説明

紙質向上剤の製造方法

【課題】1,3−ジクロロ−2−プロパノール含有量が少なく、かつ嵩付与効果等、紙質向上剤としての十分な性能を有し、簡便に使用できる紙質向上剤を製造できる方法を提供する。
【解決手段】イミダゾリン骨格を有するポリエチレンポリアミンとイミダゾリン骨格を有するポリアミドアミンとイミダゾリン骨格を有しないポリアミドアミンとを含有するイミダゾリン量が10〜90%のアミドアミン組成物(a)に、50〜140℃で、エピクロロヒドリンを反応させる工程を有する紙質向上剤の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は1,3−ジクロロ−2−プロパノール(以後、DCPと略)の含有量が少ない紙質向上剤とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、経済性及び地球環境保護の観点から、パルプの使用量をできるだけ抑えるために、紙製品の坪量を下げる努力がなされている。単に紙中のパルプを削減すると紙が薄くなり強度や不透明度等に問題が見られることから、紙厚を維持しながら使用パルプ量を削減する、即ち、紙の嵩を高くする薬剤(嵩高剤)が種々検討されている。嵩高剤の一種としてはポリエチレンポリアミンと長鎖脂肪酸の反応で得られるポリアミドアミンのエピクロロヒドリン架橋物が有用であることは公知であり、例えば特許文献1や特許文献2に開示されている。
【0003】
このアミドアミンのエピクロロヒドリンによる架橋反応では、DCPが副生する。DCPの副生により、嵩向上性能が低下したり、低分子量の有機化合物であり排水に混入する事から排水処理の負荷が上がる。DCPはエピクロロヒドリンに由来することから、エピクロロヒドリンの反応モル比を低減すると減少できるが、低架橋である場合、嵩向上性能が低下する。そのため紙質向上剤としての性能を保ちつつ、DCP含有量を低減することが求められている。
【0004】
DCPの低減を目的として、特許文献3では、ポリアミドアミンに溶媒を加え、通常の架橋反応温度より低温でエピクロロヒドリンを反応させる方法、特許文献4ではポリアミドアミンのエピクロロヒドリン架橋物に塩基性物質(低級アミンやNaOH等)を加える方法が開示されているが、いずれも水溶液として反応物が得られ体積が大きくなる事により輸送等の経済面や作業性面、溶媒使用への制限等の環境面から未だ全てを解決できているわけではない。
【特許文献1】特公昭42−2922号公報
【特許文献2】公昭47−11306号公報
【特許文献3】特開2003−147692号公報
【特許文献4】特開2007−31898号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、副生成物のDCP含有量が少なく、かつ嵩付与効果等、紙質向上剤としての十分な性能を有し、簡便に使用できる紙質向上剤を製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、エピクロロヒドリンによる架橋反応の原料となるアミドアミン組成物に含まれるイミダゾリン骨格を有する化合物の含量を制御することにより、DCPを低減することが可能であり、且つ十分な性能を有する紙質向上剤が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明は、イミダゾリン骨格を有するポリエチレンポリアミンとイミダゾリン骨格を有するポリアミドアミンとイミダゾリン骨格を有しないポリアミドアミンとを含有するアミドアミン組成物(a)に、50〜140℃で、エピクロロヒドリンを反応させる工程を有する紙質向上剤の製造方法であって、アミドアミン組成物(a)中のイミダゾリン量が10〜90%である、紙質向上剤の製造方法に関する。
【0008】
また、本発明は、上記本発明の製造方法で製造される、1,3−ジクロロ−2−プロパノールの含有量が3.5質量%以下である紙質向上剤に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、副生成物のDCP含有量が少なく、かつ嵩付与効果等、紙質向上剤としての十分な性能を有し、簡便に使用できる紙質向上剤が得られる製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の紙質向上剤は、所定のアミドアミン組成物(a)にエピクロロヒドリンを反応させることにより得られる。
【0011】
<アミドアミン組成物(a)>
アミドアミン組成物(a)は、イミダゾリン骨格を有するポリエチレンポリアミンと、イミダゾリン骨格を有するポリアミドアミンと、イミダゾリン骨格を有しないポリアミドアミンとを含有する。アミドアミン組成物(a)中のイミダゾリン量は、DCPの低減の観点から、イミダゾリン骨格を有するポリエチレンポリアミンとイミダゾリン骨格を有するポリアミドアミンとイミダゾリン骨格を有しないポリアミドアミンの全アミン成分に対して10〜90%であり、20〜70%が好ましい。又、ポリエチレンポリアミンがジエチレントリアミンの場合では、45〜70%が好ましい。イミダゾリン量は、下式より算出できる。なお、イミダゾリン価と全アミン価は後述の実施例の方法により求めたものである。
イミダゾリン量=(イミダゾリン価/全アミン価)×100(%)
【0012】
本発明のアミドアミン組成物(a)は、所定のイミダゾリン量に調製されていれば良く、その調製方法は特に限定されるものではないが、具体的には、イミダゾリン骨格を有するポリエチレンポリアミンとイミダゾリン骨格を有するポリアミドアミンとイミダゾリン骨格を有しないポリアミドアミンを所定のイミダゾリン量となるように配合して得る事ができ、ポリエチレンポリアミンと脂肪酸類の反応によって得る事ができる。又、ポリエチレンポリアミンと脂肪酸類の反応を行った後、いずれかの成分を添加し、所定のイミダゾリン量に調整して得ても良い。
【0013】
より具体的には、下記の方法1、方法2が挙げられる。
<方法1>
炭素数10〜24の脂肪酸及び/又はそのエステル(b)とポリエチレンポリアミン(c)とを、0.133〜101kPa(1〜760mmHg)未満の減圧下、100〜230℃で、ポリエチレンポリアミン(c)中の全アミノ基のモル数に対して炭素数10〜24の脂肪酸及び/又はそのエステル(b)を30〜99モル%の割合で反応させて、アミドアミン組成物(a)を得る方法。
【0014】
<方法2>
炭素数10〜24の脂肪酸及び/又はそのエステル(b)とポリエチレンポリアミン(c)とを、常圧下、100〜230℃で、ポリエチレンポリアミン(c)中の全アミノ基のモル数に対して炭素数10〜24の脂肪酸及び/又はそのエステル(b)を30〜99モル%の割合で反応させた後、0.133〜101kPa(1〜760mmHg)未満の減圧下、脱水処理をして、アミドアミン組成物(a)を得る方法。
【0015】
上記で用いられる炭素数10〜24の脂肪酸及び/又はそのエステル(b)〔以下、脂肪酸類(b)という〕としては炭素数10〜24、好ましくは炭素数10〜20の脂肪酸、及び/又はそのエステルが好ましく、硬化牛脂脂肪酸、ステアリン酸、パルミチン酸若しくはそれらのエステルがより好ましい。エステルはメチルエステル、エチルエステル等の1価アルコールとのエステル(好ましくはメチルエステル)、グリセリン等の多価アルコールとのエステルが挙げられる。
【0016】
また、上記で用いられるポリエチレンポリアミン(c)としては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ヘキサエチレンペンタミン等が好ましく、ジエチレントリアミンがより好ましい。
【0017】
方法1、方法2において、アミドアミン組成物(a)は脂肪酸類(b)とポリエチレンポリアミン(c)との反応から得られる。脂肪酸類(b)の量は、ポリエチレンポリアミン(c)のアミノ基のモル数に対して30〜99モル%であり、好ましくは50〜90モル%、より好ましくは50〜80モル%である。またその反応は減圧下、100〜230℃で行うことが好ましく、130〜200℃がより好ましい。イミダゾリン含量の制御の観点から、アミド化、イミダゾリン化の反応を二段階に分けて行うことが好ましく、具体的には常圧でポリエチレンポリアミン(c)を脂肪酸類(b)でアミド化した後に、系を減圧にして脱水を促進することによりイミダゾリン含量を増加する方法2が好ましい。その際の減圧度は101kPa未満が好ましく、66.5kPa(500mmHg)未満がより好ましい。
【0018】
本発明では、イミダゾリン量が所定範囲にあるアミドアミン組成物(a)とエピクロロヒドリンとを反応させる。アミドアミン組成物(a)は、イミダゾリン量が所定範囲にある限り、複数を混合して調製したものであってもよい。エピクロロヒドリンによる反応は架橋反応であり、無溶媒、若しくは溶媒存在下のどちらで行っても良いが、生産効率の観点から無溶媒が好ましい。本発明では、アミドアミン組成物(a)のアミノ基1当量に対してエピクロロヒドリンを0.5〜1.0当量、更に0.65〜0.90当量反応させることが好ましい。その際、アミドアミン組成物(a)のアミノ基の当量数は、アミドアミン組成物(a)の全アミン価から計算する事ができ、又、当該アミドアミン組成物(a)を製造する際の原料であるポリエチレンポリアミン(c)の全アミン価から求めたアミノ基のモル数から、仕込んだ脂肪酸類(b)のモル数を引いた値を目安とすることでき、その値に対して上記範囲となるようにエピクロロヒドリンを用いてもよい。
【0019】
本発明において、アミドアミン組成物(a)とエピクロロヒドリンの反応温度は50〜140℃であり、80〜120℃が好ましい。架橋反応の後、未反応の架橋剤を処理するために、アルカリやアミンを追加しても良い。また、未反応アミンを処理するためにアルキル化剤や酸を添加しても良い。
【0020】
色相、匂いなどを良くするために窒素やアルゴン等の不活性ガスを流通させて反応することが好ましく、更に、SBH、亜リン酸等の還元剤、BHT、DTBP等の酸化防止剤を添加してもよい。
【0021】
本発明の製造方法により得られた紙質向上剤はDCPの含有量が3.5質量%以下、より好ましくは1質量%以下である。DCPの含有量は、実施例に示す方法で測定する事ができる。また、本発明に係る紙質向上剤は、常温において固体状で入手することができる。紙質向上剤の融点は50℃以上が好ましい。本発明の紙質向上剤は、水を加えて単独で乳化して利用しても良いし、他に添加物を加えても良い。なお、添加物は予め本紙質向上剤に配合して製剤化しても良い。なお乳化に当たっては特に混合の方法の制限は無い。添加物としては例えば、サイズ剤、紙力増強剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤、歩留向上剤、消泡剤、填料、顔料、染料、分散剤、pH調整剤等が挙げられる。
【0022】
本発明の紙質向上剤はパルプスラリーに添加、すなわち、抄紙工程で内添して用いる事ができる。本発明の紙質向上剤の添加量に特に制限は無いが、パルプに対して0.01〜5質量%であることが好ましく、0.1〜2質量%であることがより好ましい。
【0023】
本発明の紙質向上剤を適用できるパルプ原料としては、機械パルプ、化学パルプ、古紙パルプの他、バガス、竹などの非木材パルプなども挙げられ、製紙工程における何れの工程においても添加することが出来る。本発明は、特に紙に嵩高さを付与することを意図した紙質向上剤の製造に適している。
【実施例】
【0024】
製造例1(紙質向上剤A−1の製造)
パルミチン酸/ステアリン酸混合物(Sinar Oleochemical International SINAR-FA1865)500g(1.82モル)とジエチレントリアミン105g(アミノ基として3.07モル)と消泡シリコーン12mgをフラスコに仕込み、窒素置換後、窒素流通下、145〜155℃、常圧でアミド化を行った。酸価が5未満になったことを確認してから、突沸しないように系を徐々に減圧にし、140〜150℃、13.3kPa(100mmHg)でイミダゾリン価を追跡しながら減圧下で脱水反応を行った。反応終了後、窒素で常圧に戻し、110℃まで冷却してイミダゾリン量40%のポリアミドアミン(全アミン価120mgKOH/g、イミダゾリン価48mgKOH/g)を得た。次に105〜115℃でエピクロロヒドリン86.84g/0.939モルを滴下し、更に3時間熟成して固体状のA−1を得た。A−1中のDCP含量は1.7質量%であった。
【0025】
製造例2(紙質向上剤A−2の製造)
パルミチン酸/ステアリン酸混合物(Sinar Oleochemical International SINAR-FA1865)500g(1.82モル)とジエチレントリアミン105g(アミノ基として3.07モル)をフラスコに仕込み、窒素置換後、窒素流通下、145〜155℃、常圧でアミド化を行った。酸価が5未満になったことを確認してから、突沸しないように系を徐々に減圧にし、150〜160℃、13.3kPa(100mmHg)でイミダゾリン価を追跡しながら減圧下で脱水反応を行った。反応終了後、窒素で常圧にし、110℃まで冷却してイミダゾリン量49%のポリアミドアミン(全アミン価120mgKOH/g、イミダゾリン価59mgKOH/g)を得た。次に105〜115℃でエピクロロヒドリン86.84g/0.939モルを滴下し、更に3時間熟成して固体状のA−2を得た。A−2中のDCP含量は0.7質量%であった。
【0026】
製造例3(紙質向上剤A−3の製造)
パルミチン酸/ステアリン酸混合物(Sinar Oleochemical International SINAR-FA1865)500g(1.82モル)とジエチレントリアミン105g(アミノ基として3.07モル)をフラスコに仕込み、窒素置換後、窒素流通下、145〜155℃、常圧でアミド化を行った。酸価が5未満になったことを確認してから、突沸しないように系を徐々に減圧にし、170〜180℃、13.3kPa(100mmHg)でイミダゾリン価を追跡しながら減圧下で脱水反応を行った。反応終了後、窒素で常圧にし、共に110℃まで冷却してイミダゾリン量69%のポリアミドアミン(全アミン価119mgKOH/g、イミダゾリン価82mgKOH/g)を得た。次に105〜115℃でエピクロロヒドリン86.84g/0.939モルを滴下し、更に3時間熟成して固体状のA−3を得た。A−3中のDCP含量は0.4質量%であった。
【0027】
製造例4(紙質向上剤A−4の製造)
パルミチン酸/ステアリン酸混合物(花王(株) ルナックS−40)1053.6g(3.827モル)とテトラエチレンペンタミン219.9g(アミノ基として4.907モル)をフラスコに仕込み、窒素置換後、窒素流通下、220℃に昇温してから突沸しないように系を徐々に減圧にし、26.6kPa(200mmHg)で10時間をアミド化/イミダゾリン化を行い、イミダゾリン量36%のポリアミドアミン(全アミン価72mgKOH/g、イミダゾリン価26mgKOH/g、酸価4.5mgKOH/g)を得た。次に90〜100℃でエピクロロヒドリン95.34g/1.030モルを滴下し、110℃で3時間熟成して固体状のA−4を得た。A−4中のDCP含量は0.7質量%であった。
【0028】
製造例5(紙質向上剤A−5の製造)
パルミチン酸/ステアリン酸混合物(Sinar Oleochemical International SINAR-FA1865)500g(1.82モル)とジエチレントリアミン105g(アミノ基として3.07モル)をフラスコに仕込み、窒素置換後、窒素流通下、145〜155℃、常圧でアミド化を行った。酸価が5未満になったことを確認してから、突沸しないように系を徐々に減圧にし、140〜150℃、26.6kPa(200mmHg)でイミダゾリン価を追跡しながら減圧下で脱水反応を行った。反応終了後、窒素で常圧にし、110℃まで冷却してイミダゾリン量22%のポリアミドアミン(全アミン価120mgKOH/g、イミダゾリン価26mgKOH/g)を得た。次に105〜115℃でエピクロロヒドリン86.84g/0.939モルを滴下し、更に3時間熟成して固体状のA−5を得た。A−5中のDCP含量は3.4質量%であった。
【0029】
製造例6(紙質向上剤A−6の製造)
パルミチン酸/ステアリン酸混合物(Sinar Oleochemical International SINAR-FA1865)500g(1.82モル)とジエチレントリアミン105g(アミノ基として3.07モル)をフラスコに仕込み、窒素置換後、窒素流通下、145〜155℃、常圧でアミド化を行った。酸価が5未満になったことを確認してから、突沸しないように系を徐々に減圧にし、145〜155℃、20kPa(150mmHg)でイミダゾリン価を追跡しながら減圧下で脱水反応を行った。反応終了後、窒素で常圧にし、110℃まで冷却してイミダゾリン量29%のポリアミドアミン(全アミン価120mgKOH/g、イミダゾリン価35mgKOH/g)を得た。次に105〜115℃でエピクロロヒドリン86.84g/0.939モルを滴下し、更に3時間熟成して固体状のA−6を得た。A−6中のDCP含量は2.8質量%であった。
【0030】
製造例7(紙質向上剤A−7の製造)
パルミチン酸/ステアリン酸混合物(Sinar Oleochemical International SINAR-FA1865)500g(1.82モル)とジエチレントリアミン105g(アミノ基として3.07モル)をフラスコに仕込み、窒素置換後、窒素流通下、145〜155℃、常圧でアミド化を行った。酸価が5未満になったことを確認してから、突沸しないように系を徐々に減圧にし、150〜160℃、13.3kPa(100mmHg)でイミダゾリン価を追跡しながら減圧下で脱水反応を行った。反応終了後、窒素で常圧にし、110℃まで冷却してイミダゾリン量50%のポリアミドアミン(ポリアミドアミン7−1:全アミン価120mgKOH/g、イミダゾリン価60mgKOH/g)を得た。
【0031】
次に別のフラスコで同様の仕込み量で窒素流通下、145〜155℃、常圧で酸価が5未満になるまでアミド化を行い、110℃まで冷却してイミダゾリン量3%のポリアミドアミン(ポリアミドアミン7−2:全アミン価120mgKOH/g、イミダゾリン価4mgKOH/g)を得た。
【0032】
ポリアミドアミン7−1(全アミン価120mgKOH/g、イミダゾリン価60mgKOH/g)300gとポリアミドアミン7−2(全アミン価120mgKOH/g、イミダゾリン価4mgKOH/g)209gを120℃で混合し、イミダゾリン含量31%のポリアミドアミン(全アミン価120mgKOH/g、イミダゾリン価37mgKOH/g)を調製し、これに105〜115℃でエピクロロヒドリン75.55g/0.816モルを滴下し、更に3時間熟成して固体状のA−7を得た。A−7中のDCP含量は2.5質量%であった。
【0033】
製造例8(紙質向上剤B−1の製造)
パルミチン酸/ステアリン酸混合物(Sinar Oleochemical International SINAR-FA1865)500g(1.82モル)とジエチレントリアミン105g(アミノ基として3.07モル)をフラスコに仕込み、窒素置換後、窒素流通下、145〜155℃、常圧でアミド化を行った。酸価が5未満になったことを確認してから110℃まで冷却してイミダゾリン量3%のポリアミドアミン(全アミン価120mgKOH/g、イミダゾリン価4mgKOH/g)を得た。次に105〜115℃でエピクロロヒドリン86.84g/0.939モルを滴下し、更に3時間熟成して固体状のB−1を得た。B−1中のDCP含量は4.5質量%であった。
【0034】
<物性の測定方法>
上記製造例における各物性は、それぞれ以下の方法により測定したものである。
(1)酸価
サンプル0.5〜1.5gをブタノール50mLに溶解し、自動電位差滴定装置で0.1モル/lのKOH−エタノール溶液を用いて滴定することにより求めた。
【0035】
(2)全アミン価
サンプル0.5〜1.5gをブタノール50mLに溶解し、自動電位差滴定装置で0.2モル/lのHClO4−酢酸溶液を用いて滴定することにより求めた。
【0036】
(3)イミダゾリン価
サンプル0.5〜1.5gにサリチルアルデヒド試薬5mLとブタノール50〜100mLを加え、50〜70℃に加熱溶解して1級アミノ基を処理した後に、自動電位差滴定装置で0.1モル/lのHCl−エタノール溶液を用いて滴定し、1段目の中和点より求めた。ここで、サリチルアルデヒド試薬は、サリチルアルデヒド25gにエタノ−ル75mLとBCG指示薬5〜6滴を加え、希アルコ−ル性水酸化カリウム又は塩酸で中和することにより調製したものである。
【0037】
(4)イミダゾリン量
上記の方法で求めた分析値を用いて下式より算出した。
イミダゾリン量=(イミダゾリン価/全アミン価)×100(%)
【0038】
(5)DCP量
紙質向上剤をクロロホルムに溶解し、ガスクロマトグラフィーにより求めた。測定条件は以下の通り。
カラム:HP−5
カラム温度:90〜300℃(8℃昇温)
注入口・検出器温度:300℃
サンプル濃度と溶媒:0.5g/10mLクロロホルム
内部標準物質:ブチルカルビトール
【0039】
<評価>
LBKPを室温下、叩解機にて離解、叩解してパルプ濃度2.2質量%のLBKPスラリーとしたものを用いた。カナディアンスタンダードフリーネスは430mlであった。このLBKPスラリーを抄紙後のシートの坪量が絶乾で100g/m2になるようにはかりとってから、カチオン化澱粉(CATO308、日本NSC製)1.0%(質量基準、対パルプ、以下同じ)、工業用硫酸バンド0.5%、軽質炭酸カルシウム20%、サイズ剤(アルキルケテンダイマー)0.05%、及び表1の紙質向上剤の乳化物0.6%(固形分換算)を攪拌しながら添加した。その後パルプ濃度が0.5質量%になるように水で希釈し、カチオン性ポリアクリルアミド系歩留向上剤(パーコール47、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)0.03%を攪拌しながら添加した後、丸型タッピ抄紙機にて150メッシュワイヤーで抄紙し、コーチングを行って湿紙を得た。抄紙後の湿紙は、3.5kg/cm2で2分間プレス機にてプレスし、ドラムドライヤーを用い、105℃で2分間乾燥し、パルプシートを得た。得られたパルプシートを23℃、湿度50%RHの条件で1日間調湿してから、下記方法で緊度合を測定した。尚、紙質向上剤はあらかじめホモミキサーを用いて水を加えて乳化したものを用いた。紙質向上剤を添加しない以外は同様の方法で抄紙したものをブランクとした。結果を表1に示す。
【0040】
(緊度)
調湿されたパルプシートの坪量(g/m2)と厚み(mm)を測定し、下記計算式により緊度(g/cm3)を求めた。
計算式:(緊度)=(坪量)/(厚み)×0.001
緊度は絶対値が小さいほど嵩が高く、また緊度の0.020の差は有意差として十分に認識される。
【0041】
【表1】

【0042】
表中、脂肪酸(b)の反応割合は、ポリエチレンポリアミン(c)中の全アミノ基のモル数に対する脂肪酸(b)のモル%である。また、エピクロロヒドリンの反応当量は、アミドアミン組成物(a)のアミノ基1当量に対するエピクロロヒドリンの当量である。
【0043】
なお、実施例1〜7及び比較例1の紙質向上剤の嵩高性能はいずれも良好であり、ほぼ同等であるが、比較例1ではDCP含有量が多くなっている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イミダゾリン骨格を有するポリエチレンポリアミンとイミダゾリン骨格を有するポリアミドアミンとイミダゾリン骨格を有しないポリアミドアミンとを含有するアミドアミン組成物(a)に、50〜140℃で、エピクロロヒドリンを反応させる工程を有する紙質向上剤の製造方法であって、アミドアミン組成物(a)中のイミダゾリン量が10〜90%である、紙質向上剤の製造方法。
【請求項2】
アミドアミン組成物(a)が、炭素数10〜24の脂肪酸及び/又はそのエステル(b)とポリエチレンポリアミン(c)とを、0.133〜101kPa(1〜760mmHg)未満の減圧下、100〜230℃で、ポリエチレンポリアミン(c)中の全アミノ基のモル数に対して炭素数10〜24の脂肪酸及び/又はそのエステル(b)を30〜99モル%の割合で反応させて得られたものである請求項1記載の紙質向上剤の製造方法。
【請求項3】
アミドアミン組成物(a)が、炭素数10〜24の脂肪酸及び/又はそのエステル(b)とポリエチレンポリアミン(c)とを、常圧下、100〜230℃で、ポリエチレンポリアミン(c)中の全アミノ基のモル数に対して炭素数10〜24の脂肪酸及び/又はそのエステル(b)を30〜99モル%の割合で反応させた後、0.133〜101kPa(1〜760mmHg)未満の減圧下、脱水処理をして得られたものである請求項1記載の紙質向上剤の製造方法。
【請求項4】
アミドアミン組成物(a)のアミノ基1当量に対してエピクロロヒドリンを0.5〜1.0当量反応させる請求項1〜3記載の紙質向上剤の製造方法。
【請求項5】
紙質向上剤中の1,3−ジクロロ−2−プロパノールの含有量が3.5質量%以下である、請求項1〜4の何れか1項記載の紙質向上剤の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項記載の製造方法で製造される、1,3−ジクロロ−2−プロパノールの含有量が3.5質量%以下である紙質向上剤。
【請求項7】
固体状である請求項6記載の紙質向上剤。

【公開番号】特開2009−7706(P2009−7706A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−170383(P2007−170383)
【出願日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】