説明

糸加熱装置及び糸加熱装置の使用方法

【課題】仮撚加工において、特に細い糸、特にポリアミド糸の場合における糸加熱装置内でのバルーニングを回避できる加熱装置を提供する。
【解決手段】 糸通路5を備える加熱区域3と、前記糸通路5に配設された少なくとも1つの加熱壁7と、前記加熱壁7を加熱するために設けされた加熱手段9と、前記糸通路5に配設された糸ガイド11とを備え、前記糸ガイド11は、1平面において円弧形状を有するように配設され、前記糸ガイド11によって予め定義される糸経路13がジグザグ形状を有するように配設される糸加熱装置1。特に仮撚加工装置に使用する糸加熱装置1を提案する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸通路を備える加熱区域、前記糸通路に配設された加熱壁、前記加熱壁を加熱するために設けられた加熱手段、及び前記糸通路に配設された糸ガイドを備える合成糸の加熱処理用装置(糸加熱装置)、及びこのような糸加熱装置の使用方法に関する。糸加熱装置は、特に、仮撚加工装置に使用される。
【背景技術】
【0002】
フィラメント糸、特にマルチフィラメント糸のテクスチャード加工、特に、仮撚加工が従来の技術として知られている。テクスチャード加工は、その大きくてかさばる構造(かさ(bulk))から織物の特徴を備えるプラスチックのように平坦で滑らかなマルチフィラメント糸から、縮れ構造の糸を製造するために使用される。この目的のために、マルチフィラメント糸は、一般的に、糸巻きから巻解され、第1給糸ロールを通過し、そして糸加熱装置(1次加熱装置)において加熱され、冷却レールで冷却され、仮撚スピンドル及びその後に位置する第2給糸ロール、所謂繰り出し給糸ロールを通過し、そして、糸巻きに巻かれる。上記仮撚スピンドルは、1つの作業工程においてマルチフィラメント糸を一時的に強く撚るために、即ち、フィラメント糸に軸トルクを伝達することによりマルチフィラメント糸又は個々のフィラメント糸の撚りを作るために使用される。この一時的な撚り(ねじれ糸状態)は仮撚り(FD)と呼ばれる。上記撚りの結果、糸加熱装置(撚り区域)にまで達する撚りバックログ(twist backlog)が形成され、これによって、仮撚スピンドル通過前に、糸が可塑的に変形可能な温度にまで加熱され、次いで冷却されることにより、フィラメント糸の上記ねじれ糸状態は熱的に固定にされる。そして、仮撚スピンドル通過後に、上記撚りが再び解かれる。上述のようにねじり糸状態において熱的な固定がなされることにより、糸は所望の縮れ構造を有する。
【0003】
もし、仮撚加工において、処理変動又は不安定処理が発生した場合、糸に不均一な糸構造又は欠陥が発生し、従って、製造される糸の品質の低下につながる。このような欠陥や乱れは、例えば、紡績ミルにおける乱れ、糸表面への潤滑の不均一な適用や不均一な調整、テクスチャード加工中の温度変動、又は、例えば、糸加熱装置及び/又は冷却レールにおける汚染に起因する。上記乱れは、特に高い回転速度において発生する、所謂糸のバルーニングを引き起こし得る。糸のバルーニングは、糸経路を制御不能にしたり、糸の張力の変動を引き起こしたりする。この結果、糸は、例えば、仮撚スピンドルのディスク表面を跳び越える場合がある。この撚りのズレは撚り区域内での撚りの欠陥につながる。即ち、フィラメント糸の単位長さ当りの撚りの数である撚り密度が変動する。この結果、いくつかの領域において、処理される糸は撚りがなされることなく仮撚スピンドルを通過する場合がある。このため、短い近接糸部分、所謂「狭小部」と、不均一にテクスチャード加工された長い糸部分とが生ずる。これは「サージング」と呼ばれる。サージングの場合には、糸の張力が突然増加し、仮撚スピンドルにおける力の釣り合いが乱される。糸には、撚りが行われなかった領域が形成される。加えて、延伸量は変動し、染色は不満足になる。
【0004】
上記処理の安定限界は、一方では、テクスチャード加工区域の幾何学的寸法、例えば、その長さ、撓み点、糸支持等によって影響され、他方では、供給材料の品質、例えば、その均一性、滑らかさ等によって、つまり、発生する処理変動によって影響される。特に、この安定限界は、糸加熱装置の幾何学的寸法によっても、同様に決定される。もし、上記乱れが発生すると、その結果、例えば、糸加熱装置において糸を加熱する温度が変動する場合がある。この結果、例えば、糸がその融点より加熱され、糸の破損を引き起こす場合がある。これは、製造処理の妨害となる。糸が破損した場合は、多くの糸の破片が糸加熱装置内に残り、これらは、溶けて糸加熱装置内の糸通路内に及び/又は糸ガイドに付着する。糸の破損に起因する仮撚加工装置の停止時間の継続期間は、基本的には、どのくらい早くこの糸の残留物を再び取り除くことができるかによって決定される。
【0005】
これらの問題を解決するための糸加熱装置は、例えば、特許文献1に開示されている。この糸加熱装置は2つの加熱区域を備え、この2つの加熱区域を通過するように糸通路が延びている。加熱手段によって加熱することができる加熱壁が糸通路に配設されている。糸ガイドは、各ケース内の糸通路に数センチメートルの間隔に配設されている。加熱区域の全長は、0.8〜1.2メートルであり、この値は、糸加熱装置を通過する糸断面に対して、0.04〜0.12秒の処理時間を与える。糸加熱装置を通過する糸は、加熱壁からある距離をおいて案内される。糸ガイドは、糸加熱装置内の糸ガイドによって定められる糸経路が1平面において円弧形状を有するように配設される。この糸加熱装置は、仮撚加工においてポリエステル糸を加熱するように最適化されている。上述の糸経路の円弧形状の結果、糸加熱装置におけるバルーンニングの発生は、ポリエステル糸の場合においては、大部分を回避することができる。また、加熱壁は、糸の破損が起きた場合に糸加熱装置内に残る糸の破片を燃して、又は気化させる動作温度に保持され、このため、この種類の糸加熱装置を備える仮撚加工装置は迅速に再始動することができる。
【特許文献1】欧州特許出願公開第0579866号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、一般的にポリエステル糸より細いポリアミド糸の場合においては、この糸加熱装置は、上記問題を限られた範囲においてのみしか回避することができない。ポリアミド糸を処理する場合、この糸の細さから、特に、公知の加熱装置の動作温度を300〜350℃の温度領域に低減しなくてはならない。しかしながらこの温度領域においては、糸加熱装置内での磨耗や糸の破損の結果として生成されるポリマー残留物はもはや燃えない。それどころか、この残留物は、加熱装置内において、溶融して粘性の高い「はちみつ状」の状態で残留する。もし、この残留物が糸加熱装置内の糸案内部に位置する場合、さらに糸の破損まで品質の低下が進む。この結果、数時間の仮撚加工装置の停止時間を受容しなければならない場合もある。
【0007】
本発明の目的は、従来技術の不利益を解消し、特に、細い糸、特にポリアミド糸の場合における糸加熱装置内でのバルーニングを確実に回避することができる糸加熱装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、各独立請求項に係る装置によって解決される。従属請求項は本発明の好ましい実施の形態を表す。
【0009】
本発明に係る糸加熱装置は、特に仮撚加工装置における使用に適しており、本発明に係る糸加熱装置において、糸通路は加熱区域に配設されており、少なくとも1つの加熱壁が前記糸通路に設けられており、又は前記糸通路は前記加熱壁又は壁によって形成されている。前記加熱壁の動作温度は、前記加熱壁を加熱するために設けられた加熱手段によって調整することができる。前記糸加熱装置を通過する糸経路は、前記糸通路に配設された糸ガイドによって予め定義される。本発明によれば、前記糸ガイドによって予め定義される前記糸経路がジグザグ形状を有するように少なくともいくつかの糸ガイドが配設される。
【0010】
本発明に係る糸加熱装置は、仮撚加工処理において、特に細いポリアミド糸(ナイロン糸)をこの糸が可塑的に変形することができる温度へ加熱するために特に適する。ジグザグ形状の糸ガイドにより、例えば、糸の欠陥によって発生する糸経路に対して横方向の糸の変動の大部分を回避することができる。加熱壁からの糸の間隔はこのように一定に保たれているので、空間的に非常に均一な糸の加熱を行うことができる。このため、糸のバルーニングは回避され、このバルーニングによって発生する糸の破損が防止される。本発明に係る糸加熱装置を使用することにより、良質の効果を得ることができ、また、仮撚加工装置の停止時間を最小にすることできる。
【0011】
前記糸ガイドは、好ましくは前記糸経路が1平面において円弧形状を有すように配置されている。このような前記糸経路の円弧形状の支持により、前記糸ガイドのジグザグ形状の構成が1平面状に存在することができる。この結果、1平面上に存在しない構成と比較して、糸の摩擦が減少する。ジグザグ形状の糸経路と共同して、上記円弧形状の支持により、前記ジグザグ形状の糸経路が存在する平面に対して垂直方向の糸の変動が十分に回避される。
【0012】
前記加熱区域は、好ましくは前記糸経路の方向における長さが0.4〜0.8メートルである。これにより、本発明に係る前記加熱装置は、350〜600℃の前記加熱壁の動作温度において、ポリアミド糸を仮撚加工に必要な温度に加熱する。本発明に係る糸加熱装置は、上述のように、好ましくは高温度加熱装置として使用される。前記糸加熱装置を通過するポリアミド糸の糸断面は、この場合、各々0.02〜0.04秒間(処理時間)加熱される。本発明に係る糸加熱装置の上記非常に小さい寸法の結果、非常にコンパクトな仮撚加工装置を製造することができる。また、上記規定された動作温度において、例えば糸の破損が生じた場合、糸加熱装置内に残留した糸、即ち、存在する対応するポリマーが、即座に焼かれ、気化され、又は砕かれて、前記糸案内部が大部分において清浄にされ、仮撚加工装置の停止時間を最小限にすることができる。
【0013】
前記糸ガイドは、好ましくは、4〜6センチメートルの間の、好ましくは5センチメートルの間隔に等間隔に、特に有利に配設されている。上記糸ガイドのこの構成により、バルーニングを略完全に回避することができる。
【0014】
本発明の糸加熱装置の糸通路は、特に好ましくは、前記加熱壁において溝として具体化される。前記溝は、前記加熱壁において、好ましくは2.5〜5ミリメートルの範囲内の直径を有する。特に、糸の均一加熱及び糸加熱装置から糸への熱伝達の増加は、これによって可能となる。上記小さな直径と、糸と加熱壁との上記短い間隔は、加熱壁と糸との間の熱交換を良好なものにし、また、小型化を可能にする。上記糸通路の小さな直径に拘らず、本発明に係る糸加熱装置において処理される糸は加熱壁と直接接することがない。このことは、本発明に係る糸加熱装置において、安定した変動のない糸の案内を可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明をその典型的な実施の形態について図面を参照して詳細に説明をする。
【0016】
図1aは、第1の断面平面における本発明に係る糸加熱装置を示す。図1bは、図1に示す断面平面に垂直な第2の断面平面における本発明に係る糸加熱装置を示す。図1cは、第1及び第2の断面平面に垂直な、図1a及び1bに示す本発明に係る糸加熱装置の断面を示す。
【0017】
図面における図形は本発明の主題を極めて概略的に示すものであり、一定縮尺で示すものではないと解すべきである。本発明に係る主題の個々の構成要素は、それらの構造を明りょうに図示可能に示されている。
【0018】
図1a〜1cは互いに垂直な3つの断面平面における本発明に係る糸加熱装置1を示す。本発明に従って示された糸加熱装置1は、糸通路5を有する加熱区域3を備える。糸通路5上に配設された加熱壁7は、加熱手段9によって加熱される。加熱手段9は、例えば、電流によって熱することができる加熱コイルを備える。加熱壁7の温度は、図示しない調節モジュールによって、例えば、加熱コイルを流れる電流の強さによって調節することができる。糸ガイド11,12は糸通路5内に配設されている。これらの糸ガイド11,12は、例えば、好ましくは各々の縦(長手)方向の軸を中心に回転可能なピンから構成されている。糸ガイド11,12は、糸ガイド11によって予め定義される糸経路13がジグザグ形状を有するように配設されている。これらの糸ガイド11は、このように、糸通路5内において、互いにオフセットされて配置されている。また、図1bに示すように、糸ガイド12は、糸経路13が1平面において円弧形状を有するように配置されている。この目的のために、糸経路13を円弧形状にする糸ガイド12は、好ましくは、糸経路13をジグザグ形状にする糸ガイド11の縦方向の軸に対して糸ガイド12の縦方向の軸が垂直になるように配置される。
【0019】
図1cの図形の断面平面は糸経路13に垂直である。加熱手段9は、糸通路5の範囲において加熱壁7の近傍に位置する。糸通路5は、加熱壁7において溝15として具体化されている。糸ガイド11,12は、この溝15内に配設される。溝15は、製造技術の理由から、糸経路13の方向にまっすぐ延びるように形成されている。
【0020】
本発明は、上述した特定の典型的な実施の形態に限定されるものではない。それどころか、基本的に異なる型式の実施の形態において本発明の特徴を使用する多くの変形例も実施可能である。
【0021】
糸通路5を備える加熱区域3と、前記糸通路5に配設された少なくとも1つの加熱壁7と、前記加熱壁7を加熱するために設けされた加熱手段9と、前記糸通路5に配設された糸ガイド11とを備え、前記糸ガイド11は、前記糸ガイド11によって予め定義される糸経路13がジグザグ形状を有するように配設される糸加熱装置1であって、特に仮撚加工装置に使用する糸加熱装置1を提案する。前記糸加熱装置は、仮撚加工処理においてポリアミド糸を加熱するための1次加熱装置として、特に適する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1a】図1aは、第1の断面平面における本発明に係る糸加熱装置を示す。
【図1b】図1bは、図1に示す断面平面に垂直な第2の断面平面における本発明に係る糸加熱装置を示す。
【図1c】図1cは、第1及び第2の断面平面に垂直な、図1a及び1bに示す本発明に係る糸加熱装置の断面を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸加熱装置、特に仮撚加熱装置に使用する糸加熱装置であって、
糸通路(5)を備える加熱区域(3)、
前記糸通路(5)に配設される少なくとも1つの加熱壁(7)、
前記加熱壁(7)を加熱するために設けされる加熱手段(9)、及び
前記糸通路(5)に配設される糸ガイド(11,12)を備え、
前記糸ガイド(11)は、前記糸ガイド(11)によって予め定義される糸経路(13)がジグザグ形状を有するように配設される糸加熱装置において、
前記糸ガイド(11)は、前記糸経路(13)が1平面において円弧形状を有すように配設され、前記糸ガイド(11,12)が好ましくはそれらの縦方向の軸を中心に回転可能なピンから構成され、及び前記糸経路(13)を円弧形状にする前記糸ガイド(12)は、その縦方向の軸が、前記糸経路(13)をジグザグ形状にする前記糸ガイド(11)の縦方向の軸に対して垂直に配設されることを特徴とする糸加熱装置。
【請求項2】
前記加熱区域(3)は、前記糸経路(13)の方向における長さが0.4〜0.8メートルであることを特徴とする請求項1記載の糸加熱装置。
【請求項3】
前記糸ガイド(11)は、好ましくは、4〜6センチメートルの間の、好ましくは5センチメートルの距離に等間隔に配置されていることを特徴とする請求項1乃至2の少なくとも1項に記載の糸加熱装置。
【請求項4】
前記糸通路(5)は、前記加熱壁(7)において溝(15)として具体化され、前記溝(15)は2.5〜5ミリメートルの範囲内の直径を有することを特徴とする請求項1乃至3の少なくとも1項に記載の糸加熱装置。
【請求項5】
仮撚加工処理において前記糸加熱装置によってポリアミド糸を加熱することを特徴とする請求項1乃至4の少なくとも1項に記載の糸加熱装置の使用方法。
【請求項6】
前記糸加熱装置を通過する前記ポリアミド糸の糸断面は各々0.02〜0.04秒間加熱されることを特徴とする請求項5記載の使用方法。
【請求項7】
前記加熱壁(7)は350〜600℃の動作温度に保持されることを特徴とする請求項5乃至6の少なくとも1項に記載の使用方法。

【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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