説明

紙葉類の損券判定装置、損券判定方法及び損券判定プログラム

【課題】落書きにより汚染された紙幣等の紙葉類を効率良く損券判定することができる紙葉類の損券判定装置、損券判定方法及び損券判定プログラムの提供を課題とする。
【解決手段】画像入力部11から落書きによる汚染のない複数枚の紙幣の画像データを入力してこれを前処理部12で前処理し、これにエッジ検出フィルタ処理部13がYフィルタを適用しつつノイズ除去処理部14でノイズを除去してエッジ画像を取得し、エリア指定画像生成部15が複数のエッジ画像の論理和をとってこれをエリア指定画像としてエリア指定画像記憶部17に記憶する。そして、画像入力部11から損券判定対象となる紙幣の画像データが取得された場合に、エッジ検出フィルタ処理部13が当該画像及びエリア指定画像に基づいてエッジ画像を生成し、このエッジ画像に基づいて損券判定処理部18が紙幣の損券判定を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙葉類への落書きによる汚染に基づいて当該紙葉類の損券判定を行う紙葉類の損券判定装置、損券判定方法及び損券判定プログラムに関し、特に、落書きにより汚染された紙幣等の紙葉類を効率良く損券判定することができる紙葉類の損券判定装置、損券判定方法及び損券判定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有価証券である紙幣等の紙葉類への落書き等を検出して、当該紙葉類の汚れ具合等を識別する技術が知られている。例えば、特許文献1には、紙葉類の画素単位の濃度データを読み取って、ここから印刷領域の濃度データと印刷領域外の濃度データとを抽出し、印刷領域の濃度データの濃度分布状態あるいは濃度の変化量に基づいて印刷領域の印刷状態の劣化具合を判定するとともに、印刷領域外の濃度データの所定濃度値以上の画素数に基づいて印刷領域外の落書きによる汚れ具合並びに印刷領域外の全体の汚れ具合を判定し、これらの判定結果から紙葉類の印刷状態の劣化具合や汚れ具合などの状態を識別する紙葉類の状態識別装置が開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、透過型イメージセンサの出力より得られる画像データから丸穴状の透しの数及び位置を識別して金種及び向きを認識し、さらに反射型イメージセンサの出力より得られる画像データから透し部の画像データを抽出し、その輝度分布を汚れのない場合の輝度分布と比較することにより、汚損紙幣を検出するよう構成した汚損紙幣検出装置が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2000−182115号公報
【特許文献2】特開平2−19992号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通常落書きが印刷領域外にされることが多い点を併せ考えると、上記特許文献1のように、画像データのうちの印刷領域外に着目してこの印刷領域外の落書きを検出するよう構成すれば、画像データから落書きの存在を効率良く識別できるものと予想される。
【0006】
しかしながら、かかる特許文献1のものは、画像を所定の濃度レベルで2値化して印刷領域のラベル付けを行って、画像データの各画素が印刷領域に属するのか印刷領域外に属するのかを判定することとしているので、印刷領域か印刷領域外かを正確に切り分けることができないという問題がある。もともと、画像処理を行ううえで適正なしきい値を決定することは非常に難しい問題であり、たとえ判別分析法等により得た最適なしきい値を用いたとしても印刷領域を正確に検出することは難しいのである。
【0007】
また、上記特許文献2のものは、透し部の輝度分布に基づいて汚損紙幣を検出しているが、落書き等による汚染は透し部以外にもなされる可能性が高いため、この従来技術を用いたとしても一部の汚損紙幣を検出できるにとどまり、落書きを含めた汚染紙幣を有効に検出することはできない。
【0008】
この発明は、上記課題(問題点)を解決するためになされたものであり、落書きにより汚染された紙幣等の紙葉類を効率良く損券判定することができる紙葉類の損券判定装置、損券判定方法及び損券判定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するため、本発明は、紙葉類への落書きによる汚染状態に基づいて当該紙葉類の損券判定を行う紙葉類の損券判定装置であって、紙葉類の画像を入力する画像取得手段と、前記画像取得手段により取得された落書きによる汚染のない紙葉類の画像に基づいて汚染対象領域を特定する汚染対象領域特定手段と、前記画像取得手段により損券判定対象となる紙葉類の画像が取得された場合に、当該画像及び前記汚染対象領域特定手段により特定された汚染対象領域に基づいて前記紙葉類の損券判定を行う損券判定手段とを備えたことを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、上記発明において、前記汚染対象領域特定手段は、前記画像取得手段により取得された紙葉類の画像の各画素を注目画素としたエッジ検出処理を行ってエッジ画像を生成するエッジ画像生成手段と、前記エッジ画像生成手段により生成されたエッジ画像からノイズを除去するノイズ除去手段と、前記ノイズ除去手段によりノイズが除去された同一種類の複数のエッジ画像に基づいて汚染対象領域特定画像を生成する汚染対象領域特定画像生成手段とを備えたことを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、上記発明において、前記エッジ画像生成手段は、重み係数の合計値が負となるエッジ検出フィルタを前記画像の各画素に適用してエッジ画像を生成することを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、上記発明において、前記汚染対象領域特定画像生成手段は、前記ノイズ除去手段によりノイズが除去された同一種類の複数のエッジ画像を論理和演算して前記汚染対象領域特定画像を生成することを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、上記発明において、前記損券判定手段は、前記画像取得手段により損券判定対象となる紙葉類の画像を形成する各画素のうち前記汚染対象領域に所在する画素を注目画素としたエッジ検出をそれぞれ行ってエッジ画像を生成するエッジ画像生成手段と、前記エッジ画像生成手段により生成されたエッジ画像からノイズを除去するノイズ除去手段と、前記ノイズ除去手段によりノイズが除去されたエッジ画像に基づいて損券判定処理を行う損券判定処理手段とを備えたことを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、上記発明において、前記エッジ画像生成手段は、重み係数の合計値が負となるエッジ検出フィルタを前記損券判定対象となる紙葉類の画像を形成する各画素のうち前記汚染対象領域に所在する各画素に適用してエッジ画像を生成することを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、上記発明において、前記画像取得手段により取得された紙葉類の画像から紙葉類対象領域を切り出す切出手段と、前記切出手段により紙葉類の画像から切り出された紙葉類対象領域の画像を回転補正する回転補正手段とをさらに備えたことを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、紙葉類への落書きによる汚染状態に基づいて当該紙葉類の損券判定を行う紙葉類の損券判定方法であって、落書きによる汚染のない紙葉類の画像を取得する第1の画像取得工程と、前記第1の画像取得工程により取得された画像に基づいて汚染対象領域を特定する汚染対象領域特定工程と、損券判定対象となる紙葉類の画像を取得する第2の画像取得工程と、前記第2の画像取得手段により取得した損券判定対象となる紙葉類の画像及び前記汚染対象領域特定工程により特定された汚染対象領域に基づいて前記紙葉類の損券判定を行う損券判定工程とを含んだことを特徴とする。
【0017】
また、本発明は、紙葉類への落書きによる汚染状態に基づいて当該紙葉類の損券判定を行う紙葉類の損券判定プログラムであって、落書きによる汚染のない紙葉類の画像に基づいて汚染対象領域を特定する汚染対象領域特定手順と、損券判定対象となる紙葉類の画像及び前記汚染対象領域特定手順により特定された汚染対象領域に基づいて前記紙葉類の損券判定を行う損券判定手順とをコンピュータに実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、落書きによる汚染のない紙葉類の画像に基づいて汚染対象領域を特定し、特定した汚染対象領域及び損券判定対象となる紙葉類の画像に基づいて紙葉類の損券判定を行うよう構成したので、落書きによる汚染がない紙葉類を用いて落書きがなされる蓋然性の高い汚染対象領域についてのみ落書きによる汚染があるか否かを調べて損券判定を行うことができるため、迅速かつ効率良く落書きによる汚染に起因する損券判定を行うことができる。
【0019】
また、本発明によれば、取得された紙葉類の画像の各画素を注目画素としたエッジ検出処理を行ってエッジ画像を生成し、生成したエッジ画像からノイズを除去し、ノイズを除去した同一種類の複数のエッジ画像に基づいて汚染対象領域特定画像を生成するよう構成したので、急な濃度変化がある箇所には紙葉類上に絵柄が記載されていることが多いという事実に立脚し、かかる箇所には落書きがされずらいとみなして汚染対象領域を効率良く特定した汚染対象領域特定画像を生成することができる。このため、この汚染対象領域特定画像を参照するだけで、紙葉類の画像上のどの部分が落書きがされ得る箇所であるか否かを軽易に判別することができる。
【0020】
また、本発明によれば、重み係数の合計値が負となるエッジ検出フィルタを画像の各画素に適用してエッジ画像を生成するよう構成したので、ノイズの影響を受けやすい画像の白部分についてはエッジ検出感度を鈍感にし、ノイズをエッジとして拾うことなく落書きを形成するエッジ部分のみを検出できるようにするとともに、ノイズの影響を受けづらい画像の黒若しくはグレー部分についてはエッジ検出感度を敏感にし、落書きを形成するエッジ部分を積極的に検出することができる。
【0021】
また、本発明によれば、ノイズが除去された同一種類の複数のエッジ画像を論理和演算して汚染対象領域特定画像を生成するよう構成したので、一つのエッジ画像で欠ける可能性のあるエッジを複数画像の論理和によってより確実に取得することが可能となる。
【0022】
また、本発明によれば、損券判定対象となる紙葉類の画像を形成する各画素のうち汚染対象領域に所在する画素を注目画素としたエッジ検出をそれぞれ行ってエッジ画像を生成し、生成したエッジ画像からノイズを除去し、ノイズを除去したエッジ画像に基づいて損券判定処理を行うよう構成したので、紙葉類上の落書きがなされる蓋然性の高い領域から落書き又はこれに相当するエッジを効率良く見つけることができる。
【0023】
また、本発明によれば、重み係数の合計値が負となるエッジ検出フィルタを損券判定対象となる紙葉類の画像を形成する各画素のうち汚染対象領域に所在する各画素に適用してエッジ画像を生成するよう構成したので、紙葉類上の落書きがなされる蓋然性の高い領域からゼロクロス点でありかつ急な濃度変化があるエッジを一回のフィルタ処理(マスク処理)で効率良く見つけ、見つけたエッジを落書き又はこれに相当するものとみなすことができる。
【0024】
また、本発明によれば、取得された紙葉類の画像から紙葉類対象領域を切り出し、切り出された紙葉類対象領域の画像を回転補正するよう構成したので、切り出し及び回転補正の前処理を行うことにより、背景を含まない紙葉類部分のみを正確に撮像等により画像取得しなくともこの画像から紙葉類部分のみを切り出して斜行補正をしながら次段の処理に移行できるため、画像取得する際の撮像条件等を緩和することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に添付図面を参照して、本発明に係る紙葉類の損券判定装置、損券判定方法及び損券判定プログラムの好適な実施例を詳細に説明する。なお、本実施例では本発明を紙幣の損券判定に適用した場合を示すこととする。
【実施例】
【0026】
図1は、本実施例に係る損券判定装置の構成を示すブロック図である。同図に示す損券判定装置10は、紙幣への落書きによる汚染に基づいて当該紙幣の損券判定を行う損券判定装置である。具体的には、落書きによる汚染のない複数枚の紙幣の画像に基づいて落書きにより汚染される可能性の高いエリア(汚染対象領域)とその可能性が低いエリア(汚染対象外領域)とで形成されるエリア指定画像を作成しておき、損券判定対象となる紙幣の画像が取得された場合に、当該画像及びエリア指定画像に基づいて紙幣の損券判定を行う点にその特徴がある。特に、本実施例では、重み係数の合計値が負となるエッジ検出フィルタ(本実施例では、かかるエッジ検出フィルタを「Yフィルタ」と定義する)を用いて、ノイズの影響を受けやすい画像の白部分についてはエッジ検出感度を鈍感にし、ノイズをエッジとして拾うことなく落書きを形成するエッジ部分のみを検出できるようにするとともに、ノイズの影響を受けづらい画像の黒若しくはグレー部分についてはエッジ検出感度を敏感にし、落書きを形成するエッジ部分を積極的に検出するよう構成した点にも大きな特徴がある。
【0027】
図1に示すように、この損券判定装置10は、画像入力部11と、前処理部12と、エッジ検出フィルタ処理部13と、ノイズ除去処理部14と、エリア指定画像生成部15と、画像一時記憶部16と、エリア指定画像記憶部17と、損券判定処理部18とを有する。画像入力部11は、紙幣をスキャンして当該紙幣の画像を濃淡画像データとして入力するCCDカメラ等の入力デバイスであり、例えば図4−1に示すような紙幣の画像を含む画像データ20を入力する。
【0028】
ここで、請求項1の画像取得手段は画像入力部11に対応し、汚染対象領域特定手段はエッジ検出フィルタ処理部13、ノイズ除去処理部14及びエリア指定画像生成部15に対応し、損券判定手段は、エッジ検出フィルタ処理部13、ノイズ除去処理部14及び損券判定処理部18に対応する。
【0029】
前処理部12は、画像入力部11から入力された画像データに前処理を行って紙幣部分の部分画像データ(以下、単に「画像データ」と言う)を取得する処理部であり、切出処理部12a及び回転処理部12bを有する。切出処理部12aは、画像入力部11から入力された画像データから紙幣部分の画像データを切り出す処理部であり、回転処理部12bは、切出処理部12aによって切り出された画像データを回転処理(斜行補正)する処理部である。例えば、図4−1に示した画像データ20について切出処理及び回転処理を行うことにより図4−2に示した画像データ21が得られる。
【0030】
具体的には、この前処理部12が画像データ20を取得したならば、この画像データ20に含まれる紙幣部分を取り囲む4つの辺(2長辺及び2短辺)に対応する線分を抽出し、これらの線分が交叉する4つの頂点を求め、これら4つの頂点を対角に結んだ2つの直線が交叉する交点を紙幣部分の中心点として抽出する。そして、切出処理部12aにより4つの辺(2長辺及び2短辺)で囲まれた領域を切り出した後に、回転処理部12bによって少なくとも1辺が水平軸となす角度分を回転する回転処理を行う。なお、ここでは説明の便宜上、切出処理部12aによる切出処理の後に回転処理部12bによって回転処理する場合を示したが、回転処理部12bにより回転させた後に切出処理部12aは中心点を中心とする所定の紙幣サイズ分の領域を切り出すこともできる。
【0031】
エッジ検出フィルタ処理部13は、前処理部12によって前処理された画像データに対してエッジ検出フィルタ(Yフィルタ)を適用して、ゼロクロス点を形成する画素の画素値が255となりそれ以外の画素の画素値が0となるエッジ画像(2値画像)を生成する処理部である。具体的には、画像データの注目画素を中心とした3×3の画素にYフィルタを適用して0又は正のフィルタ値が得られれば当該画素の画素値を1とし、負のフィルタ値が得られれば当該画素の画素値を0とする一時画像データを生成する。その後、この一時画像データの正負変換点(0から1又は1から0に変化する点)に所在する画素(ゼロクロス)の画素値を255としそれ以外の画素の画素値を0としたエッジ画像データ(2値画像)を生成する。
【0032】
また、エリア指定画像を生成する場合には前処理された画像データ全体に対してYフィルタを適用し、損券判定を行う場合には前処理された画像データのうち落書き対象となる領域についてのみエッジ検出処理を行う。このように、この損券判定装置10は、損券判定処理を行う前にエリア指定画像と呼ばれる参照画像を作成しておき、実際の損券判定時には、事前に作成したエリア指定画像を参照しつつ落書き対象となる領域のみについてエッジ検出処理を行うことになる。なお、損券判定装置10が、エリア指定画像を生成する準備モードとして機能させるか、実際の損券判定を行う損券判定モードとして機能させるかは、図示しない切換スイッチや入力デバイスを用いて切り換えることになる。
【0033】
また、このエッジ検出フィルタ処理部13が用いるYフィルタは、図5−1に示すように各重み係数の合計値が負となるようにされたエッジ検出フィルタ30である。具体的には、注目画素に適用する重み係数をC、注目画素の4連接に位置する各画素に適用する重み係数をA1、注目画素の8連接に位置しかつ4連接に位置するものを除いた各画素に適用する重み係数をA2とすると、
(A1+A2)×4+C<0
となるように重み係数を割り当てたものとなる。図5−2に示したYフィルタ31及び32ともに重み係数の合計値(A1+A2)×4+Cが負となっている。
【0034】
Yフィルタをこのように構成すれば、ノイズの影響を受けやすい画像の白部分についてはエッジ検出感度を鈍感にし、ノイズをエッジとして拾うことなく落書きを形成するエッジ部分のみを検出できるようにするとともに、ノイズの影響を受けづらい画像の黒若しくはグレー部分についてはエッジ検出感度を敏感にし、落書きを形成するエッジ部分を積極的に検出することができる。
【0035】
Yフィルタを用いることによって上記効果が得られる理由を図6を用いて説明する。図6は、図5−2に示したYフィルタ31並びにラプラシアンフィルタを適用した場合の適用結果を比較説明するための説明図である。同図に示すように、ここでは画素列を形成する各画素値が250〜190〜140〜60と段階的に降下している場合を示している。かかる画素列にラプラシアンフィルタを適用した場合には、全てのエッジでゼロクロスするとともに該ゼロクロス点の前後でフィルタ結果が大きくなる。つまり、ラプラシアンフィルタの場合には、画像中の白部分であるか黒若しくはグレー部分であるかと関係なく、一律にエッジが検出されることになる。
【0036】
これに対して、この画素列にYフィルタ31を適用した場合には、背景濃度値が高ければ(白に近ければ)エッジ部分であってもゼロクロスせずフィルタ値が正の値とならないために結果的にはかかるエッジが検出されない。言い換えると、ノイズの入りやすい画像中の白部分についてはエッジ検出感度が低く(強いエッジでない限りエッジとして検出されない)、白部分にくっきりと落書きの線分が入っている場合にのみエッジとして検出される。
【0037】
一方、背景濃度値が低ければ(黒若しくはグレーに近ければ)濃度差の大きなエッジ部分でなくともゼロクロスしフィルタ値が正の値となり結果的にエッジを検出することができる。言い換えると、背景印刷がなされた画像中の黒若しくはグレー部分についてはエッジ検出感度が高く(弱いエッジ部分でもエッジとして検出される)、くっきりと落書きの線分が入っていなくともエッジとして検出可能となる。これらのことから、上記Yフィルタによれば、画像中の白部分と黒若しくはグレー部分とで感度が異なるエッジ検出が可能となる。
【0038】
ノイズ除去処理部14は、エッジ検出フィルタ処理部13により生成されたエッジ画像からノイズを除去する処理部であり、具体的には積分フィルタ等をエッジ画像に適用することによりノイズを除去することができる。
【0039】
エリア指定画像生成部15は、画像の各画素が汚染対象領域に属するか否かを示すエリア指定画像を生成する処理部であり、具体的には、図7に示すように落書きのない複数の紙幣(同一種別)の画像をそれぞれエッジ検出処理した各エッジ画像40の論理和(OR)をとってエリア指定画像41を生成する。このエリア指定画像41の白部分(画素値が255である画素)は汚染対象領域であり、それ以外の部分は汚染対象領域外である。なお、このエリア指定画像生成部15は、複数のエッジ画像からエリア指定画像を生成するため各エッジ画像は画像一時記憶部16に記憶する。
【0040】
エリア指定画像記憶部17は、エリア指定画像生成部15により生成されたエリア指定画像を記憶する記憶部である。ここでは一金種の紙幣のみを説明の対象とするため当該金種の紙幣に対応するエリア指定画像のみを記憶することとするが、各金種に対応する場合にはそれぞれに対応するエリア指定画像を記憶しておき、損券判定対象となる紙幣に対応するエリア指定画像を損券判定処理部18が取り出すことになる。
【0041】
損券判定処理部18は、損券判定対象となる紙幣の画像からエッジ検出フィルタ処理部13がエリア指定画像に基づいてエッジ検出したエッジ部分に基づいて損券判定を行う処理部であり、具体的にはエッジ検出フィルタ処理部13ではエッジ画像を形成する各画素のうちエリア指定画像を形成する画素のうち画素値が255である白部分についてのみエッジ検出を行うため、これによりエッジ検出された部分は落書き部分であると考えることができる。このため、落書き部分に相当する画素数を加算し、この加算値を所定のしきい値と比較することにより、損券であるか否かを判定することができる。ただし、本発明ではいかなる損券判定処理を行っても構わない。
【0042】
次に、図1に示した損券判定装置10のエリア指定画像生成手順について説明する。図2は、図1に示した損券判定装置10のエリア指定画像生成手順を示すフローチャートである。同図に示すように、まず紙幣枚数を示す変数iを0にリセットした後(ステップS101)、画像入力部11により落書きによる汚染のない紙幣を撮像して図4−1に示す画像データ20を入力する(ステップS102)。その後、前処理部12がこの画像データ20から紙幣部分の画像データを切り出して回転処理からなる前処理を行って図4−2に示す画像データ21を取得する(ステップS103)。
【0043】
そして、エッジ検出フィルタ処理部13は、この画像データ21に図5−2に示すYフィルタ31等を適用してエッジ画像を生成するとともに(ステップS104)、ノイズ除去処理部14がこのエッジ画像からノイズを除去した後(ステップS105)、エリア指定画像生成部15を介して画像一時記憶部16にエッジ画像データを一時記憶する(ステップS106)。
【0044】
そして、変数iをインクリメントした後(ステップS107)、この変数iが定数Nよりも大きいか否かを調べ(ステップS108)、定数Nよりも小さい場合には(ステップS108否定)、ステップS102に移行して上記一連の処理を繰り返す。かかる繰り返し処理は、エリア指定画像を生成する際に必要となるN枚のエッジ画像を取得するために行われる。
【0045】
かかる処理によりN枚のエッジ画像を画像一時記憶部16に記憶したならば(ステップS108肯定)、図7に示すようにエリア指定画像生成部15がこのN枚のエッジ画像の論理和をとることによりエリア指定画像を生成し(ステップS109)、生成したエリア指定画像をエリア指定画像記憶部17に格納する(ステップS110)。
【0046】
次に、図1に示した損券判定装置10の損券判定手順について説明する。図3は、図1に示した損券判定装置10の損券判定手順を示すフローチャートである。同図に示すように、まず画像入力部11により損券判定対象となる紙幣を撮像して図4−1に示す画像データ20を入力し(ステップS201)、前処理部12がこの画像データ20から紙幣部分の画像データを切り出して回転処理からなる前処理を行って図4−2に示す画像データ21を取得する(ステップS202)。
【0047】
そして、エッジ検出フィルタ処理部13は、エリア指定画像記憶部17に記憶されたエリア指定画像を読み出す(ステップS203)。なお、金種毎にエリア指定画像が記憶されている場合には、当該紙幣に対応するエリア指定画像を読み出すことになる。
【0048】
その後、このエッジ検出フィルタ処理部13は、エリア指定画像に基づいて注目画素が汚染対象領域に属するか否かを調べ(ステップS204)、汚染対象領域に属する場合には(ステップS204肯定)、図5−2に示すYフィルタ31等を適用してエッジ画像を生成し(ステップS205)、注目画素を移動する(ステップS206)。この注目画素の移動を全画素を処理するまで繰り返し(ステップS207否定)、全画素を処理して汚染対象領域のエッジ検出を終えたならば(ステップS207肯定)、ノイズ除去処理部14によってノイズを除去した後に(ステップS208)、損券判定処理部18が損券判定処理を行い(ステップS209)、損券判定結果を図示しない表示部等に表示する。
【0049】
上述してきたように、本実施例では、画像入力部11から落書きによる汚染のない複数枚の紙幣の画像データを入力してこれを前処理部12で前処理し、これにエッジ検出フィルタ処理部13がYフィルタを適用しつつノイズ除去処理部14でノイズを除去してエッジ画像を取得し、エリア指定画像生成部15が複数のエッジ画像の論理和をとってこれをエリア指定画像としてエリア指定画像記憶部17に記憶する。そして、画像入力部11から損券判定対象となる紙幣の画像データが取得された場合に、エッジ検出フィルタ処理部13が当該画像及びエリア指定画像に基づいてエッジ画像を生成し、このエッジ画像に基づいて損券判定処理部18が紙幣の損券判定を行うよう構成したので、迅速かつ効率良く落書きによる汚染に起因する損券判定を行うことができる。
【0050】
特に、エッジ検出フィルタ処理部13は、重み係数の合計値が負となるエッジ検出フィルタ(Yフィルタ)を適用することとしたので、ノイズの影響を受けやすい画像の白部分についてはエッジ検出感度を鈍感にし、ノイズをエッジとして拾うことなく落書きを形成するエッジ部分のみを検出できるようにするとともに、ノイズの影響を受けづらい画像の黒若しくはグレー部分についてはエッジ検出感度を敏感にし、落書きを形成するエッジ部分を積極的に検出することができる。
【0051】
なお、上記実施例では、本発明を紙幣の損券判定に適用した場合を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、紙幣以外の各種紙葉類に本発明を適用することも可能である。また、上記実施例では、2次元のYフィルタを用いた場合を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、図8に示すような1次元のYフィルタを用いる場合に適用することもできる。
【0052】
また、上記損券判定装置10を一般のコンピュータにより実現する場合には、図1に示す前処理部12、エッジ検出フィルタ処理部13、ノイズ除去処理部14、エリア指定画像生成部15及び損券判定処理部18の機能を有するプログラムをCPU上にロードして実行するとともに、メインメモリ若しくは記憶デバイス上に画像一時記憶部16及びエリア指定画像記憶部17に対応するエリアを設ければ良い。
【0053】
さらに、本実施例によれば、エッジ画像を生成する場合に、フィルタ値が0又は正の場合に画素値を1とし、フィルタ値が負の場合に画素値を0とする一時画像を生成し、生成した一時画像からエッジ画像を生成することとしたが、本発明はこれに限定されるものではなく、フィルタ値を格納した一時画像を生成し、この一時画像を所定のしきい値で2値化してこれをエッジ画像とすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明にかかる紙葉類の損券判定装置、損券判定方法及び損券判定プログラムは、落書きにより汚染された紙幣等の紙葉類を効率良く損券判定する場合に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本実施例に係る損券判定装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示した損券判定装置のエリア指定画像生成手順を示すフローチャートである。
【図3】図1に示した損券判定装置の損券判定手順を示すフローチャートである。
【図4−1】図1に示した画像入力部から入力される画像データの一例を示す図である。
【図4−2】図1に示した前処理部により前処理された画像データの一例を示す図である。
【図5−1】図1に示したエッジ検出フィルタ処理部が用いるYフィルタの条件を説明するための説明図である。
【図5−2】図1に示したエッジ検出フィルタ処理部が用いるYフィルタの一例を示す図である。
【図6】図1に示したエッジ検出フィルタ処理部が用いるYフィルタの概念を説明するための説明図である。
【図7】図1に示したエリア指定画像生成部の概念を説明するための説明図である。
【図8】1次元のYフィルタの一例を示す図である。
【符号の説明】
【0056】
10 損券判定装置
11 画像入力部
12 前処理部
12a 切出処理部
12b 回転処理部
13 エッジ検出フィルタ処理部
14 ノイズ除去処理部
15 エリア指定画像生成部
16 画像一時記憶部
17 エリア指定画像記憶部
18 損券判定処理部
20 入力された画像データ
21 前処理後の画像データ
30,31,32 Yフィルタ
40 エッジ画像
41 エリア指定画像

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙葉類への落書きによる汚染状態に基づいて当該紙葉類の損券判定を行う紙葉類の損券判定装置であって、
紙葉類の画像を入力する画像取得手段と、
前記画像取得手段により取得された落書きによる汚染のない紙葉類の画像に基づいて汚染対象領域を特定する汚染対象領域特定手段と、
前記画像取得手段により損券判定対象となる紙葉類の画像が取得された場合に、当該画像及び前記汚染対象領域特定手段により特定された汚染対象領域に基づいて前記紙葉類の損券判定を行う損券判定手段と
を備えたことを特徴とする紙葉類の損券判定装置。
【請求項2】
前記汚染対象領域特定手段は、
前記画像取得手段により取得された紙葉類の画像の各画素を注目画素としたエッジ検出処理を行ってエッジ画像を生成するエッジ画像生成手段と、
前記エッジ画像生成手段により生成されたエッジ画像からノイズを除去するノイズ除去手段と、
前記ノイズ除去手段によりノイズが除去された同一種類の複数のエッジ画像に基づいて汚染対象領域特定画像を生成する汚染対象領域特定画像生成手段と
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の紙葉類の損券判定装置。
【請求項3】
前記エッジ画像生成手段は、重み係数の合計値が負となるエッジ検出フィルタを前記画像の各画素に適用してエッジ画像を生成することを特徴とする請求項2に記載の紙葉類の損券判定装置。
【請求項4】
前記汚染対象領域特定画像生成手段は、前記ノイズ除去手段によりノイズが除去された同一種類の複数のエッジ画像を論理和演算して前記汚染対象領域特定画像を生成することを特徴とする請求項2又は3に記載の紙葉類の損券判定装置。
【請求項5】
前記損券判定手段は、
前記画像取得手段により損券判定対象となる紙葉類の画像を形成する各画素のうち前記汚染対象領域に所在する画素を注目画素としたエッジ検出をそれぞれ行ってエッジ画像を生成するエッジ画像生成手段と、
前記エッジ画像生成手段により生成されたエッジ画像からノイズを除去するノイズ除去手段と、
前記ノイズ除去手段によりノイズが除去されたエッジ画像に基づいて損券判定処理を行う損券判定処理手段と
を備えたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の紙葉類の損券判定装置。
【請求項6】
前記エッジ画像生成手段は、重み係数の合計値が負となるエッジ検出フィルタを前記損券判定対象となる紙葉類の画像を形成する各画素のうち前記汚染対象領域に所在する各画素に適用してエッジ画像を生成することを特徴とする請求項5に記載の紙葉類の損券判定装置。
【請求項7】
前記画像取得手段により取得された紙葉類の画像から紙葉類対象領域を切り出す切出手段と、
前記切出手段により紙葉類の画像から切り出された紙葉類対象領域の画像を回転補正する回転補正手段と
をさらに備えたことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一つに記載の紙葉類の損券判定装置。
【請求項8】
紙葉類への落書きによる汚染状態に基づいて当該紙葉類の損券判定を行う紙葉類の損券判定方法であって、
落書きによる汚染のない紙葉類の画像を取得する第1の画像取得工程と、
前記第1の画像取得工程により取得された画像に基づいて汚染対象領域を特定する汚染対象領域特定工程と、
損券判定対象となる紙葉類の画像を取得する第2の画像取得工程と、
前記第2の画像取得手段により取得した損券判定対象となる紙葉類の画像及び前記汚染対象領域特定工程により特定された汚染対象領域に基づいて前記紙葉類の損券判定を行う損券判定工程と
を含んだことを特徴とする紙葉類の損券判定方法。
【請求項9】
紙葉類への落書きによる汚染状態に基づいて当該紙葉類の損券判定を行う紙葉類の損券判定プログラムであって、
落書きによる汚染のない紙葉類の画像に基づいて汚染対象領域を特定する汚染対象領域特定手順と、
損券判定対象となる紙葉類の画像及び前記汚染対象領域特定手順により特定された汚染対象領域に基づいて前記紙葉類の損券判定を行う損券判定手順と
をコンピュータに実行させることを特徴とする紙葉類の損券判定プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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