説明

糸切れを防止する方法

本発明は、紡糸工程時の糸切れを防止するために、マルチフィラメント糸の各フィラメントを個々に洗浄すること、および中和する場合は、マルチフィラメント糸の各フィラメントを個々に中和することを含んでなるマルチフィラメント糸の紡糸工程であって、この紡糸工程が、マルチフィラメント糸を得るためにスピナレットを介したポリマーの紡糸、糸の洗浄、および任意に糸の中和および/または乾燥ならびにボビン上への糸の巻取りを含んでなる紡糸工程の使用に関する。この糸は、噴射式洗浄装置で洗浄することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィラメント糸の紡糸工程時に糸切れを防止する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ロール機上での液体処理時に糸が切れることが、糸の製造における一般的な問題点となっている。紡糸直後の糸の洗浄など、糸の液体処理時において、糸をロール対上で数回回転させて、糸に洗浄液をスプレーするか、あるいは洗浄液と接触させることが慣例である。フィラメント切れのため、連続紡糸工程が維持し難く、紡糸工程の糸切れおよび運転停止に至る。したがって、通常、この問題は、紡糸されたフィラメントを互いに離しておくことによって、最少化されている。特許文献1には、双方のロールを対で駆動させる同期モーターを使用することによって、ロール上での液体処理時の糸切れを軽減させ得ることが記載されている。実質的に同じ速度でロールを駆動するように設定され、実質的に同じ直径を有するロールを使用したこのような同期モーターの使用により、先行技術の設定を用いるよりも糸切れが少なくなることが判明している。しかし、単に同期ロール駆動モーターを使用するだけでは、糸切れの軽減は十分ではなく、また、適切な前進および適切な間隔を維持するためには、糸に僅かな張力を適用しなければならない。処理液の表面張力による隣接する糸どうし間の引力を排除することが要請されている。隣接する糸どうしの間隔が近接している場合、処理液の表面張力によって互いに一層密に引張り合い、その時この液体により糸間に液体ウェブを形成し得ることが認められている。これらの問題を防止するために、糸どうしを互いに約0.64cm以上に近接してはならないことが、さらに記載されている。間隔(ピッチとも呼ばれる)がそれ以上近接すると、フィラメント切れやラップ、最終的には糸切れを招く。
【0003】
本発明は、モーター駆動に関してより多くの自由度を与え、適用張力を最少にし、糸どうしの間隔をあけることを可能にする糸切れ問題のより簡便な解決策に関する。
フィラメント切れや糸切れの除去は、洗浄ステップや中和ステップなどの液体が適用されるステップを改変することによって達成し得ることがこの度判明した。洗浄や中和は通常、紡糸路における糸上に水を噴霧することにより、または水を含有する装置を通して紡糸された糸を引っ張ることにより実施される。このような方法は特許文献1に記載されており、そこでは、液体マニホールドバーから水が噴霧されて糸に接触する。糸に噴霧され、その中に含有されたフィラメントはフィラメントの束として洗浄されるが、その噴霧はフィラメントのそれぞれに個々に当たるわけではない。
特許文献2には、工程または湿式紡糸またはアラミド繊維が記載されている。これらの繊維は、3つの噴射式排出機モジュールを用いて洗浄セクターにおいて洗浄できる。この文献では、噴射式洗浄装置は開示されているが、糸玉の各々のフィラメントが個々に洗浄されることは開示されていない。この文献はまた、噴射式洗浄装置の使用により糸のフィラメントが個々に洗浄されればより少ない糸切れに至り得るという技術的教示を開示しているものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5,034,250号
【特許文献2】米国特許第5,667,743号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らはこの度、マルチフィラメント糸の製造のための紡糸工程において、例えば噴射式洗浄装置を適用することにより、マルチフィラメント糸のフィラメントを個々に洗浄または中和する新規な使用を発見したが、この使用によってマルチフィラメント糸の紡糸工程時の糸切れが防止される。この紡糸工程は、スピナレットを介してポリマーを紡糸してマルチフィラメント糸を得ること、この糸を洗浄すること、任意にこの糸を中和および/または乾燥すること、およびこの糸をボビンに巻き取ることを含んでなり、糸の各々のフィラメントが個々に洗浄され、また中和される場合は個々に中和されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
液体処理が、特に洗浄処理および中和処理に関して、糸の個々のフィラメントに対してなされる場合、同期モーター駆動や張力の正確な制御および間隔あけがもはや最大の重要事項ではなくなる程度にまで、フィラメントのからみ合いおよび糸切れがかなり減少することが分かった。本発明の条件下では、0.05%を超える違いを有する表面速度でロールが回転でき、それによって、紡糸工程および洗浄/中和工程がかなり簡便化されることに注意することが重要である。本発明の条件下では、非同期的なモーター駆動の使用も可能であり、張力の制御はもはや重要ではない。先に少なくとも0.64cm必要であった間隔は、フィラメントのからみ合いおよび糸切れの決定的な増加なしに、約0.4cm、またはさらに約0.2cmにまで容易に減少させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の工程は、スピナレットを介してのポリマー紡糸および糸へのポリマー凝固の後、ならびにボビンへの糸の巻取り前の、任意のデニールを有する糸の洗浄処理および中和処理、またはより一般的に任意の液体処理において特に用いられる。より高デニールの糸の工程で利益が最も大きい。70dtex〜450dtexの糸など低デニールの糸は、液体処理の表面張力による影響が最も大きいため、間隔要件の厳密さがより低いことから利益は得にくく、したがって、より損われやすくなる可能性がある。
実際に糸の液体処理は、1分間当り50メートルの低速から1,200メートルの高速の範囲の任意の糸速度で実施することができるが、あらゆる速度で糸切れが発生する。本発明の工程は、実質的にあらゆる糸に対してあらゆる速度において実質的に糸切れの無い操作を可能にする。
【0008】
個々のフィラメントの液体処理は、糸玉を液体処理単一フィラメントに開放することができる任意の高圧液体装置によって実施することができ、多数の噴射式洗浄装置によって実施されることが好ましく、また最も容易である。紡糸路の長さに依って、例えば5機から30機の噴射式洗浄装置を各々の糸に対して使用することができる。噴射式洗浄装置は、糸玉の開放、および各フィラメントの周囲にある境界層の再生に特に有効である。当業界において糸の噴射式洗浄自体は、例えば、英国特許第762,959号および国際公開第93/06266号に知られている。噴射式洗浄装置は、洗浄処理と中和処理の双方に、またはフィラメント上へのコーティング適用あるいは仕上げなどの他の液体処理に使用することができる。各糸玉に対して少なくとも1機の個別の噴射式洗浄装置を使用できるように、噴射式洗浄装置を小型化することができる。糸から過剰の水分を除去することによってさらに改良を行うことができる。隣接する糸どうしが水などの処理液の表面張力によって引き合い、その時この液体は糸間に液体ウェブを形成し得るが、洗浄または中和後に糸上に残る液体をできるだけ少なくすると、これらの引力を減少させることができる。したがって、噴射式洗浄装置を通過した後の糸の外面から過剰の液体を除去することが、さらなる改良点である。液体の除去は、エアジェット、ストリッパ、ピンなどによって実施することができる。
【0009】
本発明の工程は、凝固浴直後の湿潤繊維またはエアギャップ紡糸繊維の洗浄に特に有用である。このような湿潤繊維またはエアギャップ紡糸繊維としては、ポリ(m−フェニレンイソフタルアミド)などのメタアラミド類、ポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)(Twaron(登録商標)、Kevlar(登録商標)として市販されている)、コポリ−(p−フェニレン/3,4’−オキシジフェニレンテレフタルミド(Technora(登録商標))などのパラアラミド類、ポリp−フェニレン−2,6−ベンゾビスオキサゾール(Zylon(登録商標))、ポリ(2,6−ジイミダゾ[4,5−b:4’5’−e]ピリジニレン−1,4(2,5−ジヒドロキシ)−フェニレン)(PIPD、M5(登録商標))などのポリベンズアゾール型繊維などが挙げられる。
【実施例】
【0010】
本発明を、以下の実施例によって説明する。
A.洗浄と中和のための従来のロール機を用いて、440dtexPPTA(ポリ(p−フェニレンテレフタルアミド))糸を、水および希釈塩基で処理した。糸の間隔は0.48cmであった。液体マニホールドを用いて糸玉上に水を噴霧し、紡糸された繊維を室温で水により洗浄した。糸切れ前の運転時間は、4時間〜32時間(平均約15時間)であった。
B.洗浄と中和のためのロール機を用いて、420dtexPPTA糸を、水および希釈塩基で処理した。糸の間隔は0.40cmであった。糸玉の各々に対して20機の噴射式洗浄装置を用いて紡糸された繊維を洗浄し中和した。糸切れ前の運転時間は極めて長かった(糸切れのない状態で数ヶ月の運転時間が可能であった)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紡糸工程時の糸切れを防止するために、マルチフィラメント糸の各フィラメントを個々に洗浄すること、および中和する場合は、マルチフィラメント糸の各フィラメントを個々に中和することを含んでなるマルチフィラメント糸の紡糸工程であって、前記紡糸工程が、スピナレットを介してポリマーを紡糸し、マルチフィラメント糸を得る工程、前記糸を洗浄し、および任意に前記糸を中和しおよび/または乾燥する工程ならびに前記糸をボビンへ巻取る工程を含んでなる紡糸工程の使用。
【請求項2】
前記糸の洗浄および中和に噴射式洗浄装置が用いられる請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記噴射式洗浄装置を通過した後の、前記糸の外面から過剰の液体が除去される請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記マルチフィラメント糸が、アラミド糸である請求項1〜3のいずれか一項に記載の使用。

【公表番号】特表2010−537063(P2010−537063A)
【公表日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−521344(P2010−521344)
【出願日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際出願番号】PCT/EP2008/006684
【国際公開番号】WO2009/024286
【国際公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(501469803)テイジン・アラミド・ビー.ブイ. (48)
【Fターム(参考)】