説明

納豆発酵室内における温度ムラの影響を抑制する納豆菌及び納豆の製造方法

【課題】納豆発酵室内における温度ムラの影響を抑制する納豆菌及び納豆の製造方法を提供する。
【解決手段】所定の温度に空調される納豆発酵室において、最高雰囲気温度が36−38℃になる低温域の発酵の発酵条件にも適合して納豆発酵を行うことが可能な低温発酵納豆菌及び/又は最高雰囲気温度が46−47℃になる高温域の発酵の発酵条件にも適合して納豆発酵を行うことが可能な高温発酵納豆菌を接種した納豆を準備し、発酵室における所定の温度領域に配置される納豆発酵用コンテナに納豆を収容、配置し、発酵させることからなる納豆の製造方法、該製造方法で使用する新しい納豆菌株、及び納豆の品質低下抑制方法。
【効果】納豆発酵室における温度ムラに起因する納豆の品質低下を抑制し、発酵室における作業効率の向上と納豆の生産性向上を実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、納豆発酵室における温度ムラの影響を抑制する納豆発酵技術に関するものであり、更に詳しくは、納豆発酵室において、発酵室内の所定の温度領域に至適発酵温度を有する特定の低温発酵納豆菌及び/又は高温発酵納豆菌を接種した低温発酵納豆及び/又は高温発酵納豆を納豆発酵用コンテナに収容、配置し、発酵させることにより、発酵室における温度ムラによる納豆の品質低下を抑制することを可能とする新しい納豆菌株及び納豆の製造方法に関するものである。本発明は、納豆発酵室における温度ムラの影響の抑制に関する新技術・新製品を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、納豆発酵室は、床、壁、天井などが断熱性のある材料で作られており、この天井中央には、発酵工程の段階に応じて、正確に室温が保たれるように四方吹出型の空調機が設置され、空調機内部には加温用のヒーターと蒸気圧縮式冷凍サイクルの冷媒配管に連結された冷却用のフィン、コイル、及び送風ファンが設備され、室内の給温、冷却を高い精度で行うことができるようになっている。
【0003】
更に、一般的な納豆発酵室では、例えば、納豆菌の繁殖に必要な加湿装置や、室内に外気を導入したり、酵素を補給したり、内部の空気を排出し、除湿するための自動給排気装置と、室温、品温、湿度を感知するセンサーを備え、室外のコンピューター自動制御盤により、全発酵工程の全工程を段階的に制御することが可能となっている。
【0004】
また、納豆発酵室内部の空調は、乱流方式であり、空調機の中央に設備されたファンを給温時には回転させ空気を下方に吹出させ、冷却時には、これを逆転させ、空調機の四方側面に冷却空気を吹出させ、室内の温度分布が、発酵熱の発生によって、上部が高温、下部が低温となりがちなものを平均化するような配慮がなされてる。給温、冷却の制御は、±1〜2℃で行われるようになっている。
【0005】
通常、広さが坪程度の納豆発酵室に空調機1台を装備しているような小型の発酵室においては、室温の平均化は比較的容易である。しかし、大量生産を行う大型工場では、発酵室が大型化される傾向にあり、その大きさは、10〜12坪程度に拡大されているのが現状である。大型の発酵室の場合、空調機は、適宜間隔で複数台設置されるが、冷媒の流れの不均一性や不十分な空気撹拌により、室温が場所によって大きく異なるという問題がある。納豆の製造現場においては、このような室温の格差を緩和する空調方法が求められている(特許文献1〜3参照)。
【0006】
納豆の発酵工程において、対数期以降は、納豆菌の増殖が盛んとなり、発酵熱の発生が旺盛となり、発酵熱がコンテナ上部に上昇して籠り、均一生産の観点からは、上部過熟、下部未熟という不均一生産の現象が現れはじめる。前記のような従来の納豆発酵室においては、送風部のファンにより室の中央や側方に送風して、空気を循環させるようにしているが、室内には、多数の納豆容器が収容されたコンテナが複数配置されており、これらの通流抵抗により、空気通流方向への循環が確実には行われないという問題があった。
【0007】
また、特に、対数期に大量に発生した発酵熱は、発酵室の上部に滞留することは勿論、段積みされたコンテナの段中央部より上部付近に篭りがちになる傾向がある。また、冷却時に、空調機側面より吹出される循環空気は、特に、発酵室下部に流れやすく、従来の発酵室において、各部分の温度を測定したところ、最も納豆菌の繁殖が旺盛な発酵工程中の対数期では、発酵室内で、5〜6℃の温度差を生じることが確認されている。
【0008】
このように、従来の発酵室においては、室温を均等に保つことは困難であり、納豆容器内の品温の均一化が行われにくいため、良質かつ均一な品質の納豆を製造するには、問題があった。納豆菌を発芽、繁殖させるために、発酵室内を加温するが、暖かい空気は、室内の上部に上がり、下部とでは、温度差が生じるとともに、発酵する際に生じる発酵熱で、上段に行くほど熱がこもり、下段のものと、温度差が大きくなる。
【0009】
これを解決するために、納豆を収容したパック又は該パックを載置するラックを、上下方向に回転移動せしめつつ、発酵させることが行われ(特許文献4参照)、また、この温度差をなくすために、ファンで空気を撹拌することが行われるが、そのために、納豆の表面が乾いてしまうという不都合があった。
【0010】
一般に、納豆の製造は、原料大豆を水に所定時間浸漬した後、所定の圧力下で蒸煮し、この蒸煮大豆に納豆菌を接種して、所定の納豆容器に入れ、これら納豆容器をコンテナに収納し、そのコンテナを多段に段積みして発酵室に仕込み、所定条件で発酵させることにより行われる。
【0011】
従前の納豆発酵室は、例えば、先行技術文献(特開平4−41586号公報)などに記載の如く、納豆発酵室内に、コンテナが単に段積みされており、その発酵室の天井部には、空調機能と、下方向きの送風ファンを備えた空調ユニットが設置され、この通風手段によって空気を送風することにより、コンテナ内に単に多数段積みされた納豆容器内の大豆の温度調整が行われる方式のものが一般的であった。従前の納豆発酵室においては、空調ユニットの送風ファンにより、発酵室の中央や、側方に、送風するようにしている(特許文献5、6参照)。
【0012】
しかし、納豆発酵室内には、多数の納豆容器が収納された多数のコンテナが段積みされており、これらの通流抵抗により通風が的確に行えないという問題があった。また、納豆菌の発酵が旺盛な時期には、多量の発熱があるので、冷却が必要であり、その際には、空調ユニットから吹出た冷却空気は、特に、納豆発酵室の下部に流れやすい。
【0013】
このような従前の納豆発酵室で、室温を均一に保つことは困難であり、例えば、従前の納豆発酵室において、発酵が最も盛んな時期での、納豆発酵室内における下部と上部での空気の温度差は、5〜6℃もあることが確認されている。結果として、各納豆容器毎の品温の均一化が行われにくく、良質かつ均一な品質の納豆を製造することが難しい状態であった。
【0014】
循環通風の平均風速が1.0m/sよりも大きくなると、納豆に乾きが発生し、また、大豆が黒色に着色して、消費者に提供できる品質が確保できない。また、循環通風の平均風速が0.5m/sより小さくなると、発酵熱を奪い取るだけの能力が不足し、発酵指数値のバラツキが大きくなって、特に、品温が高くなった部分の納豆は、過発酵気味になり、アンモニア臭が発生し、消費者が満足できるような品質を確保できない。
【0015】
納豆の発酵室の温度ムラに対する対策として、従来、様々な検討が試みられている。例えば、1)室に入れる煮豆の個数、コンテナ、台数を少なくする場合、発酵室1つで生産できる数量が減少(生産性が低下)する、2)台の配置方法を変更する場合、発酵室毎に設備(室の大きさや空調の量、位置など)や環境(隣に室があるかないかなど)が変わってくる他、季節・気温の変化などによっても条件を変化させる必要があるなど、適性な配置方法が流動的であるにも関わらず、その検討にも大きな手間が掛かる、という問題がある。
【0016】
また、3)扇風機の設置や、位置を検討する場合、上記2)と同様に、発酵室毎での検討が必要となる、4)遮へい板などを利用しての気流の調節、室自体の改良、高機能化の場合、設備投資費用が大きく掛かる(全ての室で改良することは現実的に不可能)、という問題がある。
【0017】
また、5)温度ムラの著しい部分(高温で発酵が進み易い場所、低温で発酵が進まない場所)の別管理の場合、発酵が進み易い室の奥の製品のみを先に取り出すのは作業的に難しいので、実際には、発酵が進み難い場所のみを残して、更に発酵させているが、これを毎日行うには、手間が掛かり、非効率である、という問題がある。
【0018】
これらの問題に加え、発酵が進み過ぎている、発酵が足りない、などの判断には、経験を積む必要があり、人材の育成が必須であり、発酵が進み過ぎてしまった場合は、過発酵となり、廃棄せざるを得ない、という問題がある。
【0019】
以上の理由で、従来、様々な対策が検討されているが、それぞれに、課題が残されており、抜本的な解決には至っていないのが実情であり、当技術分野においては、納豆発酵室における温度ムラによる納豆の品質低下の問題を解決することができる新しい納豆発酵技術の開発が強く要請されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開2006−314252号公報
【特許文献2】特開平10−136923号公報
【特許文献3】特開平7−136号公報
【特許文献4】特許第2916507号
【特許文献5】特許第4326724号
【特許文献6】特許第3625965号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、納豆発酵室内における温度ムラに起因する納豆の品質低下の問題を確実に解決することを可能とする新しい納豆発酵技術を開発することを目標にして鋭意研究を重ねた結果、納豆発酵室内における温度ムラによる納豆の品質低下を抑制することを可能とする新しい納豆発酵技術を確立することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0022】
本発明は、納豆発酵室内における温度ムラに起因する納豆の品質低下の問題を確実に解決することを可能とする新しい納豆発酵技術を提供することを目的とするものである。また、本発明は、納豆発酵室内における温度ムラによる納豆の品質低下を抑制することを可能とする新しい納豆菌株を提供することを目的とするものである。また、本発明は、納豆の過発酵(いわゆるヤケ)による生産ロスを削減することを可能にする新しい納豆の製造方法を提供することを目的とするものである。更に、本発明は、納豆発酵室の温度ムラによる納豆の品質低下の抑制方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)所定の温度に空調される納豆発酵室において、最高雰囲気温度が36−38℃になる低温域の発酵条件にも適合して納豆発酵を行うことが可能な低温発酵納豆菌及び/又は最高雰囲気温度が46−47℃になる高温域の発酵条件にも適合して納豆発酵を行うことが可能な高温発酵納豆菌を接種した低温発酵納豆及び/又は高温発酵納豆を準備し、発酵室における所定の温度領域に配置される納豆発酵用コンテナに低温発酵納豆及び/又は高温発酵納豆を収容、配置し、発酵させることにより、発酵室の温度ムラによる納豆の品質低下を抑制することを特徴とする納豆の製造方法。
(2)低温発酵納豆菌として、N3株(受託番号 FERM P−22105)、高温発酵納豆菌として、TTCC974株(受託番号 FERM P−22106)、TTCC1143株(受託番号 FERM P−22107)、TTCC1163株(受託番号 FERM P−22108)、を使用する、前記(1)に記載の納豆の製造方法。
(3)納豆発酵室に配置する段積みされた発酵用コンテナ列において、雰囲気温度の分布に適合させて、上記高温発酵納豆菌及び/又は低温発酵納豆菌を接種した高温発酵納豆又は低温発酵納豆を収容、配置し、発酵させることにより、発酵室における温度ムラによる納豆の品質低下を抑制する、前記(1)又は(2)に記載の納豆の製造方法。
(4)納豆発酵室に配置する段積みされた発酵用コンテナ列において、上記高温発酵納豆菌を接種した高温発酵納豆を収容、配置し、発酵させることにより、納豆の過発酵(ヤケ)による品質低下を抑制する、前記(1)又は(2)に記載の納豆の製造方法。
(5)納豆発酵室に配置する段積みされた納豆発酵用コンテナにおいて、高温発酵納豆菌及び/又は低温発酵納豆菌を接種した高温発酵納豆及び/又は低温発酵納豆の収容、配置方式を調整することにより、コンテナ別管理や空コンテナを削減し、かつ、室入れコンテナ台数を増大させ、納豆の生産性を向上させる、前記(1)又は(2)に記載の納豆の製造方法。
(6)前記(1)に記載の納豆の製造方法で使用する納豆菌であって、該納豆菌が、N3株(受託番号 FERM P−22105)、高温発酵納豆菌として、TTCC974株(受託番号 FERM P−22106)、TTCC1143株(受託番号 FERM P−22107)、TTCC1163株(受託番号 FERM P−22108)、であることを特徴とする低温発酵納豆菌及び/又は高温発酵納豆菌株。
(7)所定の温度に空調される納豆発酵室において、最高雰囲気温度が36−38℃になる低温域の発酵条件にも適合して納豆発酵を行うことが可能な低温発酵納豆菌及び/又は最高雰囲気温度が46−47℃になる高温域の発酵条件にも適合して納豆発酵を行うことが可能な高温発酵納豆菌を接種した低温発酵納豆及び/又は高温発酵納豆を準備し、発酵室における所定の温度領域に配置される納豆発酵用コンテナに低温発酵納豆及び/又は高温発酵納豆を収容、配置し、発酵させることにより、発酵室の温度ムラによる納豆の品質低下を抑制することを特徴とする発酵室の温度ムラによる納豆の品質低下抑制方法。
(8)納豆菌として、前記(6)に記載の低温発酵納豆菌及び/又は高温発酵納豆菌株を使用する、前記(7)に記載の方法。
【0024】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、納豆発酵室において、最高雰囲気温度が36−38℃になる低温域の発酵条件にも適合して納豆発酵を行うことが可能な低温発酵納豆菌及び/又は最高雰囲気温度が46−47℃になる高温域の発酵条件にも適合して納豆発酵を行うことが可能な高温発酵納豆菌を接種した納豆を、コンテナに収容、配置し、発酵させることにより、発酵室の温度ムラによる納豆の品質低下を抑制するようにしたことを特徴とするものである。
【0025】
本発明では、納豆発酵室内の高温域で糸ダレしにくくなる(ヤケない)高温発酵納豆菌、及び/又は発酵室内の低温域で糸引き不良が起きにくくなる低温発酵納豆菌を使用する。これらの納豆菌は、低温発酵納豆菌として、納豆発酵室において、最高雰囲気温度が36−38℃になる低温域の発酵条件で、また、高温発酵納豆菌として、納豆発酵室において、最高雰囲気温度が46−47℃になる高温域の発酵条件で、自然界や各発酵食品からの分離菌、紫外線照射や化学変異剤による変異菌などの中から特定の選抜条件で選抜し、上記高温発酵、低温発酵に強い特定の納豆菌株を取得したものである。
【0026】
本発明では、上記低温発酵納豆菌として、納豆発酵室において、最高雰囲気温度が36−38℃になる低温域の発酵条件で選抜されたN3株が用いられ、また、上記高温発酵納豆菌として、納豆発酵室において、最高雰囲気温度が46−47℃になる高温域の発酵条件で選抜されたTTCC974株、TTCC1143株、TTCC1163株が用いられ、提供される。
【0027】
本発明は、納豆発酵室に配置する段積みされた納豆発酵用コンテナ列において、雰囲気温度の分布に適合させて、上記高温発酵納豆菌及び/又は低温発酵納豆菌を接種した納豆を収容、配置し、発酵させることにより、発酵室の温度ムラによる納豆の品質低下を抑制すること、を好ましい実施態様としている。
【0028】
また、本発明は、納豆発酵室に配置する段積みされた納豆発酵用コンテナ列において、上記高温発酵納豆菌を接種した納豆を収容、配置し、発酵させることにより、納豆の過発酵(ヤケ)による品質低下を抑制すること、更に、発酵室における高温発酵納豆菌及び/又は低温発酵納豆菌を接種した納豆の収容、配置方式を調整することにより、コンテナ別管理や空コンテナを削減し、かつ、室入れコンテナ台数を増大させ、納豆の生産性を向上させること、を好ましい実施態様としている。
【0029】
本発明は、上述のように、高温発酵納豆菌及び/又は低温発酵納豆菌を使用して、納豆発酵室における温度ムラを原因とする品質低下を抑制することを特徴としているが、ここで、高温発酵納豆菌を単独で使用する場合について説明すると、従来法による、従来の発酵温度設定においては、発酵室の低温域の部分の発酵が終了する頃には、高温域の部分では、既にヤケてしまうため、低温域が発酵終了する前に、発酵をストップさせ、低温域コンテナのみを再び発酵室に入れ、発酵を延長させる対応がとられている(コンテナの別管理)。
【0030】
上記の場合、例えば、発酵室の温度設定を少し上げてやれば、低温域の納豆も、従来の発酵時間内に発酵終了できるが、この方法では、高温域の温度も更に上がり、ヤケが早まってしまう。しかし、本発明の高温発酵納豆菌を使用すれば、この場合でも、高温域でヤケることなく、低温域、高温域でコンテナを別管理することなく、同時期に発酵を終了することが可能になる。
【0031】
また、本発明の高温発酵納豆菌を使用すると、従来の発酵温度設定においても、高温域におけるヤケの心配が無くなり、生産ロスが減るので、発酵室1つ当たりの納豆の生産性が向上する。従来法では、発酵室に入れるコンテナ数は、コンテナを入れ過ぎると、温度ムラが大きくなり、高温域の部分のヤケが増大するため、発酵室に入れるコンテナ数は、収容可能な最大コンテナ数よりも減らさなければならないという制約があった。
【0032】
しかし、本発明の高温発酵納豆菌を使用すると、該高温発酵納豆菌は、ヤケに強いため、発酵室に入れられるコンテナ数を増やすことが可能になり、生産性が向上する。また、従来法では、同じ理由で、ヤケを防ぐために、山積みされたコンテナの中央に、空のコンテナを差すことも行われていたが、本発明では、このような空コンテナを無くすことも可能になる。
【0033】
次に、低温発酵納豆菌を単独で使用する場合について説明すると、従来法による、従来の発酵温度設定においては、発酵室の低温域の部分の発酵が終了する頃には、高温域の部分では、既にヤケてしまうため、低温域の発酵が終了する前に、発酵をストップさせ、低温域コンテナのみを再び発酵室に入れ、発酵を延長させる対応がとられている(コンテナの別管理)。
【0034】
しかし、本発明の低温発酵納豆菌を使用すると、該低温発酵納豆菌は、低温でもしっかり発酵できるので、高温域の部分の発酵が終了するときには、低温域の部分の発酵も終了させることが可能となる。そのため、低温域、高温域でコンテナを別管理することなく、同時期に発酵を終了することが可能になる(コンテナ別管理の不要)。
【0035】
更に、高温発酵納豆菌及び低温発酵納豆菌を混合して同時に使用する場合について説明すると、高温発酵納豆菌及び低温発酵納豆菌を混合して、納豆の製造に使用する。それにより、高温域では、高温発酵納豆菌が優勢に働き、ヤケを防止し、低温域では、低温発酵納豆菌が優勢に働くので、温度ムラによる納豆の品質低下を抑制することが可能となり、これにより、コンテナ別管理の不要、生産性の向上の効果が期待できるようになる。
【0036】
次に、納豆発酵室について説明すると、通常、一般的な納豆発酵室は、例えば、床、壁、天井などが断熱性のある材料で作られており、この天井中央には、発酵工程の段階に応じて、正確に室温が保たれるように、四方吹出型の空調機が設置され、空調機内部には、加温用のヒーターと蒸気圧縮式冷凍サイクルの冷媒配管に連結された冷却用のフィン、コイル、及び送風ファンが設備され、発酵室内における給温、冷却ができるようになっている。
【0037】
また、納豆菌の良好な繁殖に必要とされる所定の湿度に保持するための加湿装置と、室内に外気を導入したり、酸素を補給したり、内部の空気を排出し、除湿するための自動給排気装置、及び室温、品温、湿度を感知するセンサーを備え、室外のコンピューター自動制御盤により、全発酵工程の全工程の段階的制御が可能となっている。
【0038】
更に、発酵室内部の空調は、乱流方式で、給温時には空調機の中央に設備されたファンを回転させ、空気を下方に吹出させ、冷却時には、これを逆転させ、空調機の四方側面に冷却空気を吹出させ、室内の温度分布が、発酵熱の発生によって、上部が高温、下部が低温となりがちなものを、平均化するように調節して、給温、冷却の±1〜2℃での制御が行われるようになっている。
【0039】
通常、坪程度の納豆発酵室に空調機1台を装備して構成される小型の発酵室においては、室温の平均化は、比較的容易である。しかし、大量生産を行う大型工場では、発酵室が大型化される傾向にあり、その大きさは、10〜12坪程度に拡大されているのが現状である。大型の発酵室の場合、空調機は、適宜間隔で複数台設置されるが、冷媒の流れの不均一性や、不十分な空気撹拌により、室温が、場所によって大きく異なるという問題が生じる。納豆の製造現場においては、このような室温の格差を緩和する空調の方法が、重要な課題となっている。
【0040】
納豆の発酵工程において、対数期以降は、納豆菌の増殖が盛んとなり、発酵熱の発生が旺盛となり、発酵熱がコンテナ上部に上昇して籠り、均一生産の観点からは、上部過熟、下部未熟という不均一発酵の現象が現れはじめる。前記のような、従来の納豆発酵室においては、送風部のファンにより、室の中央や側方に送風して、空気を循環させるようにしているが、室内には、多数の納豆容器が収納されたコンテナが複数山積みに配置されており、これらの通流抵抗により、空気通流方向への循環が、確実に行われないという問題がある。
【0041】
また、特に、対数期に大量に発生した発酵熱は、納豆発酵室の上部に滞留することは勿論、段積みされたコンテナの段中央部より上部付近に篭りがちである。また、冷却時に、空調機側面より吹出される循環空気は、特に、発酵室の下部に流れやすく、従来の発酵室においては、最も納豆菌の繁殖が旺盛な発酵工程中の対数期では、発酵室内で5〜6℃の温度差を生じる。このように、従来の納豆発酵室においては、室温を均等に保つことは困難であり、納豆容器内の納豆の品温の均一化が行われにくいため、良質かつ均一な品質の納豆を製造するには、更に、解決すべき課題があった。
【0042】
納豆菌を発芽、繁殖させるために、納豆発酵室内を加温するが、暖かい空気は、室内の上部に上がり、下部とでは、温度差が生じるとともに、発酵する際に生じる発酵熱で、上段に行くほど熱がこもり、下段のものと、温度差が大きくなる。これを解決するために、納豆を収容したパック又は該パックを載置するラックを上下方向に回転移動せしめつつ発酵させることが行われ、また、この温度差をなくすために、ファンで空気を撹拌することが行われるが、これらの方法では、納豆の表面が乾いてしまうという不都合が生じてしまう。
【0043】
納豆の発酵工程において、納豆容器に充填した蒸煮大豆は、納豆菌を接種した後、コンテナに収容され、コンテナは、台車に搭載されて、納豆発酵室内に所定の間隔をもって配置される。この工程では、例えば、通常、誘導期8時間、対数期4時間、定常期4時間、を経過した後、6〜8時間の熟成と冷却を続け、16〜24時間で、その間の発酵、熟成及び冷却の過程で、最終の納豆の品質が決定されることになる。
【0044】
一般に、納豆の製造は、原料大豆を水に所定時間浸漬した後、所定の圧力下で蒸煮し、この蒸煮大豆に納豆菌を接種して、所定の納豆容器に入れ、これら納豆容器をコンテナに収容し、そのコンテナを多段に段積みして発酵室に仕込み、所定の条件で発酵させることにより行われる。従前の納豆発酵室は、納豆発酵室内にコンテナが単に段積みされており、その発酵室の天井部には、空調機能と、下方向きの送風ファンを備えた空調ユニットが設置され、この通風手段によって、空気を送風することにより、コンテナ内に、単に多数段積みされた納豆容器内の大豆の温度調整が行われる。
【0045】
しかし、上述のように、納豆発酵室内には、多数の納豆容器が収納された多数のコンテナが段積みされており、これらの通流抵抗により、通風が的確に行えない問題があり、また、納豆菌の発酵が旺盛な時期には、多量の発熱があるので、冷却が必要であり、その際には、空調ユニットから吹出た冷却空気は、特に、納豆発酵室下部に流れやすく、このような従前の納豆発酵室では、室温を均一に保つことは困難であり、結果として、各納豆容器毎の品温の均一化が行われにくく、良質かつ均一な品質の納豆を製造することが難しい状態であった。
【0046】
そこで、本発明では、所定の温度に空調される納豆発酵室において、最高雰囲気温度が36−38℃になる低温域の発酵条件にも適合して納豆発酵を行うことが可能な低温発酵納豆菌及び/又は最高雰囲気温度が46−47℃になる高温域の発酵条件にも適合して納豆発酵を行うことが可能な高温発酵納豆菌を接種した納豆を準備する。そして、納豆発酵室における所定の温度領域に配置される納豆発酵用コンテナに、低温発酵納豆及び/又は高温発酵納豆を収容、配置し、発酵させる。
【0047】
本発明において、前者の最高雰囲気温度が36−38℃になる低温域の発酵の発酵条件にも適合して納豆発酵を行うことが可能な低温発酵納豆菌とは、納豆発酵室において、〜36−38℃の低温域の発酵条件において、既存の納豆菌株(従来の実用納豆菌株)による通常発酵時の納豆の発酵と、その納豆発酵特性において、同等以上の納豆発酵をすることができる納豆菌株、と定義される。また、後者の最高雰囲気温度が46−47℃になる高温域の発酵の発酵条件にも適合して納豆発酵を行うことができる高温発酵納豆菌とは、納豆発酵室において、〜46−47℃の高温域の発酵条件において、既存の納豆菌株(従来の実用納豆菌株)による通常発酵時の納豆の発酵と、その納豆発酵特性において同等以上の納豆発酵をすることができる納豆菌株、と定義される。
【0048】
後記する実施例2の表4に示されるように、従来の納豆菌では、所定の発酵条件に適合して納豆発酵を行うことができる(すなわち、4点以上の評価が得られる)のは、発酵温度が39℃から45℃までであり、それ以外の温度域では、良好な納豆ができなかったが、本発明の低温発酵納豆菌では、36℃という低温領域から4点以上の良好な納豆発酵を行うことができ、また、高温発酵納豆菌では、47℃という高温領域でも4点以上の良好な納豆発酵を行うことができる。
【0049】
本発明において、低温発酵納豆菌又は高温発酵納豆菌とは、納豆発酵室において、最高雰囲気温度が36−38℃になる低温域又は最高雰囲気温度が46−47℃になる高温域の発酵条件にも適合して納豆発酵を行う(すなわち、表4の評価基準で4点以上の評価を示す)ことが可能な納豆菌を意味している。
【0050】
上記高温発酵納豆菌として、TTCC974株(受託番号 FERM P−22106)、TTCC1143株(受託番号 FERM P−22107)、TTCC1163株(受託番号 FERM P−22108)、低温発酵納豆菌として、N3株(受託番号 FERM P−22105)、が使用される。これらの納豆菌株は、公的寄託機関である、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター、あて名:〒305−8566 茨城県つくば市東1−1−1中央第6(郵便番号305−8566)に、2011年4月25日に寄託されている。
【0051】
本発明では、納豆発酵室において、上記発酵条件を満たす雰囲気温度にも適合して納豆発酵を行うように、上記高温発酵納豆及び/又は低温発酵納豆を収容した納豆発酵用コンテナを配置する。具体的には、発酵室に配置する段積みされた納豆発酵用コンテナ列において、予めシュミレーションした発酵室における雰囲気温度の分布状態に整合するように、例えば、高温発酵納豆菌を接種した高温発酵納豆を収容し、これを、適宜、配置し、発酵させる。本発明において、納豆の発酵工程における発酵条件としては、使用する納豆菌株を除いて、通常の納豆発酵工程で採用される通常の発酵条件が用いられる。
【0052】
すなわち、本発明では、上述の特定の低温発酵納豆菌及び/又は高温発酵納豆菌を接種した納豆を準備し、これらを、コンテナに収容、配置し、納豆発酵室で、所定の雰囲気温度で発酵させる構成の他は、通常の実用納豆菌による発酵工程と同様にして納豆を発酵させることができる。上記構成の他は、通常の納豆発酵で採用されているあらゆる手段を利用することが可能であり、それらの手段については、特に限定されない。
【0053】
本発明では、納豆発酵室に配置する段積みされた発酵用コンテナ列において、所定の雰囲気温度の分布に適合させて、上記高温発酵納豆菌及び/又は低温発酵納豆菌を接種した納豆を収容、配置し、発酵させ、それにより、発酵室における温度ムラによる納豆の品質低下を抑制することが可能となる。
【0054】
また、本発明では、納豆発酵室に配置する段積みされた発酵用コンテナ列において、例えば、上記高温発酵納豆菌又は低温発酵納豆菌を接種した高温発酵納豆又は低温発酵納豆を収容、配置し、発酵させることにより、納豆の過発酵(ヤケ)による品質低下を抑制することが可能となる。
【0055】
更に、本発明では、納豆発酵室に配置する段積みされた納豆発酵用コンテナにおいて、高温発酵納豆菌及び/又は低温発酵納豆菌を接種した納豆の収容方式を調整することにより、コンテナ別管理や空コンテナを削減し、かつ、室入れコンテナ台数を増大させ、納豆の生産性を向上させることが可能となる。
【0056】
従来法による、従来の発酵温度設定においては、納豆発酵室の低温域の部分の発酵が終了する頃には、高温域の部分では既にヤケてしまうため、低温域の発酵が終了する前に、発酵をストップさせ、低温域コンテナのみ再び発酵室に入れ、コンテナの別管理により、発酵を延長させる対応がとられている。上記の場合、例えば、発酵室の温度設定を少し上げてやれば、低温域の納豆も従来の発酵時間内に発酵を終了することができるが、高温域の温度も更に上がり、ヤケが早まってしまう。
【0057】
更に、従来法では、納豆発酵室に入れるコンテナ数は、コンテナを入れすぎると温度ムラが大きくなり、高温域の部分のヤケが増大するため、発酵室に入れるコンテナ数は、収容可能な最大コンテナ数よりも減らさなければならないという制約があった。
【0058】
しかし、本発明の高温発酵納豆菌を使用すれば、この場合でも、高温域でヤケることなく、低温域、高温域でコンテナを別管理することなく、同時期に発酵を終了することが可能になる。また、本発明の高温発酵納豆菌を使用すると、従来の発酵温度設定においても、高温域におけるヤケの心配が無くなり、生産ロスが減るので、発酵室1つ当たりの納豆の生産性が向上する。
【0059】
更に、本発明の高温発酵納豆菌は、ヤケに強いため、納豆発酵室に入れられるコンテナ数を増やすことが可能になり、納豆の生産性が向上する。また、従来法では、同じ理由で、ヤケを防ぐために、山積みされたコンテナの中央に、空のコンテナを差すことも行われていたが、本発明では、この空コンテナを無くすことも可能になる。
【0060】
次に、低温発酵納豆菌を単独で使用する場合、従来法による、従来の発酵温度設定においては、納豆発酵室の低温域の部分の発酵が終了する頃には、高温域の部分では既にヤケてしまうため、低温域が発酵を終了する前に、発酵をストップさせ、低温域コンテナのみ再び発酵室に入れ、コンテナの別管理により、発酵を延長させる対応がとられている。
【0061】
しかし、本発明の低温発酵納豆菌は、低温でもしっかり納豆発酵を行うことができるので、高温域の部分の発酵が終了するときには、低温域の部分の発酵を終了させることが可能となる。そのため、低温域、高温域でコンテナを別管理することなく、同時期に発酵を終了することが可能になる。
【発明の効果】
【0062】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)納豆発酵室内における温度ムラに起因する納豆の品質低下の問題を確実に解決することを可能とする新しい納豆の発酵技術を提供することができる。
(2)納豆発酵室内における温度ムラによる納豆の品質低下を抑制することを可能とする新しい納豆菌株を提供することができる。
(3)納豆の過発酵(いわゆるヤケ)による生産ロスを削減することを可能にする新しい納豆発酵方法を提供することができる。
(4)過発酵(ヤケ)による生産ロスの削減が可能となる。
(5)納豆発酵室において、従来、不可避とされていたコンテナ別管理が不要になることで、納豆生産工程における作業効率が向上する。
(6)納豆発酵室における空コンテナの削減や、室入れ可能なコンテナ台数の増大などにより、納豆の生産性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】実施例1で用いた各納豆菌株を選抜するための候補株の選抜条件を示す。
【発明を実施するための形態】
【0064】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0065】
[本納豆菌の選抜]
本実施例では、市販の納豆菌から分離した株、自然界や各種発酵食品からの分離株、又はそれらを紫外線照射や化学変異剤等で変異させた変異株など1000株以上の納豆菌株を用いて、優良株の選抜を行った。候補株の選抜条件は、次の通りとした。
【0066】
低温発酵、すなわち、最高雰囲気温度が36℃になる低温域の発酵の発酵条件にも適合して好適に納豆発酵を行う低温発酵納豆菌と、高温発酵、すなわち、最高雰囲気温度が46℃になる高温域の発酵の発酵条件にも適合して好適に納豆発酵を行う高温発酵納豆菌の候補株の選抜を行った。納豆発酵室における給温、冷却の制御は、実際には、±1〜2℃で行われる。そこで、上記最高雰囲気温度が36℃になる低温域とは、実際には、納豆発酵室において、最高雰囲気温度が〜36−38℃になる低温域の範囲を、また、上記最高雰囲気温度が46℃になる高温域とは、実際には、納豆発酵室において、最高雰囲気温度が〜46−47℃になる高温域の範囲を意味する。また、ここで、上記発酵条件に適合して「好適に納豆発酵を行うことが可能な」とは、既存の実用納豆菌と同等以上の納豆発酵を行うことができる特性を有する納豆菌であることを意味する。図1は、優良株を選抜するための候補株の選抜条件を示す。
【0067】
選抜した優良株は、いずれも、以下の表1〜3に示すような菌学的性質(各菌株の形態観察生理・生化学試験結果)を有し、納豆菌であることが確認されている。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【0070】
【表3】

【0071】
次に、上記候補株を用いて、納豆の試作を行うことにより、1)低温発酵でも粘りが強い菌、2)高温発酵でも糸ダレがなく、ヤケにくい菌、を優良株として取得した。その結果、新たな性質を持つ納豆菌として、1)室内高温域で、糸ダレしにくくなる(ヤケない)納豆菌、及び、2)室内低温域で、糸引き不良が起きにくくなる納豆菌を、発見することに成功した。すなわち、上記選抜試験の結果、上記高温域における高温発酵に強い株と、上記低温域における低温発酵に強い株の合計4種の納豆菌株を取得した。
【0072】
納豆の試作試験を行うために、従来の納豆菌を接種した納豆と、高温発酵納豆菌株を接種した納豆を、発酵室の最高雰囲気温度46℃のコンテナに収容、配置して発酵させた。その結果、従来の納豆菌を接種した納豆では、糸ダレが目立ったが、高温発酵納豆菌株を接種した納豆では、糸ダレがなく、良好な糸引きを示すことが分かった。
【0073】
一方、従来の納豆菌を接種した納豆と、低温発酵納豆菌株を接種した納豆を、発酵室の最高雰囲気温度38℃のコンテナに収容、配置して発酵させた。その結果、従来の納豆菌を接種した納豆では、糸引き不良が目立ったが、低温発酵納豆菌株を接種した納豆では、良好な糸引きを示すことが分かった。
【実施例2】
【0074】
[本納豆菌の至適発酵温度域]
本実施例では、上記4種の納豆菌株の至適発酵温度域を調べるために、実際にどれ位の発酵温度域に耐えられるかを調査した。これらの納豆菌株の至適発酵温度域の調査結果として、試作した納豆の発酵、糸ダレ、糸引きの良、不良の程度を、1〜6点で評価し、点数が高い程、良い評価とした。その結果を、以下の表4に示す。
【0075】
【表4】

【0076】
上記表において、4点未満は、納豆(初期品質)として出荷が難しいレベルを示している。すなわち、例えば、発酵が進んで、糸引きが劣化(糸ダレ、糸引きが弱い)、発酵不良で糸が白く弾力が完成していない場合を、4点未満の評価とした。
【0077】
上記表4に示されるように、従来の菌(既存の納豆菌)は、39℃から45℃で4点以上の評価の良好な納豆発酵を行うこと、本発明のN3株は、36℃から42℃で4点以上の評価の良好な納豆発酵を行うこと、1143株は、39℃から47℃で4点以上の良好な納豆発酵を行うこと、1163株は、38℃から47℃で4点以上の良好な納豆発酵を行うこと、974株は、38℃から46℃で4点以上の良好な納豆発酵を行うこと、すなわち、これらの納豆菌は、上述の発酵室内の低温領域ないし高温領域の発酵条件に適合して納豆発酵を行うことができるものであることが分かる。
【実施例3】
【0078】
[試作した納豆の官能評価]
本実施例では、従来の納豆菌と、本発明の新しい4種の納豆菌株を用いて、常法により試作した納豆の官能評価について、5年以上の経験を有する専門評価員10名で評価した。その結果を、以下の表5に示す。
【0079】
【表5】

【0080】
上記表5に示されるように、通常発酵した際の納豆の味について官能評価した結果、本発明の上記4種の納豆菌株は、糸が強く、味があり、雑味が少なく旨味があると評価された株、雑味が少なく旨味があると評価された株、従来の実用納豆菌と同等と評価された株、及び、糸がしっかりしていて、雑味がすっきりで、適度な旨味があると評価された株、であると評価された。更に、試作した納豆の外観、味、糸引き、シャリ(食感の一種)を指標として、日持ち試験を行った。その結果、本発明の上記4種の納豆菌株の日持ちは、いずれも既存株(従来の実用納豆菌株)と同等以上であることが分かった。
【実施例4】
【0081】
[納豆の製造例]
(1)発酵室における納豆の発酵試験
本発明の上記4種の納豆菌株を用いて、発酵室における発酵試験を行った。すなわち、所定の形態の発泡スチロール製の納豆容器に充填した蒸煮大豆に、納豆菌を接種した後、当該納豆容器を、納豆発酵用コンテナの所定の位置に収容し、更に、このコンテナを台車に段積みしたものを、所定の温度に空調された発酵室に配置した。上記コンテナを発酵室に配置するに際して、発酵室における納豆発酵用コンテナの配置を適宜調整した。
【0082】
発酵室の空調を40〜42℃に設定し、発酵室における雰囲気温度の分布を調べたところ、発酵室に配置したコンテナの位置によって、36〜39℃の低温領域と45〜47℃での高温領域が生じることが分かった。そこで、発酵室内のこれらの領域に、低温発酵納豆菌及び/又は高温発酵納豆菌を接種した納豆を収容、配置し、発酵させた。
【0083】
(2)通常発酵時の納豆の評価
発酵が終了した納豆容器を発酵室から取り出し、コンテナの最上段、中段、最下段の各コンテナに収容された全ての納豆容器を取り出して開封し、納豆容器内の納豆の品質を評価した。その結果、得られた納豆は、発酵室内の温度ムラの影響を受けることなく、高温層に位置した最上段のコンテナにおいても、過発酵(ヤケ)による品質低下の問題がなく、低温層に位置した最下段のコンテナにおいても、糸ダレや、糸引きの不良がなく、また、既存の実用納豆菌と同等以上の日持ちを有する納豆が得られることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0084】
以上詳述したように、本発明は、納豆発酵室内における温度ムラの影響を抑制することを可能とする納豆菌、及び該納豆菌による納豆の製造方法に係るものであり、本発明により、納豆発酵室内における温度ムラに起因する納豆の品質低下の問題を確実に解決することを可能とする新しい納豆の発酵技術を提供することができる。また、本発明により、納豆発酵室内における温度ムラによる納豆の品質低下を抑制することを可能とする新しい納豆菌株を提供することができる。また、本発明により、納豆の過発酵(いわゆるヤケ)による生産ロスを削減することを可能とする新しい納豆の製造方法を提供することができる。本発明によれば、過発酵(ヤケ)による製品ロスの削減、コンテナ別管理が不要になることによる発酵室における作業効率の向上、空コンテナの削減や、室入れ可能なコンテナ台数の増大による納豆の生産性の向上などが期待できる新しい納豆の生産技術を提供することができる。本発明は、格別の設備投資、装置の導入などをすることなく、納豆発酵室における温度ムラの問題の影響を抑制することを可能とする新しい納豆発酵技術を提供するものとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の温度に空調される納豆発酵室において、最高雰囲気温度が36−38℃になる低温域の発酵条件にも適合して納豆発酵を行うことが可能な低温発酵納豆菌及び/又は最高雰囲気温度が46−47℃になる高温域の発酵条件にも適合して納豆発酵を行うことが可能な高温発酵納豆菌を接種した低温発酵納豆及び/又は高温発酵納豆を準備し、発酵室における所定の温度領域に配置される納豆発酵用コンテナに低温発酵納豆及び/又は高温発酵納豆を収容、配置し、発酵させることにより、発酵室の温度ムラによる納豆の品質低下を抑制することを特徴とする納豆の製造方法。
【請求項2】
低温発酵納豆菌として、N3株(受託番号 FERM P−22105)、高温発酵納豆菌として、TTCC974株(受託番号 FERM P−22106)、TTCC1143株(受託番号 FERM P−22107)、TTCC1163株(受託番号 FERM P−22108)、を使用する、請求項1に記載の納豆の製造方法。
【請求項3】
納豆発酵室に配置する段積みされた発酵用コンテナ列において、雰囲気温度の分布に適合させて、上記高温発酵納豆菌及び/又は低温発酵納豆菌を接種した高温発酵納豆又は低温発酵納豆を収容、配置し、発酵させることにより、発酵室における温度ムラによる納豆の品質低下を抑制する、請求項1又は2に記載の納豆の製造方法。
【請求項4】
納豆発酵室に配置する段積みされた発酵用コンテナ列において、上記高温発酵納豆菌を接種した高温発酵納豆を収容、配置し、発酵させることにより、納豆の過発酵(ヤケ)による品質低下を抑制する、請求項1又は2に記載の納豆の製造方法。
【請求項5】
納豆発酵室に配置する段積みされた納豆発酵用コンテナにおいて、高温発酵納豆菌及び/又は低温発酵納豆菌を接種した高温発酵納豆及び/又は低温発酵納豆の収容、配置方式を調整することにより、コンテナ別管理や空コンテナを削減し、かつ、室入れコンテナ台数を増大させ、納豆の生産性を向上させる、請求項1又は2に記載の納豆の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の納豆の製造方法で使用する納豆菌であって、該納豆菌が、N3株(受託番号 FERM P−22105)、高温発酵納豆菌として、TTCC974株(受託番号 FERM P−22106)、TTCC1143株(受託番号 FERM P−22107)、TTCC1163株(受託番号 FERM P−22108)、であることを特徴とする低温発酵納豆菌及び/又は高温発酵納豆菌株。
【請求項7】
所定の温度に空調される納豆発酵室において、最高雰囲気温度が36−38℃になる低温域の発酵条件にも適合して納豆発酵を行うことが可能な低温発酵納豆菌及び/又は最高雰囲気温度が46−47℃になる高温域の発酵条件にも適合して納豆発酵を行うことが可能な高温発酵納豆菌を接種した低温発酵納豆及び/又は高温発酵納豆を準備し、発酵室における所定の温度領域に配置される納豆発酵用コンテナに低温発酵納豆及び/又は高温発酵納豆を収容、配置し、発酵させることにより、発酵室の温度ムラによる納豆の品質低下を抑制することを特徴とする発酵室の温度ムラによる納豆の品質低下抑制方法。
【請求項8】
納豆菌として、請求項6に記載の低温発酵納豆菌及び/又は高温発酵納豆菌株を使用する、請求項7に記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−78289(P2013−78289A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220343(P2011−220343)
【出願日】平成23年10月4日(2011.10.4)
【出願人】(000108616)タカノフーズ株式会社 (29)
【Fターム(参考)】