説明

糸巻取方法及びその装置

【課題】
不適切な巻取張力、定長精度の低下、及びリボン巻きの発生による不良パッケージの生成を防止する糸巻取方法及びその装置を提供する。
【解決手段】
巻取ボビン10を保持したボビンホルダ12を駆動モータ14で直接回転駆動し、給糸側から供給された糸Yをトラバース装置Tによってトラバースさせつつ、巻き取ってパッケージPを形成するものであって、ボビンホルダ12に関連する回転数を検出し、ボビンホルダ12に関連する回転数に基づき駆動モータ14を制御する糸巻取方法において、巻取ボビン10に関連する回転数を検出し、ボビンホルダ12に関連する回転数と巻取ボビン10に関連する回転数との回転数差を算出し、この回転数差が予め設定した許容値に達した場合に、信号を発信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直接駆動方式の自動糸巻取装置における糸巻取方法及びその装置に関し、特に巻取ボビンとボビンホルダの間のすべりによる不良パッケージの生成を防止する糸巻取方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の直接駆動方式の糸巻取装置として、巻取ボビンを保持したボビンホルダを駆動モータで直接回転駆動し、給糸側から供給された糸をトラバース装置によってトラバースさせつつ、巻き取ってパッケージを形成するものが知られている。巻取ボビンには一般に紙管や樹脂製のボビンが用いられ、ボビンホルダによる巻取ボビンのチャック方法としては、図3Aに示す内側チャックタイプ(軸支持タイプ)と、図3Bに示す両端チャックタイプ(クレードル支持タイプ)が知られている。
【0003】
内側チャックタイプは、図3Aに示すとおり、一方側が図示しない駆動モータと連結されるボビンホルダ本体32の外周に、チャックピース33とスペーサリング34を介して巻取ボビン30が挿通されている。ボビンホルダ本体32の他方側には、その内周面を摺動するピストン部35aを有し、バネ36によって図中の矢印方向に付勢されたキャップ部材35が配置される。このキャップ部材35の外周部35bにより、チャックピース33は押圧され、スペーサリング34を介して拡径する。これにより、巻取ボビン30はボビンホルダ31にチャックされている。
【0004】
両端チャックタイプでは、図3Bに示すとおり、一方のボビンホルダ38aは一方のクレードルアーム39aに回転自在に保持され、かつ図示しない駆動モータと連結されている。他方のボビンホルダ38bは、バネ等により図中の矢印方向に付勢された、揺動可能な他方のクレードルアーム39bに回転自在に保持されている。両ボビンホルダ38a、38bの挟持により、巻取ボビン37はチャックされている。
【0005】
この直接駆動方式の糸巻取装置では一般に、糸の巻取状態の安定化を図るため、糸の巻取速度を一定の生産速度に保つように、巻取ボビンを保持するボビンホルダの回転数を検出・制御している。すなわち、巻取りの進行によるパッケージ径の増大に応じ、ボビンホルダの回転数を減少させることによりパッケージ周速を一定に保ち、巻取張力を一定の適正値に保つように制御している。また、検出したボビンホルダの回転数に基づき、定長巻き制御やリボン巻き防止制御も行われている。
【特許文献1】特開2001−89031号公報
【特許文献2】特開2003−95535号公報
【特許文献3】特開2003−252529号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これらの制御はパッケージ回転数、すなわち巻取ボビン回転数と、ボビンホルダ回転数は同じとみなして制御を行っているところ、実際はボビンホルダのチャック圧不足や、紙管の場合、巻取ボビンの繰返し使用による変形により、巻取ボビンとボビンホルダの間にすべりが生じ、巻取ボビン回転数≠ボビンホルダ回転数となって、正しい制御が行われない場合があった。この場合、不適切な巻取張力、定長精度の低下、及びリボン巻きが発生し、不良パッケージが生じていた。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、不適切な巻取張力、定長精度の低下、及びリボン巻きの発生による不良パッケージの生成を防止する糸巻取方法及びその装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決可能な本発明の糸巻取方法は、巻取ボビンを保持したボビンホルダを駆動モータで直接回転駆動し、給糸側から供給された糸をトラバース装置によってトラバースさせつつ、巻き取ってパッケージを形成するものであって、前記ボビンホルダに関連する回転数を検出し、前記ボビンホルダに関連する回転数に基づき前記駆動モータを制御する糸巻取方法において、前記巻取ボビンに関連する回転数を検出し、前記ボビンホルダに関連する回転数と前記巻取ボビンに関連する回転数との回転数差を算出し、前記回転数差が予め設定した許容値に達した場合に、信号を発信することを特徴とするものである。前記信号は、警告を発する信号と、前記駆動モータを停止制御する信号であるのが好ましい。また、前記信号は、前記巻取ボビンに関連する回転数に基づき前記駆動モータをフィードバック制御する信号であってもよい。尚、ボビン軸方向に沿って両端からボビンホルダで挟持することにより巻取ボビンを保持するものにおいて、駆動モータにより直接駆動するボビンホルダの一側とは異なる他側の回転数を前記巻取ボビンに関連する回転数とし、駆動モータにより直接駆動するボビンホルダの一側に関連する回転数と、前記他側の回転数との回転数差を算出することを特徴とするものであってもよい。
【0009】
また、本発明の糸巻取装置は、給糸側から供給された糸をトラバースさせるトラバース装置と、前記糸を巻き取る巻取ボビンを保持するボビンホルダと、前記ボビンホルダに直接接続された駆動モータを備えた糸巻取装置であって、前記ボビンホルダに関連する回転数の検出器と、前記駆動モータの制御装置を備えた糸巻取装置において、前記巻取ボビンに関連する回転数の検出器を備え、前記ボビンホルダに関連する回転数と前記巻取ボビンに関連する回転数の回転数差を算出し、前記回転数差の巻取品質上の許容値と前記許容値に達した場合に発信する信号を予め設定するコントローラを備えたことを特徴とするものである。尚、ボビン軸方向に沿って両端からボビンホルダで挟持することにより巻取ボビンを保持するものにおいて、駆動モータに直接接続され駆動するボビンホルダの一側とは異なる他側の回転数の検出器を備え、前記コントローラは、前記駆動モータにより直接駆動するボビンホルダの一側に関連する回転数と、前記他側の回転数とが入力されることを特徴とするものであってもよい。また、両回転数の比から回転数差を検出する手法も採用できる。
【発明の効果】
【0010】
上記のように構成された本発明の方法あるいは装置によれば、巻取ボビンとボビンホルダの回転数の差、すなわちすべりを検出することができるので、その検出値に基づいて、巻取りを停止する、又はボビンホルダ回転数を補正制御することにより、誤った制御による不適切な巻取張力、定長精度の低下、及びリボン巻きの発生を防ぐことができ、不良パッケージの生成を防止することができる。
【0011】
また、すべりが検出された場合は、不良巻取ボビンの廃棄又はボビンホルダの巻取ボビンチャック圧の適正化を行うことにより、すべりによる巻取不良が再度繰り返されることを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態につき説明する。図1及び図2はそれぞれ、本発明の第1実施形態及び第2実施形態に係る糸巻取方法を実施する装置の要部を示す概略図であり、図4はその方法を示すフローチャートである。
【0013】
[第1実施形態(内側チャックタイプ)]
まず、内側チャックタイプの場合について説明する。図1に示すとおり、直接駆動方式の糸巻取装置は、給糸ボビンBから解舒された糸Yを、トラバース装置Tによってトラバースさせつつ筒状の巻取ボビン10に巻き取り、パッケージPを形成する。パッケージPには、パッケージPに接触して連れ回り、所定の接圧を付与するタッチローラ18が当接される。一般に樹脂製のボビンや紙管が用いられる巻取ボビン10は、パッケージPが形成される領域外にパルスジェネレータ11を有し、内部に挿通された円筒状のボビンホルダ12により内側をチャックされている。ボビンホルダ12は、パルスジェネレータ13を有する駆動モータ14と連結される。各パルスジェネレータ11、13と対峙する位置には、回転数を検出する回転センサ15、16がそれぞれ設けられており、両回転センサ15、16はコントローラ17と電気的に接続され、該コントローラ17は駆動モータ14と電気的に接続されている。このコントローラ17には、両回転数の差の巻取品質上の許容値、リボン巻きの発生するボビンホルダ回転数、及び定長巻きが完了するボビンホルダ回転数が予め入力されている。本実施形態では、ボビンホルダ12の回転数に関連するものとして、ボビンホルダ12に連結された駆動モータ14の回転数を検出していることになる。
【0014】
図4を参照して本発明の方法を説明する。コントローラ17は常に、回転センサ15、16によって、ボビンホルダ回転数及び巻取ボビン回転数を検出する(S1)。次に、ボビンホルダ回転数と巻取ボビン回転数の回転数差をコントローラ内の計算機によって算出し(S2)、予め設定された回転数差の許容値と比較する(S3)。算出した回転数差が許容値よりも小さい場合は、ボビンホルダ回転数に基づいて、糸の巻取速度を一定の生産速度に保つように駆動モータ14の回転数制御を行い(S4)、更に、リボン巻き崩しの判断(S5)及び実行(S6)、並びに定長巻き完了の判断(S7)及び実行(S8)を行う。一方、算出した回転数差が許容値以上の場合は、無視できないすべりであると判断し、警告を発するとともに、駆動モータ14に停止させる信号を送る(S9)。これにより、誤った制御による不適切な巻取張力、定長精度の低下、及びリボン巻きが生じるのを防ぐことができ、不良パッケージの生成を防止することができる。更に、不良巻取ボビン10の廃棄又はボビンホルダ12の巻取ボビンチャック圧の適正化により、不良パッケージの生成が再度繰り返されることを防止することができる。
【0015】
[第2実施形態(両端チャックタイプ)]
次に、両端チャックタイプについて説明する。両端チャックタイプでは、図2に示すとおり、一方のボビンホルダ22aは一方のクレードルアーム29aに回転自在に保持され、かつパルスジェネレータ23を有する駆動モータ24と連結されている。他方のボビンホルダ22bはパルスジェネレータ21を備え、バネ等により付勢された、揺動可能な他方のクレードルアーム29bに回転自在に保持されている。両ボビンホルダ22a、22bの挟持により、巻取ボビン20はチャックされている。その他の構成は前述した実施形態1と同様とすることができ、詳細な説明は省略する。
【0016】
両端チャックタイプは、内側チャックタイプと同じ作用・効果を有しているのに加え、巻取ボビン回転数検出用のパルスジェネレータ21を、駆動モータ24と非連結、すなわち巻取ボビン20に従動して回転するボビンホルダ22bに設けて、該ボビンホルダ22bの回転数を巻取ボビン20に関連する回転数とすることにより、ボビンホルダ22bの回転数と駆動モータ24の回転数との差が発生すれば、それをもって、ボビンホルダ22a、22bと巻取ボビン20との間にすべりが生じたとみなすことができる。よって、巻取ボビン一個一個にパルスジェネレータを設ける必要がない利点を有している。ここで、巻取ボビン20とボビンホルダ22bとの間ですべりが発生しており、回転センサ25にて正確に巻取ボビン20の回転数が検出されていない場合であっても、その時点でボビンホルダ22aとボビンホルダ22bとが、少なくとも同期していない(適切にボビンホルダ22a、22bにより巻取ボビン20がチャックされていない)異常な状態であるとして両者の差が検出されるので、いずれにしても、ボビンホルダ22a、22bと巻取ボビン20との間のすべりの検出は可能である。
【0017】
両タイプとも、算出した回転数差が許容値以上の場合であっても、すべりの程度が小規模であり、駆動モータの回転数指令の補正の限界内であれば、巻取ボビン回転数の検出値を用いて駆動モータ14、24をフィードバック制御により補正制御し、不良パッケージの生成を防止してもよい。
【0018】
上記実施形態では、モータ14、24の制御用パルスジェネレータ13、23を用いることにより、別途パルスジェネレータを設ける必要がない。但し、ボビンホルダ12、22aにパルスジェネレータを設けても良い。
【0019】
上記実施形態は、給糸ボビンBから解舒したものを巻き返すものであるが、繊維束等の原料から糸を紡績し巻き取る紡績機や、化学繊維を生成する紡糸巻取機に適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る糸巻取装置の要部を示す概略図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る糸巻取装置の要部を示す概略図である。
【図3】本発明の実施形態に係る巻取ボビンのチャック構造を示す概略図である。
【図4】本発明の糸巻取方法を示すフローチャート図である。
【符号の説明】
【0021】
B 給糸ボビン
P パッケージ
T トラバース装置
Y 糸
10 巻取ボビン
11、13 パルスジェネレータ
12 ボビンホルダ
14 駆動モータ
15、16 回転センサ
17 コントローラ
18 タッチローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻取ボビンを保持したボビンホルダを駆動モータで直接回転駆動し、給糸側から供給された糸をトラバース装置によってトラバースさせつつ、巻き取ってパッケージを形成するものであって、前記ボビンホルダに関連する回転数を検出し、前記ボビンホルダに関連する回転数に基づき前記駆動モータを制御する糸巻取方法において、
前記巻取ボビンに関連する回転数を検出し、
前記ボビンホルダに関連する回転数と前記巻取ボビンに関連する回転数との回転数差を算出し、
前記回転数差が予め設定した許容値に達した場合に、信号を発信することを特徴とする糸巻取方法。
【請求項2】
前記信号は、警告を発する信号と、前記駆動モータを停止制御する信号であることを特徴とする請求項1に記載の糸巻取方法。
【請求項3】
前記信号は、前記巻取ボビンに関連する回転数に基づき前記駆動モータをフィードバック制御する信号であることを特徴とする請求項1に記載の糸巻取方法。
【請求項4】
ボビン軸方向に沿って両端からボビンホルダで挟持することにより巻取ボビンを保持するものにおいて、駆動モータにより直接駆動するボビンホルダの一側とは異なる他側の回転数を前記巻取ボビンに関連する回転数とし、駆動モータにより直接駆動するボビンホルダの一側に関連する回転数と、前記他側の回転数との回転数差を算出することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の糸巻取方法。
【請求項5】
給糸側から供給された糸をトラバースさせるトラバース装置と、前記糸を巻き取る巻取ボビンを保持するボビンホルダと、前記ボビンホルダに直接接続された駆動モータを備えた糸巻取装置であって、前記ボビンホルダに関連する回転数の検出器と、前記駆動モータの制御装置を備えた糸巻取装置において、
前記巻取ボビンに関連する回転数の検出器を備え、
前記ボビンホルダに関連する回転数と前記巻取ボビンに関連する回転数の回転数差を算出し、前記回転数差の巻取品質上の許容値と前記許容値に達した場合に発信する信号を予め設定するコントローラを備えたことを特徴とする糸巻取装置。
【請求項6】
ボビン軸方向に沿って両端からボビンホルダで挟持することにより巻取ボビンを保持するものにおいて、駆動モータに直接接続され駆動するボビンホルダの一側とは異なる他側の回転数の検出器を備え、前記コントローラは、前記駆動モータにより直接駆動するボビンホルダの一側に関連する回転数と、前記他側の回転数とが入力されることを特徴とする請求項5に記載の糸巻取装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−89157(P2006−89157A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−273278(P2004−273278)
【出願日】平成16年9月21日(2004.9.21)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】