説明

紙壁紙用上層シート

【課題】 エンボス型再現性に優れ、エンボス切れの発生しない紙素材からなる紙壁紙用上層シートを得る。
【解決手段】 紙壁紙用上層シートとして、縦方向の塑性変形率が、破断伸びの50%時点で、2%以上20%以下である紙素材を使用することにより、深エンボスを施した場合でもエンボス切れが発生せずエンボス型再現性に優れた紙壁紙用上層シートを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、深エンボスの場合でもエンボスの型再現性に優れた紙壁紙用上層シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から建物内装の壁装部分の美麗化や汚れ保護のために壁紙が使用されている。壁紙は、一般的には意匠性を持たせ化粧層となる上層シートと、該上層シートを支え施工性を付与する裏打ち紙からなり、上層シートと裏打ち紙は、例えば合成樹脂エマルジョン系やホットメルト系樹脂からなる接着剤で接着された構造となっている。
【0003】
かかる壁紙としては加工の容易さや美麗化、印刷、耐水処理等の表面処理のために、上層シートとして塩化ビニル樹脂を用いた塩化ビニル壁紙が主流を占めている。しかしながら、最近の環境対応の高まりから、非塩素系の素材であるオレフィン系樹脂、紙素材、無機系材料等が上層シートして用いられ始めてきた。
【0004】
しかし、上層シートは意匠性を持たせるために、エンボス処理を施こすのが一般的であるが、エンボス処理の際、紙素材は熱可塑性素材ではないので、熱可塑性の塩化ビニル系樹脂やオレフィン系樹脂素材に比較すると、塑性変形率は低い。そのため、紙素材は、深エンボスをかけるとエンボス切れが発生したり、仮にエンボス切れが発生しなくとも元に戻る傾向が強くエンボスの型再現性が劣っている。このため紙素材は浅いエンボスパターンでしか処理することが出来ず、美麗化の面では他の塩化ビニル樹脂やオレフィン系樹脂に比べ劣る素材であり、従って、紙素材からなる上層シートは、塩化ビニル樹脂やオレフィン系樹脂からなる上層シートに比べ、ボリューム感のある意匠的効果の高い美麗な上層シートは得られない。
【0005】
これを改善すべく上層シートに使用される紙素材として、紙素材中に熱可塑性の合成繊維を混抄する方法等が提案されており、嵩高パルプと合成繊維の混抄シートから成る紙壁紙用上層シートが開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2004−3048号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、前記特許文献1に開示されている紙素材であっても、充分な深エンボス適性を得られず、深エンボス適性は塩化ビニル系樹脂やオレフィン系樹脂素材に比べると劣っていた。従って、優れた深エンボス適性を有する紙壁紙上層シート用の紙素材が求められていた。
【0007】
本発明の目的とするところは、エンボス型再現性に優れ、エンボス切れの発生しない紙素材からなる紙壁紙用上層シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、縦方向の50%破断伸びの時点での塑性変形量が2%以上、20%以下の紙素材を用いると、深エンボスした場合でもエンボス切れが発生せずエンボスの型の戻りが少なく良好な型再現性が得られることを見出し本発明を完成するにいたった。
【0009】
即ち、上記目的を達成するために請求項1に記載の紙壁紙用上層シートは、縦方向の塑性変形率が、破断伸びの50%時点で、2%以上20%以下である紙素材からなることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の紙壁紙用上層シートは、請求項1記載の、前記縦方向の塑性変形率が、破断伸びの50%時点で、2%以上20%以下である紙素材が、抄紙機上で機械的に縦方向に収縮処理を施した紙であることを特徴とする。
【0011】
なお、50%破断伸び時の塑性変形率とは、JIS P 8113に従って引張り試験を行い、図1に示す応力−歪み曲線より求めたものである。
【発明の効果】
【0012】
上記のように、本発明に係る紙壁紙用上層シートは、縦方向の塑性変形率が、破断伸びの50%時点で、2%以上20%以下である紙素材からなるので、深エンボスを施した場合でもエンボス切れが発生せずエンボス型再現性に優れた紙素材を得ることができ、紙素材を上層シートとして使用しエンボス処理を施すことにより、熱可塑性の塩化ビニル系樹脂やオレフィン系樹脂素材に劣らないボリューム感が得られ、優れた意匠性をもたせることができる。
【0013】
また、前記縦方向の塑性変形率が、破断伸びの50%時点で、2%以上20%以下である紙素材が、抄紙機上で機械的に縦方向に収縮処理を施した紙であると、原紙が横方向に比べ縦方向への繊維配向が強い紙であっても、縦方向の組成変形率が向上し、深エンボス処理を施した場合でもエンボス切れを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係る紙壁紙用上層シートを実施する最良の形態の一例を説明する。
本発明に係る紙壁紙用上層シートは、縦方向の塑性変形率が、破断伸びの50%時点で、2%以上20%以下である紙素材からなる。そして、前記縦方向の塑性変形率が、破断伸びの50%時点で、2%以上20%以下である紙素材が、抄紙機上で機械的に縦方向に収縮処理を施した紙であることが望ましい。
【0015】
抄紙の一般的な製造方法である、長網、ツインワイヤー、丸網、短網等の単独脱水方法、あるいは各種脱水方法を組み合わせた多層抄きワイヤーで紙層を形成し、シリンダードライヤーあるいはヤンキードライヤー等で乾燥し得られる紙は、横方向に比べ縦方向への繊維配向が強いのが一般的である。このため、紙の横方向の50%破断伸び時の塑性変形率は一般的には2%以上であるのに対して、縦方向の50%破断伸び時の塑性変形率は0.5%以下であるのが一般的である。
【0016】
これらの通常の抄紙機で製造された紙を用いてエンボス処理を施すと、縦方向の破断伸びが低いためエンボス切れが起き易く、また、エンボス切れが起きなかった場合でも主に初期の弾性領域でエンボス処理が行われるためエンボス前に戻り易く、型再現性が劣る。この様なことから、発明者等は、紙の縦方向の塑性変形率を向上する手法を鋭意検討し以下の手法に着目したのである。
【0017】
本発明で使用される、縦方向においても、横方向と同程度の50%破断伸び時の塑性変形率が2%以上である紙素材を得る方法としては、抄紙機上で機械的に横ジワ、あるいは横方向への折込を行う方法、具体的には、湿紙を予め伸張させておいたゴムベルトとドライヤーロールの間に挟みベルトの収縮を利用して紙を縦方向に収縮させるクルパック法、湿紙をプレスロール又はヤンキードライヤー上でドクターを使って紙に折り畳みシワをつけるクレープ法等が挙げられる。
【0018】
特に、抄紙機上で湿紙に縦ジワと横ジワを同時につける等で製造された伸張紙、例えば、特許第3407114号公報に開示されているような、硬い物質から成りその表面に周方向にリブを有し回転する硬質ロールと、軟らかい物質から成り平滑な表面を有し、硬質ロールより遅い速度で回転する軟質ロールからなる一組のロール間で湿紙を収縮処理して得られる伸張紙、あるいは特開2004−3071号公報に開示されているような、ロール周面に周方向に沿った溝をロール幅方向に所定の間隔をあけて設けた硬質ロールとロール周面が平坦な軟質ロールとからなる一対のプレスロールを備え、加圧下で前記硬質ロールの周速度に対して前記軟質ロールの周速度を遅く(好ましくは、硬質ロールの周速度1に対して軟質ロールの周速度を0.95〜0.5)して回転するようにした収縮付与装置に、紙中水分が20〜50%の紙シートを通紙して該紙シートに収縮を与え、その後に乾燥して得られる伸張紙を使用することが好ましい。更に、伸張紙として、縦方向及び横方向のJIS P 8113に規定の引張り破断伸びが15%以上50%以下であるものを使用することが望ましい。
【0019】
縦方向の50%破断伸び時の塑性変形率が1%未満の場合、深エンボス処理を行うと、エンボス切れが発生し易くなる。また、50%破断伸び時の縦の塑性変形率が1%以上2%未満の場合、エンボス切れは発生し難くなるが型再現性は悪化する。50%破断伸び時の縦方向の塑性変形率が2%以上20%以下の場合、上記と同様に深エンボス処理を行うとエンボス切れの発生が無く、型再現性が良好である。また、50%破断伸び時の塑性変形率が20%を超えると、上記と同様に良好なエンボス処理が可能であるが、素材が紙のため塑性変形率に限界があり、現実的ではない。
【0020】
上層シートのエンボス処理は紙壁紙製造時の裏打ち紙との貼合前あるいは貼合後でも可能であるが、より高度のエンボス型の再現性を求める場合は貼合前のエンボス加工が好ましい。
【0021】
本発明の紙壁紙用上層シートに用いる原料パルプとしては、セルロース系パルプを主体に用いることが望ましい。その中でも、特に取り扱い、入手の容易さ、コスト等から針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒サルファイトパルプ(NBSP)、広葉樹晒サルファイトパルプ(LBSP)等の化学パルプの使用が好ましい。また、上質古紙原料の脱墨パルプ(DIP)の使用も可能である。
【0022】
また、紙壁紙用上層シートのエンボス適性を劣化させない範囲で、内添薬品として定着剤、サイズ剤、填料、染料、紙力向上剤、歩留り向上剤等の使用が可能である。またサイズプレス等の外添薬品として、表面紙力剤、表面サイズ剤、顔料、染料等の使用が可能である。
【0023】
本発明の紙壁紙用上層シートは、坪量は85〜500g/mであることが好ましい。上層シートは、上層シート支持層としての裏打ち紙を裏側に接着させ、必要に応じて更に該裏打ち紙表面に壁面に対する接着層を設けた構成により紙壁紙となる。裏打ち紙は壁紙に慣用されているもので、坪量65〜80g/mであるものが好ましいが、この限りではない。
【実施例】
【0024】
以下に、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、「%」は、特に明記しない限り「重量%」を表す。
実施例及び比較例で製造した紙壁紙用上層シートについて図2、図3に示すエンボス型(エンボス型高さ 3mm)を用いて、図4に示す方法でエンボス処理を行った。
【0025】
<エンボス条件>
プレス機としてTOKUE社製50tプレスを用い、圧力20kg/cmで、当てゴムとして厚さ1cm、シェア高度70のゴムを使用して、プレス時間5秒でエンボス処理を行った。
【0026】
<エンボス評価>
・エンボス切れ:目視でエンボス切れの有無を観察した。
・エンボス型再現性:エンボス処理紙をエンボスの凸部を上方に向けてXYステージに載せ、エンボス処理紙の中央付近の9個(3個×3個)の凸部の高さをレーザー変位計により測定し、9個の平均高さを測定し、下記の計算式にて50%以内となるものを「×」、50%を超えるものを「○」と評価した。
エンボス高さ/エンボス型の高さ×100
[実施例1]
木材パルプ100%からなる坪量100g/mで、縦方向の50%破断伸び時の塑性変形率が14.6%である伸張紙(商品名:WV−100、日本製紙(株)製)を用い図4で示す方法によりエンボス処理を行った。このエンボス紙についてエンボス切れの有無を目視観察し、更に型再現性を3次元粗さ計により凸部の高さを測定した。結果を表1に示す。
【0027】
[実施例2]
木材パルプ100%からなる坪量150g/mで、縦方向の50%破断伸び時の塑性変形率が16.5%である伸張紙(商品名:WV−150、日本製紙(株)製)を用い図4で示す方法によりエンボス処理を行った。このエンボス紙についてエンボス切れの有無を目視観察し、更に型再現性を3次元粗さ計により凸部の高さを測定した。結果を表1に示す。
【0028】
[実施例3]
木材パルプ100%からなる坪量100g/mで、縦方向の50%破断伸び時の塑性変形率が4.0%である紙(クレープ紙、コルスネル社製)を用い図4で示す方法によりエンボス処理を行った。このエンボス紙についてエンボス切れの有無を目視観察し、更に型再現性を3次元粗さ計により凸部の高さを測定した。結果を表1に示す。
【0029】
[比較例1]
木材パルプ100%からなる坪量100g/mで、縦方向の50%破断伸び時の塑性変形率が0.4%である紙(上質印刷用紙、日本製紙(株)製)を用い図4で示す方法によりエンボス処理を行った。このエンボス紙についてエンボス切れの有無を目視観察し、更に型再現性を3次元粗さ計により凸部の高さを測定した。結果を表1に示す。
【0030】
[比較例2]
木材パルプ100%からなる坪量150g/mで、縦方向の50%破断伸び時の塑性変形率が0.3%である紙(紙カップ原紙、日本製紙(株)製)を用い図4で示す方法によりエンボス処理を行った。このエンボス紙についてエンボス切れの有無を目視観察し、更に型再現性を3次元粗さ計により凸部の高さを測定した。結果を表1に示す。
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】応力−歪み曲線を示す説明図。
【図2】実施例及び比較例で製造した紙壁紙用上層シートについてエンボス処理に用いたエンボス型を示す平面図。
【図3】図2のA−A線端面図。
【図4】実施例及び比較例で製造した紙壁紙用上層シートについてエンボス処理を施す方法を示す説明図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
縦方向の塑性変形率が、破断伸びの50%時点で、2%以上20%以下である紙素材からなることを特徴とする紙壁紙用上層シート。
【請求項2】
前記縦方向の塑性変形率が、破断伸びの50%時点で、2%以上20%以下である紙素材が、抄紙機上で機械的に縦方向に収縮処理を施した紙であることを特徴とする請求項1記載の紙壁紙用上層シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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