糸状菌由来グルコースデヒドロゲナーゼを組換え体で高発現するための方法
【課題】 基質特異性の優れた糸状菌由来FAD−GDHを組換え体にて高発現生産する方法、および該方法にて得られたFAD−GDHタンパク質、および該タンパク質を用いたグルコース測定試薬を提供する。
【解決手段】 アスペルギルス・オリゼ由来のFAD依存性グルコースデヒドロゲナーゼを大腸菌で組換え生産する方法であって、野生型FAD依存性グルコースデヒドロゲナーゼのアミノ酸配列からそのN末端領域に存在するMLFSLAFLSALSLATASPAGRAのアミノ酸配列の一部を削除した変異型FAD依存性グルコースデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子を大腸菌で発現させることを特徴とする方法。
【解決手段】 アスペルギルス・オリゼ由来のFAD依存性グルコースデヒドロゲナーゼを大腸菌で組換え生産する方法であって、野生型FAD依存性グルコースデヒドロゲナーゼのアミノ酸配列からそのN末端領域に存在するMLFSLAFLSALSLATASPAGRAのアミノ酸配列の一部を削除した変異型FAD依存性グルコースデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子を大腸菌で発現させることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸状菌由来のグルコースデヒドロゲナーゼを組換え体にて高発現させる方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
血糖自己測定は、糖尿病患者が通常の自分の血糖値を把握し治療に生かすために重要である。血糖自己測定に用いられるセンサにはグルコースを基質とする酵素が利用されている。そのような酵素の例としては、例えばグルコースオキシダーゼ(EC 1.1.3.4)が挙げられる。グルコースオキシダーゼはグルコースに対する特異性が高く、熱安定性に優れているという利点を有していることから血糖センサ用酵素として古くから利用されており、その最初の発表は実に40年ほど前に遡る。グルコースオキシダーゼを利用した血糖センサにおいては、グルコースを酸化してD−グルコノ−δ−ラクトンに変換する過程で生じる電子がメディエーターを介して電極に渡されることで測定がなされるが、グルコースオキシダーゼは反応で生じたプロトンを酸素に渡しやすいため溶存酸素が測定値に影響してしまうという問題があった。
【0003】
このような問題を回避するために、例えばNAD(P)依存型グルコースデヒドロゲナーゼ(EC 1.1.1.47)あるいはピロロキノリンキノン依存型グルコースデヒドロゲナーゼ(EC 1.1.5.2(旧 EC1.1.99.17))が血糖センサ用酵素として用いられている。これらは溶存酸素の影響を受けない点で優位であるが、前者のNAD(P)依存型グルコースデヒドロゲナーゼは安定性の乏しさや補酵素の添加が必要という煩雑性がある。一方後者のピロロキノリンキノン依存型グルコースデヒドロゲナーゼは、基質特異性に乏しくマルトースやラクトースといったグルコース以外の糖類にも作用するため、測定値の正確性を損ねる可能性があるという欠点がある。
【0004】
文献1〜4にはアスペルギルス・オリゼ由来のグルコースデヒドロゲナーゼについて報告されているが、グルコースデヒドロゲナーゼ遺伝子に関しては報告されていない。
また、非特許文献1〜4には、遺伝子組み換えによりアスペルギルス・オリゼ由来のグルコースデヒドロゲナーゼを製造することについての記載はない。
【0005】
また、特許文献1にはアスペルギルス属由来フラビン結合型グルコースデヒドロゲナーゼが開示されている。本酵素は基質特異性に優れかつ溶存酸素の影響を受けない点で優位である。熱安定性については50℃15分処理で89%程度の活性残存率であり安定性(以下、耐熱性とも表記)についても優れているとされている。特許文献2には、その遺伝子配列、アミノ酸配列が報告されている。
【0006】
しかしながら、フラビン結合型グルコースデヒドロゲナーゼ(FAD依存性グルコースデヒドロゲナーゼともいう。)の製造は、組換えDNA技術を用いても困難を極めている。実際、特許文献2において開示されているFAD依存性グルコースデヒドロゲナーゼの組換え大腸菌K12株において0.09U/mlと、極めて低いレベルであった。大腸菌K12株は、組換え生産において最も汎用され、組換え操作が簡便で、培養のし易さ、安全性の面などから工業的に多用されている宿主である。したがって、大腸菌K12株を宿主とした組換え体により、FAD依存性グルコースデヒドロゲナーゼを効率的に生産する方法が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO 2004/058958
【特許文献2】WO 2006/101239
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Biochim Biophys Acta.1967 Jul 11;139(2):265−76
【非特許文献2】Biochim Biophys Acta.1967 Jul 11;139(2):277−93
【非特許文献3】Biochim Biophys Acta.146(2):317−27
【非特許文献4】Biochim Biophys Acta.146(2):328−35
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、より実用面において有利な血糖センサ用酵素を提供することである。より具体的には、基質特異性ばかりでなく、生産コストの優れた糸状菌由来のグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)を大量に取得し、利用することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するために、まず、アスペルギルス・オリゼのゲノム情報を利用し、グルコースデヒドロゲナーゼ遺伝子を特定・取得した。そして、該遺伝子を用いて大腸菌よりアスペルギルス・オリゼ由来のグルコースデヒドロゲナーゼを取得できることを見出した。また、ゲノム情報からアミノ酸配列を推定し、該アミノ酸配列のN末端領域にシグナルペプチドと思われるアミノ酸配列が存在することを見出した。
シグナルペプチドは、ペリプラズム空間への移行シグナルとなり、該空間のスペース上、発現量に制限が生じる可能性が危惧されたので、該シグナルペプチドの機能を欠失させる検討を行ったところ、GDHの生産性が約10倍向上して、生産コストを1/10に抑えることが可能となった。
【0011】
すなわち、本発明は以下のような構成からなる。
(1)糸状菌由来のグルコースデヒドロゲナーゼ(以下GDHとも記載)を組換え生産する方法において、そのN末端領域に存在するシグナルペプチド配列に変異を導入することにより、該目的酵素の発現量を変異導入前と比べて高めることを特徴とするGDHの生産方法。
(2)糸状菌由来のGDHを組換え生産する方法において、そのN末端領域に存在するシグナルペプチドのアミノ酸配列の一部を欠損、あるいは置換することにより、該目的酵素の発現量を変異導入前と比べて高めることを特徴とする(1)記載のGDHの生産方法。
(3)配列番号2、4のいずれかに記載されたアミノ酸配列のうち、そのN末端に存在するMLFSLAFLSALSLATASPAGRAのアミノ酸配列の一部、あるいは全てを削除して発現させることによりこれらのアミノ酸配列が存在する場合と比べて発現量を高めることを特徴とする(1)記載のGDHの生産方法。
(4)配列番号2、4のいずれかに記載されたアミノ酸配列のうち、そのN末端に存在するMLFSLAFLSALSLATASPAGRAのアミノ酸配列に、1〜22個のアミノ酸置換または/及びアミノ酸挿入を行うことにより、元のアミノ酸配列が存在する場合と比べて発現活性を高めることを特徴とする(1)記載のGDHの生産方法。
(5)糸状菌由来のグルコースデヒドロゲナーゼのN末端に存在するMLGKLSFLSALSLAVAATLSNSTSAのアミノ酸配列の一部、あるいは全てを削除して発現させることによりこれらのアミノ酸配列が存在する場合と比べて発現量を高めるか、もしくは、1〜25個のアミノ酸置換または/及びアミノ酸挿入を行うことにより、元のアミノ酸配列が存在する場合と比べて発現活性を高めることを特徴とする(1)記載のGDHの生産方法。
(6)糸状菌由来グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)において、そのN末端に存在するシグナルペプチドをコードするDNA配列の一部、あるいは全てを置換または/及び欠損させたGDH遺伝子をコードする(1)〜(5)のいずれかの生産方法に使用されるDNA配列。
(7)(6)のDNA配列を含んでなる組換えベクター。
(8)(7)に記載の組換えベクターを宿主に導入してなる形質転換体。
(9)(8)に記載の形質転換体を用いて生産したGDHタンパク質。
(10)(9)に記載のGDHタンパク質を含む組成物。
(11)(10)に記載の組成物を用いるグルコース濃度の測定方法。
(12)(11)に記載の組成物を含むグルコースセンサ。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、グルコースデヒドロゲナーゼを効率的に生産しかつ、より実用的なグルコースデヒドロゲナーゼを取得することが可能になった。
本発明によれば、アスペルギルス属、またはペニシリウム属より単離したグルコースデヒドロゲナーゼ遺伝子からアミノ酸配列を推定し、シグナルペプチド領域を予測して、シグナルペプチドの一部または全部をコードするDNA配列を欠失させたり、シグナルペプチドをコードされたアミノ酸配列にアミノ酸置換やアミノ酸挿入を施すことにより、組換え体にてグルコースデヒドロゲナーゼを効率的に生産させることができ、かつ、産業利用の観点からより実用的なグルコースデヒドロゲナーゼを取得することが可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、アスペルギルス・オリゼ由来FAD−GDHのシグナルペプチド切断部位の予測を示す図である。
【図2】図2は、A.オリゼ野生型GDH(シグナルペプチド有)の培養フェーズと菌体濁度(OD)、pH、GDH活性値の関係を示すグラフである。
【図3】図3は、A.オリゼ変異型GDH‐S2の培養フェーズと菌体濁度(OD)、pH、GDH活性値の関係を示すグラフである。
【図4】図4は、A.オリゼ変異型GDH‐S3の培養フェーズと菌体濁度(OD)、pH、GDH活性値の関係を示すグラフである。
【図5】図5は、A.テレウス野生型GDH(予想シグナルペプチド配列切除)の培養温度28℃,Kd・P0.5における培養フェーズと菌体濁度(OD)、pH、GDH活性値の関係を示すグラフである。
【図6】図6は、A.テレウス野生型GDH(予想シグナルペプチド配列切除)の培養温度28℃,Kd・P0.75における培養フェーズと菌体濁度(OD)、pH、GDH活性値の関係を示すグラフである。
【図7】図7は、A.テレウス野生型GDH(予想シグナルペプチド配列切除)の培養温度28℃,Kd・P1.0における培養フェーズと菌体濁度(OD)、pH、GDH活性値の関係を示すグラフである。
【図8】図8は、A.テレウス野生型GDH(予想シグナルペプチド配列切除)の培養温度28℃,Kd・P1.5における培養フェーズと菌体濁度(OD)、pH、GDH活性値の関係を示すグラフである。
【図9】図9は、A.テレウス野生型GDH(予想シグナルペプチド配列切除)の培養温度20℃,Kd・P0.5における培養フェーズと菌体濁度(OD)、pH、GDH活性値の関係を示すグラフである。
【図10】図10は、A.テレウス野生型GDH(予想シグナルペプチド配列切除)の培養温度23℃,Kd・P0.5における培養フェーズと菌体濁度(OD)、pH、GDH活性値の関係を示すグラフである。
【図11】図11は、A.テレウス野生型GDH(予想シグナルペプチド配列切除)の培養温度26℃,Kd・P0.5における培養フェーズと菌体濁度(OD)、pH、GDH活性値の関係を示すグラフである。
【図12】図12は、A.テレウス野生型GDH(予想シグナルペプチド配列切除)の培養温度29℃,Kd・P0.5における培養フェーズと菌体濁度(OD)、pH、GDH活性値の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態は、糸状菌由来のGDHを組換え生産する方法において、そのN末端領域に存在するシグナルペプチド配列に変異を導入することにより、該目的酵素の発現量を変異導入前と比べて高めることを特徴とするGDHの生産方法である。
【0015】
本発明者らは、大収量のGDHタンパク質を取得するために鋭意努力した結果、上記目的を達成するために、まずその改変の元になる遺伝子DNAとして、先の発明でアスペルギルス・オリゼのゲノム情報を利用し、グルコースデヒドロゲナーゼ(以下GDHと示す)と推測される遺伝子DNAを見出している。
【0016】
本発明者らは、NCBIのデータベースを利用し、FAD依存性グルコースデヒドロゲナーゼ(以下GDHと示す)と推測される遺伝子DNAを見出した。
【0017】
本発明者らは、非特許文献1〜4、NCBIのデータベースなどから、GDH活性を有するタンパク質をコードするDNA(遺伝子)の同定は容易になしうると予想していた。そしてさらに、当該遺伝子を含有する組換えベクターを作製し、形質転換した形質転換体を作り、形質転換体が発現する当該遺伝子がコードするタンパク質を精製することも容易になしうると考えていた。具体的には、非特許文献1〜4に記載された方法や公知技術を参考にしてアスペルギルス・オリゼを培養し、その培養上清から各種クロマトグラフィーを用いてGDHを精製して、その末端アミノ酸配列などを分析してプローブを作製し、GDHをコードする遺伝子を単離することを試みた。
【0018】
本発明者らは種々検討したが、通常行う塩析、クロマトグラフィー等を用いた精製法では、アスペルギルス・オリゼ培養上清から、高純度で、SDS−PAGE上ではっきりと確認できるGDH標品を得るのは困難であることが分かった。酵素タンパク質に結合しているであろう糖鎖が精製、確認を困難にしている原因の1つであると推察した。したがって、遺伝子取得の常法の1つである部分アミノ酸配列を利用したクローニングを断念せざるを得ないと判断した。このため、遺伝子取得には多くの試行錯誤をともない、非常な困難を極めたが、鋭意検討の結果、アスペルギルス・オリゼ由来のGDHをコードする遺伝子を単離した。その詳細は実施例に後述する。
【0019】
また、本発明者らは他起源のGDH遺伝子の取得についても種々検討し、ペニシリウム属(Penicillium lilacinoechinulatum)由来のGDHをコードする遺伝子、およびアスペルギルス・テレウス由来のGDHをコードする遺伝子を単離した。その詳細も実施例に後述する。
【0020】
本発明の遺伝子DNAは本GDHの発現をさらに向上させるように、コドンユーセージ(Codon usage)を変更したものを含みうる。
【0021】
シグナルペプチドは、成熟型タンパク質のN末端に残基数15〜30個に及ぶ延長ペプチドとして存在する。該ペプチド配列中には、疎水性アミノ酸領域を持ち、新生ポリペプチド鎖の小胞体膜への付着および膜通過に先導役を務め、膜通過後は切断されるものである。
【0022】
本発明における糸状菌由来のGDH組換え体は特に限定されるものではないが、アスペルギルス属やペニシリウム属などをGDH遺伝子の供給源としたGDH組換え体が例示できる。好ましくはアスペルギルス属のGDHであり、さらに好ましくはアスペルギルス・オリゼである。最も好ましくは配列番号4、10のいずれかに記載されたアミノ酸配列を有するGDHが例示できる。
【0023】
これらGDH組換え体は、該GDHをコードする遺伝子をPCR法にて入手し、この遺伝子を発現用ベクターに挿入し、適当な宿主に形質転換させた形質転換体を培養し、培養液から遠心分離などで菌体を回収した後、菌体を機械的方法またはリゾチームなどの酵素的方法で破壊し、また、必要に応じてEDTAなどのキレート剤や界面活性剤等を添加して可溶化してGDHを含む水溶性画分として得ることができる。または適当な宿主ベクター系を用いることにより、発現したGDHを直接培養液中に分泌させることができる。
【0024】
本発明においては、GDHのN末端領域に存在するシグナルペプチドのアミノ酸配列の一部を欠損、あるいは置換することによりシグナルペプチドの機能を低下させることができる。
例えば、配列番号4に記載されたアミノ酸配列を有するGDHでは、そのN末端に存在するMLFSLAFLSALSLATASPAGRAのアミノ酸配列の一部、あるいは全てを削除することによりシグナルペプチドの機能を低下することができる。あるいは、1〜22個のアミノ酸置換または/及びアミノ酸挿入を行うことによっても可能である。
具体的な置換位置は例えばシグナルペプチド切断部が例示できる。好ましくはシグナルペプチドのC末端に相当するアラニンを他のアミノ酸に置換することにより、機能を低下させることができる。
【0025】
該目的酵素の発現量がシグナルペプチド配列の存在する状態と比べて高まったかどうかは、該配列への変異導入前後における培養液1mlあたりの総活性値を比較して確認することができる。また、シグナルペプチド配列の改変は、エドマン分解を用いたN末端アミノ酸シーケンスにより確かめることができる。
【0026】
N末端領域に存在するシグナルペプチドの機能を欠失することにより、GDHタンパク質の発現量が向上することを見出した。
【0027】
シグナルペプチドの予測ツールとしては、PSORT、SignalPソフトがよく利用されている。それぞれ、webにて「psort.nibb.ac.jp/」、あるいは「www.cbs.dtu.dk/services/SignalP−2.0/」のアドレスから利用することができる。
【0028】
SignalPソフトを用いて、アスペルギルス・オリゼ由来のGDH遺伝子から推定されたアミノ酸配列(配列番号2)のシグナルペプチド切断位置を予測したところ、16番目のアラニンと17番目のセリンの間、あるいは22番目のアラニンと23番目のリジンの間で切断される可能性が高いと予想された(図1)。
【0029】
例えば、アスペルギルス・オリゼ由来のGDH遺伝子を発現用ベクター(プラスミド等多くのものが当該技術分野において知られている)に挿入し、適当な宿主(大腸菌等多くのものが当該技術分野において知られている)に形質転換させた形質転換体を培養し、培養液から遠心分離などで菌体を回収した後、菌体を機械的方法またはリゾチームなどの酵素的方法で破壊し、また、必要に応じてEDTAなどのキレート剤や界面活性剤等を添加して可溶化し、GDHを含む水溶性画分を得ることができる。または適当な宿主ベクター系を用いることにより、発現したGDHを直接培養液中に分泌させることができる。
【0030】
上記のようにして得られたGDH含有溶液を、例えば減圧濃縮、膜濃縮、さらに硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウムなどの塩析処理、あるいは親水性有機溶媒、例えばメタノール、エタノール、アセトンなどによる分別沈殿法により沈殿せしめればよい。また、加熱処理や等電点処理も有効な精製手段である。また、吸着剤あるいはゲルろ過剤などによるゲルろ過、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィーを行うことにより、精製されたFADGDHを得ることができる。該精製酵素標品は、電気泳動(SDS−PAGE)的に単一のバンドを示す程度に純化されていることが好ましい。
【0031】
これらは、例えば、以下の文献に従って進めることができる。
(a)タンパク質実験プロトコール第1巻 機能解析編,第2巻 構造解析編(秀潤社)西村善文,大野茂男 監修
(b)改訂 タンパク質実験ノート 上 抽出と分離精製(洋土社)岡田雅人,宮崎香 編集
(c)タンパク質実験の進めかた(洋土社)岡田雅人,宮崎香 編集
あるいは以下に例示する方法によって進めることもできる。
【0032】
本発明はさらに、GDHをコードする遺伝子を含むベクター、さらには該ベクターで形質転換された形質転換体を含む。
【0033】
作製されたタンパク質の遺伝情報を有するDNAは、ベクターと連結された状態にて宿主微生物中に移入され、改変タンパク質を生産する形質転換体となる。
【0034】
ベクターとしてプラスミドを用いる場合、例えば、エシェリヒア・コリー(Escherichia coli)を宿主微生物とする場合にはpBluescript,pUC18などが使用できる。宿主微生物としては、例えば、エシェリヒア・コリー W3110、エシェリヒア・コリーC600、エシェリヒア・コリーJM109、エシェリヒア・コリーDH5αなどが利用できる。宿主微生物に組換えベクターを移入する方法としては、例えば宿主微生物がエシェリヒア属に属する微生物の場合には、カルシウムイオンの存在下で組換えDNAの移入を行なう方法などを採用することができ、更にエレクトロポレーション法を用いても良い。更には、市販のコンピテントセル(例えば、コンピテントハイDH5α;東洋紡績製)を用いても良い。
【0035】
このような遺伝子はこれらの菌株より抽出してもよく、また化学的に合成することもできる。さらに、PCR法の利用により、GDH遺伝子を含むDNA断片を得ることも可能である。
【0036】
本発明において、糸状菌由来GDHをコードする遺伝子を得る方法としては、次のような方法が挙げられる。まず、アスペルギルス・オリゼのGDH遺伝子の配列情報を参照し、目的とする糸状菌の予測GDH遺伝子を取得することができる。該糸状菌よりmRNAを調製し、cDNAを合成する。こうして得られたcDNAをテンペレートとして、PCR法によりGDH遺伝子を増幅させ、該遺伝子をベクターと両DNAの平滑末端または付着末端においてDNAリガーゼなどにより結合閉鎖させて組換えベクターを構築する。該組換えベクターを複製可能な宿主微生物に移入した後、ベクターのマーカーを利用してGDHをコードする遺伝子を含有する組換えベクターを保持する微生物を得る。
【0037】
GDH遺伝子の塩基配列は、Science,第214巻,1205(1981)に記載されたジデオキシ法により解読した。また、GDHのアミノ酸配列は上記のように決定された塩基配列より推定した。
【0038】
上記のようにして、一度選択されたGDH遺伝子を保有する組換えベクターより、他の微生物にて複製できる組換えベクターへの移入は、GDH遺伝子を保持する組換えベクターから制限酵素やPCR法によりGDH遺伝子であるDNAを回収し、他のベクター断片と結合させることにより容易に実施できる。また、これらのベクターによる他の微生物の形質転換は、カルシウム処理によるコンピテントセル法やエレクトロポーレーション法、プロトプラスト法などを用いることができる。
【0039】
なお、本発明のGDH遺伝子は、グルコースデヒドロゲナーゼ活性を有する限り、該遺伝子の翻訳後のアミノ酸配列の各アミノ酸残基の一部が欠失または置換されるようなDNA配列を持つものでもよく、また他のアミノ酸残基が付加または置換されるようなDNA配列を持つものでもよい。
【0040】
野生型GDHをコードする遺伝子を改変する方法としては、通常行われる遺伝情報を改変する手法が用いられる。すなわち、タンパク質の遺伝情報を有するDNAの特定の塩基を変換することにより、或いは特定の塩基を挿入または欠失させることにより、改変蛋白質の遺伝情報を有するDNAが作成される。DNA中の塩基を変換する具体的な方法としては、例えば市販のキット(TransformerMutagenesis Kit;Clonetech製,EXOIII/Mung Bean Deletion Kit;Stratagene製,QuickChange Site Directed Mutagenesis Kit;Stratagene製など)の使用、或いはポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)の利用が挙げられる。
【0041】
形質転換体である宿主微生物の培養形態は、宿主の栄養生理的性質を考慮して培養条件を選択すればよく、多くの場合は液体培養で行う。工業的には通気攪拌培養を行うのが有利である。
【0042】
培地の栄養源としては,微生物の培養に通常用いられるものが広く使用され得る。炭素源としては資化可能な炭素化合物であればよく、例えば、グルコース、シュークロース、ラクトース、マルトース、ラクトース、糖蜜、ピルビン酸などが使用される。また、窒素源としては利用可能な窒素化合物であればよく、例えば、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、カゼイン加水分解物、大豆粕アルカリ抽出物などが使用される。その他、リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩、マグネシウム、カルシウム、カリウム、鉄、マンガン、亜鉛などの塩類、特定のアミノ酸、特定のビタミンなどが必要に応じて使用される。
【0043】
培養温度は菌が成育し、GDHを生産する範囲で適宜変更し得るが、好ましくは20〜37℃程度である。培養時間は条件によって多少異なるが、GDHが最高収量に達する時期を見計らって適当時期に培養を完了すればよく、通常は6〜48時間程度である。糸状菌由来GDHの組換え体の培養においては、培地のpHを制御することが特に重要であり、pH7.1〜7.3以下に制御することが望ましく、pH6.0〜7.3の範囲で制御して培養することが特に好ましい。この様にpHを制御して培養することにより、糸状菌GDHタンパク質を大量に調製することが可能になる。
【0044】
しかしながら、糸状菌由来のGDHは、pH7.0以下の酸性域では高い安定性を保持するが、pH7.1〜7.3以上では不安定となり、急速な活性低下が見られる。
したがって本発明においては、糸状菌由来のグルコース脱水素酵素(GDH)を組換え生産において、培養時のpHを7.3以下に制御することが好ましい。
【0045】
糸状菌由来GDH組換え体の培養生産時においては、この活性低下割合が、pHが0.2高くなることにより、元の活性値と比べて10%以上低下しており、GDHによっては最大で30%程度も低下していた。そこで、本特許においては、pHが0.2上昇することにより、元の活性値と比べて10%以上が低下する現象における活性低下前の培養液のpHの値以下、具体的には、7.3以下、好ましくは7.1以下でpH制御することの有効性を推測し、実際に検討して確認した。
【0046】
組換え体の培養において、菌体の死滅や目的タンパク質の分解を懸念して、pH制御することは一般的に行われているが、通常は中性域のpHを保つことが一般的であり、糸状菌由来グルコースデヒドロゲナーゼのように中性以下のpH制御の必要性を説いた例はない。
【0047】
培養物中のGDHを生産する菌体を含む培養液をそのまま採取し、利用することもできるが、一般には、常法に従って、GDHが培養液中に存在する場合はろ過、遠心分離などにより、GDH含有溶液と微生物菌体とを分離した後に利用される。GDHが菌体内に存在する場合には、得られた培養物からろ過または遠心分離などの手段により菌体を採取し、次いで、この菌体を機械的方法またはリゾチームなどの酵素的方法で破壊し、また、必要に応じて、EDTA等のキレート剤及び界面活性剤を添加してGDHを可溶化し、水溶液として分離採取する。
【0048】
上記のようにして得られたGDH含有溶液を、例えば減圧濃縮、膜濃縮、さらに硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウムなどの塩析処理、あるいは親水性有機溶媒、例えばメタノール、エタノール、アセトンなどによる分別沈殿法により沈殿せしめればよい。また、加熱処理や等電点処理も有効な精製手段である。その後、吸着剤あるいはゲルろ過剤などによるゲルろ過、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィーを行うことにより、精製されたGDHを得ることができる。
【0049】
例えば、セファデックス(Sephadex)ゲル(ファルマシアバイオテク)などによるゲルろ過、DEAEセファロースCL−6B (ファルマシアバイオテク)、オクチルセファロースCL−6B (ファルマシアバイオテク)等のカラムクロマトグラフィーにより分離、精製し、精製酵素標品を得ることができる。該精製酵素標品は、電気泳動(SDS−PAGE)的に単一のバンドを示す程度に純化されていることが好ましい。
【0050】
試験例
本発明において、グルコースデヒドロゲナーゼ活性の測定は以下の条件で行う。
<試薬>
50mM PIPES緩衝液pH6.5(0.1%TritonX−100を含む)
14mM 2,6−ジクロロフェノールインドフェノール(DCPIP)溶液
1M D−グルコース溶液
上記PIPES緩衝液15.8ml、DCPIP溶液0.2ml、D−グルコース溶液4mlを混合して反応試薬とする。
【0051】
<測定条件>
反応試薬2.9mlを37℃で5分間予備加温する。GDH溶液0.1mlを添加しゆるやかに混和後、水を対照に37℃に制御された分光光度計で、600nmの吸光度変化を5分記録し、直線部分から1分間あたりの吸光度変化(ΔODTEST)を測定する。盲検はGDH溶液の代わりにGDHを溶解する溶媒を試薬混液に加えて同様に1分間あたりの吸光度変化(ΔODBLANK)を測定する。これらの値から次の式に従ってGDH活性を求める。ここでGDH活性における1単位(U)とは、濃度200mMのD−グルコース存在下で1分間に1マイクロモルのDCPIPを還元する酵素量として定義している。
【0052】
活性(U/ml)={−(ΔODTEST−ΔODBLANK)×3.0×希釈倍率}/(16.3×0.1×1.0)
【0053】
なお、式中の3.0は反応試薬+酵素溶液の液量(ml)、16.3は本活性測定条件におけるミリモル分子吸光係数(cm2/マイクロモル)、0.1は酵素溶液の液量(ml)、1.0はセルの光路長(cm)を示す。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0055】
配列番号1に記載の塩基配列からなるDNA(遺伝子)は、NCBIのデータベースから予測される、アスペルギルス・オリゼRIB40株由来のグルコースデヒドロゲナーゼをコードするDNA(遺伝子)を含む、イントロンを除去していないゲノム遺伝子配列からイントロンを除去したものである。配列番号2はその対応アミノ酸配列である。
【0056】
配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子は、NCIBのデータベースから予測されるグルコースデヒドロゲナーゼ遺伝子の全配列を示す。
【0057】
配列番号3に記載の塩基配列からなるDNA(遺伝子)は、本願発明者が同定した、後述のアスペルギルス・オリゼ TI株由来のグルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA(遺伝子)の全配列を示す。配列番号4はその対応アミノ酸配列である。また、配列番号3に記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつグルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA(遺伝子)も、本発明の適用範囲に含まれる。
【0058】
配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子とは、後述のアスペルギルス・オリゼ TI株由来のグルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA(遺伝子)の全配列を示す。また、配列番号4に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加(挿入)されたアミノ酸配列からなり、かつグルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA(遺伝子)も、本発明の適用範囲に含まれる。
【0059】
後述の実施例に記載される、アスペルギルス・オリゼGDH遺伝子の取得手順の概略は以下の通りである。
【0060】
アスペルギルス・オリゼ由来GDH遺伝子を取得するために、アスペルギルス・オリゼ、アスペルギルス・テレウス培養上清から、塩析、クロマトグラフィー等を用いてGDHの精製を試みたが、高純度のGDHを得るのは困難であった。(実験例1[1])
よって、遺伝子取得の常法の1つである部分アミノ酸配列を利用したクローニングは断念せざるを得なくなった。
【0061】
そこで、我々はGDHを生産する微生物を上記以外に求め、鋭意探索した結果、Penicillium lilacinoechinulatum NBRC6231株がGDHを生産することを見出し、本菌株の培養液から高純度の精製酵素を得ることに成功した。(実験例1[2])
次いで、該酵素を用いて部分アミノ酸配列を決定することに成功し、決定したアミノ酸配列を元に、PCR法により、Penicillium lilacinoechinulatum NBRC6231由来GDH遺伝子を一部取得し、塩基配列を決定した(1356bp)。(実験例1[3][4])
最終的に、この塩基配列を元に、公開されているアスペルギルス・オリゼのゲノムデータベースより、アスペルギルス・オリゼGDH遺伝子を推定(実験例1[5])、取得した。
【0062】
<実験例1>
アスペルギルス・オリゼ由来グルコースデヒドロゲナーゼ(以下AOGDHとも記載)遺伝子の推定
[1]アスペルギルス・オリゼ由来GDHの取得
アスペルギルス・オリゼは、土壌より入手し定法に従ってL乾燥菌株とし保管していたものを使用した。以下、これをアスペルギルス・オリゼTI株と呼ぶ。アスペルギルス・オリゼTI株のL乾燥菌株をポテトデキストロース寒天培地(Difco製)に植菌し、25℃でインキュベートすることにより復元した。復元させたプレート上の菌糸を寒天ごと回収して、フィルター滅菌水に懸濁した。2基の10L容ジャーファーメンター中に生産培地(1%麦芽エキス、1.5%大豆ペプチド、0.1%MgSO4・7水和物、2%グルコース、pH6.5)6Lを調製し、120℃15分オートクレーブ滅菌して放冷した後、上記の菌糸懸濁液を接種し、30℃、通気攪拌培養を行った。培養開始から64時間後に培養を停止し、菌糸体を濾過により除去してGDH活性を含む濾過液を回収した。回収した上清を限外ろ過膜(分子量10,000カット)により低分子物質を除去した。次いで、硫酸アンモニウムを60%飽和度となるように添加、溶解し、硫安分画を行い、遠心機によりGDHを含む上清画分を回収した後、Octyl−Sepharoseカラムに吸着させ、硫酸アンモニウム飽和度60%〜0%でグラジエント溶出してGDH活性のある画分を回収した。得られたGDH溶液を、G−25−Sepharoseカラムを用いて脱塩を行った後、60%飽和度の硫酸アンモニウムを添加、溶解し、これをPhenyl−Sepharoseカラムに吸着させ、硫酸アンモニウム飽和度60%〜0%でグラジエント溶出してGDH活性のある画分を回収した。更にこれを50℃で45分加温した後、遠心分離を行って上清を得た。以上の工程を経て得られた溶液を精製GDH標品(AOGDH)とした。尚、上記精製過程においては、緩衝液として20mM リン酸カリウム緩衝液(pH6.5)を使用した。さらに、AOGDHの部分アミノ酸配列を決定するため、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィーなどの各種手段により精製を試みたものの、部分アミノ酸配列決定に供することのできる精製標品を得ることはできなかった。また、我々はアスペルギルス・テレウスに属する微生物を独自に探索入手し、上記と同様にその培養上清より、塩析、Octyl−sepharose等による精製を試みたが、アスペルギルス・オリゼ同様部分アミノ酸配列決定に供することのできる精製標品を得ることはできなかった。通常、一般的に行われる精製法を用いて、高純度で、SDS−PAGE上ではっきりと確認できるGDH標品を得ることができなかったのは、酵素タンパク質に結合しているであろう糖鎖が原因の一つとなっているのではないかと推察した。したがって、遺伝子取得の常法の1つである該タンパク質の部分アミノ酸配列を利用したクローニングを断念せざるを得なくなった。
【0063】
[2]ペニシリウム属糸状菌由来GDHの取得
ペニシリウム属糸状菌由来のGDH生産菌としてPenicillium lilacinoechinulatum NBRC6231(独立行政法人製品評価技術基盤機構より購入)を用い、上記アスペルギルス・オリゼTI株と同用の手順に従って、培養および精製を行い、SDS電気泳動でほぼ均一な精製標品を取得した。
【0064】
[3]cDNAの作製
Penicillium lilacinoechinulatum NBRC6231について上記方法に従い(ただしジャーファーメンターでの培養時間は24時間)培養を実施し、濾紙濾過により菌糸体を回収した。得られた菌糸は直ちに液体窒素中に入れて凍結させ、クールミル(東洋紡社製)を用いて菌糸を粉砕した。粉砕菌体より直ちにセパゾールRNA I(ナカライテスク社製)を用いて本キットのプロトコールに従ってトータルRNAを抽出した。得られたトータルRNAからはOrigotex−dt30(第一化学薬品社製)をもちいてmRNAを精製し、これをテンプレートにReverTra−Plus−TM(東洋紡社製)を用いてRT−PCRを行った。得られた産物はアガロース電気泳動を行い、鎖長0.5〜4.0kbに相当する部分を切り出した。切り出したゲル断片からMagExtractor−PCR&Gel Clean Up−(東洋紡社製)を用いてcDNAを抽出・精製してcDNAサンプルとした。
【0065】
[4]GDH遺伝子部分配列の決定
上記で精製したPenicillium lilacinoechinulatum NBRC6231由来GDHを0.1%SDS、10%グリセロールを含有するTris−HClバッファー(pH6.8)に溶解し、ここにGlu特異的V8エンドプロテアーゼを終濃度10μg/mlとなるように添加し、37℃16時間インキュベートすることで部分分解を行った。このサンプルをアクリルアミド濃度16%のゲルを用いて電気泳動してペプチドを分離した。このゲル中に存在するペプチド分子を、ブロット用バッファー(1.4%グリシン、0.3%トリス、20%エタノール)を用いてセミドライ法によりPVDF膜に転写した。PVDF膜上に転写したペプチドはCBB染色キット(PIERCE社製GelCode Blue Stain Reagent)を用いて染色し、可視化されたペプチド断片のバンド部分2箇所を切り取ってペプチドシーケンサーにより内部アミノ酸配列の解析を行った。得られたアミノ酸配列はIGGVVDTSLKVYGT(配列番号15)およびWGGGTKQTVRAGKALGGTST(配列番号16)であった。この配列を元にミックス塩基を含有するディジェネレートプライマーを作製し、Penicillium lilacinoechinulatum NBRC6231由来cDNAをテンプレートにPCRを実施したところ、増幅産物が得られ、アガロースゲル電気泳動により確認したところ、1.4kb程度のシングルバンドであった。このバンドを切り出して東洋紡製MagExtractor−PCR&Gel Clean Up−を用いて抽出・精製した。精製DNA断片はTArget Clone−Plus−(東洋紡社製)によりTAクローニングし、得られたベクターで大腸菌JM109コンピテントセル(東洋紡社製)をヒートショックにより形質転換した。形質転換クローンのうち青白判定でインサート挿入が確認されたコロニーについてMagExtractor−Plasmid−(東洋紡社製)を用いてプラスミドをミニプレップ抽出・精製し、プラスミド配列特異的プライマーを用いてインサートの塩基配列を決定した(1356bp)。
【0066】
[5]AOGDH遺伝子の推定
決定した塩基配列を元に「NCBI BLAST」のホームページ(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)からホモロジー検索を実施し、AOGDH遺伝子を推定した。検索により推定したAOGDHとP.lilacinoechinulatum NBRC6231由来GDH部分配列とのアミノ酸レベルでの相同性は49%であった。
【0067】
<実施例1>
アスペルギルス・オリゼ由来グルコースデヒドロゲナーゼ(以下AOGDHと示す)遺伝子の大腸菌への導入
AOGDH遺伝子を、アスペルギルス・オリゼの菌体よりmRNAを調製し、cDNAを合成した。配列番号5,6に示す2種類のオリゴDNAを合成し、調製したcDNAをテンプレートとしてKOD−Plus(東洋紡績製)を用いてAOGDH遺伝子(野生型)増幅した。DNA断片を制限酵素NdeI、BamHIで処理し、pBluescript(LacZの翻訳開始コドンatgに合わせNdeI認識配列のatgを合わせる形でNdeIサイトを導入したもの)NdeI−BamHIサイトに挿入し、組換えプラスミドを構築した。この組換えプラスミドを、コンピテントハイ DH5α(東洋紡績製)を用いて導入した。常法に従いプラスミドを抽出し、AOGDH遺伝子の塩基配列の決定を行った(配列番号3)。cDNA配列から推定されるアミノ酸残基は593アミノ酸(配列番号4)であった。
シグナルペプチド切断後のFAD−GDHをmFAD−GDHとした場合、mFAD−GDHのN末端にMのみ付加してmFAD−GDHのN末端が1アミノ酸分のびた形態となっているものをS2と表現した。また、mFAD−GDHのN末端のKをMにアミノ酸置換して、mFAD−GDHとアミノ酸総数を同じにしたものをS3と表現した。S2では、配列番号7のオリゴヌクレオチドをN末端側プライマーとして、配列番号6のプライマーとの組合せでPCRを行い、同様の手順で、S2をコードするDNA配列をもつ組換えプラスミドを構築し、同様に形質転換体を取得した。S3では、配列番号8のオリゴヌクレオチドをN末端側プライマーとして、配列番号6のプライマーとの組合せでPCRを行い、S3をコードするDNA配列をもつ組換えプラスミドを構築し、同様に形質転換体を取得した。なお、それぞれの改変FAD−GDHのDNA配列を持つプラスミドは、DNAシーケンシングにて配列上誤りがないことを確かめた。
配列番号9は、上記で決定したシグナルペプチド欠質変異体S2のDNA配列を示す。配列番号10はその対応するアミノ酸配列を示す。
これら形質転換体をTB培地にて10L−ジャーファーメンターを用いて1〜2日間液体培養した。各培養フェーズの菌体を集菌した後、超音波破砕してGDH活性を確認した。各種形質転換体の培養フェーズとOD,pH,GDH活性の関係を表1,2,3および図2,3,4に示す。なお、アスペルギルス・オリゼ野生株を液体培地(1%麦芽エキス、1.5%大豆ペプチド、0.1%MgSO4 ・7水和物、2%グルコース、0.05mM p−ベンゾキノン、0.1mM EDTA、pH6.5)にて、10L−ジャーファーメンターを用いて30℃、1日間培養し、菌体内あるいは菌体外の活性を確認したところ、いずれも約0.2U/ml培養液程度のGDH活性であった。
【0068】
なお、本特許においては、1ml培養液あたりのGDH活性量を比較することにより発現量の比較を行っている。
野生型FAD−GDH(WT)では、培養16〜18時間でピーク(6.6U/ml−b)が見られ、以後活性の低下が見られた。一方、改変型FAD−GDHのS2では22〜25時間目(72〜73U/ml−b)、S3では20〜23時間目(74〜75U/ml−b)でピークが見られ、WTと同様にその後は、GDH活性の低下が見られた。
それぞれのピークにおける培養力価を比較したところ、シグナルペプチドと思われるアミノ酸配列を削除することにより、そのGDH生産性が10倍以上増大することが明らかにされた。
また、シグナルペプチドの削除前後でFADGDH精製標品の比活性(U/mg)を比較したところ、野生型FADGDH(WT)270U/mgのところ、削除後の改変型FADGDHのS2では670U/mgであり、比活性が2.5倍増大していた。シグナルペプチドを削除することにより比活性も増大することが示唆されている。
比活性の増大を考慮しても、少なくとも4.4倍は活性量が増大しているものと思われる。
【0069】
さらに我々は鋭意検討の結果、糸状菌由来のFAD−GDHは、pH7.1以上のpH域において、その安定性が低下することを発見した。そして今回の検討で、糸状菌由来FAD−GDHの組換え体での生産培養において、pH7.1〜7.3以下、好ましくはpH7.1以下でpH制御を行うことが如何に大切であるかが明らかにされた。なお、当該pH以下となるように培養制御を入れることによりGDH活性のピークが保てることを確認している。
また、糸状菌由来のグルコースデヒドロゲナーゼ(以下GDHとも記載)を組換え生産する方法において、そのN末端領域に存在するシグナルペプチド配列に変異を導入したものでは、培養制御pHを7.3まで上げることができる。
【0070】
<実施例2>
アスペルギルス・テレウス由来グルコースデヒドロゲナーゼ(以下ATGDHと示す)遺伝子の大腸菌への導入
ATGDH遺伝子を、アスペルギルス・テレウスの菌体(寄託番号NBRC 33026として製品評価技術基盤機構・生物資源部門に登録されている。)よりmRNAを調製し、cDNAを合成した。配列番号13,14に示す2種類のオリゴDNAを合成し、調製したcDNAをテンプレートとしてKOD−Plus(東洋紡績製)を用いてATGDH遺伝子(予想シグナルペプチド配列を除去した遺伝子配列)を増幅した。DNA断片を制限酵素NdeI、BamHIで処理し、pBluescript(LacZの翻訳開始コドンatgに合わせNdeI認識配列のatgを合わせる形でNdeIサイトを導入したもの)NdeI−BamHIサイトに挿入し、組換えプラスミドを構築した。この組換えプラスミドを、コンピテントハイ DH5α(東洋紡績製)を用いて導入した。常法に従いプラスミドを抽出し、ATGDH遺伝子の塩基配列の決定を行った(配列番号11)。cDNA配列から推定されるアミノ酸残基は568アミノ酸(配列番号12)であった。
これら形質転換体を100μg/mlのアンピシリンを含む50mlのLB培地にて30℃,1晩培養した後、再度、100μg/mlのアンピシリンを含む50mlのLB培地にて30℃,8時間培養して種菌を調製した。
調製した種菌を、100μg/mlのアンピシリンを含むTB培地にて、Kd・P 0.5〜1.5の範囲で10L−ジャーファーメンターにて6日間液体培養した。各培養フェーズの菌体を集菌した後、超音波破砕してGDH活性を確認した。培養フェーズとOD,pH,GDH活性の関係を表4,5,6,7および図4,5,6,7に示す。なお、アスペルギルス・テレウス野生株を液体培地(1%麦芽エキス、1.5%大豆ペプチド、0.1%MgSO4 ・7水和物、2%グルコース、0.05mM p−ベンゾキノン、0.1mM EDTA、pH6.5)にて、10L−ジャーファーメンターを用いて30℃、1日間培養し、菌体内のGDH活性を確認したところ、約0.1U/ml培養液がピークであった。
一方、FAD−GDH組換え体では、ピークで約9〜21U/ml−bの活性が見られ、100〜200倍程度の培養力価の増大が認められた。また、培養条件を検討したところ、Kd・Pを0.5と低く設定することにより、Kd・P 0.75の時の約1.5倍、Kd・P 1〜1.5の時の約2倍の培養力価が認められた。なお、Kd・Pを2以上に設定した場合には、培養力価が約5U/ml−b以下となることを確認している。
培養温度に関しては、培養フェーズとOD,pH,GDH活性の関係を表8,9,10,11および図8,9,10,11に示す。培養温度は26〜28℃が最適であり、少なくとも23〜28℃で培養する必要があり、29℃よりも高い温度にて培養した場合、培養力価が半減する傾向が認められた。
ATGDH遺伝子組換え体の培養においても、培養液のpHを7.3以下に保つことが酵素活性を安定に保つために非常に重要であり、ATGDHにおいては、AOGDHよりも、むしろ低いpHで培養を終了することが必要になるようであった。
なお、ATGDH遺伝子は、アスペルギルス・テレウス由来FAD−GDHをコードするDNA配列から予想されるシグナルペプチド(MLGKLSFLSALSLAVAATLSNSTSA)(配列番号17)配列部分のDNAを切除したものである。シグナルペプチド配列を含むものは、A.オリゼ由来FAD−GDHと同様、FAD−GDHの発現量が乏しかったため、当初からシグナルペプチドを含まないものを用いて培養の検討を行なっている。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
【表3】
【0074】
【表4】
【0075】
【表5】
【0076】
【表6】
【0077】
【表7】
【0078】
【表8】
【0079】
【表9】
【0080】
【表10】
【0081】
【表11】
【0082】
表1〜表3は、各種変異体の10Lジャーファーメンター培養における培養フェーズと培養液の菌体濁度(OD)、pH、GDH活性値の関係を示す。表1は図2に、表2は図3に、表3は図4にそれぞれ対応する。
【0083】
表4〜表7は、10Lジャーファーメンター培養における夫々Kd・P 0.5、0.75、1、1.5における培養フェーズと培養液の菌体濁度(OD)、pH、GDH活性値の関係を示す。表4は図5に、表5は図6に、表6は図7に、表7は図8にそれぞれ対応する。
【0084】
表8〜表11は、10Lジャーファーメンター培養における夫々培養温度 20、23、26、30℃における培養フェーズと培養液の菌体濁度(OD)、pH、GDH活性値の関係を示す。表8は図9に、表9は図10に、表10は図11に、表11は図12にそれぞれ対応する。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、組換え大腸菌を用いることにより、アスペルギルス・オリゼ由来のグルコースデヒドロゲナーゼを、大量に生産することを可能にするものである。また、本発明により広い意味でマルトースに作用しない、グルコースセンサ等に適したグルコースデヒドロゲナーゼを生産することが可能になる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸状菌由来のグルコースデヒドロゲナーゼを組換え体にて高発現させる方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
血糖自己測定は、糖尿病患者が通常の自分の血糖値を把握し治療に生かすために重要である。血糖自己測定に用いられるセンサにはグルコースを基質とする酵素が利用されている。そのような酵素の例としては、例えばグルコースオキシダーゼ(EC 1.1.3.4)が挙げられる。グルコースオキシダーゼはグルコースに対する特異性が高く、熱安定性に優れているという利点を有していることから血糖センサ用酵素として古くから利用されており、その最初の発表は実に40年ほど前に遡る。グルコースオキシダーゼを利用した血糖センサにおいては、グルコースを酸化してD−グルコノ−δ−ラクトンに変換する過程で生じる電子がメディエーターを介して電極に渡されることで測定がなされるが、グルコースオキシダーゼは反応で生じたプロトンを酸素に渡しやすいため溶存酸素が測定値に影響してしまうという問題があった。
【0003】
このような問題を回避するために、例えばNAD(P)依存型グルコースデヒドロゲナーゼ(EC 1.1.1.47)あるいはピロロキノリンキノン依存型グルコースデヒドロゲナーゼ(EC 1.1.5.2(旧 EC1.1.99.17))が血糖センサ用酵素として用いられている。これらは溶存酸素の影響を受けない点で優位であるが、前者のNAD(P)依存型グルコースデヒドロゲナーゼは安定性の乏しさや補酵素の添加が必要という煩雑性がある。一方後者のピロロキノリンキノン依存型グルコースデヒドロゲナーゼは、基質特異性に乏しくマルトースやラクトースといったグルコース以外の糖類にも作用するため、測定値の正確性を損ねる可能性があるという欠点がある。
【0004】
文献1〜4にはアスペルギルス・オリゼ由来のグルコースデヒドロゲナーゼについて報告されているが、グルコースデヒドロゲナーゼ遺伝子に関しては報告されていない。
また、非特許文献1〜4には、遺伝子組み換えによりアスペルギルス・オリゼ由来のグルコースデヒドロゲナーゼを製造することについての記載はない。
【0005】
また、特許文献1にはアスペルギルス属由来フラビン結合型グルコースデヒドロゲナーゼが開示されている。本酵素は基質特異性に優れかつ溶存酸素の影響を受けない点で優位である。熱安定性については50℃15分処理で89%程度の活性残存率であり安定性(以下、耐熱性とも表記)についても優れているとされている。特許文献2には、その遺伝子配列、アミノ酸配列が報告されている。
【0006】
しかしながら、フラビン結合型グルコースデヒドロゲナーゼ(FAD依存性グルコースデヒドロゲナーゼともいう。)の製造は、組換えDNA技術を用いても困難を極めている。実際、特許文献2において開示されているFAD依存性グルコースデヒドロゲナーゼの組換え大腸菌K12株において0.09U/mlと、極めて低いレベルであった。大腸菌K12株は、組換え生産において最も汎用され、組換え操作が簡便で、培養のし易さ、安全性の面などから工業的に多用されている宿主である。したがって、大腸菌K12株を宿主とした組換え体により、FAD依存性グルコースデヒドロゲナーゼを効率的に生産する方法が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO 2004/058958
【特許文献2】WO 2006/101239
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Biochim Biophys Acta.1967 Jul 11;139(2):265−76
【非特許文献2】Biochim Biophys Acta.1967 Jul 11;139(2):277−93
【非特許文献3】Biochim Biophys Acta.146(2):317−27
【非特許文献4】Biochim Biophys Acta.146(2):328−35
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、より実用面において有利な血糖センサ用酵素を提供することである。より具体的には、基質特異性ばかりでなく、生産コストの優れた糸状菌由来のグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)を大量に取得し、利用することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するために、まず、アスペルギルス・オリゼのゲノム情報を利用し、グルコースデヒドロゲナーゼ遺伝子を特定・取得した。そして、該遺伝子を用いて大腸菌よりアスペルギルス・オリゼ由来のグルコースデヒドロゲナーゼを取得できることを見出した。また、ゲノム情報からアミノ酸配列を推定し、該アミノ酸配列のN末端領域にシグナルペプチドと思われるアミノ酸配列が存在することを見出した。
シグナルペプチドは、ペリプラズム空間への移行シグナルとなり、該空間のスペース上、発現量に制限が生じる可能性が危惧されたので、該シグナルペプチドの機能を欠失させる検討を行ったところ、GDHの生産性が約10倍向上して、生産コストを1/10に抑えることが可能となった。
【0011】
すなわち、本発明は以下のような構成からなる。
(1)糸状菌由来のグルコースデヒドロゲナーゼ(以下GDHとも記載)を組換え生産する方法において、そのN末端領域に存在するシグナルペプチド配列に変異を導入することにより、該目的酵素の発現量を変異導入前と比べて高めることを特徴とするGDHの生産方法。
(2)糸状菌由来のGDHを組換え生産する方法において、そのN末端領域に存在するシグナルペプチドのアミノ酸配列の一部を欠損、あるいは置換することにより、該目的酵素の発現量を変異導入前と比べて高めることを特徴とする(1)記載のGDHの生産方法。
(3)配列番号2、4のいずれかに記載されたアミノ酸配列のうち、そのN末端に存在するMLFSLAFLSALSLATASPAGRAのアミノ酸配列の一部、あるいは全てを削除して発現させることによりこれらのアミノ酸配列が存在する場合と比べて発現量を高めることを特徴とする(1)記載のGDHの生産方法。
(4)配列番号2、4のいずれかに記載されたアミノ酸配列のうち、そのN末端に存在するMLFSLAFLSALSLATASPAGRAのアミノ酸配列に、1〜22個のアミノ酸置換または/及びアミノ酸挿入を行うことにより、元のアミノ酸配列が存在する場合と比べて発現活性を高めることを特徴とする(1)記載のGDHの生産方法。
(5)糸状菌由来のグルコースデヒドロゲナーゼのN末端に存在するMLGKLSFLSALSLAVAATLSNSTSAのアミノ酸配列の一部、あるいは全てを削除して発現させることによりこれらのアミノ酸配列が存在する場合と比べて発現量を高めるか、もしくは、1〜25個のアミノ酸置換または/及びアミノ酸挿入を行うことにより、元のアミノ酸配列が存在する場合と比べて発現活性を高めることを特徴とする(1)記載のGDHの生産方法。
(6)糸状菌由来グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)において、そのN末端に存在するシグナルペプチドをコードするDNA配列の一部、あるいは全てを置換または/及び欠損させたGDH遺伝子をコードする(1)〜(5)のいずれかの生産方法に使用されるDNA配列。
(7)(6)のDNA配列を含んでなる組換えベクター。
(8)(7)に記載の組換えベクターを宿主に導入してなる形質転換体。
(9)(8)に記載の形質転換体を用いて生産したGDHタンパク質。
(10)(9)に記載のGDHタンパク質を含む組成物。
(11)(10)に記載の組成物を用いるグルコース濃度の測定方法。
(12)(11)に記載の組成物を含むグルコースセンサ。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、グルコースデヒドロゲナーゼを効率的に生産しかつ、より実用的なグルコースデヒドロゲナーゼを取得することが可能になった。
本発明によれば、アスペルギルス属、またはペニシリウム属より単離したグルコースデヒドロゲナーゼ遺伝子からアミノ酸配列を推定し、シグナルペプチド領域を予測して、シグナルペプチドの一部または全部をコードするDNA配列を欠失させたり、シグナルペプチドをコードされたアミノ酸配列にアミノ酸置換やアミノ酸挿入を施すことにより、組換え体にてグルコースデヒドロゲナーゼを効率的に生産させることができ、かつ、産業利用の観点からより実用的なグルコースデヒドロゲナーゼを取得することが可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、アスペルギルス・オリゼ由来FAD−GDHのシグナルペプチド切断部位の予測を示す図である。
【図2】図2は、A.オリゼ野生型GDH(シグナルペプチド有)の培養フェーズと菌体濁度(OD)、pH、GDH活性値の関係を示すグラフである。
【図3】図3は、A.オリゼ変異型GDH‐S2の培養フェーズと菌体濁度(OD)、pH、GDH活性値の関係を示すグラフである。
【図4】図4は、A.オリゼ変異型GDH‐S3の培養フェーズと菌体濁度(OD)、pH、GDH活性値の関係を示すグラフである。
【図5】図5は、A.テレウス野生型GDH(予想シグナルペプチド配列切除)の培養温度28℃,Kd・P0.5における培養フェーズと菌体濁度(OD)、pH、GDH活性値の関係を示すグラフである。
【図6】図6は、A.テレウス野生型GDH(予想シグナルペプチド配列切除)の培養温度28℃,Kd・P0.75における培養フェーズと菌体濁度(OD)、pH、GDH活性値の関係を示すグラフである。
【図7】図7は、A.テレウス野生型GDH(予想シグナルペプチド配列切除)の培養温度28℃,Kd・P1.0における培養フェーズと菌体濁度(OD)、pH、GDH活性値の関係を示すグラフである。
【図8】図8は、A.テレウス野生型GDH(予想シグナルペプチド配列切除)の培養温度28℃,Kd・P1.5における培養フェーズと菌体濁度(OD)、pH、GDH活性値の関係を示すグラフである。
【図9】図9は、A.テレウス野生型GDH(予想シグナルペプチド配列切除)の培養温度20℃,Kd・P0.5における培養フェーズと菌体濁度(OD)、pH、GDH活性値の関係を示すグラフである。
【図10】図10は、A.テレウス野生型GDH(予想シグナルペプチド配列切除)の培養温度23℃,Kd・P0.5における培養フェーズと菌体濁度(OD)、pH、GDH活性値の関係を示すグラフである。
【図11】図11は、A.テレウス野生型GDH(予想シグナルペプチド配列切除)の培養温度26℃,Kd・P0.5における培養フェーズと菌体濁度(OD)、pH、GDH活性値の関係を示すグラフである。
【図12】図12は、A.テレウス野生型GDH(予想シグナルペプチド配列切除)の培養温度29℃,Kd・P0.5における培養フェーズと菌体濁度(OD)、pH、GDH活性値の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態は、糸状菌由来のGDHを組換え生産する方法において、そのN末端領域に存在するシグナルペプチド配列に変異を導入することにより、該目的酵素の発現量を変異導入前と比べて高めることを特徴とするGDHの生産方法である。
【0015】
本発明者らは、大収量のGDHタンパク質を取得するために鋭意努力した結果、上記目的を達成するために、まずその改変の元になる遺伝子DNAとして、先の発明でアスペルギルス・オリゼのゲノム情報を利用し、グルコースデヒドロゲナーゼ(以下GDHと示す)と推測される遺伝子DNAを見出している。
【0016】
本発明者らは、NCBIのデータベースを利用し、FAD依存性グルコースデヒドロゲナーゼ(以下GDHと示す)と推測される遺伝子DNAを見出した。
【0017】
本発明者らは、非特許文献1〜4、NCBIのデータベースなどから、GDH活性を有するタンパク質をコードするDNA(遺伝子)の同定は容易になしうると予想していた。そしてさらに、当該遺伝子を含有する組換えベクターを作製し、形質転換した形質転換体を作り、形質転換体が発現する当該遺伝子がコードするタンパク質を精製することも容易になしうると考えていた。具体的には、非特許文献1〜4に記載された方法や公知技術を参考にしてアスペルギルス・オリゼを培養し、その培養上清から各種クロマトグラフィーを用いてGDHを精製して、その末端アミノ酸配列などを分析してプローブを作製し、GDHをコードする遺伝子を単離することを試みた。
【0018】
本発明者らは種々検討したが、通常行う塩析、クロマトグラフィー等を用いた精製法では、アスペルギルス・オリゼ培養上清から、高純度で、SDS−PAGE上ではっきりと確認できるGDH標品を得るのは困難であることが分かった。酵素タンパク質に結合しているであろう糖鎖が精製、確認を困難にしている原因の1つであると推察した。したがって、遺伝子取得の常法の1つである部分アミノ酸配列を利用したクローニングを断念せざるを得ないと判断した。このため、遺伝子取得には多くの試行錯誤をともない、非常な困難を極めたが、鋭意検討の結果、アスペルギルス・オリゼ由来のGDHをコードする遺伝子を単離した。その詳細は実施例に後述する。
【0019】
また、本発明者らは他起源のGDH遺伝子の取得についても種々検討し、ペニシリウム属(Penicillium lilacinoechinulatum)由来のGDHをコードする遺伝子、およびアスペルギルス・テレウス由来のGDHをコードする遺伝子を単離した。その詳細も実施例に後述する。
【0020】
本発明の遺伝子DNAは本GDHの発現をさらに向上させるように、コドンユーセージ(Codon usage)を変更したものを含みうる。
【0021】
シグナルペプチドは、成熟型タンパク質のN末端に残基数15〜30個に及ぶ延長ペプチドとして存在する。該ペプチド配列中には、疎水性アミノ酸領域を持ち、新生ポリペプチド鎖の小胞体膜への付着および膜通過に先導役を務め、膜通過後は切断されるものである。
【0022】
本発明における糸状菌由来のGDH組換え体は特に限定されるものではないが、アスペルギルス属やペニシリウム属などをGDH遺伝子の供給源としたGDH組換え体が例示できる。好ましくはアスペルギルス属のGDHであり、さらに好ましくはアスペルギルス・オリゼである。最も好ましくは配列番号4、10のいずれかに記載されたアミノ酸配列を有するGDHが例示できる。
【0023】
これらGDH組換え体は、該GDHをコードする遺伝子をPCR法にて入手し、この遺伝子を発現用ベクターに挿入し、適当な宿主に形質転換させた形質転換体を培養し、培養液から遠心分離などで菌体を回収した後、菌体を機械的方法またはリゾチームなどの酵素的方法で破壊し、また、必要に応じてEDTAなどのキレート剤や界面活性剤等を添加して可溶化してGDHを含む水溶性画分として得ることができる。または適当な宿主ベクター系を用いることにより、発現したGDHを直接培養液中に分泌させることができる。
【0024】
本発明においては、GDHのN末端領域に存在するシグナルペプチドのアミノ酸配列の一部を欠損、あるいは置換することによりシグナルペプチドの機能を低下させることができる。
例えば、配列番号4に記載されたアミノ酸配列を有するGDHでは、そのN末端に存在するMLFSLAFLSALSLATASPAGRAのアミノ酸配列の一部、あるいは全てを削除することによりシグナルペプチドの機能を低下することができる。あるいは、1〜22個のアミノ酸置換または/及びアミノ酸挿入を行うことによっても可能である。
具体的な置換位置は例えばシグナルペプチド切断部が例示できる。好ましくはシグナルペプチドのC末端に相当するアラニンを他のアミノ酸に置換することにより、機能を低下させることができる。
【0025】
該目的酵素の発現量がシグナルペプチド配列の存在する状態と比べて高まったかどうかは、該配列への変異導入前後における培養液1mlあたりの総活性値を比較して確認することができる。また、シグナルペプチド配列の改変は、エドマン分解を用いたN末端アミノ酸シーケンスにより確かめることができる。
【0026】
N末端領域に存在するシグナルペプチドの機能を欠失することにより、GDHタンパク質の発現量が向上することを見出した。
【0027】
シグナルペプチドの予測ツールとしては、PSORT、SignalPソフトがよく利用されている。それぞれ、webにて「psort.nibb.ac.jp/」、あるいは「www.cbs.dtu.dk/services/SignalP−2.0/」のアドレスから利用することができる。
【0028】
SignalPソフトを用いて、アスペルギルス・オリゼ由来のGDH遺伝子から推定されたアミノ酸配列(配列番号2)のシグナルペプチド切断位置を予測したところ、16番目のアラニンと17番目のセリンの間、あるいは22番目のアラニンと23番目のリジンの間で切断される可能性が高いと予想された(図1)。
【0029】
例えば、アスペルギルス・オリゼ由来のGDH遺伝子を発現用ベクター(プラスミド等多くのものが当該技術分野において知られている)に挿入し、適当な宿主(大腸菌等多くのものが当該技術分野において知られている)に形質転換させた形質転換体を培養し、培養液から遠心分離などで菌体を回収した後、菌体を機械的方法またはリゾチームなどの酵素的方法で破壊し、また、必要に応じてEDTAなどのキレート剤や界面活性剤等を添加して可溶化し、GDHを含む水溶性画分を得ることができる。または適当な宿主ベクター系を用いることにより、発現したGDHを直接培養液中に分泌させることができる。
【0030】
上記のようにして得られたGDH含有溶液を、例えば減圧濃縮、膜濃縮、さらに硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウムなどの塩析処理、あるいは親水性有機溶媒、例えばメタノール、エタノール、アセトンなどによる分別沈殿法により沈殿せしめればよい。また、加熱処理や等電点処理も有効な精製手段である。また、吸着剤あるいはゲルろ過剤などによるゲルろ過、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィーを行うことにより、精製されたFADGDHを得ることができる。該精製酵素標品は、電気泳動(SDS−PAGE)的に単一のバンドを示す程度に純化されていることが好ましい。
【0031】
これらは、例えば、以下の文献に従って進めることができる。
(a)タンパク質実験プロトコール第1巻 機能解析編,第2巻 構造解析編(秀潤社)西村善文,大野茂男 監修
(b)改訂 タンパク質実験ノート 上 抽出と分離精製(洋土社)岡田雅人,宮崎香 編集
(c)タンパク質実験の進めかた(洋土社)岡田雅人,宮崎香 編集
あるいは以下に例示する方法によって進めることもできる。
【0032】
本発明はさらに、GDHをコードする遺伝子を含むベクター、さらには該ベクターで形質転換された形質転換体を含む。
【0033】
作製されたタンパク質の遺伝情報を有するDNAは、ベクターと連結された状態にて宿主微生物中に移入され、改変タンパク質を生産する形質転換体となる。
【0034】
ベクターとしてプラスミドを用いる場合、例えば、エシェリヒア・コリー(Escherichia coli)を宿主微生物とする場合にはpBluescript,pUC18などが使用できる。宿主微生物としては、例えば、エシェリヒア・コリー W3110、エシェリヒア・コリーC600、エシェリヒア・コリーJM109、エシェリヒア・コリーDH5αなどが利用できる。宿主微生物に組換えベクターを移入する方法としては、例えば宿主微生物がエシェリヒア属に属する微生物の場合には、カルシウムイオンの存在下で組換えDNAの移入を行なう方法などを採用することができ、更にエレクトロポレーション法を用いても良い。更には、市販のコンピテントセル(例えば、コンピテントハイDH5α;東洋紡績製)を用いても良い。
【0035】
このような遺伝子はこれらの菌株より抽出してもよく、また化学的に合成することもできる。さらに、PCR法の利用により、GDH遺伝子を含むDNA断片を得ることも可能である。
【0036】
本発明において、糸状菌由来GDHをコードする遺伝子を得る方法としては、次のような方法が挙げられる。まず、アスペルギルス・オリゼのGDH遺伝子の配列情報を参照し、目的とする糸状菌の予測GDH遺伝子を取得することができる。該糸状菌よりmRNAを調製し、cDNAを合成する。こうして得られたcDNAをテンペレートとして、PCR法によりGDH遺伝子を増幅させ、該遺伝子をベクターと両DNAの平滑末端または付着末端においてDNAリガーゼなどにより結合閉鎖させて組換えベクターを構築する。該組換えベクターを複製可能な宿主微生物に移入した後、ベクターのマーカーを利用してGDHをコードする遺伝子を含有する組換えベクターを保持する微生物を得る。
【0037】
GDH遺伝子の塩基配列は、Science,第214巻,1205(1981)に記載されたジデオキシ法により解読した。また、GDHのアミノ酸配列は上記のように決定された塩基配列より推定した。
【0038】
上記のようにして、一度選択されたGDH遺伝子を保有する組換えベクターより、他の微生物にて複製できる組換えベクターへの移入は、GDH遺伝子を保持する組換えベクターから制限酵素やPCR法によりGDH遺伝子であるDNAを回収し、他のベクター断片と結合させることにより容易に実施できる。また、これらのベクターによる他の微生物の形質転換は、カルシウム処理によるコンピテントセル法やエレクトロポーレーション法、プロトプラスト法などを用いることができる。
【0039】
なお、本発明のGDH遺伝子は、グルコースデヒドロゲナーゼ活性を有する限り、該遺伝子の翻訳後のアミノ酸配列の各アミノ酸残基の一部が欠失または置換されるようなDNA配列を持つものでもよく、また他のアミノ酸残基が付加または置換されるようなDNA配列を持つものでもよい。
【0040】
野生型GDHをコードする遺伝子を改変する方法としては、通常行われる遺伝情報を改変する手法が用いられる。すなわち、タンパク質の遺伝情報を有するDNAの特定の塩基を変換することにより、或いは特定の塩基を挿入または欠失させることにより、改変蛋白質の遺伝情報を有するDNAが作成される。DNA中の塩基を変換する具体的な方法としては、例えば市販のキット(TransformerMutagenesis Kit;Clonetech製,EXOIII/Mung Bean Deletion Kit;Stratagene製,QuickChange Site Directed Mutagenesis Kit;Stratagene製など)の使用、或いはポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)の利用が挙げられる。
【0041】
形質転換体である宿主微生物の培養形態は、宿主の栄養生理的性質を考慮して培養条件を選択すればよく、多くの場合は液体培養で行う。工業的には通気攪拌培養を行うのが有利である。
【0042】
培地の栄養源としては,微生物の培養に通常用いられるものが広く使用され得る。炭素源としては資化可能な炭素化合物であればよく、例えば、グルコース、シュークロース、ラクトース、マルトース、ラクトース、糖蜜、ピルビン酸などが使用される。また、窒素源としては利用可能な窒素化合物であればよく、例えば、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、カゼイン加水分解物、大豆粕アルカリ抽出物などが使用される。その他、リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩、マグネシウム、カルシウム、カリウム、鉄、マンガン、亜鉛などの塩類、特定のアミノ酸、特定のビタミンなどが必要に応じて使用される。
【0043】
培養温度は菌が成育し、GDHを生産する範囲で適宜変更し得るが、好ましくは20〜37℃程度である。培養時間は条件によって多少異なるが、GDHが最高収量に達する時期を見計らって適当時期に培養を完了すればよく、通常は6〜48時間程度である。糸状菌由来GDHの組換え体の培養においては、培地のpHを制御することが特に重要であり、pH7.1〜7.3以下に制御することが望ましく、pH6.0〜7.3の範囲で制御して培養することが特に好ましい。この様にpHを制御して培養することにより、糸状菌GDHタンパク質を大量に調製することが可能になる。
【0044】
しかしながら、糸状菌由来のGDHは、pH7.0以下の酸性域では高い安定性を保持するが、pH7.1〜7.3以上では不安定となり、急速な活性低下が見られる。
したがって本発明においては、糸状菌由来のグルコース脱水素酵素(GDH)を組換え生産において、培養時のpHを7.3以下に制御することが好ましい。
【0045】
糸状菌由来GDH組換え体の培養生産時においては、この活性低下割合が、pHが0.2高くなることにより、元の活性値と比べて10%以上低下しており、GDHによっては最大で30%程度も低下していた。そこで、本特許においては、pHが0.2上昇することにより、元の活性値と比べて10%以上が低下する現象における活性低下前の培養液のpHの値以下、具体的には、7.3以下、好ましくは7.1以下でpH制御することの有効性を推測し、実際に検討して確認した。
【0046】
組換え体の培養において、菌体の死滅や目的タンパク質の分解を懸念して、pH制御することは一般的に行われているが、通常は中性域のpHを保つことが一般的であり、糸状菌由来グルコースデヒドロゲナーゼのように中性以下のpH制御の必要性を説いた例はない。
【0047】
培養物中のGDHを生産する菌体を含む培養液をそのまま採取し、利用することもできるが、一般には、常法に従って、GDHが培養液中に存在する場合はろ過、遠心分離などにより、GDH含有溶液と微生物菌体とを分離した後に利用される。GDHが菌体内に存在する場合には、得られた培養物からろ過または遠心分離などの手段により菌体を採取し、次いで、この菌体を機械的方法またはリゾチームなどの酵素的方法で破壊し、また、必要に応じて、EDTA等のキレート剤及び界面活性剤を添加してGDHを可溶化し、水溶液として分離採取する。
【0048】
上記のようにして得られたGDH含有溶液を、例えば減圧濃縮、膜濃縮、さらに硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウムなどの塩析処理、あるいは親水性有機溶媒、例えばメタノール、エタノール、アセトンなどによる分別沈殿法により沈殿せしめればよい。また、加熱処理や等電点処理も有効な精製手段である。その後、吸着剤あるいはゲルろ過剤などによるゲルろ過、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィーを行うことにより、精製されたGDHを得ることができる。
【0049】
例えば、セファデックス(Sephadex)ゲル(ファルマシアバイオテク)などによるゲルろ過、DEAEセファロースCL−6B (ファルマシアバイオテク)、オクチルセファロースCL−6B (ファルマシアバイオテク)等のカラムクロマトグラフィーにより分離、精製し、精製酵素標品を得ることができる。該精製酵素標品は、電気泳動(SDS−PAGE)的に単一のバンドを示す程度に純化されていることが好ましい。
【0050】
試験例
本発明において、グルコースデヒドロゲナーゼ活性の測定は以下の条件で行う。
<試薬>
50mM PIPES緩衝液pH6.5(0.1%TritonX−100を含む)
14mM 2,6−ジクロロフェノールインドフェノール(DCPIP)溶液
1M D−グルコース溶液
上記PIPES緩衝液15.8ml、DCPIP溶液0.2ml、D−グルコース溶液4mlを混合して反応試薬とする。
【0051】
<測定条件>
反応試薬2.9mlを37℃で5分間予備加温する。GDH溶液0.1mlを添加しゆるやかに混和後、水を対照に37℃に制御された分光光度計で、600nmの吸光度変化を5分記録し、直線部分から1分間あたりの吸光度変化(ΔODTEST)を測定する。盲検はGDH溶液の代わりにGDHを溶解する溶媒を試薬混液に加えて同様に1分間あたりの吸光度変化(ΔODBLANK)を測定する。これらの値から次の式に従ってGDH活性を求める。ここでGDH活性における1単位(U)とは、濃度200mMのD−グルコース存在下で1分間に1マイクロモルのDCPIPを還元する酵素量として定義している。
【0052】
活性(U/ml)={−(ΔODTEST−ΔODBLANK)×3.0×希釈倍率}/(16.3×0.1×1.0)
【0053】
なお、式中の3.0は反応試薬+酵素溶液の液量(ml)、16.3は本活性測定条件におけるミリモル分子吸光係数(cm2/マイクロモル)、0.1は酵素溶液の液量(ml)、1.0はセルの光路長(cm)を示す。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0055】
配列番号1に記載の塩基配列からなるDNA(遺伝子)は、NCBIのデータベースから予測される、アスペルギルス・オリゼRIB40株由来のグルコースデヒドロゲナーゼをコードするDNA(遺伝子)を含む、イントロンを除去していないゲノム遺伝子配列からイントロンを除去したものである。配列番号2はその対応アミノ酸配列である。
【0056】
配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子は、NCIBのデータベースから予測されるグルコースデヒドロゲナーゼ遺伝子の全配列を示す。
【0057】
配列番号3に記載の塩基配列からなるDNA(遺伝子)は、本願発明者が同定した、後述のアスペルギルス・オリゼ TI株由来のグルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA(遺伝子)の全配列を示す。配列番号4はその対応アミノ酸配列である。また、配列番号3に記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつグルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA(遺伝子)も、本発明の適用範囲に含まれる。
【0058】
配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子とは、後述のアスペルギルス・オリゼ TI株由来のグルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA(遺伝子)の全配列を示す。また、配列番号4に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加(挿入)されたアミノ酸配列からなり、かつグルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA(遺伝子)も、本発明の適用範囲に含まれる。
【0059】
後述の実施例に記載される、アスペルギルス・オリゼGDH遺伝子の取得手順の概略は以下の通りである。
【0060】
アスペルギルス・オリゼ由来GDH遺伝子を取得するために、アスペルギルス・オリゼ、アスペルギルス・テレウス培養上清から、塩析、クロマトグラフィー等を用いてGDHの精製を試みたが、高純度のGDHを得るのは困難であった。(実験例1[1])
よって、遺伝子取得の常法の1つである部分アミノ酸配列を利用したクローニングは断念せざるを得なくなった。
【0061】
そこで、我々はGDHを生産する微生物を上記以外に求め、鋭意探索した結果、Penicillium lilacinoechinulatum NBRC6231株がGDHを生産することを見出し、本菌株の培養液から高純度の精製酵素を得ることに成功した。(実験例1[2])
次いで、該酵素を用いて部分アミノ酸配列を決定することに成功し、決定したアミノ酸配列を元に、PCR法により、Penicillium lilacinoechinulatum NBRC6231由来GDH遺伝子を一部取得し、塩基配列を決定した(1356bp)。(実験例1[3][4])
最終的に、この塩基配列を元に、公開されているアスペルギルス・オリゼのゲノムデータベースより、アスペルギルス・オリゼGDH遺伝子を推定(実験例1[5])、取得した。
【0062】
<実験例1>
アスペルギルス・オリゼ由来グルコースデヒドロゲナーゼ(以下AOGDHとも記載)遺伝子の推定
[1]アスペルギルス・オリゼ由来GDHの取得
アスペルギルス・オリゼは、土壌より入手し定法に従ってL乾燥菌株とし保管していたものを使用した。以下、これをアスペルギルス・オリゼTI株と呼ぶ。アスペルギルス・オリゼTI株のL乾燥菌株をポテトデキストロース寒天培地(Difco製)に植菌し、25℃でインキュベートすることにより復元した。復元させたプレート上の菌糸を寒天ごと回収して、フィルター滅菌水に懸濁した。2基の10L容ジャーファーメンター中に生産培地(1%麦芽エキス、1.5%大豆ペプチド、0.1%MgSO4・7水和物、2%グルコース、pH6.5)6Lを調製し、120℃15分オートクレーブ滅菌して放冷した後、上記の菌糸懸濁液を接種し、30℃、通気攪拌培養を行った。培養開始から64時間後に培養を停止し、菌糸体を濾過により除去してGDH活性を含む濾過液を回収した。回収した上清を限外ろ過膜(分子量10,000カット)により低分子物質を除去した。次いで、硫酸アンモニウムを60%飽和度となるように添加、溶解し、硫安分画を行い、遠心機によりGDHを含む上清画分を回収した後、Octyl−Sepharoseカラムに吸着させ、硫酸アンモニウム飽和度60%〜0%でグラジエント溶出してGDH活性のある画分を回収した。得られたGDH溶液を、G−25−Sepharoseカラムを用いて脱塩を行った後、60%飽和度の硫酸アンモニウムを添加、溶解し、これをPhenyl−Sepharoseカラムに吸着させ、硫酸アンモニウム飽和度60%〜0%でグラジエント溶出してGDH活性のある画分を回収した。更にこれを50℃で45分加温した後、遠心分離を行って上清を得た。以上の工程を経て得られた溶液を精製GDH標品(AOGDH)とした。尚、上記精製過程においては、緩衝液として20mM リン酸カリウム緩衝液(pH6.5)を使用した。さらに、AOGDHの部分アミノ酸配列を決定するため、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィーなどの各種手段により精製を試みたものの、部分アミノ酸配列決定に供することのできる精製標品を得ることはできなかった。また、我々はアスペルギルス・テレウスに属する微生物を独自に探索入手し、上記と同様にその培養上清より、塩析、Octyl−sepharose等による精製を試みたが、アスペルギルス・オリゼ同様部分アミノ酸配列決定に供することのできる精製標品を得ることはできなかった。通常、一般的に行われる精製法を用いて、高純度で、SDS−PAGE上ではっきりと確認できるGDH標品を得ることができなかったのは、酵素タンパク質に結合しているであろう糖鎖が原因の一つとなっているのではないかと推察した。したがって、遺伝子取得の常法の1つである該タンパク質の部分アミノ酸配列を利用したクローニングを断念せざるを得なくなった。
【0063】
[2]ペニシリウム属糸状菌由来GDHの取得
ペニシリウム属糸状菌由来のGDH生産菌としてPenicillium lilacinoechinulatum NBRC6231(独立行政法人製品評価技術基盤機構より購入)を用い、上記アスペルギルス・オリゼTI株と同用の手順に従って、培養および精製を行い、SDS電気泳動でほぼ均一な精製標品を取得した。
【0064】
[3]cDNAの作製
Penicillium lilacinoechinulatum NBRC6231について上記方法に従い(ただしジャーファーメンターでの培養時間は24時間)培養を実施し、濾紙濾過により菌糸体を回収した。得られた菌糸は直ちに液体窒素中に入れて凍結させ、クールミル(東洋紡社製)を用いて菌糸を粉砕した。粉砕菌体より直ちにセパゾールRNA I(ナカライテスク社製)を用いて本キットのプロトコールに従ってトータルRNAを抽出した。得られたトータルRNAからはOrigotex−dt30(第一化学薬品社製)をもちいてmRNAを精製し、これをテンプレートにReverTra−Plus−TM(東洋紡社製)を用いてRT−PCRを行った。得られた産物はアガロース電気泳動を行い、鎖長0.5〜4.0kbに相当する部分を切り出した。切り出したゲル断片からMagExtractor−PCR&Gel Clean Up−(東洋紡社製)を用いてcDNAを抽出・精製してcDNAサンプルとした。
【0065】
[4]GDH遺伝子部分配列の決定
上記で精製したPenicillium lilacinoechinulatum NBRC6231由来GDHを0.1%SDS、10%グリセロールを含有するTris−HClバッファー(pH6.8)に溶解し、ここにGlu特異的V8エンドプロテアーゼを終濃度10μg/mlとなるように添加し、37℃16時間インキュベートすることで部分分解を行った。このサンプルをアクリルアミド濃度16%のゲルを用いて電気泳動してペプチドを分離した。このゲル中に存在するペプチド分子を、ブロット用バッファー(1.4%グリシン、0.3%トリス、20%エタノール)を用いてセミドライ法によりPVDF膜に転写した。PVDF膜上に転写したペプチドはCBB染色キット(PIERCE社製GelCode Blue Stain Reagent)を用いて染色し、可視化されたペプチド断片のバンド部分2箇所を切り取ってペプチドシーケンサーにより内部アミノ酸配列の解析を行った。得られたアミノ酸配列はIGGVVDTSLKVYGT(配列番号15)およびWGGGTKQTVRAGKALGGTST(配列番号16)であった。この配列を元にミックス塩基を含有するディジェネレートプライマーを作製し、Penicillium lilacinoechinulatum NBRC6231由来cDNAをテンプレートにPCRを実施したところ、増幅産物が得られ、アガロースゲル電気泳動により確認したところ、1.4kb程度のシングルバンドであった。このバンドを切り出して東洋紡製MagExtractor−PCR&Gel Clean Up−を用いて抽出・精製した。精製DNA断片はTArget Clone−Plus−(東洋紡社製)によりTAクローニングし、得られたベクターで大腸菌JM109コンピテントセル(東洋紡社製)をヒートショックにより形質転換した。形質転換クローンのうち青白判定でインサート挿入が確認されたコロニーについてMagExtractor−Plasmid−(東洋紡社製)を用いてプラスミドをミニプレップ抽出・精製し、プラスミド配列特異的プライマーを用いてインサートの塩基配列を決定した(1356bp)。
【0066】
[5]AOGDH遺伝子の推定
決定した塩基配列を元に「NCBI BLAST」のホームページ(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)からホモロジー検索を実施し、AOGDH遺伝子を推定した。検索により推定したAOGDHとP.lilacinoechinulatum NBRC6231由来GDH部分配列とのアミノ酸レベルでの相同性は49%であった。
【0067】
<実施例1>
アスペルギルス・オリゼ由来グルコースデヒドロゲナーゼ(以下AOGDHと示す)遺伝子の大腸菌への導入
AOGDH遺伝子を、アスペルギルス・オリゼの菌体よりmRNAを調製し、cDNAを合成した。配列番号5,6に示す2種類のオリゴDNAを合成し、調製したcDNAをテンプレートとしてKOD−Plus(東洋紡績製)を用いてAOGDH遺伝子(野生型)増幅した。DNA断片を制限酵素NdeI、BamHIで処理し、pBluescript(LacZの翻訳開始コドンatgに合わせNdeI認識配列のatgを合わせる形でNdeIサイトを導入したもの)NdeI−BamHIサイトに挿入し、組換えプラスミドを構築した。この組換えプラスミドを、コンピテントハイ DH5α(東洋紡績製)を用いて導入した。常法に従いプラスミドを抽出し、AOGDH遺伝子の塩基配列の決定を行った(配列番号3)。cDNA配列から推定されるアミノ酸残基は593アミノ酸(配列番号4)であった。
シグナルペプチド切断後のFAD−GDHをmFAD−GDHとした場合、mFAD−GDHのN末端にMのみ付加してmFAD−GDHのN末端が1アミノ酸分のびた形態となっているものをS2と表現した。また、mFAD−GDHのN末端のKをMにアミノ酸置換して、mFAD−GDHとアミノ酸総数を同じにしたものをS3と表現した。S2では、配列番号7のオリゴヌクレオチドをN末端側プライマーとして、配列番号6のプライマーとの組合せでPCRを行い、同様の手順で、S2をコードするDNA配列をもつ組換えプラスミドを構築し、同様に形質転換体を取得した。S3では、配列番号8のオリゴヌクレオチドをN末端側プライマーとして、配列番号6のプライマーとの組合せでPCRを行い、S3をコードするDNA配列をもつ組換えプラスミドを構築し、同様に形質転換体を取得した。なお、それぞれの改変FAD−GDHのDNA配列を持つプラスミドは、DNAシーケンシングにて配列上誤りがないことを確かめた。
配列番号9は、上記で決定したシグナルペプチド欠質変異体S2のDNA配列を示す。配列番号10はその対応するアミノ酸配列を示す。
これら形質転換体をTB培地にて10L−ジャーファーメンターを用いて1〜2日間液体培養した。各培養フェーズの菌体を集菌した後、超音波破砕してGDH活性を確認した。各種形質転換体の培養フェーズとOD,pH,GDH活性の関係を表1,2,3および図2,3,4に示す。なお、アスペルギルス・オリゼ野生株を液体培地(1%麦芽エキス、1.5%大豆ペプチド、0.1%MgSO4 ・7水和物、2%グルコース、0.05mM p−ベンゾキノン、0.1mM EDTA、pH6.5)にて、10L−ジャーファーメンターを用いて30℃、1日間培養し、菌体内あるいは菌体外の活性を確認したところ、いずれも約0.2U/ml培養液程度のGDH活性であった。
【0068】
なお、本特許においては、1ml培養液あたりのGDH活性量を比較することにより発現量の比較を行っている。
野生型FAD−GDH(WT)では、培養16〜18時間でピーク(6.6U/ml−b)が見られ、以後活性の低下が見られた。一方、改変型FAD−GDHのS2では22〜25時間目(72〜73U/ml−b)、S3では20〜23時間目(74〜75U/ml−b)でピークが見られ、WTと同様にその後は、GDH活性の低下が見られた。
それぞれのピークにおける培養力価を比較したところ、シグナルペプチドと思われるアミノ酸配列を削除することにより、そのGDH生産性が10倍以上増大することが明らかにされた。
また、シグナルペプチドの削除前後でFADGDH精製標品の比活性(U/mg)を比較したところ、野生型FADGDH(WT)270U/mgのところ、削除後の改変型FADGDHのS2では670U/mgであり、比活性が2.5倍増大していた。シグナルペプチドを削除することにより比活性も増大することが示唆されている。
比活性の増大を考慮しても、少なくとも4.4倍は活性量が増大しているものと思われる。
【0069】
さらに我々は鋭意検討の結果、糸状菌由来のFAD−GDHは、pH7.1以上のpH域において、その安定性が低下することを発見した。そして今回の検討で、糸状菌由来FAD−GDHの組換え体での生産培養において、pH7.1〜7.3以下、好ましくはpH7.1以下でpH制御を行うことが如何に大切であるかが明らかにされた。なお、当該pH以下となるように培養制御を入れることによりGDH活性のピークが保てることを確認している。
また、糸状菌由来のグルコースデヒドロゲナーゼ(以下GDHとも記載)を組換え生産する方法において、そのN末端領域に存在するシグナルペプチド配列に変異を導入したものでは、培養制御pHを7.3まで上げることができる。
【0070】
<実施例2>
アスペルギルス・テレウス由来グルコースデヒドロゲナーゼ(以下ATGDHと示す)遺伝子の大腸菌への導入
ATGDH遺伝子を、アスペルギルス・テレウスの菌体(寄託番号NBRC 33026として製品評価技術基盤機構・生物資源部門に登録されている。)よりmRNAを調製し、cDNAを合成した。配列番号13,14に示す2種類のオリゴDNAを合成し、調製したcDNAをテンプレートとしてKOD−Plus(東洋紡績製)を用いてATGDH遺伝子(予想シグナルペプチド配列を除去した遺伝子配列)を増幅した。DNA断片を制限酵素NdeI、BamHIで処理し、pBluescript(LacZの翻訳開始コドンatgに合わせNdeI認識配列のatgを合わせる形でNdeIサイトを導入したもの)NdeI−BamHIサイトに挿入し、組換えプラスミドを構築した。この組換えプラスミドを、コンピテントハイ DH5α(東洋紡績製)を用いて導入した。常法に従いプラスミドを抽出し、ATGDH遺伝子の塩基配列の決定を行った(配列番号11)。cDNA配列から推定されるアミノ酸残基は568アミノ酸(配列番号12)であった。
これら形質転換体を100μg/mlのアンピシリンを含む50mlのLB培地にて30℃,1晩培養した後、再度、100μg/mlのアンピシリンを含む50mlのLB培地にて30℃,8時間培養して種菌を調製した。
調製した種菌を、100μg/mlのアンピシリンを含むTB培地にて、Kd・P 0.5〜1.5の範囲で10L−ジャーファーメンターにて6日間液体培養した。各培養フェーズの菌体を集菌した後、超音波破砕してGDH活性を確認した。培養フェーズとOD,pH,GDH活性の関係を表4,5,6,7および図4,5,6,7に示す。なお、アスペルギルス・テレウス野生株を液体培地(1%麦芽エキス、1.5%大豆ペプチド、0.1%MgSO4 ・7水和物、2%グルコース、0.05mM p−ベンゾキノン、0.1mM EDTA、pH6.5)にて、10L−ジャーファーメンターを用いて30℃、1日間培養し、菌体内のGDH活性を確認したところ、約0.1U/ml培養液がピークであった。
一方、FAD−GDH組換え体では、ピークで約9〜21U/ml−bの活性が見られ、100〜200倍程度の培養力価の増大が認められた。また、培養条件を検討したところ、Kd・Pを0.5と低く設定することにより、Kd・P 0.75の時の約1.5倍、Kd・P 1〜1.5の時の約2倍の培養力価が認められた。なお、Kd・Pを2以上に設定した場合には、培養力価が約5U/ml−b以下となることを確認している。
培養温度に関しては、培養フェーズとOD,pH,GDH活性の関係を表8,9,10,11および図8,9,10,11に示す。培養温度は26〜28℃が最適であり、少なくとも23〜28℃で培養する必要があり、29℃よりも高い温度にて培養した場合、培養力価が半減する傾向が認められた。
ATGDH遺伝子組換え体の培養においても、培養液のpHを7.3以下に保つことが酵素活性を安定に保つために非常に重要であり、ATGDHにおいては、AOGDHよりも、むしろ低いpHで培養を終了することが必要になるようであった。
なお、ATGDH遺伝子は、アスペルギルス・テレウス由来FAD−GDHをコードするDNA配列から予想されるシグナルペプチド(MLGKLSFLSALSLAVAATLSNSTSA)(配列番号17)配列部分のDNAを切除したものである。シグナルペプチド配列を含むものは、A.オリゼ由来FAD−GDHと同様、FAD−GDHの発現量が乏しかったため、当初からシグナルペプチドを含まないものを用いて培養の検討を行なっている。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
【表3】
【0074】
【表4】
【0075】
【表5】
【0076】
【表6】
【0077】
【表7】
【0078】
【表8】
【0079】
【表9】
【0080】
【表10】
【0081】
【表11】
【0082】
表1〜表3は、各種変異体の10Lジャーファーメンター培養における培養フェーズと培養液の菌体濁度(OD)、pH、GDH活性値の関係を示す。表1は図2に、表2は図3に、表3は図4にそれぞれ対応する。
【0083】
表4〜表7は、10Lジャーファーメンター培養における夫々Kd・P 0.5、0.75、1、1.5における培養フェーズと培養液の菌体濁度(OD)、pH、GDH活性値の関係を示す。表4は図5に、表5は図6に、表6は図7に、表7は図8にそれぞれ対応する。
【0084】
表8〜表11は、10Lジャーファーメンター培養における夫々培養温度 20、23、26、30℃における培養フェーズと培養液の菌体濁度(OD)、pH、GDH活性値の関係を示す。表8は図9に、表9は図10に、表10は図11に、表11は図12にそれぞれ対応する。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、組換え大腸菌を用いることにより、アスペルギルス・オリゼ由来のグルコースデヒドロゲナーゼを、大量に生産することを可能にするものである。また、本発明により広い意味でマルトースに作用しない、グルコースセンサ等に適したグルコースデヒドロゲナーゼを生産することが可能になる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスペルギルス・オリゼ由来のFAD依存性グルコースデヒドロゲナーゼを大腸菌で組換え生産する方法であって、野生型FAD依存性グルコースデヒドロゲナーゼのアミノ酸配列からそのN末端領域に存在するMLFSLAFLSALSLATASPAGRAのアミノ酸配列の一部を削除した変異型FAD依存性グルコースデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子を大腸菌で発現させることを特徴とする方法。
【請求項2】
削除されるアミノ酸配列がMLFSLAFLSALSLATAであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アスペルギルス・オリゼ由来の野生型FAD依存性グルコースデヒドロゲナーゼのアミノ酸配列からそのN末端領域に存在するMLFSLAFLSALSLATASPAGRAのアミノ酸配列の一部を削除した変異型FAD依存性グルコースデヒドロゲナーゼをコードすることを特徴とするDNA。
【請求項4】
削除されるアミノ酸配列がMLFSLAFLSALSLATAであることを特徴とする請求項3に記載のDNA。
【請求項5】
請求項3又は4に記載のDNAを含むことを特徴とする組換えベクター。
【請求項6】
請求項5に記載の組換えベクターを大腸菌に導入してなることを特徴とする形質転換体。
【請求項1】
アスペルギルス・オリゼ由来のFAD依存性グルコースデヒドロゲナーゼを大腸菌で組換え生産する方法であって、野生型FAD依存性グルコースデヒドロゲナーゼのアミノ酸配列からそのN末端領域に存在するMLFSLAFLSALSLATASPAGRAのアミノ酸配列の一部を削除した変異型FAD依存性グルコースデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子を大腸菌で発現させることを特徴とする方法。
【請求項2】
削除されるアミノ酸配列がMLFSLAFLSALSLATAであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アスペルギルス・オリゼ由来の野生型FAD依存性グルコースデヒドロゲナーゼのアミノ酸配列からそのN末端領域に存在するMLFSLAFLSALSLATASPAGRAのアミノ酸配列の一部を削除した変異型FAD依存性グルコースデヒドロゲナーゼをコードすることを特徴とするDNA。
【請求項4】
削除されるアミノ酸配列がMLFSLAFLSALSLATAであることを特徴とする請求項3に記載のDNA。
【請求項5】
請求項3又は4に記載のDNAを含むことを特徴とする組換えベクター。
【請求項6】
請求項5に記載の組換えベクターを大腸菌に導入してなることを特徴とする形質転換体。
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図1】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図1】
【公開番号】特開2010−193912(P2010−193912A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−138004(P2010−138004)
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【分割の表示】特願2007−75942(P2007−75942)の分割
【原出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【分割の表示】特願2007−75942(P2007−75942)の分割
【原出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】
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