説明

納豆菌によるガスの発生をともなう浄化法

【課題】本発明は、最も簡単に、効率よく、養殖漁場の浄化を行える方法を提供することを目的とした。
【解決手段】本発明は、上記課題を解決するために、1g当たり1×10〜1×10個の納豆菌を含有する餌を養殖魚に給餌し、定期的に魚の腸内残留物中の納豆菌数を測定し、納豆菌を含有する餌の給餌量を管理することにより、魚の腸内残留物中の納豆菌数を腸内残留物1g当たり5×10〜5×10個の範囲に制御する構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は養殖漁業において養殖中に投与される餌に由来する排泄物が養殖漁場に蓄積し、易分解性有機物による自家汚染の解消に係る。詳しくは納豆菌を含有する餌を給餌した魚の排泄物による養殖漁場の浄化に関する。さらに詳しくは、納豆菌数を特定した餌を養殖魚に給餌し、魚の腸内残留物中の納豆菌数を測定し、納豆菌を含有する餌の給餌量を管理することにより、魚の腸内残留物中の納豆菌数を特定の範囲に制御することを特徴とする養殖方法であり排泄物とともに出てくる納豆菌によるガス発生による環境負荷の軽減に資する浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、漁業においては、海中、湖沼に設置した生け簀や陸上に設置した生け簀等を用いて各種の魚類を稚魚から成魚まで飼育する養殖漁業が盛んに行われている。
【0003】
養魚場の環境は、海域であれば、海域の持つ浄化力、即ち、外海との拡散、バクテリアによる分解、植物等による吸収等、を越えて負荷を与える時悪化する。
また、湖沼等の閉鎖水域においても、生活排水の流入による栄養塩の増加により、浄化に対する負荷が大きくなる。
海水交換が良好でない内湾漁場で魚類養殖を継続すると漁場環境劣化として現れ、その劣化の程度が悪化した時、斃死を招くことになる。
【0004】
養殖魚場の水質の指標として、溶存酸素(DO)を用いると、DO濃度変化は外海との海水交換量、還元物質による脱酸素量、海面よりの曝気量、海底での消費量、水中でのプランクトン等による消費、供給から推測できる。
【0005】
養殖漁場の環境回復として、湾口改良、外海水導入工事などの土木的な面からの対策、餌の改良、例えば、EPペレットの採用、易溶性有機物を吸着し水域の負荷を減少する水質改良として、例えば、多孔質セラミックや活性炭や石灰質などの底質改良材を漁場に散布する方法が取られている。
【0006】
湾口改良として、京都府久美浜湾改良工事を行い、湾外からの海水流入が相当量増加し、湾内でのカキ養殖のDO減少によるカキ養殖場の劣化を改善できた。
【0007】
易溶性有機物を吸着し水域の負荷を減少する方法として、比表面積が100g/m2程度の活性炭が漁場劣化のひどい時には散布される。確かに、効果はあるが、継続性がなく、コストがかかり、経済的な採算が取れない。
【0008】
餌に関しては、EPペレットの開発により、給餌時にばらけて、底質に沈殿するケースは少なくなった。しかしながら、食べ残し、稚魚の体内での未消化物、排泄物は依然として、底質に蓄積され、これらが漁場を悪化させている。
【0009】
その結果、成長途中の稚魚の斃死や免疫力低下によるさまざまな病気が発生し、当該生け簀及び周辺の生け簀内の稚魚に伝染し大量処分のケースも見られ、経済的な被害は甚大なものとなる上、抗生物質等を使えば、一時的には収まるものの、再発するケースも多い。
【0010】
このような問題点に対処するため、抗生物質などの薬剤に依存しない方法、すなわち、養殖漁場の環境回復、特に、底質環境の回復が望まれている。
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、これらの点に鑑みてなされたものであり、養殖漁業において養殖中に投与される餌に由来する排泄物が養殖漁場に蓄積し、易分解性有機物による自家汚染の解消をおこなうことを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前述した目的を達成するため本発明者らは、養殖漁場における易分解性有機物による自家汚染による環境悪化やこれに伴う養殖稚魚の免疫力低下などを予防する方法を鋭意研究し続けてきた結果、1g当たり1×10〜1×10個の納豆菌を含有する餌を養殖魚に給餌し、定期的に魚の腸内残留物中の納豆菌数を測定し、納豆菌を含有する餌の給餌量を管理することにより、魚の腸内残留物中の納豆菌数を腸内残留物1g当たり5×10〜5×10個の範囲に制御することにより、養殖稚魚の免疫力向上および底質環境の向上効果を見出し、本発明に至ったものである。
すなわち、本発明は納豆菌を含有する餌を給餌し、魚の腸内残留物1g当たり納豆菌数を5×10〜5×10個の範囲に制御することを特徴とする。
【0013】
また、本発明は納豆菌が餌1g当たり1×10〜2×10個の範囲であることを特徴とする。
【0014】
本発明は、塩分濃度が0%〜6%の水域、すなわち、淡水域である河川、湖沼、海水域である海域において可能な方法である。
【0015】
ここでいう、腸内残留物とは、腸内に残留している消化物、あるいは消化途中物資で対外に排出されていない所謂糞のことである。
【0016】
また、納豆菌とは枯草菌(Bacillus)の一種であり、代表的な種類としてはBacillus Subcilus Nattoがある。本発明では、60℃、20分間の熱処理により、生き残った腸内残留物由来の菌を納豆菌とした。魚の腸内残留物中の納豆菌の測定において、納豆菌の耐熱性を利用した前記熱処理を行うことで、測定値からその他の雑菌(大腸菌等)を排除することができる。
【0017】
なお、納豆菌を含む枯草菌は、自然環境中にも存在することから、魚が自然環境中の食物を摂取することにより、魚の腸内残留物中には、給餌した餌由来の納豆菌の他に自然環境由来の枯草菌等も存在する。
【0018】
従って、魚の腸内残留物中の納豆菌を測定する場合には、餌由来の納豆菌と自然環境由来の枯草菌を合わせて納豆菌数とした。
【0019】
近年、枯草菌と同じバチルス属の納豆菌は、消化不良に起因する種々の障害を緩和することが知られており、納豆菌を添加した種々の餌や家畜飼料が提案されている。
【0020】
しかし、これらの開示においては、単に餌の内容が開示されているに過ぎなく、魚の養殖現場において、どのようにその餌を散布するのか、魚の健康状態を管理するための具体的な方法、最適な養殖手法は開示されていない。そのため、実際の養殖現場においては、毎回試行錯誤の連続となっていた。
【0021】
そこで、本発明は最も簡単に、効率よく、養殖漁場の浄化を行える方法を提供することを目的とした。
【発明の効果】
【0022】
有機物のガス発生により海底の負荷が5%減少すれば、20日間で100%減少となることが可能である。
【0023】
魚が消化し排泄する糞とともに出てくる納豆菌は非常に分解が進みやすいと考えられ、ガスの発生量も増えるものとかんがえる。
【0024】
漁場での汚染劣化の進行より、分解浄化速度が上回れば浄化は進んでゆくものと推測できる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明を実施するために、1g当たり1×10〜2×10個の納豆菌数を含有する餌を養殖魚に給餌し、定期的に魚の腸内残留物中の納豆菌を測定し、納豆菌を含有する餌の給餌量を管理することにより、魚の腸内残留物中の納豆菌数を腸内残留物1g当たり5×10〜5×10個の範囲に制御することで実現した。
【実施例1】
【0026】
試料を900mlのポリカーボネート製容器に密閉し、25〜30℃の間に保温し、50時間静置した後、ガス発生量を目視比較した。
【0027】
試験方法1として、配合飼料10gを粉末体にして900ml容器に入れ、そして水900mlを加え、納豆菌入りの混合飼料0.1gを加え試験区とした。納豆菌を加えていないものを対照区とし、各2検体3回比較試験を行った。
【0028】
ここで使用した混合飼料とは、洛東化成工業株式会社(滋賀県)が大豆減量を含む培地で培養し、大豆と共に乾燥し調整したR−9菌種である。また配合飼料はハマチ稚魚用EPスペシャル3号、日清丸紅飼料株式会社製である。
【0029】
目視比較した結果として、試験区のガス発生量は対照区のガス発生量に比べ、1.2倍〜1.6倍のガス発生量であった。
【0030】
試験方法2として、配合飼料10gを粉末体にして900ml容器に入れ、そして海水900mlを加え、納豆菌入りの混合飼料を0.1g加え試験区とした。納豆菌を加えていないものを対照区とし、各2検体により3回比較試験を行った。
【0031】
試験方法2のガス発生の目視結果として、総量としてのガス発生量は少なかったが、対照区に比べ試験区のガス発生量は1.2倍〜1.8倍のガス発生量であった。
【0032】
試験方法3として配合飼料10gを粉末にしない直径3mmのEPペレットを900ml容器に入れ、そして水900mlを加え、納豆菌入りの混合飼料0.1gを加え試験区とした。納豆菌を加えていないものを対照区とし、各2検体、3回比較試験を行った。
【0033】
目視した結果、ガス発生比較が極端に減少した。発生量も不安定であった。これは微生物の分解が進みにくかったと考えられる。
【0034】
EPペレットは難分解性であるため、納豆菌による分解が悪く50時間後でもペレットの形態を維持していた。
【0035】
納豆菌は活動するための必要な条件として酸素、窒素、炭素、水分、pH(5〜8)適温(10度〜40度)があれば可能である。
【0036】
北川式検知管にてガスを分析した結果、炭酸ガスが主体であった。
【0037】
漁場汚染は、底生生物や微生物分解の限界を1%でも超えると、劣化の程度は加速し悪化するものと推測できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
納豆菌を含有する餌を給餌し、魚の腸内残留物1g当たり納豆菌数を5×10〜5×10個の範囲に制御することを特徴とする養殖漁場の浄化方法。
【請求項2】
納豆菌が餌1g当たり1×10〜2×10個の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の養殖漁場の浄化方法。
【請求項3】
塩分濃度が0%から6%の範囲において可能な請求項1又は請求項2に記載の養殖漁場の浄化方法。
【請求項4】
請求項1および請求項2および請求項3により排泄された魚の糞の中の菌の働きにより、ガスの発生を特徴とする浄化方法。

【公開番号】特開2011−250778(P2011−250778A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−141028(P2010−141028)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【出願人】(501362009)株式会社テクニカ (2)
【Fターム(参考)】