説明

紙幣保留分離機構とこれを用いた還流式紙幣処理装置

【課題】出金専用の保留部を入金保留部とは別個に設けることにより発生する部品点数の増大と、それによる装置構成の大型化を解消した還流式紙幣処理装置を提供する。
【解決手段】入出金部5から挿入された紙幣束を受け入れて保留すると共に一枚ずつに分離した紙幣を下流側へ送り出す保留分離部9と、保留分離部から一枚ずつ送り出された紙幣を識別する識別部11と、識別部から下流側へ搬送されてきた紙幣を金種別に仕分ける分岐部13と、分岐部により仕分けられた紙幣を金種別に収容したり収容された紙幣中から一枚ずつ前記保留分離部に送出する還流式金庫15と、制御手段20と、を備え、制御手段は、還流式金庫から一枚ずつ送出されてきた紙幣を識別部を含む搬送経路を経由して保留分離部に順次搬送して堆積してから、堆積した紙幣束を一括して前記入出金部に搬送するように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙幣を収納したり釣銭として払出す入出金機能を備えた還流式紙幣処理装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
投入された紙幣を受け入れる入金機能や、釣り銭や払出し金として紙幣を払い出す出金機能を備えた還流式紙幣処理装置は、各種自動販売機、入出金装置、両替機等の紙幣取扱装置に装備されており、還流式紙幣処理装置としては、始業時に準備した紙幣、或いは稼働中に投入された紙幣を金種別に収納しておき、必要に応じて釣銭として払い出すように構成されたものが知られている(特許文献1)。
【0003】
図8は従来の還流式紙幣処理装置の概略構成説明図であり、この還流式紙幣処理装置100は、複数枚重ねて一括投入された紙幣を受け入れる挿入口101と、挿入口101から挿入された紙幣束を受入れて一旦保留し、一枚ずつに分離して装置内部の搬送経路105へ送り出す入金保留部103と、搬送経路105中に配置されて入金保留部から送出されてきた紙幣の金種、真贋等の識別判定、及び集計を行う識別部107と、識別部107の下流側搬送経路の途中に配置された分岐部105aから延びる第1の分岐経路105bと接続されて釣銭として使用しない高額紙幣(一万円札、五千円札、二千円札)を収容する収納金庫110と、第2の分岐経路105cと接続されて釣銭として使用する紙幣(千円紙幣)を収容し必要に応じて釣銭として払い出す還流式金庫112と、入金保留部103とは別に設けられて還流式金庫112から一枚ずつ繰出し搬送されてきた紙幣を一旦保留して払出し口117から払い出す出金保留部115と、搬送経路105に沿って紙幣を正逆搬送するローラ、ベルト、分岐爪、モータ、ソレノイド等の搬送機構と、各制御対象を制御する制御手段120と、を備えている。
出金保留部115では、還流式金庫112から一枚ずつ繰出し搬送されてきた複数枚の紙幣を一旦保留して堆積し、払出し口117から紙幣束として一括して払い出す。
【0004】
このように従来の還流式紙幣処理装置にあっては、挿入口101と払出し口117とが別個に設けられていたため、入金保留部103とは別に出金保留部115を設ける必要があり、更に挿入された紙幣束を金庫に収納するための搬送ルートとは別に、金庫から繰り出された紙幣を機外に払い出す搬送ルートを設ける必要があった。
このため、部品点数が増大して装置構成が大型化するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−367003公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のように従来の還流式紙幣処理装置にあっては、紙幣束を一括して挿入するための挿入口と、釣銭等として紙幣を機外に払い出す払出し口とが別個に設けられていたため、入金保留部とは別に出金保留部を設ける必要があり、更に挿入された紙幣束を金庫に収納するための搬送ルートとは別に、金庫から繰り出された紙幣を機外に払い出す搬送ルートを設ける必要があった。このため、部品点数が増大し、装置が大型化するという問題があった。
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、出金専用の保留部を入金保留部とは別個に設けることにより発生する部品点数の増大と、それによる装置構成の大型化を解消するために、出金用の保留部と入金保留部とを一体的に構成した紙幣保留分離機構とこれを用いた還流式紙幣処理装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1の発明に係る紙幣保留分離機構は、上流側から紙幣束を受け入れて保留すると共に該紙幣束から一枚ずつに分離した紙幣を下流側へ送り出す一方、下流側から一枚ずつ送出されてきた紙幣を順次受け入れて堆積してから、堆積した紙幣束を一括して上流側に排出する紙幣保留分離機構であって、紙幣を上面に載置する下テーブルと、該下テーブルの上方に配置され上回動軸を中心として上下方向へ揺動可能に支持された上ガイド部材と、該上ガイド部材の上回動軸よりも下流側を上向きに付勢するバネと、回転することにより前記バネに抗して上ガイド部材の下流端部を押し下げるカム部を有したカム部材と、前記下テーブル上の紙幣上面に接して出金方向へ回転することにより最上部の紙幣を一枚ずつ搬送経路に送出する繰出しローラと、前記繰出しローラの上流側に配置されて前記下テーブル上の紙幣上面に接する搬送ローラと、を備え、前記下テーブルは、上流側端縁から下流に向けて延びる切欠き部を有すると共に、上流側に偏位した位置に設けた位置固定の下回動軸によりフリーな状態で回転自在に支持されて上下方向へ揺動するバックアッププレートと、前記切欠き部内に嵌合する揺動テーブルと、を備え、前記バックアッププレートの下流側端部を前記繰出しローラに向けて上向きに付勢する弾性部材を備え、前記揺動テーブルは、前記下回動軸から下流側に一体的に延びる連接部材によって上下方向へ揺動自在に軸支されており、上昇位置にある前記揺動テーブルを下降させる際に該揺動テーブルに設けた係合部によって前記バックアッププレートを押し下げるように構成したことを特徴とする。
【0008】
請求項2の発明は、前記紙幣保留分離機構内に上流側から紙幣束を入金する入金保留ポジションでは、前記カム部材が前記上ガイド部材を前記上回動軸を中心として回動させて上流側端部を上向きに傾斜させる一方で、前記下テーブル全体を略水平な姿勢にして、前記上ガイド部材と前記下テーブルとの間に形成される紙幣収納空間の上流側開口と下流側開口の開口量を大きくし、前記保留分離部内に保留された紙幣束の最上部から一枚ずつ紙幣を下流側へ送出する入金搬送ポジションでは、前記弾性部材からの圧力により前記バックアッププレートのプレート下流部と繰出しローラとの間で紙幣束前部を挟圧しつつ、繰出しローラを繰出し方向へ回転駆動し、下流側から一枚ずつ搬送されてきた紙幣を受け入れる出金保留ポジションでは、前記カム部材を回転させることにより前記上ガイド部材を前記上回動軸を中心として回動させて該上ガイド部材の下流側端部を上方に変位させると共に、前記揺動テーブルを下降させることにより前記係合部が前記バックアッププレートを押し下げて前記下回動軸を中心として回動させてそのプレート下流部を下方へ変位させ、前記出金保留ポジションにおいて順次堆積された紙幣束を上流側に一括して搬送する出金搬送ポジションでは、前記上ガイド部材の下面が入出金部に向けて紙幣束をガイドできるように姿勢変更すると共に、前記揺動テーブルによって紙幣束の幅方向中心部を押し上げて前記上ガイド部材の下面との間で挟持しつつ、前記バックアッププレートのプレート下流部が前記繰出しローラとの間で紙幣束を挟圧保持し、この状態で前記繰出しローラ、前記搬送ローラを排出方向へ回転駆動することを特徴とする。
【0009】
請求項3の発明は、入金部と出金部を兼ねた入出金部と、紙幣を識別する識別部と、前記入出金部と前記識別部との間に配置された保留分離部と、前記識別部から下流側へ搬送されてきた紙幣を金種別に仕分ける分岐部と、該分岐部により仕分けられた紙幣を金種別に収容し収容された紙幣中から一枚ずつ前記保留分離部に送出する還流式金庫と、制御手段と、を備えた還流式紙幣処理装置であって、前記保留分離部は、前記入出金部側を上流として配置した請求項1又は2に記載の紙幣保留分離機構で構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、一つの保留分離部によって入金保留機能と出金保留機能を発揮できるようにしたので、出金専用の保留部を入金保留部とは別個に設けることにより発生する部品点数の増大と、それによる装置構成の大型化を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の還流式紙幣処理装置において保留分離部が入金された紙幣を保留する際の状態を示す概略説明図である。
【図2】保留分離部に保留された紙幣束から一枚ずつ紙幣を識別部に向けて搬送する際の状態を示す概略説明図である。
【図3】還流式金庫から出金されてきた紙幣を保留分離部に保留する状態を示す概略説明図である。
【図4】図3において保留分離部に保留された紙幣を入出金部から機外へ払い出す状態を示す概略説明図である。
【図5】(a)乃至(d)は、入金保留機能、入金搬送機能、出金保留機能、及び出金搬送機能を実現する際の保留分離部の各構成部材のポジションを示す説明図である。
【図6】(a)及び(b)は入金保留(入金待機)ポジションにある保留分離部の側面図、及び上方からの斜視図である。
【図7】(a)は下テーブルの構成を示す上方からの斜視図であり、(b)はバックアッププレートと揺動テーブルとの関係を示す斜視図である。
【図8】従来の還流式紙幣処理装置の概略構成説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を図面に示した実施の形態により詳細に説明する。
図1は本発明の還流式紙幣処理装置において保留分離部(紙幣保留分離機構)が入金された紙幣を保留する際の状態を示す概略説明図であり、図2は保留分離部に保留された紙幣束から一枚ずつ紙幣を識別部に向けて搬送する際の状態を示す概略説明図であり、図3は還流式金庫から出金されてきた紙幣を保留分離部に保留する状態を示す概略説明図であり、図4は図3において保留分離部に保留された紙幣を入出金部から機外へ払い出す状態を示す概略説明図である。
【0013】
還流式紙幣処理装置1は、外装体3と、入金部と出金部を兼ねた入出金部(入出金口)5と、入出金部5から一括して投入された紙幣束Pをその長手方向に沿って装置本体内に搬送する搬送経路7と、搬送経路7上に配置されて入出金部5から搬送されてきた紙幣束Pを受け入れて保留すると共に紙幣束から一枚ずつに分離した紙幣を下流側へ送り出す保留分離部9と、保留分離部9から一枚ずつ送り出された紙幣P1を識別する識別部11と、識別部11から下流側へ搬送されてきた紙幣を金種別に仕分けて2つの分岐経路7a、7bに分岐する分岐爪13aを有した分岐部13と、分岐部13により第1の分岐経路7a側に分岐搬送される釣銭として使用する金種の紙幣(千円紙幣)を収容したり収容された紙幣中から一枚ずつ第1の分岐経路7aに送出する還流機構を備えた還流式金庫15と、分岐部13により第2の分岐経路7b側に分岐搬送された釣銭として使用しない金種の紙幣(一万円紙幣、五千円紙幣、二千円紙幣)を収納する収納金庫17と、搬送経路7(7a、7b)に沿って紙幣を正方向、或いは逆方向に搬送するためのローラ、ベルト、ソレノイド、ゲート、モータ等からなる搬送駆動機構と、各種センサ、識別部11からの情報に基づいてこれらの制御対象を制御する制御手段20と、を備える。
【0014】
入出金部5では、入金時には一枚、或いは束の状態で紙幣を受け入れると共に、出金時には一枚、或いは束の状態で紙幣を機外に排出する。
制御手段20からの制御によって各ローラ、ベルト、ソレノイド、ゲート、モータ等を切り替え駆動することにより、所定のタイミングにて上記の各機能を実現する。
保留分離部9から送られてきた紙幣を識別部11にて金種等を判定した後、制御手段20は搬送駆動機構を駆動して当該両紙幣を下流側へ搬送し、金種別に仕分けて対応する金庫へ収納する。
【0015】
本発明の特徴的な構成の一つは、入金された紙幣束を一時保留する入金保留機能と、入金保留した紙幣束から一枚ずつ分離して金庫に向けて送出する入金搬送機能と、還流式金庫から一枚ずつ出金されてきた紙幣を受け入れて堆積保留する出金保留機能と、出金のために堆積保留した紙幣束を一括して機外に排出する出金搬送機能の4つの機能を、一つの保留分離部9により実現した点にある。
また、本発明の他の特徴的な構成は、制御手段20が、還流式金庫15から釣銭として一枚ずつ送出されてきた紙幣P2を識別部11を含む搬送経路7を経由して保留分離部9に順次逆搬送して堆積してから紙幣束Pを一括して入出金部5に搬送して機外に排出するように制御する点にある。
このように本発明では、一つの保留分離部9によって入金保留機能と出金保留機能を発揮できるようにしたので、出金専用の保留部を入金保留部とは別個に設けることにより発生する部品点数の増大と、それによる装置構成の大型化を防止することができる。
【0016】
図5(a)乃至(d)は、入金保留機能、入金搬送機能、出金保留機能、及び出金搬送機能を実現する際の保留分離部の各構成部材のポジションを示す説明図であり、図6(a)及び(b)は入金保留(入金待機)ポジションにある保留分離部の側面図、及び上方からの斜視図である。
保留分離部9は、紙幣(束)を上面に載置する下テーブル(バックアッププレート31、揺動テーブル35)30と、下テーブル30(バックアッププレート31)の下流端部(図面右端部)を上向きに付勢する弾性部材49と、下テーブル30の上方に配置され、回動軸(上回動軸)51を中心として上下方向へシーソー式に揺動可能に支持された上ガイド部材50と、図示しない固定部に一端を支持されて上ガイド部材50の回動軸51よりも下流側(図面右側)を上向きに付勢するバネ52と、図示しないモータからの駆動力によって回転することによりバネ52に抗して上ガイド部材50の下流端部を押し下げる突起状のカム部53aを有したカム部材(上ガイド部材駆動機構)53と、上ガイド部材50の上方に配置され、上ガイド部材に形成された開口50aから紙幣収納空間S内に下部を突出させることができ、且つ下テーブル30上の紙幣上面に接して下流方向へ回転することにより紙幣を下流側へ送出する繰出しローラ60と、繰出しローラの下流側に配置され、紙幣を一枚ずつ分離して搬送経路へと送出する分離ローラ対62(フリクションローラ63、ストップローラ64)と、繰出しローラ60の上流側に配置されて上ガイド部材50に形成された開口50b、50c(図6(b))から紙幣収納空間S内に下部を突出させる搬送ローラ65、66と、繰出しローラ60、搬送ローラ65、66を回転駆動する個別の、又は共通の駆動源(モータ)と、下テーブル30を昇降動作させるモータ、ローラ、ベルト、ソレノイド等の下テーブル駆動機構と、を備えている。
【0017】
図7(a)は下テーブルの構成を示す上方からの斜視図であり、(b)はバックアッププレートと揺動テーブルとの関係を示す斜視図である。
下テーブル30は、上流側端縁から下流に向けて延びる細長い矩形の切欠き部31aを有した略コ字状のバックアッププレート31と、切欠き部31a内に嵌合する(嵌り込む)長方形状の揺動テーブル35と、を備えている。バックアッププレート31はその長手方向中間部よりも上流側部位に固定した回動軸(下回動軸)32を中心として上下方向へ揺動可能に支持されている。バックアッププレート31は、下回動軸32に対してフリーな状態で揺動可能となっており、弾性部材49によって反時計回り方向へ常時付勢されている一方で、揺動テーブルに設けた係合部38aによって押し下げられる時にだけ弾性部材に抗して時計回り方向へ回動する。
【0018】
また、バックアッププレート31は下流側適所に設けた屈曲部31bから下流側部分が下向きに傾斜しており、屈曲部31bよりも上流側部分をプレート上流部31A、下流側部分をプレート下流部31Bと称する。プレート下流部31Bは、弾性部材49により上向きに押し上げられたときに繰出しローラ60の下部外周面と圧接するように構成されている。このため、プレート下流部31B上に紙幣束が存在する場合には、紙幣束上面を繰出しローラ60の下部外周面に押し付けて給紙圧力を生成することができる。
バックアッププレート31は、図5(a)に示した入金保留ポジションにおける略水平、且つ上ガイド部材から離間した最下降姿勢から、(b)の入金搬送ポジションのように下回動軸32を中心としてプレート下流部31Bを上昇させた姿勢(プレート下流部を繰出しローラに圧接させた姿勢)、(c)の出金保留ポジションのように上ガイド部材から離間し、且つ略水平な姿勢(プレート下流部を下降させた姿勢)、更に(d)の出金搬送ポジションのように下回動軸を中心としてプレート下流部31Bを上昇させた姿勢(プレート下流部を繰出しローラに圧接させた姿勢)に変位可能である。
【0019】
下回動軸32によってフリーに回動自在に支持されたバックアッププレート31は、後述するように揺動テーブル35に設けた係合部38aからバックアッププレートの被係合部31Cに対する下向きの押圧力が加わらない場合には、プレート下流部31Bが弾性部材49からの上向きの力によって反時計回り方向へ付勢されているため、プレート上流部31A(左端部)を下降傾斜させた姿勢を維持する。
揺動テーブル35は、入金搬送時(図5(b))、及び出金搬送時(図5(d))に下テーブル上の紙幣束の幅方向中央部を押し上げる手段である。また、入金保留時(図5(a))、及び出金保留時(図5(c))には、バックアッププレートのプレート上流部31A上面と同一平面状(面一)になることにより、その上に堆積する各紙幣を平坦化する。
【0020】
揺動テーブル35は、軸部材38によって揺動自在に支持されている。ここで、軸部材38は図示しないリンク機構により上下方向へ移動可能に支持されている。即ち、図7(b)に示すように揺動テーブル35の幅方向両端部から上向きに突設した2つのブラケット35aの支持穴に対して軸部材38は回動自在に連結しており、軸部材38が図示しないリンク機構を駆動することによって揺動テーブルはバックアッププレートとは独自に上下方向へ移動する。
更に、揺動テーブル35の中間位置(ブラケット35a)を回動自在に支持した軸部材38の軸方向一端部に設けた係合部38aが、バックアッププレート31の対応する位置にある被係合部31Cと係合可能な位置関係にある。このため、例えば図5(b)の状態にある時に軸部材38が図示しないリンク機構を駆動することによって下降することにより係合部38aが被係合部31Cの内底面を押し下げるため、バックアッププレート31が押し下げられ、下回動軸32を回動中心として時計回り方向へ下降回動して(c)の状態に移行する。
【0021】
図5(b)(d)に示した各ポジションでは、軸部材38が図示しないリンク機構を駆動することによって上方に移動している。バックアッププレート31は弾性部材49によって反時計回り方向へ常時付勢されているため、左端部が下降位置にある。これにより、バックアッププレート左端部を下降させたままで、揺動テーブル35だけを単独で上昇させて、図5(b)(d)のような状態にすることができる。
被係合部31Cは上方が開放した凹所であり、この凹所内に嵌合した係合部38aが弾性部材49に抗して凹所底面を押し下げることによりバックアッププレート31は下回動軸32を中心として時計回り方向へ回動して右端部(下流側端部)を下降させる一方で、係合部38aを上昇させて被係合部31Cから離間させることにより弾性部材49の復帰力によってバックアッププレートは反時計回り方向へ回動する。
揺動テーブル35は軸部材38が図示しないリンク機構を駆動することによって上下方向に移動するので、バックアッププレート31とは独立して動作する。バックアッププレートが図5(b)(d)のように反時計回り方向に回動した姿勢にある時に、揺動テーブルだけを軸部材38により上昇させることができる。
【0022】
左端部が下降した状態にあるバックアッププレートを時計回り方向へ回動させて左端部を図5(a)(c)のように上昇させるには、軸部材38が図示しないリンク機構を駆動することによって下降すれば良い。
従って、バックアッププレートを図5(b)(d)の姿勢に付勢する弾性部材49と、バックアッププレートを弾性部材49に抗して図5(a)(c)の姿勢に移行させる揺動テーブル35を支持する軸部材38との協働により、バックアッププレートが図5(a)の入金保留ポジションや図5(c)の出金保留ポジションのように揺動テーブルに対して傾斜しない姿勢(面一姿勢)と、図5(b)の入金搬送ポジションや図5(d)の出金搬送ポジションのように揺動テーブルに対して傾斜した姿勢をとることができる。
【0023】
揺動テーブル35は、入金搬送ポジション(図5(b))において、受け入れて堆積した紙幣束の図中左側を押し上げることにより紙幣束を上ガイド部材50の下面に沿って略水平を保つことにより、繰出しローラ60による紙幣の繰出しをスムーズに行えるようにするための手段である。更に、紙幣束出金搬送ポジション(図5(d))においては、紙幣束の幅方向中央部下面を押し上げ、紙幣束幅方向中央上面を搬送ローラ65、66の下部外周面に押し付けることにより、搬送ローラ65、66による給紙圧力を得るための手段である。
ここで、揺動テーブル35の上ガイド部材50方向への押し付け力は、紙幣束出金搬送ポジション(図5(d))のときに給紙圧力を得るために十分な強さで、入金搬送ポジション(図5(b))のときには繰出しローラ60による紙幣の繰出しを妨げない程度の強さ又は押圧力を生じない設定にしている。
【0024】
次に、図5に基づいて各ポジションにおける下テーブルと上ガイド部材の動作について説明する。
図5(a)に示した入金保留ポジションでは、図面左方の入出金部5から挿入されてきた紙幣束Pを紙幣収納空間S内に受け入れやすくするために、カム部材53が上ガイド部材50を上回動軸51を中心として回動させて上流側端部(左端部)を上向きに傾斜させる一方で、図示しないリンク機構を駆動させて軸部材38が下降することにより、下テーブル30全体を可能な限り水平な姿勢にして紙幣収納空間Sの上流側開口と下流側開口の開口量を大きくしている。この時、バックアッププレート31のプレート上流部31Aは揺動テーブル35に対して非傾斜状態となり、プレート下流部31Bは上ガイド部材50から十分に離間した位置を保っている。プレート上流部31Aが揺動テーブル35に対して非傾斜状態となることにより、紙幣束載置面としての下テーブル30の上面に段差がなくなり、紙幣束を全体的に平坦化して載置することができる。
またこの時、弾性部材49はバックアッププレート31のプレート下流部31Bによって圧縮されている。
この状態で入出金部5から挿入された紙幣束Pは大きく開放された紙幣収納空間S内に放出され、下テーブル30(31、35)上に保留される。
【0025】
次に、図5(b)に示した入金搬送ポジションでは、カム部材53が上ガイド部材50を上回動軸51を中心として回動させて略水平とする一方で、弾性部材49からの圧力を利用してプレート下流部31Bと繰出しローラ60との間で紙幣束前部を挟圧し、繰出しローラ60を繰出し方向へ回転駆動することにより、下テーブル30上の紙幣束Pの最上部から一枚ずつ搬送経路に送出する作業を実施する。
このポジションでは、図示しないリンク機構が軸部材38を上昇させているため、弾性部材49の付勢力によってバックアッププレートは下回動軸32を中心としてプレート下流部31Bを上昇させており、プレート下流部31Bにより紙幣束前部を繰出しローラ60に押し付けて繰出しのための圧力を得ることができる。
また、このポジションでは、上ガイド部材50の右端が分離ローラ対62のニップ部に位置するように設定している。
【0026】
次に、図5(c)に示した出金保留ポジションでは、還流式金庫15から一枚ずつ繰り出されてきた釣銭用の紙幣を受け入れるために紙幣収納空間Sの入口(右側開口部)を可能な限り拡開する。
即ち、カム部材53を回転させることにより上ガイド部材50を上回動軸51を中心として反時計回りに回動させて上ガイド部材50の下流側端部を上方に変位させる。また、図示しないリンク機構を駆動することで軸部材38を下降させると、係合部38aが被係合部31Cを押し下げてバックアッププレートは弾性部材49に抗して下回動軸32を中心として時計回り方向へ回動し、プレート下流部31Bを下方へ変位させる。このため、紙幣収納空間Sの入口(右側開口部)を最大限に拡開して紙幣を受入れ易くすることができる。このポジションでは、プレート上流部31Aが揺動テーブル35に対して非傾斜状態(面一状態)となることにより、紙幣束載置面としての下テーブル30の上面に段差がなくなり、安定して順次紙幣を堆積することができる。
【0027】
次に、図5(d)に示した出金搬送ポジションでは、(c)の出金保留ポジションにおいて順次堆積された紙幣束を入出金部5に一括して搬送するために、カム部材53が上ガイド部材50を上回動軸51を中心として回動させて上ガイド部材50の下面が入出金部5に向けて紙幣束をガイドできるように略水平に姿勢変更すると共に、揺動テーブル35によって紙幣束の幅方向中心部を押し上げて搬送ローラ65、66との間で挟持しつつ、バックアッププレートのプレート下流部31Bが繰出しローラ60との間で紙幣束を挟圧保持する。この状態で繰出しローラ60、搬送ローラ65、66を排出方向へ回転駆動することにより、適正な給紙圧力によって紙幣束を一括して排出することができる。
各ポジションにおける上ガイド部材50、下テーブル30(バックアッププレート31、揺動テーブル35)の位置は、図6(a)中に示したポジションセンサ70によって検知される。
このように本発明では、一つの保留分離部9によって入金保留機能と出金保留機能を発揮できるようにしたので、出金専用の保留部を入金保留部とは別個に設けることにより発生する部品点数の増大と、それによる装置構成の大型化を防止することができる。
【符号の説明】
【0028】
1…還流式紙幣処理装置、3…外装体、5…入出金部、7…搬送経路、7a…分岐経路、7b…分岐経路、9…保留分離部、11…識別部、13…分岐部、13a…分岐爪、15…還流式金庫、16…識別センサ、17…収納金庫、20…制御手段、30…下テーブル、31…バックアッププレート、31A…プレート上流部、31B…プレート下流部、31C…被係合部、31b…屈曲部、32…下回動軸、35…揺動テーブル、36…中間回動軸、37…バネ、38…軸部材、38a…係合部、39…連接部材、40…ローラ支持部材、41…従動ローラ、49…弾性部材、50…上ガイド部材、50a…開口、50b…開口、51…上回動軸、52…バネ、53…カム部材、53a…カム部、60…繰出しローラ、62…分離ローラ対、63…フリクションローラ、64…ストップローラ、65、66…搬送ローラ、70…ポジションセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上流側から紙幣束を受け入れて保留すると共に該紙幣束から一枚ずつに分離した紙幣を下流側へ送り出す一方、下流側から一枚ずつ送出されてきた紙幣を順次受け入れて堆積してから、堆積した紙幣束を一括して上流側に排出する紙幣保留分離機構であって、
紙幣を上面に載置する下テーブルと、該下テーブルの上方に配置され上回動軸を中心として上下方向へ揺動可能に支持された上ガイド部材と、該上ガイド部材の上回動軸よりも下流側を上向きに付勢するバネと、回転することにより前記バネに抗して上ガイド部材の下流端部を押し下げるカム部を有したカム部材と、前記下テーブル上の紙幣上面に接して出金方向へ回転することにより最上部の紙幣を一枚ずつ搬送経路に送出する繰出しローラと、前記繰出しローラの上流側に配置されて前記下テーブル上の紙幣上面に接する搬送ローラと、を備え、
前記下テーブルは、上流側端縁から下流に向けて延びる切欠き部を有すると共に、上流側に偏位した位置に設けた位置固定の下回動軸によりフリーな状態で回転自在に支持されて上下方向へ揺動するバックアッププレートと、前記切欠き部内に嵌合する揺動テーブルと、を備え、
前記バックアッププレートの下流側端部を前記繰出しローラに向けて上向きに付勢する弾性部材を備え、
前記揺動テーブルは、前記下回動軸から下流側に一体的に延びる連接部材によって上下方向へ揺動自在に軸支されており、
上昇位置にある前記揺動テーブルを下降させる際に該揺動テーブルに設けた係合部によって前記バックアッププレートを押し下げるように構成したことを特徴とする紙幣保留分離機構。
【請求項2】
前記紙幣保留分離機構内に上流側から紙幣束を入金する入金保留ポジションでは、前記カム部材が前記上ガイド部材を前記上回動軸を中心として回動させて上流側端部を上向きに傾斜させる一方で、前記下テーブル全体を略水平な姿勢にして、前記上ガイド部材と前記下テーブルとの間に形成される紙幣収納空間の上流側開口と下流側開口の開口量を大きくし、
前記保留分離部内に保留された紙幣束の最上部から一枚ずつ紙幣を下流側へ送出する入金搬送ポジションでは、前記弾性部材からの圧力により前記バックアッププレートのプレート下流部と繰出しローラとの間で紙幣束前部を挟圧しつつ、繰出しローラを繰出し方向へ回転駆動し、
下流側から一枚ずつ搬送されてきた紙幣を受け入れる出金保留ポジションでは、前記カム部材を回転させることにより前記上ガイド部材を前記上回動軸を中心として回動させて該上ガイド部材の下流側端部を上方に変位させると共に、前記揺動テーブルを下降させることにより前記係合部が前記バックアッププレートを押し下げて前記下回動軸を中心として回動させてそのプレート下流部を下方へ変位させ、
前記出金保留ポジションにおいて順次堆積された紙幣束を上流側に一括して搬送する出金搬送ポジションでは、前記上ガイド部材の下面が入出金部に向けて紙幣束をガイドできるように姿勢変更すると共に、前記揺動テーブルによって紙幣束の幅方向中心部を押し上げて前記上ガイド部材の下面との間で挟持しつつ、前記バックアッププレートのプレート下流部が前記繰出しローラとの間で紙幣束を挟圧保持し、この状態で前記繰出しローラ、前記搬送ローラを排出方向へ回転駆動することを特徴とする請求項1に記載の紙幣保留分離機構。
【請求項3】
入金部と出金部を兼ねた入出金部と、紙幣を識別する識別部と、前記入出金部と前記識別部との間に配置された保留分離部と、前記識別部から下流側へ搬送されてきた紙幣を金種別に仕分ける分岐部と、該分岐部により仕分けられた紙幣を金種別に収容し収容された紙幣中から一枚ずつ前記保留分離部に送出する還流式金庫と、制御手段と、を備えた還流式紙幣処理装置であって、
前記保留分離部は、前記入出金部側を上流として配置した請求項1又は2に記載の紙幣保留分離機構で構成されていることを特徴とする還流式紙幣処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−97665(P2013−97665A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241225(P2011−241225)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(305027456)ネッツエスアイ東洋株式会社 (200)
【出願人】(591231421)コモタ株式会社 (7)
【Fターム(参考)】