説明

納豆菌培養液に由来する食品の製造方法

【課題】 ビタミンK2をほとんど含有しない納豆菌培養液に由来する食品を提供すること。
【解決手段】 納豆菌培養液または培養上清を無機凝集剤およびカチオン系高分子凝集剤(ただし、キトサンを除く)からなる群から選択される少なくとも一つの凝集剤で処理する工程を含む製造方法が提供される。無機凝集剤としては塩化カルシウムまたはポリ塩化アルミニウムが好ましく、これらとリン系の凝集剤との混合物も好ましく用いられる。また、カチオン系高分子凝集剤としては、カチオン性多糖類、ヘキサメチレンジアミン・エピクロロヒドリン重縮合物またはジメチルアミン・エピクロロヒドリン重縮合物が好ましく用いられ、これらとポリアクリル酸塩との混合物も好ましく用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血栓溶解酵素であるナットウキナーゼを含有するが、血液凝固因子であるビタミンK2をほとんどあるいは全く含有しない食品、特に納豆菌の培養液に由来する食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
納豆菌が血栓溶解酵素であるナットウキナーゼを生産することは、須見らによって発見され(非特許文献1参照)、納豆の栄養価はもちろん、健康食品としての価値が見直されている。ナットウキナーゼは、それ自身が線溶酵素として作用することが知られており、食品として摂取されると血栓を溶解する。このナットウキナーゼは、半減期が長く、長時間効果が持続するという、極めて優れた特徴を有している。そして、同じ血栓溶解作用を有するウロキナーゼでは明確でなかった切迫期網膜中心静脈閉塞症の治療効果が、ナットウキナーゼで明確に現れたことが報告されている(非特許文献2)。
【0003】
そこで、ナットウキナーゼを多量に含む食品、例えば、納豆菌培養物を粉末あるいはカプセル化した商品が健康食品として販売されている。
【0004】
他方で、納豆菌は、ビタミンK2を多く生産することが知られている。このビタミンK2は、血液凝固系の必須成分として知られている。ビタミンK2は、また、別の生理作用を有しており、その欠乏症としては、新生児の吸収障害、老人性骨粗鬆症を引き起こし、過剰症としては、溶血性貧血、脾腫、腎・肝などの障害を引き起こすといわれている。このように納豆菌培養エキスにはナットウキナーゼという血栓溶解系の作用因子とビタミンK2という血液凝固系の作用因子とが同時に含まれている。
【0005】
ところで、一般に、ビタミンK類の一日の必要摂取量は成人で55〜65μgであるといわれている。ビタミンK類は、海藻、ブロッコリーなどの食物に多く含まれており、さらに腸内細菌により生産される、あるいは納豆を摂取した際の納豆菌が腸内で生育し、ビタミンK2を生産する可能性があるため、ビタミンK2の必要摂取量は、通常の食事により満たされているといわれている。このようにビタミンK2は、一般的には別途摂取する必要がないほどである。
【0006】
他方で、血栓予防のため、ビタミンK依存性凝固因子(例えば、プロトロンビンVII、IX、Xなど)の合成抑制剤を服用している患者が、血栓予防等を目的として血栓溶解酵素であるナットウキナーゼを含む納豆あるいは納豆菌培養エキスを摂取すると、ビタミンK2も同時に摂取することになり、そのビタミンK依存性凝固因子合成抑制剤の効果が打ち消されるという問題が生じる。
【0007】
このような観点から、血栓形成予防のため、ビタミンK2含量が低減された納豆菌培養エキス食品が望まれており、ビタミンK2を減少させる方法が試みられている。ビタミンK2を減少させる方法としては、ヘキサンなどの有機溶媒を用いて脂溶性のビタミンK2を抽出する方法がある。しかし、この方法では、ビタミンK2以外の脂溶性の栄養分も抽出されて除かれるという栄養学上の問題、ヘキサンなどの有機溶媒の除去が必要となるため、製造コストアップにつながるなどの製造技術面での問題、さらに、食品に有機溶媒が残留する可能性、有機溶媒の使用に対する消費者の抵抗感などの問題がある。そこで、本発明者は、キトサンを用いてビタミンK2を簡単に除去する方法を提案している(特許文献1)。しかし、キトサンは、一旦水溶液にして加える必要があり、さらに高価なこともあって、さらなるビタミンK2の除去方法が望まれている。
【特許文献1】特開2001−299277号公報
【非特許文献1】須見ら、Experientia 43巻、1110頁(1987年)
【非特許文献2】西村ら、眼科臨床医報 第88巻、第9号 53〜57頁(1994年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ビタミンK2を除去した納豆菌培養液に由来する食品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、納豆菌培養液に由来し、ナットウキナーゼおよび1μg/g乾燥質量以下のビタミンK2を含有する食品の製造方法であって、納豆菌培養液またはその培養上清を無機凝集剤およびカチオン系高分子凝集剤(ただし、キトサンを除く)からなる群から選択される少なくとも一つの凝集剤で処理する工程を含む方法を提供する。
【0010】
好ましい実施態様では、前記無機凝集剤が、塩化カルシウムおよびポリ塩化アルミニウムからなる群から選択される少なくとも一つの無機凝集剤である。
【0011】
別の実施態様においては、前記無機凝集剤が、リン系の凝集剤をさらに含む。
【0012】
好ましい実施態様では、前記カチオン系高分子凝集剤が、カチオン性多糖類、ヘキサメチレンジアミン・エピクロロヒドリン重縮合物およびジメチルアミン・エピクロロヒドリン重縮合物からなる群から選択される少なくとも一つである。
【0013】
別の実施態様においては、前記カチオン系高分子凝集剤が、ポリアクリル酸塩をさらに含む。
【0014】
また、別の好ましい実施態様では、前記食品が、培養液の濃縮物、ペースト、粉末、顆粒、カプセル、飲料または錠剤の形態である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の方法によれば、簡便な方法で、納豆菌培養液に由来し、ナットウキナーゼおよび1μg/g乾燥質量以下のビタミンK2を含有する食品が得られる。この食品は、ビタミンK2含量が極めて少ないため、健康人のビタミンK2過剰摂取と血栓形成を予防できるとともに、ビタミンK2の摂取を制限されている人も安心してナットウキナーゼを摂取できる優れた食品である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の納豆菌の培養液に由来する食品の製造方法は、納豆菌培養物(好ましくは培養液)を特定の物質を用いて処理し、培養液中のビタミンK2を実質的に除去する工程を包含する。以下、本発明の方法について説明するが、この説明において使用するビタミンK2などの数値は、用いる納豆菌の種類、培養条件などで変化するものであり、本発明を限定するものではない。
【0017】
(納豆菌の培養)
本発明の方法に用いられる微生物は、納豆菌に分類され、ナットウキナーゼを生産できる微生物であれば、いずれの微生物も使用できる。市販の納豆から分離した納豆菌を用いてもよい。例えば、Bacillus subtilis nattoに代表される納豆菌が使用される。
【0018】
納豆菌の培養に用いる培地には特に制限はないが、濃縮液自体が食品になることを考慮して決定することが好ましい。澱粉(例えば、コーンスターチ)、グルコース、蔗糖などの炭素源、脱脂大豆、肉エキスなどの窒素源、炭酸カルシウム、塩化マグネシウムなどの無機塩、必要に応じて脂肪酸などを培地成分として用いて、納豆菌を培養する。これらの培地に使用される成分は、食品添加物グレードであることが好ましい。
【0019】
納豆菌の培養方法には特に制限がないが、大量に培養するためには、通気攪拌培養が好ましい。培養温度は納豆菌が生育できる温度であれば特に制限はないが、30〜45℃が好ましく、32〜42℃がさらに好ましく、37℃前後が最も好ましい。培養は、3〜4日が好ましい。
【0020】
培養終了後の培養液の上清中には、一般的には、ナットウキナーゼ活性が約300〜600FU/ml、ビタミンK2が約10〜100μg/g乾燥質量含まれている。
【0021】
(ビタミンK2除去処理)
培養液からのビタミンK2の除去は、無機凝集剤およびカチオン系高分子凝集剤(ただし、キトサンを除く)からなる群から選択される少なくとも一つの凝集剤を用いて行われる。まず、凝集剤について説明する。
【0022】
(無機凝集剤)
無機凝集剤としては、塩化カルシウム、ポリ塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化第二鉄、ポリ珪酸塩、硫酸第一鉄、などが挙げられるが、これらに限定されない。塩化カルシウム、リン酸水素二ナトリウム、ポリ塩化アルミニウムなどが好ましく用いられる。さらに、これらの無機凝集剤の凝集性を高めるために、これらの凝集剤とリン系の凝集剤(例えば、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三カリウムなど)との混合物を用いてもよい。例えば、塩化カルシウムとリン酸水素二ナトリウムとの混合物、またはポリ塩化アルミニウムとリン酸水素二ナトリウムとの混合物が好ましく用いられる。混合物を用いる場合、これらの凝集剤を混合して加えてもよく、あるいはいずれか一方の凝集剤を先に添加した後、残り凝集剤を添加してもよい。例えば、塩化カルシウムとリン酸水素二ナトリウムとの混合物を凝集剤として用いる場合、まず、リン酸水素二ナトリウムを添加した後、塩化カルシウムを添加すればよい。
【0023】
なお、ポリ塩化アルミニウムは、一般式〔Al(OH)Cl6−nで表される化合物であり、一般には、1≦n≦5、m≦10の化合物が好ましく用いられる。ポリ塩化アルミニウムは、多木化学株式会社から入手できる。
【0024】
これらの無機凝集剤は、微生物を含む培養液自体に添加してもよく、微生物を遠心分離あるいはろ過などの分離手段で分離して得られる培養上清に添加してもよい。無機凝集剤は、そのまま、またはいったん水溶液とし、あるいは水に分散させて、培養液または培養上清に添加することができる。いったん水溶液とし、あるいは水に分散させて使用することが好ましい。無機凝集剤の添加量は、特に制限はなく、用いる凝集剤の種類により決定すればよい。なお、凝集反応におけるpHは、用いる無機凝集剤に応じて、添加前あるいは添加後に適宜調整すればよい。
【0025】
無機凝集剤の一例として、塩化カルシウムとリン酸水素二ナトリウムとを組み合わせて用いて、納豆菌培養液あるいは培養上清を処理する場合について、説明する。リン酸水素二ナトリウムは、好ましくは培養液(培養上清)100質量部あたり、1.5〜7.5質量部、より好ましくは4〜5質量部添加される。塩化カルシウムは培養液(培養上清)100質量部あたり、0.5〜2.5質量部、より好ましくは1〜1.8質量部添加される。リン酸水素二ナトリウムと塩化カルシウムとを混合して用いる場合は、まず、リン酸水素二ナトリウムを添加し、溶解させた後、塩化カルシウムを添加すればよい。その後、培養液(培養上清)のpHを7〜7.4の範囲に調整することが好ましい。
【0026】
ポリ塩化アルミニウムを用いて納豆菌培養液あるいは培養上清を処理する場合、ポリ塩化アルミニウムは、好ましくは培養液(培養上清)100質量部あたり、0.001〜0.6質量部(溶液あたり、約10〜6,000ppm)、より好ましくは0.3〜0.5質量部(溶液あたり、約3,000〜5,000ppm)添加される。ポリ塩化アルミニウムを添加した培養液(培養上清)のpHを、4.5〜5.0の範囲に調整することが好ましい。
【0027】
(カチオン系高分子凝集剤)
カチオン系高分子凝集剤としては、カチオン性多糖類、ヘキサメチレンジアミン・エピクロロヒドリン重縮合物、ジメチルアミン・エピクロロヒドリン重縮合物、水溶性アニリン樹脂塩酸塩、ポリエチレンイミン、ポリアミン、ポリジアニルジメチルアンモニウムクロライド、ヘキサメチレンジアミンなどが用いられるが、キトサンは含まない。中でもカチオン性多糖類、ヘキサメチレンジアミン・エピクロロヒドリン重縮合物およびジメチルアミン・エピクロロヒドリン重縮合物が好ましく使用される。また、カチオン系高分子凝集剤にポリアクリル酸塩を添加することによって、さらに凝集力を高めることができる。例えば、カチオン性多糖類とポリアクリル酸塩との混合物が、好ましく用いられる。カチオン系高分子凝集剤およびポリアクリル酸塩は混合して加えてもよく、あるいはいずれか一方の凝集剤を先に添加した後、残り凝集剤を添加してもよい。
【0028】
カチオン性多糖類としては、例えば、商品名「キプロガムNGK」(日澱化学株式会社製)が用いられる。
【0029】
これらのカチオン系高分子凝集剤は、そのまま、またはいったん水溶液とし、あるいは水に分散させて、培養液または培養上清に添加してもよい。カチオン系高分子凝集剤の添加量は、特に制限はなく、用いる凝集剤の種類により決定すればよい。また、凝集反応におけるpHは、用いるカチオン系高分子凝集剤に応じて、添加前あるいは添加後に適宜調整すればよい。
【0030】
次に、カチオン系高分子凝集剤の一例として、カチオン性多糖類、ヘキサメチレンジアミン・エピクロロヒドリン重縮合物およびジメチルアミン・エピクロロヒドリン重縮合物について、納豆菌培養液あるいは培養上清を処理する場合について、説明する。
【0031】
カチオン性多糖類は、好ましくは培養液(培養上清)100質量部あたり、0.005〜0.2質量部、より好ましくは0.02〜0.04質量部添加される。カチオン性多糖類による処理においては、添加する前に培養液(培養上清)のpHを調整することが好ましい。好ましいpHの範囲は4.0〜5.0であり、より好ましくは約4.5である。
【0032】
カチオン性多糖類はポリアクリル酸ナトリウムと組み合わせて用いることが好ましく、上記範囲の各々の量を適宜組み合わせて、処理することができる。
【0033】
ポリアクリル酸塩としては、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸カリウム、アクリル酸アンモニウム、アクリル酸リチウム、アクリル酸のアミン塩などが用いられる。
【0034】
ポリアクリル酸ナトリウムは、好ましくは培養液(培養上清)100質量部あたり、0.005〜0.2質量部、より好ましくは0.02〜0.04質量部添加される。ポリアクリル酸ナトリウムによる処理においては、添加する前に培養液(培養上清)のpHを調整することが好ましい。好ましいpHの範囲は4.0〜5.0であり、より好ましくは約4.5である。
【0035】
ヘキサメチレンジアミン・エピクロロヒドリン重縮合物は、好ましくは培養液(培養上清)100質量部あたり、0.0001〜0.02質量部(溶液あたり、約1〜200ppm)、より好ましくは0.005〜0.01質量部(溶液あたり、約50〜100ppm)添加される。ヘキサメチレンジアミン・エピクロロヒドリン重縮合物を添加した後、を添加した培養液(培養上清)のpHを6.5〜7.5の範囲に、好ましくは7に調整する。
【0036】
ジメチルアミン・エピクロロヒドリン重縮合物は、好ましくは培養液(培養上清)100質量部あたり、0.0001〜0.02質量部(溶液あたり、約1〜200ppm)、より好ましくは0.005〜0.01質量部(溶液あたり、約50〜100ppm)添加される。ジメチルアミン・エピクロロヒドリン重縮合物を添加した後、培養液(培養上清)のpHを6.5〜7.5の範囲に、好ましくは7に調整する。
【0037】
(凝集剤の除去)
上記凝集剤を納豆菌培養液または培養上清に添加した後、十分に撹拌する。その後、例えば、パーライト、珪藻土などの濾過助剤を用いて、例えば、加圧型濾過機で濾過して清澄な濾液を得る。あるいは、培養液に凝集剤を添加した後、さらに、パーライト、珪藻土などの濾過助剤を添加して、適切な時間、攪拌して、例えば、加圧型濾過機で濾過し、濾液を得ることができる。得られた濾液は、必要に応じて、pHを調整し、さらに、処理される。上記のいずれかの凝集剤処理により、濾液中のビタミンK2は、97%以上、好ましくは99%以上、より好ましくは99.9%以上除去される。しかし、ナットウキナーゼはほとんど除去されることなく、濾液中に回収される。
【0038】
なお、上記凝集剤は、培養液中に溶解あるいは分散しているものの、濾過助剤で除去され、濾液中にはほとんど含まれない。これは、凝集剤が、培養液中の菌体あるいは何らかの成分に吸着するため、濾過助剤で除去されると考えられる。
【0039】
得られた濾液は、そのまま、あるいはさらに濾過助剤などを用いて精密濾過された後、濃縮機、例えば、逆浸透圧濃縮機を用いて濃縮される。この逆浸透圧濃縮機を用いることにより、分子量100以下の物質は大部分が除去される。さらに、必要に応じて、メンブレンフィルター、例えば、0.5μmおよび/または0.2μmのメンブランフィルターを用いて濃縮液を無菌濾過することにより、納豆菌培養液の濃縮液が得られる。この濃縮液中のビタミンK2の濃度は、1μg/g乾燥質量以下となる。
【0040】
得られた濃縮液は、さらに濃縮されてペースト状となる。また、得られた濃縮液に対し適切な量の食品添加物、例えば、水溶性食物繊維、乳糖、セルロースなどを加え、凍結乾燥して、粉末状、あるいは顆粒状の納豆菌培養エキスが製造される。また、上記得られた濃縮液、ペースト状、粉末状、顆粒状のエキスをカプセルに封入し、納豆菌培養エキスを含有するカプセルが製造される。また、錠剤も製造される。錠剤は、糖衣錠など、種々の用途に応じて表面がコーティングされた錠剤であり得る。このようにして、本発明の食品が製造される。
【0041】
このようにして得られる納豆菌の培養液に由来する食品には、ナットウキナーゼが含まれるが、ビタミンK2は、1μg/g乾燥質量以下であり、検出限界(0.001μg/g乾燥質量)以下の含量であり得る。ナットウキナーゼの含有量は特に制限がないが、1g当り、20FU以上が好ましく、より好ましくは1000FU以上、さらに好ましくは2500FU以上である。これらは食品の形状などより変動し得る。乾燥粉末の場合は、1gあたり5000FU以上であり得、10000FU以上であり得る。ナットウキナーゼ活性の有無は、例えば、非特許文献1に記載された方法などに従い、フィブリンプレート上で溶解斑を形成するか否かで検出できる。なお、本発明で、ナットウキナーゼは、納豆菌により生産され、フィブリンプレート上でクリアなプラークを形成する能力のある酵素を意味する。
【0042】
なお、ナットウキナーゼの活性とビタミンK2の定量は以下の方法による。
【0043】
(A:ナットウキナーゼの活性測定)
以下の工程に従い、ナットウキナーゼをフィブリンに作用させ、フィブリンの分解に伴って増加する酸可溶性低分子分解産物の量を、紫外線(275nm)の吸光度を測定して求める方法で測定する。
【0044】
(a-1:フィブリノーゲン水溶液の調製)
50mMホウ砂緩衝液(pH8.5、150mM NaClを含む)10mlにフィブリノーゲン(シグマ社製、牛血漿由来フィブリノーゲンフラクションI、TYPEI−S)72mg相当分を溶解し、0.72%フィブリノーゲン水溶液を調製する。
【0045】
(a-2:トロンビン溶液の調製)
トロンビン(シグマ社製、牛血漿由来)を50mMホウ砂緩衝液に溶解し、1000U/mlの濃度に調製し、使用時に同じホウ砂緩衝液を用いて50倍に希釈(すなわち、20U/ml)の濃度とする。
【0046】
(a-3:活性測定)
試験管に50mMホウ砂緩衝液1.4mlおよびフィブリノーゲン水溶液0.4mlを量り取り、37℃±0.3℃の恒温水槽で5分間加温した後、トロンビン溶液0.1mlを加え、攪拌する。混合液を10分間この恒温水槽に放置した後、試料溶液0.1mlを混合液に加え、5秒間攪拌して恒温水槽で放置する。試料溶液を添加してから20分後、および40分後にそれぞれ5秒間攪拌し、60分後に0.2Mトリクロロ酢酸溶液2mlを加えて攪拌し、さらに20分放置する。この反応液を15,000×gで5分間遠心分離し、上清の275nmにおける吸光度(Ar)を測定する。
【0047】
他方で、50mMホウ砂緩衝液1.4mlおよびフィブリノーゲン水溶液を0.4ml量り取り、37℃±0.3℃の恒温水槽で5分間加温した後、トロンビン溶液0.1mlを加え、攪拌する。混合液を10分間この恒温水槽に放置した後、0.2Mトリクロロ酢酸溶液2mlを混合液に加えて攪拌する。次に、試料溶液を0.1ml加えて攪拌し、20分放置する。この反応液を15,000×gで5分間遠心分離し、上清の275nmにおける吸光度(Ac)を測定し、コントロールとする。
【0048】
ナットウキナーゼの活性は以下の式により求められる。
【0049】
A(FU/ml)={(Ar−Ac)/(0.01×60×0.1)}×D
(Dは希釈倍率)
【0050】
(B:ビタミンK2の定量)
以下の方法でHPLC用サンプルを調製し、HPLCで測定する。
【0051】
(b-1:HPLC用試料の調製)
測定試料0.5ml、水0.5ml、イソプロパノール1.5mlを混和し、その後ヘキサン5mlを加えて攪拌する。遠心分離(1700×g、10分、20℃)を行い、上清(有機層)4mlを濃縮乾固し、100μlのエタノールに溶解して、サンプル溶液とする。
【0052】
(b-2:HPLCの条件)
HPLCの条件は以下の通りである。
【0053】
カラム:Simazu STR ODS−2 4.6×250mm
溶出液:97%エタノール
流速: 0.7ml/分
検出:UV254nm
この条件におけるビタミンK2の保持時間は16分から17分の間である。
【実施例】
【0054】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0055】
(実施例1)
ポリペプトン1質量%、グルコース1質量%、肉エキス0.5質量%、NaCl0.2質量%、pH7.0の培地を含む丸底フラスコにBacillus Nattoを接種後、37℃で18時間培養した。得られた培養液を、同じ組成の培地を含むシード培養槽に接種し、22時間培養してシード培養液を得た。
【0056】
他方で、コーンスターチ6.25質量%、脱脂大豆3.09質量%、食品添加物グレードの炭酸カルシウム0.15質量%、大豆油1.5質量%、およびシリコーン0.008質量%を含む、pH7.3の本培養培地を準備し、これに上記シード培養液を添加して、通気量0.5VVM、温度37℃で、70時間培養した。得られた培養液中には、480FU/mlのナットウキナーゼと5.7μg/g培養液のビタミンK2が含まれていた。
【0057】
リン酸水素二ナトリウムを4.4g添加し、よく撹拌した後、35質量%の塩化カルシウム水溶液を3.3gおよびパーライト2・7gを添加し、室温で30分、撹拌した。培養液のpHを7.2に調整し、吸引濾過により濾液を得た。得られた濾液中のナットウキナーゼの活性およびビタミンK2の量を測定した。結果を表1に示す。
【0058】
(実施例2)
実施例1で得られた培養液100gに、10質量%のポリ塩化アルミニウム水溶液を4.5g、パーライトを1.8g添加し、室温で10分間、撹拌した。培養液のpHを5.0に調整し、吸引濾過により濾液を得た。実施例1と同様、濾液中のナットウキナーゼの活性およびビタミンK2の量を測定した。結果を表1に示す。なお、ポリ塩化アルミニウムは多木化学株式会社から入手した。
【0059】
(実施例3)
実施例1で得られた培養液100gをpH4.5に調整し、ポリアクリル酸ナトリウムを0.04g、カチオン性多糖類(商品名「キプロガムNGK」日澱化学株式会社製)を0.02g、およびパーライトを2.5g添加し、室温で10分間撹拌した後、吸引濾過した。得られた濾液中のナットウキナーゼの活性およびビタミンK2の量を測定した。結果を表1に示す。
【0060】
(実施例4)
実施例1で得られた培養液100gに、30%ヘキサメチレンジアミン・エピクロロヒドリン重縮合物水溶液(商品名「サンポリーK−601」三井化成工業株式会社製)を0.2質量%含有する水溶液を10g、パーライトを2.5g添加し、室温で10分間、撹拌した。培養液のpHを7.0に調整し、吸引濾過により濾液を得、濾液中のナットウキナーゼの活性およびビタミンK2の量を測定した。結果を表1に示す。
【0061】
(実施例5)
実施例1で得られた培養液100gに、50%ジメチルアミン・エピクロロヒドリン重縮合物(商品名「サンポリーK−108」三井化成工業株式会社製)を0.2質量%含有する水溶液を10g、パーライトを2.5g添加し、室温で10分間、撹拌した。培養液のpHを7.0に調整し、吸引濾過により濾液を得た。濾液中のナットウキナーゼの活性およびビタミンK2の量を測定した。結果を表1に示す。
【0062】
(比較例1)
実施例1で得られた培養液100gに対して、キトサン(株式会社共和テクノス製)を0.18質量%酢酸に溶解し、0.4%キトサン溶液を調製した。実施例1で得られた培養液に対して、0.4%キトサン溶液を7.5g加え、さらにパーライトを2.5g添加し、室温で10分間、撹拌した。吸引濾過により濾液を回収し、濾液中のナットウキナーゼの活性およびビタミンK2の量を測定した。結果を表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
表1から明らかなように、従来公知のキトサンと同様、実施例1〜5の各処理を施すことによって、培養液中のナットウキナーゼは保持されたまま、ビタミンK2がほとんど除去されていた。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の方法によれば、キトサンよりも安価にかつ簡単に納豆菌培養物からビタミンK2を除去できる。血液凝固系に作用するビタミンK2含量を低減することにより、ナットウキナーゼの有する血栓溶解活性が有効に機能する。従って、本発明の方法は、優れた効能を有する健康食品の製造方法として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
納豆菌培養液に由来し、ナットウキナーゼおよび1μg/g乾燥質量以下のビタミンK2を含有する食品の製造方法であって、
納豆菌培養液またはその培養上清を無機凝集剤およびカチオン系高分子凝集剤(ただし、キトサンを除く)からなる群から選択される少なくとも一つの凝集剤で処理する工程を含む、方法。
【請求項2】
前記無機凝集剤が、塩化カルシウムおよびポリ塩化アルミニウムからなる群から選択される少なくとも一つの無機凝集剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記無機凝集剤が、リン系の凝集剤をさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記カチオン系高分子凝集剤が、カチオン性多糖類、ヘキサメチレンジアミン・エピクロロヒドリン重縮合物およびジメチルアミン・エピクロロヒドリン重縮合物からなる群から選択される少なくとも一つである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記カチオン系高分子凝集剤が、ポリアクリル酸塩をさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記食品が、培養液の濃縮物、ペースト、粉末、顆粒、カプセル、飲料または錠剤の形態である、請求項1から5のいずれかの項に記載の方法。