオン性のうちのいずれであってもよく、具体的には、アルキルトリメチルアンモニウム、アルキルトリエチルアンモニウム、ジアルキルジメチルアンモニウム、ベンジルアンモニウム等の塩化物、臭化物、ヨウ化物あるいは水酸化物;脂肪酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルリン酸塩、ポリエチレンオキサイド系非イオン性界面活性剤、一級アルキルアミン等が挙げられる。これらの界面活性剤は、単独で又は二種以上混合して用いられる。
【0063】
上記の界面活性剤のうち、ポリエチレンオキサイド系非イオン性界面活性剤としては、疎水性成分として炭化水素基、親水性部分としてポリエチレンオキサイドをそれぞれ有するポリエチレンオキサイド系非イオン性界面活性剤等が挙げられる。このような界面活性剤としては、例えば、一般式Cn2n+1(OCH2CH2mOHで表され、nが10〜30、mが1〜30であるものが好適に使用できる。また、このような界面活性剤としては、オレイン酸、ラウリン酸、ステアリン酸、パルミチン酸等の脂肪酸とソルビタンとのエステル、あるいはこれらのエステルにポリエチレンオキサイドが付加した化合物を用いることもできる。
【0064】
さらに、このような界面活性剤としては、トリブロックコポリマー型のポリアルキレンオキサイドを用いることもできる。このような界面活性剤としては、ポリエチレンオキサイド(EO)とポリプロピレンオキサイド(PO)からなり、一般式(EO)x(PO)y(EO)xで表されるものが挙げられる。x、yはそれぞれEO、POの繰り返し数を表すが、xは5〜110、yは15〜70であることが好ましく、xは13〜106、yは29〜70であることがより好ましい。上記のトリブロックコポリマーとしては、(EO)19(PO)29(EO)19、(EO)13(PO)70(EO)13、(EO)5(PO)70(EO)5、(EO)13(PO)30(EO)13、(EO)20(PO)30(EO)20、(EO)26(PO)39(EO)26、(EO)17(PO)56(EO)17、(EO)17(PO)58(EO)17、(EO)20(PO)70(EO)20、(EO)80(PO)30(EO)80、(EO)106(PO)70(EO)106、(EO)100(PO)39(EO)100、(EO)19(PO)33(EO)19、(EO)26(PO)36(EO)26が挙げられる。これらのトリブロックコポリマーはBASF社、アルドリッチ社等から入手可能であり、また、小規模製造レベルで所望のx値とy値を有するトリブロックコポリマーを得ることができる。
【0065】
また、エチレンジアミンの2個の窒素原子にそれぞれ2本のポリエチレンオキサイド(EO)鎖−ポリプロピレンオキサイド(PO)鎖が結合したスターダイブロックコポリマーも使用することができる。このようなスターダイブロックコポリマーとしては、一般式((EO)x(PO)y2NCH2CH2N((PO)y(EO)x2で表されるものが挙げられる。ここでx、yはそれぞれEO、POの繰り返し数を表すが、xは5〜110、yは15〜70であることが好ましく、xは13〜106、yは29〜70であることがより好ましい。
【0066】
このような界面活性剤の中では、結晶性の高いメソ多孔体を得ることができることから、アルキルトリメチルアンモニウム[Cp2p+1N(CH33]の塩(好ましくはハロゲン化物塩)を用いることが好ましい。また、その場合は、アルキルトリメチルアンモニウム中のアルキル基の炭素数は8〜22であることがより好ましい。このようなものとしては、塩化オクタデシルトリメチルアンモニウム、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、塩化テトラデシルトリメチルアンモニウム、臭化ドデシルトリメチルアンモニウム、臭化デシルトリメチルアンモニウム、臭化オクチルトリメチルアンモニウム、塩化ドコシルトリメチルアンモニウム等が挙げられる。
【0067】
本発明の触媒を「one pot」法により製造する場合、前記シリカ原料を前記界面活性剤を含む水溶液に加えて酸性又はアルカリ性条件下で加水分解及び重縮合せしめてメソポーラス有機シリカを得る際に、前記スルホン基を導入するための化合物を前記水溶液に同時に添加して加水分解及び重縮合せしめることにより、前記スルホン基を導入するための化合物が細孔内壁面を含む骨格内に導入されている有機シリカ前駆体(メソポーラス有機シリカの細孔内に界面活性剤が充填された状態のもの)が得られる。
【0068】
上記シリカ原料を重合せしめる方法は特に制限されないが、水又は水と有機溶媒との混合溶媒を溶媒として使用し、酸又は塩基触媒の存在下で前記シリカ原料を加水分解及び縮合反応せしめることが好ましい。ここで好適に用いられる有機溶媒としてはアルコール、アセトン等が挙げられ、混合溶媒とする場合の有機溶媒の含有量は5〜50重量%程度であることが好ましい。また、使用される酸触媒としては、塩酸、硝酸、硫酸といった鉱酸等が挙げられ、酸触媒を使用する場合の溶液はpHが6以下(より好ましくは2〜5)の酸性であることが好ましい。さらに、使用される塩基触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カリウム等が挙げられ、塩基触媒を使用する場合の溶液はpHが8以上(より好ましくは9〜11)の塩基性であることが好ましい。
【0069】
このような重合工程における前記シリカ原料の含有量は、ケイ素濃度換算で0.0055〜0.33mol/L程度であることが好ましい。また、前記溶液中の界面活性剤の濃度は0.05〜1mol/Lであることが好ましい。界面活性剤の濃度が前記下限未満であると細孔の形成が不完全となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると未反応で溶液中に残留する界面活性剤の量が増大して細孔の均一性が低下する傾向にある。
【0070】
さらに、「one pot」法における前記溶液中の前記スルホン基を導入するための化合物の濃度は、前記シリカ原料1モル(ケイ素濃度換算)に対して前記スルホン基を導入するための化合物が0.1〜3モルであることが好ましい。この化合物の濃度が前記下限未満では、細孔内壁面に導入されるスルホン基の量が少なくなって触媒活性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、均一なメソ細孔が形成されにくくなる傾向にある。
【0071】
また、前記シリカ原料(及び必要により前記スルホン基を導入するための化合物)を、界面活性剤の非存在下、酸性もしくはアルカリ性条件下で重縮合してオリゴマーを形成させ、このオリゴマーを含む水溶液中に界面活性剤を加え、酸性もしくはアルカリ性条件下でさらに重縮合させることもできる。
【0072】
界面活性剤存在下における重縮合においては、アルカリ性条件下による重縮合と、酸性条件下による重縮合とを交互に行うこともできる。この際、アルカリ性条件と酸性条件の順序は特に制限はないが、酸性条件で重縮合を行ってアルカリ性条件で重縮合を行うと、重合度が高まる傾向にある。なお、重縮合反応においては、攪拌と静置を交互に行うことが好ましい。
【0073】
重縮合の反応条件は、0〜100℃の温度で1〜48時間程度が好ましいが、温度が低い方が生成物の構造の規則性が高くなる傾向がある。構造の規則性を高くするために好ましい反応温度は20〜40℃である。一方、反応温度が高い方が、重合度が高く構造の安定性が高くなる傾向がある。重合度を高くするために好ましい反応温度は60〜80℃である。
【0074】
上記重縮合反応の後、熟成を行った後に生成した沈殿あるいはゲルを濾過し、必要に応じて洗浄を行った後に乾燥すると、細孔内に界面活性剤が充填されたままの有機シリカ前駆体が得られる。
【0075】
この前駆体を、重縮合反応において使用したものと同じ界面活性剤を含む水溶液(典型的には重縮合反応時と同等かそれ以下の界面活性剤濃度とする)中あるいは水等の電解質液中に分散させ、当該前駆体を50〜200℃で水熱処理することができる。この場合、重縮合反応において使用した溶液をそのままあるいは希釈して加熱することができる。加熱温度は60〜100℃であることが好ましく、70〜80℃であることがより好ましい。また、この時のpHは弱アルカリ性であることが好ましく、pHは例えば8〜8.5であることが好ましい。この水熱処理の時間には特に制限はないが、1時間以上が好ましく、3〜8時間がより好ましい。
【0076】
このような水熱処理後、前駆体を濾過した後に乾燥し、余剰の処理液を取り去る。なお、前記前駆体を上記水溶液あるいは溶媒中に分散してpH調整後水熱処理を開始する前に、あらかじめ室温で数時間〜数十時間程度攪拌処理を行ってもよい。
【0077】
次いで、前記の有機シリカ前駆体から界面活性剤を除去することにより、前記スルホン基を導入するための化合物が細孔内壁面を含む骨格内に導入されているメソポーラス有機シリカを得ることができる。このように界面活性剤を除去する方法としては、例えば、(i)界面活性剤に対する溶解度が高い有機溶媒(例えば、エタノール)中に前記メソ多孔体を浸漬して界面活性剤を除去する方法、(ii)前記メソ多孔体を300〜1000℃で焼成して界面活性剤を除去する方法、(iii)前記メソ多孔体を酸性溶液に浸漬して加熱し、界面活性剤を水素イオンに交換せしめるイオン交換法、等を挙げることができる。
【0078】
そして、このようにして得られたメソポーラス有機シリカにおいて既にスルホン基が細孔内壁面に導入されている場合は、そのまま本発明の触媒として用いることができるが、スルホン基に変換することが可能な置換基(例えばメルカプト基)が導入されている場合は、少なくとも細孔内壁面に存在するかかる置換基を酸化剤(過酸化水素、硝酸等)を用いて酸化せしめ、スルホン基に変換することにより本発明の触媒を得ることができる。
【0079】
次に、「grafted」法について説明する。すなわち、「grafted」法においては、前記シリカ原料を界面活性剤を含む水溶液に加えて酸性又はアルカリ性条件下で加水分解及び重縮合せしめ、得られた有機シリカ前駆体から界面活性剤を除去することによってメソポーラス有機シリカを得た後、前記スルホン基を導入するための化合物を用いてメソポーラス有機シリカの少なくとも細孔の内壁面にスルホン基を結合させて本発明の触媒を得る。なお、このようなメソポーラス有機シリカを得る方法は、例えば、S.Inagaki et al.,Nature,vol.416,p.304−307,2002に記載されている。
【0080】
かかる「grafted」法においてメソポーラス有機シリカの少なくとも細孔の内壁面にスルホン基を導入する方法としては、例えば以下の方法が好適に採用される。すなわち、前記メソポーラス有機シリカを、例えばクロロホルム等の溶媒に分散せしめ、前記スルホン基を導入するための化合物を添加して攪拌することによって、前記スルホン基を導入するための化合物が少なくとも細孔内壁面に結合しているメソポーラス有機シリカを得ることができる。なお、この工程における反応条件は特に制限されないが、前記スルホン基を導入するための化合物の濃度は0.01〜0.5mol/L程度、温度は20〜80℃程度、攪拌時間は5〜120時間程度が好ましい。
【0081】
そして、このようにして得られたメソポーラス有機シリカにおいて既にスルホン基が細孔内壁面に導入されている場合は、そのまま本発明の触媒として用いることができるが、スルホン基に変換することが可能な置換基(例えばメルカプト基)が導入されている場合は、少なくとも細孔内壁面に存在するかかる置換基を酸化剤(過酸化水素、硝酸等)を用いて酸化せしめ、スルホン基に変換することにより本発明の触媒を得ることができる。
【0082】
次に、「direct」法について説明する。すなわち、「direct」法においては、前記「grafted」法と同様にしてメソポーラス有機シリカを得た後、発煙硫酸、無水硫酸等を用いてメソポーラス有機シリカの少なくとも細孔の内壁面にスルホン基を直接的に結合させて本発明の触媒を得る。
【0083】
かかる「direct」法において、発煙硫酸、無水硫酸等を用いてメソポーラス有機シリカの少なくとも細孔の内壁面にスルホン基を直接的に結合させる具体的な方法は特に制限されないが、メソポーラス有機シリカを分散させる溶液中の発煙硫酸の濃度は10〜50%程度、温度は20〜100℃程度、攪拌時間は5〜120時間程度が好ましい。なお、濃硫酸及び無水硫酸はそのままの濃度で使用することが好ましい。
【0084】
次に、本発明の糖類の加水分解方法について説明する。すなわち、本発明の糖類の加水分解方法は、前述の本発明の加水分解用触媒と糖類とを接触させることを特徴とする方法である。
【0085】
ここで、本発明の加水分解方法の対象となる糖類としては、特に制限されないが、二つの単糖分子がグリコシド結合によって結合したショ糖等の二糖類や、単糖分子がグリコシド結合によって多数重合したスターチ、デンプン(アミロース、アミロペクチン、グリコーゲン等)、セルロース等の多糖類が好適である。
【0086】
また、本発明の加水分解用触媒と糖類とを接触させる具体的な方法も特に制限はなく、液相、気相の両方が用いられる。さらに、反応圧力や反応温度も特に制限はない。また、固定床、移動床、流動床のいずれの接触方法も好適に用いられるが、操作の容易さから工業的には固定床流通式が特に好ましい。さらに、コーキング等を抑制するために、水素等を共存させても構わない。
【実施例】
【0087】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0088】
(実施例1)
以下に示す合成手順により、前記一般式(1)で表される構成単位からなる骨格を有するメソポーラス有機シリカ(粉末状)の中で、R1が「−C24−」、R2が前記一般式(2)におけるRが「−C3−SO3H」又は「−C3−SH」に相当する構造を有しているメソポーラス有機シリカ(以下、「Et-One pot」という)を合成した。なお、ここでは、メソポーラス有機シリカの合成過程において、骨格内に「−C3−SH」が結合した構造を有するメソポーラス有機シリカを先ず合成しておき、その少なくとも細孔内壁面に存在するチオール基をスルホン基に変換せしめた。
【0089】
先ず、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロリド(C1837N(CH33Cl、以下、「C18TMACl」という)1.98gをイオン交換水51.85gに溶解させた。この水溶液に2mol/LのNaOH水溶液11.75gを加え、液が透明となるまで50℃で攪拌し、透明な溶液となったのを確認した後、この溶液を放置して室温まで冷却した。
【0090】
次に、この溶液に、1,2-ビス(トリメトキシシリル)エタン(以下、「BTME」という)1.62gと、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(以下、「MPTMS」という)0.79gを混合して得た溶液をゆっくりと加えた。その後、得られた溶液に対して超音波処理を20分間行い、溶液を均一化させた。次に、この溶液を室温で12時間攪拌した後、95℃で攪拌せずに24時間加熱した。そして、加熱後に得られた溶液を放置して室温にまで冷却し、ろ過により固形物を回収し、この固形物を洗浄し更に乾燥させて、白色粉末を得た。
【0091】
次に、テンプレートとして作用している界面活性剤を白色粉末中から除去するために、白色粉末1gを、200mLのエタノールと36質量%の塩酸3gとの混合溶液中に分散させ、50℃で6時間攪拌した。その後、ろ過により固形物を回収し、この固形物を洗浄し更に乾燥させて、骨格内に「−C3−SH」が結合した構造を有するメソポーラス有機シリカを得た。
【0092】
次に、得られたメソポーラス有機シリカの表面(細孔の内壁面を含む)のチオール基(「−SH」)をスルホン基(「−SO3H」)に変換するために、メソポーラス有機シリカをHNO3により以下のように処理した。
【0093】
すなわち、0.5gのメソポーラス有機シリカを20質量%のHNO3水溶液中にゆっくりと浸漬させた後、10gの濃HNO3をゆっくりと加え、室温で24時間攪拌した。その後、この液に10mLのイオン交換水を更に加え、ろ過により固形物を回収した。この固形物をイオン交換水で十分に洗浄した後、80℃で一晩(約12時間)乾燥させることにより、本発明の触媒であるメソポーラス有機シリカ(Et-One pot)を得た。
【0094】
得られたメソポーラス有機シリカのBET比表面積、中心細孔直径、並びにスルホン基の量(酸量)を求めたところ、それらの結果は表1に示す通りであった。なお、窒素吸着等温線はAUTOSORB−1 GAS SORPTION SYSTEM(カンタクローム社製,商品名)を用いて測定した。このとき、窒素吸着等温線の測定の際の各メソポーラス有機シリカの脱気処理は、処理系内の圧を1.2×10-2torr以下に調節し、室温で2時間以上行った。更に、メソポーラス有機シリカの比表面積はBET法により算出し、中心細孔直径はBJH法によって算出した。
【0095】
また、得られたメソポーラス有機シリカのスルホン基の量(酸量)は、以下の酸−塩基滴定法により水素イオンの量[mmol/g]として求めた。すなわち、先ず、メソポーラス有機シリカ0.1gを水還流下で1時間洗浄した後、2mol/LのNaCl水溶液20g中に分散させ、24時間室温で攪拌した。次に、その水溶液を0.01mol/LのNaOH標準水溶液を用いて滴定することによって滴定曲線を得て、これに基づいて水素イオンの量を求めた。
【0096】
さらに、得られたメソポーラス有機シリカを水還流下で1時間洗浄し、さらに150℃で1時間真空乾燥させて結合力の弱いスルホン基及びその他の不純物を除去したものについてXRDパターンを確認したところ、2−Dヘキサゴナル構造(p6mm)が維持されていることが確認された。
【0097】
(実施例2)
以下に示す合成手順により、前記一般式(1)で表される構成単位からなる骨格を有するメソポーラス有機シリカ(粉末状)の中で、R1が「−C24−」、R2が前記一般式(2)におけるRが「−C3−SO3H」又は「−C3−SH」に相当する構造を有しているメソポーラス有機シリカ(以下、「Et-Grafted」という)を合成した。なお、ここでは、メソポーラス有機シリカの合成過程において、細孔表面(細孔の内壁面を含む)に「−C3−SH」が結合した構造を有するメソポーラス有機シリカを先ず合成しておき、その少なくとも細孔内壁面に存在するチオール基をスルホン基に変換せしめた。
【0098】
先ず、文献(S.Inagaki et al.,Nature,vol.416,p.304−307,2002)に記載の方法に従い、エチレン基(R1)のみを骨格に導入した有機シリカ前駆体を合成し、得られた有機シリカ前駆体から界面活性剤を除去することによってメソポーラス有機シリカを得た。次に、得られたメソポーラス有機シリカ1.28gを100mLのクロロホルム中に分散させ、更にそこにMPTMS2mLを加え、室温で5日間攪拌した。次いで、撹拌後の液中に存在する固形物をろ過で回収し、クロロホルムで十分に洗浄した後に室温で乾燥し、細孔表面に「−C3−SH」が結合した構造を有するメソポーラス有機シリカを得た。
【0099】
次に、得られたメソポーラス有機シリカの表面(細孔の内壁面を含む)のチオール基(「−SH」)をスルホン基(「−SO3H」)に変換するために、メソポーラス有機シリカをHNO3により以下のように処理した。
【0100】
すなわち、0.5gのメソポーラス有機シリカを20質量%のHNO3水溶液中にゆっくりと浸漬させた後、10gの55質量%HNO3水溶液をゆっくりと加え、室温で24時間攪拌した。その後、この液に20mLのイオン交換水を更に加え、ろ過により固形物を回収した。この固形物をイオン交換水100mL中に分散させて30分間撹拌した。その後、再び、この液に20mLのイオン交換水を更に加え、ろ過により固形物を回収し、イオン交換水で十分に洗浄した後、80℃で一晩(約12時間)乾燥させることにより、本発明の触媒であるメソポーラス有機シリカ(Et-Grafted)を得た。
【0101】
得られたメソポーラス有機シリカのBET比表面積、中心細孔直径、並びにスルホン基の量(酸量)を実施例1と同様にして求めたところ、それらの結果は表1に示す通りであった。
【0102】
(実施例3)
以下に示す合成手順により、前記一般式(1)で表される構成単位からなる骨格を有するメソポーラス有機シリカ(粉末状)の中で、R1がフェニレン基、R2が前記一般式(2)におけるRが「−C3−SO3H」又は「−C3−SH」に相当する構造を有しているメソポーラス有機シリカ(以下、「Ph-One pot」という)を合成した。なお、ここでは、メソポーラス有機シリカの合成過程において、骨格内に「−C3−SH」が結合した構造を有するメソポーラス有機シリカを先ず合成しておき、その少なくとも細孔内壁面に存在するチオール基をスルホン基に変換せしめた。
【0103】
先ず、C18TMACl2.67gをイオン交換水69.94gに溶解させた。この水溶液に2mol/LのNaOH水溶液10.62gを加え、液が透明となるまで50℃で攪拌し、透明な溶液となったのを確認した後、この溶液を放置して室温まで冷却した。
【0104】
次に、この溶液に、1,4-ビス(トリエトキシシリル)ベンゼン(以下、「BTEB」という)1.21gと、MPTMS0.393gを混合して得た溶液をゆっくりと加えた。その後、この溶液を室温で12時間攪拌した後、95℃で攪拌せずに24時間加熱した。そして、加熱後に得られた溶液を放置して室温にまで冷却し、ろ過により固形物を回収し、この固形物を洗浄し更に乾燥させて、白色粉末を得た。
【0105】
次に、テンプレートとして作用している界面活性剤を白色粉末中から除去するために、白色粉末1gを、200mLのエタノールと36質量%の塩酸3gとの混合溶液中に分散させ、55℃で6時間攪拌した。その後、ろ過により固形物を回収し、この固形物を洗浄し更に乾燥させて、骨格内に「−C3−SH」が結合した構造を有するメソポーラス有機シリカを得た。
【0106】
次に、得られたメソポーラス有機シリカの表面(細孔の内壁面を含む)のチオール基(「−SH」)をスルホン基(「−SO3H」)に変換するために、メソポーラス有機シリカをHNO3により以下のように処理した。
【0107】
すなわち、0.5gのメソポーラス有機シリカを20質量%のHNO3水溶液中にゆっくりと浸漬させた後、10gの濃HNO3をゆっくりと加え、室温で24時間攪拌した。その後、この液に10mLのイオン交換水を更に加え、ろ過により固形物を回収した。この固形物をイオン交換水で十分に洗浄した後、80℃で一晩(約12時間)乾燥させることにより、本発明の触媒であるメソポーラス有機シリカ(Ph-One pot)を得た。
【0108】
得られたメソポーラス有機シリカのBET比表面積、中心細孔直径、並びにスルホン基の量(酸量)を実施例1と同様にして求めたところ、それらの結果は表1に示す通りであった。
【0109】
(比較例1〜4)
比較例1〜4においては触媒として以下に示すものをそれぞれ用いた。
比較例1:アンバーリスト15(Amberlyst-15、アクロス社製、商品名:アンバーリスト15(ドライ)イオン交換樹脂)
比較例2:ナフィオンシリカ(Nafion-silica、アルドリッチ社製、商品名:ナフィオンSAC−13)
比較例3:HZSM−5(ゼオリスト社製、商品名:CBV4024)
比較例4:硫酸溶液(濃度は5質量%、関東化学社製、商品名:硫酸)。
【0110】
比較例1〜4において用いた各触媒のBET比表面積(比較例4は除く)、中心細孔直径(比較例1及び4は除く)、並びにスルホン基の量(酸量)を実施例1と同様にして求めたところ、それらの結果は表1に示す通りであった。
【0111】
<ショ糖の加水分解試験>
実施例1〜3で得られたメソポーラス有機シリカ(触媒)を、先ず水還流下で1時間洗浄し、さらに150℃で1時間真空乾燥させて、結合力の弱いスルホン基及びその他の不純物を除去した。
【0112】
続いて、実施例1〜3の触媒と比較例1〜4の触媒0.2gをそれぞれ、ショ糖0.4g(1.17mmol)及び水20g(1.11mol)と共に還流及び攪拌装置付のガラス反応器に入れ、80℃の温度でショ糖の加水分解を進行させた。
【0113】
加水分解により生成されたグルコースとフルクトースの生成量を高速液体クロマトグラフィー(Luna 5u NH2 100A、150×4.6mm、RID)を用いて経時的に測定し、得られた結果を図1に示す。また、4時間後の転化率、1時間後の比活性{転化されたショ糖量[mmol]/(酸量[mmol]・時間[min])}、グルコース及びフルクトースの収率を求めた結果を表1に示す。なお、グルコース及びフルクトースの収率は、ショ糖の初期量(モル)が分解されて形成された生成物の量(モル)に基づいて求めた。
【0114】
【表1】

【0115】
図1に示した結果から明らかな通り、実施例1〜3の触媒(Et-One pot、Et-Grafted、Ph-One pot)は、HZSM−5及びナフィオンシリカより優れたショ糖転化作用を示しており、また、アンバーリスト15に対しても同等以上のものであった。
【0116】
また、表1に示した結果から明らかな通り、実施例1〜3の触媒(Et-One pot、Et-Grafted、Ph-One pot)は、ショ糖加水分解に関する酸量あたりの比活性がHZSM−5、ナフィオンシリカ及びアンバーリスト15より高く、中でも、実施例1の触媒(Et-One pot)は硫酸溶液よりも比活性が高いものであった。
【0117】
さらに、実施例1〜3の触媒(Et-One pot、Et-Grafted、Ph-One pot)によって達成されたグルコース及びフルクトースの収率は十分に高く、副生成物は形成されなかったことから、ショ糖の加水分解として十分に満足のいくものであった。
【0118】
<スターチの加水分解試験>
実施例1〜2で得られたメソポーラス有機シリカ(触媒)を、先ず水還流下で1時間洗浄し、さらに150℃で1時間真空乾燥させて、結合力の弱いスルホン基及びその他の不純物を除去した。
【0119】
続いて、実施例1〜2の触媒と比較例1〜3の触媒0.1gをそれぞれ、スターチ0.2g及び水10gと共に還流及び攪拌装置付のガラス反応器に入れ、130℃の温度でスターチの加水分解を進行させた。
【0120】
加水分解により生成されたグルコースとマルトースの6時間後の生成量を高速液体クロマトグラフィー(Luna 5u NH2 100A、150×4.6mm、RID)を用いて測定し、6時間後の転化度(TOF){生成したグルコース量[mol%]/(酸量[mmol]・時間[hr])}、並びにグルコース及びマルトースの収率を求めた。得られた結果を図2及び表2に示す。なお、グルコース及びマルトースの収率は、スターチの初期量(モル)が分解されて形成された生成物の量(モル)に基づいて求めた。
【0121】
【表2】

【0122】
図2に示した結果から明らかな通り、実施例1〜2の触媒(Et-One pot、Et-Grafted)は、アンバーリスト15、ナフィオンシリカ及びHZSM−5より優れた転化度(TOF)を示した。また、表2に示した結果から明らかな通り、実施例1の触媒(Et-One pot)によれば、グルコースに加えて少量のマルトースが生成されることが確認された。
【0123】
<触媒の繰り返し使用試験>
実施例3で得られたメソポーラス有機シリカ(触媒)を、先ず水還流下で1時間洗浄し、さらに150℃で1時間真空乾燥させて、結合力の弱いスルホン基及びその他の不純物を除去した。
【0124】
続いて、実施例3の触媒0.2gを、ショ糖0.4g及び水20gと共に還流及び攪拌装置付のガラス反応器に入れ、80℃の温度でショ糖の加水分解を360分進行させ、ショ糖の転化率を経時的に測定した(1回目の加水分解(1st))。
【0125】
次に、前記反応器中の触媒を遠心分離によりろ液から分離し、触媒を冷水で1回洗浄した後、何ら賦活処理を施すことなく、得られた触媒を用いて1回目の加水分解と同様にしてショ糖の加水分解を360分進行させ、ショ糖の転化率を経時的に測定した(2回目の加水分解(2nd))。
【0126】
更に、2回目の加水分解と同様に触媒を繰り返し使用して、3回目の加水分解(3rd)及び4回目の加水分解(4th)を順次行った。得られた結果を図3に示す。
【0127】
また、1回目の加水分解が終了した前記反応器中の触媒を遠心分離により分離した残りのろ液を用いて1回目の加水分解と同様にしてショ糖の加水分解を試み、ショ糖の転化率を経時的に測定した。この試験により得られた結果も図3に示す。
【0128】
図3に示した結果から明らかな通り、実施例3の触媒(Ph-One pot)は、繰り返し使用しても活性が低下しないことが確認された。また、加水分解処理後のろ液を触媒なしで用いた場合は、ショ糖の加水分解が全く進行せず、かかるろ液に活性がないことが確認された。
【0129】
以上の結果から、本発明の触媒においては、スルホン基が強く結合しているためスルホン基が脱離せず、しかも反応物及び反応生成物によりメソ細孔が塞がれないことから、本発明の触媒は効果的に繰り返し使用することが可能であることが確認された。
【0130】
<触媒的反応の確認試験>
実施例1で得られたメソポーラス有機シリカ(触媒)を、先ず水還流下で1時間洗浄し、さらに150℃で1時間真空乾燥させて、結合力の弱いスルホン基及びその他の不純物を除去した。
【0131】
次に、実施例1の触媒0.2gを、ショ糖0.4g及び水20gと共に還流及び攪拌装置付のガラス反応器に入れ、80℃の温度でショ糖の加水分解を進行させ、フルクトースの生成量及びショ糖の転化率を経時的に測定した。そして、ショ糖の転化率が70%に到達した時点(約520分後)で、消費されたショ糖量に相当する量のショ糖を前記反応器中に再添加した。得られた結果を図4に示す。
【0132】
また、上記の反応開始直後の反応速度定数(1st reaction kobs)及びショ糖の再添加直後の反応速度定数(2nd reaction kobs)を求めたところ、以下の通りであった。
1st reaction kobs:3.5×10−3/min
2nd reaction kobs:3.3×10−3/min。
【0133】
図4に示した結果及び上記の反応速度定数から明らかな通り、実施例1の触媒を用いた場合のショ糖の加水分解反応は、触媒的に進行していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0134】
以上説明したように、本発明によれば、ショ糖等の二糖類やスターチ等の多糖類をオリゴ糖や単糖類に効率的に分解することが可能な優れた触媒作用を有しており、しかも再使用による劣化が十分に抑制されかつ分解生成物からの分離が容易であり、経済的で環境への負荷が小さい糖類の加水分解用触媒を提供することが可能となる。
【0135】
したがって、このような触媒を用いた本発明の糖類の加水分解方法によれば、エタノール、酢酸、酪酸等の合成原料等として有用な単糖類を、石油資源に頼ることなく再生可能な触媒を使って効率良く合成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0136】
【図1】ショ糖の加水分解試験の結果(ショ糖転化率)を示すグラフである。
【図2】スターチの加水分解試験の結果(転化度)を示すグラフである。
【図3】触媒の繰り返し使用試験の結果(ショ糖転化率)を示すグラフである。
【図4】触媒的反応の確認試験の結果(フルクトース生成量)を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素原子を1以上有する2価以上の第一の有機基と、前記第一の有機基中の同一若しくは異なる炭素原子に結合した2以上のケイ素原子と、前記ケイ素原子に結合した1以上の酸素原子と、前記ケイ素原子及び/又は該ケイ素原子に酸素原子を介して結合しているケイ素原子に結合した1価以上の第二の有機基とからなる骨格を有し、中心細孔直径が1〜30nmである複数の細孔を有するメソポーラス有機シリカからなり、
少なくとも前記複数の細孔の内壁面に存在する前記第一及び/又は第二の有機基にスルホン基が結合していることを特徴とする糖類の加水分解用触媒。
【請求項2】
前記骨格が、下記一般式(1):
【化1】

[式(1)中、Rは炭素原子を1以上有する2価以上の第一の有機基を示し、Rは、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアシルオキシ基、及び、下記一般式(2):
【化2】

[式(2)中、Rは、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアルコキシ基及び置換基を有していてもよいアシルオキシ基からなる群から選択される少なくとも一つの基を示し、pは0〜2の整数を示す。ただし、Rが複数存在する場合はRは同一でも異なっていてもよい。]
で表される基からなる群から選択される少なくとも一つの基を示し、nは1〜3の整数を示し、mは2以上の整数を示す。ただし、ケイ素原子が結合するR中の炭素は同一でも異なっていてもよく、全ての構成単位においてn=3ではなく、構成単位中にRが複数存在する場合はRは同一でも異なっていてもよく、少なくとも前記複数の細孔の内壁面に存在するR及び/又はRにはスルホン基が結合している。]
で表される構成単位の少なくとも1種類からなることを特徴とする請求項1に記載の糖類の加水分解用触媒。
【請求項3】
前記Rが前記一般式(2)で表される基であり、少なくとも前記複数の細孔の内壁面に存在するRには前記置換基としてスルホン基が結合していることを特徴とする請求項2に記載の糖類の加水分解用触媒。
【請求項4】
請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の加水分解用触媒と糖類とを接触させることを特徴とする糖類の加水分解方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−88041(P2006−88041A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−276992(P2004−276992)
【出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】